「消失と沈黙」
人間的な責任感に苛まれつつ、機械的な無情のようなものに擽られていく。幾つかの道を指し示されたとしても、おそらく、その全てが妥協のような沙汰だと、糸、繰られたかの如くに悟ってしまうのか。お終いを見つけたとして、決着を望んだとして、嗚呼、大きなものに掻っ攫われてしまっては何方も欠片として見えないのだ。バロン・サムディの小娘に姿を見せろと、表せと、願いに願ってやったとしても、最早、オマエの前には貌を晒してはくれないのか。いいや、背負ったのだから、如何して|貌《●》が見えるのだろう。見えない方が自然であり、成程、この鉛のような感覚は一種の贈物なのかもしれない。交差点を真っ直ぐ進む。交差点を右に曲がる。交差点を左に曲がる。いっそ、後退してみるのは如何だろうか。……私は、如何して、このような、真っ暗な道を歩んでいるのでしょうか。言葉にしたとしても、目の玉を開いてみせても、左目を転がしてみせても、まるで、魅せられているのかと錯覚するほどに――筆舌に尽くし難い黒の気配――拭おうとする気すらも起こらない。成程、如何やら私は、私の知らない『何処か』に辿り着いてしまったようです。しかし、本当に、何処までも、何処までも、彼方までも……眩暈がするほど、圧されているかのような、不快感が治まりません。歩いているのか、這っているのか、もしかしたら、立ち止まっているのではないか。一歩、一歩、踏み出してやろうと、いざ、覚悟をしたところで……軋む。まさしく、腐った扉のようだ。まさしく、錆びた蝶番のようだ。蒼白とした己を観察できない今に感謝をしつつ、今度こそ、自分が何処で何をしているのかと、理解してみせたのか。つまり、私は如何やら、洋館か、或いは美術館の中に居て、喪に服すかのような精神状態で、在るのだと……。ふと、覚えたのは湿り気。すん、と、鼻腔を嗤わせたのならば、不可思議の予感。ありえないが……それでも、私は、私の感じた事の為に、当たり前を使おうと思うのです。知らぬ間に有していた鴉の色。大きな、大きな、鴉を飼うのだとしても、最早ない、なんて啼き声は赦してやれない。ばさり、広げてやった翼とやら。生地については安物ではなく、ちゃんとしたもので助かったのか。パラパラ、サアサア、味のないワインの群れ……。
酸味くらいは判るだろうか。酸性である事には変わりがないのだから。弱々しかったワインの粒は、徐々に、徐々に、勢いを増していき。まるで自分こそが最上級なのだと、驕るかのように降ってみせたのか。……私は、こういう天気については、特段、思う事はないのですが。おかしな事だと、人並にくらいは思えるのです。俯いていたハンプティ・ダンプティ、丸っこさは毛ほどもないのだが、思い出の写真程度には『したい』と無意識に呻いた。私は……そう、莫迦みたいに、獣を追う事しか出来ないのです。矛盾をしているのかもしれませんが、それこそ、私の不器用さの証なのでしょう。眼窩こそが最も青い。病にでも罹ったかのように――熱っぽい脳味噌を――芥のように揮ってみる。そうか、私は『これ』が見たかったのでしょう。私は……俺は、この景色を、人の世界を通して見たかったのだ。向日葵のように、奴隷のように、くるくる、焼き尽くされない距離感で。
「私ね、兎比良はもう少し人からどう見られるか考えた方がいいと思うの」
子供の涙に濡れつつも、鴉のように滂沱をしつつも、青々とした向こう側を睨めてくれ。立派に育った巨木の一部分が|青《●》と合わさり、はらはら、光の死骸のように此方側へ。理解した。俺こそがきっと|絵画《人間モドキ》なのだ。そうだろう、蝶番……。