シナリオ

暴力的ジーニアスの宴

#√汎神解剖機関 #クヴァリフの仔 #グロテスク

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●赤子の手をひねる
「HAHAHA! リンドーの奴、莫迦みたいに同じような事を繰り返しやがって! まるでステイツの狗じゃないか! もっとも、俺も似たような状況だけどな!」
 傍若無人の権化、そう描写をするのが『男』にとっての正解だろう。何処かの紳士の失態を大声で嗤うサマはまさしく傲慢の一言。それに加えて男はひどい強欲でもあった。所以を問うているのならば足元を視よ。無数の屍が――幾つかは息をしているが――重なっている。これを|予知《み》たものは山の正体が女性である事に気づけてもいい。
「HAHAHA! つまらん! まったく、おもしろくない! いや、泣き叫んでいる姿は悪くないが、所詮は、その程度。すぐに黙り込んで、死んじまう! ま、いいさ。ここらに『クヴァリフの仔』がいるんだろ? だったら、そいつを掻っ攫って。仕事終わりに景気良く遊ぼうじゃねぇか! 邪魔な奴等? HA! 俺がただの暴力莫迦だと思うなよ?」
 男が取り出したのはスマートフォンである。画面を覗き込んだならば其処には数多の誹謗中傷。フィジカル面だけではなくメンタル面まで攻めてくるとは狡猾、極めている。
「これで連中も『クヴァリフの仔』探しからリタイアさ! 狂信者? そんなもんは既に『片付けた』ぜ! その中から良い感じのを持ち帰ったんだが、このザマさ!」

●ペンと拳
「戦争は終わったんだけどねぇ。如何やら、簒奪者連中にクリスマスや正月は無いようだ。ああ、√汎神解剖機関でね。クヴァリフの仔案件さ」
 星詠み、暗明・一五六は溜息交じりに言の葉を続ける。
「如何やら連邦怪異収容局が動いているみたいでねぇ。情報を持ち帰れなかったから、せめて『クヴァリフの仔』だけでもっていうところさ。で、問題なのがねぇ。リンドー・スミス以外の奴が来るって見えたのさ。しかも、紳士の真逆みたいな」
 嫌な予感がする。君達は踵を返してもいい。
「……加えて、精神攻撃も仕掛けてくるらしい。仮に、耐性があったとしても貫通してくるほどの『中傷』だ。ああ、それと。女性は特に気を付けた方が良いらしいぜ。ま、せいぜい。再起不能にならないように注意してくれ給え」

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第1章 冒険 『デマゴーグとの戦い』


 画面いっぱいにつまっている、目眩がするほどの、悪夢。
 悪夢の内容については、オマエ、身に覚えがないマイナスの沙汰か。
 或いは、オマエ自身の秘密。絶対に流出してはいけない何かしら。
 ああ、発見をしてしまったのがいけないのだ。
 目眩に続いて頭痛ともお友達。いっそ、誰かに撲殺されてしまいたい。
 兎も角、落ち着いて。この無いこと有ることを葬らなければならない。
 たとえ、どのような手段が必要になったとしても。
ルトガルド・サスペリオルム

 ハーブの味わい方を覚えたばかりだと謂うのに、くるり、佯狂故に集めてみせたのか。絡みつくかのような薔薇の色、その刺々しさもカタツムリさんの前では骨抜きであった。久方振りのお散歩なのだと、久方振りの財布の気配なのだと、気紛れ、殻から貌を出した結果がこの困難。わたし、カタツムリさん! こんがりおいしそうなマッチョのにおいを、財布になってくれそうな男のにおいを嗅ぎつけたんだけど……ヒボーチューショー……? なんだか間抜けな響きではないか。なんだか、おもしろくない響きではないか。それってチャーシューとシチューと、何方の仲間なのかしら! どきどき、わくわく、何にも知らないフリなのか、或いは理解してなのか。兎にも角にも画面におめめを近づけたのなら、大迷惑。えっ……? まあ! 誰よ、わたしのことをビ×チだなんて! わたしのことをマイマイカブリだなんて!!! ウジ虫さん!!! それにひどいわ! フォアグラさんがひどい脂肪肝のおデブさんだなんて! かわいいスイカがハロウィンの偽物だなんて!!! カボチャとカブのハーフだなんて!!! ……お野菜さんがニンジン? それは……合ってるけど……。目玉を右往左往。カタツムリーグでのくるくるよりも振盪していそうな雰囲気だ。ひとつひとつ、丁寧に、丁寧に、チクチクとした言の葉を拾い上げる。わたし、カタツムリさん! 正々堂々名乗りをあげて、わるいひとたちとレスバをするわ!!! ああ、かわいそうに。カタツムリさんに勝てるお口なんて、絶対に、ひとつもないのだから。
 大丈夫よ、時間はたーっぷりあるんだもの。それに、こんなことを書いているんだもの、わたしのことが大好きに違いないわ。……辛いことでもあったのかしら? カウンセリングをしてあげる。ああ、カタツムリさん相談室出張編だ。ルルドのお家を飛び出してのお星様の観察。複雑怪奇なシナプスもカタツムリさんの前では単細胞生物に等しい。トラウマを抉ってあげる! そっちのあなたは、そうね、なんて悲劇なのかしら。
 弱い者いじめをして、自分が、弱くないって吼えたいのね。

ディラン・ヴァルフリート

 人間に必要なのは助け合いの精神だ。
 ひとつひとつは脆弱なのだから、輪を作らねばならない。
 心にも無い事を……。
 画面の中、渦を描くようにして嗤笑してくる匿名どもは、果たして、監獄での実験とやらを彷彿とさせたのか。役割分担をする必要などなく、那由他、人間の脳髄と謂うものは容易く『悪』へと堕ちるのだろう。或いは、これは最早悪にもなれず、中途半端にドロップアウトしてしまった、蛆のような無様さか。ふむ……やはりインターネットは便利ですね。情報の切り抜きと誇張、大勢の印象操作にこれだけ手軽なツールも中々、ないでしょう。いえ、これをしなければ『ならない』ほど、人間的な簒奪者と考えておいた方が、良いのかもしれないですね。若干の饒舌具合から見ても、ディラン・ヴァルフリート、此度のオマエはほんのりと昂揚してはいないか。……さて。憤怒軽率拙速に他諸々、悪性も纏めて封じた都合、大罪、ひとつとして蓋をした所業、何を感じる事も無い身ですが……下手に行動を制限される、遅延を良しとする、そのようなリスクを残す所以も無し。画面から目の玉を離してやったならばお話の前の散策だ。集中すべきは『クヴァリフの仔』の気配、わざわざ、悪態の主に遭う必要もなさそうだ。ですが……ええ。僕は、ほんの少し、英雄をしたいと思っているのかもしれませんので……。正道に捧ぐ讃歌、その矛先は自分自身の心臓でもあった。
 デマ自体の対処も、ええ、後ほどしっかりと『手を付ける』として……ひとまずは、簒奪者を処理する際に邪魔が入らなければ十分かと。一石二鳥、そのような諺を、有言実行と致しましょう。所詮、ネット上のソースに乏しい噂話。まさか、僕が『悪さをする』筈がないでしょう。冷静に考えれば、良心と良識があるなら、真に受けるような事ではないと、自ずと理解できるでしょう。勿論――僕は|人々《皆さん》の善性を信じていますから。
 生命の本質に語り掛けてやれ、削除のボタンは目と鼻の先だ。

金菱・秀麿

 カツ丼をご馳走してやる暇もなく、只、傷害罪と名誉毀損罪を突き付けてやれ。其処に殺人罪その他を付け加えてしまえば、ああ、簒奪者は逃れられない。
 イマドキ流行らない骨董品だ。いいや、骨董品と同じにするなど、それこそ冒涜と謂えよう。つまりは、リサイクルも出来そうにない『悪』なのであった。
 閻魔様にお願いして姿見を借りてくる、そのような、無理難題を引っ提げられたかのような表情であった。金菱・秀麿の頭の中、風呂敷を広げてくれたのは一種の愉快犯的な想像で、成程、実に衝動的な犯人像とやらが浮かんできたのだ。……お。俺の所属するカミガリについても書かれてんな。なになに……? そもそも、忘却しているべきだと謂うのに。しっかりと記載がされている時点でお相手が能力者だと丸わかりだ。そう思惟してみればお相手さん、莫迦なのか敢えてなのかもわからず終い。「捜査員は警官の格好をした犯罪者で、裏で人身売買、誘拐を行って人々を怪異に改造するサノバビ×チでスカル●ァックでマン……」クソガキの喧嘩だ。随分汚いねぇ~相手すんの面倒だから、テキトウに……。思考回路を『スレッドの民』に切り替えてやれ。豚をおだてて木に登らせて、その根っこ、ばっさりと引っこ抜いてやれば宜しい。「マジかwww警察サイテーだな! そんな裏事情を暴くなんてあなたは凄いですね。ソース教えてくださいよ」そういや、この発言してるのが簒奪者なら、反応した『俺』も能力者だとバレはしないか? まあ、それも『情報を集める』のには丁度いい武器になるかもしんないか……。「ソース? そりゃあ中濃……冗談。そりゃあ知り合いのR・Sの愚痴からさ。俺なりに解釈はしたけどな。テメェも俺の※お見せできない文面※」……しかし、文面はお下劣でサイテーだが妙にこっちの内部事情に詳しいな? まあ、知り合いについても含めりゃあ、そうなるか。何せ、リンドー・スミス以外に思いつかない。「情報提供サンクスwwwあとでR・Sに言っておくわwww」
 あれ、サッパリ返信がねぇな……。
 憤慨しているのか、もしくは、別の事で忙しないのか。

アーシャ・ヴァリアント

 乙女の秘密を暴いたところで、彼女の正体に気づいたところで、何もかもは徒労に終わる。仮に、彼女が真実に遭遇したとしても、それを甘受する事など決してない。また連邦怪異収容局か、今回はあの爺さんじゃないのね。アーシャ・ヴァリアントは冷静に、極めて冷静に事態の把握とやらに専念してみせた。星詠みに謂われた通り、テキトウな端末からウェブサイトへと足を運ぶ。あそこ爺さん以外にも人材いたのねぇ、何々……はぁ!? 冷静さが死んだ。その所以については、成程、深淵よりも画面を覗き込んでやると宜しい。な……なによこれ……アタシがクラゲっぽい催眠モンスターにいいようにされたですって!? たとえば、真っ白いゼリーめいた浮遊物体。脳の髄までミョンミョンされた、そんな写真までも付いている。こっちは……何処かの芸者の誘いに乗って男に腰振ってたとか? そんなことあるわけないでしょうがっ!!! 咆哮! 火を噴いてしまいそうな大罪だ。いや、そもそも、ドラゴンプロトコルなのだから、ブレスが得意なのは見ての通りである。
 アタシは完全無欠で格好良いサーシャのお姉ちゃんなんだからね!!! もしかしたら、そういうジャンルなのかもしれない。義妹ちゃんに良いように忘れさせられている、そんな現実にぶち当たったならば、果たしてオマエはどのような面になるのか。勿論、全ては欠落の仕業なのだから――この、盲目からは逃れられない。いっそ憤死してしまった方が楽なのかもしれないが、泡を吹くなら叩き直してやるといい。
 ふざけたフェイクニュースだわ、こんなありもしない動画まで作るだなんて。ああ、視よ。あざ笑う椿か、六六六ほどの痴態を。お見せできないのハードルを軽々と越えてくる何者かの巧妙さを。いや、よくよく考えなくとも、オマエは『全てが本物』なのだと欠片も思えない。片っ端から否定しなくちゃ……にしても、良くできてるわね、偽物って知ってなきゃアタシも騙されたかも……? クラクラするのは気の所為よね?
 何か、術中に嵌まっているような、そんな感覚に陥ってくる。
 だが、今は……この、腹立たしい文字列と動画を葬り去らなければならない。

四之宮・榴

 繭の中身を無理やり引っ張り出す、そのような暴行だ。
 しかし、繭の頑丈さを視野に入れなかったのが、
 何者かの失態であることに変わりはない。
 泥濘の中、横たわろうかと考えたところで、その『考え』すらも掻っ攫われたならば尋常でしかない。異物が混入したとしても、悪態が紛れ込んだとしても、最早、悪夢は悪夢になる為の種を失くしてしまったのか。四之宮・榴にとって、何者かからの投げ掛けは焼け石に水の化身といったところであろう。……所詮、ネットの書き込みなの……ですから。……此れは、気にするから……いけないの、です。欠落とやらが、ぽっかりとやらが、まさか、此処までプラスに働いてしまうとは。簒奪者側にしてもイレギュラーだったに違いない。せっかく、マイナスな部分を集めたというのに、せっかく、台無しにしてやろうかと思ったのに、これでは空回りがひどいのではなかろうか。……相手に一番、効果的なのは……相手にしないこと……簡単です。選択肢としては最上に等しい。これを『されて』しまったら、嗚呼、如何なる言の葉も宙へと失せる泡沫が如く。……Webの有名人も……確か、そう仰っていましたし……店長様なら、ナンセンス、なんて謂うのかもしれません、が……。灰は灰なのだ。塵は塵なのだ。そうやって、認識をしてしまえば、魔王は枯れ尾花とされる。
 愉しいですか……? いいや、きっと、愉しいから『やっている』のではない。文面は最早、マトモに証明できないが。四之宮・榴、オマエは画面の向こう側の誰かさんが『挑発』しているのだと判ってもいい。……そういう、こと……ですか。貴方様は……僕を、蹂躙したいのです……いえ、もしくは……殴り合いたい……確かに、Mr.とは真逆、です。既読無視もやってられない。流して、直に届けてやった毒素。そのウイルスの正体は誰にも解せやしない。……見つけるだけなら、苦労は、しません……。
 ピアスの色は常に漆黒で、冷静さを象徴するのならば、
 ちゃんと、ジェネラルレギオンをしている。

赫夜・リツ
一ノ瀬・シュウヤ

 モリアーティも困惑するほどの収集能力だ。
 或いは、渡しておいたのかもしれない。
 傍らに置かれた血液パック、餓えて、渇いた我が身にとっては、その色こそが『御守り』のようにも思えた。人間災厄「ルベル」は、赫夜・リツは、ぼんやりと天蓋を視るようにして暇とやらを潰していた。疲れが溜まってるだろうってお休みもらったけど、何しようかなぁ……。寝るのも疲れちゃったし、でも、身体を動かせるほど体調が良いってわけでも……。何か、お手頃な戯れはないものか。エミちゃんみたいに、お出かけするのも良いのかもしれない、けど……。もぞもぞ、ポッケに入っていた『もの』を取り出して現代的に。……たまには、こういう日があっても良いよね。スマートフォンの画面を撫でる、撫でる、弄り回して辿り着いたSNS、それにしても、犬も歩けば棒に当たるとはまさしく。ん……? え、何これ……? 汎神解剖機関に対しての『つぶやき』だ。それも、外見的な特徴がばっちり当て嵌まっている。シュウヤさんのことじゃないかな? で、でも……。不意に、襲いかかってきた恐怖。まったく知りもしない、嘘のようなおはなしが『これでもか』と連なっている。……ちょっと本人に確認してみよう。ノックを忘れてしまうほどに焦っていたのか。
 リツ……せめて、ノックはしてくれ……休むように伝えたはずなんだが……。一ノ瀬・シュウヤの双眸に映り込んだのは『休み』を命じた筈の部下の姿であった。部下の顔色は如何にもよろしくなく、何か、身体に異常でもあったのかと不安にさせるほど。どこか具合でも悪くなったのか? 黙っていないで、教えてくれ。一言だ。この一言が部下の顔色を余計に『わるく』してしまった。勿論、この段階では上司、オマエはまったくわからないのだが。シュウヤさん、あの……怒らないで聞いてくれます? さっきSNS見てたら、機関のとある人のことが話題になってて……もしかして……。SNS? 機関への誹謗中傷など珍しくはないだろう。個人に対しての攻撃だって、今更……何を気にして……? 目と鼻の先のSNS、画面内部、如何様な沙汰が記されていたのか。……何故……?
 文章だけではない。写真まで載せられている。加工されている事は間違いないのだが、嗚呼、如何して、俺が『胎児』を喰おうとしているのか。それに、この文章……リツに『向けて』の書き方ではないだろうな。あの時、助けた男のことまで……? 人を探している? いや、それは、今は『あと』にするしかない。寒気がしてきた……。これで特定されるのか。ネットとはつくづく恐ろしい……。徐々に、徐々に、光とやらが失せていく。完全犯罪ではない。わざと、犯人が特定できるようにされていた。
 上司の番がやってきた。蒼白が連鎖する。
 シュウヤさん……?
 なんで、こんなこと……まさか。
 何を肚ァ探り合ってんだよ! この仲良しどもが! ギャハハ!!! ギョロ、笑い事ではない。リツ、その目は……いや、もう。隠せはしないか。頭を抱える上司の姿。成程、予想していた通り、シュウヤさんは僕に、幾つかの報告書を見せなかったんだ。はぁ……とにかく、調べて元凶を突き止めましょう。リツ、ため息をつきたいのは俺の方だ。ある意味では良かったのかもしれない。何れはバレる塗りたくりなのだ。
 エミにも知られたくなくて、マキに口止めしていたが……最悪だ。
 晒した奴を消し去りたい。

第2章 集団戦 『被害者』


 誹謗中傷の嵐を抜けて、クヴァリフの仔を探しに行く。
 その程度の沙汰であれば朝飯前だったのかもしれない。
 しかし、如何だろう。もしもターゲットが『普通の人間』だった場合、それは致命でしかない。無数のインビジブルが、無数の被害者が、少女の群れが、山のように蠢いている。これは憎悪だろうか。これは絶望だろうか。兎にも角にも、この先だ。この、少女たちを越えなければ、死者を慰めなければ、簒奪者には辿り着けそうにない。
 ……いや……こないで……。
 ……なぐらないで……おなか……はれつしちゃう……。
 ……いいわ……屈するなら……この場で、ころされたほうが……。
 ……ごめんなさい……ごめんなさい……。
 数多の被害者の『おもい』がポルターガイスト現象となった。
 はっ……まもれなかったのは……わたしが、弱かったから。
 いい? たしかに、アイツはつよいわ……けど……。
 アンタらなら……わたしたちを、ちゃんと、おくって。
 アイツを……。
アーシャ・ヴァリアント

 そのプライドこそが、今、一番の武器として輝くのだ。
 暴力的なジーニアスを引き摺り下ろす為にも、
 怒りを、哀しみを、憎しみを、攫わなければならない。
 頭の中――脳味噌――空隙を埋め尽くすかのような蛞蝓、ひとつひとつに塩をかけていく作業であった。ようやく、最後のひとつを溶かしたところでスッキリ晴れやかな精神である。いや、アーシャ・ヴァリアント、ドラゴンプロトコルに晴れやかさは二度と戻ってはこないのだが、兎も角。やれやれ面倒だったわね、一人一人ぶん殴れれば早かったのに。或いは、犯人は一人だけだったのかもしれないが、それ以上に、シンプルなまでに『問題』とやらが詰まりに詰まっていた。お次は幽霊の群れってわけ、哀れな被害者って奴ね。それとも、抗おうとした結果と言うべきかしら。泣き喚いているのが大半だが、成程、数体ほど、何かを託そうとしている個体もいた。尤も、だからといってオマエに情け容赦は存在しないが。きぃきぃ騒がしいわね。耳が良いから、余計にクラクラしてくるわ。んー……。アーシャ・ヴァリアントの頭の中には義妹しか詰まっていない。もしも、この光景を本当の妹が見たら『どう』思うのか。きっと、かっこいいお姉ちゃんとして褒め称えてくれるに違いない。
 よし、浄化しましょ。綺麗さっぱりこの世から消えてもらうわ。深呼吸をしたのか、祈りを籠めたのか。何方にしても|被害者《インビジブル》、彼女たちの行方は変わらない。永遠に苦しむよりかはマシだろうが、だとしても、この熱さは文字通りに地獄のようだ。まぁ、元凶はぶん殴ってあげるから来世にでも期待して成仏してね。ありがとうの連鎖だ。感謝の渦巻きだ。まるで、催眠を回避した、高貴さの塊のような。来世とかあるのかないのか、生まれ変われるか変われないかは知らないけど、全部、アタシが背負ってあげるから……その感謝は忘れんじゃないわよ。灼熱の津波の中、愈々、道は拓かれる。
 何よりも義妹が為に、邪悪の所業を焼き尽くさなければならない。

金菱・秀麿

 静まり返った現状に冒涜がひとつ。
 傍若無人の化身、暴力の権化、罪のカタチを残してはならない。
 バチバチ、チカチカ、やかましく明滅している蛍光灯も、この薄暗な具合にはウンザリしていた。仄かに血生臭い裏路地にて、ゆっくりと、座らないように慎重に腕を伸ばしたオマエは『なに』を発見してみせたのか。血に染まったアクセサリー。其処には悲劇が、恐怖が、無念が詰め込まれていた。おもむろに拾ってやったならば、そろそろ、やってくるだろう|持ち主《●●●》に返却してやるべきだろうか。遺留品を使った捜査なら得意分野でね……ま、少なくとも、言葉で切り合うよりかは、有意義だろうさ。弄るように、手繰るように、被害者の思念を読み取っていく。曰く付きの遺留品の持ち主さんよ。俺に……いや、俺たちに力を貸してくれ……そして、奴の……簒奪者の居場所を教えてくれないか? 古びたコートこそが、万華鏡こそが、振り返る為の唯一の鍵なのだとしたら、それは覿面と謂えよう。被害者女性の貌が――塗り潰されていた顔が――ようやく、わかりかけてきた。ああ、俺たちを試しているんだろ。だったら、遠慮せずに、打ち倒す気でやってくれ。
 女性たちは、少女たちは知っていた。私たちを『倒せない』なら、何も出来ずに仲間入りをするだけだと。だからこそ被害者たちは全身全霊で殺しにかかってきたのだ。……本当に、優しい持ち主だよ、お前さん。でも、俺は、俺の仕事を完遂しなくちゃいけねぇ。5連式リボルバーが咆哮した。たとえ、相手がインビジブルだとしても威力が落ちる事などない。飛んできた蛍光灯だって、視よ、十手を巧みに扱ってやればこの通りか。掌の中の骨董品――苦悶の表情――極めてわかりやすい百面相――最早、オマエの手にはない。
 黙祷をしてくれ。
 猟奇殺人の犠牲者たちにやすらぎを。
 さて、ホシの居所も近いようだ。この痛みの欠片は奴さんにしっかりとお返しするとしよう。一度は手放した骨董品、砕け散ってその欠片、何者かへの致命とされた。

ディラン・ヴァルフリート

 彼女達曰く、死因については嘘を吐いてほしい。
 衆愚と宣う所以もなく、只、目の前の『哀れ』を眺めてやる。自身の身体の内側、人間的な精神の真似事とやらにようやく『√』が追い付いた。何もかも、世界の法則とやらが『いけない』のだ。ならば、思うが儘に、我儘に、王らしい沙汰で以て見定めると良い。狂信者なら自業自得で名分は通るのですが……。いいや、仮に狂信者だったとしても、他者を贄とする連中だったとしても、此処まで苦しめて殺す事は『ない』だろう。むしろ、発狂を含めてくれるのだから慈悲深い方とも考えられる。体裁にも配慮の必要な立ち位置に居る事です。此度も努めて適切な……英雄的な対処を。己の脳髄をこねくり回して如何にか『適切』を見つけ出してみせた。……痛ましい事です。せめて終わりは安らかに。在り来たりな言葉だが、よく耳にする言葉だが、それ故に、√とやらは応えてくれたのだ。
 簒奪されたのは輪廻であった。故に、彼女等の行方は絶対的に安らかと謂えよう。此処は『苦痛無き世界』の再現――たとえ、強烈な怨嗟に囚われていようとも――無理やりにでも、安らげる。ありもしない楽園を模し、停滞に沈んだ残骸でしたが、彼女達には丁度良いでしょう。死すれば一切合切、皆、同じ。息絶えたのなら有象無象、魂の行方は只の喪失。絶対死領域の真似事、扱い易いバージョンと呼ぶべきか。感謝の念が飛び交っている。
 問題は被害者に狂信者以外……民間人や汎神解剖機関職員も含まれている可能性ですね。成程、其方もけっこうな『哀れ』具合だ。貴女達の想いも、預かって行きましょう。後の事は御心配無く。それらしい言の葉による炙り出しは上出来であった。浄化される寸前のインビジブル、その幾つかからの「おねがい」事。最早、攻撃はない。オマエが、彼女等からの攻撃をもらうことは一切ない。後は遺族への伝言などの確認くらいでしょうか。
 簒奪したのは、掠奪したのは、いつだったのか。
 聖なる哉、聖なる哉、塵も残さず、天へと。

四之宮・榴

 繭から這い出てきた蚕の絶望、それを、茹でるようにしてくれ。
 ファイアスターターは地に向けられ、蝸牛、何度目かの死神の逆位置。
 裏路地に放棄された臓腑の数々、そのうちに、脳味噌を幾つ発見できたのか。何もかもが破裂しており、ぐちゃぐちゃと、踏みつけられた形跡まであった。成程、まさしく冒涜だ。何処かの紳士のやり方が「可愛らしく」思えてしまう。……なんて悲しい声……嘆き……。お魚さんの姿はない。クラゲのカタチだってない。捕食者のお仲間になる事だって出来はしない。中途半端に留まるくらいならば、いっそ、意識を掻っ攫われていた方が遥かにマシであると謂えよう。……お辛いの、ですね……苦しいの、ですね。被害者の群れが、彼女達が、ちらりと見たのはオマエの欠落であった。ばかにしないで。いえ、あなたは、たしかにわたしたちを……。助けたい。この思いだけは本物だ。願いを叶えてあげたい。この想いだって本物だ。……だから、今だけは……貴女様達に、心からの……ご冥福を……。情念に支配されている現、それが真にダメな事なのかは本人にしかわからない。
 自分という存在の価値について、果たして、どれほどの者が把握できているのだろうか。被害者の方をこれ以上、攻撃するわけには……? なら、やくそくして。わたしたちを、こんなふうにしてくれた、あのおとこを……ちゃんと、たおしてきて。話を聞いた結果が、この|同調《●●》だ。或いは、容赦のない融合だろうか。……まって、ください……僕は……確かに、贄のような……もの……ですが……。苦手? そのようなことを口にしてはいけない。これは『背負わなければならない』ものだ。深海の捕食者までも沈黙している。幾つもの夜を越えてきた。この、燦然と輝く星空こそが『すべて』なのだ。
 主人公は想いを託される、そのような運命なのだろう。
 絶叫はない。悲鳴もない。最早、完全に、臓腑として機能していた。
 やるしかない。やっつけるしかない。簒奪者に罰を。

赫夜・リツ
一ノ瀬・シュウヤ

 加工されていたのだとしても、造り物だと理解出来ていても、あの画像は凄惨であった。添えられた文章にまで脳味噌を持って行かれそうになるほど、ああ、この衝撃とやらは大きかったのだ。自分自身で処理をしなければ、消し去ってやらなければ、生涯、安心する事など出来そうにない。そんなふうに思いながらも一ノ瀬・シュウヤ、オマエは再び、己の『欠落のなさ』に頭を悩ませる事となった。……リツ、どうした。急に止まるなんて……? シュウヤさん、インビジブルが、その、たくさんいます。おそらくですが、全員、この騒ぎの元凶に殺されたようです。赫夜・リツは『詳しい内容』を説明する気にはなれなかった。いや、勿論。裏路地に散らかっている彼女等だった『もの』を視れば、なんとなく察する事など容易なのだが。……いや、シュウヤさん。隠し事は『なし』にしましょう。彼女達が『なに』を伝えたいのかを、ちゃんと、伝えておきますね。ですので、少し、下がっていてください。部下の言の葉通りに動いてやった。……リツ、俺は、受け止める覚悟くらいは出来ている。覚悟、この言葉のなんと|重い《●●》ことか。
 悲痛である。絶望である。既に、息絶えていると謂うのに、被害者たちは滂沱しているのだ。されど、その中に幾つか『自分』をちゃんと抱えているインビジブルが存在していた。おそらくは、シュウヤさんと同じ『つよいひと』だったのだろう。……シュウヤさん。「おくって」って聞こえました。十分だ。もう、十分だ。此処で『彼女たち』に何が起こったのか。二人とも……異形の腕も含めて、咀嚼が出来たのだ。どれもこれも……痛ましいものばかりだな。加虐心が強い人物の犯行か……或いは、その『伝えてくれた彼女』と……。最早、祈る事しかできない。シュウヤさん、僕が、やってみる。
 胡蝶よりも熱をこめて、ゆっくりと舞い踊った浄化。
 大丈夫だ。被害者たちは攻撃してこない。
 この先に、あの画像を作った奴がいるのか。いや、作らせたか……まさか、貰い物だったりしないだろうな……。脳内、ぐるぐると嗤ってきたのは犯罪界のナポレオン。くそ……こういう時に限って……。揺さぶられる。背中を押される。だが、今は……今だけは……。シュウヤさん? シュウヤさん……あの、大丈夫ですか?
 誹謗中傷も酷かったけど、彼女達への痛めつけ方も酷いな。あんな画像を晒す人物でもあるし……シュウヤさんも、固まってるし……。妖怪百鬼夜行で『何があった』のだろうか。本当は、心の底から、引き返してほしいのだけれど。この兄妹の『兄』なのだから、そっちの方が危うく思える。不安な気持ちが拭えない……。
 しゅぼ、と、浄化の炎が被害者たちと共に。
 リツが心配そうな顔をしているな。……俺は大丈夫だ。感情的になって飛び出すような事はしない。お前こそ、無理はするなよ。支え合いながらも、前へ。猟奇殺人の犯人、その正体とやらは目と鼻の先だ。

第3章 ボス戦 『人間厄災『ボブ・B・キャノン』』


 被害者たちの亡骸の先――袋小路――じたばたと暴れている影がひとつ。うねうね、うねうね、騒々しい影こそが、おそらく『お目当てのもの』だろう。クヴァリフの仔は逃れようと藻掻き、触手を伸ばしているが――触手の数本、刹那の内に千切られた。
 クヴァリフの仔を力で抑え込んでいる。たとえ『仔』だとしても、それは仔産みの女神の『仔』なのだ。神格の一部を腕力だけで捕らえていると言ってもいい。つまりは、それほどまでに『猟奇殺人事件の犯人』は強いのだ。
 それは、一言で描写をするならば|巨漢《●●》だろうか。筋骨隆々、圧倒的なまでのパワーを凝縮した、人のカタチをした災厄。いや、災厄と認定されるほどにおぞましい『人』とも考えられよう。兎も角、これを倒す為には生半可な覚悟では足りない。
 HAHAHA! 待ちくたびれたぜ! テメェらがリンドーの野郎を負かし続けてるっていう噂の連中か! ちょうど、メインディッシュが欲しかったところだぜ。あの女ども……いいや、あの女じゃあ俺を満足させるには足りなかったからな! おっと。自己紹介が必要かい? 俺はボブ! 連邦怪異収容局の連中には人間災厄「ボブ・B・キャノン」なんて呼ばれてる。好物は女! 特に、強い女が良い! 強い女を屈服させるのが最高に気持ちいいんだよ! HAHAHA!!!
 お喋りな簒奪者だ。マシンガンなクソ野郎だ。
 殺された人達の為にも、クヴァリフの仔の為にも、
 これをやっつけなければならない。
 だが、気を付け給え。この人間災厄が『災厄』たる所以は力だけではないのだ。あなたが『女性』であれば、おぞましさに、嫌な予感を覚えてもいい。
アーシャ・ヴァリアント

 悦びの最中、こんがり焼けるとよろしい。
 誉め言葉を見つけるならば精悍な男だろうか。或いは、老獪すらも裸足で逃げ出す暴力的なジーニアスであろうか。何方にしても、アーシャ・ヴァリアント、オマエにとって『それ』は本能的に宜しくない相手と謂えよう。ある種の不倶戴天、遭遇してしまったら怒髪天が如くに。暑苦しいうえに口うるさそうなデカ男ねぇ、爺さんの方がまだマシな気がするわ。いや、冷静にならなくても団栗の背比べではなかろうか。あっちはあっちで諦め悪いしこっちはこっちで粘着質そうで五十歩百歩かもしれないけど。アーシャ・ヴァリアント、頑丈そうな玩具を目にした人間災厄「BBC」は悪漢らしく呵々としてみせた。HAHAHA! 俺をあの野郎と同列にしないでくれよ、お嬢さん! 俺とアイツはまったく違う! 強さに関しては、まあ、互いに譲らずと謂ったところかな。掌握次第だがね! 随分と自信たっぷりじゃないの。強い女が好物っていうならアタシが相手してやろうじゃない、アンタなんかに絶対屈服なんかしてやらないけどねっ! 素晴らしいフラグ建築ではないかドラゴンプロトコル。もしも、心の底から油断して終っていたなら、今頃、被害者女性の仲間入りをしていたところだ。良いね。すごく、良い女だ。如何やら、本気で俺の事をやっちまおうとしているらしい! HAHAHA! ブラック・ブラッド・キャノン。人間災厄「BBC」の十八番が――√能力が――圧倒的なまでのパワーが繰り出された。
 避けようとはした。受け流そうとはした。しかし、まさか、只の牽制がこれほどの速度と威力を秘めているなど想定外だ。腹に一撃をもらっただけだと謂うのに、オマエ、臓物が吐き出されそうになるほど。へえ……やるじゃねぇかよ。俺の一撃を喰らって破裂しねぇとは! はっ……あ、アンタのへなちょこパンチじゃ……豆腐も砕けないわよ……! 威勢も良い! 気に入ったぜ。けどな、お嬢さん。それだけじゃ俺を殺せやしねぇぜ? HAHAHA! がしり、鷲掴みにされた脳天。宙に浮かされそのままサンドバッグの代わりにされた。解放されたところで蹲るしかない。HAHAHA! その程度か。だがな、俺は、お嬢さんの目が死んでねぇ事くらいわかってんだよ! 裏返った亀へのストンピング! 情け容赦のない、執拗な、腸への攻撃――瞬間、お呪いは発動する。……なに……? これは……!
 調子に乗ってんじゃないわよ、この間抜け!!! 執拗に攻撃した結果がこの十倍返しだ。未曾有なまでのダメージが男の内臓をジュースにしていく。まさか、これで終わりだと思ってんじゃないでしょうね。アタシは、真に、竜なのよ……!
 それは蒼炎であった。それは強者の装いであった。
 鎧を纏った|竜姫《おんな》は咆哮する。
 良いね。良い女だ。望外なまでに強い……!

ディラン・ヴァルフリート

 数多の世界を、数多の√を、未曾有の儘に蹂躙してきた存在にとって、このお遊戯は退屈極まりない沙汰であった。いや、確かに、人間災厄「BBC」と称されている男の『やり方』というものには間違いはないのかもしれない。悪役としては、災厄としては、これ以上にないほどには真っ当だろう。されど、だからといって、英雄らしさを掲げないワケにはならないのだ。ごきげんよう。戦後もMr.リンドーはお変わりないようで何よりですが……Ms.リンゼイは封印に戻りでもしたのでしょうか。個人的には、あなたの方が『封印指定』されていないのに疑問を抱きますがね……友人としては、御仲間から見た彼等の話も伺いたいものです。ディラン・ヴァルフリート、先程とは別種の性質を抱いているドラゴンプロトコル、その言動を改めていた悪漢は笑うのを辞めていた。……野郎……白けるじゃねぇかよ。ええ? テメェはもしかして、テメェ自身を、英雄の位置に持って行くつもりだってのか? 誰が教えるかよ、馬鹿野郎が。俺はそこまで堕ちちゃあいねぇぜ? 悪には、悪なりの『在り方』があった。……貴方は些かやり過ぎたようなので……此方も、相応に……。
 先程のドラゴンプロトコルが相手であれば『女性特攻』が刺さっていた。しかし、今回の相手に『その補正』とやらは効果がない。つまりは、殴ろうが、蹴ろうが、綺麗サッパリ流されていくのみ。……野郎……虚仮にしやがって……俺が『被害者』なわけが……! 悪漢、その山のような肉体も異形の前では少女に等しい。錯覚は徐々に、徐々に、現実となって簒奪者の脳髄を侵していく。……へっ……上等だ。俺は『俺』の儘、弱者としての運命を受け入れてやるって言ってんだよ、この魔王め……! 人間災厄「BBC」は、最早、只の人間だ。衣服を剥がされようと、皮膚を剥がされようとも、爪を全て失ったとしても、悪としての誇りは喪失しない。……さあ、トドメを刺せよ。テメェらは強い。理解した。
 誘導して尚、奈落に落として尚、この眼光だ。
 ……成程、僕は、あなたを甘く見ていました。
 確実に、絶対に、執拗なまでに……断ち斬ってみせましょう。

金菱・秀麿

 敗因はひとつ。己の肉体、己の能力、ある種の傲慢であった。
 人間災厄「BBC」が最も毛嫌いしている存在は、汎神解剖機関、連邦怪異収容局、羅紗の魔術塔などの『組織』ではない。彼は災厄である前に犯罪者であり、つまるところ、|警視庁異能捜査官《カミガリ》連中を狗のように見ていたのだ。よう、他人を蹂躙して自分だけ随分ご機嫌じゃねぇか。それに、蹂躙されるのも悪くねぇって顔してるな。ま、ともかく。お喋りの続きは取り調べ室でやるんだな。金菱・秀麿、捜査三課に所属しているオマエからのお約束だ。右手に添えられた手帳については、ああ、描写をする必要もないだろう。おいおい……勘弁してくれよ。ニッポンのお犬サマに捕まえられるほど俺は軟じゃあねぇぞ? お約束の流れは『まだ』続く。次に構えてみせたのは拳銃で「Freeze」唱えてやると宜しい。いいか? おまわりさんよ。それで、止まるってんなら、警察は要らねぇんだ。人間災厄「BBC」は止まらない。戦車のような肉体がEDENへと突撃してくる。
 やっぱり、大人しく捕まるつもりはないようだな……。装填は既にされていた。その中にそっと仕込んでおいたのは、成程、被害者が残してくれた骨董品の破片。俺を弾丸で壊せるとでも思ってんのかよ、甘い甘い、俺を壊したいならリンゼイでも引っ張ってくるんだな! そうかよ……じゃあ、素直にこいつを受け取ってくれるんだな。撃鉄――! 悪漢の下腹部を貫き、留まった数秒後、簒奪者は己の異変に気が付いた。なに……? 動けないだと……! |渾身の弾丸《パラライズマグナム》+骨董の破片。最早、囚われた羽虫が如く。
 クソッ……テメェ、この破片……まさか! 察しが良いな、お前さん。お前さんに殺された被害者からのプレゼントさ。恨みの籠もったな……。麻痺をしても尚、恨みに蝕まれても尚、猟奇殺人の犯人はオマエを斃そうとしている。
 往生際の悪い男だ、それだから嫌われるんじゃねぇか?
 文字通りに御用だ。拘束して、さて、殺してやらない方が良さそうだ。

四之宮・榴

 毒を食らわば皿まで、その影響。
 捕食者も仰天するほど、蹂躙であった。
 彼方――外宇宙――四之宮・榴にとって人間災厄「BBC」は創作上の銀河めいて不可思議であった。そもそも、あの男が如何して悦んでいるのか、愉しんでいるのか解せなかったのだ。仮に、オマエの欠落が埋まったとしても不明の儘ではあるのだろうが。……? 脳裡、悪漢の代わりに描かれたのは何処ぞの紳士の頭痛である。まるで、何かが抜け落ちたのかと錯覚するほどに、共鳴するかのように。……Mr.を、初めて……気の毒に……思いました。……まったく、理解できません……僕の、頭では……紐解けそうに、ありません……っ……。勝手にこぼれた言の葉とやら、身勝手な野郎、如何に反応してくれるのか。あん? テメェは……いや。俺の勘違いだったら謝るけどよ、テメェ、何処を見てんだよ……? 俺は『敵』だ。少なくとも、それくらいは理解できんだろ? おい。人間災厄「BBC」からの再確認。……確かめる、必要は……ありません……『女性の敵』であると、同時に……簒奪者、だと謂う事……です。黒色のスペード、女王様、果たして、如何なる願いを叶えたのか。知ったことか。幸運の女神様ってのは頼らねぇからこそ微笑むんだぜ? まるで戦車だ。小型の戦車が勢いに任せて――吶喊してくる。……やはり、立ち去ってください、なんて……謂う必要は……ええ、勿論……生きて、帰す気は……お互いに……。約束したのだ。死者と、インビジブルと、約束までしたのだ。このクソ野郎を滅ぼさなければならない。
 テメェ……そういう事か! 俺に攻撃させないつもりだな……なら、意地でもテメェをぶん殴ってやる! 人間災厄「BBC」の一撃一撃は文字通り、致命だ。されど、四之宮・榴の選択は致命を無意味へと堕としていく。貫通なんて……即死なんて……生やさしいことはしません……。痛みを、苦しみを、喪失を……しっかり、その身で味わってから、死んでほしいので……。最早、一切が届かない。拳を握ろうと試みた瞬間、怪力とやらが壊れていく。てめぇ……くそっ……今度、遭ったら、蹂躙してやるからな……!
 搾り取ってやれ。見えない怪物の感謝と共に。

ルトガルド・サスペリオルム

 ボブ・B・キャノンは後悔した。
 何度も、何度も、ソースをたっぷりと漬けてやれ。何せこのソースはカタツムリさん専用なのだ。誰が、何を謂おうとも、その現実とやらは覆せない。わたし、カタツムリさん! 今日も明日も良い日になるわ! きっと、前の文章に『カタツムリさんにとって』が添えられているに違いない。そうとも人間災厄「BBC」、男は強い女ではなく魔性の女に出遭ったのだ。まあ! あなたとっても逞しくって、すっごく黒光りしてるのね! カブトムシさんかしら? それともクワガタさん? もしかして……? それ以上口にしてはいけない。カタツムリさんのお口を物理的に塞いでやった悪漢さん、そのまま、握り潰さなかったのは『何か』を察したが故だろうか。なんだか……いやな感じ! やっぱりあなた、■■■■さん! 人間災厄「BBC」、自分の顔を覆ってみせた。折角、止めてあげたのに、これでは全部が台無しだ。っていうか、わたしの悪口書いたのも、書かせたのも、よく考えたらあなただったかしら! HAHAHA! それは、最初から狂っているのか? それとも、フリをしているのか? ひどく失礼な男ではないか。成程、さっきの四文字が相応しい。……わたし、帰るわ。帰ったら、伯父様をコーヒーカップに乗せてあげるの。
 刺激的なアトラクションが好みなのか、綺麗な嬢ちゃんよ。そんなに欲しいってんなら、俺が手取り足取り教えてやるぜ。……なによ! やめてよ! レディに手をあげるなんてウジ虫さん! アブラムシさん!! ■■■■さん!!! DVよ! 痛いわ! 伯父様に言いつけるわ! カタツムリさんが抗う側、かなり珍しい光景だが、さて、腕を斬り落とされた時よりかはマシなのかもしれない。やめて! おなか……痛い……助けて、伯父様……! 殺されちゃう! ところで、今日の『カタツムリーグ』の勝敗の行方は如何に。いいや、勝ち負けとやらは重要ではない。そう、今日も皆くるくる回っていたのだ。……なあ、手応えがねぇんだけど、テメェ、何かしてやがるな? わたし、カタツムリさんだから、三途の川の渡守さんとはお友達なの! いつでも戻ってこれるし、|骸の海《●●●》にも慣れてるわ。……クソ……テメェも、いったい、何処を見ていやがる……! わたし、カタツムリさん! 骸の海って何かしら? まったく、過去とやらが此処まで凶器になるとは。神も仏も、何処かの騎士様も、把握出来ていないに違いない。眠りに落ちたのか、目玉が落ちたのか、何方なのかと。
 魔性のアリア――マタドール・ヴァンプ――仮に、オマエがカルメンだったとしても、この串刺しは他人のものだ。屈服? するはずないじゃない、あなたの力はこけおどしよ。あなたがわたしの靴を舐めたいと言うのなら、あなたがわたしに踏まれたいと言うのなら、止めないけれど――やっぱりナシね、とりあえず、口を大きく開けなさい。大きな殻を背負わなくとも、熾天使の真似事をしなくても、カタツムリさんは『おそろしい』のだ。こんな良いお肉って、きっとBBQにはぴったりだもの! BBCのBBQ、溺れるほどのソースに、滂沱に、乾杯の二文字を注いでやれ。やっぱり伯父様を呼んでこなくちゃ。ワインがないのは残念だから、その血で我慢してあげる!
 最早、マシンガンはない。

赫夜・リツ
一ノ瀬・シュウヤ

 誹謗中傷の中身、とある奇妙建築で起きた『殺人事件』のあれそれであった。口頭では聞いていたし、そこで、あの人と一緒に戦ったことは知っている。しかし、考えてみれば。事件の詳細については濁されていたような気もする。うん……でも……謝ってくれたし……身体の事も心配してくれるから……。この依頼が終わってから『ちゃんと』しよう。その想いについてはお互い同じであった。後味の悪いお包み。具体的な事は|報告書《●●●》で。他に渡していないものもご一緒してやれ、ともかく、「すまない」を残す。
 暴力の天才――ジーニアス――或いは、天災――人間災厄「BBC」はツマラナさそうにふたつの影を見た。汎神解剖機関と連邦怪異収容局は相容れない存在だが、成程、それ以上の|深淵《みぞ》が両者を引き剥がしているとしても過言ではない。HAHAHA! 辛気臭い面が揃っていやがる。さては、あの中傷が、だいぶ効果的だったらしいな! 人間災厄「BBC」の双眸に油断はない。何故ならば、そう、この男は目の前のふたつの情報を手にしていたが為に。……あなたも、人間災厄なんだね。僕も、人間災厄だからかな。すっごく、気分が悪くなるほど、嫌だなぁ……って、思っちゃった。あえて、だ。敢えて人間災厄「ルベル」は、赫夜・リツは声に出してみせた。それにしても……。お喋りな人だ。マシンガンな人だ。だったら、その性格を利用して情報を引き出しておくのも悪くはない。シュウヤさん、訊きたい事があるならお早めに……正直、僕も、抑えられるかわからないし。リツ……いや、俺も、人の事は言えないな。で、そこの悪漢。わざわざ遠い所から御苦労な事だが……お前が、あれをやったのか? それとも、お前は実行しただけなのか? 問いかけをするだけで頭が痛い。いっそ、頓服でも、医者に用意してもらうとよろしい。
 答えろ、何方にしても、俺たちがお前を赦すつもりはないがな。一ノ瀬・シュウヤの視線が人間災厄「BBC」に刺さった。臆する事なく、傍若無人の化身は息を吸ってみせた。ああ? そんなもん、テメェの想像している通りじゃねぇかよ。まさか、俺が他√までわざわざ行って、写真を撮るわけねぇだろうが。これは仕事なんだぜ? プライベートだったら√EDENの方を選ぶさ! ……成程、つまり、根本からお前は殺人犯で、プレゼントを使っているだけと……。最早、話をする価値もない。命を冒涜する奴に時間を与えてやるものか。止められない思考。ああ、今回も、被害者は女性だったのだ。
 それはこっちも同じだぜ、なあ? 人間災厄よぉ! 悪漢の√能力が――おぞましい得物が――人間災厄「ルベル」を嬲ろうと、やってきた。殺意を剥き出しに、悪意を剥き出しに、叩き付けられた『それ』を――オマエは異形で受け流した。リツ、テメェ! 俺を盾にしやがって! けどな、それは正解に近いと思うぜ! ギャハハ! 此処からが反撃だ。何もかもを屈服させようと、蹂躙しようとするならば、その逆も覚悟しての沙汰だろう。
 リツ……分かっているとは思うが、刻印が反応しそうなことは避けろ。診る前に破裂でもしたら……悪化でもしたら、困るからな……。
 ええ、わかっています。ですが、あの男の思い通りには……!
 おっと、そうだ。リンドーからも聞いてるぜ? いや、正確には盗み聞きだけどよぉ。テメェらの連れ、良い女らしいじゃあねぇか!
 深紅――眼光――軌跡――爆発的な威力の拳が、
 人間災厄「BBC」の腹をぶち貫いた。
 ……黙れ、それ以上、口を開くな。
 赫夜・リツの感情が一ノ瀬・シュウヤにも伝わった。それと同時に簒奪者、己の『仮死』を理解する。へっ……覚えたからな。次こそは、俺が、貰ってやるよ……。言葉はない。投擲されたメスが声帯を裂いたのだ。宴はこれにて終いである。

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