やつが、くる
●水面に輝く
とある崖下に掘られた洞窟。
海に直接続くその中に、ひっそりと社が佇む。
キラキラと光を反射し輝く水面の傍には、大柄な男と細身の女が立っていた。
男が水面に反射する自身の姿を覗き込む。
「おお、これがそなたの言っていた輝きか!」
「そうさ。どうだい、キレイなもんだろ?」
「うむ、確かに。おかげで我の髪も綺麗になっておるわ」
男は自身の髪の輝きを水面越しに眺めては、しきりに感嘆の声を上げる。
普段よりも艶と輝きの増した髪にご満悦の様子。
「これで一層うまくなると言うものよ」
「アタシにはその辺わかんないけどさー、アンタの希望通りになってるといいね!」
うふふ、あはは。
洞窟内に響く笑い声は、光を受けて輝く波に掻き消されて外へと漏れることはなかった。
●星詠み
「おめめいたいぃ……」
集まった√能力者達が見たのは、小さい手で両目を覆った星詠み――カプラ・ステッ ラ・アルピーナ(宝の番人・h08937)の姿だった。
普段は感情に合わせてピコピコ元気に動いている耳は、今はぺたんと力無く垂れている。
覇気もなく、すんすん鼻を鳴らす姿はどこか哀愁が漂う。
可哀想ではあるものの、話してくれなければ行動に移せない。
集まったうちの一人が声をかけると……。
「あのね、うねうねがぴかぴかでうわーって来るの」
語彙力の無さは健在だった。
相変わらず、何を伝えたいのかさっぱりわからない。
集まった√能力者達が根気強く聞き出した話はこうだ。
とある沿岸部の町に異変が起こっている。
人が、消えるのだ。特に消える理由のない人たちが、忽然と。
時間帯は真昼間。白昼堂々の犯行かと町人たちが捜索したが、行方は要として知れず。
わかっているのは、女性が多いこと。おそらく消えただろうと目される場所付近に、なにやら虹色に発光する液体が残されていることのみ。
そう頻度は高くないが、徐々に被害が拡大している。
「それでね、お星さまがね、うねうねぴかぴかしてるのがうわーってみんなをつれて行ってるって教えてくれたの」
だから何なんだそのうねうねは。
「うねうねはうねうねなの! ボク、あんな生きものはじめて!」
残念ながらカプラの知識に『うねうね』に繋がる情報は無かった。
彼はなおも続ける。
「うねうねの行き先にね、わるい人がいるんだよ! その人もね、ぴかぴかうねうねなの!」
情報が余計に混乱してきたぞ、と一同の心が一つになった。
「あとね、ぴかぴかでうわーって人もいるんだよ」
待て、まだ情報が増えるのか。
最早ぴかぴかとうねうねしか情報がない。
「ふたりがね、わるいことしてるって! だからメッてしてきてね!」
調子が戻ってきたらしいカプラに手を振られ、√能力者たちは件の町へと向かうのだった。
第1章 冒険 『ゲーミングダコ』
アハハハ、キャハハ。
真昼間の町の片隅。もう人の住んでいない古民家の庭先。
学校をサボった女子生徒たちが陽気な笑い声を上げて屯している。
最近この町の至るところで人が失踪しているらしい。だが、そんなことは気にしないとばかりに彼女たちは遊び歩く。
ふと、女子生徒の一人が何かに気づいたように声を上げた。
「ねー、なんか見えない?」
「なーにー?」
声を上げた女子生徒の視線の先を、他の子たちも見遣る。
しかし、特に何も見えないけど、と首を傾げた時だ。
――ドサリ
彼女たちの後ろで、何か重いものが落下する音が聞こえた。
あたり一面に鮮やかな光が満ちる。
恐る恐る振り返った彼女たちが目にしたものは……。
成人男性ほどはあろうかというデカいタコ。
それも、ゲーミング発光していて目に優しくない。
「っ!!?」
「なになになにキモイんだけど!?」
あまりのインパクトにパニックになった彼女たちが、慌ててその場を離れようとするのと同時に。
巨大タコの漏斗から、ゲーミング発光タコ墨が勢いよく発射された。
「ああ……なるほど、確かにうねうねでぴかぴかですね……」
エレノール・ムーンレイカー(蒼月の|守護者《ガーディアン》・h05517)は唖然とした。
目の前には|ゲーミング発光《約1680万色》するデカいタコ。
その奥にはゲーミング発光タコ墨をかけられ、ぴかぴか眩しく輝く制服姿の少女たち。
その奥では、ゲーミング発光ダコ墨を浴びせられ、制服姿の少女たちがぴかぴかと眩しく輝きながら悲鳴を上げている。
視覚と聴覚を同時に殴られ、早速頭痛がしてきた。
「今までの経験からやな予感はしていたのですが、また増えたんですか、ゲーミング生物……」
ボラ、イカ、大根。次はタコ。エレノールはとうとう頭を抱えた。
着実に、ゲーミング発光する生物が増えている。
「……っは! となると、今までのパターン的に、美味しい可能性もありますね……?」
思い出されるのは、これまで討伐したゲーミング生物の味。
その瞬間、胃袋が切ない音を立てた。
少女たちには申し訳ないが、美味しい可能性に気付いた以上、思考はもう|そのこと《食べること》しか考えられない。
「よし、とりあえず張り切って駆除しましょう!」
そう意識を向けた瞬間、ゲーミングダコ側の野生の勘が働いた。
触腕を引っ込め、全力で逃走を開始する。
改造生物であるが、タコはタコ。
敵が現れれば逃げる。それがタコの生存戦略だ。
しかし元は海洋生物。動きはとても遅い。
「これは、逃げようとしているのでしょうか……?」
あまりの鈍足に、エレノールも困惑する。
当タコたちにとってはこれでも全力。
エレノールはそっと|霊身招来《コール・デュプリケート》を発動した。
十二体の分身が展開し、逃走経路を封鎖する。
火属性の刃を錬成した賢帝の剣を持った分身が、ゲーミングダコの一体へと斬りかかる。
刃が触腕を捉え、ストンと子気味良い感触を手に伝えながら切り落とした。
切断面からは香ばしい良い匂いが漂ってくる。
これに慄いたのはゲーミングダコたちだ。
仲間の足が切り落とされた。次は自分かと戦慄する。
ブシャァ!!
慄いたゲーミングダコたちが、分身に向かってゲーミング発光タコ墨をぶっかけた。
おかげで分身たちはもれなくゲーミング発光タコ墨を全身に浴びる事となった。
12人分のゲーミング発光物体が爆誕したこの場はもはや地獄絵図を通り越してカオスとしか言い様がない。
辺り一帯が強烈なゲーミング発光の光に包まれた。
その隙に、何体かのゲーミングダコたちが逃走する。
なんとか視界を確保した分身が斬り掛かるも、倒せたのは一体だけ。
「|他の個体《美味しい食材》は逃してしまいましたか……!」
とうとうゲーミングダコを食材認定しだしたエレノールは、わりと本気で悔しがった。
けれどまあ、襲われていた少女たちは無事であるし、一体とはいえゲーミングダコも倒した。
あとは地面に筋を描いているゲーミング発光する粘液を辿って行けば逃げたタコたちを追いかけられるだろう。
少女たちを帰し、エレノールは切り身にしたゲーミングダコを味わいながら、残党を追うのだった。
余談だが、ゲーミングダコは予想以上にジューシーで美味しかったという。
人口減少により廃れた様相を見せる沿岸部の町。その中心街から外れた場所は、さらに人気がなくシンと静まりかえっている。
そんな町外れを何やら独り言を呟きながら歩く青年が一人。
「自然界には光る動物って結構多いよね。海洋の軟体動物だとホタルイカが思い浮かぶかな」
ホタルイカとは日本海を中心に生息する深海性の小型イカである。その胴長は雄4cm、雌6cm、重さ10gと小さい。コイカ、あるいはマツイカと呼ばれることもある。
暗闇では神秘的な青い光で発光することが多い。ホタルイカで有名な富山湾滑川近くの浜では、毎年3月~5月頃になると“ホタルイカの身投げ”と呼ばれる現象がしばしば見られる。普段は沖合の深海にすむホタルイカが、産卵のために浅瀬の海面近くまで浮上し、浜に打ち上げられて発光する壮観な光景だ。
ホタルイカの発光は発光物質のルシフェリンに発光酵素のルシフェラーゼが作用することで起こる。ちなみに、この光は熱をもたないため「冷光」と呼ばれている。
青年——|黄昏・剱《たそかれ・つるぎ》(鋼焔の後継・h09087)は、手に持ったスマホの画面にスイスイと指を滑らせる。表示されているのは某無料百科事典のホタルイカに関するページだ。
「ホタルイカが光るのは、外敵に対する威嚇・幻惑・仲間とのコミュニケーション・餌寄せのためなどとされている……らしいね」
某無料百科事典の説明を一通り読んだ劔が「あれ?」と首を傾げる。
「……今回の事件にまぁまぁ当てはまってるな」
件のゲーミングダコは、被害者(餌)を幻惑して、おびき寄せる効果が実はあったりするんだろうか……?
劔はそう思案するが、そもそもこのゲーミングダコはとある|ゲーミング怪人《愉快犯》が己の愉悦のために面白がって改造を施した生物。なので魅惑だとかその辺はまったく関係がなかったりする。
「これが自然界の収斂進化……? そんなわけないか。たぶん」
先述した通り今回のゲーミングダコは改造の末に生まれたゲーミング発光生物であり、自然発生したわけではないので安心(?)してほしい。
……こんな生物が自然界に解き放たれているのもちょっと問題ではあるが。
そんなことを一人呟きながらちょっとした林のような場所を通りがかった時だ。
視界の端になにやら違和感を覚えた。自然界にはおおよそ存在しないもの。それを、劔の金の瞳が捉えた。
林の奥で何かが光っている。それも単色ではなく、いくつかの色へと順番に切り替わっているようだ。同時に草木を分けるガサガサとした音も彼の耳へと届く。
劔が林の奥を注視していると、その光はどんどんと光量を強め……。
やがて現れたのはゲーミングに発光する成人男性くらいの大きさはあろうかという巨大タコだった。
急(?)な遭遇に劔もゲーミングダコも一瞬動きを止める。
これが星詠みの言っていたうねうねぴかぴかの正体であり、被害者たちを誘拐していた存在である。
その大きさに驚いたのはもちろんだが、何より一番驚いたのは視覚へのダメージだ。思った以上にゲーミング発光。会敵してまだ数秒だというのにあまりの発光ぶりに既に眼底の辺り、視神経がシクシクとわずかに痛みを訴え始めている。これは間違いなく、ずっと眺めていてはいけないやつだ。主に視神経と精神のために。
さて、最初に我に返って行動に移したのは、ゲーミングダコだった。
なにせゲーミング発光と巨大化という改造は施されているが、そもそも野生生物。危険への本能は人間よりも圧倒的に高い。
そんなゲーミングダコの野生の勘が、銅鑼を乱打するかの如く盛大に音を立て警告しているのだ。
——こいつは危険。逃げなくては|ヤられる《食われる》……!!
とかゲーミングダコが思ったかは不明だが、タコは全力で逃げ出した。ズリズリと重い音を立てながら、本タコにとっては最大限の全力で。
しかし悲しいかな、本来海洋生物であるタコの陸上での動きは緩慢。本タコにとってはとっても残念だが、劔が慌てて追いかけなくても追いつけるくらいには遅い。
劔がそっと√能力を発動した。
|鋼焔の鬼神《アーキタイプ》。
劔が戦闘時に最も多用する能力である。彼の身体が鋼の外骨格に覆われ、まるで武者鎧をまとったかのような姿へと変貌する。
その手には炎を纏う両刃の大剣が握られ、音もなく静かに炎が揺らめいていた。
劔が構えた大剣を手に数歩踏み出し、大きく振りかぶる。
「あんまり食べたくは無いかもね」
そう言って、大剣が振り下ろされる。若干、いやかなり、棒読みだったが。
|捕食の溶断剣《メルト・オーガ・ブレイド》により、ストンと切り落とされたゲーミングダコの足。
劔の手には程よい弾力の後にスッと切れる感触が伝わってきた。これはジューシーで美味しそうな予感。
「この能力選択に深い意味はないよ。本当さ」
にこり。
笑顔がどうにも胡散臭さを感じる。能力の名前的にも、その性質的にも、追加の効果を考えると全く深い意味はないと言われてもつい疑ってしまうのは仕方ない。
ここに、|ゲーミング生物の味《美食》を覚えた√能力者がまた一人増える。かもしれない。
足を切り落とされたゲーミングダコにしてみれば堪ったものではなかった。
いよいよ捕食者の気配が色濃くなった劔にもはや戦慄し、プルプル震えている。
にじり寄ってくる劔に、じりじりと後退していく。
しかし移動速度の差から逃げられないと観念したゲーミングダコは。
ブッシャアアアァァァ!!
漏斗から勢いよくゲーミング発光タコ墨を噴射した。
プルプル震えていたタコの思わぬ反撃。
劔は咄嗟に大剣を盾にして身を隠そうとしたが、残念ながら発射された大量のゲーミング発光タコ墨は頭上の広範囲から彼に降り注いだ。
結果。
ゲーミング発光タコ墨により己もゲーミング発光√能力者へと変貌した劔の誕生である。
一応言っておくと、このゲーミング発光タコ墨は時間経過とともに自然分解されるという実に意味不明な配慮がされているためその内ゲーミング発光は解消される。はず。
なにせ発見されたばかりのためその辺りは検証がされておらず、どれだけの時間経過で発光しなくなるのかは不明。
「うっ、ゲーミングタコは強敵かも。ダメージを受けちゃった」
劔の棒読みセリフは続く。
物理的ダメージこそないものの、多分精神的なダメージはいくらか受けているのではないだろうか。
幸いタコ墨による目潰しはされなかったが、今度は別の意味で目潰しされてしまいそうだ。
「回復しなきゃ。これは正当な行為なんだ」
地に落ちていた切り落とされたゲーミングダコの触腕。
劔がそれをむんずと掴んだかと思うと、そのまま齧った。
もぐもぐと咀嚼してから呑み込んで、一言。
「美味しいなコイツ」
ゲーミングダコの末路が決まった瞬間であった。
あとはもう言わずもがな。
劔の大剣によってあっけなく切り刻まれたゲーミングダコは、彼の胃袋に収まるのだった。
バサ、と音を立てて力強く羽ばたく鳥が一羽。
蒼天を頭上に戴き飛翔するのは、翼を含めると優に2mを上回る大型の猛禽類——ハクトウワシだ。
褐色の体に文字通り白い頭が特徴のこの大型のワシは、北アメリカ大陸を原産地とし、アメリカ合衆国だけでなくアラスカやカナダにも広く分布する。日本には国後島や北海道東部でごく稀に迷い鳥として飛来することもある。
また、日本では特定動物に指定されており、愛玩目的の飼養は許可されない。もちろん今このハクトウワシが飛翔している地は北海道ではなく、ごくごく一般的な沿岸の町である。
ではどこか動物園から逃げ出したのか。
そんなことは無く。
このハクトウワシは√能力者——エドワード・エルディス・シートン(天空の王者・h06998)、その人である。
シートン家の長男にして、“呪い”によりハクトウワシの姿にもなれることから、上空から今回の誘拐事件の実行犯(?)たるゲーミングダコを捜索している途中だった。
「鳥類は空を飛ぶ性質上、太陽を直接見ることがありますから太陽光は平気ですが、ゲーミング云々だと話が違ってきそうな気がします」
ひとつ溜め息をついたエドワードの顔には、ハクトウワシには少々不似合いなサングラスが装着されていた。
恐らく、きっと、その判断は正しかったことだろう。ゲーミング生物を直視したほとんどの人が眼精疲労を訴えるレベルの発光ぶりなので。
ハクトウワシの視力は人間の約8倍あると言われている。人間の視力で眼精疲労を訴えるレベルなら、ハクトウワシの視力で|そんなもの《ゲーミング発光》を見た日にはどうなってしまうやら。
「ここ最近ですかね? ゲーミングが増えたのは」
最近ちょくちょくと、色々な星詠みがゲーミング生物のゾディアック・サインを詠んでいると言われている。彼とほぼ同時に、彼の母親も別のゲーミング生物が出ると言われ仕事に行ったくらいだ。その前にはゲーミング発光する大根なんて存在も確認されている。
「ゲーミングパソコンは聞いたことがありますが、生物までゲーミング発光するのは、嫌がらせレベルなんじゃないかと思いますね。ゲーミング生物って、人為的なんじゃないかと思います……」
彼がそう思うのもわからなくはない。
何度も繰り返すが、ゲーミング生物はとにかく視神経と精神に多大な疲労を与えてくるのだ。対峙する側からしてみれば嫌がらせにしか思えない。
他にも色々と、自然や種の保存的な面でも大変に問題のある生物たちなのでどうにかしなければいけないだろう。
そんなわけで、彼はこの事件解決のために訪れたというわけだ。
「人間サイズのタコということですし、探すのはそう苦労しないでしょう」
目撃情報……は難しいかもしれないが、どうやらゲーミング発光する粘液という非常にわかりやすい痕跡があるのだとか。ならば人間より遥かに優れた視力の彼ならばゲーミングダコを見つけることは造作もないだろう。
しばらく飛翔していたエドワードの視界の隅に、それは映った。
ゲーミング発光しながら動く何か……いや、ゲーミングダコだ。
触腕を動かしノロノロと移動するタコは、ちょっとした林を抜けて海の方へと向かっている。
エドワードはスッと翼をたたみ、高度を落とした。風の抵抗を最小限に、重力に従って急降下していく。
ゲーミングダコを己の攻撃の射程圏内に捉えた彼は、その頭上で人の姿へと変わった。
そのまま落下する彼の手には太陽の光を反射するメスが握られている。
「タコは目の間が弱点と言う話がありましたからね。そこを狙わせていただきます」
落下の勢いのまま、獣医でもある彼の手は寸分の狂いもなく怪異解剖執刀術でゲーミングダコの眉間を切り裂く。
頭上から突然現れた人間に、ゲーミングダコは抵抗する間もなく倒れた。
「普通の生物と急所は変わらないようですね」
あくまでデカくて光るだけの一般生物なので大した戦闘能力は備えていない。そのため√能力者ならば手こずることもなく倒せる相手だ。一般生物の定義については考えてはいけない。
また、このゲーミングダコたちは一応、仮にも、一般生物のため危機管理能力に長けている。
だからなのか、まだ林の奥に潜んでいたゲーミングダコが恐る恐るといった体でエドワードを迂回しようと踵を返したのは。
「おや、まだいますか」
当然、エドワードがそんなゲーミングダコを見逃すはずはなく。
「人を襲う動物は駆除される運命です」
にこり。
今度はスナイパーライフルを構えた彼が、傍から見れば優しい笑みを浮かべる。しかしその目は笑っていない。
既に被害が出ている以上は見過ごせるわけもなく、エドワードはトンと地面を蹴って跳躍する。
ライフルを構えたまま、木の幹を蹴りさらに跳躍をしながら林の奥にいたゲーミングダコへと迫る。
ゲーミングダコも己の命の危機に警鐘が鳴り響くのに任せて、手当たり次第に漏斗からゲーミング発光タコ墨を噴射する。
しかし元々陸上での動きが極端に遅いタコ。そのため素早く木々を伝い迫るエドワードを捉えられず、全ての攻撃が空振りに終わる。
……ゲーミング発光タコ墨がかかった木々が鮮やか(?)にゲーミング発光しているのは見なかったことにしたい。
「さすがにアレをかぶるのは遠慮したいですね」
ゲーミング発光√能力者になったら、帰宅した時に家族に何と言われるやら。あと、普通に視覚の暴力と精神的な何かを削られるに違いない。
ゲーミングダコの動きは遅いものの、広範囲にまき散らされるゲーミング発光タコ墨が少々厄介だ。
「しかたありません」
エドワードは素早くゲーミングダコの死角に着地する。そのまま長距離狩猟の体勢をとり、ハンティングチェイスを発動する。
途端に彼の気配は掻き消え、肉眼以外での探知を無効化する。
これには先程まで手当たり次第にゲーミング発光タコ墨をまき散らしていたゲーミングダコも慌てた。
先程まで感じていた捕食者の気配が消え、見つけることができない。しかし野生の勘は依然警鐘を鳴らし続けている。
きょろきょろと周囲を見渡すゲーミングダコに、エドワードがゆっくりと静かに、しかし確実に距離を詰めていく。
あともう少し、もう数歩も近付けばゲーミングダコの足を切り落とせる距離まで近づいた。
その時だ。ゲーミングダコが後方——エドワードの方を振り向いた。
何かを感知したわけではない。ただ周囲を見渡すために振り返っただけだったが、ゲーミングダコの視界がエドワードを捉えた。
ゲーミングダコは、エドワードがこれほどまでに距離を詰めているとは思わず飛び上がった。たいして高さは出なかったが、気分的に。
そして、思わず触腕を振り回した。
途端にエドワードのオートキラーが発動する。
触腕が当たるよりも前に取り出したメスが素早く振られ、ゲーミングダコの触腕を切り落とした。
彼はそのまま踏み込み、触腕を切り落とされたことで動揺し、動きの止まっているゲーミングダコへと攻撃を仕掛ける。
ゲーミングダコの方もなんとか逃げようと体を動かそうとするも、やはり陸上では人間の動きについていくのは難しく。呆気なく他の触腕も切り落とされ、体を小さくされていった。切り落とされた触腕が、ちょうど調理しやすそうな大きさなのはきっと気のせいだろう。そう思いたい。
ゲーミングダコは、最終的に胴体も綺麗にバラバラにされたのは言うまでもない。
「しかし、発光するタコって、食べて大丈夫なんですかね??」
その後バラバラにされたゲーミングダコを袋に詰めているエドワードの姿があったとか、なかったとか。
一応ジューシーだとのことなので、食べても大丈夫。多分、きっと。
第2章 ボス戦 『お前のもみあげをそうめんにして食べる明王』
●痕跡
√能力者たちに美味しく食べられたゲーミングダコ。
彼ら(?)が現れた方向を見れば、地面あるいは木々にベッタリと付着したゲーミング発光粘液。
ギラギラと約1860万色に輝くその粘液は、日中の林の中にあって多大な存在感を放っている。
たしかに、これならば星詠みが言っていた通り、足跡を辿るのは容易だ。
というか、この粘液はいつまでゲーミング発光するのだろう。とてつもなく眩しいのだが。
いつまでもゲーミング発光するのは地域住民にとっても非常にいい迷惑だろう。
一応、ゲーミング発光タコ墨は自然分解されるらしいが、はたしてこの粘液も同様なのかは今現在不明。
√能力者が被ったのがタコ墨の方で良かったと思わなくもない。
閑話休題。
粘液が続く方角。
それはこの町の端、海岸へと続いている。
すっかり人口の減った町。しかも漁港とは真逆の海岸。
それならば普段から人足が無いのは当然で、事件の黒幕が潜伏場所として選ぶのも納得できる。
各所でゲーミングダコ討伐に当たっていた√能力者たちは、地面に残された足跡を辿る。
やがてたどりついたのは、崖下に掘られた洞窟。
その内部にひっそりと立てられた社だった。
●時は遡りて
√能力者たちが地面に残された足跡を辿る頃。
崖下の洞窟内、社の前にて。
「うーむ、次なる美食はまだか」
「まあまあ、そう焦りなさんなって。短気は損気とか、急がば回れとか、そういう諺もあるじゃん?」
「それもそうか。我が欲する美食に値する髪の持ち主はそうそう見つからぬというわけだな!」
「きっとそうさ! でもその分とびきり美味しいのを見つけてくるかもよ!」
社の前で大男——『お前のもみあげをそうめんにして食べる明王』、略してもみあげ明王がそわそわしている。
そんな彼を、細身の人物が宥めていた。
このもみあげ明王は、その名のとおり相手のもみあげを刈り取って食するという奇妙な簒奪者である。
しかも美しい髪であればあるほど美味しいらしく、自分好みの味のもみあげを求めて今回の事件を起こしたという経緯がある。
もっというなら、そのおこぼれに預かろうと別の簒奪者が話を持ち掛け。美味しいもみあげが食べられるならとその提案を受け入れたのだ。
結果。
このとんでもなく迷惑な事件が起こることとなった。
そんなもみあげ明王はというと。
手を組んだ別の簒奪者の口車に乗せられてまんまとその髪をゲーミング発光させられている。
とはいえ、本人はピカピカを通り越して最早ギラギラと視神経に多大なるダメージを与えそうな|ゲーミング発光《約1680万色》ヘアーをちょっと気に入っている様子。
今も自身の耳上から垂れるゲーミング発光もみあげをチラッと見ては満足そうにしている。
「ん~、アタシちょっと外の空気吸ってこよ~」
「ははは、其方も実は獲物が来るのが待ち遠しいか。よいよい、疾く行ってこい」
「ありがと~!」
突然の協力者の言葉にも、もみあげ明王は鷹揚に笑っている。
元々気紛れな性質のある協力者だ。特にその言葉を疑うでもなく送り出した。
(いやー、抜け出せてよかった。なぁーんか嫌な予感するんだよねっ!)
洞窟から出た協力者は、そそくさとその場を離れた。己の直感を信じ、崖上から続く階段があるのとは逆の方へ進む。
岩が突き出し足場は非常に悪いが、こちらからでも崖上へ登れないことは無いのだ。
そんな足場の悪い崖を、協力者はヒィヒィ言いながら登っていく。
協力者が崖を登るのと時を同じくして。
地面に残されたゲーミング発光粘液を辿ってきた√能力者たちが、洞窟内へと足を踏み入れるのだった。
「奴が来た、やーつが来ーたー、どこーにー来たァ……」
崖に刻まれた階段を、不思議な節をつけて歌いながら降りてくるのは、白い長髪を潮風に靡かせた男性だ。春によく耳にする童謡に、どことなく似ている気がしないでもない。
ゲーミングダコを食べて満足げな様子の男性――ウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)は、階段に付着したゲーミング発光粘液を辿りながら進み、ほどなくして崖下へと到達した。
周囲を見渡せば、少し先に洞窟らしき入口が見える。ゲーミング発光粘液は、まるで導くかのようにその中へと続いていた。
「あそこが黒幕の居場所ってわけかァ」
洞窟内にいるのなら好都合だ。逃げ場は限られている。
にやりと口角を上げ、ウィズは洞窟へ足を踏み入れた。
「……サングラス付けていて大正解だと思うぜ」
洞窟の奥には、ゲーミング発光する髪を持つ大男が仁王立ちしていた。その手には、同じくゲーミング発光する髪のようなものが盛られた器がある。
ピカピカを通り越し、もはやギラギラと形容するしかないその光量に、ウィズは思わずげんなりと息を吐いた。
これまで幾度となくゲーミング発光生物絡みの事件に遭遇してきたが、ここまで発光している相手が居ただろうか。いや、居ない。
しかもそれが大男と合わさるとなると、視覚的な圧が凄まじい。
おまけにだ。
「あいつ、マジで眩しさすら感じて無ェな……」
そう。この大男――お前のもみあげをそうめんにして食べる明王、略してもみあげ明王は、自身が約1680万色に輝いているにも関わらず、まったく眩しそうにしていなかった。それどころか、どこか誇らしげですらある。
大抵の人はこの約1680万色に視覚をやられ、視神経の多大なる疲労、あるいは視神経由来の頭痛に見舞われてもおかしくないというのに。
「何だ此奴……」
背後から、別の唖然とした声が上がった。
振り返ると、そこには金髪碧眼の青年――エドワード・エルディス・シートン(天空の王者・h06998)が立っている。発光にやられたのか、眉間を揉んでいた。
「もしかして、本来の思惑とは違う場所に来てしまったのか……? 本当の犯人はどこだ」
こんなふざけた存在が犯人であってほしくない。そんな心境が滲んでいる。
だが残念ながら、もみあげ明王はれっきとした誘拐犯の一人だった。
「あー……そこの大男。少し聞きたいことがあるのですが」
「む? 蛸共が間違えて男を連れて来たかと思ったが。我に用のある者共か」
――確定だ。
二人は同時に悟り、同時に悟りたくなかったとも思った。
「やっぱ犯人かよ」
「でも、ゲーミング発光といい姿といい、違和感がありますね」
「だよなァ」
他に共犯者がいる。そう考えるのが自然だ。
そしてその推測は正しかった。ただし、共犯者は既に逃げた後だが。
「|其方《そなた》ら、何をこそこそ話しておる」
「なんでもねェよ」
「すいません、ゲーミング発光するタコを嗾けた方を知ってますか?」
もみあげ明王は鷹揚に頷く。
「七色のが創りし眷属よ。我と七色の利害が一致した故、女人を連れて来させていた」
(『七色』が協力者か)
(どうやらそうみてェだな)
というか七色のって、まさかとは思うがそいつもゲーミング発光しているというのか。
最初から最後までゲーミング発光の予感しかしない事実に、二人は内心で若干慄いた。
「我が名は、お前のもみあげをそうめんにして食べる明王。もみあげ明王と呼ばれておる。
我はその名の通り、もみあげを主食にしておるのだがな。やはり食べるのなら美味いもみあげを食べたいというもの。そうなると、やはり女人のもみあげの方が美味い」
「もみあげ? 何をいっているのだ?」
エドワードが頭を抱えた。
ちょっと、何を言っているのか理解できない。
「……髪を喰うのですか?? ……美味しくないと思います」
「……髪って不味くね?? ……地味に自分のもみあげもむしり終わってる感あンの徹底してるよな……」
二人から、真っ当なツッコミが入った。さもありなん。
しかしその言葉に、もみあげ明王は不満げに鼻を鳴らす。
「なにを言う、美味いではないか。
まずは香りだ。丁寧に洗われた髪に宿るほのかなシャンプーの残り香。ふわりと鼻腔を擽るその香りは我の食欲を呼び起こす。
次に食感。一口噛めばきしりと微かに鳴る、そのコシと張り。あの歯触りがいい。
そして味。若い者の髪は瑞々しく、微かに甘い。年を重ねた者の髪は、深みがある。苦味と渋み、それがまた酒に合うというものよ。
染めた髪? ああ、あれは香辛料だ。刺激が強くてな、舌の痺れる味が癖になる」
髪に対する食レポ(?)をしないでほしい。知りたくない、そんな感想。というか、もしかしてそのゲーミング発光する髪は彼にとって香辛料扱いだったのか。
ウィズとエドワードの心が一致した瞬間だった。
とんでもない敵に遭遇してしまったと今度こそ戦慄する二人に、もみあげ明王は「だというのに……」と言葉をこぼす。
「だが、連れて来られた女人の髪は手入れが足りぬ。おまけに次は男か……」
もみあげ明王はちらりと二人の髪を見て、露骨に肩を落とす。
二人は、自分たちが髪に無頓着でよかったと心底思った。
「もみあげが主食とか、どう考えても偏食家ですね、あなた」
「我はそのように生まれただけで別に偏食家ではないぞ。それに、女人の髪が美味いというだけで男の髪も食べられる」
せめてもっと違うものを主食にしてほしいと思いながら言ったエドワードの言葉に、すかさずもみあげ明王が反論する。
そしてその中に聞き捨てならないセリフが出てきて、エドワードだけでなくウィズも目を見開いた。
まさかの自分たちも対象か!
「これは、早急に倒す必要がありますね」
「同感だァ」
二人は得物を構えた。
「受けて立とうではないか!」
刈り取られたもみあげが蠢き、大男の腕へと絡みつく。
次の瞬間、もみあげ明王は巨体に似合わぬ速さで地を蹴った。
「攻撃の動きが読めれば、先に腕を落とすことが出来ます」
振り下ろされた腕をエドワードが見切り、躱す。
直後、閃いたメスが腕を狙った。
「間合いを見誤ったな!」
「……っ!」
伸びたもみあげが刃となり掠める。血が滲むが、怯みは一瞬だった。
切り返しの一撃が、もみあげを断ち切る。
「我のもみあげー!」
もみあげ明王から野太い悲鳴が上がる。
あのもみあげはおそらく被害者のもの。別に彼のもみあげが切り落とされたわけでもないというのに。
三度目の、メスの閃き。
怪異解剖執刀術が、もみあげ明王の右腕を切断した。
「ぐぬぬ、さすが√能力者……!」
「俺を忘れちゃァいけねェぜ!」
片腕を切り落とされたもみあげ明王に、ウィズの声と共に刻爪刃が不可視のまま襲いかかる。
焼かれ、裂かれ、もみあげ明王は怒りに顔を歪めた。
「ぬぅ、我のもみあげを切り刻みおって!」
「いや、だからお前のもみあげじゃないだろ」
いったいどっちが突っ込んだのやら。
「こうなれば貴様のもみあげを刈り取ってくれるわ!」
素早くウィズへと迫ったもみあげ明王の残ったもみあげが、急速に伸び、増毛していく。
「いったいどういう原理してんだァ!?」
伸びるまでは理解できるが、なぜ増えた。
流石にこれにはウィズも驚愕の叫びをあげている。
「喰らうがいい! |人類《かみ》の怒りのもみあげを!」
人間を仲間とカウントするんじゃない。
この場に第三者が居たらそんなツッコミを入れただろう√能力の名称を叫び、もみあげ明王の攻撃が炸裂する。
増殖したもみあげが、複数本の束になり高速回転しながらウィズに迫ったのだ。
その攻撃を、ウィズはひらりと躱していく。
ドリル状になったもみあげが地面に突き刺さっているのは見なかったことにする。
見たらきっと精神衛生上よくないと思うので。
その背後へ、エドワードが回り込む。
「……わたくしのことも、忘れてもらっては困ります」
前方のウィズと後方のエドワードからの攻撃を防ぎきることは難しく。
「ぐわあああああ!」
もみあげ明王は、二人の攻撃を受けるのだった。
ゲーミング発光粘液を辿り、新たな√能力者たちが洞窟へと足を踏み入れる。
「次の戦場は洞窟か」
そう言って先に足を踏み入れたゲーミング発光√能力者、もとい|黄昏・剱《たそかれ・つるぎ》(鋼焔の後継・h09087)は、眼前の光景に硬直した。
右手を切り落とされつつも、髪をゲーミング発光させた大男が仁王立ちしている。
先程倒したゲーミングダコの比じゃない衝撃と視覚の暴力だ。
「どうされましたか? ……??」
固まった剱に心配そうな声をかけ、彼の後ろから洞窟の中を覗き込んだエレノール・ムーンレイカー(蒼月の守護者ガーディアン・h05517)もまた、絶句した。
あまりにも人の理解の範疇を超えた光景を目の当たりにしてしまい、彼女の表情は宇宙背景を背負った猫ちゃんのそれである。
「む、次の√能力者というわけか。おお、今度は美味そうな髪の女人もおるではないか」
新たな√能力者の登場に、もみあげ明王こと、お前のもみあげをそうめんにして食べる明王が反応する。
胸部と背に深い裂傷、それ以外にも細かい傷がついているが、もみあげ明王はいまだ自身の両足でしっかりと地を踏みしめている。
そのガタイに反することなくタフネスなのだろう。
「はっ、いけません、いけません」
いち早く我に返ったエレノールが頭を振る。さすが、幾つものゲーミング発光生物絡みの事件に参加しているだけのことはある。
そんな彼女をフリーズさせるほどのインパクトのゲーミング発光もみあげ明王、恐るべし。
「ええと……あなたは……?」
確実にゲーミングダコと関りがあるのだろうが、一応確認は必要だ。
多分に困惑を含んだエレノールの言葉に、もみあげ明王は鷹揚に応える。
「うむ、我は『お前のもみあげをそうめんにして食べる明王』である。他の者からは、もみあげ明王と呼ばれるな」
「お前のもみあげを……」
「そうめんにして食べる明王……?」
もみあげ明王の名乗りに、剱とエレノールの困惑する声が続く。
気持ちはわからなくもない。
もみあげを食べるだけでもインパクトが強すぎるのに、なぜそうめんにするのか。
「理解が、理解が追いつきません……」
「ううん……ちょっと、声に出して読みたくない日本語だね」
多分こいつの存在は理解しようとしても困難を極めるだけではないだろうか。あと何かの深淵を見てしまいそうな感じがする。
それと、普通に名前が長い。本人は名前を省略されることには特に何も思っていなさそうなので、今後はもみあげ明王と呼んであげるといいのではないだろうか。
閑話休題。
エレノールはそっと目を閉じ、一つ深呼吸をした。
如何にふざけた存在であろうと相手は簒奪者。油断していては足元を掬われかねない。
彼女の隣では、剱が周囲へと素早く視線を走らせていた。
(もみあげ明王、結構体格は良さそうだし、変身するスペースはありそうかな?)
さりげなく洞窟内の広さも確認するが、ある程度の広さはありそうだ。
これなら剱の√能力でも十分に力を振るうことができるだろう。
エレノールが目を開ける。
気持ちを切り替えた彼女の目には、先程までの混乱は見受けられない。
「あなたが、今回の事件を引き起こした簒奪者ですね?」
彼女はもみあげ明王に問うが、その声色は確信に満ちている。
「しかり。女人を攫うよう蛸共に指示をしていたのは我らだ」
「我ら……?」
「え、こんなのがもう一人いる……?」
もみあげ明王がもう一人いるとか考えたくない。
そんな二人の思考を否定するように、もみあげ明王が笑う。
「ははは、我は一人よ! あの蛸共を提供してくれた七色のが居るのだ!」
――あ、よかった。もみあげ明王は一人なのか。
とか思ったが、聞き捨てならない言葉が聞こえた。
『七色の』ってなんだ、まさかそいつも発光しているのか。そしてゲーミングダコを提供した……?
「げーみんぐのはんにんまでいる……」
「あのタコの作者……?」
折角気持ちを切り替えた二人だが、まさかの存在の示唆に再び遠い目になった。
自分が被ったゲーミング発光タコ墨を思い出してか細い声を上げる剱と、タコの味を思い出して口腔内にじゅわりと唾液が溢れたエレノール。まったく対極の理由からだったが。
「っく、また思考が彼方に行ってしまっていました」
やっぱり最初に我に返ったエレノールは、若干悔しそうだった。
訳の分からない存在の前で二度も放心するとは。
「もみあげ明王がこの事件の犯人、その一人という事実に変わりはありません。きついお灸を据えてやる必要がありますね」
「そうだね。どうやらもう一人は逃げたようだし、早く追いかけないと」
再び気持ちを切り替えた二人は、今度こそ得物を構えた。
最初に動いたのはエレノールだった。
懐から素早く取り出した特務用偏光グラスを装着し、ゲーミング光の眩しさを抑えながら目標へと接近する。
ちなみにさっきのゲーミングダコ戦ではうっかり出し忘れていたなんてことは無い。無いったら無い。
「向かって来るか!」
エレノールの行動を見たもみあげ明王もまた、迎え撃つために行動を開始した。
近くに置かれた器、そこに盛られた髪らしきものがモゾモゾと蠢く。かと思えば、それは一気に伸びてもみあげ明王へと纏わりついた。
振るわれる腕をエレノールは|幻影舞踏《ファントム・ステップ》で躱す。
「そこにわたしは居ませんっ!」
入れ替わり先はもみあげ明王の背後。
幻影に惑わされ、一瞬エレノールの居場所を見失ったもみあげ明王へと、召喚した|烈火の双剣《インフェルノ・デュアルブレイド》を閃かせる。
「創世の烈火を纏いし剣、その灼熱を以って我が敵を灰燼に帰さん!」
「ぐあッ!」
双剣の刃から放たれた斬撃が炎の竜巻へと姿を変え、もみあげ明王を包んだ。
ゲーミング発光ヘアー、刈り取られたもみあげ――その全てを紅蓮の炎が嘗め、焼いていく。
「集めたもみあげがー!」
「炎に包まれているというのに、本体はしぶといですね」
さすが、簒奪者というべきか。
炎に包まれ、集めたもみあげと自身を焼かれてもなお、もみあげ明王は倒れていない。それどころかもみあげの心配をしているくらいだ。
「ふははは! そう簡単に倒れる程|軟《やわ》ではないぞ!」
大半のもみあげを焼かれてしまったもみあげ明王が、それでもなおエレノールへと迫る。
「もみあげが無くなったのならばまた刈れば良いこと!」
「反省する気はない、ということですか」
狙うはエレノールの手入れされ、いかにも美味しそうなもみあげ。
もみあげ明王の残った左腕がエレノールのもみあげへと伸ばされる。
あと少しで指先が触れようかという瞬間。
「そうはさせないよ」
至近距離から声が聞こえた。
ゾワリと肌を粟立たせたもみあげ明王が素早く横合いへと跳躍する。
同時に、もみあげ明王の首、いや、もみあげがあった場所を大剣が過る。
「ぬぅ、美しいもみあげに意識を取られておったな。そういえばもう一人いたか」
もみあげ明王が首を擦りながら大剣の持ち主——|鋼焔の鬼神《アーキタイプ》により鋼の外骨格を纏う鬼となった剱を見る。
擦る手の下、首筋には完全に避けることが叶わず、薄く朱が走る。
「外しちゃったか。もみあげを斬ると同時に焼いてやろうと思ったんだけど」
もみあげ明王から目を離さず、剱は大剣を再び構える。
(さっき慌てて飛び退いたってことは、やっぱりあの辺りが急所かな? 首……というか、もみあげが急所の可能性だってある。どっちが急所だろう。……首を狙えば、多分もみあげも巻き込むよね)
「……僕は何を予想してるんだろう。もみあげが急所の可能性……そんな事あるのか??」
もみあげ明王について、剱が真面目に考察している。
これだけもみあげに対する主張が強いので、もみあげが弱点の可能性も存在する、かもしれない。
とはいえ、人型である以上首が急所の確率は高く。
ならばそこを狙っていく方が無難だろうか。
「男にしては美味そうなそのもみあげ、刈り取ってくれようぞ!」
もみあげ明王が見た目に反した素早い動きで接近する。
そのまま、かろうじて残っている刈り取ったもみあげを伸ばし、剱へと叩きつける。
その攻撃を、剱は腕で防ぐ。大きく足を開き重心を低くした彼の体は、強い打撃を受けわずかにブレるが動じることは無く。
防御力への自信もあるが、一番は増毛速度30000倍に関わりたくないという思いが本音かもしれない。
きっとこの攻撃を躱していたら、能力の効果によって剱も、そしてエレノールももみあげだけと言わずあらゆる毛が急速に伸びていただろう。
「む、思ったより硬いな!」
「今の僕なら防御力が高いからね。それより、僕にばかり構っていていいのかな?」
剱が言った瞬間、もみあげ明王の側へインビジブルと入れ替わったエレノールが現れる。
もみあげ明王は咄嗟に腕を振るいエレノールを弾き飛ばそうとしたが、すかさず剱が左腕を鋼の外骨格へと完全に変え、|鋼鬼の狩爪《オウガ・ハント》の空間引き寄せによりもみあげ明王の身体を引く。それによりもみあげ明王はバランスを崩し、振るわれた腕が虚空を薙いだ。
次いでエレノールが振るう双剣を、今度はもみあげ明王が躱す。しかし、その隙に今度は剱が爪での攻撃を仕掛ける。
まさに、息もつかぬ攻防が続く。
しかしその攻撃も二人の炎を纏った攻撃により、残ったもみあげを焼き尽くされていく。
周囲に髪の焼ける匂いが充満した。
「まさか、我がここまで手も足も出ぬとはな」
「いよいよ万策尽きたかな?」
「もみあげも、もう残ってはいないようですからね」
もみあげを介して力を振るうもみあげ明王は、もはや抵抗する力もほとんど残っていない。
しかしここで見逃す程二人は甘くない。なにより、そうすればまた被害者が出るだろう。
「これで終わりだよ」
「灰燼に帰して差し上げます」
その言葉とともに、剱の爪がもみあげ明王を貫き、エレノールの双剣が首を落とす。
たちまち燃え上がったもみあげ明王の身体はやがて灰になり、海から吹き込んだ潮風に攫われていくのだった。
第3章 ボス戦 『愉悦の七彩狂創者・Drアルコバレーノ』
●洞窟の社
もみあげ明王が灰となり消えた洞窟内。
√能力者たちはそのふざけた存在を倒せたことに、一先ずといった体で息をついた。
しかし、まだ『七色の』と称された敵が残っている。
と、一人の√能力者が違和感に気付いた。
社が、なんかぴかぴかしている。
もしやと思い社の扉を開けてみれば、気を失い倒れている、被害者と思われる女性たち。
――もれなく全員髪がゲーミング発光している。
祠の違和感はこれかと、全員が脱力した。
呼吸も顔色も正常。唯一おかしいのは髪色くらいか。
それにしても。
『七色の』と称された敵は一体どこに行ったのか。
この女性たちではないだろう。他にそれらしい敵は見当たらない。
――これは、確実に逃げている。
もみあげ明王との戦闘中もそうだろうと思ったが、これで確定した。
となれば、早急に行方を追わねばならないだろう。
悠長にはしていられないと、√能力者たちは踵を返して洞窟の外へと出ていくのだった。
●七色の元凶
√能力者たちが洞窟内へ足を踏み入れた頃。
ゲーミング発光の原因人物はヒィヒィ言いながら崖を登っていた。
崖を登り切ったタイミングで、洞窟内から大きな音が響いてくる。
「あっぶなー! 間一髪じゃーん」
ぜぇ、ぜぇ。ひゅぅ、ひゅぅ。
息を切らせながらも、「己の直感を信じたアタシ最高!」と自画自賛している。
しかしながら問題点が一つ。
「やっばぁ、崖登るの必死過ぎてもう動けない……おぇっ」
そう、根っからのインテリ。究極の研究バカ。
日がな一日どころか通年通してラボに引きこもって研究していることの多いこの元凶――愉悦の七彩狂創者・Drアルコバレーノは、成人のくせしてその体力は子供並みだった。
当然、崖登りなんて全くやったことないうえに、基礎体力もない。
結果。
崖上で動けなくなっていた。ついでにしんどすぎてえずいている。
「ちょ、ちょっと休憩……だめ、逃げらんなーい!」
そう言うと、ゴロンと草の上に転がった。
ここは崖を登ってすぐの場所。
ちょっと崖下から見上げれば、彼女の髪やら服やらで発光しているゲーミングの光が見える事だろう。
「頼むぞぅ、もみあげ。せめてアタシの逃げる体力が戻るくらいには粘ってくれー!」
果たして運の女神は微笑むのか。
それを知るのは、まだ少し先の話――。
√能力者たちは、残りの犯人を追うべく洞窟の外へと出た。
エレノール・ムーンレイカー(蒼月の守護者ガーディアン・h05517)とエドワード・エルディス・シートン(天空の王者・h06998)は、周囲を注意深く見渡した。
「いつ逃げたのかは不明ですが、少なくともわたしたちが来た方角ではないでしょう」
「そうですね。わたくしたちが来た道にそれらしい姿はありませんでしたし」
となれば、この崖下へと続く道以外にも抜け道があるのか。
あるいは――。
二人が同時に同じ結論へ至り、崖の上を見上げた、その瞬間。
「ん? 七色??」
「崖の上から、極彩色の光……? まさか、あそこに?」
崖の上がぴかぴかと7色に発光していた。
「……レインボーか。ゲーミングと関係あるな、これは」
今まで嫌というほど見てきた。見間違えるはずがない。
間違いなく、ゲーミング発光だ。
その時、エドワードのスマホが震えた。
届いた一通のメールを確認すると、とある簒奪者の情報が載っていた。
「え、Drアルコバレーノ?? もしかしてこいつが元凶ですか」
「Drアルコバレーノ?」
「ええ。ゲーミング生物を大量に撒いている怪人だそうです」
崖上の人物は、ほぼ間違いなくその怪人だろう。
二人はそれぞれ、特務用の偏光グラスとサングラスを装着し、行動を開始した。
エレノールが飛竜の指輪を使い、軽やかに宙へと舞い上がる。
エドワードもまた、ハクトウワシの姿へと変身し、力強く羽ばたいた。
――いた。
崖上で、ちょうど身体を起こした人物を補足する。
白衣のあちこちがゲーミング発光し、髪の一部までもが七色に発光していた。
研究者らしき|成《な》りのその人物は、青白い肌をしながら「よっこいせ」と立ち上がる。
「……やはり、いましたか。相当消耗しているようですが」
「見つけましたよ」
「ほぎゃぁ!?」
崖上へ降り立った二人の声に、簒奪者――愉悦の七彩狂創者・Drアルコバレーノは、情けない悲鳴を上げた。
Drアルコバレーノは顔を更に蒼褪めさせる。
「ななな、なんでここにー!? え、もみあげは? まさかもう倒しちゃったの!?」
もみあげ明王を知っているということは、こいつが仲間の簒奪者で確定だ。
「簒奪者たるものがここでへこたれて、一体何の真似だ?」
と、三人の横合いから新たな声が聞こえてきた。
少し離れた場所に金髪碧眼の女性――アイリーン・ランシング(シャドウペルソナのフリークスバスター・h07730)が立っている。
「なんか増えたー!? あばばばどうしよう逃げられる!? ねえこれ逃げられる!?」
エレノールが、頭痛がするとでもいった様子で頭を抱えながら詰問した。
「一応、聞かせてもらいましょうか。なぜこんなイカレた事件を起こしたのか」
その問いに、彼女はきょとんと目を瞬かせた。
「んぇ? なんでって、アタシが面白いと思ったからに決まってんじゃーん!
アタシは愉悦の七彩狂創者・Drアルコバレーノだからね! 面白いことには全力でノるのさ!」
「面白いから、ですか……」
えへん、と胸を張るが、威厳は皆無だった。
エドワードもまた、思わず頭を抱える。
面白そうという理由でこれだけの被害を出していたのか、と。
「お前、簒奪者だろう。本当にそんな理由だけで事件を起こしたと? 大抵何かを企んでいるものだが」
アイリーンは元軍人らしく、警戒を緩めず疑っている。
「ええー……。強いて言うなら、ちょーっと|おこぼれ《新しい被検体》を貰えないかなーって?」
Drアルコバレーノはニヤニヤと笑う。
愉悦のためなら労力を惜しまない。だからこそ、女性を攫おうとする別の簒奪者と手を組んだ――それだけの話だ。
ついでに、女性相手なら非力な自分でもなんとかなると踏んでの共闘でもある。
そんなDrアルコバレーノの話を聞いた一同は。
「下衆ですね」
「下衆ですか」
「下衆いな」
下衆、その一言に尽きた。
「へっへーん! 言われ慣れてるもんね!」
胸を張るな、とは誰が呟いた。
「駄目だな、こいつは。早々にどうにかした方がいい」
「まだ抵抗の意志あり、という判断で問題なさそうですね」
「被害が拡大する前に早く倒しましょう」
元より事件解決のためにこの地に来ているのだ。この傍迷惑な元凶を早急に倒すことに、異論はない。
各々が得物を構え、Drアルコバレーノへにじり寄った。
エドワードが羽音を轟かせ、一瞬で間合いを詰めた。Drアルコバレーノの頭を、鋭い爪を備えた脚で鷲掴み――いわゆるアイアンクローを繰り出した。
「おぎゃー! いきなり酷い!!」
暴れながら、彼女はポーチから試験管を取り出す。
中身は、怪しく七色に発光する液体――ゲーミング発光液。
まずい、とエドワードが慌てて離れようとする。
同時に、Drアルコバレーノの動きを”|攻撃《反撃》”と捉えたアイリーンの|√能力《オートキラー》が発動した。
Drアルコバレーノの指が運動音痴とは思えない速度で試験管のキャップを外す。
……研究やそれに付随することなら、無駄に手先の器用さが発揮される彼女ならではの早業だった。
続けて振られた手の中。放たれた液体は放物線を描き――。
次の瞬間、二人はものの見事にゲーミング発光液を被ることとなった。
「わははは! 被ったな! このゲーミング発光液は1週間は発光し続けるからねむぐぅっ!!」
Drアルコバレーノが、高笑いしたのもつかの間。
物ともせず突っ込んできたアイリーンにより、吹き飛ばされた。
「いったあ! こんにゃろ、やったなー! ときめき☆ゲーミング!!」
吹き飛ばされたが、Drアルコバレーノはしぶとく立ち上がった。
立ち上がったついでに、ようやく√能力を思い出したのかゲーミング発光液を持ったゲーミングイカを召喚した。何故か浮遊しているが、ツッコんじゃいけない。
ついでに、ゲーミングイカを見たエレノールが「イカも美味しいのでしょうか」とか呟いたのは気のせいだと思いたい。
「喰らえ! ゲーミング発光液シャワー!!」
Drアルコバレーノの掛け声とともに、ゲーミングイカが漏斗から勢いよくゲーミング発光液を噴射する。
それは√能力者の頭上から、文字通りシャワーのように降り注ごうとしていた。
当のDrアルコバレーノは召喚したデカいゲーミングイカに掴まり漏斗からの噴射によって戦線離脱しようとしている。
「汚れ無き聖者の光よ、全てをあるべき姿へ戻せ......!」
すかさずエレノールが|聖なる波動《ホーリー・ウェーブ》を放つ。
彼女から放たれた聖なる波動が当たったゲーミングイカが、空気に溶ける様にして消えた。イカと同じく√能力によって出現したゲーミング発光液と共に。
ちなみに、先に二人が被ったゲーミング発光液は√能力によるものではないので消えていない。
逃げようとしていたDrアルコバレーノは|ゲーミングイカ《乗り物》を失い、地面へと情けなく落ちた。
「いてて……」
顔を上げたDrアルコバレーノの視界には、自分を取り囲んだ三人の姿。
彼女の顔が引きつった。
「こういう物騒な能力を使うならせめて体ぐらい鍛えておけよ」
「相応の対処、覚悟してくださいね」
「生態系破壊は、ダメですよ」
アイリーンとエレノールの銃により撃ち抜かれ、エドワードの怪異解剖執刀術で縦一文字斬りされたDrアルコバレーノが悲鳴を上げる。
しかしまだ、タフネスな彼女は倒れない。
洞窟から、黒霧を纏った影が音もなく表れる。
黒い尾を泳がせ、眼孔持たない豹海豹――ウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)が、崖を見上げる。
その先には戦闘を行っているだろう音と、ゲーミング発光。
ウィズは尾を一振りすると、|闇獰《アンネイ》により上がった速度で一気に崖上まで上昇した。
滝登りも驚きのスピードだ。
「来ーるー、きっと来るゥ~~♪♪」
「ひっ!?」
ウィズが楽しそうに一昔前に流れたCMの曲を口ずさむ。
しかし、Drアルコバレーノからすれば突然大型の黒い物体が歌いながら現れたわけで……情けない悲鳴を上げていた。ついでに半泣きだ。
「クカカ、そうビビんなよ」
「キミ面白そうだけど怖い!」
ウィズは反応に気を良くしたのか牙を剥き、青い口内を覗かせて嗤う。
Drアルコバレーノの泣きが入った悲鳴など気にした様子もない。
じりじり逃げようとしてたDrアルコバレーノへ、ウィズは話しかける。
「俺はよォ、闇の精霊だから光を呑んじまう。だからな、その液体はすっげェ興味あるのよ」
「へ?」
Drアルコバレーノが手に持つゲーミング発光液に、視線を感じる。
それはもう、穴が開くほどに熱い視線だ。
まさかそんなことを言われるとは思っていなかったDrアルコバレーノは、素っ頓狂な声を上げる。そしてパァッと聞こえてきそうな程の笑み。
「崖登りナイスガッツに免じて話聞いてやろうじゃねェの。その液体の製法、難しかったンじゃねェの??」
「わかるかい!? そう、これを生み出すのは大変だったんだ! というのもこれは元々アタシの(かくかくしかじか省略)というわけなのさ!」
「なるほどなァ!」
ゲーミング発光について聞いてくれる相手の居なかったDrアルコバレーノは、それはもうウッキウキで話した。なんなら興奮しすぎて|√能力《アタシの理想郷》がうっかり発動しているくらいだ。
一頻り話し終えて汗を拭う動きをするDrアルコバレーノへ、ウィズが理解したと声を上げる。
そしてそのまま……。
――パクンと頭からいった。
「オギャー!!」
上半身を喰われたDrアルコバレーノが絶叫している。ついでに下半身が暴れているが、何の抵抗にもなっていない。
そのまま咀嚼する動きをしたウィズが、ペッと吐き出した。
「ひ、ひとでなし! 見逃す流れだったじゃん!?」
「え? 見逃すなんて言ってないぢゃん? それよかバンジーとかどう? 興味あるか??」
いい笑顔(表情は無いが気分的に)のウィズが、体を旋回させて尾を振り抜く。
非力な怪人は汚い叫びをあげて崖下へと叩き落されるのだった。
|黄昏・剱《たそかれ・つるぎ》(鋼焔の後継・h09087)が洞窟を出るのと同時、少し離れた場所からドサリと重い物の落ちる音が聞こえた。
彼がそちらを見れば、そこには見慣れ始めたゲーミング発光する物体。それがモゾ、と動いた。
「いったぁ……何も崖から落とさなくてもよくない!?」
ゲーミングで盛り上がってたじゃん!との言葉。
それにより、崖上へ向かって吠えっている人物が残った犯人だと理解した。
「げぇ! まだいるの!?」
剱がどうしようかと考えていれば、犯人――愉悦の七彩狂創者・Drアルコバレーノが彼の存在に気付いたようで、呻き声を上げ後ずさっている。
もちろん、剱にDrアルコバレーノを逃がす気はない。
「準備して他の存在を利用している。明らかに体力関係の事が苦手だろうに現場まで出張ってきてる。泥臭く逃げる根性もあるよね。頑張ってると思う」
やってる事はゲーミング発光だけど、と彼は胸の内で呟いた。
どう見ても現場向きじゃない見た目と恰好。THE・インテリといった風貌の怪人が現場に出てくるのは余程だろう。
「多分、あなたにとっては大切な事なんだろうね」
その言葉に、Drアルコバレーノが嬉しそうな表情を見せるが。
「無害な事なら応援したかったよ。でもね……」
――こうやって実害が出ている以上、見過ごせないかな。
ニコリと笑った彼の言葉に、Drアルコバレーノは瞬時に顔を真っ青にした。
なにせ剱はゲーミングダコにゲーミング発光タコ墨をぶかっけられ、今現在ゲーミング発光√能力者へと変貌している。装備やその他がゲーミング発光するならまだしも、生身がゲーミング発光するのはさすがに困る。日常生活とか、尊厳とか、色々と。
しかも何人もの女性が攫われ、これまたゲーミング発光させられているのだ。
「いやぁ……ははは、だってこれがアタシの研究だしぃ?」
冷や汗をだらだら流し視線を背けているが、言い訳になっていない。
「反省はしていないみたいだね」
だったら遠慮なく叩けるというものだ。
剱は|鋼焔の鬼神《アーキタイプ》により、鋼の外骨格を纏う鬼へとい変身する。
外骨格を纏うことで巨躯になった剱を見たDrアルコバレーノは瞬時に自分では敵わないと判断した。逃げ専のDrアルコバレーノが導き出したのは……。
――当然、逃げの一手。
くる、と体の向きをかえ、猛ダッシュ(当社比)した。
しかし残念ながら、運動とは無縁のDrアルコバレーノと剱では身体の鍛え方が違う。
結果として、即座に反応し地面を蹴った彼がDrアルコバレーノへ追いつくのは一瞬だった。
「逃がさないよ」
「オギャー!」
追いついた剱が炎を纏った大剣を振り上げる。
Drアルコバレーノは汚い悲鳴を上げ、ポーチから素早く取り出したゲーミング発光液を投げつけた。しかしそれは、外骨格を纏った腕により弾かれ、ガラスの割れる音と共に周囲へ飛散する。
崖下の地面が無情にもゲーミング発光し始めた。
「く、くそぅ! こうなれば、カモーン! ゲーミングイカ!!」
Drアルコバレーノの|√能力《ときめき☆ゲーミング》によりゲーミング発光するイカが召喚される。
「やっちゃえ、ゲーミングイカ!」
物理法則を無視して空中浮遊するゲーミングイカが、触腕を大きく広げる。そして漏斗からゲーミング発光液を噴射した。
剱は咄嗟に地面を蹴って後方へ跳ぶことで、ゲーミング発光液を回避する。
慌てて前を見た剱の視界いっぱいに広がる触腕の隙間から、Drアルコバレーノが踵を返して逃げようとしている姿が見えた。
彼女はどこまで行っても逃げ専なのである。
「あなたたちには、刃を与えよう!」
剱の言葉と共に、彼の広げた手の平から鋼の弾丸が射出される。それは触腕の隙間を抜け、地面へと着弾した。
途端、鋼の弾丸は着弾地点から広範囲へと広がる流体金属に変化する。その金属は、まるで地面から突き上げるかのように伸び、複数の枝のような刃を備えた剣――七支刀へと姿を変える。それも1本や2本ではない、数えきれないくらいの剣へとなって。
「うおおあ!? っぶなー!」
逃げようとしていたDrアルコバレーノは、慌てて急ブレーキをかける。召喚されたゲーミングイカは、妨害を目的にしていたからか、あっけなく串刺しにされていた。
妨害用のゲーミングイカが倒されて万事休す。こうなれば何が何でも逃げてやるとDrアルコバレーノが再び逃げようとした時だ。
「この刃が七色に光ったら格好良くないかな?」
「なにそれめっちゃカッコいいじゃん!?」
剱の放った一言に、Drアルコバレーノは見事釣られた。
なにせ行動理念が『面白いかどうか』の怪人だ。ゲーミング発光する武器は、彼女の琴線に触れた。
しかし、それがDrアルコバレーノの運の尽きだった。
その一言に意識を持っていかれた隙に、剱が七支刀の合間を縫うように素早く接近する。
Drアルコバレーノが気付いた時には遅く、剱の大剣が敵を叩き切るのだった。