夢見るこどもに祝福を
秘密結社『プラグマ』に忠誠を誓う、とある組織の拠点にて。
「——子供を攫ってその純粋な心を洗脳し、プラグマに忠実な怪人に改造する、か。ここにも似たようなやつらがいるが……」
上司から渡された計画書に目を通しながら、ワニ怪人がでっぷりとしたその腹を擦る。その横では熱帯魚のプレコを改造した下級戦闘員たちが、『水槽のお掃除屋』の異名通り室内を掃除して回っていた。
「まぁ、中間管理職からさらに上の幹部になれるチャンスだしな。いいか、お前らのその見た目を利用して、ガキ共とお友達になったら俺のところに連れてくるんだぞ」
「|プレー《うん、わかったー》」
「あくまでお友達としてだ、騒ぎになるとヒーローが来て面倒になるからな」
「|レコー《わかったー》。……|レコレコ《おてがみ わたした》?」
「手紙ぃ? ……あー渡した渡した。だからきっとサンタがプレゼントくれるさ」
わーいわーいと喜ぶように、戦闘員たちがその場でぴょんぴょん飛び跳ねる。すると机の上の書類がばさりと飛び散って——。
「あ、こら暴れるんじゃ……」
——ひらり。
幼稚園児が描いたような絵と文字入りの紙が彼らの中心に舞い落ちた。
「……こいつはやべぇ、うっかりだ!!」
●待降節にたわむれを
「♪じんぐっべー、じんぐっべー」
ご機嫌なひらがな英語の発音と共に、クリスマス定番の曲を歌う坂堂・一。その肩では小さなサンタ帽をかぶり、これまたご機嫌でミニタンバリンを振っているチンチラ型精霊がいた。
「どこもかしこもすっかりクリスマスムード、だね。そんな中でもお構いなしに動くのが、悪の組織たる所以、かな。√マスクド・ヒーローのとある遊園地で、怪人による誘拐事件を予知した、よ」
頭にお揃いのサンタ帽をかぶりながら、星詠みの少年は急にスンっと真面目な顔で説明を始める。なおチンチラはまだタンバリンを振っていた。お前ら自由か。
「主な実行犯はプレとレコっていう、見た目は幼稚園児くらいの、魚怪人集団の下級戦闘員、だよ。遊園地という場所のせいか、着ぐるみか何かだと思われている、みたい。無防備に近付いた子供と仲良く遊ぶフリをして、誘拐するよう、だよ」
ただ、実際に誘拐されるまではかなり時間がある。何故ならば——。
「この子たち、サンタさんを待っているらしいん、だ」
幹部にクリスマスの話を聞いて、自分たちも良い子にしていればサンタさんに会えるとドキドキわくわくしているらしい。そのため子供たちとただ仲良く遊び、痺れを切らした幹部が迎えに来るまでサンタを待っているそうだ。
だからその前に彼らご待望のサンタさんのフリをし、クリスマスらしいことをやってあげれば良いと少年は告げる。
「きっと満足しておうちに帰ると思うんだよ、ね。その後、駆けつけた幹部を倒せば解決、なんだけど……」
この幹部、実は相当なウッカリ者らしい。そのせいか他人のうっかりエピソードに同情し、励ましてくれたりする……そんなちょっと憎めない感じの怪人だが、日を改めて再び実行されても困るので撃退してほしい、と少年は語った。
遊園地のイベント広場では現在『|待降節《アドベント》マーケット』が行われており、クリスマスグッズや色んなフード・ドリンクを提供するブースが数多く並んでいる。作戦実行前に警戒すれば敵の星詠みに察知されるため、そ知らぬふりでマーケットを楽しむといいだろう。
「それじゃあ、楽しんだ後はよろしくおねがいする、ね」
第1章 日常 『夢の国は今日も賑やか』
●中継が繋がりました
——はい、今日も始まりました『お昼は貴方の街でお散歩』、略して『昼さんぽ』のコーナー!
本日、私ジョシー・アナが立っているのは○○遊園地の入場門前でーす。この遊園地のイベント広場では、ドイツの|待降節《アドベント》マーケットが催されているそうなのですよ。こうしてこのフリーパスを腕に巻いておけば、遊園地内の乗り物や施設が全部利用可能なのだとか。
では今日はマーケットをお散歩して参りたいと思います!
皆さーん見えますでしょうか、大きなツリーですねー! あそこがフォトスポットになっていて、皆さんツリーを背景に順番で写真を撮っておられるようですー。
あのツリーを挟むように、広場の東西両端にずらりと建ち並んでいるのがマーケットブースですね。それぞれ小さな小屋のようになっていて、看板のクリスマスらしい装飾がとっても可愛いー。そしてツリーの周囲には立食用のテーブルがたくさん! 実にドイツらしい雰囲気で皆さん楽しまれているのが見えます。
それではどんなお店があるのか、早速見ていきましょう!
あ、いい匂いがしてきた……こちらはヴルストのお店です!
有名な|白いヴルスト《ヴァイスヴルスト》は甘めのマスタードがお勧めだそうです。
カリーヴルストはカレー味のケチャップに更にカレー粉をお好みで振って、辛さを調節するのだとか。あ、|ポメス《ポテトフライ》もセットなんです? ビールが欲しい!
他にもヴルスト盛り合わせや、渦巻きソーセージ串などもあるようですー。
お隣はドイツ料理がいただけるお店なんですねー、温かそうな湯気がお鍋から……アイスバイン? なるほど、豚すね肉の塩漬けを香味野菜と一緒にホロホロになるまで煮込んだ料理なんですね。煮込まずにローストしたのがシュバイネハクセ、これは見るからに表面パリパリで……やばい、生唾飲んじゃいますね。どちらも付け合わせにザワークラウトが添えられるそうです。
わ、ローストビーフサンドや鴨のロースト、ターキーレッグなんかもありますね。
変わり種はこちら、クヌーデル。じゃが芋で作ったいも餅にあつあつのモッツァレラチーズをかけたものだそうです。うわ、とろけてる……。
次のお店はプレッツェルと、スイーツの写真がいっぱい貼られてますねー。
こちらのプレッツェルはなんと発酵バター入りの焼きたて! 今まさにそこの窯で焼いたものだそうです。ちょっと試食を……時間押してる? 残念。
あ、ローストアーモンド! これはドイツではマーケットの定番おやつで、焼きアーモンドにフレーバー付きの蜜を絡めたものなんです。シナモンとチェリー、バニラとカカオの4種が選べるようですね。ミックスもOKだそうです!
あら、これはフレンチトースト? アルメ・リッター、なんだか格好いい名前ですね。意味は……貧乏騎士? ふふ、ジャム入りで金持ち騎士にできるとのことです。
そしてそして、出ましたシュトーレン! これはスライスしたものが食べられますが、一本丸ごとテイクアウトも出来るそうです。クリスマス来たって感じしますねー。
少し寒くなってきましたね、そんな時は温かいドリンク!
普通のコーヒーや紅茶以外にも、甘酸っぱいベリーティーやホットレモネード。あらホットチョコレートは果物入りのものと、マシュマロ&ホイップのものがあるんですね。これもうデザートでは?
そしてお待たせしました、大人の時間です。
やはりこれは外せませんよね、温かいグリューワイン! シナモンやクローブなどの香辛料が入っていて、クリスマスといえばこれです。ちなみに果物がいっぱい入ったホットサングリアもありまして、グリューワインと同じく赤か白かを選べるそうですよ。
もっと強いのをお求めの方にはホットラムがいいかもですねー。
それから忘れちゃいけないのがビール! なんとホットビールなる文字が見えます、初めて見ました! 冷たいビールももちろん各種ご用意があるとのこと。迷いますね!
最後に、こちらではクリスマス雑貨のお店が並んでいますね。わー可愛い!
キャンドル関係だけでも天使や動物を象った蝋燭に、クレイ細工が美しいキャンドルホルダー。小人の家に明かりが灯るキャンドルハウスも可愛いですねー。
他にもスノードームや繊細なガラス細工のツリー、様々な人形、オーナメントやリースもたくさんあって、見ているだけでワクワクしますね!
……あ、もう時間が! それではまた来週、この時間にお会いしましょう!!
●マスターより
出来る行動は上記の他、遊園地内の乗り物や施設も利用できます。
ご自由にお過ごしください。
雑貨につきましても、ご自分で調べたり創造していただいても構いません。本当に沢山あるので書ききれませんでした!
あと、お酒が大好きなMSですが、ビールだけは何故か少量で悪酔いしてしまうので、ちょっと描写にリアル感が足りないかもしれません。その点どうかご了承ください。
12月ともなれば肌に感じる気温も冷たく、来園者達も寒さで頬を赤らめている。
……おっと、赤さの原因はそれだけではないようだ。
「クリスマス!」
「アドベントマーケット!」
目の前に広がるのはマーケット会場となった賑やかなイベント広場。
期待と高揚感から頬を染め、|翠曜《すいよう》・うるう(半人半妖の古代語魔術師・h07746)と|朝風《あさかぜ》・ゆず(熱病の偶像・h07748)の二人が歓声をあげた。
「素敵ね、素敵!」
「ここから見てるだけでもわくわくするね!」
「ね、うるうちゃん。はぐれないように手を繋がない?」
ぱっと手を開いて差し出しながらのゆずの申し出に、うるうもコクリと頷いて。
「人が多いもんね。繋いでいこう♪」
右手と左手、ぎゅっと仲良く繋いだら——いざ、|待降節《アドベント》マーケットへ!
●
建ち並ぶ小屋に貼り出された写真付きメニューを眺めながら、何を食べるかキョロキョロそわそわ。そんな時間も醍醐味だよねと二人で一通り見て回ったら、いよいよシンキング・タイムに突入!
「うるうちゃんは何食べたい?」
「そうだなぁ、プレッツェル食べたいな」
「いいわね! ゆずは寒いから温かいベリーティーが飲みたいわ」
「ベリーティーは……あ、美味しそう。私もそれにするね」
それから、とうるうが写真に視線を走らせていくと、目に留まったのは真っ白な一皿。
「寒いんなら熱々のクヌーデルもどう? あったまっていこ!」
「あ、クヌーデル、ゆずも気になってたの!」
それじゃあ決まりだね、と分担してそれぞれの店員さんに声をかけ。
ベリーティーにプレッツェル、そして最後にクヌーデル。お店の受け取り口で出来上がりを待っていたら、こぶし大のモッツァレラが小さなお鍋の中でみるみるうちに溶けていくのが見えて——。
「わぁ……!」
丸いお団子に熱々チーズがかかるのを、思わず見入ってしまう二人であった。
「凄かったね、とろーって!」
「楽しみね、すっごく楽しみだわ!」
(「うるうちゃんの心遣いが嬉しいわ」)
テーブルに並んだのはどれも温かいもの。だけど冬の風で冷えちゃうから順番にと、まずはベリーティーで両手を温めながらふぅふぅ一口。鼻腔に広がる爽やかなベリーの香り、そして甘酸っぱさの後ふわっと香るのはアールグレイだろうか。
「綺麗な赤だね。イチゴとブルーベリーと、これはラズベリーかな?」
「! うるうちゃん、このベリー甘いわ、蜂蜜の味がするの!」
「ほんとだ! 蜜漬けしてあったのかな……なんだかラッカのソーダ思い出すね」
そんな風に話しながら手に取ったプレッツェルは塩の粒が煌めいていて、食べれば見た目よりふかふかな中身が湯気を立てる。溶け出すバターに慌ててぱくっと頬張っては、ベリーティーでさっぱりポカポカと交互に楽しんで。
お喋りしながら食べていたら、残るはまるでシチューのように白い海に浸るクヌーデルのみ!
フォークでいも餅団子を刺して、チーズをたっぷり絡めて……からめて……?
(「……チーズが、お餅みたいに伸びる!」)
(「……どうしましょ、ずっと伸びるわ!」)
絡めても絡めても、途切れないのが熱々モッツァレラ。
ほとほと困って視線を上げれば同じ顔をした相手と目が合って——。
「……いっちゃいましょ」
「……うん、やっちゃおう」
伸ばしたチーズをそのままに、せぇのでパクリッ。
口いっぱいに広がるミルキーなチーズとお団子のもちもち感を堪能しながら、二人はくすくすチーズを巻き取り続けた。
●
体の芯から美味しく温まった後は、雑貨屋が並ぶコーナーへ。
「雑貨屋さんは色んな物があるから楽しいね」
「スノードームも素敵……でも今回は! サンタさんの格好をしたいの!」
「おお……ゆずちゃんが燃えている」
ぐっと拳を握り締めて気合を入れるゆずを、うるうはニコニコ見守って。
「サンタ帽や赤いケープはあるかしら?」
「あ、こっちのお店にあるみたい。ふかふかで白いファーも可愛いね!」
「可愛いわね! じゃあ雪の結晶のブローチでもーっと可愛くしましょ!」
サンタグッズで彩られた小さな店内を、金と茶の頭が行ったり来たり。ほんの少しずつ違うデザインに、どれが似合うかゆずの厳しいチェックが入る場面もありつつ。
「あら、このブローチ……ガラスの色が違うのね?」
「ほんとだ、いろんな組み合わせあるね」
ゆずが見つけたのは、樹枝状の雪の結晶が二つ隣り合ったブローチだ。その結晶の中央に飾られたガラスの石は、商品ごとにそれぞれ色が異なるようだった。
「だったらこれで決まりね!」
うるうの胸元で揺れる雫と、ゆずの耳を飾る雫。その二色の組み合わせを見つけ、輝く笑顔でゆずが手籠に入れる。
(「さすがゆずちゃん、ファッションの見立てが素敵だなぁ」)
「あ、トナカイのパペット! この子もお迎えしましょ♪」
「いいね! あとはこのクリスマスな靴下のトートバッグに、お菓子やブリキ雑貨を入れちゃおう」
「素敵ね! プレゼントを用意するサンタさんのようね♪」
あっちのお店をうろうろ、こっちのお店をちょろちょろと。
二人の買い物はまだまだ続くようだ。
●
「それではいきますよー? 1、2、3、käse!」
「ケーゼ!!」
ドイツ風の掛け声を復唱する、かわいい少女サンタたちをスタッフがパシャリ。託したインスタントカメラから、早速二人の写真が現像される音がする。
「うふふ、また思い出が増えて嬉しいわ♪」
「うんっ、思い出だ。嬉しいね!」
現像し終わった写真を覗き込めば、オーナメントで飾られたツリーの前、満面の笑みでポーズを決めたゆずとうるうが写っていて——。
また一つ、キラキラの思い出が心に灯ったのだった。
●
「わぁ、ここがヒーローの世界?」
√移動を終え向かった先で、リュシル・フロスティア(雪の王国の小さな魔女・h01398)が淡い青氷晶の瞳をぱちりと瞬かせた。
彼女にとっては初めての√マスクド・ヒーロー。
どんな世界だろうと思っていたが……視線の先で入場ゲートに並ぶ恋人達や親子連れ、友人グループにお一人様も。誰もが遊園地で過ごす時間を楽しみにしているのだと、彼らの表情がそう物語っていた。
「こうしてみんなが楽しんでいるすがたは、わたしたちの国と変わらないのね」
自身も列に並びながら、リュシルは隣を見上げてニッコリ。微笑みかけられたノア・アストラ(凍星・h01268)も、つられて眦をゆるゆる下げて。
「そうだね。僕らも今日は楽しもうか」
「うん!」
(「それにしても、クリスマスはやはり何処も賑わっているものだね」)
このまま入場すれば人混みに紛れて見失ってしまうかもしれない。こんな土地勘のない場所で逸れたらと考えただけでも恐ろしくて。
「リュシル、迷子になるといけないから……」
そう言って何時もの感じで手を差し伸べるノアに、しかしリュシルの頬がまろく膨らんでいった。
「む、もう迷子になる年じゃないもん!」
「おや。じゃあ手はいらないのかな?」
「……いる。手をつなぐのは好きだから」
不貞腐れつつも、手は素直に繋いでくれるらしい。
そんな少女の様子に柔く微笑みながら、ノアは胸中で独り言ちる。
(「いつのまにやら、彼女も成長しているのだな」)
つい最近7歳の誕生日を祝ったばかりだというのに……いや、7歳になったからこそだろうか。そんな幼子特有の急な成長に、少しばかり寂しさも覚えつつ。
「ノアくん、行こ?」
それでもキュッと繋いでくれた小さな手を、ノアの大きな手で温かく包み込んだ。
(「ゆうえんち? も、はじめて見るの」)
片手はノアと繋ぎ、もう片方でしろくまくんを抱き締めながら、興味深そうにキョロキョロと。
やがて頭上を猛スピードで通過していく乗り物を見て、リュシルは思わず足を止めた。
「ノアくん、ふしぎなのりものがいっぱい! あの空をとんでいるやつとか!」
「遊園地は僕もあまり馴染みはないかな」
リュシルが指差す先を見ながら、ノアも若干ぽかんとした表情で呟く。
(「皆、ああいう乗り物を楽しみたいものなんだろうか」)
自前の翼があるからかもしれないが……自分が乗っている様を想像してみても、いまいち実感は沸かず首を捻るばかり。
「う~ん、あぶない? あとでのってみたいのよ」
その様子を否定と取ったのか、おそるおそる尋ねる少女にノアは視線を戻して。
「それじゃ、後で一緒に乗ってみようか」
「ほんと? やくそくよ?」
——まあ、リュシルが乗ってみたいと言うならば。
小さな子供も乗っていることだし、恐らく危険はないのだろう。それでも一緒に乗ることだけはしっかり念押ししておいた。
●
まずは腹拵えしておこうと、二人が向かったのは|待降節《アドベント》マーケット会場。
風に乗ってふわりと鼻腔を擽る香りに、リュシルはうっとり目を細める。
「わぁ、おいしそうなプレッツェル! バターのいい匂い~」
「リュシルはそれにするかい? じゃあ僕はローストビーフサンドとホットレモネードを頂こうかな」
「あ、ドリンク! ドリンクはホットチョコレートがいいなぁ。ふわふわマシュマロホイップものせてほしいの」
「ふふ、かしこまりました。注文してくるから、隣の受け取り口にいるんだよ?」
小屋の壁一面に貼り出された写真を、ノアが指差しながら注文を済ませるその間。
物珍しそうに辺りを見回していたリュシルは、受け取り口の下に踏み台があることに気付いた。どうやら小さい子供が受け取る時に使う物らしい。
「あ、中がよくみえる!」
——お気付きのようだね?
そう言わんばかりに眉を上げ、スタッフの一人が近くで作業を始めた。カップで湯気を立てているのはホットチョコレートだ!
「わ、わ、わ……」
ぐるぐるホイップを巻いていく動きに合わせ、少女の口から無意識に声が漏れる。それに気を良くしたのか、スタッフがリュシルに見せるようにマシュマロを摘まんで——。
「ひとつ、ふたつ……みっつ!」
少女のカウントと共にホイップに飾り付け、「さぁどうする?」とばかりにパチパチ大きく瞬き。その様子に瞳を輝かせ、元気よく指を立ててご注文!
「もうひとつ! のせてください!」
「……おやおや。何をしているのかと思えば」
会計を済ませて横を見れば、興奮して薔薇色に染まった頬の少女がおねだりをしていて——ノアが苦笑しつつ目礼すれば、スタッフからクールなウインクが返ってきた。
頂上にピカピカ星が輝くツリーの下、テーブルに買ってきた料理を並べて。
子供用の台と手荷物カゴを持ってきてくれたスタッフに礼を言い、しろくまくんにカゴで休んでもらったら、二人でのんびりティータイム!
「ほら、火傷しないようにね」
「ありがとう、ノアくん。わぁ、ふわふわ!」
プレッツェルとドリンクをご機嫌で受け取り、チョコソースのかかったマシュマロホイップをスプーンでぱくり。熱で少しとろけたマシュマロに、リュシルの表情もとろけていく。
ノアのローストビーフサンドはずっしりと重く、ライ麦パンの間にシャキシャキのレタスやベビーリーフ、そしてメインのローストビーフがたっぷり挟まっている。ソースは子供でも食べられるようにか、西洋わさびやマスタードなどは控えめになっているようだ。
「なかなか食べ応えあるな……うん? どうしたのかな?」
大きく口を開けて食べていると、サンドに注がれる熱い視線に気付き。
「えへへ、あとでひとくちほしいの」
「ふふ、食いしん坊さんだね。食べ切れる程度にね」
そう笑いながら食べる手を止め、ノアはホットレモネードをゆっくりと味わう。
——どうせなら、一番美味しいところをあげたいから。
●
入場ゲートを通り抜けると、そこから先はもう夢の国。
多種多様なアトラクションを横目に園内マップ看板を確認しつつ、|小明見《こあすみ》・|結《ゆい》(もう一度その手を掴むまで・h00177)は周囲をゆっくり見回してみた。
(「とりあえず今は事件とか起きていないのかしら」)
賑やかな声はいろいろ聞こえてくるものの、そこに事件性は感じられなくて。
「それじゃ、普通にイベントを楽しみましょうか」
あまり警戒しては敵を刺激しかねず、また星詠みから聞いた限りではさほど物騒な感じもしなかった、というのもあり。
そわりと逸る心を開放するように、一転して笑顔で歩き出した。
●
スノーマンやツリーで可愛らしく飾られたアーチをスマホで撮影したら、アーチをくぐって会場内へ。東西両脇にずらりと建ち並ぶ小屋風ブースは、どれも異国情緒溢れる装飾がなされていた。
「アドベントマーケットって初めてだけど、色々なお店があるのね」
遠目から見た印象ではあるが、販売物によって多少はゾーン分けされているようだ。
可愛い雑貨たちに心が動かないわけでもないが、結が気になるのはやはり——。
「まずはお菓子を売っているお店かしら」
吐く息も白い真冬でも変わらず、いつだって結を幸せにしてくれるのは甘いお菓子。
ここはクリスマスらしい物をと心弾ませ、順に店を眺めていくことにした。
「プレッツェル……。可愛らしい形よね」
ドイツの塩パンとも呼ばれるプレッツェルは、有名なだけあってやはり取り扱う店も多い。その中でも『窯焼き』の文字が気になり店内を覗けば、奥の裏口のほうにそれらしきものがチラッと見えた。
「このお店だと窯で焼いているのね。自分でも作ったことはあるけど、流石に家に窯なんてないし、気になるかも。やっぱりオーブンとは違うのかしら」
違いをあれこれ考えてはみるものの、やはり食べてみるのが一番!
早速注文してサンタ模様のワックス紙に挟まれたそれを受け取ったら、近くのテーブルで香りを楽しんで——嚙んだ瞬間、結の瞳が驚きの色に染まる。
「え、こんなに食感が違うものなの?」
オーブンで焼いたものと比べ、太い部分の食感がふわふわもちもちしているのだ。
最初は中から溶け出してくる発酵バターのせいかと思ったが、噛んでいるうちにますます謎は深まって。
——後に結が調べたところ、窯で焼いた場合は内部の構造による遠赤外線効果や、それによって起こる対流熱で中に水分を多く残したまま焼けるため、今回のように『外はカリッと、中はふわもち』に仕上がるのだそうだ。
とはいえ、そんな事を今の結は知る由もなく。
「とっても美味しい。頼んでみて良かったわ」
最後の一口まで堪能すると、次は何にしようとお店選びを再開する。
「ローストアーモンドに蜜を……? これは初めて見るわね」
じっと興味深く見ていたら、お一つどうぞと勧められ。
ありがたく赤い粒を口にすると、カリリと蜜の砕ける音と共にアーモンドの香ばしい焙煎臭が、そしてチェリーパウダーの甘酸っぱさがなかなかクセになる味だった。
となれば全種類欲しくなり、小サイズのミックスカップを購入して次のお店へ。
(「こういうふうに普段見ないものも楽しめるのって良いわね」)
……隣の空白が気にならないと言えば噓になる。
けれど逆にあの子に心配されないように。
「他には何かあるかしら?」
今この瞬間を楽しもうと、結はマーケットをそぞろ歩いていくのだった。
●
大きなツリーを目印に歩いていけば、【待降節マーケット2025】と書かれたアーチが見えてくる。クリスマスのモチーフで飾られたそのアーチはフォトスポットの一つらしく、スマホを構える人々を眺めながらクレス・ギルバート(晧霄・h01091)は広場に足を踏み入れた。
「待降節が始まるとどこも賑やかだよな」
クレスの故郷にも待降節の風習はあるが、音楽も装飾も似ているようでどこか違う。
(「前にもそんな事を思ったような……まあいいか」)
何となく既視感を覚えながらも、くるみ割り人形の隣に鎮座する、見慣れたサンタ帽の妖精人形に眦を和らげて。
「さぁて、今年は何を贈りますかね」
大切な幼馴染への贈り物を探し、今日は一人気ままに散策を楽しんでいた。
「……けどその前に!」
何はともあれ腹ごしらえだと、食べ盛り男子の視線はドイツ料理へ釘付けになる。
ヴルストにアイスバイン、シュバイネハクセにターキーレッグ……目に映る料理の写真のどれもが美味そうに見えて惑わされそうになるが、悩みつつも後のことを考えて。
選び抜いたドイツ料理を立食用テーブルに並べたら、いざ実食!
「どれからいくか……ここはやっぱヴルストの盛り合わせからだな」
わくわくしながら、まずはあつあつの白いヴルストに十字の切れ目を入れる。ほわりと立つ湯気に逸る気持ちを抑え、カトラリーでそっと皮を剥いて……。
「うわ、食感がふわふわしてて美味っ!」
口の中でほどけるような、ふわっと柔らかい食感とやさしい旨みがじんわり広がっていく。ブラウンシュガーと香辛料を混ぜた甘いマスタードも、やわらかな白いヴルストの個性を潰すことなく絡まって。
「こっちのカリーヴルストはと……熱っつ、でも香ばしくて美味い!」
パリッと音を立てて噛めば、焼き上げたヴルストから溢れる肉汁が舌を焼く。その熱さを何とかやり過ごすと、スパイシーな香りとケチャップの甘み、そしてそれに負けない肉の旨味が次々と押し寄せてきた。
美味い、美味いけれどクレスにはあと少し|足りない《・・・・》。
「少し辛くするか……」
辛さ調節用のカレー粉を更に足して、ピリリと走る刺激に満足げな溜息を漏らし。
自分も周りの大人たちのように成人すれば、これにビールが欲しいと思うのだろうか……同い年のあの少女も?
「っ、ねぇな!」
ジョッキ片手に白い口ヒゲをつけた歌姫を想像し、思わず吹き出してしまうのだった。
●
料理を満喫した後は、当初の目的通り贈り物探しの旅へ。
「とりあえずシュトーレンは買ったし、後は……」
建ち並ぶ雑貨屋を巡りながら、何が良いだろうかと隅から隅まで吟味していく。
愛らしいスノーマンに銀の輝きが降り積もるスノードーム?
からくり仕掛けのトナカイが唄う木製|自鳴琴《オルゴール》?
蔦の絡まる壁や石柱が印象的な陶器製洋館のキャンドルハウス?
どれも良さそうに思えるけれど、あと一つ決め手に欠けていて。
そんなさ迷う視線が定まったのは、ガラス細工のオブジェが飾られた棚のとある場所。|鏤《ちりば》められた星が綺羅めく雪色硝子のツリーを見た瞬間、贈る相手の笑顔が思い浮かんだ。
「……これにしよう」
そっと手に取り様々な角度から眺めれば、その綺羅めきは傾きに合わせコロコロ色を変えていく。
「ま、俺が何を選んでもあいつは喜ぶけどな」
——クレスが選んでくれたの? ありがとう、とっても嬉しいわ!
きっとそう言って春に綻ぶ花のように咲むのだろう。
それを思うクレスもまた、柔いあたたかな笑みを咲かせたのだった。
●
待降節マーケット会場の端のほう、ビール小屋の傍らにて。
「このアーモンド、神が祝福を与えたかのように芳醇な香ばしさであるな」
全体がよく見渡せるその場所で、タミアス・シビリカス・リネアトゥス・フワフワシッポ・モチモチホッペ・リースケ(|大堅果騎士《グランドナッツナイト》・h06466)は蜜を纏ったローストアーモンドを思う存分堪能していた。
いつものように|騎士長官《マギステル・エクィトゥム》に搭乗しての来場に、最初こそざわめきが走ったものの……遊園地という場所と昨今のコスプレ事情により、『今日何かイベントやるのかな?』と脳内変換されたようで。
特に混乱も起きぬまま人々は慣れていき、順調に欲しいものを購入し終えて今に至るというわけだ。
まぁモンゴリアンデスワームが包帯巻いただけで徐々に慣れるからね。ちょっと(?)大きい鎧騎士が黄金に輝いてても多分いけるいける。
それはともかく。
ビール小屋から空樽を借りて作った騎士長官用のテーブルの上、リースケが次に口にしたのはフレンチトーストだ。ちゃっかりプルーンジャムを挟んで豪華バージョンである。
「清貧は|尊《たっと》ぶべきだが、今日の私は|金持ち騎士《ライヒェ・リッター》の気分なのでな」
予め騎士長官を操縦して小さく切り分けたそれを、頬袋いっぱいに詰め込みながらのキメ顔ありがとう。
なお寒さはもこもこ冬毛で凌げており、更にベリーティーでぽっかぽか。おまけに騎士長官の腕に提げたエコバッグには、拠点への持ち帰り用にシュトーレンも確保済みという周到さ……すっかり√能力者としてのリス生を満喫しているリースケであった。
——と、このまま平和に終われれば良かったのだが。
この後子供の誘拐事件が起こるというなら、それを防いでこそ高潔なる騎士道を貫けるというもの。
「この穏やかな光景を脅かす者は、断じて許すことはできぬ」
ベリーティーで喉を潤すリースケの視界には、クリスマスを待ちわびながらイベントを楽しむ人々の姿がある。それは決して悪によって壊されて良いものではない。
周囲に怪しい着ぐるみ等がいないか確認しつつ、リースケは賑わいを楽しんでいた。
●
「むぅ……この辺りにはいないのだろうか」
見える範囲に敵影はなく、ならば動物に話を聞こうと思ったのだが……寒さのせいか、はたまた遊園地の広場内だからだろうか。肝心の動物の姿が見当たらない。
だがふと思いついた場所へ向かってみると——。
「ああ、やはり貴公らはここに居たか」
——食器を回収する小屋の裏、ごみステーションの屋根の上。
そこにたむろするカラス達を無事見つけ、食べ物と引き換えにリースケは情報を得た。曰く、「そんな奴らはまだ見てないが、見つけたらまぁ教えてやるよ」とのことだ。空からの目を手に入れたことは大きなアドバンテージになるだろう。
再びテーブルに戻ると、適当に相槌を打つよう自律モードで立たせておいた騎士長官が酔っ払いに絡まれていた。よく見れば子供たちも周囲に集まっており、その無垢な瞳は「カッコいい」と憧れの光を宿していて——。
(「リースケよ。仲間を助け、弱きを守り、正義のために戦うことを忘れるな」)
そんな彼らの笑顔を見て、リースケはこれまで幾度となく口にした黄金の誓約を改めて誓うのであった。
●
——老若男女問わず賑やかな|待降節《アドベント》マーケットの一角で、だらんと尻尾を下げる猫ちゃんが一人。
「んんん、残念だにゃー……」
水色のおさかなポシェットを抱きしめ、ミューレン・ラダー(ご機嫌日和・h07427)がそう呟いた。本当は大好きな|永和《どうきょにん》と来たかったのだが、年寄りに寒さと人混みは厳しいと断られてしまったのだ。心なしか、大きなオレンジリボンも耳と同じくペタンと下がって見える。
「……でもこの後を考えると、安全の為にはこれで良かったかも?」
あくまで予知は予知。もしもがあった時を思えば、家で安全に待っていてくれたほうがこちらも安心できるというものだ。
「うん、きっとそう! じゃあとびきり素敵なクリプレを買おうかにゃ!」
寝かせていた耳をピンと立てたら、意気揚々とクリスマスの贈り物探しに出発!
「んにゃ? アーモンドのいい匂い……」
琥珀色の瞳を瞬かせ、匂いにつられてやってきたのはローストアーモンドのお店。
目の前のショーケースには4種類のアーモンドがぎっしりと詰められ、計量して希望のカップ等に入れてくれる形式になっている。
一応試食も出来るようなのだが——。
「誘惑が強くて逆らえにゃい。ミックスで!」
迷うくらいなら全部買っちゃえ、と即お買い上げ。
カップから早速取り出した白い粒を嚙み砕けば、パキパキッと飴が割れるような音がする。絡めた蜜が冷え固まって、飴のようにコーティングされていたのだろう。その次に感じるのは甘いあまーいバニラフレーバー。そしてカリッとした食感は焙煎されて香ばしくなったアーモンドだ。
「んん~っ♪」
パキパキ、カリリッ。
口の中で奏でる音と甘味のハーモニーに、ミューレンの尻尾がピンと立つ。
「おいしー! ん、あっちからの香りはチョコレートかにゃ? 飲み物なら会場をうろうろできるし買っちゃお!」
そうしてマグカップを受け取った手に伝わる温かさに、ふんにゃり顔を緩めたのも束の間。結構な熱さに思わぬお預けを食らってしまった。
「うう、すぐに飲みたいけど猫舌だから気を付けなきゃ……」
それでもお気に召すまま、気の向くままに。
ホットチョコレートに息を吹きかけながら、ミューレンはてくてく歩いていく。
●
適度に冷めたドリンクを飲みつつ、雑貨屋の辺りを遠巻きに眺めていたら……とある小屋からきらきらした光を感じる。
「なんだろ? 行ってみよっと!」
念のためマグカップの中身を飲み干すと、ミューレンはきらきらへと近付いてみた。
ステンドグラスや絵付きのキャンドルホルダーが、蠟燭の火に揺られて色つきの影を落としている。その美しさに「わぁっ」とテンションが上がるものの、懸念点が一つ。
「火を使うものはいい顔をされにゃいから……」
拾い主にとってはまだまだ仔猫なのだろう。
心配はかけたくないと、ミューレンは店内を見回して——。
「あっ! いいの発見!」
視線の先、梁から吊り下がるのは、きらきらのビーズをいくつも繋いで作られたクリスマスリース型サンキャッチャー。家の中でもお日様の光を感じられる素敵アイテムだ。
いつもの暖かい部屋で同居人と寛ぎながら、冬の日光できらきら虹色に反射するリースを眺めてお昼寝する——それはミューレンにとっても特別で贅沢な時間に思えて。
「これにしよっと。喜んでくれるといいにゃ!」
期待に胸を弾ませながら、笑顔でプレゼントの包装をお願いするのだった。
第2章 集団戦 『プレとレコ』
●潜入開始
——遊園地の人気の乗り物から遠いせいで、あまり使われてない共用トイレ。
そのうちの一つ、バリアフリートイレから何だかひそひそ声がします。
「プレー!」
「レコー!」
「……よしよし、うまいこと繋がったな。さすがウチの技術班だぜ」
広い個室の床がガパッと開き、下級戦闘員の『プレとレコ』たちが飛び出しました。続けて鱗に覆われた手をニュッと突き出し、ワニの怪人も出ようとしましたが……なんということでしょう。
「……こいつはやべぇ、俺のキュートな丸い腹がジャストフィットしちまったぜ!」
うっかりハマった姿を見て、慌てて戦闘員たちが引っ張ります。
うんとこしょ、どっこいしょ。それでもワニは抜けません。
「あー……とりあえずお前ら任務は分かってんな? 先に行ってガキ共ここに連れてこい。それまでにゃ俺も何とかして出るから」
「プレプレー」
——どうやって出るんだろう。
そんなことを思いながらも素直に従うプレコたちでした。
●We wish a…?
場所は変わって、ここは園内のゲーム施設。
「お母さーん、あっちでプレちゃんたちと遊んできていい?」
「いいけど、プレちゃんって誰?」
「あの子たちだよ!」
男の子が指差したさきでは、小さなナマズのような子供たちが何かを振っています。お母さんがよく見ると、それはクリスマス定番の大きな赤い靴下でした。他にもサンタ人形を抱いていたり、クリスマスベルを鳴らしていたり。危険はないように思えます。
「あら、この遊園地のキャラの着ぐるみかしら。初めて見たわ」
「ねぇ~、お母さんいい~?」
「危ないことしないならいいわよ。でもあんまり遠く行っちゃだめよ?」
「分かった! プレちゃんレコちゃん、いいってさー!」
「ププレー♪」
「レレコー♪」
お母さんに許可をもらい、人間の子供もプレとレコたちも大喜び!
みんなで楽しく水鉄砲シューティングを楽しみました。
こんな風にゴーカート広場で、ミラーハウスで、コーヒーカップやメリーゴーランド……その他にもいっぱい、遊園地のいろんな場所で。
プレとレコは小班に分かれ、子供たちと仲良くなる作戦にとりかかりました。
全ては子供をさらうため——ではなく。
「プレプレー」
「レコレコー」
(サンタさん来てくれるかな? なかよくしてたらきっと来るよね)
そんな期待でドキドキわくわく。
誘拐のことはすっかり頭から抜け落ちているのでした。
●マスターより
内容的にこのほうが良さそうなので、二章は上記のように柔らかい文体でいきます。
プレイングボーナスは【『プレとレコ』とクリスマスらしいことをする】です。
集団戦ですが肝心のプレとレコがサンタに夢中なため、こちらから攻撃しない限り戦闘にはなりません。
また、サンタに限らずクリスマスらしいことが出来れば満足して帰ろうとします。
なおワニ怪人を先に見つけようとしても、彼は今穴を通るための準備で離れておりますので空振りに終わります。(プレイングのその部分だけ採用しません)
遊園地にありそうな遊具・施設なら自由に設定・利用していただいて構いません。何かを調達したい場合も同様に、よほどの物でない限り売っているものとします。
それでは皆様の楽しいプレイングをお待ちしております!
●
入場ゲートから奥のイベント広場まで続く、大きな大きなメインストリート。
その近くにはくるくる回るコーヒーカップや、かぼちゃの馬車がメルヘンチックなメリーゴーランドなどがありました。
あちこちから聞こえる賑やかな声に、|小明見《こあすみ》・|結《ゆい》(もう一度その手を掴むまで・h00177)の表情も自然と緩んでいきます。
「あれがプラグマの戦闘員、よね。思ったより、可愛らしい見た目をしているのね」
実際に目にした|プレとレコ《改造プレコ》は、つぶらな瞳と幼い動きがどこか愛らしい子供のようで。これは着ぐるみと間違えても仕方ないかもしれません。
「……見る限り本当に子供たちと遊んでいるだけみたい。いい子にしてる、ってことなのかしら」
視線の先ではプレコたちが時々辺りを見回しています。……もしかしたらサンタさんを探しているのかも?
「それじゃあ、私もサンタさんとして、彼らにプレゼントをしなくちゃよね。一応、話は聞いていたから準備もしておいたし」
そんな結のスクールバッグには、教科書の代わりにある物がいっぱい詰まっています。
今日の為に準備したそれを、どうやって渡そうか考えていると——。
「もしかして、同じ目的かにゃ?」
隣から聞こえた声に振り向くと、琥珀色の瞳が結を見上げていました。
「だったらミューに任せて!」
そう言って元気な声と共にどろん、と煙を纏ったのはミューレン・ラダー(ご機嫌日和・h07427)です。
瞬きの間にサンタ衣装へ変身した彼女の手には、ぴっかぴかのアルミ風船の紐がたくさん握られていました。サンタさんのお顔が描かれたものや、星型やハート型……どれもキラキラで目を惹きます。これなら彼らも気になるはず!
「メリークリスマス! よい子にはサンタからプレゼントがあるよ♪」
「とっても可愛くて綺麗な風船よ、こっちに来てくれるかしら」
二人は口に手を添え、遊んでいる子供たちに呼びかけました。
お日様の光を受けて光る風船に、遊びに夢中だった子供たちから歓声が上がります。
「うわあ、きれいね!」
「オレこのサンタさんのやつがいい!」
「|プレプレー《サンタさんー》♪」
風船めがけ、次々駆けよってくる子供とプレコたち。
二人がこのまま邪魔にならない場所に誘導しようとしたその時——入場ゲート付近から、賑やかな音楽が聞こえてきました。
●
真っ白な雪だるまさんに可愛い雪の妖精さん、お鼻の大きな雪の小人さん達を先頭に、雪の国のパレードの始まりです。
メインストリートを歩く彼らの歌と踊りに人々は大はしゃぎ!
子供やプレコたちもまた、楽しそうに音楽に乗って踊っていました。
「あら、あれは……?」
そう言って結が指差したのは、キラキラ輝くモールと電飾で飾られた二台のソリ……?
「……ソリじゃなくにゃい? なんか、戦車みたいだよね」
それもそのはず、あれは全てWZなのです!
ソリに見えるのは|4頭立て戦車《クアドリガ》で、それを牽くのはトナカイの角と赤い鼻をつけた|重騎兵《カタフラクト》に乗ったWZ|騎士《エクィテス》。ちょこんとサンタ帽を被った騎士には、それぞれ黄金の堅果団の守り手である|堅果守護者《ナッツガーディアン》達が搭乗しています。
二台のうち前方の戦車には頭にサンタ帽、背にはサンタ風マントをはためかせた|騎士長官《マギステル・エクィトゥム》が乗っていて、彼らに指示を出しているようです。
「堅果を讃えよ!さぁ皆で祝おうではないか!」
操縦席からタミアス・シビリカス・リネアトゥス・フワフワシッポ・モチモチホッペ・リースケ(|大堅果騎士《グランドナッツナイト》・h06466)が宣言すると、フリーの重騎兵が誘導と安全確保のため左右に展開していき……その場でスタッフ扮するサンタさんと一緒にレッツダンス!
「これ、遊園地の電飾パレードとコラボしてるのかしら……?」
「なかなか良い質問だな」
前を通り過ぎる途中、頷きながらリースケが戦車から取り出したのは……許可証?
「説明しよう! 黄金の堅果団はふわふわっとした社会的信用があるため、施設側と予め電飾パレードにクアドリガ持ち込みの段取りを付けているのである!!」
「わあ、特撮モノによくある台詞!」
「さてさて、貴殿らにもこれを。褒めるに値する良い子を褒めるのは正しき事である」
そう言ってリースケは銀色のドングリとお菓子を詰めた靴下を皆に配ると、再びゆっくりと戦車を進ませました。もちろん中身はナッツのお菓子です。
笛と鈴の音を響かせながら、サンタ戦車のパレードは続きます。
とにかく遊園地と共同でのパレードならと、結とミューレンも安心して子供たちと一緒に彼らのパフォーマンスを楽しんで——。
最後尾のマスコットキャラのパフォーマンスが終わると、集まった人々から大きな拍手が起こります。その拍手の音をBGMに、パレードはメインストリートを奥へ奥へと進んでいきました。
「そろそろ行くわよー」
「はーい。プレちゃんたちバイバイ!」
「プレレー!」
一緒に遊んでいた子供たちを見送って、ぼくらはどうしよ?とプレコは首を傾げます。
「な、なんか凄かったにゃ……」
「WZもあんな使い方があるのね。それじゃ、私たちともう少し遊びましょうか」
「うむ! 気の済むまで遊んでゆくが良かろう!」
いつの間にか戦車から降りた騎士長官が、皆の後ろに立っていました。どうやらパレードは堅果守護者達に任せたようです。
「ん! それじゃ、邪魔にならないところで広げて遊ぼう♪」
こっちこっちと手招きするミューレンに、『なぁになぁに?』と嬉しそうに瞳を輝かせてプレコがついていきます。
「ふふ……本当にいい子たちね」
そんな彼らを微笑ましく思いながら、結とリースケも一緒に移動するのでした。
●
適当な場所を見つけたら、サンタ姿のミューレンを中心に皆で輪になって。
「じゃあ、ここからはミューのワークショップ開催にゃ!」
サンタ袋の中から「じゃじゃーん!」と風船セット一式を出すと、プレコたちもわーっと嬉しそうにぺちぺち拍手します。
「一緒に風船でツリーを作ろう!」
「素敵ね。どうやるのかしら?」
「お手本を見せるから、よく見ててね! あと二人に手伝ってもらえると嬉しいかにゃ」
「任されよう!」
ミューレンは皆に風船を配り、さらに袋から支柱のある台座と紐も並べました。
一番下になる風船は大きく膨らませて、次の段はそれより小さめに。見本を元に、結も借りたハンドポンプでどんどん緑の風船を作っていきます。
「だんだん小さくなるように作って、風船同士を縛って支柱に固定して……」
「ならばそれは私がやろう。私なら中から調整も可能だからな」
騎士長官から降りて身軽になったリースケは台座に潜り込むと、手渡された風船を支柱に捩じって結び付けました。
緑の風船がだんだんツリーの形へと変わっていきます。
プレコもだんだんやりたくてワクワクそわそわしていきます。
それを見て猫の目をにんまり三日月型に緩めると、ミューレンはカーリングリボンを取り出しました。
「これで飾りを作ることもできるよ!」
「あ、それ私もよく使うわ。お菓子のラッピングでこれを飾ると可愛いのよね」
「レコー!!」
ミューレンと結がそれぞれハサミ等でしごけば、くるんくるんっとリボンがカールします。それを見て更にプレコたちは湧き立ちました。
「風船の隙間をこうやって埋めるとツリー自体も豪華になるにゃ!」
「むむっ、この辺が少しばかり寂しく感じるな。こちらにもリボンをかけてはどうか」
「あ、いいね! じゃあこうして、っと」
リースケからのアドバイスに、別のリボンで飾り付けて。最後に金色の星をバルーンアートで作ったら、てっぺんに飾って完成です!
きゃあきゃあ喜ぶプレコたちに、ミューレンは新たな台座と支柱を取り出すと。
「気になるなら作ってみる? 材料はまだまだあるよ!」
「それじゃあ精霊さんも召喚しておきましょうか。一緒に遊んであげて?」
「プレレー!!」
二人のそんなお誘いに、やりたいやりたいと手をパタパタ。
結の精霊と共に早速嬉しそうに風船を膨らませ、思い思いの場所に結んでいきます。
「ふむ……色も大きさもバラバラ、随分とカラフルになったがそれもまた思い出というものだな」
腕を組み、後方保護者顔のリースケがそう呟くのに二人も同意して。
「プレー!」
「レコー!」
やがて出来上がったツリーを掲げ持って、見て見てーとプレとレコが声を上げました。
——風船deツリーのワークショップ、今日はこれにて閉幕です!
●
たくさん遊んで頭も使った後は、やっぱり甘いお菓子が欲しくなるもの。
リースケに貰った靴下のお菓子を今食べようか、でも……と迷う姿に、結はくすっと笑いながらしゃがみこみ、彼らと目線を合わせます。
「サンタさんからのプレゼントだもの、おうちまで大事に抱えてたいわよね。私からも皆にプレゼントがあるの。受け取ってくれるかしら?」
「おっと、ではこれを。やはりサンタにはこれがないとな」
そう言ってリースケはするすると騎士長官に登ると、その頭からサンタ帽を取って結に渡しました。ちょっと大きいサイズのそれを斜めに被れば、可愛い女子高生サンタのできあがりです!
「ふふ、ありがとう。お借りするわね。さあ皆、良い子で並べるかしら?」
スクールバックから可愛らしくラッピングされた袋を取り出して。
ちょうだい、と出された両手の上に精霊と一緒に配っていくと、ぴょんぴょん飛び跳ねて大喜び!
そわそわしながら「開けていい?」とばかりに見つめてくる瞳に眦を緩めて頷き返すと、プレコたちは大事に大事に開封して……。
コロンとまぁるいスノーボールクッキーに、雪玉みたいだとはしゃいで回り。ナッツやドライフルーツでカラフルに飾られたチョコレートバークも、キラキラでキレイとうっとりしてしまいます。
「食べやすいミニサイズのお菓子を作って来たの」
「プレ、プーレ!」
「レコ、レーコ!」
プレコたちは口々に「たべたい、たべたい」と騒いでいるように見えました。
結が召し上がれと促せば、きゃあ、と甲高い歓声を上げ、プレコたちは気に入ったものから頬張って。甘い甘いお菓子に、彼らのつぶらな瞳もあまーく蕩けていきます。
「あなたたちも、良かったらどうぞ。お店で売っているものにはかなわないけど、美味しくできていると思う」
「プレレ!!」
そう言ってミューレンとリースケにも手渡す結に、プレコたちがぶんぶん首を横に振りました。あらら、勢いあまって転ぶ子も。
「わ、大丈夫?」
「ふふふ……謙遜することはない、と彼らは言っているようだ。『おいしー、きれい、たのしー、だいすき!』と、私の耳にはそう届いているぞ」
彼らの言葉を翻訳してもらったことで、喜んでいるのがより伝わって。
「んん~! これすっごく美味しいにゃ♪」
ミューレンもスノーボールをサクッ。ほろほろ崩れていくクッキーに、尻尾がくねくね喜んでしまいます。チョコバークを食べたリースケにも、ナッツの風味を活かしていると誉められて、嬉しそうなサンタのお姉さんの笑顔にプレコ達もニッコニコ。
サンタさんに会えて、一緒に遊んで、プレゼントも貰えたプレとレコ達。
すっかり満足し、「また来年もきてね」といい子にすることを誓うのでした。
●
イベント広場を後にして、|翠曜《すいよう》・うるう(半人半妖の古代語魔術師・h07746)と|朝風《あさかぜ》・ゆず(熱病の偶像・h07748)は子供向けゾーンにやってきました。
子供と仲良くなるなら、必然的に子供が集まる場所に向かうはず。
そう思ってここに来たのですが……おやおや?
「うわーん、出口分かんないよー……」
「プレレッ!」
「あ、プレちゃん! こっちなの?」
「プレー♪」
立体迷路の中で迷子になった少年の手を引き、一緒に出口へ向かうプレとレコ達の姿が見えます。同じように別の場所でも仲良く手を繋ぎ、協力して迷路脱出を楽しんでいるようで……そこには悪意のかけらも感じられませんでした。
「あら、すっかり本業を忘れているの?」
「本業……? あ、そうか」
そうです、プレコたちは【秘密結社プラグマ】に忠誠を誓う組織の下級戦闘員。今回はこどもを誘拐するのがお仕事のはずです。それが仲良くしてるだけということは——。
(「——それだけ本気でサンタさんを待ってるってことよね」)
サンタについてはいろんな説があるけれど、『よい子にはプレゼントを持ってやってくる』というのが共通のイメージ。
だからこそプレコ達もよい子で待っているのでしょう。
「夢見る良い子には応えてあげなくっちゃ、ね?」
「あの子達にもクリスマスを楽しんで貰えればいいってことだよね!」
パチッとウインクするゆずに、うるうも声を弾ませにっこりスマイル!
「いい子にしてるの、とってもえらいよ! がんばろうね、ゆずちゃん♪」
「ええ! 頑張りましょ、うるうちゃん♪」
本日のないしょのミッションは、【夢見る良い子に楽しいひとときを】に決定です!
●
子供たちが出口にたどり着く前にと、早速うるうは妖怪たちを呼び寄せます。
「よぉし、みんなに|サンタさん《ゆずちゃん》ショーの応援をしてもらおう!」
頭に釜を被った毛むくじゃらの|鳴釜《なりかま》に、魔を祓う|払子守《ほっすもり》。貝合わせの妖怪である|貝児《かいちご》や豆腐を手にした豆腐小僧、そして神楽鈴を頭に乗せた鈴彦姫など……子供たちが怖がらず、一緒に遊べそうな見た目の妖怪たちが呼びかけに応えてくれました。
「これを使えばクリスマスっぽい奏でになるよね♪」
そう言いながらうるうは音色の違うハンドベルを皆に配っていきます。
自ら音が鳴る鳴釜や鈴彦姫は興味深そうに、貝児たちもリンリン遊びながら練習して。
「ゆずちゃん、こっちは準備できたよ」
「ふふ、ゆずの喉もばっちりよ。それじゃあ一旦隠れましょ!」
わくわく、そわそわ。
みんなはドッキリを仕掛けるような気持ちで子供たちを待ちます。
やがて賑やかな声が出口に近付いてきて。
「やったー! いっちばーん!!」
「レココー♪」
子供たちが続々と立体迷路を脱出してくるのを確認し、ゆずは息を吸って——。
♪Twinkle Twinkle |希望《ベツレヘム》の星が瞬いたら
Jingle Jingle 鈴を鳴らしてソリを待とう
良い子にしていたあなたの前に サンタは必ずやってくる
【|世界を変える歌《クリスマスソング》】を歌うサンタ姿のゆずの幻影が、子供たちひとりひとりの傍に現れました。それに合わせて妖怪のハンドベル隊も出動です。
「メリークリスマス! 皆はいい子にしてたかしら?」
歌の後に本物のゆずが物陰から登場すると、子供たちは大興奮!
|プレとレコ《改造プレコ》たちも一緒になって、手にした靴下や人形をふりふりサンタさんにアピールしています。
「仲良く遊んでいたのね! わたしやトナカイさん、|お友達《妖怪さん》とも一緒に遊んでくれる?」
元気な「いいよー!」の声に「プレー!」「レコー!」が混ざるのを聞いて、ゆずは思わず笑ってしまいました。
(「素直に喜ぶ姿は皆可愛いわね」)
(「ふふ、かわいい。みんなキラキラの笑顔だ」)
そんな姿を写真に収めながら、うるうもやさしい笑みを浮かべていました。
楽しそうなもの、賑やかなもの、短い寿命の者の儚い美しさ。
色を変え形を変え、万華鏡のようにきらきら輝くものを眺めるのが、うるうはとても好きなのです。
「じゃあ、わたしのお歌に続いてお友達と一緒にベルを鳴らしてね!」
パペットのトナカイを操りながら言えば、「はーい!」とお利口な返事が返ってきて。
妖怪たちに教わって、子供とプレコたちは合奏したり、ゆずと一緒に歌ったり。
上手かどうかは関係ありません。
楽しいは正義! 楽しめた子が優勝、つまりみんな仲良く優勝です!
●
たのしいたのしい演奏会の次は、お待ちかねのプレゼントタイム!
「そろそろお腹空かない? 私からもプレゼントあるよ!」
カメコよろしく、たくさん写真を撮ってほくほく顔のうるうから、皆にお菓子が配られました。さっき雑貨屋巡りをしたときに買っておいた、靴下型のトートバックにも子供たちは大喜び。かしこくお礼を言いながら、甘いお菓子で笑顔の星が瞬きます。
「みてみて、皆の楽しそうなところ撮れたよ♪」
「レコレコー!」
撮った写真をみんなの前に広げると、プレコたちが一枚ずつ大事に両手で持って。嬉しそうに子供たちと一緒に覗き込でいました。どうやら写真がお気に入りのようです。
「気に入ってくれた? じゃあ、今度は自分で撮ってみようか」
「プレレー」
うるうから渡されたインスタントカメラを掲げながら、プレコたちは何を撮ろうかわくわく相談中。二人はその姿を笑顔で見守って。
「プレゼント、喜んでもらえて良かったわね♪」
「ね。色んなクリスマス風景を撮ってもらいたいな。いい思い出になるよね」
「あら、サンタさんとの思い出もきっと良いものよ?」
あくまで自分はカメコと言わんばかりのうるうに、ゆずはこてりと首を傾げます。
「ね、|サンタさん《うるうちゃん》も一緒に撮りましょ! 皆で撮った方がもっと良い思い出になるわ!」
「……ふふ、そうだね。みんな一緒のほうが思い出になるよね!」
「じゃあサンタさんと一緒に写りたい子集合ー♪」
そう言って指を立てたゆずの元に、次々とみんなが集まって。
「たくさん撮ったわね、どれもいい笑顔!」
「うん、素敵だ! 色んな写真、どこかに飾れたらいいな」
「プレプレー♪」
「レコレコー♪」
どこに飾るか悩むことすら楽しそうな二人を見ながら、プレコたちは大事に大事に写真をポッケにしまいます。
——よい子にしてお手紙出すから、また来てくれるといいな。
そう願いながらサンタさんたちとお別れするのでした。
第3章 ボス戦 『幹部怪人うっかりヤ兵衛』
●
念願のサンタさんに出会い、一緒に遊んだり演奏したりと楽しいひと時を過ごしたプレとレコ。プレゼントも貰えてご機嫌だが、何かを忘れているような……?
思い出せないということは、きっとそんなに大事なことではないのだろう。
そう結論付け、彼らはサンタたちと一緒に来た道を戻って帰ろうとして——。
ドガガガガガガッ!!
——派手な破壊音と共に、目の前にある共用トイレの屋根を何かが突き破るのを目撃した。
「プレー?!」
「ゼェ、ゼェ……ようやく出られたぜ。まさか1日1回しか使えねえ超大技、【ヤ兵衛デスロール】を使わされるとはな」
驚くプレコ達の前に着地したのは、ワニ怪人である『幹部怪人うっかりヤ兵衛』だ。
ちなみにデスロールとはワニが獲物に食いついた後ドリルの如く体を高速回転させ、捩じ切る動きのことである。どうやら穴から出るためにそれを応用し、回転と勢いで無理やり通り抜けたようだ。
ヤ兵衛は後ろを振り返ると、トイレの惨状に今更ながらに驚いて。
「こいつはやべぇ、勢いつけ過ぎてうっかり屋根を突き破っちまった! ……ああ、お前ら戻ってきてたのか。ん? ガキはどこだ?」
「……レコッ!?」
大事にプレゼントを抱えながら「あっ」という顔をしたプレコ達に、全てを察し諦めの境地のような表情を浮かべた。
そうだね、下級戦闘員のお仕事完全に忘れて遊びに夢中になってたね。
「おまけにしっかり後をつけられてんじゃねーか……お前らヒーローの関係者か? それとも報告にあった『EDEN』とかいう連中か?」
爬虫類特有の縦長の瞳をキロリと向けられ、能力者たちが臨戦態勢を取る。
後はこの幹部を倒せば誘拐事件は完全に防げるはずだ。
「見られたからには帰すわけにはいかねぇ、お前らやっちまえ!」
ヤ兵衛が号令をかけ、戦闘員であるプレとレコをけしかけようとした!
——しかし誰も動かない!
「……おい、聞いてんのか戦闘員ども」
「|プレ、プレプレー《おてがみ、だしわすれたくせに》」
「|レココ《ゆるされない》」
「いや、それはうっかりしててだな……お、おい待て!」
そんなやり取りの後、|サンタ《能力者》に嬉しそうに手を振ると、プレコ達はヤ兵衛の命令を無視してトイレの中へと入っていく……実は根に持ってたらしい。
そうして現場には未だ臨戦態勢のままの能力者たちと、ヤ兵衛だけが取り残された。
「……くそ、俺はいつもそうだ。いつだって肝心なところでうっかりミスして台無しにしちまう……。今回だって忘れず手紙出して、俺がサンタやっときゃこんなことにはならなかったんだ。……ちゃんと衣装も用意してたのにな」
ごつい鱗の生えた手で顔を覆い、ヤ兵衛がゆっくりと崩れ落ちていく。
好きでうっかりしてるわけじゃないんだよね。
むしろ色々用意してしっかり者のつもりまであるよね。分かる。
「この結果は俺の人生そのものだ、誰も俺を愛さねえ……くそ、お前らなんかにゃ分からねえだろうよ、うっかり者の気持ちなんてぇのは!!」
そう言って銃を取り出すものの、己のうっかり具合に相当ショックを受けているようである。
——彼をどうするかは、能力者たちの判断に委ねられた。
●マスターより
怪人が人気のない場所を選んでますので、特に一般人の避難などは不要です。
ご覧のようにうっかりヤ兵衛は有能ではあるんですが、そのうっかりな性格のせいで詰めが甘く、何度も辛酸を嘗めた経験のある怪人です。そのため敵であっても共感されると絆されますし、他人のうっかりエピソードにも同情してしまいます。(当シナリオ限定)
その辺りを上手く利用して攻撃、或いは戦闘を避け撤退させるのも有りでしょう。
今年の|汚れ《うっかり》は今年のうちに。
キレイに流しちゃってください!
●
「……誰も俺を愛さねえ?」
強化ガンを手にした幹部怪人・うっかりヤ兵衛の叫びに、|朝風《あさかぜ》・ゆず(熱病の偶像・h07748)の眉がぴくりと動いた。
「ああ、ああ、分からねぇだろうよ! どんだけ頑張ってもうっかりミスで全部台無しにしちまった時の気持ちなんてよ!!」
強化ガンをサンタ姿の少女達に向け、しかし弾丸を撃つでもなく。
ただ嘆きを感情のままに喚くヤ兵衛へと、ゆずは逆にビシッと指さして。
「馬鹿ね、思考停止したらそこで終わりよ!」
「あい……を貰いたいなら、『ありがとう』や『ごめんなさい』をちゃんと言えることが大前提な気がするな」
「う、うぐぐ……っ!!」
ドンッと言い放つゆずに続き、|翠曜《すいよう》・うるう(半人半妖の古代語魔術師・h07746)もまた視線でヤ兵衛に問いかける——「さっき、うっかりを言い訳にしてなかった?」と。
痛いところを突かれ、ヤ兵衛は二の句も継げず唸るしかできない。
……それでも感情が叫ぶのだ。
悔しい、うっかりさえなければ、と。
そんなヤ兵衛をよそに、二人はこっそりジャンケンして。
「それじゃあさ、うっかり者の気持ちが分からないかどうか、試してみようよ」
「……は?」
「じゃあ、ゆずから話すわね……ゆず、元地下ドルなの」
そうして静かに語られたのは、地下ドルになって間もない初々しい頃の失敗談。
きっと歌詞を忘れたとか、振り付けがワンテンポ遅れたとか可愛らしいものが——
「最初の頃はよくマイク忘れて歌ってて、皆の期待には添えてなかったと思うの。今のあなたと同じね?」
——全然違った。
稀によくある「マイクのスイッチが入ってなかった」ですらなかった。マイク自体を忘れたのなら、ライブの開催場所によっては最前列以外ほぼ聞こえなかったかもしれない……しかも|よく《・・》忘れていた、だ。
可愛い少女から飛び出たとんでもないうっかりに、流石のヤ兵衛も目を剥いた。
「そ、それでどうなったんだ……?」
「ゆずね、自分でも点検するようにしたの。あと、万一マイクを忘れても魅せられるようトレーニングもね!」
「ゆずちゃんがんばり屋さんだ……! ふふ、魅せられる夢を描く努力、素敵だね」
期待に応え、夢を魅せてこそアイドルと。
その時の振り付けを再現しながら明るくそう締めくくるゆずに、うるうが拍手しつつ様子を窺うと、ヤ兵衛もつられて拍手して……そのまま何かを考え込んでいるようだった。
「次は私だね。私も発注の数を単位違いでやっちゃったことあるんだ」
「お、俺もそれやったことある……そうか、嬢ちゃんもか……大変だったな」
「うるうちゃんもそんなことがあったのね」
しみじみと頷きながら、ヤ兵衛はうるうの語りに耳を傾けている。
気付けば強化ガンも背中のリュックにしまい込んであり、もはや完全に戦闘放棄して二人の話に聞き入る態勢だ。
「それで、どうしたんだ?」
「ちゃんと作家さんに謝罪したよ。でもお客様が買ってくれるように売り方を工夫して頑張ったの!」
ただ陳列するだけでなく、手書きPOPで商品情報を見やすくしたり。
実際の使用例の写真を飾ったり、他にもいろいろと出来ることを模索して。
すぐには効果が出なくとも、そうした工夫は客側にもやがて届くもので……。
「お客様の趣味開拓もできたし、私も作家さんも売り上げアップしてうぃんうぃん!」
にへ、と笑いながら両手のピースをくっつけ、うるうは『WIN』のWサイン。
「工夫や誠意ある対応でうぃんうぃん……! 凄いわ、流石ね!」
「そうか……そういうことだったのか。確かに俺は失敗したらすぐ逃げちまってた……」
地下アイドルと不思議小間物屋の店主……それぞれ職種は違えども、誠意を以て改善に取り組むその姿勢に、ヤ兵衛は自分にはない矜持を感じていた。
「俺にもやれるのかな……その、嬢ちゃん達みたいによぉ」
「ヤ兵衛さんも、うっかりをカバーできる愛嬌を見つけてがんばろう!」
「対策はしてるのね? 偉いわ! 次はカバーを頑張りましょ!」
ぽつり、ぽつり。
失敗したくない一心で準備だけは入念にしていたと、ヤ兵衛は二人に相談し始め……ひとつひとつ元気よく答えながら、二人のサンタガールがうらぶれたワニのおっさんを励ましていく。
……傍から見れば事案だが、今は彼女達しかいないのでセーフ!!
「あの子達が欲しかったものって何だろう? お手紙、よかったら見せて貰えるかな」
「おう、これだ」
そう言ってヤ兵衛がスーツの内ポケットから出した手紙には、緑のギザギザの周りに茶色いプレコ達らしき絵が描かれている。手の部分には色とりどりのボール……?
「へたくそな絵だけどよ、多分これツリーに飾るオーナメントが欲しかったんじゃねえかと思ってな」
「私にもそう見える……お手伝いしようかと思ったけど、もう買ってあるんだね?」
「だったら急いで帰って、あの子達に素直に謝ってプレゼントをあげましょ! そして一緒にクリスマスを楽しむの!」
「よし、そんなら……いや、でも許してくれんのかな……」
二人の言葉に背を押されて意気込んだが、やはり不安は消えなくて。
「何事も心が大事だもの。相手を想う姿勢があれば、うっかりもいつかは愛されポイントになるはずよ!」
ゆずみたいにね、と。
とびきり可愛い笑顔でウインクするゆずの瞳が昏き光を放つ。
「そうかな……そうかも……」
「そうだよ! いけるいける!!」
ピッカピカの眩しい笑みとトラペゾヘドロンの光により、とにかくすごい自信が溢れてくる。今なら何でもできそうだと、ヤ兵衛は胸を張り意気揚々と踵を返した。
「よし、そんじゃ帰るぜ。嬢ちゃん達ありがとな!」
「屋根は直しとくから、気にしないでね」
「あの子たちにもよろしくね♪」
彼が突き破った屋根をこそっとウィザードフレイムで直しながら、うるうとゆずは笑顔でその背を見送って——。
「……ねぇゆずちゃん」
「なぁに、うるうちゃん?」
「やっぱりこれ、ヤ兵衛さんがうっかり任務失敗したことになるのかな」
「……その失敗もカバーしてこそじゃないかしら」
——この後の彼の苦労を思い、くすくす笑い合うのだった。
●
「まぁまぁヤ兵衛くん、そう怒るなって。シワが増えるぞ……って鱗模様でした!」
何とも言えない空気の中を、そんな暢気な声が通り抜ける。
幹部怪人・うっかりヤ兵衛が手にした強化ガンを向ければ、そこには軽薄に笑う|不酒《ふざけ》・|杉留《すぎる》(巫山戯過ぎる・h05097)の姿があった。
「なんだテメエは!」
「なんだチミは、ってか! そうですわたしが通りすがりの変なサンタさんです」
「どこがサンタだよ、帽子もコートも全然違うじゃねえか!!」
「これはよい子にしか見えないサンタ服なんだよ、ほーらプレゼントだ! なーんてな」
ツッコミながら強化ガンを向けてくるヤ兵衛に対し、杉留も手にした銃を向ける。そうしてヤ兵衛の反応を待たず引き金を引くと……。
——ポンッ!
銃にしては間抜けな発砲音とともにフラッグガーランドが飛び出した!
「……は!? な、なんだ!?」
「クリスマスパーティーにお役立ち、オーナメントさんだよ。むむっ! 閃いた!!」
「本当に何なんだテメエは!? ちょっとは落ち着きやがれ!」
先程までの気まずいうっかりワールドはどこへやら、完全に杉留のペースに翻弄されている……それこそが彼の狙いだった。
不酒・杉留という男は冗談が好きで、いついかなる時もギャグを考えているような人間である。そこに至るまでには山より高く海より深い……かもしれない事情があるのだが、今回はサポートさんなので次回があれば乞うご期待、ということで。
ともかく閃いた杉留は更に場を温めようと、チャンチャカ軽快なメロディを口遊み。
「パフッ♪はやっぱりあのラッパがないと雰囲気出ないな……さてさて毎週日曜のお楽しみ、大喜利の時間がやってまいりました」
「ありゃあラッパじゃなくてクラクションだ……ってそうじゃねえ!」
「今の時期、街を歩けばどこもかしこもクリスマス。クリスマスといえばサンタクロースですが、大抵『サンタ』と略されて『サンタクロース』と呼ぶことはありませんね。では皆さんにはどうして『クロース』が略されるのか考えてくだはいヤ兵衛さん早かった」
「おい待て無茶ぶりすぎんだろ!!」
そう適度にツッコミを入れつつも、回されたキラーパスをヤ兵衛は律儀に考えている。うっかり流され過ぎでは?
「……そう、アレだ、『サンタさん』で回文になってんだ」
「あーなるほどね? 上から読んでも山田山、下から読んでも山田山みたいなね? うん、そんじゃ次は?」
「次!? ……じ、実はサンタは裸族で、クロースと|クロス《衣服》をかけて脱いでる、とか」
「ほほう! いいねぇ、座布団3枚プレゼントだ!! ちなみにわたしの答えは……」
「答えは……?」
「一晩でプレゼント配って回るサンタクロースの苦労をみんな見て見ぬふりしたいから。サンタ苦労す、なんつってね」
「風刺が強い!! もういいよ!!」
『どうも、ありがとうございましたー』
そうして二人揃って無人の観客席へ一礼すると、|舞台《遊園地》を捌けて去っていった。
——いつの間にか杉留の相方になっていたヤ兵衛。
それもそのはず、銃を撃つ頃には杉留の能力【ギャク世界の住人】は発動していたのだから。
●
「今度こそ……今度こそはちゃんとしてたつもりだったんだ」
雑に強化ガンを構えつつも、こんな筈ではなかったと嘆く幹部怪人・うっかりヤ兵衛。
ぶつぶつ呟く声は聞き取りづらいが、「……あとで買……ケーキ、皆で……労って……んで肝心な……っ!!」と言っているようだ。
(「そこまで悪い人じゃなさそう……?」)
その様子に|小明見《こあすみ》・|結《ゆい》(もう一度その手を掴むまで・h00177)は、これなら話し合える余地があるのではないか、と思案した。
出来ることなら互いに傷つけあうことなく済ませたい——それが結の変わらぬ行動理念なのだから。
「とりあえず、精霊さん! あのワニさんから銃を取り上げて!」
その声に応え、さわさわと。
冷たい朔風とは違い、やさしく稲穂を揺らすような風を纏った精霊たちがヤ兵衛を翻弄していく。
「おわっ!? くっそ、取られてたまるか! 【はい、戦闘員集合】!!」
まるで『遊ぼう』と誘うような精霊たちにたまらず号令をかけるも、現地の雑魚戦闘員である【プレとレコ】はさっき帰っていく姿を見たばかり。当然集まる気配はない。
「し、しまった……またうっかりやっちグォッ?!」
うっかりにまた凹んだ様子を見せた瞬間、意識が逸れた今が好機と精霊たちは小さな竜巻をヤ兵衛に放った。
それは狙い通り強化ガンを弾き飛ばし、そのまま複数の竜巻でお手玉のように空へ……やがて突き破った屋根の穴へと過たず落ちていく。
「……なんてこった、こんな若い嬢ちゃん相手でもまともに戦うことすらできねぇのか俺は……」
もしや度重なる失敗続きで心が折れてしまったのだろうか。
同じく落ちていく強化ガンを見届けると、ヤ兵衛は力なくその場にへたり込んだ。
(「……一応立場的に敵とはいえ、落ち込んでいるのを見てると、なんだかそのままにはしておけないわね」)
ひとまず無力化したものの、その悲しげな後姿を見ればどうにも心が痛んで……そっと隣りにしゃがむと、結はバッグからお菓子を取り出した。
「そうだ、あなたも良ければこのスノーボールクッキーをどうぞ。作りすぎちゃったから沢山あるのよね」
「あいつらが持ってたやつ、か……」
「ええ。そんなに作るつもりもなかったのだけれど……参考にしたレシピが大人数用のものだったから間違えちゃってね。普段は必要な分を計算しているのだけど、考え事しながら作るとたまに間違えちゃうのよね」
「しっかりしてそうな嬢ちゃんが……?」
これも一つのうっかりかしら、と付け足しはにかむ結と、彼女から差し出された袋をヤ兵衛は交互に見遣って。
震える手で受け取ったそれを開封すれば、白い雪玉がころりと手のひらで転がった。
「ともかく、美味しくできているから、これを食べて元気を出してね」
「……俺も食っていいのか?」
「もちろんよ。クリスマスなんだもの。皆が幸せになって終わりたいわよね」
「そうか……かわいいモンだな」
ゴツゴツした指でそっと摘み上げ、笑ってバクンッと一口。
小麦粉、砂糖、バターにアーモンドプードル、そして飾り用の粉糖……基本の材料はたったこれだけだが、そこにはレシピにないものがたっぷり入っている。
——誰も悲しい思いをしないで済むように、楽しい思い出になるように。
そんな結の願いが詰まったクッキーが、舌の上でほろほろ崩れて。
「あぁ……美味えなぁ……」
結のやさしさに触れ、ヤ兵衛の目にうっすら光るものが浮かぶ。
暫し味わった後、やがて菓子袋を片手に立ち上がると。
「ありがとな、嬢ちゃん。幸せなクリスマスのためにも、早く帰ってあいつらとパーティーしてくるぜ」
「ええ。幸せな時間になるよう願っているわ」
そう笑って立ち去るヤ兵衛へ、結もまたやわらかく眦を緩めて手を振り……。
「……良かった」
きっともう大丈夫。
誰も傷つかずに済んだのだと、そっと胸を撫でおろしたのだった。
●
待降節マーケットにパレード、ワークショップや美味しいお菓子……そしてたくさんの楽しげな声と笑顔たち。
今日の出来事を思い返しながら、タミアス・シビリカス・リネアトゥス・フワフワシッポ・モチモチホッペ・リースケ(|大堅果騎士《グランドナッツナイト》・h06466)は夕日に背を向け立っていた。
「あくまでも戦うというのであれば容赦はせぬ」
「ぐ……なんてプレッシャーだ」
逆光の中、WZ|騎士長官《マギステル・エクィトゥム》の双眸がギラリとヤ兵衛を見据える。その様はまるで悪い子供にお仕置きをする『黒いサンタクロース』のようだった。
(「くそ、任務実行はもう無理だ……どうする、尻尾巻いて逃げるか?」)
「……しかし。うっかり……か」
「っ! な、なんだよ」
立ち塞がる騎士長官の雄々しさにヤ兵衛が身動きが取れないでいると、おもむろにリースケが口を開いて。
「私も蓄えたどんぐりを回収し損ねたことがある」
——貯食行動。
ハムスターやリスなどによく見られる、餌を集め隠すなどの行為のことだ。
上記の動物以外にも、犬や猫がお気に入りのものを横取りされぬよう隠しているところを見たことがあるかもしれない。あれもこの行動の一種だったりする。
貯食は一か所にため込むものもいれば、縄張り内のあちこちに分散させ貯蔵するものも存在し……恐らくリースケは後者のタイプだったのだろう。そうしてうっかり場所、或いはどんぐりの存在自体を忘れるなどして、食べ頃を逃してしまったのだと思われる。
……記憶の欠落がただのうっかりでないよう地の文は祈ってます。
話は元に戻るが、敵対しているはずのリースケからそんな話題を振られ、ヤ兵衛は少し興味を持ったようだ。
「だが回収し損ねたとてそのまま無駄になるのではなく、残された場所で芽吹いて大木へと成長し、次代へ恵みを継承していくのだ。そなたのうっかりも、もしかするとより大きな事の一助となるやもしれぬ」
「俺のうっかりも……?」
これまでの数多のうっかりを思い返し呟く声に、確と頷いて。
「大切なのは前を向き、今を生きることであろう……」
「そ……そんな風に言ってくれるたぁ、アンタいいヤツだな……!!」
リースケはポロポロと大粒の涙をこぼす彼の肩を労わるように叩いてやった——ワニの涙はよく『偽善のウソ泣き』と表現されるが、今回ばかりは本気の涙だろう。
そのまま二人隣り合わせで座り込み、暮れていく空を眺めつつ。
ポツリポツリと語られるうっかりエピソードに、リースケは静かに耳を傾け。
「……そろそろか」
やがて操縦席にて時刻を確認すると、空へ向けバサリとマントを翻した。
「立て、ヤ兵衛よ。そして見よ!!」
促しに従いヤ兵衛が立ち上がると——。
ヒュルルルル……ドーン!!
——ブルーアワーのキャンバスに、季節外れの大輪が花咲いた。
リースケの√能力【|Audentis Fortuna juvat《アウデンティース・フォルトゥーナ・ユウァト》】により、|重弩砲《スコルピウス》が次々と鮮やかな花火を空へ打ち上げていく。
その中にはツリーやリスなどの遊園地らしい可愛い型物も混ざっており、今回も関係各所にキッチリと事前の申請をしての実行だと窺えた。
流石ふわっとした社会的信用のある黄金の堅果団、コンプライアンスはばっちりだ!
「失敗を、うっかりを恐れるな。大胆不敵な者にこそ、女神は微笑むのだ」
「おぉ……おおおっ!」
「天もそなたの前途を祝福しておるようではないか!」
美しいその光景に、リースケのその言葉に。
ヤ兵衛の瞳はまるで童心に返ったようにキラキラ輝いて——。
「メリークリスマス、そしてハッピーニューイヤーだ」
「ああ、メリークリスマス!」
やがてフィナーレまで見届けると、そう言葉を交わしヤ兵衛は立ち去っていく。
その晴れ晴れとした表情に、リースケもまた大きな瞳を希望で輝かせたのだった。
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怪人たちがいなくなった共用トイレの床から、僅かな地響きと爆発音がする。
どうやら作戦失敗の報を受け、即座に工作員が隠し通路を封鎖したようだ。
もうこの場所から悪の組織が乗り込んでくることはないだろう。
こうして遊園地で予知された誘拐事件は未遂のまま幕を閉じ。
それぞれ来たるクリスマス当日を楽しみに、【よい子】で過ごしたのであった。
We wish you a Merry Christmas,
And a Happy New Year!!