戦闘、戦闘、雪見温泉!
●温泉を襲う戦闘機械群
戦闘機械群ウォーゾーンと√EDENを繋ぐ通路を抜けた先。
戦闘機械群が辿り着いたのは、湯けむり漂う露天風呂だった。
「なんですか、この黒い水は? ……ふむ、温かいですね」
ナイチンゲールが訝しげに黒い湯を掬う。
それはモール泉という泉質の温泉であるが、その詳細を彼女らが知るはずもない。
だが、詳細は知らずとも、大雑把な知識程度ならば知る者はいるらしい。
「これはもしや、オンセンというものでは?」
お掃除ロボット『DSN205型0番台』が言う。ナイチンゲールが首を傾げた。
「オンセン?」
「資料によれば、人間たちが疲れや傷を癒すために入るお湯だそうです」
ナイチンゲールは感情を映さない瞳で黒いお湯を見つめる。
しばらく見つめていた彼女だったが、理解できないとでも言うように首を横に振った。
「色が変わっているだけで、ただの湯ではないですか。成分に違いがあるとはいえ、特別な力があるとは思えません。このようなものに頼るとは、やはり人間は軟弱ですね」
運悪くこのタイミングで温泉に入っていた人々へと、ナイチンゲールは目を向ける。その温泉は混浴であり、彼らは男女ともに水着を着用していた。――混浴だろうと何だろうと、戦闘機械群にとってはどうでもよいことだが。
「さっさと人間たちを連れ帰り、我らの資源にしてしまいましょう」
●温泉地を守れ
「温泉地が戦闘機械群に襲撃される未来を予知しました。皆様には現地へと赴き、温泉地と温泉に居る人々を守っていただきたいのです」
|泉下《せんか》・|洸《ひろ》(片道切符・h01617)は集まった√能力者へと、今回の任務について説明する。
「敵はお掃除ロボット『DSN205型0番台』と、『ナイチンゲール』。どちらも大群であり、温泉地が襲われてしまえば、人々が攫われるのはあっという間でしょう。ですが幸いにして、皆様は戦闘機械群が来る数分前に、現場へと駆け付けることができます」
先んじて攻撃を仕掛ければ、敵は目前の障害を排除すべく√能力者たちに注意を向けるだろう。一般人に注意を向けさせず、戦うことが重要だ。
「無事に戦闘機械群を倒し終えた後は、温泉に入ってきても良いかもしれませんね。ちょうどこの温泉地は豪雪地帯にあります。寒さが苦手でなければ、雪見風呂などいかがでしょう?」
上質なモール泉が楽しめることだろう。なお、混浴のため水着の着用は必須である。その点は注意してほしい。人型でない場合は……状況に応じて水着の有無は変わるかもしれないが、そのあたりは現地で確認とのことだ。
第1章 集団戦 『お掃除ロボット『DSN205型0番台』』
●激突
野山を白雪が覆い、空気は凛と澄み渡る。大自然の中で、黒色の温泉は悠然と白いけむりを湧き立たせていた。
岩場に囲まれた温泉露天風呂は、癒しを求める人々で賑わいを見せている。
√能力者たちは人々と温泉を守るべく、湯けむりに包まれた温泉地へと訪れた。
ライダー・ヴィークル――巡航単車イロタマガキに跨り、|ベニイ《ベニイ》・|飛梅《とびうめ》(空力義体メカニック・h03450)は己を鼓舞するように紡ぐ。
「ウォーゾーンの尖兵……好きにさせるわけには! どうにか、人々と温泉を守りましょう!」
戦闘機械群が訪れる直前の、未だ混乱を知らぬ風景。この平和が壊されることに、|赤龍院《せきりゅういん》・|嵐土《らんど》(プレジデントレッド・h05092)は当然ながら怒りを覚えていた。
「俺のような若輩者が語るのもおこがましいが、温泉はいいものだ。それを楽しむ人々を襲うとは許し難い」
必ずや戦闘機械群を撃退し、温泉地の平和を取り戻す。クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)も表情を引き締めた。
全力で人々を守る意志を固めつつ、モール泉の黒い湯へと目を落とす。
「……それにしても、モール泉って凄い色だね……風呂の底が見えない」
「黒いお湯……お肌がすべすべになると聞いたの。お肌の保湿にちょうどいいわね」
クラウスの呟きに、クアドラ・キューブ(人生は続く・h01230)が返した。クアドラも、じっと湯を見つめている。
モール泉は植物由来の有機質が溶け出した温泉であり、美人の湯とも言われている。お肌の保湿、美肌効果も期待できるだろう。
穏やかに揺れていた湯面が、小刻みに震え始めた。戦闘機械群が飛来する気配に、√能力者たちは戦闘態勢を取る。
「やらせないよ。俺達が相手だ」
上空の戦闘機械群を、クラウスは鋭い眼差しで捉えた。レイン砲台を展開し、エネルギーを高速装填する。
√能力者たちの姿を確認し、お掃除ロボット『DSN205型0番台』が剣を構えた。
「目標地点に敵……! 待ち構えていたのね」
「まずは貴方たちを撃破し、障害を排除しますの!」
無数のバックアップ素体を展開し、DSN205型0番台の軍勢が迫り来る。
邪悪な存在を打ち倒し、人々の平和を守り抜く。鋼の如き信念を胸に、嵐土は高らかに言い放った。
「ファンダーチェンジ!」
刹那、嵐土の体を光が包み込み、瞬く間にヒーローの姿へと変身する。
戦隊ヒーロー・プレジデントレッド。人々に害為す邪悪を成敗する、正義の執行者だ。
仕込み杖『ドラゴンズケイン』から、高威力のレーザー光線を射撃する。
「お掃除させていただきますの!」
装甲を砕かれながらも、敵は臆さず攻め寄せる。嵐土は敵を睨み据え、ドラゴンズケインを堅く握り締めた。
「ドラゴンズケイン・ソードモード!」
仕込み刀を抜刀する。敵を斬り払いつつ、√能力――|隊員召喚《 タイインショウカン》によって喚び出した執事へと指示を出した。
「良助、そっちは任せたぞ! 人々の安全を守れ!」
「総帥の期待にお応えいたします! 皆様、こちらへ!」
良助――バトラーブルーは速やかに一般市民を避難させる。
トータスガーダーで人々を護る良助に、嵐土は信頼の眼差しを向けるも束の間。すぐに眼前の敵群へと意識を集中させた。
√能力者たちへと攻撃を繰り出すDSN205型0番台だが、その視線は時折戦えない人々にも向く。
その目線をクラウスは見逃さない。一般人と敵群の間に立ち塞がり、彼は問う。
「俺達が相手だと言っただろう。もしかして、勝てそうにないと判断して逃げようとしているのか?」
とにかく敵の意識をこちらに向けさせる。挑発に、敵は忌々しげに顔を顰めた。
「そんなわけないでしょう? 今すぐに殺してあげますの」
素体を嗾け、クラウスを拘束しようとする。
一定の距離を保つように戦場を駆け回りながら、彼は決戦気象兵器「レイン」を起動した。
(「そうだ、それでいいよ。ずっとこちらを見ているといい」)
邪魔な奴だと思わせられれば上々。
狙いは敵群の中心だ。大気中の粒子を集束させ、瞬間的に解き放つ。
「一気に、撃ち落とす!」
雨嵐の如き光線が素体を撃ち抜き、その先にいるDSN205型0番台へと降り注いだ。
光の雨の破壊力を以て、DSN205型0番台を激しく損傷させる。無数の風穴を開けられ、敵の何体かが崩れ落ちた。
敵は未だ多い。クアドラは動き回る敵を視界に捉えつつ、小型無人兵器「レギオン」を操作する。
熱を帯びる戦場の中でも、その瞳は静けさに満ちていた。
「レギオンスウォーム展開。目標――戦闘機械群、『DSN205型0番台』を確認」
淡々と言葉を紡げば、レギオンたちが狙いを敵群へと定める。
そのすべてが砲口を開き、装填されたレギオンミサイルへとエネルギーを送り込んだ。
「攻撃に移行。射撃、開始よ」
直後、ミサイルが射出される。無数の弾丸は真っ直ぐに飛び、敵の軍勢へと次々に撃ち込まれる。
激しい爆撃に白煙が上がった。その内側から、敵の素体が飛び出してくる。素体の腕がクアドラの腕を掴んだ。
「ようやく捕縛しましたわ! 逃がしませんわよ!」
拘束したクアドラへと剣を振り下ろさんと、敵群が迫った。クアドラは冷静にレギオンの照準を、自分を掴む素体へと合わせる。
「あんまり引っ張らないで。ツギハギの所がちぎれちゃう」
射撃で素体を破壊し拘束を逃れた。敵が忌々しげに睨むが、クアドラは気に留めない。
縫い目を確認し、彼女はそっと息を付いた。
「問題なし、ね。次に行きましょう」
√能力者たちを崩せず、DSN205型0番台たちは焦りを滲ませる。
「メイドフォーメーションパターンZは敵を崩せないですの……!」
「それなら次はパターンBですわ!」
敵は素体へと命じ、隊列を組ませた。立ち並ぶ素体と敵群を睨み据え、ベニイが突撃する。
ヴィークルで戦場へと突入し、地面と空中を派手に乗り回りながら敵の視線を引き付ける。
「普通にやったら無理な数、でも! 隊列なんか組むから!」
ベニイは騎乗するヴィークルから跳躍した。組まれたばかりの隊列へと狙いを定め、放電を実行する。
|戦術飛梅《 プラム・ミーティア》から発せられたエネルギーは、素体と素体の主であるDSN205型0番台らへと直撃した。
「くううぅ……っ!」
敵群が強烈な放電に耐え切れず隊列を乱した。
何体かの敵が倒れる。視界の端にその様を捉えつつも、ベニイは飛行するヴィークルを追った。
「待ってーーー!!!!」
地面を蹴り上げヴィークルへ接近、再び騎乗する。スタイリッシュな身のこなし……だが、彼女自身は必死だ。
「の、乗れた……ああもう、ゴーグルが曇ります! 無理!」
温泉の湯気で曇るゴーグルをごしごしと拭った。無理と言いながらも、ベニイは自分を奮い立たせる。
(「前がすごく見えにくいですけれども! 私! 超頑張って!!」)
戦闘は変わらず続くが、戦況に変化はある。残存する敵を観察し、クアドラが紡いだ。
「敵の数が順調に減ってるわね」
彼女の言葉に、クラウスが頷いてみせた。
「そうだね。みんな、まだ戦えそうかな」
「無理で……じゃないです行けます! まだまだ頑張りますよ!」
仲間の状態を確認するクラウスへと、ベニイが返す。嵐土も力強く宣言した。
「憩いの場を荒らす簒奪者たちよ! 必ず成敗させてもらおう!」
√能力者たちは、各々の戦い方を経てDSN205型0番台を撃破していくのであった。
第2章 集団戦 『ナイチンゲール』
●黒翼を墜とせ
DSN205型0番台を全機撃墜したことにより、残すはナイチンゲールとの戦闘のみ。
芳しくない戦況下にあっても、ナイチンゲールたちは冷静な口調で言う。
「DSN205型0番台はすべて落とされましたか」
「ですが、私たちに撤退という二文字はありません」
彼女たちは温泉を守る√能力者たちを、感情の籠らない瞳で見ていた。
クアドラ・キューブ(人生は続く・h01230)が、上空のナイチンゲールを見つめる。
「次の相手はナイチンゲール……あのお空を飛んでる子達ね?」
クアドラは目標を観察する。彼女の眼差しは泰然そのもの。敵の大群を前に落ち着き払っている。
|柳生《やぎゅう》|・《・》|友好《ともよし》(悠遊・h00718)も同様に敵を眺め、とある超音速・高高度戦略偵察機を脳裏に思い起こした。
「ナイチンゲール……何気なく、|例の最も速いジェット機《ブラックバード》を思い出したな」
黒を基調とした機体がよく似ている。実物とは別物だろうが、不思議なこともあるものだ。
多勢のナイチンゲールを視界におさめ、|ベニイ《ベニイ》|・《・》|飛梅《とびうめ》(空力義体メカニック・h03450)はごくりと息を呑んだ。
(「上空に敵がたくさん……凄まじい迫力ですが、負けるわけにはいきません!」)
気圧されそうになるが、ぐっと堪える。自分だけでなく、此処には仲間もいるのだ――きっと乗り越えられる。
敵の位置と一般人の居場所を確認しつつ、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は眉を寄せた。
「あいつらは空を飛ぶのか。制空権を握らせ続けると厄介だね」
いくら有利な位置にいようが、一般人には絶対に手は出させない。有利不利など、やり方次第でいくらでもひっくり返せる。
|赤龍院《せきりゅういん》|・《・》|嵐土《らんど》(プレジデントレッド・h05092)は、ソードモードへと切り替えた仕込み杖『ドラゴンズケイン』の切っ先を敵群へと差し向けた。
「さあ、来るがいい。ナイチンゲールとやら! その黒翼、必ずや斬り落としてみせよう!」
何の躊躇いもなく堂々と告げる。ここからが本番だ。ナイチンゲール部隊は翼を広げ、戦闘状態へと突入する。
「任務完遂のため、敵を殲滅します」
淡々と任務にあたる彼女らを睨み据え、ベニイは今後の戦術へと思考を巡らせた。
「敵は飛翔体、敵は多数。ならば最適解は……! 今から敵を落とします! あとは皆様にお任せします!」
精神を研ぎ澄まし、大きく息を吸い込む。その動作はベニイの体内に格納されたエネルギーを、外部へと放出する準備動作だ。
彼女は天に向かって叫んだ。
「超天神! 竜ぅ巻ぃ! ……無ーーー理ーーー!!」
|超天神竜巻《テンジンブレーク・エレクトロマグネパルスストーム》を引き起こす。大声が轟き、空中にいるナイチンゲールへと届いた。目に見えぬ力が空間を伝わり、彼女らを麻痺させる。
「飛行速度が低下……何ですか、これは?」
「気になりますか? ですが秘密です!」
ベニイは強気を装いながら笑みを浮かべてみせた。
彼女の攻撃により高度を落とした敵へと、友好が次の攻勢を仕掛ける。
「さあ、いざ尋常に勝負! 空にいようと関係ない。この剣で斬り伏せてみせよう!」
心剣「水月」を手に、|剣理・天狗之書《 ケンリ・テングノショ》を発動した。肉体を強固にすることで、敵の攻撃に耐える力を得る。
推進力を回復させ、ナイチンゲールが友好へと狙いを向けた。
「……僅かに威力が落ちますが誤差の範囲内。突撃します」
超高速飛翔突撃を繰り出すナイチンゲール。友好は迫る敵を真っ直ぐに見据え、打刀を前方へと構えた。
「そのスピードで突っ込んで来たらそっちもただで済むわけがない」
軌道を捉え、友好は突進を受け止める。衝撃を受け流し、水月を閃かせた。
鋭い斬撃が、敵の装甲に深い傷を入れる。
「チッ……」
ナイチンゲールが損傷した装甲を庇いながら飛び退いた。高速の身のこなしに、友好は瞳を輝かせる。
「いいぞ、面白いじゃないか、人間と戦闘機の速さ比べ。どんな相手でも、斬り捨てるのみだ!」
「手強いですね。それならば」
敵はナイチンゲールライドを展開。12体の部隊を指揮し、√能力者たちを数の利で制そうとする。
陣形を組む彼女らへと、嵐土は涼しげな眼差しを向けた。
「数で攻めてくるか。だが、こちらも頼りになる仲間達と来ている訳だからおあいこだな」
嵐土には|隊員召喚《 タイインショウカン》がある。召喚する人々は、普段から頼りになる者たちだ。√能力を通して呼べば、さらに強力な存在になる。
さっそく瑠美奈を喚び、戦隊のヒーローへと変身させた。
「メイドイエロー、お仕事開始だよっ。うちがいるから任せてよね〜総帥♪」
ウイングシューターを手に、瑠美奈がウィンクしてみせる。
「なんですか、この子は。メイド?」
「誰だろうと構いません。殲滅するのみです」
集団で突撃するナイチンゲールへと、瑠美奈は光線を発射。陣形が乱れたところに、嵐土がドラゴンズケインで斬り込んだ。
動きを崩されたことで、敵部隊も充分な火力を出せずにいるようだ。
「頼りになる仲間がいると言っただろう? 殲滅したければ、俺達の連携を崩してみろ!」
「言ってくれますね。――良いでしょう。ナイチンゲール部隊の実力を、必ずやお見せします」
それまで淡々としていたナイチンゲールの声色に力が籠る。苛烈な戦闘に刺激されたか。
熱を帯びる戦場の中で、クラウスはただ冷静に、決戦気象兵器「レイン」を再起動する。
「これ以上、自由に飛ばせはしない」
戦場に立つ兵士として重要なことは、常に冷静さを保つこと。冷たい闘志が、誰かの命を救うことに繋がる。クラウスは視界に入れた敵の翼部分へと照準を合わせた。
(「狙いは飛行ユニット……レインによる射撃で撃墜を試みよう」)
砲門を開き、粒子状レーザーによる射撃を展開する。白熱の輝きが流星の如く駆け抜け、ナイチンゲールの黒い装甲を焼いた。
地面へと墜落する敵の間から、未だ飛行能力を保つ敵が飛び出した。
「目標、捕捉――砲台ごと破壊します」
怒りを瞳に宿す彼女。その視線を受け止めつつ、クラウスは光刃剣のトリガーを引いた。
「さすがに全員墜とすのは無理か。けど、接近戦の心得がないわけではないよ」
攻撃の軌道を予測し光刃を振るう。敵の突進をいなし、衝撃を緩和してみせた。
√能力者たちは着実にナイチンゲールを消耗させていく。それでもなお敵の数は多く、油断はできない。
バトルゴーグルのアシスト機能をフル稼働させ、クアドラは敵が密集している地点を見極めた。
「確かに敵の数は多いけれど、数が多いのは私も同じ。物量での勝負なら負けていないわ」
レギオンスウォームを再展開し、小型無人兵器「レギオン」たちへと指示を出す。
連続の稼働においても、レギオンの状態は正常。動きを鈍らせることなく、常に敵を射程内に捉えていた。
「大丈夫、私もレギオン達もまだいけるわ。……さあ、一斉攻撃よ」
レギオンがミサイルを発射する。雨霰の如く放たれた弾丸は空を裂き、ナイチンゲールの装甲へと撃ち込まれた。
「損傷、大――」
「どのような状況下であろうとも、突撃するのみです」
大きな損傷にも敵群は怯まず、隊列を組みながらクアドラへと襲い掛かる。
クアドラはパルスブレードを抜き、さらにレギオンで壁を作るように陣形を組んだ。
「闘争心が成せる技ね。けれど、私も倒れるわけにはいかないの」
レギオンで敵を撃ち落とし、レギオンを抜けて近付く敵にはパルスブレードをお見舞いする。
敵群の掃討は近い。ベニイはヴィークルへと跨った。ぱちりと目を閉じ、一旦√能力の効果を切る。
「あ、頭がくらくらします……が! ここは、無理を押します!」
彼女が不規則に駆け抜け、敵を攪乱する中。気を取られた敵へと、クアドラが側面からレギオンスウォームを容赦なく浴びせた。
「余所見は禁物よ」
煙を上げながら敵群が墜落していく。
電撃兵装テンジンブレークによる電流放射で小夜啼鳥型ロボットを撃ち落としながら、ベニイがクアドラへと笑顔を向けた。
「ナイスですよ!」
ベニイの言葉に、クアドラがこくりと頷いてみせる。
「ありがとう、あなたも頑張って。けれど、無理はしないでね?」
√能力者たちの猛攻は続いた。嵐土によって召喚された瑠美奈が光線銃を撃ちまくる。
「キラキラで超映えるやつ、叩き込んじゃうよ~!」
ステージライトのように輝く光線に目が眩んだ敵へと嵐土が肉薄した。
「この調子で行くぞ! 唸れドラゴンズケイン!」
ドラゴンズケインで斬り込み装甲を粉砕、次々にナイチンゲールを打ち落とす。
数を減らし勢いを弱めつつある敵へと、友好が力強く語りかけた。
「どうした! 動きが鈍ってきたんじゃないか!」
その立ち振る舞いは凛々しく、まさに剣士そのものだ。普段の物腰柔らかな雰囲気とは掛け離れているが、これも彼の一側面なのだろう。
ナイチンゲールが忌々しげに友好を睨んだ。その瞳に宿るのは戦意の炎である。
敵を見つめ返し、友好は刀を堅く握り直した。
「……その目、悪くない。その闘志に打ち勝ってこそだな」
どちらかが倒れるまで、幾度も切り結ぶ。
戦いが終局へと向かう中、クラウスも決戦気象兵器「レイン」の出力を最大限まで引き出す。
「今の状況じゃ、一般人に構う余裕なんてないだろうね」
ドローンを飛ばして敵の連携を妨害しつつ、レーザーを放ち続けた。
(「必ず、守り抜く!」)
一般人に目を向けさせない戦いを、クラウスはひたすらに続ける。
かくして、激しい戦いの末。ナイチンゲールは、ついに最後の一機まで撃墜されるのであった。
第3章 日常 『温泉旅行を楽しもう』
●
√能力者たちは戦闘機械群を掃討し、温泉地に平和を取り戻した。
深い雪が、岩場や木々を白く染め上げている。露天風呂は冬ならではの美しい大自然に囲まれていた。
モール泉の温泉は、黒い湯を湛えながら貴方たちが入浴するのを待っている。
戦いの疲れを取るも良し、健康や美肌のため、癒しを求めるために入るも良し。
要するに、周囲に迷惑をかけるような行為をしなければ、概ねOKである。
念押しだが、混浴のため水着は必須だ。水着の方が、かえって違和感を感じる種族の方が来た場合は……状況によって着用の有無を判断させていただくことになるだろう。
●まったり雪見温泉
白い深雪に包まれた露天風呂。モール泉の黒湯が、白銀の世界で一層際立っている。
戦いを終えた√能力者たちは、疲れを癒すべく温泉に入ることにした。
「水着。持……ってないですが、少しお待ち下さい。いま作ってみます」
|ベニイ《ベニイ》|・《・》|飛梅《とびうめ》(空力義体メカニック・h03450)は、両腕と髪の毛を駆使し、水着の制作を開始する。
うーん、無ーー、理ーー……と半ば無意識に唸りつつ、彼女は水着を縫製した。
その光景を興味深げに眺め、クアドラ・キューブ(人生は続く・h01230)が感心したように言う。
「そういう作り方もあるのね」
ちなみにクアドラは既に水着を着用済だ。迷彩柄の模様がとってもCOOLなビキニである。
ベニイは完成させた水着を、満足げに手に取った。
「できました! 可愛く仕上がったと思います」
脱衣所でサッと着替えて露天風呂に戻る。
ちょうど同じ頃、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)も水着に着替え、露天風呂へと入ってきた。
「他にも仲間がいた気がするけど、帰ったのかな」
周囲を見回すクラウスに、|黄羽《きば》|・《・》|瑠美奈《るみな》(メイドイエロー・h05439)が返す。
「総帥と良助はなんか温泉の偉い人と出資? の話をしたいとかでどっか行っちゃった。だからウチがその分温泉をタンノーするよ」
イメージカラーのイエローのビキニ。そして手には耐水ケースに入れたスマートフォン。撮影の準備はバッチリだ。
あとはお湯に浸かるだけ……だが、その前に。
冷たい風にぶるりと体を震わせながら、クアドラは湯桶を手に取った。
「ひえ~寒いっ。早く浸かりたいけど、まずは掛け湯よね」
心臓がびっくりしてしまうといけない。瑠美奈も同様に桶へと湯を入れる。
「ウチも掛けるー! ちゃんと準備しないとだもんね!」
ベニイが頷いた。肩にもしっかりと湯が掛かるよう、長い髪はシニヨンにまとめる。
「体をお湯の温度に慣らして、無理なく入れるようにしましょう」
最初は足元から、次いで腰、腹、肩の順にゆっくりとお湯を掛ける。
準備が整ったところで、さっそく入浴だ。クアドラは静かにお湯へと入る。
「さて、気になるお湯加減はどうかしら」
もくもくと湯気が立つ温泉に足を入れると、じんわりと温かさが広がった。
ゆっくりと肩まで浸かり、クアドラは表情をふにゃりと和らげる。
「ほえ~あったかい……美肌効果で私のツギハギお肌が一層きらめいちゃった気がするわね……」
腕を湯から上げて撫でてみれば、滑らかな肌触りだ。ベニイも肩まで湯に沈めながら、大自然の空気を深く吸い込む。
「ふう……良いですね。生体部品に染み渡るこの感覚……」
肌を包み込む湯の気持ちよさに、ベニイは瞳を細めた。
「うんうんっ、めっちゃ生き返るー!」
岩場にスマートフォンを置いて、瑠美奈は温泉全体を見渡した。
壮麗な大自然の中にすっぽりとおさまる、黒い温泉……最高の映えスポットに瞳を輝かせる。
一方で、クラウスも掛け湯を終えて、岩風呂の階段へと足を掛けた。
「……装備を外して軽装になるのはちょっと落ち着かないな……」
底が見えない湯面を見つめ、慎重に湯の中へと足を入れる。
硬い底に足が付いた。とろりとした柔らかな湯質が、優しくクラウスを包み込む。
(「肌に湯が纏わり付く……けれど、悪い感触ではないね」)
ほっと息をつく。彼は温かな湯へと体を預けることにした。
皆、思い思いの過ごし方で温泉を堪能している。
クアドラはすうっと息を吸い込み、感じる清々しい香りに興味を抱いた。
「この温泉、なんだか良い香りがするわ。紅茶……? みたいな香りね。とっても気に入ったわ」
植物由来の有機物を含んだ温泉であるがゆえの香りだろう。クアドラは香りを楽しみながら、真っ白な雪景色を見つめた。
(「今度また来よう。|あの老いぼれ《Dr.フランフラン》も誘って」)
美しい光景を瞳に焼き付けつつ、彼女は想う。
――時が止まったかのような銀世界の中。温泉の湯だけが揺らめき、その場所だけ時が動いているような錯覚をおぼえる。
ベニイは伸びをしながら、なだらかな岩場へともたれ掛かった。
「んーっ……戦闘の疲れも癒える心地です」
敵大群との連戦で疲れた体に温泉は効く。体がぽかぽかと温まる感覚に、ベニイは目を閉じた。
(「このまま眠ってしまいそう……ですが、お風呂で寝るのは良くないですね。我慢、我慢……」)
目を閉じれば、湯の心地良さがさらに増したような気がした。
他方、瑠美奈は温泉の中でもアクティブに活動している。
「うわ、黒! ちょっと茶っぽい感じもするけど黒! 黒いお湯だから白い肌めっちゃ映える!」
迷惑にならないよう、皆の邪魔にならない所で撮影会の開始だ。
湯から、首から上とスマートフォンを持った腕だけを出し、パシャリと写真を撮った。
「はい生首~、なんちゃって! ……よーし、イイ感じに撮れたね♪」
撮れた写真を確認して、ニッコリと上機嫌な笑みを浮かべる。
「総帥と良助が戻ってきたら教えてやろーっと」
今からどんなコメントがもらえるか楽しみだ。
物思いに耽りつつ、時には共に戦った仲間たちと会話を交えつつ、穏やかな時間が過ぎてゆく。
クラウスは一人のんびりと、仲間たちの様子や、温泉を取り巻く雪景色を眺めていた。
(「向こうは賑やかだね」)
楽しげに話す女性陣の声を遠くに聴きながら、クラウスは湯けむりが上がる先――空を見上げる。
銀世界によく似合う、澄んだ青空だ。
「……はー……気持ちがいいな……」
自分の世界では戦いと訓練に明け暮れ、√能力に目覚めてからは他の√にも積極的に出向いてきた。こうやって、ゆっくりしている暇など無かった。
「たまには、こうやってのんびり気を抜くのも大切だな」
兵士には休息も必要だ。しみじみと思いつつ、クラウスは温泉を楽しむのであった。
かくして、戦闘機械群の魔の手から温泉地は守られた。今後もこの温泉は、数多の人々に癒しを与えることだろう。