シナリオ

奸悪波濤な我が儘に

#√汎神解剖機関 #クヴァリフの仔 #グロテスク

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●魔術師の性根について
 幻惑――この|空間《●●》を描写するならば、言の葉にするならば、只の一言の他にない。まるで、月のように、ぽっかりと空けられた|虚《あな》の底、或いは底無しに|怪異《それ》は存在していた。いいや、果たして、本当に怪異は存在を赦されているのか。赦されていないのだから、嗚呼、虚の側へと突き飛ばされたに違いない。
「連邦怪異収容局も、羅紗の魔術塔も……魔術研究の本質というものを解っていないのです。いえ、魔術塔の彼なら理解していたのかもしれませんが、最早、それも無意味なのでしょう。わたくしは『現状』を打破する為、わたくしの魔術研究をより『上位』のものにする為、極悪非道と呼ばれようとも『これ』をする以外にないのですよ。女神が落っことした子供ですもの。わたくしが、魔術的に、すっかりと、掌握させていただきましょう」
 凝望の魔人は|虚《あな》の何処か、魔女よりも魔女らしい笑みをこぼした。まるで、棚から牡丹餅。クヴァリフの仔は知らず知らずのうちに『落とし穴』へと消えてしまった。簒奪者は簒奪者らしく、プレゼントを全部掻っ攫おうかと手を伸ばす。
「……邪魔をするなら、それも構いません」
「わたくしが全部、上手に使うと致しましょう」

●根付いた獣性
「君達ぃ! 穴が開いたぜ」
 星詠み、暗明・一五六はご機嫌だ。
 如何やら、またしても、厄介な案件を引いたらしい。
「その穴にクヴァリフの仔が落っこちたらしくてねぇ。怪異か、何かに拾われる前に回収しておきたいってのが現状さ。まあ、知っての通り、お子さんは今頃、怪異の手の中でおねんね中だろうがねぇ。簒奪者からの奪取ってやつさ。アッハッハ!」
「そうだねぇ。今回のお相手は魔術に精通しているらしい。つまり、悪辣さもひとしおってわけさ。せいぜい、掌握されないように注意する事だねぇ。ヤグサハ、愉快だとも!」

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第1章 日常 『落とし穴』


 √汎神解剖機関――日本――愛知県名古屋市――|獣の数字《スリー・シックス》が如くに|出現《●●》した|虚《あな》は数多の生命を貪り尽くさんと開かれた。何も知らない、知る事のできない人々は壊れかけの|遊具《アトラクション》に巻き込まれてしまったのかと思い、刹那、失せていく。君達はそんな今に真正面から衝突したのだ。
 生命を、インビジブルを糧とするならば|新物質《ニューパワー》も等しく。仔産みの女神のオコサマが|虚《あな》の餌食となったのも仕方がないか。兎も角、君達は|虚《あな》の正体を暴き、底無しへと身投げをしなければならない。そうしなければ、おそらく、この惨事の元凶と顔を合わせる事すらも出来ないのだ。
 深淵を覗くが良い。
 覗き返されたところで、君達、慣れ親しんだ混沌だろう。
星越・イサ

 我儘なお姫様からの呼び出しだ。
 呼び出され、辟易としていても、癇癪されるよりかは正気と謂えた。
 金色に輝く鯱とやらが、此方へと、興味関心を注ぎ込んできた。注ぎ込んできたところで、這入り込んできたところで、星越・イサの精神状態は変わらない。もしくは、変われないものだと描写をしておくべきだろうか。宇宙の果てを視ようとすることも、魔術で作られた『虚』を覗くことも――歓喜するかのように――だいたい、同じことかもしれません。仮に、この世界が、数多の√が、簒奪する為の方式だったのだとしても、混沌を容易に紐解く事は出来ないのだ。出来てしまったならば、まさしく、混沌だけが受肉をしている。であれば私の拡張知覚の出番です。コンタクトレンズに潤いを与えながらも補聴器、ミリ単位の調整とやらを済ませたのならば……いいえ、まさか、調整しない方がきっと正しいです。まあ……見たいものが見えるとは、聞きたいものが聞けるとは限らないのですが。ぐい、と、ひどく重たい脳味噌を|虚《あな》の方へと傾げてやった。そんなことはいつものことです。少なくとも、乙女心を理解するよりかは、マシなのでしょう。
 私にできることは『ごちゃ混ぜ』の視野から、人類の役に立てる情報を選び取ること。まるで、眼球が輪舞しているかのよう。狂気への耐性は上等なものだが、しかし、如何して態々、上等さを維持しなければならない。やってみましょう、深みへと至る為には、ええ、自らを愛していてはダメなのです。落ちるか、落ちないかの瀬戸際で『波濤』に触れた。ふふ……成程、そうですか。私を、誘っているのでしょう。わかりました。そこまで、擽ってくれるのであれば、私もお返ししてみせましょう。底はない。底は無かったのだが、しかし、何処かに繋がっている事くらいは把握できた。
 私は、情けないことですが、この幻惑には抗えそうにありません。
 ええ、わかっています。それが『こたえ』なのですから。

四之宮・榴

 繭の中身がこぼれるように、臓腑が狂ったように浮いていた。
 もちろん、オマエの感覚的なお話である。
 贄としての機能こそが呼吸をする為の唯一と謂えよう。
 体育館の裏にでも呼び出されたのか、或いは、校舎の屋上か。ああ、いっそ、其方なのであれば、ぐるぐると考えなくたって良かったのかもしれない。四之宮・榴の頭の中、果たして何処に接続されてしまったのか。絡みついてきた頭のない低音。もしくは、あれはノイズだったのか。……以前、店長様に謂われたこと……まさか、実践の日がくるなんて……。ひゅう、と、心臓を掴もうと試みてきたのは虚からの風だったのか。いいや、虚の底無しは無風であり、この不快感はオマエの精神からきている沙汰でしかない。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。ありきたりな、よくある、フレーズとやらに正面から衝突した。……深淵は割と……縁を歩いている気がしますし……偶になら、覗き込むことだって……? これが虚空ならば、これが宇宙ならば、浪漫があって宜しいのではないだろうか。飛び降りる……店長様、曰く「投身するが如く」……でした、よね? 未成年のクセにすっかりと目を回しているのではないか。アルコールではなく天使の一滴、これを舐るかのように、撫でるかのように――歩を進めると宜しい。……さむい……いいえ、波のような……。
 死ぬのはナンセンスだと、即死に期待するのはナンセンスだと、何者かの声援。ぐちゃグロでも構わないと何処かの誰かに囁かれたが、そのような闇に従ってやれるお人好しさはない。……だから、僕は……僕であることを……一時的に、辞めようかと……? おかしい。文字通りに底が見当たらないのだ。真っ逆さまに墜落していくのだが、半永久的に『地』は見えない。……まるで、地獄へと、落ちる……そのような……? 再び、飛び降りるなんて面倒臭い。いっそ、我慢とやらをせずに変態してしまえば問題ないか。
 贄であれ、贄であるならば、そう行動をせよ。
 はばたく八咫烏に叩き付けられた言の葉、
 波濤が如くに、只、悪夢へと、疾くと……。

笹森・マキ

 もみゅもみゅ、オマエがすっかり嚥下してしまったのは一匹の|お菓子《ひよこ》であったのか。中身はおそらく良い具合に甘く、しかし、目と鼻の先の深淵については甘くなかった。なになにぃ? 穴が開いちゃったって~? 笹森・マキはしっかりと自分自身の正気へとしがみつけている。舌の上に存在していた糖分とやらを咽喉の奥へと押し込んだのなら、ぴよ、と、怪奇が貌を出してくれたのか。んひゃぁ~……マジで底が見えない、ヤダぁこわ~いおっかなぁい。お道化ているのか、心の底からそう思っているのか。何方にしても職業暗殺者、いつかの『おじょうさま』ほどの恐ろしさは抱いていない。……な~んてゆうてる場合かっての。そもそも、下手すれば都市ひとつ呑み込まれる事態だってのに……と、そうゆうわけでぇ~……ぴょ~んしますよぉ。随分と呆気のない、緊張感のない足取りではないか。もしかしたら自分自身の命をとっても軽いものだと考えているのか、なんて。いやいや、マキは自分の命をかわいく思ってるし、それに、マキがいなくなったら、あの人たちがどうなるか『わかりきって』いるからね。いっち、にぃ~、さん、ハイ!
 まるでぐるぐるバットをする前の合図みたいに。
 ぴょぉ~ん!!
 なんて、口にしてみせた。
 おわぁ~……。落下している。墜落をしている。しっかりと眼球を晒したところで、右往左往させたところで、ろくに|光《●》は見つからなかった。落ちていく、落ちていくぅ……というか、なんかすっごい真っ暗なんだけどぉ~。たぶん、きっと、この暗黒は何者かの仕掛けた慈悲に違いない。正体を暴いてしまったならば、枯れ尾花を薙いでしまったら、其処には狂気が溜まっていると思惟しておくべきだ。どのくらいの速度で落ちてるんだろ。いきなり終点ですってなって、頭グシャァ☆はヤダなぁ……。ぞっとするイメージを拭い取りつつも身体を揺らす。宙とやらで、虚の中とやらで、果たして、体勢を整える事など可能なのか。出来なくはない。僅かにでも希望が有るのならば、嗚呼、掴んでやれよ、人間道。
 ふぅ……。逆子の真似が得意になっていた。不意に、やってくる安堵感は女神の胎の中にいるかのようで腹立たしい。この穴を開けた人って、魔術に精通してるって言ってたね。これからクリスマスなのに……こんな、ヤヴァいこと……いや、クリスマスだから『やった』のかもなぁ。でも、うまぁなクリスマスケーキを予約できてるし、シュウヤさん達とも顔を合わせるつもりだし……ちゃんと保護して、帰れるようにしないとだ。
 死んで、蘇っている時間はない。

アーシャ・ヴァリアント

 獣の数字の所業については、欠落、知り尽くしていた。
 ぽっかりと空いたのはロボトミーの所為で、
 出かけて行った脳髄の一部の行方は知れない。
 ある種の先祖返りか、ある意味での里帰りか、アーシャ・ヴァリアントは目眩を覚えた。いや、勿論、ほんのりとした不快感ではあるのだが、ドラゴンプロトコル。オマエはオマエ自身が想像している以上に忘れっぽい体質なのかもしれない。んー……要するに、この穴に飛び込めば良いのよね? この、崖のような|虚《あな》に……? 覗き込むまでは自分の意思が存在していた。しかし、如何だ。底の見えない幻惑にやられて、無意識の内に目を逸らす事になったのではないか。……覗かれて困るような身体はしてないって、まぁ、そういう意味じゃないだろうけど……ええ、精神的な面も含めて……? 気付かない。まったくもって気付けやしない。おそろしいほどの催眠効果とやらに何処かの誰かは「ふふ」と笑った。どっちにしても、アタシに恥ずべきところなんて『ない』からへーき、へーき。これには太夫サマも吃驚だ。プルプルしているモンスターも頭痛を覚えるに違いない。まぁ、一応? 油断は大敵っていうものだから? アタシは、アタシを隠す気でお邪魔するけど。肉眼……その時はその時で何か考えるけど。身を投げた。ああ、投身した。まるで、エネルギーを搾り取られた竜の如くに――ミキサーの底へと辿り着かんとするように。
 見えるという事はこっちからも見えるわけだから、深淵をぶん殴ったって構わないわよね。寄らば殴るぞ、寄らなくても殴るぞってね。随分と物騒な文句ではないか。脅しがお上手なお姉さんではないか。たとえば、魔術師の狡猾な罠――それが、悪夢の化身なのであれば――もしかしたら、欠落が埋まってしまうのかもしれない。
 ……なんだか、嫌な予感がするのよね。
 アタシが、ここまで緊張するなんて。
 そうして、波濤は訪れた。そうして、奸悪は動き出した。

第2章 集団戦 『悪夢の使徒』


 穴――虚――不意に、光が戻ってきた。
 或いは、悪夢に出遭ってしまったと謂うべきか。
 兎にも角にも、君達の前には『見たくもないもの』が存在している。これを打破しなければ、これを拭い取らなければ、君達は死んでも此処から出られなくなりそうだ。クヴァリフの仔など、最早、思考の枠に入れてやって良い『もの』ではない。ああ、これは確かに魔術師の……奸悪波濤のやりそうな罠だ。ずっと、一緒に居たいなんて、随分と身勝手な夢魔である。これがプロのサキュバスの所業なのであれば……いよいよ、認めてしまう他にないか。視られている。観られている。ひどく、誘惑をされている。

 ※※※
 あなたは悪夢を見ています。
 あなたは悪夢を打破しても良いし、
 悪夢に囚われた儘でも良い。
 もしかしたら、その悪夢は幸せなものなのかもしれませんよ。
星越・イサ

 予言に振り回されたり、弄ばれたり、していたい。不安定さを糧にして未知の頂で沈みたい。望めば望むほどに遠退いて、故にこそ、オマエは乙女のように焦がれるのだ。膨大な情報の中で肺臓を埋もれさせ、これを永久としたいのか。
 哲学の園に迷い込んだ人間精神こそ、十分、水をやるべきだ。
 幻惑の為の空間も――恍惚の為の剥ぎ取りも――悪夢の使徒の前ではあまねく虚無と考えられた。虚空、埋め尽くさんとしていた月は薄汚れ、知らない内に何も無くなってしまったのか。はて、興味を惹くようなものは何も見えないようですが……。暗黒も吃驚な有り様である。或いは、有り様すらも発見できそうにないのか。はっ、さてはこれが『悪夢』。つまり『私が見たくないもの』? せめて、眩暈のようなものであれば、頭痛のようなものであれば、自分を探す事だって可能だろう。確かに、これはたまりません。こんなものを、何もない今を、見続けては確実におかしくなってしまいます。ざわつく悪夢、嗤う事すらもせずに、只、星越・イサを囲んでみせた。誰ですか……? 元々おかしいと突っ込んだのは? この方が幸せ? こっちに存在していた方が正気を保てる? とんでもない! 押し付けるな、すり寄るな。這い寄るのであれば堂々と、混沌をしてくれないかと叫ぶ。痕跡……まさか、そのようなものを残しておくなんて。なんとも甘い『もの』です。
 おしおきしなくてはいけません。結局のところ同類なのだ。まったくが同族嫌悪なのだ。いいや、きっとオマエだけは嫌悪しておらず、連中が嫌悪を演出している程度なのだ。精神を攻める手口は、私と似ている手合いのようですから……最後は『力比べ』になるでしょう。魔術とは即ち、自分勝手で殴り合うこと。それは……楽しみです。ふへへへ……。
 ああ、うるさい。うるさいことの証明がこうも甘美だとは想定外だ。悪夢に脳髄が存在すると宣うのならば、今直ぐに、彼方の呼び声を聞かせてやると良い。やっぱり、私と同じではないですか。一緒に、深淵を、覗き込みましょう。

アーシャ・ヴァリアント

 この悪夢は『義妹』が根底なのだ。
 故に、オマエは忘却の蜜を啜る事ができない。
 朦朧からの喪失はひどく|刹那《すばや》く行われた。暗黒であろうと、光輝であろうと、真に竜だったとしても、逃避の択すらも与えられない。いっそ盲目の儘であれば、いっそ白痴の儘であれば、我が儘であれば、アーシャ・ヴァリアントは何も知らずに済んでいたのかもしれない。ん……えっと……何してたんだっけ……? わからない。何も、わからない。奸悪波濤に呑み込まれた現になど、おそらく、オマエは気付けもしないのだ。ん……誰よ、アンタ。見おぼえないと思うけど。最初に触れたのは影であった。ぼんやりとした頭で影の正体を捉えると――まさしく、獣の数字の化身とやらが輪郭を湛えてくれたご様子か。つまりは、凄まじく精悍な男。或いは、BBCよりも近しい、悪夢のような魔物。つれないねぇ、まさか、俺のことも忘れたって謂うのかぁ? ああ、そりゃそうだ。俺は、好いた女に対しては徹底的を『やる』と決めているのさ。は? 何言ってんの。もしかして狂ってんじゃないで……? 不明点は多い。悪夢だと気づけそうな点も多い。しかし、如何だ。不意を打つかのように出現した|義妹《サーシャ》、即座に、無様に、ブラックジョークめいて――すっかりと爆散をしてしまったではないか。世界が、思考が止まる。びちゃ、と、ドラゴンプロトコル。アーシャ・ヴァリアントの眼球がより良い『赤』に染まっていく。
 は……え……?
 遅れてやってきた理解。
 い……いや……いやぁぁぁぁぁぁっっ!!
 悲鳴、絶望、筆舌に尽くし難いデジャヴの亜種。
 おお、可哀想に、駄目なお姉ちゃんだな。ほら、あん時のように口に出してみろよ、お姉ちゃん? 男の嗤笑と同時に、ハートマークの嵐と共に、爆散とやらが繰り返される。チープなスプラッタを彷彿とさせるが、それ故に、覿面だと考えられよう。こ、殺すっ、殺してやっ……な、なんで動けないのよ、や、やめて、おねがいだから、かえして。アタシの……アタシたちの……いや……嫌……ぁ……。自分が盾になれたなら、自分が一歩前に出ていれば、このような沙汰にはならなかった。けれども、アーシャ・ヴァリアント。オマエはやはり、その後悔すらも抱く事ができなくなっていた。
 サキュバスの群れが歌っている。歌いながら、枯れ尾花を嗤っている。今にも、溺死してしまいそうな『大粒』を舐っていく。壁を突破する事は難しい。この数を薙いでいく事は難しい。ああ、数と時間こそが、枯れ尾花にとっての最悪なのだと。
 その面もそそるじゃねぇかよ、お姉ちゃん。

笹森・マキ

 がいん、と、脳髄を無理やり右往左往とさせられた。
 瞳に刺さった僥倖とやらを如何にかして払わなければならない。
 いっそ縊死を促されていた方がマシなのではなかろうか。人魚姫か、もしくは、誰かさんの後輩ちゃんに願ってみたくもなる地獄なのであった。いや……マキは、こんなことで、楽になったらいけないんだ。波濤を往くのが贖罪ならばそれをやるしかない。
 子守唄なのか、鎮魂歌なのか、まるで、産まれたての雛のように頭の中だけが鳴いている。ラストダンスに誘われた結果がマカブルなのであれば、良い演奏も台無しだと謂えよう。やっと、光が……やっと、現実が……? 深淵への、虚空への、身投げの代償と呼ばれるものはひどく悲哀な沙汰と思えた。あ……これはヤヴァい……。脳裡、こびりついている戦争の時のおはなし。塵も積もれば山となる、などとは謂うのだが、この後悔だけは清掃できない。弱いところを突いてくるのは定石だよね……あはは……けっこう、つらいかも……。やられた。やられてしまった。目の前で優しく、微笑んでくれているのは好きだった彼。何だ、この超幸せいっぱいな展開は……。両手を広げて迎えに来てくれた|死人《かれ》、手繰り寄せてきた言の葉は「ずっと一緒にいましょう」という、悪辣な招待状。その言葉はいただけないな。少し、クラっとしたマキも、マキのことを許せそうにないけどね。すっぱりと刎ねてやった。彼の首を、死人の身体を、幻惑とやらを葬ってやった。使徒は「おもしろくない」と退屈をしている。
 マキが好きだった人は、彼女さんのことをずっと大切にしてたし、彼女さんも彼のことを、今も大切に想ってるんだよ。吐き気がした。何に、吐き気がしたのかと問われれば、自分の精神状態だ。そもそも、これを『幸せな悪夢』とするならば、これを自分が望んでいた事にならないか。……その言葉は、マキが受け取ったらいけないんだ。たとえ、これが夢でも、誰にも見られていないとしても、絶対に。
 災厄とはおそらく、人間の中に有る情念のひとつだ。
 この情念は己の罪だと、罰なのだと、抱えておくしかない。
 退屈そうなサキュバスを斃してやったなら、もう一度、何もないことを確かめておくと宜しい。

ジェイド・ウェル・イオナ・ブロウクン・フラワーワークス

 優しく笑ったまま、独白をこぼす。
 腹に抱えた|臓物《ばくだん》を如何様にして起動させるのか。その程度の事に思考を割かれては|人間爆弾《フラワーワークス》など出来はしない。綺麗な、綺麗な、花を咲かせてくれと、咲ってくれと、何者かに命令されたのか。いいや、そんな記憶はおそらく、ない。病的なまでに生存をしてしまったのだ。裏切り者には、確実に、情け容赦のない未来が待っている。なんか……穴に落ちたと思ったら、悪夢がなんだって……まず現状把握をだ、な……? サキュバスに嘗め取られたのは、使途に触られたのは、成程、あの微笑みだ。まぎれもなく少女は人形で、懐かしさこそが悪辣な具合を運んでくる。おれが、殺した。裏切りのときに、ちゃんと、仕留めた筈の……あんた。「お兄ちゃん、会いたかった。ねえ、お兄ちゃん。そろそろ、色々と、許してあげてもいいと思うんだ」誰が、誰を『赦す』のか。怨み言だけにしてほしかった。殺してやる、なんて、泣いてくれるなら楽だった。だというのに少女は……おれに「おれ」を赦してやって、などと、笑う。あぁ……たしかに、こりゃ悪夢だ。使えるものは全部使え。それが、たとえ自分自身を殺せるほどの情念だったとしても。
 冷たい、冷たい、拳銃だ。存在感を主張してくる――今すぐぶっ放せと訴えてくる――いつもの沙汰とやらが、ひどく重たい。撃たなきゃならない。撃て。オマエは既に撃ってしまったのだろう。……そうだよ。無抵抗なこの子を、かわいらしい少女を、殺すことで『悪夢』は完成される。目と鼻の先だ。額と銃口がぴったりと、キスをしている。「……えへへ」撃った。おれは、撃った。この事実を嘘にする事だけは出来そうにない。
 倒れた|少女人形《それ》を見つめてくれ。ああ、おれは絶望をしている。でも、おまえは偽物だろ。使徒が呵々と手を叩いた。偽物が偽物を殺しただけで、何を、苛立っているのかと。……本物もおれが殺した。これが本当に夢だったらって。おれが何度願ったか、おれが何度望んだか、知ってるか? 理解はしている。故にこそ、掻っ攫われたのだ。随分と滑稽なお顔だと『使徒』は囀る。……趣味の悪い奴らだ。なあ、笑い方を教えてやる。赤い帽子の被り方はちゃんと習っているんだろ?
 涙は流れてくれやしない。

青木・緋翠

 カップの中身を確かめてくれ、覗き込み、その黒さをアピールするのだ。そこそこ楽しめたダイス・ゲーム。此度の遊び相手は人間精神にご執心な様子だ。故に、今こそ、検索する為の気力が必要不可欠と考えられた。
 救出に向かいます。俺が、皆さんを助けましょう。
 百鬼夜行に紛れ込んでしまった異物のおはなし。いいや、そのようなナンセンスは今更、語る必要などないだろう。何故ならば、オマエは一種の|機械仕掛けの神《デウス・エクス・マキナ》であり、悲哀の感情を欠落してしまっている。俺が役に立てるなら、俺が付喪神としてパーソナルコンピューターを出来るなら、ええ、喜んで。カタカタ、カタカタ、キーボードを打ち込んであらゆる言の葉を手繰っても、そうともオマエはこの状況下においても『冷静』さを維持する他になし。いえいえ、そんな。俺が『これくらい』の演技、出来ないとでも仰っているのでしょうか。怪物を狩る為にはオマエ、怪物性を会得しなければならない。成程、最も深淵に近づいていたのは青木・緋翠だったのかもしれない。
 重要なのは如何にして『悪夢』を突破するのか、なのだが、平穏を脅かされようとエラーを散らかす気配もない。だが、如何だ。この悲哀に満ちた表情と狡猾なまでの台詞とやらは。まるで、本当に自分自身が絶望をしていると『思わせてやれる』ほどに。……俺は、もしかしたら『欠落』を取り戻してしまったのかもしれないのです。でしたら、こんな場所で留まっている場合では……違います。俺は、道具として『立ち止まらなければ』ならないのです。成功した。大成功だ。雀躍と√を跨いでやってきた悪夢の使徒の群れ。警戒心を抱けない彼等は、最早、オマエの掌の上であった。……効率のいい方法を選択しましょう。必要であれば詐術だってこなします。使徒の群れの困惑こそ最大の好機。放たれた|震動《フロッピーディスク》は肉も骨も台無しにしてくれたのだ。では、先に進みましょうか。この街にいる人々の為にも、皆さんの為にも、俺は『俺』を完遂してみせますので。

第3章 ボス戦 『『凝望の魔人』ゾァリス』


 穴――虚――夢。
 悪夢――深淵――魔術。
 押し付け合いだと描写をすべきなのだ。
 ならば、奸悪波濤な我が儘の権化、これを討滅しなければならない。
 あなた方が……わたくしの邪魔をしようとする、素敵なお相手なのでしょうか。成程、わたくしが想定していた以上に|厄介《めんどう》なお相手だと、理解しておく事にしましょう。改めて、ご挨拶を。わたくしはゾァリス。かつては人間をしておりましたが、今では、このような怪異でございます。魔術を極める為ですもの。多少の犠牲は致し方ありません。
 あなた方がお探しになっている『お子さん』はわたくしの身体の中にあります。紳士なお方の真似事をしてみましたが、なかなか、悪くはないものです。わたくしであれば、この子の『良いところ』を全部引き出す事が可能でしょう。如何ですか。わたくしに『預けておく』というのは? もちろん、わたくしは、この約束を真に守れるとは口に出来ませんが。
 ええ、そもそも、わたくし達は殺し合う運命なのです。
 魔術についての云々を置いておいて、それくらいは、
 お互い承知の上でしょう。
 魔術師だ。それも、真正の魔術師だ。
 この簒奪者を諦めさせるのは極めて困難と謂えよう。
星越・イサ

 ある意味での僥倖ではなかろうか。ある種の一期一会ではなかろうか。撫でるようにして出遭った魔女ふたつ。如何様な狂気で、如何様な魔性で、この現実とやらを侵していくのか。私、別にあなたの邪魔をしにきたわけではありませんし、汎神解剖機関に肩入れする道理もないのですが……。機関の誰かさんには聞かれたくない本音であった。成程、人心掌握に長けた魔女もオマエの言の葉に『嘘はない』と理解をする。では、あなたはわたくしに『何』をさせようと謂うのでしょうか。……あなたの思考、あなたの中の|仔《●》、詳らかに見させてくださいな。魔女は野性的か、或いは人間的に、目の前の『それ』の性質を瞬時に判断した。成程、わたくしは『あなた』を脅威と判断致しましょう。あなたの√能力はおそらくわたくしにとっての『猛毒』であると……。だめですか? 私と関わり合いになるだけで『不安定』に巻き込まれると、この数分で理解されるとは……ええ、その通りです。私は、あなたにとっての天敵なのでしょう。ですが、興味が涌いてきたものはしかたないのです。最悪なまでに同族なのだ。おぞましいほどに同類なのだ。そして、何よりも忌まわしいのは、お互いに『嫌悪』を向け合っていない今である。さっき、悪夢の中で退屈した分、好奇心を満たしたいんです。その過程で多少の犠牲は致し方ない……ええ、あなたも、遠慮をしないで。魔女は……魔人は……後天的な怪異は……身構えた。身構え、目の前の毒物を払わんと『触手』を伸ばし――? これは、麻痺……いえ、あなた。捻じ曲げるなんて……!
 運命と偶然のお遊びの果て、破損した情報だけが肥大化していく。波濤にやられた魔人は刹那、様々な計算とやらを狂わされた。……わたくしが、解く事の出来ない膨大さですって……? いいえ、これは……まさに……そのものの気配……。
 面白いとは思いませんか。
 これが、私とあなたが唯一できそうな|会話《●●》です。
 絶対的なまでに乱された秩序、再生を試みるだけで疲弊からは逃れられない。

アーシャ・ヴァリアント
サーシャ・ヴァリアント

 忘却の蜜を一滴だけ、焦らしも素敵な流れと謂えよう。
 激おこ|義妹《サーシャ》ちゃんは最強なのだ。
 獣の数字が――ひどく暴力的かつ趣味の悪い|夢《もの》が――可哀想な娘を引っ掴んだ。泣きじゃくるお姉ちゃんは確かに可哀想で、可愛いのだが、流石にそろそろ助け舟を出すべきではなかろうか義妹ちゃんよ。ちゃんと、しっかりと出羽亀しているのだから重たい腰を上げよ。ああ、今日もお義姉ちゃんってば可愛い。可愛くて可愛くて、食べてしまいたいくらい。サーシャ・ヴァリアントの双眸には御守りを通しての惨事が届けられていた。滂沱、鼻をすする無様な誰かさんはいったい何を見ているのであろうか。いや……あ、う、あ、あああ……嫌ぁぁっ……。アーシャ・ヴァリアントの鳴き声が脳髄に染み込んだ。何か、悪い夢でも見せられているのかな、帰ってきたら慰めてあげないとね。これだから邪悪なのだ。これだから波濤なのだ。そうとも、奸悪波濤の四文字は義妹ちゃんにこそ相応しい。
 サキュバスには、使徒には、簒奪者の手足には、背後に潜む『怪物』の想いなど気付けやしない。まるで、山車を動かすかのように、喚いている|餌《アーシャ》、主の前へと捧げてみせた。わたくしに『使え』と、そう謂いたいのですか。確かに、無様を極めてはいますが上質な『材料』ではありますね。モルモットには丁度良いのかもしれません。錯乱状態が長続きした結果の沈黙。ぐったりと、弛緩している。……これは……別の|簒奪者《おかた》が唾を付けたのでしょうか。想像していた以上に『中古品』です。まあ、でも……新たに魔術を創ってしまえば、何もかもを上書きする事は容易でしょう。何度も、何度も、貰ってしまったブレイン・ウォッシュ。艶のある脳味噌の愛らしさについては誰もが認めるところと謂えよう。魔術師は魔術士らしく演技だって上手なのだ。あの獣性を蹴り飛ばしてやれ。
 あ……あぁ……ぁ……? 獣の数字のご退場は予想外に早かった。かなりの『わざとらしさ』だが、アーシャ・ヴァリアント、彼女の精神を救うのに『お邪魔』ではない。可愛らしいあなた。わたくしが、あなたのことを、助けて差し上げ……? あ、あなた。何故……わたくしが『このような仕掛け』に……いえ、さては、仕掛けているのは『あなた』ではなくて……! 竜姫召喚――御守りは壊れ、最もおそろしい女が出現する。
 むむむ、悪い気配がします、私からお義姉ちゃんを奪おうとする雌犬の気配が……いえ、それは『犬』に失礼でしょうか。NTR許すまじ、はい、助けにきたよお義姉ちゃん。愕然としている、頭痛を覚えている|魔人《怪異》ひとつ。あ……あなた。あなたが『謂っていい』台詞ではありませんよ。わたくし、あなたが何をしているのか容易に理解ができてしまいました。吐き気がします……! それは同族嫌悪の類でしょうか、その程度の煽りで私が……お義姉ちゃんの義妹である私が……我を失うと? 我を失っているのは常々ではなかろうか。兎も角、この瞬間。魔術師の勝利は失われた。どうも、お義姉ちゃんの可愛い義妹です。まったく、こういう事態を避けるべく纏わりつくのを見逃してるのに使えない|娘《実妹》です。……この……この|外道《●●》……! 困ります、外道は其方でないと。貴女が、私からお義姉ちゃんを奪おうとした悪い雌犬ですね、死んでください。それはもう、ゴミのように死んでください。シンプルに義妹ちゃんは強化をされていた。
 千倍ほどの強化なのだから、それは最早、簒奪者を超越するほどに違いない。
 いつか……いつか、あなたも、わたくしのように……。
 断末魔を聞いている暇はない。
 可愛い、可愛い、お義姉ちゃんを抱きかかえて。
 お家に帰ったらじっくりと慰めてやるとよろしい。

ジェイド・ウェル・イオナ・ブロウクン・フラワーワークス

 目眩がした。これが、悪夢を殺した男の顔なのか。
 レッド・キャップを殺害し、現実へと戻ってきたフラワーワークス。されど現実こそが深淵であり、魔術であり、怪異であったのだ。へえ、イカした触手の別嬪さんだ。もちろん、おれに『ひとつとばしてやる』余裕はないんだがな。それにしても、魔術だとか、深淵だとか、そういうのはもう間に合ってるって言っておこう。それに、素敵なドレスのご令嬢にはダンスで応じてやらにゃならんか。……わたくしがご令嬢? あなた、わたくしが想像している以上に正気ではありませんね。その笑顔……ああ、成程、それなら納得する他にありえません。あなたは、わたくしの遊戯にちゃんと付き合ってくれた紳士なのですから。なに? おれが紳士? おれは紳士でもねーし、なんなら、自分のことを真摯だとも思ってねーけど! 余裕綽々な雰囲気の魔人サマだ。その怠惰さに甘えて先手を打つとよろしい。はっ……おれを虚仮にしたんだ。あんたにも少しは動揺してもらわねぇと……!
 魔女と案山子は仲良しらしく、どぷんと、オマエの攻撃を貰うつもりだ。随分とお優しいじゃないか。おれだって、あんたを殺す為に投身をしたんだぜ。サバイバルナイフで切断した|触手《●●》、其処から先は未曾有なまでの手数勝負。いいや、速度勝負の幕開けと解せよう。……今、おれが選んだのはおれの左目だ。これが『何』かくらいは、魔女であるあんたならわかるよな? あなた、いったい、どのような覚悟を抱けば、そのような……! 魔女が如何に、精密に|模倣《コピー》しようがリミッター解除済みの人間爆弾を『越える』事はできない。言う必要はないだろうけどな、いちおう、言っとくぜ。あんたはもう、一位をとる事なんか金輪際できないってな。切断の次は貫通だ。傷口を……腸を抉るようにして、殺意と共に。へたくそなご令嬢だ。おれが、手取り足取り教えてやるぜ。
 ごきげんよう――。
 その額に銃口あれ、魔術師の笑みほど忌々しいものはない。
 ……ごきげんよう、マスカレイドの住民さん。

笹森・マキ

 お化粧をしたとしても、情念を隠そうとしても、蒼白としたお顔を如何にかする事など出来はしない。ごめんなさい、ごめんなさい、頭の中でおんなじ言の葉を咀嚼したところで、総ては悪夢なのだから仕方がないのか。ふと、視線を前に投げたのならば『こわこわ美人お姉さん』とのご対面だ。ちゃんと挨拶をしてくれたのだから、お返しをしなければダメだろう。んぇぇ……マキはマキ、なんだけど……それより、お姉さんもお腹に入れちゃったの? 土留からの回復、肌色をなんとか取り戻しつつ、徐々に、焦りの感情が紛れ込んでくれていた。オイオイ、ブームになったらど~すんのコレ。責任取ってよ、スミスおじさん~……。胃液にやられたひよこさんまで嘴を出そうとしてくる。えっと、お姉さん。その仔の良いところを全部出すって言うけど。その後ヤヴァいことするだろうから取り出すね。わたくしの肚を晒すと謂うのですか。その顔色で? その、絶不調なご様子で? いいや、蒼白なのは何も顔だけではない。そもそも、顔を見たという事は、目が合うのも時間の問題で。
 わたくしと『目が合う』? そんな、莫迦な話があるものですか。わたくしは『目を隠している』のですよ。魔術師の、怪異の言の葉は尤もだ。しかし、一切は√能力の所業。光に中てられた時点で|阻害《●●》は十分に引き起こされている。……お姉さん。マキは、そこまで強くないけども。このくらいの『こと』はやってみせるよ。俎板の上の鯉なのか、手術台に載せられた健康体なのか。ともかく、蒼白に縛された魔術師は嘆息しつつ。……そう、ですか。しかし、わたくしの触手は既に地を叩いています。この波濤からは何者であろうとも逃れられはしませんよ。波に攫われ、思考がブレ、脳髄の右往左往も二度、三度……。お姉さん、マキを酔わせるつもりかなぁ……でも、たとえ、座り込みたくなったって……。ちゃんと壁は作っておいた。そのまま、ゆっくりと、おばあちゃんを食べた獣相手のように。
 マキの身近に体の中がめちゃくちゃで困ってる子がいるからさ……こういうの見ると、こういうの『やる』と、複雑な気持ちになっちゃうよ。……わたくしからのアドバイスは、そうね、楽にしてあげるのが、周りの務めというものよ。
 まったく参考にならないアドバイスだ。
 お姉さん、それは、ずるいと思うなぁ……。

青木・緋翠

 目には目を歯には歯を、因果応報の使者として振る舞ってやると良い。
 炎上するかのような有り様だが、その属性は水である。
 これが最も効率の良い方法です。穴を埋める事も可能でしょう。
 使徒の群れを撹拌した後、コンピュータ、青木・緋翠は何と面を合わせたのか。或いは、目を合わせる事など出来ず、只、物理的に挨拶を交わすだけだったのかもしれない。わたくしを前にしてひどく冷静ですね。まるで、機械仕掛けのような表情……先程の、爆弾とは真逆なようでいて、故にこそ、わたくしはあなたに興味があるのです。魔術師は、魔人は、怪異はオマエの隅々までも観察しようと試みた。しかし、如何だろう。奸悪波濤は受け止めるべき異能を、√能力を発見する事が出来なかった。……あなた、いったい『どうやって』わたくしを倒すつもりなのでしょうか。まさか、あえて、使わずに立ち向かおうと……? いいや、俺は魔女さんに『本気』で挑むつもりでいます。ですが、この場で堂々と『手の内』を見せるつもりはありません。役立つ為なら、誰かの為なら、詐術だって熟してみせよう。そんなオマエだからこその『拾い物』と考えられた。
 精密さに加えての手癖の悪さだ。まるでウイルスを流すかのように、天敵を上手に扱う戦術のように、フロッピーディスクが出現した。これは『応報』そのもの。魔女さんが罪深く、かつ、罰を避け続けていましたので、これの威力はお墨付きです。誰からの『墨』なのかと問われたならば、今まで『頭を抱えていた』他の√能力者の落とし物。さて……果たして、簒奪者である魔女さんは、ゾァリスさんは、彼等彼女等の波濤を受け止めきれるでしょうか。最早、方舟は存在していない。魔術師は波濤に呑まれ、そのまま、溺死の運命を辿るだけ。……わたくし、覚えました。次の機会があれば、もう少し、奸悪さを磨くと致しましょう。
 |虚《あな》は埋められ、何事も無かったかのように。
 人々は日常に帰っていった。
 仔の奪取も上出来と謂えよう。

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