③暗躍せし自称・神の使徒
●暗躍せし自称・神の使徒
「王劍戦争第壱号『|秋葉原《あきはばら》|荒覇吐戦《あらはばきのいくさ》』が始まりましたね」
そう言って、周囲の√能力者達に声をかけるのは、星詠みのアンミタート・アケーディア(愛を求める羅紗魔術士・h08844)だ。
「大妖『|禍津鬼荒覇吐《まがつおにあらはばき》』が王劍『|明呪倶利伽羅《みょうじゅくりから》』を手に、√EDENに侵攻してきました。それに呼応し、多くの王権執行者達もこの地へ侵攻してきている様子です」
冷静にアンミタートは始まった王劍戦争について解説を入れる。
「私は√EDENの出ではありませんが、√EDENの√能力者に救われた身。この事態を看過することは出来ません。どうか、私の予知も参考に、敵の侵攻を挫きましょう」
「さて、今回は皆さんに向かって頂くのは、連邦怪異収容局員『リンドー・スミス』と配下・使役怪異達が暗躍している日本通運本社ビルにある金綱稲荷です」
アンミタートの出身世界でもある√汎神解剖機関からやってきた彼らは何か攻撃を仕掛けるでもなく稲荷の霊力を利用して|新物質の網《ゴールデン・ストリングス》を飛ばし、何らかの情報を傍受し持ち帰ろうとしてい様子だ、とアンミタートは説明する。
「侵攻してきていないのであれば、無理に戦う必要がない、という考えも一理あるのですが、我々には現状圧倒的に情報が不足しています」
『リンドー・スミス』が何かしらの情報を得て、|新物質の網《ゴールデン・ストリングス》によってその情報を確たるものにしようとしているのであれば、それは我々にとっても情報収集の価値がある可能性はある、とアンミタートは説明する。
「差し当たって、皆さんには『リンドー・スミス』を守る『神の使徒『朱王・惨斬禰』』と交戦して頂きます。彼女はフリーの√能力者で今は連邦怪異収容局に雇われているようですね。彼女もまた星詠み。油断は出来ない相手になるはずです。」
だが、こうして敵戦力を削れば、『リンドー・スミス』の持つ情報を得る機会も得られるはずだ。
「とりあえず、目下のところ情報収集を妨害するように動くのが良いでしょう」
シンプルに戦闘するより大変だろうが、その価値はあるはずだ。
「この戦場で何が得られるかまでは私の予知でも見通せませんでした。ですが、予知できたということは、何か有益なものが得られるということ。確実に制圧して、『リンドー・スミス』から情報を得ましょう」
そう言って、アンミタートは話を締め括った。
第1章 ボス戦 『神の使徒『朱王・惨斬禰』』
「なんかカッコイイパンクのお姉さんがいるーー! 君どこ住み?何してるのかなー!」
「ん? ボク、かっこいいか? ふふふ、そうだろうそうだろう」
と、『神の使徒『朱王・惨斬禰』を煽てて様子を見るのは|警視庁異能捜査官《カミガリ》の一人、日南・カナタ(捜査三課の異能捜査官・h01454)だ。
なお、その煽てあげ作戦は成功した様子で、惨斬禰は極めて上機嫌にカナタに応じた。
「えーっとね、ここ稲荷神社って知ってる? お稲荷さんに悪戯しちゃ駄目だよ?お稲荷さんの祟りは怖いよー?」
「ククク、この神の使徒たる我にとって、稲荷の祟りなどものの数ではないのだよ、一般通行人君」
カナタの親切な警告に、しかし惨斬禰は聞く耳を持たない。
「えっとねー、俺実はおまわりさんなんだよねー? ということで職質していい?」
「何? ナンパかと思ったら、警察だったの? それ、任意だよね? じゃあパスで」
「あ、駄目? そう、じゃあ周りの人に聞き込みしてみるね」
周りの人? と惨斬禰が怪訝そうな顔でカナタを見る。
「|揺蕩う者《インビジブル》よ、在りし日の姿を現せ」
精神集中し念じることで、視界内のインビジブルが生前の姿へと変わっていく。
「なっ、お前、√能力者か! ククク、さては、リンドーの言っていたEDENとかいう連中だな? ならば、フハハハハ! 我が神の力に恐れ慄け!」
召喚した『かみのて』による近接攻撃がカナタに襲いかかる。
カナタはこれをあえて回避せず、霊的防護で受け止めつつ、警察の制式採用のリボルバー拳銃、M360J『SAKURA』で威嚇射撃を行う。
「フハハハハ、かみのてを回避しないのは見事だが、その程度の豆鉄砲ではボクは止められないぞ!」
「なるほどはるほどー君ちょっと署まで来てくれるかな?」
「うむ、断る!」
再度、『かみのて』が振りかざされる。
「そこまでだ。悪事を働くとお巡りさんが来る、と教わらなかったか。投降するか戦うか好きに選ぶと良い」
そこへもう一人の警察官が駆けつけてくる。密葬課に所属する異能捜査官、澪崎・遼馬(地摺烏・h00878)だ。
(「普段であれば敵ながら憎めない奴だ、と思っていたのだろうが。王劍戦争の最中とあっては手心を加えてやる余裕もない。
視界の開けた場所、となれば敵に気取られることなく奇襲したり、妨害することは難しいだろうな。ならば堂々と妨害してやることにしよう」)
発動するは√能力『|霊震《サイコクエイク》』。
突如として惨斬禰に対し、震度7の振動が発生する。
「ぐぅ、地震を起こす√能力か!」
「うひょー! この状況狙ってくるって流石リンドーは抜け目がないね! って感心してる場合じゃないよね! 集めた情報使ってろくでもないことしそうだし、これは阻止しないとだめだよね!」
その地震で動きを思わず止めた惨斬禰に対し、√EDEN静岡出身の√能力者、雪月・らぴか(霊術闘士らぴか・h00312)が地面を蹴る。
「2つの刃をクルクル回せば、私自身が猛吹雪ー!」
なぜからぴかに懐いている彷徨う雪だるまの死霊、彷徨雪霊ちーくを放って周囲や敵を観察してもらいつつ、らぴか自身は√能力『両鎌氷刃ブリザードスラッシャー』を発動、魔杖を両端から生えた氷の刃がピンクに輝く魔杖両鎌形態へと変形させて、その二振りの /⌒を合体させたような武器を振り回して、惨斬禰に襲いかかる。
「ククク……! コレがボクの覚醒した真の力だ!」
対して、惨斬禰はニセモノの王権執行者へと変身し、偽王劍『ディアボリックキャリバー』を振るって、らぴかの攻撃を受け止める。
防御用の霊力も攻撃に注ぎ込んでいるため守りの薄いらぴか。一対一ではニセモノとはいえ王権執行者に変身した惨斬禰と切り結ぶのは不利だ。
「必要な力はすでに内にあります。それを導き出します――『阿頼耶識』!」
だが、らぴかは決して一人ではない。
家族も故郷も失った末、守るために戦うという目的を見出した少年、不動院・覚悟(ただそこにある星・h01540)が、√能力を発動して自身を強化しつつ、ライフルである終焉烈火による狙撃が惨斬禰の自由な動きを牽制する。
(「この戦場で何を得られるか分からないのであれば、少しでも情報を持ち帰り判断材料としたいところです」)
そう考え、覚悟は油断なく周囲を観察しながら、狙撃による牽制を続ける。
「ちぃ、このボクを恐れないとは、厄介な奴らだ!」
「こんなふざけたやつが相手とは、少し教育ってのが必要らしい」
そして、狙撃手は一人ではなかった。
戦場より10km以内の遠方。周辺のビル群の屋上で、スポッター用のドローンとそしてよく似た形の自爆ドローンをそれぞれ展開しながら、スナイパーライフルであるパワードシャープシューターを構えて、惨斬禰を攻撃する。
「ククク、素晴らしい狙撃だ。だけど、無駄だね。ボクの魔眼には全て視えているよ。フッ」
惨斬禰が事前に星詠みしておいた作戦によって、狙撃手二人の狙撃を妨害しようという動きが始まる。
「絶対の力など存在しません。この手がその証明です――『阿頼耶識・羅刹』!」
しかし、それを読み切っていた覚悟がその妨害作戦を√能力により無効化する。
「なんと、ボクの予知が覆されたというのか。どうやら君達にも優れた魔眼使いがいるようだね」
「あぁ、テメェの動きだって俺には見えるんだぜ。悔しいよなぁ? あぁん?」
その言葉に別√から同意して嗤うのは銀髪紅眼に180㎝を超える長身を持つ見目麗しい淑女、ヒルデガルド・ガイガー(怪異を喰らう魔女・h02961)だ。
彼女は狙撃に合わせて、√能力『|鬼哭砲《オーガバースト》』を放って、回避不能の攻撃を惨斬禰へと送り込んでいく。
「くっ、霊能者か! ボクより優れた能力者なんて……!」
「あらまぁ、中二病を拗らせた痛い子が大暴れしていますね。きっちりとお仕置きして差し上げますよ」
飛んでくる|鬼哭砲《オーガバースト》を勘所だけで回避しながら、惨斬禰が呻く。そうは言っても、遼馬の地震を受けつつ、らぴかを正面取って相手し、覚悟とグレイの狙撃を受けてまだよく動く。
「だが、神の使徒たるボクを倒すにはまだ足りないようだな! フハハハハ!」
「ある意味言語解読のややこしい奴に調査をさせてんのな、むしろ暗号代わりなのか?」
その言動に感心したような言葉を向けるのは好き勝手な自称特務刑事課の√能力者、八百夜・刑部 (半人半妖(化け狸)の汚職警官・h00547)だ。
「神の使徒だと、嗤わせる。なれば魔王たる我には勝てんという事よ!」
あの頃のノリを思い出しながら、刑部が惨斬禰を挑発する。
発動するは√能力『邪眼の発動』。
かつては邪眼の威圧で相手が震えていると思っていたものだが、その真相は妖力振動波だと今の刑部はもう知っている。
それでも、激しい揺れは惨斬禰を苦しめる。
「神の使徒を名乗りつつ人に使われる者よ、我が邪眼への恐怖(ただの妖力振動波)で震える身で戦いも調べる事も出来んだろう? 所詮は人の仔、その程度か、つまらん」
「なんだと! ボクをバカにするな!」
激昂した惨斬禰が地面を蹴り、一気に刑部へ肉薄する。
偽王劍『ディアボリックキャリバー』が振りかざされる。
だが、刑部は冷静に金色の刃輝く将校サーベル天羽々斬でその一撃を受け止める。
「ふ、やれば出来るではないか」
そう言って、刑部は薄く笑う。
「バカにして!!」
グレイと覚悟からの狙撃を回避しつつ、数回切り結ぶ惨斬禰と刑部。
「今だ。その技、殺してみせよう──」
その隙を逃さず動いたのは遼馬。
「その偽王劍、砕かせてもらう。王劍決死戦を経験した身としては王劍を模造して振り回すなど気分の良いものではないゆえな」
遼馬の右掌が惨斬禰の偽王劍『ディアボリックキャリバー』に触れる。即座に√能力製である偽王劍『ディアボリックキャリバー』が砕ける。
「なっ……」
思わぬ出来事に惨斬禰が固まる。
「出てきやがれ下僕共。標的はあの良い趣味してる嬢ちゃんだ」
そして、そのタイミングを見逃さず、何処かの路地で昔懐かしの駄菓子屋を営んでいる女性、凍雲・灰那(Embers・h00159)が、√能力『|炎を齎す者の召喚/従属《サモン・ミニオンズ・オブ・クトゥグア》』を発動。
周囲に焔の精を放ち、収束熱線照射を開始する。
(「ふゥん? 情報収集……か。まず情報ってェのが何だ? 傍受って事は何かしらの通信って事だよな……」)
ならば、と灰那が指示を飛ばす。
「四方八方から熱線を絶え間なく浴びせてやれ。傍受する余裕なんざねェ程にな。何かしらの機材があるのなら、それも壊してやれ」
「あぁ、リンドーから借りてた観測装置が!?」
慌てる惨斬禰だが、それどころではない。
(「それだけじゃない。……焔の精。炎は熱と光、光は即ち電磁波だ。強い電磁波は無線を狂わせる。これだけの至近距離に幾つもの熱源、影響が出ない筈が無い。妨害になってりゃいいんだがな……」)
つまり、今、惨斬禰はリンドー・スミスとも連絡が取れない状況に陥ったはず。
惨斬禰がムキになってEDEN達に抵抗していることもあり、情報収集は確実に妨害されつつある。
「あぁん? 神の力ってのはそんなもんなのかよ? この程度じゃ調教する甲斐も無さすぎるぜ!」
うっかり動きを止めれば惨斬禰の元にヒルデガルド、覚悟、グレイの狙撃が飛んでくる。
故に、惨斬禰は動き続ける状況を余儀なくされていた。
「どうやら、情報収集の妨害はうまくいっているようですね」
覚悟がそう結論づける。
「であれば、全力での短期決戦で、ここから決着を狙いましょう」
覚悟が、終焉烈火をその場に放棄し、高密度合金による圧倒的な重量が持つ大剣、滅巨鋼刃を構える。
放棄したライフルは後で拾えばいい。
「あぁ、子供のおままごとは終わりだ、そこで寝ていろ」
その様子に、もう一人の狙撃手、グレイも頷く。
自爆型ドローンが、惨斬禰の逃げ場を塞ぐように、展開していく。
「くっ……ボクが……追い詰められているって言うの……」
「逃がさない。確実に仕留める」
グレイの強烈な狙撃が惨斬禰の足を穿ち、その足を止める。
直後、逃げ場を封じていた自爆型ドローンが爆発し、惨斬禰に痛打を与える。
その致命的な隙を咎めるように、らぴかと覚悟がそれぞれ得物を構えて一気に再度肉薄する。
らぴかと覚悟の強烈な近接攻撃が惨斬禰を切り裂く。
「嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ! 神の使徒たるボクがこんな簡単に……!」
「見苦しいな」
遼馬が魔銃を構え、接射を仕掛け、さらにそのダメージを拡大させる。
当然、灰那の焔の精とヒルデガルドによる攻撃も続いている。
「クソ……、ここまで……なのか……」
特にヒルデガルドの呪詛と麻痺攻撃は強烈で、ついに惨斬禰は動けなくなった。
「はい、じゃあ公務執行妨害で、11月7日17時50分、逮捕ね」
そこへカナタが近づき、手錠をかける。
後はこの場に残された痕跡から、何か情報を得られればいいのだが……。
なんにしても、この場の戦いはここまでだ。
