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夢見る鱗翅目

#√汎神解剖機関 #クヴァリフの仔

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 #√汎神解剖機関
 #クヴァリフの仔

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●わがままをいわせて
 声は鱗粉。手は蝶々。左目の瞬きは忘れて久しく、心臓の奥底まで、羽ばたきに満ち溢れている気がしている。

「なんっ……!? あ……」
「嫌ッ、やだ、何この蝶! 嫌! どっか行っ――」
 溢れる蝶々は狂信者を蹂躙する。蒼と白に包まれた彼らはひとかけらも残さずに、どこかに『連れ去られ』てしまった。
 残されるうねうね、クヴァリフの仔。かつん、かつんと響く高いヒールの足跡と、羽音――。

 ねえ、ごめんなさいがいいたいのです。
 ねえ、ありがとうが、いいたいのです。

 あのとき言えなかったこと。たくさんあります。あるのです。

 わたし、もう、いい子にはなれない。また、同じようなことをしてる。
 でも今日は、今回は少しだけ、いい子のふりをしてもいいですか?
 あのとき、言えなかった事……今なら、伝えられると思うのです――。

 共生の権能『ファルファッラ・ブル』。クヴァリフの仔を前にして、己の王国を作り上げる。

 ゆめのような、世界を。
 今度は、自分と『仔』と、あと『一種』の。
 ――今回は、失敗しない。

●おかえり。
「『おかえり』諸君! 見覚えのある『蒼』の話だ」
 それは鱗翅目。青と白、羽ばたきの音を伴う美しい、蝶。羽ばたきと共に現れ、難儀な生き方を見せて、そして去っていく。
 ディー・コンセンテス・メルクリウス・アルケー・ディオスクロイ(辰砂の血液・h05644)は目元を隠す翼を羽ばたかせて笑っている。

「今回は……うむ。とある廃ホテルにて、クヴァリフの仔を召喚した狂信者を、諸君らより先んじて排除し、自らが確保したようだ」
 だがその目的、『自らがクヴァリフの仔を持ち帰るため』ではない様子。

「諸君らを待っている」
 √能力者を、EDENを。何かの目的をもって。

「夢のような場所だよ。まさしくね。……永遠に続くパステルカラーの壁。ボールプール。誰もいないデパートの中。並ぶゲーム機。あるいはタイル張りの廊下が延々と続く光景。諸君らが迷い込む場所はどこであれ、辿り着く場所はひとつのようだ」
 ぴんと立てられる指。辰砂のそれ、宙を掻いてから下ろされる。

「……それらの光景に心当たりのあるものは、調べてみればいい。近道になるかも知れんぞ」
 ドリームコア――夢のような世界――パステルカラーのらくえん。

「さあいざ行け諸君! わたくしは今回も働かないぞ! アッハッハ!!」

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第1章 冒険 『浸食するドリームコア』


 テーマソングらしき音が聞こえてくる。まるでAIで生成したかのような、聞き取れない言語。
 古いようで新しいようで、不思議な響きであった。

 ――娯楽性が優先された区画、子供に向けた区画、誰のためか、タイル張りの廊下が続く区画……。

 気付けばあなたはそこに立っている。どこに落ちるかは定かでは無い。狙って落ちるのならば、必要なのは己の意思だ。
 それでは、落書きを追いかけようか。
クラウス・イーザリー

 ――待っています。あの奥で。今度は、わたしは、うまくやれます――。

「(待っている、か……)」
 目的は不明である。だが、――共生の権能『ファルファッラ・ブル』が望み、願うことは、|√能力者《EDEN》との邂逅である。
 待たれているのなら会いに行こう。己がよく知るひとかけらの|彼《彼女》は、憎めない相手だった。

 クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)が迷い込んだ先は夢のような世界、いや、夢である。

 ――ドリームコア、というものがある。AIが作成した、どこか懐かしい――平成初期を思わせるかのような光景を歩く映像。
 廃ホテルの中に入ったクラウスを出迎えたのは、様々なゲームの機体が並ぶ、通路めいたおもちゃ売場であった。|以前《・・》は強制的に招かれたが、今回は先に待つ|彼《彼女》へ会いに行く形だ。

 レギオンを飛ばし、周囲の光景を観察する。どこもかしこもパステルカラー。だけどそれはどこか色褪せていて、ぼやけたような、夢のような。ゲーム機体はどれもこれも不可思議な稼働の仕方をしている。

 デモ画面が永遠に動き続けているアーケードゲームの機体。勝手に動いて、中の巨大なぬいぐるみを取ろうと動きを繰り返しているクレーンゲーム。
 海外の機体か、チケットを吐き出し続けているバスケットボールのゲーム機……。
 矢印はどこかで見た赤い字だ。あちらへ、とでも言うかのように散らばっている。迷路のように、迷い込むように、奥へ、奥へと。……√EDENの光景を学習しているのだろうか。

 奇妙な懐かしさを覚えながら進む。こんな光景は、クラウスが生まれ育った世界には無かった。√ウォーゾーンにはあるまじき光景なのに、幼い頃――あれを遊びたい、と言って、メダルゲームの機体を指差し、駄々をこねたような気がして。そこにぺ、と引かれている赤い矢印を追う。
 後ろ髪を引かれるような思いで。懐かしさを振り切ったはずなのに、振り向きたくて仕方がない。手を引かれるように、先へ進む。
 待ってくれているのであれば。この矢印の案内に従えば、|ファル《蒼蝶》の場所に辿り着ける。そう信じている。

 |彼《彼女》は、クラウスたちを待ち、何をするつもりなのだろう。
 できることなら戦いたくはない。
 ――その願いは、叶うだろうか。

綾織・つづれ

 待たれているのならば、内部に入らねばならぬ。
 あるいは、待っているのだから、手を招かれているのだから、その手を取りに向かうべきか。

 夕暮れがさしている。ずらりと並び、柱を挟み、狭いように見え、実際は異様に広い店内。それこそ夢で見るような。綾織・つづれ(綾なす糸のシャトレーヌ・h02904)は目を伏せるように細めて、そして瞬きを、ひとつ。

 √EDENではこのような光景、残ってもいなければ、存在もしないだろう。吊り下げパッケージに入ったおもちゃのアクセサリー。|模造《ニセモノ》のブリリアントカットはそれでも淡く光を反射する。ペンダントにはまっている、裏に銀を塗られたであろうプラスチック……。

 ボールチェーンのマスコットを吊り下げている什器はところどころ錆びていて、けれど十二色のクマのぬいぐるみ、リボンとハートのチャームを抱えたそれには埃ひとつ被っていない。
 かわいいペン立てに入ったファンシーなボールペン、モノそのものは黄変していないが、『古さ』を再現するかのように張られた値札は茶色がかっていた。

 積まれた流行の雑誌。良く見れば読み取れない文字。新刊であろう平積みの漫画も同じく。絵柄は古く、しかしその『画質』は明らかに最近の技術で描かれ、刷られたものであった。

 この風景は、つづれが知り得ぬ風景だ。
 √EDENで育った。だがこんな時代は過ぎ去って久しい。捨てたはずの郷愁が思い浮かぶ。心を抉る。それこそ、ずっとずうっと幼い頃に、自分よりも少し年上の少女たちが、ああいうファンシーショップの前でかわいい、かわいいと話していたような記憶すらある。
 感傷の罠ほど、恐ろしいものはないというのに。

 だが、惑わされない。『|糸の城主《私》』にそのようなものは。娘時代は切り捨てた。その身に先祖をおろす。このような光景に思い出も何もないであろうそれを。心に鎧を纏う。惑わされぬように。
 ただ剣を手に――幼かったときの自分が好きだったものを。
 かわいいぬいぐるみが抱えている矢印、名前も知らない魔法少女のステッキ、赤い矢印型。目に入るものが導いている。カプセルトイの列、すべて同じ品。並ぶ並ぶ赤い矢印ばかりが……。
 それらを目印に、つづれは進む。切り捨てる必要はない。心にさえ、残らなければいい。

 ――蝶の羽ばたきが聞こえる。

ジェイド・ウェル・イオナ・ブロウクン・フラワーワークス

 たぶん、|あんた《蒼蝶》が一番つらいとき、おれはなーんにもできやしなかったが。

「探してもいいかい?」
 廃ホテルの中へ足を踏み入れた、ジェイド・ウェル・イオナ・ブロウクン・フラワーワークス(笑おうぜ・h07990)。小さく呟けば、あっという間に知らない場所。
 パステルカラーのかわいらしい壁。合皮らしきものにウレタンの緩衝材が詰められているような質感だ。眼の前に見えるのは、ボールプールと、洞窟型の滑り台――。

 先日から抱えっぱなしの『爆弾』が体を蝕んでいる気がする。左目が熱い。だが、問題はないだろう。あるとすれば、この目の違和感で、パステルカラーの中の赤い矢印を見逃すことくらいだ。
「血かな?」
 だから√ウォーゾーン極まって……こほん。

「あんたの思い描く「ゆめ」は、目に優しい色をしてんね」
 パステルとはいえ僅かくすんだ、それこそファンシーグッズにありそうな色合い。――夢の世界での色の感じ方は、各々違うらしい。白黒の者もいれば、カラーでみるものもいる。ビビッドであったり、このようなくすんだ夢を見る者もいるだろう。となれば蒼蝶、もしかすれば、己の鮮やかさに反して、|彼《彼女》のゆめはこのような色合いなのかもしれない。
「はは、パンダまでパステルカラー」
 子供向け遊具が並ぶ通りを行く。勝手に通路を歩いているのは、コインを入れると動く動物の乗り物。線路から解放された子ども電車や車が、パンダを先頭に列をなし進んでいる。同じ方向へ、座面には赤い矢印が描かれていて。

「独り言が多い? ハハ」
 それすらも独り言だ。ジェイドはゆったり歩くパンダの頭をぽんぽん撫でて、前を見る。壁に描かれた『ここで引き返せ』とばかりに、ぐるんと回る矢印を見て振り返れば、柱には別方向へと誘導する矢印。列になった遊具たちはくるりと引き返して、そのまま元の順路へと戻っていく……。

「黙ってることもできるんだけどさ。人といる時間が楽しいように思えたらさ」
 ……まともな交友、というものを覚えてしまったら。
「誰の声もしないことが、さみしく感じるようになった」
 自分の声でもいいから聞いていたい。ラジオでも趣味にすればいいかもしれないが、あれはあれで、余計な警戒情報まで入ってくるから。

 話しかけ続けたら、返してくれるかも。そんな淡い期待を感じていると、ぴん、ぽん、ぱん、ぽん、――館内放送だ。
『優しいあなた。二階、案内カウンターへお越しください』
 ジェイドへの案内だろう。驕りだろうが、それでいい。

神咲・七十

「ふにゅ……またあの可愛い蝶々さんですか」
 可愛いというよりは、『ドジをかます』印象がつきつつあるかもしれない。かわいそうに。
 待っているのなら何かあるのだろうが、あの蝶々は『そんなに』危ない事をするタイプではない。神咲・七十(本日も迷子?の狂食姫・h00549)、急がずに向かうとよろしい。
 呼び出したるは|サティの落とし仔《グノシエンヌ》。ふうんと周囲の様子を窺う彼女。彼女にとっては多少、気になるような空間ではあるか。

 広がるは、映画館のような廊下だった。

 果てがない。正確にはあるといえばあるのだが、角を曲がっても同じような廊下が続く。廊下の両サイドには公演中であろう映画のポスター、どれもこれも見覚えがあるだかないだか、「B級映画にならあるかもしれない」と思わせるようなポスターが並んでいた。恐らくは生成AIが作り出した品物だ。悍ましいまでに崩壊しているポスターもあるが、これは何を作り出そうとしたのだろうか。
 開かれているシアターのドア、その内を覗き込んでも、座面には誰もいない。人の気配はなく、明るく、上映もしていない……先へ進むべきだろう。
「なんだか懐かしい感じを受ける場所ですね……」
 子供の頃、大きな映画館はこのように、異様に広いものに見えていたような気がする。
 欠落とは関係なく記憶を失っている七十、だというのに思考には『懐かしい』という思い出がついてまわる。不思議な場所だ。
 この矢印は蝶々が描いているのだろうか。ポスターに描かれた赤、以前も見たことのある質感だが、何か、性質が異なっているような気もする。
 ファルファッラ・ブルは何をしようとしているのだろう。隣のグノシエンヌに聞こうが、『さあ?』とばかりに肩を竦めるだけだった。

「……また、引っ掛かったなんて事では流石にないと思いますけど」
 流石にね。今回は引っかかるものなんてありはしない。あるとしたら、そうだ。子供向けのロープ玩具の上で『たすけて』とばかりにしっちゃかめっちゃかになっている可能性。それでもあれの能力なら抜け出せるだろう……。

 蝶の導きのもと、七十は歩いていく。お菓子を食べて、鼻歌を歌って、静かなシアターの廊下をゆっくりと。

北條・春幸

 並ぶゲーム機の前に行って、コインを投入してみた。
 盛大にバグった表示をしていたそれ、かろうじてといった具合に始まるはシューティングゲームである。自機の形は曖昧だが、迫ってくるそれは戦闘機か、蝶々に見えた。

 北條・春幸(汎神解剖機関 食用部・h01096)は『おそれ』もなんにもなく、目に見える、手に取れるものを触っては確かめる。懐かしいようなそうでもないような品々。
 並ぶゲーム機は正常に動作したり、しなかったり。画面がバグっているがゆえにゲームオーバーになるのが速いのは欠点か。遊具型――バスケットボールをシュートするものだったりは正しく動くようだったが、単純な動作以外のものはだいたいとんでもない動きだった。

 手に取ったオモチャは縫製がぐちゃぐちゃだ。それでも形はかわいらしく整えられているのだから不思議なものだ。並ぶ雑誌も文字は読み取れずとも、雰囲気だけはしっかりと分かる。これはファッション誌、これは漫画雑誌、これは趣味・実用コーナーの車特集。めくったページを見るに、『お手本を見ながら、一生懸命似せて作った』ものに見えた。
 インスタントな娯楽の寄せ集め。スマートフォンなしで満足できる遊びを提供しようとでもしているのか。そのような印象。

「うん、これは中々面白いな」
 ちょっとした現代ホラーな雰囲気で悪くない。ドリームコア、バックルーム、無人の空間に似つかわしくない生活感というのは中々だ。春幸はぱたんと雑誌を閉じて、元々表紙に描いてあった矢印の通りに、先へ進んでいく。
 こう言うの確かに好きなんだけど。好きなのだけれど、どこか引っかかる。

「まさかねえ。あの子だったりする? 本当に?」
 あの子に言ったことを思い出す。――『何の刺激も無い環境に閉じ込められるって事は、けっこう残酷で酷い事』――。ここは、刺激自体はしっかりとしている。それでも少々、子供っぽいものばかりではあるが。
 寄り道をしても、案内に沿って進んでいれば良いだろう。きっと|彼《彼女》は待っていてくれる。足取りは軽く、各々の矢印をたどり、手に取るオモチャはかすかに聞き取れぬおしゃべりをした――。

 もう一度会えると良い。今度こそちゃんと話し合いたい。
 あのような結末ではない、もっとよい何かが、あったはずだから。

第2章 冒険 『過去の自分と向き合う』


 きてくれた。うれしい。うれしい。
 蒼蝶ははしゃいでいる。知った顔、知らない顔、誰もかも、自分を『探している』!
 ――以前は、自分の王国を作ろうとした。子供と、自分と、そして『もう一種』。結局それは出ていってしまって、だあれもいない王国になってしまった。
 代わりに残ったのは妙なうねうねだったけど……今は少し違う。

 ……ボールプールが、クヴァリフの子で埋め尽くされていた。その周囲には、ファルファッラ・ブルによって蹂躙された狂信者たち。息のある、眠っているだけのものも。相当な抵抗をしたのであろう、武装した者は既に息絶えているが――これらは恐らく、|√能力者《簒奪者》。どこかで蘇生していることだろう。
『ねえ』
 声。
『ごめんなさい。手荒なことだった、理解してる』
 ファルファッラ・ブルの――|彼《彼女》の声を代替する、インビジブル。
 視線を向けるは倒れている人々と、ボールプールの中の仔たちだ。

『探してほしくて』
 見つけてほしくて。
『……餌にしました』
 これらを餌に、あなた達を呼びました。

 蒼蝶は、ファルファッラ・ブルは奥の椅子に座っている。子供用の小さな、背もたれのないパステルカラーの丸椅子。ボールプールのそばにあって相応しいそれに座って――今は、たったひとりと、数十匹と、少しの人々の王国で、座っている。玉座には相応しくない、それに。

『あなたのことをおしえて』
 以前は聞けなかったこと。知らなかったこと。沢山ある。『わたし』はずっと『わたし』ではいられない。こうしている間に、何度か死んで、取り替えられている間に、性質が変わり続ける。
 けれどあなたたちは。
『あなたを、あなたたらしめることを、おしえて』
 蒼蝶は『対話』を望んでいる。
ジェイド・ウェル・イオナ・ブロウクン・フラワーワークス

 だめなことはだめ。そう叱ってやるのが良いのだろうが。
 それでは「お前が言うか?」になるのではないか。ジェイド・ウェル・イオナ・ブロウクン・フラワーワークス(笑おうぜ・h07990)、自分の過去を顧みて己の顎をさする。

「ファル、おれはジェイド」
 改めてのご挨拶だ。クヴァリフの仔のプール越し、蒼蝶は静かに礼をした。
「人間爆弾——裏切り者の「わるいこ」だ」
 ばくだん、裏切り者、わるいこ。ファルの中ではそれらがいまいち繋がらないらしく、首を傾げている。ばくだんはきっと悪いことに使うのだ、という知識はある。

「人をたくさん殺したよ。同じ釜の飯食った仲間も。「お兄ちゃん」って慕ってくれたかわいいやつも」
 誰の顔も、名前も思い出せてしまう。最期の表情だって、最悪な言葉だって、いくらでも。重ねた罪と屍の数をジェイドは覚えている。
「みんな殺した」
 それは「いつか」上げる、反撃の狼煙のため。高く高く立ち昇らせるため。
 敵につけ入るカモフラージュのため。誰に疑われることもなく、寝返ったのだと思わせるために――。
 そこでようやく察したらしい蒼蝶、彼の纏うものが何なのか、気がついた。いくらかの諦観。一時の安寧のため……ひとさじぶんの甘い砂糖を得るために、何十もの蝶を捕らえては潰すような感覚、だろうか。
「殺したんだ」
 蒼蝶は静かに聞いている。僅か漂う火薬の匂いは、きっと染み付いて離れないそれで。ふぁた、と瞬きをする|目《蝶》、鱗粉の息を吐く。

『仕方がなかったと、言い訳しないのですか』
 わたしのように。周囲に散らばるあれこれを、この空間の中を、見て、それは呟くも。

「あんたの頭を撫でさせてもらったろ?」
 覚えてっかな。――最近のことだ。わたしが困っていたとき、助けてもらって、頭を撫でてもらった。
「あれはあんたが簒奪者だからだ」
 ――それでもあの手は優しかった。綺麗なもんは好きなんだ、と、自分を撫でた手は。
「おれの手は人の血で汚れてて、普通の人に普通に触れていい資格がない。そう思ってる」

 でも|簒奪者《わるいこ》のあんたなら。
 |赦される《・・・・》と思った。
 この、きたない手できれいなあんたに触っても、その鱗粉が剥げたとしても、うつくしくあってくれるのでは、なんて。
「そんなひどい話なんだ」
 沈黙は、重い。けれど、ふぁた、と蒼蝶が瞬いた。
『ジェイド。ゆるし、とは、他人から与えられるものではないと、おもいます』
 だって、わたしをゆるさない人も、たくさんいる。ゆるしてはならない存在だから。

「……ごめんな」
 謝ってどうなる、という話ではないのに、口に付くのは謝罪だ。ゆるしを乞うことしか、できやしない……。

綾織・つづれ

 剣も。――ここで今振るったとして、どうなるのか。
 能力も。――今行使したとて、同じことを。
 編み機も、ここでは無粋なのだろう――。

 理性が警鐘を鳴らしている。簒奪者だ。目の前には仔が山ほど。相手は警戒していない。この隙に切り捨てろ――!

 ……だが、綾織・つづれ(綾なす糸のシャトレーヌ・h02904)は動けなかった。
 私はそこまで非道にはなれない。甘いこと。理解している、自分は蜜よりも|彼女《彼》にとって甘い存在だ。
 ……蒼蝶も理解している。敵意を向けられても仕方のないことをしていると。

「私は魔術師アリアーヌ・ド・フィル。糸の城の主」
 ――血に刻まれた魔術の全てが私の全て。縁を結び、解き、また結ぶ。その気になれば蜘蛛として振る舞うこともできようが。
 ……本当に『すべて』であると、そう、言い切れない。
「偽名としてかつての名、「綾織・つづれ」を使っている時点で、未練があるのだ」
 どちらにせよ、私を私たらしめるのは、義務感だ。長いまつ毛が頬に影を落とす。そうして閉じられる瞼。魔術師としての血筋を持つ|チェンジリング《取り替え子》、遠い日に√EDENの家に紛れ込まされた異物。
 語られる話、蒼蝶は考える。本来『そこ』には誰がいたのか――他の蜘蛛の古巣を乗っ取ったかのような、などと。わたしも、取り替えられた。何度も、何度も……。蒼蝶、ひとつ、興味が湧いた。

『もしかして。あなたは糸を取るお方なのですか』
 ――繭を煮て、糸を取り、そして紡ぎ、きれいな布として。

『わたしが蚕なら』
 桑を食べて、生きていたのなら。
『きれいな蚕として、一生を、そこで、暮らせていたかもしれません』
 ゆめをみるかのように、うっとりと。|彼女《彼》は目を細め、鱗粉の吐息を吐く。
『あるいは、そう、丁寧に煮られて。きれいな布になれていたかも』
 このような姿ではなく。ざわめく蝶のインビジブルたち、『|ファルファッラ・ブル《簒奪者としての蒼蝶》』の頭に何匹かが突撃する。何を言っているの、と言わんばかり。

「切り捨てたいのに切り捨てられない過去。それらは甘い思い出であって」
 炙った砂糖は飴になる。砂糖には戻れない。アリアーヌは――つづれは――飴となってしまったのだろうか。
「今の私には、残響のようなもの」
 それとも。
『本当に?』
 微笑む蒼蝶。
「……本当に。おそらくは。そうであってほしい」
 それは願いだった。頭を抱えるように、つづれは顔を軽く手で覆う。

 彼女が携える編み機を見て、蒼蝶はふと思う。
 きれいな、わたあめみたいなひと。飴の糸を絡め取って、自分で硬く、潰してしまったんだ。

北條・春幸

 たのしそうだ。うれしそうだ。よかった。よかった! 集められてるところ、見つけられてよかった。喜んでもらえて、よかった。蒼蝶は今日のうち、いちばんあかるい笑顔を浮かべている。

「仔でミチミチのプール!!」
 北條・春幸(汎神解剖機関 食用部・h01096)、ブレない。

「|金魚《クヴァリフの仔》すくいかな?!」
『あなたたちを呼ぶための、餌です』
「違うの? そう……」
 思わず網やクーラーボックスやらがないか探してしまった春幸、残念そうにとりあえず、仔でいっぱいのプールのふちへと座る。すぐにもちゃついたものが集まって、ぺたぺた春幸の存在を確認しはじめた。

「狂信者たちを倒してくれたのは助かったよ。ありがとう」
 素直な感謝に多少、狼狽えた蒼蝶。こんな餌で釣ったのに。釣られて喜んでいる、不思議な相手だ。
 一巡する思考……蒼蝶は自分が前回『やってしまった』ことを覚えているようで。
『あのときは、こわいことをして、ごめんなさい』
 たべてしまって。目を細める蒼蝶は申し訳なさそうに、けれどそれ以上の感情は持っていないようにも見える。

 さて、問答の時間だ。
「自分が自分として、か。多分、今まで積み重ねてきた経験じゃないかなと思う」
 だから層になっていて、掘り起こせばきっと、一色ではない。
「人と関わって影響したりされたりして、少しずつ変化しながら自分が出来ていく」
 じぶんのかたち――特に『こころ』というものは、初めから決まっているものではないらしい。蒼蝶はふむ、と真剣に話を聞いている。

「君も随分変わったんだねえ。この世界にも娯楽が増えてる」
 盛大にバグってはいたがゲーム機に漫画雑誌、どこから知識を仕入れてきたのだろう。子供のまま大人になったような性質だ。娯楽が何たるかを知ったのならば、ああ、それはなによりだ。

 そして何より。
「餌で呼び出したにしろ、僕らと対話しようとしてくれてる」
 頑なだったあの時よりはずいぶん柔和で、悲壮感がやや薄れたか。それは|√能力者《EDEN》との関わりの中で得たものなのか。

「夢の中がいいなら今のままでいい。ご招待いただけたら遊びに来るよ」
 にこにこ、変わらぬ笑顔の春幸。『このひとは優しい』と、蒼蝶はよく知っている。
『……おそと、出てみました』
 ちょうどこの間。照れくさそうな告白だ。だって。
『絡まってしまって、ひとに、助けられた……』
 それにすごく怖い目にもあった。断片的な記憶を束ねた『じぶん』は、曖昧ながら覚えている。
 わたしには、まだお外は、早いのかも。

「でも、独りよりは寂しくなかったんじゃない?」
 首肯は、深い。今は夢の中……揺蕩うように、遊んでいたい。でも。
『あなたが来てくれるなら、ここにいたいと、思ってしまいます』
 悲しいかな、簒奪者。放っておけば、人をとらえては喰らってしまうのが宿命だ。

神咲・七十

「私を私たらしめる事ですか……」
 過去の記憶がない神咲・七十(本日も迷子?の狂食姫・h00549)にとっては、『自己同一性』はかなり後から得たものということになる。唇に指を当て考える彼女を見て、蒼蝶は首を傾げる。

「最近だとフリヴァくちゃんや……」
 己が操る邪神の欠片の名。そしてちらり、√能力で呼び出している金髪碧眼の女を――サティの落とし仔を見た。グノシエンヌはふんと鼻を鳴らして視線を逸らす。
「色々な人と出会ったのも今の私らしくしている事ですが」
 その色々な人とは、どんな人たちなのだろう。自分が今まで出会ってきた|√能力者《EDEN》たちのように、様々な人々が居たのだろうか。やさしいひと、敵対視してくるひと、どれでもないひと……。

「やっぱりAnkerのカリアさんと出会えたことですかね」
 Anker。……蒼蝶にとっては、少し、縁遠い話かもしれない。何せ、|彼《彼女》のAnkerは……。

「私がまだ貴女と同じ簒奪者だった時に出会ったんですけど……まぁ、そんな時でしたので襲いかかった訳ですが」
 とても……面倒でした。
 それは簒奪者としては当然のことである。|√能力者《EDEN》として活動している相手だったかどうかは知らないが、敵対関係であったのならそうなのだろう、と蒼蝶はひとまず納得した。
 蒼蝶とて簒奪者。本人が――『ファルファッラ・ブル』という人格が望んでいなくとも、自分の体を構成するインビジブルが、空腹を訴えてくるのだ。
「まぁ、それでも勝った訳ですが、なぜかそのまま食らうという気分になれなくて」
 食らう、というのは死体を食うことだろうか。蒼蝶、考えることが多い。
 相当な飢餓感を抱えている相手だということはぼんやりと知っているが、それが人間やそれに類するものにも向くのなら、自分にも向けられているのでは。
 ……ひぃん。ひとりで震え上がっている。

 そうこうしているうちに七十の話は続く。
「油断している間に……」
 顔を赤くしながら、少しにやけて、首を揺らし。
「倒されちゃいまして」
 ……こどものような精神性を持つ|彼《彼女》には、きっとわからない。
 なにがあったのだろう、それだけで仲良くなれる何かがあったのか。ならいいか。
 思考はシンプル、わからないことはわからなくていい、知らなくてよいなら知らなくてよいのだ。

「それから、カリアさんは私にとって大切な人になったんです」
 そんなにも、かんたんに。ひとばんで、たいせつに?
『……素敵なことです』
 千夜一夜物語。シェヘラザードはひとばんで、王の興味を引いてみせた。きっと、そのようなものだ。

クラウス・イーザリー

 蒼蝶は静かに座っている。冷静に、丁寧に、微笑みは深い。その笑みには敵意の欠片すらも見えはしない。
 ……『あれ』から成長したのだろうか。自分のやったことを『手荒なこと』と認識している。
 クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は改めて、思う。『やっぱり、嫌いになれない』と。

「俺を、俺たらしめているもの……」
 自分は特別でも何でもない、凡庸な人間だ。知って何か得るものがあるだろうかと――だが、彼をよく知るものはみなこう言うだろう。それは謙遜ではないか、と。
 たとえ彼がそう思っていたとして、現在はそんなことは関係ない。目前の|蒼蝶《ファル》が知りたいと言うのなら応じるまでだ。

「……大切な人たちへの想い、かな」
『たいせつなひと』
 復唱する蒼蝶。『ひとりきり』のさだめを背負った蝶には、その感覚はいまいち理解できない。誰かと取り替えられ続けるばかり、渡り蝶も文字通り真っ青な『じんせい』を送ってきたのだから。不思議の国の子、どこにいっても馴染めないまま、気付けば増えるばかりの蝶々に囲まれて、ありとあらゆるところを奪われてしまった。

「死んだひとたち。両親。先輩や後輩。誰よりも大切だった親友」
 それでも蒼蝶、そのような……親子だとかの『関係性』を知らないわけではない。今まで微かな時間でも築けた関係はあり――それも引き裂かれてきたが――このように今、|√能力者《EDEN》と会話をしている時点で|彼《彼女》は。

「今、生きて一緒に居てくれる友人たち。兄のような存在。共犯者」
 こうして並べてみれば、どれだけの人に大切にされているのだろう。ここ一年で、思考に過る顔はずいぶんと多くなった。自分自身が変わった自覚もある。
 それでも失ってしまったものは、二度と戻らない。そう、二度と。夢を見る、いや、夢に見ることはできても、手に取れる存在ではなくなってしまうのだ。

「そんな人たちへの感謝とか、大切だっていう想い」
 胸に手を当てて、静かに目を伏せるクラウス。

 ――二度と戻らなくても、消えはしない。たとえ消えたと思っていた火でも、息を吹きかけてみれば仄かに燃え、ひかるもの。
「そういうものが、俺を俺たらしめてくれている」
 確りと、前を向く。想いは力になる。この世界を守るため、自分自身の大切な人たちを守るために、力を振るえるのだ。『ファルファッラ・ブル』への視線は力強いものだった。だが、すぐに頬をゆるめて。
「……それが無ければ、俺はきっととうの昔に死んでいただろうな」
 困ったように笑うクラウス。いまだ、自分の周りに薄っすらと纏わりつく希死念慮との付き合い方は、考えていかなければならないが――。

「好きなんだ。彼らのことが、彼らを生んでくれた世界が」
 だから守りたい。
「そのためなら戦いも厭わない」
 言葉にすれば、単純で凡庸な想いだと。こんなのでいいのか、なんて。そんなことは関係ない。

『……あなたは、優しくて』
 指を組むように、自分の胸元へとその長い袖を寄せた蒼蝶。
『わたしにすら手を差し伸べて』
 届かない、手に取れない、この|袖の中《・・・》を知っていても。
『いろいろなひとに、愛されてきた』
 立ち上がる。降ろした腕が、袖が床へと付く。そこからぺり、と小さな――ほんの小さな、剥離音がした。

『|よい《・・》おともだちになれなくて、ごめんなさい』
 あなたには、それが言いたかった。そして。
『それでも、おともだちとして。『戦って』、ください』

 ――|ゆめ《空間》が崩壊する。剥がれ落ちはじめる、夢の跡。

第3章 ボス戦 『共生の権能『ファルファッラ・ブル』』


 みんな、きれいな、きれいな、■■を抱えていた。
 かたちは違う、おもいも違う。わたしにわかるもの、わからないもの。
 だからわたしも、罪滅ぼしをしよう。

『出てきていいよ』
 ――ぱたり。ばさ、ばさ。
「ファル? ファル? もう食べていいの?!」
 黒い蝶々が、無邪気な黒妖精たちが集まってくる――黒い翅から落ちる鱗粉には、仄かにきらり、赤が見えた。

『食べちゃダメ』
 冷たい声だった。溢れる蝶のインビジブル――そして。

『前に、『お手伝い』をしてもらったのです』
 そうして、なかよくなったつもりでしたが。
 わたしの一方的な、おもいでした。
 ――黒に混ざるは赤い鱗粉。あの赤い矢印、あるいは『落書き』と同じ、赤の構造色――!

『|この仔《クヴァリフの仔》たちを、持って帰って頂きたいのです』
「はぁ!? 話が違うわ、違うわ! ぜんぶ私たちにくれるって言ったのに!!」
 ヒステリックに声を上げる黒い蝶々たち。少女らの甲高い声が響く中で。

 ファルファッラ・ブルは高らかに――そう、高らかに宣言する。この国の主人として。
『ここに、我が『王国』の顕現を宣言する』
 黒蝶は、いらない!

 ――崩れ始めるドリームコア。べり、と壁紙が剥がれ――断片が、蝶の羽のように四散する。
 現れるは、廃ホテルの一室だ。積み上げられていたクヴァリフの仔が騒ぐ。無数の蝶が飛び交う中、打ち消えていく黒い妖精たち。どこへ連れ去られていったのだろう。ともあれ、潜んでいた邪魔者は居なくなったようだ。

 ――ひとつわかったことがある。
『わたし、私、ぼく、おれ、すべて、すべてが今の『わたし』だから』
 ……ゆるしてもらわなくていいんだ。だから。
『わたしごと。全部潰して』
 わたしを殺して。この|蝶々《インビジブル》たちごと。今のわたしを殺して。
『また取り替えられてしまうなら――あなたたちの手によって、が、いい』
 わがままで、ごめんなさい。この国は、そうすることでしか、『崩壊しない』。

『今度は。今回は、失敗しない』
 あなたたちの『全力』にこたえなかったわたしを。そうして自分で、ゆるしてあげるんだ。
北條・春幸

 狂ってしまえたらどれだけ幸福だったでしょう。なんて考えて、ああ自分はとうの昔におかしくなっていて、気狂いのさまを、有り体に晒して。このように懇願している。
 華々しい最期が欲しいわけではない。
 いつか、どこかで会えるとしても、さようならを言うたび、違うわたしになってしまう。
 それが嫌で。自らのありかたに、この翅の鱗粉を削ってでも、刻み込めるほどの記憶が欲しかった。いずれ薄らいでしまうとしても。

「今ちょっと考えたんだけど」
 北條・春幸(汎神解剖機関 食用部・h01096)は両腕を広げたファルファッラ・ブルを目前にして、蝶たちが飛び交う中で|彼《彼女》に声をかける。

「お腹空いたら僕を食べるのはどう?」
 恐怖心もへったくれもあったものではない。それは善意からの言葉だ。季節外れの蝶々が、ファルファッラ・ブルのものではないそれが、ひらひらと、庭園を横切っていく。気付けば周囲は寒空の下、美しい花々咲き誇る庭の中だった。
 その蝶は様々な場所を旅してきた。地を渡り海を渡り、そうして風に流されて、ここにきた。一匹だけの迷蝶。行先を失って、命を繋げることもかなわず、それでも、死に場所は決めた。

「時間が経てば死に戻るから遠慮しなくていい。僕だって色々食べて生きているんだしね」
 お腹は減るけど。足りないけれど。あなたは飢えで殺すには、あまりに惜しいから。
『――きっと、手放せなくなる』
 このように。
 袖口から溢れた蝶が庭を飛び交う。青いもの、白いもの、ぱしゅ、と痛みを残して消えていく。インビジブルが春幸の命を啜る。

「いや、それでもダメなのか」
 だめなのです。
「君は変わりたいんだろうな」
 かわってしまうのなら、あなたたちの手がよかった。
「死ぬ事で再構築してやり直したいのかな」
『その通りです』
 やり直せるわけはないけれど。犯した罪は消えないけど。今の私から、次の私へ『羽化』するならば――あなたたちの手が、よかった。だから。

「だけど僕はまだ君との『共生』を諦めてないからね」
 その言葉に微笑むファルファッラ・ブル。蒼蝶は相変わらず――前も、そうだった――抵抗するそぶりも見せない春幸へと近づいていく。
 庭の地面を踏み締めて。草の感覚を確かめて。自らが目指した楽園よりも、ずっと楽園らしいそこを歩く。
 そうして、|失せた《欠落した》腕で縋るように、春幸を包み込んだ。

「死に戻るたびに変わっても、僕らとの対話を望んでくれた|君《・》は残るだろうと信じる事にするよ」
 きっとそれは叶う。『覚えています』と。『何が何でも』と。鱗粉の散る瞬きに涙が混ざって。

「戻ってきたら遊びにおいで」
『あそびにいけるのなら。よろこんで』
 この世界は美しいから、この物語を認めてくれる。この世界は残酷だから、違う形で叶えるかもしれない。

 待ってて。
 その共生が、叶わない夢だとしても、わたしだって諦めてはいない。
 現にこうして、やさしいあなたは、わたしと向き合い続けてくれているのだから。

 ひらり、蝶が落ちた。庭園が崩壊する。廃ホテルへと戻った空間、春幸の姿はどこにもない。

『優しいあなたたち』
 優しくて、時々残酷で、それでも正義のためにと刃を振るあなたたち。
『わがままを聞いて』

綾織・つづれ

 ひとに優しくあれるなら、それはひとなのだろうか。
 自己満足のためだけに、|殺される《展翅される》と分かりながらも羽ばたいた蝶は、溢れんばかりの――否、文字通りに溢れたインビジブルと共に、簒奪者として|√能力者《EDEN》の前に立つ。
 まずはと袖を振り放たれた蝶の群れ。とらえるためではなく傷つけるためのインビジブルたち。襲いかかるは猛烈な羽音と鋭さを纏った群体だ。

 一面の白、綾織・つづれ(綾なす糸のシャトレーヌ・h02904)は静かに目を細める。バタフライ・エフェクトも真っ青か。いやあるいはこのような、真っ白。
「……ならば私も、敬意を表して相手をしよう」
 矜持を持つ相手に応える美徳を彼女は知っている。途切れた群れ、次なるは青い蝶――此度は捉えるための。
 つづれは袖を振るその瞬間、ひとつの動作を見落とすことはなかった。
 ぱしゅん。編まれた運命の糸は容易く蒼蝶の腕を打ちつける。溢れ出してきていた蝶たちが蜘蛛の糸にかかるように引っかかり、そして千切られるように消えていく。目を細めたファルファッラ・ブル。怯むことなく、己の体を構成するインビジブルを削りながら蝶を放つ。

 取り替えられてしまったのは。変わっていく恐ろしさは、私も知っている。
『……とらわれては、くれないのですね』
 権能が封じられた。それでも蝶は羽ばたいて、蒼白の渦がつづれの視界を阻む。視線の先にちらりと見えた蒼蝶は、どこか嬉しそうに微笑んでいた。

 ――アナタは今のままで、綺麗に終わることを祈っている。
 こんなにもうつくしく羽ばたけるのだから。
 ――アナタに情を感じてしまうのは私の弱さだ。
 半端に溶けて固まって、解れもしない綿菓子だったもの。けれどそれにも道はある。紅茶に珈琲、溶かしてしまえる術はいくらでも。けれど彼女はそれを選ばない、選べない。

 ――だが、きっとアナタも寂しい「ひと」なのだ。
「私は、魔術師の子として生まれてしまっただけの……」
 手繰る糸、ぱつんとファルファッラ・ブルの袖を切り落とす。断裂する蝶の群れ、すぐに集合するも絡まったそれら、身動きが鈍く。
「アナタは簒奪者として生まれてしまっただけの、「ひと」」
 ひと。ひと、とは、何だろう。ファルファッラ・ブルは思考する。ここにいるもの大体はひとだろう。だが――思考し悩むものこそがひとであるなら、ああわたしはきっと。こうなる運命だっただけの。

 王国に崩壊を。女王に死を。R.I.P.の字を贈ろう。それで救えるならば、甘い、幸せな結末。
『――本当に?』
 ほんとうに。
 口でほろりと溶けてしまうくらいの、やさしい、やさしい終わりを贈ろう。
 多少湿気て固くなってしまっているかもしれないが、甘さはひとつも失われてはいない。

神咲・七十

「んぅ……今回も仲良く最後までいられると思ったのですが……」
 本来なかよくできないときの方が多いのである。
 何せ相手は簒奪者。邪悪なインビジブルを使い、この世界を脅かす存在。逃がすわけにはいかない。たとえ本人がどんな『在り方』でも、その行動によって脅かされるものがいれば――たとえば、このようにクヴァリフの仔を集めて、|√能力者《EDEN》を待っていようとも。ゆるされぬ罪である。

「でも、貴女にとって結構重要なことのようですね」
 結構どころではないかもしれませんけれど。砂糖菓子のような甘い空間は今や消え去りつつあり、剥離していく夢が、はらはら粉砂糖のように散っていく。ああ、これが終わったら、粉砂糖のたっぷりかけられたドーナツを食べよう。神咲・七十(本日も迷子?の狂食姫・h00549)は静かに、両手に大鎌を構えて、蒼蝶と対峙した。

「……仕方ないですね、ではしっかりと送ってあげますよ」
 ファルファッラ・ブルからの返答は、優雅なカーテシーのような一礼だった。はた、と羽ばたく左目の蝶は真っ直ぐと七十を見つめている。

 召喚される|邪神の欠片《フリヴァく》に|第3番《グノシエンヌ》。歌うために深く呼吸を整える少女、その姿を鍵盤の天輪へと変える女。
「そういえば、先ほどの話の様に今の貴女を喰らうことも出来ます」
 七十の権能のひとつ。食らったものの力の一部を自分のものにする。勿論成功するか否かは相手の意志の強さや七十自身が扱いきれるか否かが関係するわけだが。
「そうすれば私の中で、今の貴女のままでいられるようになりますが……」
 けれどそれが本当に、この『ファルファッラ・ブル』という不安定な存在に通用するかは分からないのだ。取り替えられ続け、いつの間にか失せて、また新たな場所で王国を作り上げ、時には迷蝶のようにふらり、ふわり。どこにいるやら、どこにいくやら、わかりはしない蝶々だ。
 蒼蝶は首を振る。自らの性質を理解しているから。どうせ取り替えられるなら、今ここで、違うわたしになりたい。そう誓って立っているのだから。
「……やっぱりやめておいた方がよさそうですね……残念ですね」

 高らかに。第7番に乗せられる少女のコーラス。即興で生み出された楽団が、演奏を始めた。放たれた蝶のインビジブルを受けつつ、蒼蝶へと走る七十。
「んぅ……私はあまり得意な方の曲調ではないですが、でもしっかり送ってあげますからね」
 両手の大鎌を振りかぶった一撃。ファルファッラ・ブルはぶわりとその体を青い蝶で覆い隠し、すぐさま距離を離すと白い蝶の群れを七十へと向かわせる。切り裂かれる肌、けれどそれで止まるわけにはいかない。傷ついたそばから再生する傷。
 視界を埋める白の隙間から見える青い蝶の群れ。楽団がそれを包囲するように歩み――七十の大鎌が、ファルファッラ・ブルの体をざくり。切り裂いた。血液代わりのインビジブルと鱗粉、苦痛を覚えども感情を高ぶらせることなく、|彼《彼女》は白蝶を七十へと向かわせた。傷は深くとも、まだ動ける、動けてしまう、自らを埋め尽くす『|じぶん《蝶々》』たちを削り取りながら――何度だって、袖を振るうのだ。

「今回はこういう曲でしたけど……次に会える時はもう少し明るい曲を歌わせて下さいね」
 今度はもっとうまくできますように。
 ――うまく、できますように――。

ルーシー・シャトー・ミルズ

「|Bonjour《ぼんじゅー》――悪い子ちゃん」
 見覚えのある桃色だった。マカロンのような、あまいあまい桃色。蒼蝶は視界にとらえたルーシー・シャトー・ミルズ(|おかし《・・・》なお姫様・h01765)を見て、ぴたり、動きを止める。

「クヴァリフの仔らを預かった気分は、如何? 黒い蝶たちは――嗚呼、残念だけれど」
 王国の民はあれだけで、随分と減ってしまっただろう。潜んでいたお友達――あるいは配下とでも呼ぶべきか。それらを排除してまで、蒼蝶は、皆とおはなしがしたかった。本音をぶつけあって。どうしようもない思いを乗せて。
『わたしは、母にも、父にもなれないな、と。思いました』
 黒い蝶々は。お友達という名前の、違う|■■《なにか》だったのだし。憂いの瞬きに鱗粉が散る。

「ちょっとだけ話でもしよ?」
 蝶々が舞う。命を啜る羽ばたきが。だがそれは、ルーシーが差し伸べた掌に触れた瞬間、ぶわりと溶けるようにして散じていった。とけて、きえて、そして蒼蝶は首を傾げる。

「参考までに聞かせて貰いたいんだけどさ。今の君は、どんな君?」
 今の自分。ファルファッラ・ブルは口を開こうとして、すぐに閉じる。変わり続ける自分を表す言葉を知らないのだ。いつどこで取り替わったか、自分自身でもわからないときがある。確かなる自己同一性を持たぬ|彼女《彼》にとって、|彼《彼女》は首を振る。
「あたしは前に秋葉原で別の君を見た――今の君とは違う君」
 覚えている、おぼろげでも。あれはとても……とても……幸福な、記憶だった。己の翅に刻み込まれたひとつのうつくしい思い出。満たされたあの一瞬、忘れられるわけがない。
「『王国』に居るのは、どんな気持ちがする?」
 それだけは、たしかなことがひとつ。
『わたしの世界がある』
 わたしと、わたしの好きなものの世界。自分が自分であれる世界。

「全てが君なら、赤い色を溢すことも、崩壊を望むことも、……」
 そう、すべて。全てなのだ。自らが作り上げた以上、この溶けていく世界は。
「それが一番の望み?」
 いちばん。そう、いちばんだけれど。言葉にするなら、少しだけ違うかもしれない。
『いちばんの――願いです』

「……嗚呼、良いよ」
 魔法の解ける鐘を、ベルを贈ろう。十二時ちょうどではないけれど。
 せめてわたし私ぼくおれ全ての君に伝えられる様に。
 ――飛び立つ蝶々がルーシーを襲う。痺れるような鱗粉が舞い上がる。その合間を縫うように……とびきり甘い世界のために、からり、飴玉を口の中で転がすかのように、ルーシーはファルファッラ・ブルへと距離を詰めていく。
 二度と取り替えられずに済む様に。
 蝶々までもが今を以って眠れる様に。

 最後の着地点――あたしもその手伝いをしてあげよう。
 鐘が鳴る。からん、からん。
「ほろ苦いのも、悪くないと思うよ?」
 チョコレートのような一撃を。蹴りつけられたファルファッラ・ブルの腹部、跳ね飛ばされるかのように遠くに転がる体。立て直すも、ダメージは相応。溢れる蝶々の群れがそれを象徴している。

「でもこれ以上はお預けなんだな」
 足元に落ちていた何かの小瓶をからんと蹴って。ルーシーは笑みを溢す。
「結び目を結ぶべき人が居そうな予感があるんだ。だからあくまで、お手伝いなのよ」
 取り替えられても、括り付けることができそうな『何か』を持っている誰かが。

「素敵な終わりになるといいね――|Von voyage《ぼんぼやーじゅ》.」
 よい旅路を。蒼蝶は笑みを返して、頷いた。

クラウス・イーザリー

 それしか止める方法が無いのなら。それでしか|止《や》める気がないのなら。
「……わかったよ」
 友達として、全力で応えるまでだ。
 クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)にとって、蒼蝶は、ファルファッラ・ブルはただの簒奪者ではなくなっていた。本当ならば、本来ならば。信頼や信用を置くことはできない。それでも話の通じる、一匹の蝶々として見れば。
 ――仮初の死だとしても、一緒に逝く相手がいる方が寂しくないだろう?
 そんなことを考えてしまうくらい、クラウスはファルに好感を抱いていた。そのありかたに、不器用な生き方に、うつくしさでも見出したのか。

 構えた魔力兵装、錬成するは剣だ。走り出したクラウス、繰り出された居合で蝶々が散った。追撃として放たれるレーザーが、ファルファッラ・ブルが袖を振るうたびに吐き出す蝶を撃ち落としていく。
 足取りは踊るように、かつんと現実の床を打ち付けて。クラウスへ向け、夥しいまでの蝶が放たれた。手を伸ばす。ファルファッラ・ブルを構成する|インビジブル《蝶々》へと。入れ替わった先の蝶、凍てつくそれが自分に触れた蝶々たちを道連れにする。
 くるり一回転、空を切り裂くように廻る蒼蝶。放出される蝶々を受け止めつつ――微弱ながらも、圧倒的な数で責めてくる|彼《彼女》の戦法を見る。無闇矢鱈などではない。クラウスを殺すために、仕留めるために、蝶々たちを操っている――!

 糸操り人形、吊り下げられるように動くクラウスの体。蝶の傷を上書きする糸による皮膚への傷。斬撃は静かにファルファッラ・ブルのインビジブルを削り取っていく。同様、クラウスの体も徐々に傷ついて。それを見た蒼蝶は。
『たのしいですね』
 それは心からの言葉だろうか。薄ら浮かべる笑みの中、命の取り合いすらも遊戯であるのか、それとも。クラウスとの戦いですら、『それ』は対話のひとつと考えているのだろうか。放たれる権能――『王国』の再構築。クラウスをとらえるために作られた蝶々による蟲籠。対話でもしようというのか、だが無理矢理に――身体が動く。
 己を操り人形として、籠から抜け出して、蒼蝶へと迫り。一閃。
 本気で、全力で戦っているのだ。同じ熱量で応じなければ、覚悟を持たなければならない。

 それが、友達として戦うってことだろう。

 無茶なことだ。捕らえられていた間に僅かな負傷は回復したが、圧倒的なまでの蝶の群れを相手取るには少々手が足りない。ファルファッラ・ブルに言わせれば、手は最初から無いのだから、蝶が足りないとでも言うだろうか。削り取られる、吸い取られる、翅の羽ばたきが肌を切り裂く、抉る。
 止まれない、止まらない。爪を爆ぜさせて、次の攻撃を。鼓膜を破って次の斬撃を。蝶を確かに削ぎ落とす。
 お互い削りあって。それが言葉のない『会話』となる。溢れた吐息が蝶となる――。
 ああ、でも、ひとつ。伝えるとするならば。

「『よいおともだち』じゃなくてもいいよ」
 これが最後の言葉になるとしても、それでいい。
「友達だって言ってくれるだけで、十分だ」
 笑むその唇から吐息が消える。潰した肺ひとつと一撃を天秤に。随分と減った蝶々たちに纏わりつかれながらも、クラウスは言葉を絞り出し――。

『……じゃあ。今日からわたしたちは、わるい、おともだち』
 その言葉を聞いて。そのまま――クラウスはす、と、意識を失った。

ジェイド・ウェル・イオナ・ブロウクン・フラワーワークス

「あんたはさ。『自分を赦してあげよう』って選択肢とか、線引きとかを持てるんだな」
 それは事実だけを述べただけのこと。ジェイド・ウェル・イオナ・ブロウクン・フラワーワークス(笑おうぜ・h07990)と対峙する蒼蝶は、すっかりぼろぼろだ。傷ついた体のあちこちからインビジブルと体液を溢れさせて、それでも立っている。王国の『主』として。

「自分を赦そうって思えるのはあんたの善いとこで、ひとつの強さだと思うぜ」
 それが本当に美徳であるか。美徳だとして、なぜこのようにしか生きられないのか。蒼蝶は、ファルファッラ・ブルは己を省みる。答えの出ない問いだからこそ、この蝶はふらふら舞うだけだ。

「おれは無理だ」
 だって。
「自分が一番自分を赦したくない」
 犯してきた罪の数々を、どうしようもない心を、砕けてしまったあれこれを。背負って。それに対して今更ゆるしを乞うだなんて。けれど蒼蝶、不思議そうだ。

『ゆるしとは、求めて得るものでしょう』
 僅かに笑みを浮かべた|彼《彼女》は、唇を開く。
『ゆるされたくないひとは、それでいい。ゆるしてほしくないなら、それでいい』
 それでもゆるしを求める人が多いからこそ『免罪符』なんてものが生まれたのだ。
 返答を聞いて、ジェイドは自嘲するように小さく息を吐き出した。
「……あんたとおれは違いすぎる。真逆と言っていい」
『真逆?』
「あんたは共生……誰かと一緒に生きたいんだろ」
 共生の権能。誰かと一緒に。ひとりでは生きていけない。だから欲する。欲して、破滅への道を歩む。その生き方は。
「おれは身体中に爆弾埋め込んでる」
 誰かと一緒に死ぬために。――だから、一緒には生きてはいけないのだ。

 握り拳の小指と親指を立てて、ファルファッラ・ブルへと向けてみる。案の定、|彼《彼女》は首を傾げるだけだった。とはいえ意味が伝わる必要はない。これは、|おれ《ジェイド》が|おれ《ジェイド》として死ぬための合図。
 何かしらのジェスチャーであることは理解したらしい……蒼蝶はきょとんとした顔で、ほんの少しだけ。唇が弧を描いた。

「ファル。潰してほしいってんなら。それがおれでいいっていうんなら。全霊で応えるよ」
 歩み寄る足取りは確りと。その応え方がどのようなものか、ファルファッラ・ブルにはまだわかっていない。攻撃行動を取ろうとしてこないのだ。このまま取り殺すこともできるだろう、そうすれば今回は、『おともだち』を作れたという事実と共に、ここを立ち去れるかもしれない――自身のこの負傷では、すぐに息絶えてしまうかもしれないが――それでも。そこまで追いやったのが彼らだという事実があれば、満足だった。

「その前に、抱きしめてもいいか?」
 だから、その提案に目を見開いた。

 抱きしめてやりたいってだけで、いられたらよかったのにな。
 何かある。察したファルファッラ・ブルが蝶を放つも、ジェイドはその群れをかき分ける。目指すものがあるのだ、見逃しはしない、してやらない。
 目前まで迫ったジェイドの姿……染み付いた香りが目を刺激する。蒼蝶は自分自身でも分からぬままに、伸ばされた腕での|抱擁《包容》を受け入れた。
 背に腕を回してしまうのはどうしてなのか。高鳴った鼓動は何だったろう。――押されたスイッチの音を勘違いしただけ。
 抱きしめてくれる人がいる。抱きしめて、受け入れてくれる人がいる。抱きとめてくれる人が。そんなひとに囲まれる人生をおくりたかった、と、思う。こどもの頃はどうだったかな、おとなになってしまったわたしは、どうしてこんなに。こどものように。
 わたしは夢を見たくて仕方がない。しあわせで穏やかな夢を。
 おれは夢も見たくねーけど。眠る前に見るのがあんたの姿なら。

 ――どうか、どうか、善い夢を。
「おやすみ」

 閃光と土煙が周囲を包む。爆発音が鼓膜を破らんばかりに響く。蝶の一匹すら余さず包み込むそれ。展翅すら許さぬ破壊だった。

 室内はすっかりと幻想が剥がれ落ち、現実だけがそこにある。夢もへったくれもない、ただ、目前に見えるは廃墟の中、爆風によって散ったクヴァリフの仔やら、死体やら、息の根がある狂信者やら。
 ひらり、散った何かが床へと落ちる。蝶の翅に良く似た、白い壁紙の切れ端だった。

挿絵申請あり!

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挿絵イラスト