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正義の定義

#√EDEN #√汎神解剖機関

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 #√EDEN
 #√汎神解剖機関

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●
 どんな世界にも、明るく賑わう表の世界と薄暗く荒んだ裏の世界が存在する。それは等しく──楽園と呼ばれる世界にも、光と闇が潜んでいた。

「さぁ、次の商品はこちらになります!」

 スーツに身を包み、仮面をつけた男がステージ上で仕切るのはオークション。参加者もまた仮面をつけ、様々な商品を手に入れようと多額のやり取りが行われていた。参加者は富豪だけではなく、国家に務める議員や悪趣味なコレクターといった人々。そんな人達が金額を叫び、我先に手に入れようと血眼になっている。

 そんなオークションで取り扱っている商品は、普通ならありえないモノばかり。人身売買で売られた人間、裏取引で入手した曰く付きの絵画など。この闇オークションで取引される商品は全て、大半の人が知らないうちにひっそりと執り行われていた。

『法で裁かれない悪人。俺が代わりに裁いてあげるよ』
「何者だ!?」

 それは一瞬。
 闇オークション会場は、瞬く間に真っ赤に染まっていった。

●
「俺ら警察がどれだけ動こうが、どれだけ法律が整っていようが、それでも裁き切れない罪がある。……なんて言ったら、警察は無能かとも言われそうだな」

 天使・夜宵(残煙・h06264)は肩を軽く竦めつつ、理不尽なクレームだよなとボヤく。小さく息を吐いた後、煙草を咥えたまま事件について纏めた書類を配って説明し始める。

「√‬EDENにも裏の世界は存在する訳だが……その一つ、秘密裏に行われている闇オークションがある。そこで、一人の殺人鬼が裁きを下すと行って会場内にいる全ての人間を殺してしまうっつーのが視えた」

 巻き込まれてしまっただけの一般人も含めて、と説明に付け足す。放置すれば悲惨な大量殺人事件になってしまう。その前に、殺人犯を倒す事と、闇オークションを取り仕切る人間の捕縛、人身売買で売られた人々の救出。この3つを現地でこなして欲しいと説明して。

「捕縛と救出は邪魔さえ入らなければスムーズに出来るだろうが、殺人犯についてきたのか怪異が動いてるのも微かに視えた。姿までは分からなかったが……どちらにせよ、用心しておくに越したことはねぇ」

 捕縛した闇オクの商人はすぐに警察へ引き渡せるよう手配しておくと伝え、夜宵はEDEN達を見送った。

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第1章 冒険 『闇の競売場』


●
 とある街の路地裏を通り、隠し通路を抜けた先。
 思い鉄の扉を開いた先に広がるのは、仮面を付けた富豪達、そして裏商売で手に入れた商品を取り扱う闇商人で賑わいを見せていた。

 表では取引されることのない違法商品の数々。その中には、人身売買で売られた人達の姿も。その大半が若い男女や子供ばかりで、誰かに買われてしまえば悲惨な未来が待っている。
 それだけではなく、取り扱うのは盗品なども目立っている。


 この場所で待っているのは闇オークション──ではなく、残虐非道の殺人事件。犯人が辿り着く前に救助と捕縛をする必要がある。
 オークション会場にいるのは、全て非能力者ばかり。闇商人を捕まえるのも容易だろう。



 被害を最小限に抑えられるかどうか、EDEN達に委ねられた。
金菱・秀麿

●
「さてと。ここは警察は無能と言わないためにも、俺は公僕としての務めを果たすとするかね~」

 情報を頼りに裏路地から隠し通路を抜け、現場付近へと辿り着いた金菱・秀麿(骨董好きの異能刑事・h01773)は周りの状況も確認する。出入口には、警備の黒服を着た体格の良い男が二人。道も広くは無いし、人の気配は目的持って訪れる人以外は無い様子。警察が無能と言われてしまうのは勘弁願いたいしと肩を竦めてから、秀麿は闇オークション会場の出入口へと近付いた。

「この先は、関係者以外立ち入り禁止だ」
「とある骨董品が盗難に遭いましてね。それをこの会場に持ち込もうとする古物商がいるとかで、会場内を調べさせてもらって宜しいでしょうか?」

 警察手帳を手に愛想笑いを浮かべながら、捜査協力して欲しいと頼んでみる。黒服はインカムで指示を仰ぐと、当然ながら警察の介入を望まない主催者は追い返すよう指示を出したようで、やり取りが終わるなり首を横に振ってみせた。

「申し訳ないが、いくら警察と言えど上から指示が出ない限り通す事は出来ない」
「それは困ったなぁ……あくまで盗品があるかどうかの確認をしたいだけなんで、協力してくれると助かるんだが」

 やはり渋ってくるかと思いつつも、ここで引くわけにもいかないわけで。どうにか中へと入れないかと押し問答を繰り返していく中で、会場に|商品《盗品》を運び終えて裏から出てくるのに遭遇。商人は秀麿の顔と手に持つ警察手帳を見るなり、血の気が引いて慌てた様子で逃げ始めた。

「け、警察?! くそっ、まだ捕まりたくないんだ……!」
「おい、そこで何をしている? そこを動くなよ!」

 秀麿が叫ぶと同時に【|金縛法《カナシバリホウ》】が発動。闇商人を視界に捉え続ける事でその場から逃げるのを封じてしまえば、非能力者である商人は呆気なく捕縛された。

「ひぃいい! な、なんで動けないんだ!?」
「ここの関係者らしいなお前さん達。大人しく吐けば良し、さもなくば……」
「は、話すから……! 話すから勘弁してくれ!!」

 不可解な現象で動けない事の恐怖に怯え、運び込んだ|商品《盗品》について聞き出す事に成功。後の事は警察にも任せるため、手錠を掛けてから密かに待機する一般の警官に引き渡す。

「さて、商人の一部は避難も兼ねて捕まえられたとして……中に潜入する方法考えないとな」

 未だ門前払い受けてしまっているのもあり、いざとなれば強引な方法にするかと考える。ここに集まるほとんどが悪人とはいえ、理不尽な死を迎えるべきではないから。

 秀麿は小さく息を吐いてから、再びオークション会場の出入口に向かう。悪しきを捕まえる、警官としての務めを果たすために。

●
 こっそり、こっそり。裏路地へと身を潜めながらオークション会場付近へと辿り着いたエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は、隠れたまま仲間が商人を捕らえているところを様子見ていた。

「ん-、悪い人が痛い目あうのはいいんだけど、囚われている子供達は何とかしたいよね。とはいえ、あたしも子供だからなぁ……」

 悪い事をしたなら叱られるし、罰が下っても仕方ないと考えるけれど、悲運にも巻き込まれてしまった子供達まで痛い目に遭うのは見過ごすわけにはいかない。だが、自分も子供だというところから、事をややこしくしてしまう可能性も捨て切れない。うーん、うーんとどうやって助け出すかと考えた結果、分かりやすい方法を取ることに。

「……よし、これで行くか」

 闇に紛れて会場の出入口まで近付いた後、エアリィは鞘に収めたままの【精霊剣『エレメンティア』】で見張りの屈強な男二人を思いっ切りぶん殴った。

「ぐえっ!?」
「グハッ!!」
「ごめん、ちょっと眠っててね」

 非√‬能力者というのもあり、呆気なく見張りを|眠らせ《倒し》てから扉に触れてみる。念入りに鍵まで掛けられている事に気付くと、ガチャリと鍵開けで簡単に開ければ内部へと潜入。
 薄暗いながらにもどこか高級そうな造りから、富豪や政治家といったお金持ちが出入りしているからこそだろうというのが想像出来る。急いで子供達を助け出すために、エアリィは【|精霊交信《エレメンタル・コンタクト》】を発動し、インビジブル達へと語りかけた。

「精霊達よ、あたしに力を……。ね、おしえて? ここに囚われた子供たちの場所を」
《怪しい人達が、あっちの部屋に運んでいったよ》
《たくさんの子供たち。泣き声が聞こえてくる、とても悲しいの》
「おしえてくれてありがと。大丈夫、絶対助けるから」

 お礼を伝えてから、エアリィは急いで精霊の姿となったインビジブルが教えてくれた部屋へと向かう。辿り着いた部屋の扉は重々しく、鍵も頑丈に掛けられているならと強行突破するべく【精霊銃『エレメンタル・シューター』】を構えて威力調整した後、精霊の力を借りて撃ち抜き扉を破壊する。暗く窓のない部屋の中には、たくさんの子供たちが身を寄せ合い、恐怖に怯えていた。怖がらせないようにゆっくり近付くと、エアリィは笑顔を見せて子供たちに手を差し伸べた。

「お待たせ、助けに来たよ。あたしが前に行くから一緒にきて?」
「おねぇちゃんが、たすけてくれるの?」
「おうち、かえれる?」
「もちろんだよ。それじゃ、逃げよっか」

 子供たちははぐれないように手を取り合い、エアリィの後ろについて行きながら闇オークション会場から脱出に成功。あとは、駆けつけている警官達に任せれば、それぞれ帰る場所へと送ってくれるだろう。

 これで、子供たちが巻き込まれる心配はない。
 どんな悪い人が姿を現すのか──エアリィは、会場へと戻っていく。
エアリィ・ウィンディア

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 こっそり、こっそり。裏路地へと身を潜めながらオークション会場付近へと辿り着いたエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は、隠れたまま仲間が商人を捕らえているところを様子見ていた。

「ん-、悪い人が痛い目あうのはいいんだけど、囚われている子供達は何とかしたいよね。とはいえ、あたしも子供だからなぁ……」

 悪い事をしたなら叱られるし、罰が下っても仕方ないと考えるけれど、悲運にも巻き込まれてしまった子供達まで痛い目に遭うのは見過ごすわけにはいかない。だが、自分も子供だというところから、事をややこしくしてしまう可能性も捨て切れない。うーん、うーんとどうやって助け出すかと考えた結果、分かりやすい方法を取ることに。

「……よし、これで行くか」

 闇に紛れて会場の出入口まで近付いた後、エアリィは鞘に収めたままの【精霊剣『エレメンティア』】で見張りの屈強な男二人を思いっ切りぶん殴った。

「ぐえっ!?」
「グハッ!!」
「ごめん、ちょっと眠っててね」

 非√‬能力者というのもあり、呆気なく見張りを|眠らせ《倒し》てから扉に触れてみる。念入りに鍵まで掛けられている事に気付くと、ガチャリと鍵開けで簡単に開ければ内部へと潜入。
 薄暗いながらにもどこか高級そうな造りから、富豪や政治家といったお金持ちが出入りしているからこそだろうというのが想像出来る。急いで子供達を助け出すために、エアリィは【|精霊交信《エレメンタル・コンタクト》】を発動し、インビジブル達へと語りかけた。

「精霊達よ、あたしに力を……。ね、おしえて? ここに囚われた子供たちの場所を」
《怪しい人達が、あっちの部屋に運んでいったよ》
《たくさんの子供たち。泣き声が聞こえてくる、とても悲しいの》
「おしえてくれてありがと。大丈夫、絶対助けるから」

 お礼を伝えてから、エアリィは急いで精霊の姿となったインビジブルが教えてくれた部屋へと向かう。辿り着いた部屋の扉は重々しく、鍵も頑丈に掛けられているならと強行突破するべく【精霊銃『エレメンタル・シューター』】を構えて威力調整した後、精霊の力を借りて撃ち抜き扉を破壊する。暗く窓のない部屋の中には、たくさんの子供たちが身を寄せ合い、恐怖に怯えていた。怖がらせないようにゆっくり近付くと、エアリィは笑顔を見せて子供たちに手を差し伸べた。

「お待たせ、助けに来たよ。あたしが前に行くから一緒にきて?」
「おねぇちゃんが、たすけてくれるの?」
「おうち、かえれる?」
「もちろんだよ。それじゃ、逃げよっか」

 子供たちははぐれないように手を取り合い、エアリィの後ろについて行きながら闇オークション会場から脱出に成功。あとは、駆けつけている警官達に任せれば、それぞれ帰る場所へと送ってくれるだろう。

 これで、子供たちが巻き込まれる心配はない。
 どんな悪い人が姿を現すのか──エアリィは、会場へと戻っていく。

リオル・プラーテ

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 闇オークション会場の付近に辿り着くと、リオル・プラーテ(空の夢・h01411)は身を潜めながら出入りする人々の動きや出入口で護衛する男を観察していた。

「……放っておいても良かったけど。まぁ、偶にはこういう場所で、場を掻き乱すのも悪くはないか。──踊れ、嗤え、僕の手中で」

 リオルは【|ἀπὸ μηχανῆς θεός《アポ・メカネス・テオ》】を発動し、自身に時空魔術を施して闇商人へと成りすましての潜入を試みることに。

「すみません、商品を確認したいんですけど……どこにあるんでしたっけ?」
「商品を扱う部屋は入って奥の方にあります」
「なんだ、うっかり忘れるとは。しっかりしてくれよ」

 「すみません」とうっかりした商人だという“演技”をすれば、護衛の男達はリオルの言葉を信じて中へと通す。すんなりと潜入成功すれば教えてもらった部屋へと向かうと、そこには絵画や金品、様々なものが丁重に保管されていた。

「これ、全て商品……いや、盗品みたいですね。これくらいなら、全て運び出すことは出来そうですね」

 運び出した先──外から何も無いように見せる条件で【|δημιουργώ《ディミウルグ》】を使い、エネルギーバリアを素早く一つずつ施していく。さらにハッキングも仕掛けた後、空間を歪ませると全て外へと運び出す事に成功。
 他にも商品を運び込んできた、もしくは運び込もうとしている商人も多くいるのも道中で確認出来たのもあり、リオルは聞こえるような大声を出した。

「大変です、商品が無くなっています!」
「な、なんだって?!」
「あーーっ! せっかく持ってきた商品が!!」
「もしかしたら、外に持ち出されたかもしれませんっ! 一緒に見に行きましょう!」

 動揺する商人達へ外に出るよう誘導すれば、リオルの言葉を信じ込んで急いで商品を見つけねばと血相を変えていた。次々と外に出てどこにあるのかと探してみるものの、運び出された商品は見えないようにしてあるのもあり、当然見つかるわけもなく。このままでは儲けられないと、慌てた様子の商人達が見つけたかどうかと情報共有するために集まったところで、まとめてエネルギーでつくった檻の中へと閉じ込めた。

「檻?! だ、出してくれ!!」
「何がどうなってるんだ!?」
「どうです? 自らが檻の中に囚われる気分は?」

 まさか外に誘導した人が欺いていたとは思わず、出してくれと懇願するのをにっこり微笑んで眺めながら、何を運んできたのかを聞き出していく。盗品もだが、若い人達を攫った商人もいた事もあり、捕らえている部屋を聞き出してから幽閉された人達を解放。

「どこへでも勝手に行けば良い。……助けるつもりは、無かったんですけどね」

 人を信じていないのもあり、ここまで人助けをするつもりは無かったけれど。今はやることをやった、それだけでも十分だった。

 狙い通り、場を乱すことは成功した。
 次何が起きてもいいように、一度会場へと踵を返した。

アデドラ・ドール
桂木・伊澄

●
 他の仲間が意識を逸らしているうちに、アデドラ・ドール(魂喰い・h07676)は警備員から見える場所で、ちょこんと座って待機していた。
 アデドラ自身、元々はとあるお婆さんが大切にしていたビスクドール。艶やかな黒髪にアイスブルーの瞳を持つ魅力のあるドールが置いてあるとなれば、商品として目を付けてもおかしくないはずと予想しての作戦だった。

「あれ、あの綺麗な人形いつの間に? あれも商品として使えそうだな」
「俺の目を見て」

 死角からアデドラに近付く警備員の動きを見ていた桂木・伊澄(普通の警視庁異能捜査官の超知覚者・h07447)は眼鏡を外し、警備員の一人に声をかけながら【|精神侵蝕《サイコネクション》】を静かに発動。両眼から仄蒼い光を放てば、その目から逸らす事は出来ず精神を支配する。

「|少しの間《・・・・》だけ、制服貸してくれませんか?」
「……あぁ、分かった」

 すんなりと制服を借りてからは、支配が解けた後に騒がれても困るのもあり、手刀で気絶させて隅の方で眠らせておいた。

「さて、行きましょうか」

 ワゴンにアデドラを乗せながら伊澄は小さく声をかけると、アデドラはこくりと頷く。そして、警備員の一人として堂々と入口にワゴンを押しながら近付けば、商品を運んできたと勘違いした護衛は疑うことなく中へと通した。

「闇オークションか……どうやら人身売買も、売られる前に先発隊が救出してくれたみたいで良かったよ……。それにしたって、怪異が絡んでなくても胸糞すぎはしないか?」

 建物内も怪しい雰囲気しか漂わず、取り扱う商品も盗品や人身売買として攫われた人々といったものばかりと、よくある話だが当然気分の良いものではない。今回のような胸糞悪い事件が無くなればいいと、伊澄はそう願わずにはいられなかった。
 その呟きを聞きつつ、アデドラは興味混じりになりながらも真面目にバレないよう観察をしていた。自分もビスクドールとしてオークションで売られたならば、どれくらいの値段がつくのか興味があった。とはいえ、変なおじさんに買われるのは勘弁願いたいけれど、とも思っていて。

 裏社会で殺人鬼が裁きを下すと凶行に及ぼうとする気持ちも分からなくもないなと、胸糞悪さにモヤモヤする伊澄の雰囲気を感じると、周りに聞こえない程度の声量でアデドラは念のためと釘を刺す。

「というかイズミ……冷静におなりなさい。あなた、殺人鬼に混ざって一緒に暴れ出すんじゃないかしら」
「いや、大丈夫だって! もちろん、許されざる行為で必ず止めるけどさ!」

 いくら何でも同じように暴れるなんてしないよと約束しながら歩いていると、建物の奥にある大ホールの舞台裏に辿り着く。こっそり覗き込むと、先に動いてくれた仲間達のおかげもあってか、騒ぎになって逃げ出したのか閑散としていた。慌てて逃げれば外で待機する警察に捕まるのも時間の問題だろうと思いつつ、一先ずここで怪異や殺人鬼が現れるまで待機する事に。

 どんな怪異が現れ、殺人鬼も何を思うのか。
 どちらにせよ、被害を広げるわけにはいかない。|警視庁異能捜査官《カミガリ》として、悪人を捕らえるのも役目だと伊澄は気を引き締める。その様子を冷静に見遣りつつ、モノを粗雑に扱う人は好かないわとアデドラは裏社会の人達に対して呆れていた。


 ──襲撃は、刻一刻と迫り来る。

チェルシー・ハートサイス

●
(わたくしは強い者と戦えればそれで良い。けれど、無関係な被害は作りたくないわ。寝覚めが悪いもの)

 オークション会場に現れるという殺人犯はおそらく強いはず。戦うならば強者を求めるけれど、闇商人やオークション主催はともかくとして巻き込まれた一般人に被害を出すわけにはいかない。
 チェルシー・ハートサイス(強者たれ・h08836)は赤と黒を基調にドレスを身に纏い、参加者として潜入するために仮面を付ければ堂々とした振る舞いで出入口に向かう。

(身の程知らずの|成金《ブタ》どもがどうなろうと知ったことではないけれど。罪なき者は逃がしてあげましょう。それが、|高貴な者のつとめ《ノブレス・オブリージュ》よ)

 屈強な男が護衛として立っていたが、オークションの客だと認識して中へと通す。薄暗くも煌びやかな建物内、悪趣味で理解し難いと一瞥しながら探索する。どこかに|商品《盗品》や捕らわれた人々がいるはず、手っ取り早く案内させようと中で見回りする黒服に声をかけた。

「ごきげんよう。先に商品を見たいのだけれど……案内してくれる?」
「……あぁ、もちろん。商品はこっちだ」

 【|深紅の瞳《ブラッドアイズ》】を発動しながら、艷めく紅色で見つめ囁きかける。魅了された黒服はチェルシーの言葉のままに、商品をまとめている部屋へと案内し始める。案内されるままについて行き、煌びやかな造りから質素で重々しい空間へと変わっていく様子も、益々薄気味悪さが増すばかり。部屋が近付いてきたところで、何やら騒ぎになっていた。

「大変だ! 商品が消えた! お前も犯人を探してくれ!」
「……! な、なんだと?! ……あれ、どうしてお客様が」
「少し眠っていてもらうわ」

 どうやら仲間の一人が|商品《盗品》を持ち出してくれたようで、騒ぎによって魅了が解けてしまった黒服や付近にいる護衛も次々と怪力で|倒し《眠らせ》ていく。他に囚われている人がいないか付近の部屋を探せば、10代後半くらいの少年少女がまだ閉じ込められていた。
 助け出すために怪力で扉を破壊すると、驚いた子供達と目が合った。

「急いで。外に警察が待ってくれているから、あなた達も家に帰れるわ」

 助けに来てくれたんだと分かれば、疑うことなく出入口まで送り届ける。途中邪魔してくる護衛は倒し、そのまま外で待機する警察へと突き出した。

 取り残された子達や一部の護衛も警察に任せた後、チェルシーは強者を求めて会場へと戻る。

 どれだけ楽しめるのか、今興味あるのはそれだけだった。

水縹・雷火

●
 闇オークションで取引されているのが物だけでなく、普通に生活している人達も巻き込まれていると知り、水縹・雷火(神解・h07707)は憤りを感じていた。

「人身売買って、人の命をなんだと思っていやがるんだ。そして、簡単に人の命を奪う殺人犯とやらも気に入らない。絶対にぶっ飛ばしてやらなきゃ気がすまない!」

 物を盗むのも、人の命を軽んじるのも、ましてや簡単にその命を奪おうとするのも、全て許せるものではない。いくら体が弱くとも、この手でぶん殴ると心に決めた雷火は、混乱し始めているオークション会場内へと潜入する。

「……それよりも、前に巻き込まれる人達を救って助けなきゃな」

 子供達の大半は助けられていたのもあり、他に残されている人がいないか会場内を探索する。「商品が消えた!」と騒ぐ黒服達は混乱していて、細かいところまで気にかける余裕はない様子。それなら好都合とばかりに、人手の薄くなったエリアを中心に探し歩いていれば厳重に施錠された扉を発見。

「頑丈に鍵かけてるってことは、ここにも人が閉じ込められてそうだな。誰か、誰か中にいるか!?」
「た、たすけて……! うごけ、なくて……!」
「……! 今助けるから、待っててくれ!」

 手先は器用だからこそ、どれだけ頑丈な鍵でも何とか出来るはずと解錠を試みる。多少の苦戦はするものの、何とか開けることに成功すれば重い扉をこじ開ける。部屋の中には、鎖や手錠で繋がれた女性達。着ている服装も薄く質素なもので、もしここで助けられなかった場合を考えると胸が痛む。間に合って良かったとホッとしつつ、雷火は【|螢火《ホタルビ》】を発動すれば仄かに周辺を照らすように天雷の力を宿す螢の式神が現れた。


「飛んで耀け、夜半の蛍。……よし、大丈夫、お前達のことは俺達が必ず助けるし守ってやる! だから、俺達を信じろ! 必ずなんとかしてやるから!」

 雷火の真っ直ぐな言葉に、女性達は安心感を覚える。螢の式神が導くままに、雷火は囚われていた女性達を守るように会場の出入口へと向かう事に。道中で黒服達がいる場所は隠れながら、安全なルートへ誘導していくと出入口が見えてきて。

「で、出口だわ……!」
「私達、これで助かるのね!」
「あとは外に警察いるから、もう大丈夫。あとは任せてくれ」

 最後の一人まで外に出て保護されるまで見守った後、胸の内で湧き上がる怒りを抱きながら、改めて会場内へと踵を返す。


 悪人を許すなんて、出来ない。
 絶対ぶっ飛ばしてやると、意気込んで。

神花・天藍

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 どんなに平和な世界でも、光あれば闇がある。綺麗事ばかりの理想論では通らない事を、神花・天藍(白魔・h07001)は十分すぎるほどに理解していた。もし理想だけで世界が動くならば、人々が過ごせるならば、呪詛も終焉もこの世の中には存在していないはずだから。

(元より我は罪禍の身、人買い共を咎められる程清い存在でもないが……)

 天藍自身、遠い過去にひとつの命を失った事で多くの命を散らすという過ちを犯してしまった。|終焉《ふゆ》を齎す|災厄《祟神》たる自分が、罪人を咎めていいとは思えなかった。──が、それはどんな形か次第だった。

「ただ、遣り口は気に入らぬ。少々痛い目にあってもらおうか」

 悪人、罪人というだけでなく、あらゆる汚い手を使って成り立つ商売ならば許すつもりはなかった。それで傷つく人々がいるならば、彼らの受けた痛みも含めて痛い目を見てもらわねばならない。

(……まぁ、真っ直ぐに正義や理想を語れる彼奴であったのならば、そうではないのだろうがな)

 小さく息を吐いてから、改めてオークション会場へと視線を向ける。商人らを捕まえるのもそうだが、一番の元凶を捕えなければ今後も同じような罪が繰り返されるだろうと考えた。じっくり時間をかけて一人一人捕らえてもいいが、新たな襲撃が予知されている。残された時間もそう無いと思えば、なるべく早く場を制圧してしまおうと動き出す。

 先立って潜入、場を乱してくれた|仲間《‪EDEN》のおかげもあり、一部の商人は捕縛され、囚われた民間人や|商品《盗品》の救助や持ち運びが完了していた。会場に残るのは、オークション主催者を含む護衛のみ。そんな彼らも、混乱に乗じて逃亡を図ろうとしていた。

「舞い踊れ、いと冷たき氷の華。遮る者には淡き光を。……我の|世界《ふゆ》から逃れられると思うでないぞ」
「な、なんなんだ……って、動けないぞ!?」

 天藍は手を翳し、自身と感覚共有をする粉雪をオークション主催者である男へと放てば、たちまち出入口を塞ぐと同時に足元は凍りつき、身動きが取れなくなってしまう。何がどうなっているのか混乱のまま藻掻いたとしても、悪事は終わりを迎えようとしていた。

「さて、悪事はここまで。その罪、然るべき場所にて裁かれよ」
「ひぃいい……か、勘弁を……!」

 主犯格を捕らえてしまえば、あとは外で控えている警察に突き出すのみ。天藍は逃げられないようオークション主催者の手を後ろ手に凍りつかせて拘束し、外へ連れ出すと他の商人同様、警察によって連行されていく。



 闇オクの組織は潰せたものの、この事件はここで終わりでは無い。迫り来る敵に備え、天藍は静かに会場内へと戻って行った。

第2章 集団戦 『ヴィジョン・ストーカー』


●
 ‪救助活動や闇商人を捕まえたりと全てを済ませた頃、殺人犯に着いてきたらしい怪異がEDEN達に向かって襲い来る。

 テレビの姿をした怪異『ヴィジョン・ストーカー』が見せる幻覚で惑わせ、電波もジャックしてくるため機械関係も逆に利用される可能性があった。

 見せる幻覚は、あなたのナニを映すのか──。
チェルシー・ハートサイス

●
「影という分野でわたくしと勝負しようというの? 身の程知らずもいいところだわ」

 ──ジジ、ジジジ。

 オークション会場となる広いホールを目指していると、不穏な気配を感じて立ち止まる。気配の正体──そこには影で出来たテレビ 『ヴィジョン・ストーカー』が待ち構えていた。気配を感じ取りチェルシーを捉えると、真っ赤に染まる画面に幻覚を見せようとしていた。だが、ナニカが映し出される事は無かった。どんな呪詛を放たれたとしても全て無効化し、カツンとヒールの音を響かせながらゆっくりと怪異へ近付く。

「では、お前達が「誰に」無礼を働いたのか、身を以て確認なさい」

 |影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》は互いに影を接続し合い、画面から影の雨がチェルシーを狙って放たれる。チェルシーは【ハートサイス】を手にし、広範囲に広がる影の雨を避けながら【|帳《トバリ》】を発動。

「気概だけは認めてあげる」

 地面を蹴り、|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》へと一気に距離を詰めれば黄金に輝く大鎌を構え、接続を断ち切るように大きく振るい一閃。影での接続が途絶えてしまえば一部の『ヴィジョン・ストーカー』は弱体、チェルシーの気配を探ろうとするけれど既に影を纏い病みに紛れたことで見つけられずにいた。
 隙だらけとなった|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》から片付けるべく、本体であろうテレビを次々と破壊。接続を続けるテレビの数は少しずつ数を減らしていた。

「力には、責任と使い方が求められるわ」

 影で来るならば、影で返す。チェルシーは続けて【|鏡像《ソンザイシナイハズノオノレ》】を発動すると、壊れても自在に復活する闇の幻影が姿を現し、|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》と同じ影の雨を降らし始める。最初のうちは数で負け壊れる影の幻影も、壊れる度に増え続け、いつしか影の雨のぶつかり合いは拮抗するほどになっていた。

「このまま圧殺してしまっても構わないけれど、何もしないのも退屈だわ」

 無限に数を増やし続けるからこそ、放っておいても倒す事は可能だが、何もしないのは退屈にしかならない。再び【ハートサイス】を握り直し、影の幻影と対峙する『ヴィジョン・ストーカー』へ向かい、力いっぱい渾身の重い一撃で一掃する。

「さて、|わざと《・・・》影の力だけを使ったけれど、格の違いがわかったかしら?」

 ─ジジジ、ジ……

 チェルシーの行く手を阻む|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》を全て倒すと、呆気ないと小さく溜息をつきながら増え続けた幻影を消す。

 この先に恐らく、より強い敵が待ち構えているはず。先程までと比べ物にならない気配と殺気を感じれば、チェルシーは迷わず歩き始める。


 次の相手こそ、対等に戦えるはず。
 紅に輝く瞳は強きを求める。強者たれ、孤高であれと誇りを胸に。

アデドラ・ドール
桂木・伊澄

●
「……あら、戦闘の気配がするわ」
「向こうから出向いてくれるとは有り難いが……」

 大ホールの舞台裏で身を潜めていたアデドラと伊澄だったが、不穏な気配を察して視線をホールがある方とは逆へと向ける。テレビの形をした影の怪異『ヴィジョン・ストーカー』は二人を囲むように暗がりから姿を現すと、赤く染まる画面がナニカを映し出そうとしていた。

 ──ジジ、ジ、ジジジ。

「ふうん。こいつ、殺人鬼についてるよりあたし達の方に興味が湧いたのかしら。だったらお相手してあげなくちゃね」
「現状、野放しになっている殺人鬼の方も気になる。早急にこいつを倒し、先に進もう」

 ここで|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》に時間を取られてしまえば、殺人犯が凶行に出る恐れがある。捕らわれた人達の救助が終わっていたとしても、商人らを捕らえたとしても、新たな被害が出ないとは限らない。伊澄は小さく深呼吸をしてから、アデドラの前に立つ。

「アディは近くに隠れて……」
「何言ってるの、あたしだって戦えるわよ」
「……ああ、そうだね。ごめん」

 守ろうと前に立ってくれたけれど、アデドラは伊澄と並ぶように立つ。元はビスクドールだった。でも今は、共に戦うEDENの一人。伊澄と共に戦うために、アイスブルーの瞳は真っ直ぐに『ヴィジョン・ストーカー』を見据えて観察する。

「でも、気を付けてイズミ。こいつ変な幻覚を見せて来るわ。あなたガードは高いけど一度破られると弱いから」
「わ、分かってるって……。でも、こういう攻撃仕掛けられるの嫌いなんだよね」

 何を映し出されるか分からないという不安からも付け込まれる可能性があるからこそ、アデドラの言葉に取り乱さないように気をつけねばと身構える。

「そうだわ。青き蝶たち……さぁ、お行きなさい」

 ふわりと人の姿のまま浮遊すると、支援するように浮いたまま移動しながら手を翳せば、青き蝶が群れを成して羽ばたきはじめる。それは青い炎のようになると、次々と『ヴィジョン・ストーカー』へ襲い掛かる。
 アデドラの支援に合わせるように、伊澄は二丁の【|自動式拳銃《フルオートマチックピストル》】を両手に構えれば、|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》が放つ影の雨に耐えれるよう身を守り、幻覚を見せられそうになっても意識を集中して対抗する。

「降り注ぐ銃弾の雨から逃れられるかな」

 雨には雨を。伊澄は【|銃弾の雨《バレットレイン》】を発動し、二丁の拳銃で影の雨を圧倒するように銃弾の雨を降らせていけば、次々と影が打ち砕かれていく。隙をついて幻覚で惑わせようと潜んでいた『ヴィジョン・ストーカー』が襲い来るも、アデドラの放つ青い蝶がそれを許さない。

「あまり人の傷に触れないことね。逆鱗に触れる、というでしょう? あなた、今まさにそれをイズミにしたのよ? と言っても……もう死んでしまったかしら」
「…そこまで怒ってないけど……。なんだか、アディといると調子が狂うよ……」

 二人の連携により、舞台裏に現れた『ヴィジョン・ストーカー』は一掃された。だが、まだ戦いは終わらない。この先に、更なる不穏な気配を感じ取っているから。
 互いに目配せすれば、武器を手にしたまま大ホールへと向かう。殺人犯を食い止めるために。

エアリィ・ウィンディア
金菱・秀麿

●
「ふぅ、子供達は無事に救出できたし、憂いはないかな? さ、それじゃ突入ーっ!」
(子供……? いや、多分仲間か。一人だと心配だし、ついてくか)

 無事に救助も完了し、何なら仲間達のおかげで悪い人達も捕まっていったし。心配事は無くなったはずと確認してから、エアリィは会場内へと足を運んだ。少女が一人で再度潜入したのを見かけた秀麿もまた、一人にさせるのも警官としては放っておけず、小さな背中へついて行くことに。

 二人は薄暗い廊下を歩いていると、闇に紛れて動くものが見えた。足を止めて武器を構え警戒すれば、姿を現した『ヴィジョン・ストーカー』をまっすぐ見据えた。

「影のテレビ……。記憶って、テレビさんの記憶かな? それともあたしの記憶を映し出すのかな?」
「さて、ケチな犯罪者のお次は怪異のお出ましか。まぁ、仕事上は怪異退治が俺の専門なんで、遠慮なく行かせてもらうねぇ。……てか、テレビに記憶なんかあるとは思えねぇけどなぁ?」

 秀麿の言葉に目を丸くしながらも、確かに記憶するとは思えなくて。となれば、今自分たちの記憶を映し出す可能性が大きかった。予想通りだったとして、エアリィも秀麿も怯むなんて無い。この先に進まなければいけないからこそ、|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》が記憶を映し出すなら、その前に先手を打てばいい。エアリィは満面の笑みを浮かべ、一歩前に踏み出す。

「……いいよ。それなら記憶を映し出さなくても、語ってあげる。あたしと精霊さん達の物語をっ♪」

 【|六芒星空想黙示録《ヘキサドライブ・エピックリンカー》】を発動し、楽しく精霊たちと過ごした日々を語り始めれば薄暗い会場の廊下も妖精界へと変われば、たくさんの精霊力を身に纏い、エアリィは素早い身のこなしで【精霊刃『エレメンティア・ティアーズ』】を振るい『ヴィジョン・ストーカー』を次々と一閃していく。
 エアリィの背後から狙おうと、影テレビは蠢き幻影を映し出そうとするけれど、秀麿は【|霊震《サイコクエイク》】を発動し牽制していけば、骨董品のような小型拳銃【カミガリ式M60】を構えて次々と撃ち抜いていく。

「援護ありがと、お兄さん!」
「これくらい、どうって事ないぜ」

 一人だったら精霊銃でも攻撃をしていこうと思ったけれど、援護してくれる仲間がいるならと、エアリィは道を切り開くように|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》を倒していく。開かれた道を塞ぐ事は許さないとばかりに一帯に強い振動を加えつつ撃ち抜いていくなら、この場にいた『ヴィジョン・ストーカー』の数は殆ど減っていた。

「記憶で怖い記憶って、お母さんに笑顔で怒られたことだけど。でも、それも物語の中にあるからっ! だから、わざわざ映像にしなくてもいいんだよっ!」

 笑顔で怒られた時は、とってもとっても怖かったけれど。その記憶だって、エアリィが辿る物語の一つ。見せられたら、怖い気持ちを思い出しちゃうかもしれない。でも、立ち止まる理由にはならないから。

 その強い思いを胸に秀麿と息を合わせて戦っていけば、目の前に現れた『ヴィジョン・ストーカー』を全て一掃する事に成功。ふぅ…と一息ついてから他に敵がいないか確認する。

「ふぅ、これで何とかなったかな?」
「気配もねぇし、この辺りは問題ねぇな」
「なら、後は本命待ちかな?」

 二人は武器を手にしたまま、大ホールへと目指し歩いていく。
 本命はこの先にいるはず。ただならぬ殺意を感じながら、一歩ずつ確かに進んでいく。

泉下・洸
水縹・雷火

●
(ライカが月代と戦う予定と聞いて。なんとなく彼と二人きりで合わせたくないので、途中から来ちゃいました。保護者ですよ、保護者)

 雷火が悪い奴らをぶっ飛ばしに行くと出て行った後、嫌な予感を感じた泉下・洸(片道切符・h01617)は保護者という理由で遅れてオークション会場へと辿り着く。
 建物に入れば、あちこちで戦っている音も聞こえてくれば何処かに|探し人《ライカ》がいるはずと薄暗い廊下を歩いていると、闇に潜む『ヴィジョン・ストーカー』は真っ赤な画面に幻影を映し出してきた。

「わっ、目の前にライカがいっぱい! 敵が見せる幻覚でしょうか? でも、なんだか美味しそうです! ……ということで、食べます!」

 映し出された|幻影《ライカ》の数は多く、同居人と戦うことに怯むどころか、全くその逆──かなりテンションが上がっていて。食べちゃいたいくらいに可愛い可愛い同居人がたくさんで、全員と遊べるなんて夢のようでしかなくて。|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》は接続を強めて|幻影《ライカ》の数を増やす中、洸はメスを手に【怪異解剖執刀術】を発動し、美味しく食べれるようにと接続を断ち切りながら素早く切り刻む。

「ちゃんと、余すことなく食べてあげますね? なんたって、大事な大事なライカですから」

 切り落とした部位を拾い、口を開けて一口頬張れば甘いお菓子を食べたかのようにうっとりしながら味わって。至高の食べ物を食したかのように満足そうな笑みを浮かべながら、オカワリを求めるように|調理《・・》していく。

 一方、雷火もまたオークション会場内に現れたという『ヴィジョン・ストーカー』と対峙していた。

「さて……クソ犯人をぶっ飛ばすには、こいつらを倒さないといけないんだな!」

 雷を迸らせながら一掃しようと|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》へ向かっていくところで、雷火の目の前に予想外の姿が視界に入った。入ったと同時に『ヴィジョン・ストーカー』が映し出した幻影と共に、洸も纏めてぶん殴っていた。

「わ~っ、痛いですよライカ~!」
「くっ! お前どこから現れやがった! 保護者を自称するなら、せめて相応の振る舞いをしてから言えよ」

 緊張感あったはずが、保護者の登場に拍子抜けしてしまう。だが、今は時間の猶予がない。二人を囲みながら|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》が接続を強めていくのを見て、雷火は気持ちを切り替えた。

「まぁいい、敵の数が多いんだ。ちょうどいいから手伝え、クソ怨霊」

 と言葉にしたはいいものの、どうにも洸の様子がおかしかった。いや、いつもの事と言えばいつもの事で、驚くほどでもないけれど。それでも、こんな時に何を考えているのか。唯一分かるとするならば、とんでもなくろくでもない事だということで。

(……いや、こいつの様子がおかしいのはいつものことだが。なんかまるで、酔っ払いみたいだな?)
「ライカビュッフェが消えちゃいました……」

 美味しいご馳走が、と言わんばかりに分かりやすく落胆する洸。敵の幻影が自分を写していたのかと思うと、それはそれで気分が悪い──が、それに加えてビュッフェと称して楽しんでる神経も分からないと溜息しか出ない。ここは一旦正気に戻すかと思うなり、雷火は渾身の一撃と言わんばかりに【|震霆《シンテイ》】で洸をぶん殴る。

「正気に戻りやがれ、クソ怨霊!」
「うわっ! そんな殴らないでください、痛いですよライカ」
「……で、本当にお前は何をしにきたんだ?」

 しょんぼりしたままの洸を半分ほどスルーしながら、雷火は何故来たのかと改めて問い掛ける。その質問には、ニッコリと笑みを浮かべて当然と言わんばかりに答えを口にした。

「何をしにきたのかって? そんなの、決まってるじゃないですか。ライカを守るために来たのですよ」
「(その割にはビュッフェしようとしたよな……?)そんなら、まずはコイツらをさっさと片付けるぞ」

 気を取り直し、二人は『ヴィジョン・ストーカー』らへと立ち向かう。怒りと正義に満ちた雷と、闇よりも深い深い呪詛の力は幻影を生み出すよりも早く次々と倒していく。
 罪のない人々を巻き込んだという許せない悪を倒すため、|守りたい人《ライカ》を傷付けようとする悪を倒すため。倒され闇に溶けていった|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》へは目もくれず、二人は大ホールへと進んでいく。

 その先に待ち構える、更なる悪を倒すために。

リオル・プラーテ

●
 オークション会場内を進んでいると、影から手を伸ばし、リオルを取り囲むように『ヴィジョン・ストーカー』が姿を現した。行く手を阻まれてしまうものの焦る様子もなく、リオルは小さく溜息を付いた。

「闇商人の次は怪異ですか……やれやれ、そんな空箱で何が出来るのでしょう?」

 幸い機械類は持っていない。幻影を映し出すというのさえ警戒すればいいはずと思っていると、一体の|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》の赤い画面がナニカを映し出そうとしていた。

 ──ジジ、ジ、ジジジ。

『おーい! 何してんだリオル! 早く来いよ!』
『リオル、こっちよ!』

 声が聞こえ、リオルが振り返った先には──元の世界、隠れた一室で手を招く懐かしい二人。その笑顔も、声も、全てが懐かしくて。リオルは穏やかに微笑み、二人の元へゆっくりと歩き始めた。

「あぁ。仕方ない奴らだ、全く……」

 もう少しで手が届く距離。二人が早くと急かすけれど、穏やかな笑みから一変。 フッと鼻で笑うと同時に、リオルは右手を伸ばして【|_εξάλειψη《イグザリプス》】を発動する。

「あぁ、全く……とんだ茶番ですね? ……消えろ」

 |こんなもの《・・・・・》で、惑わされるわけなんてない。誰一人として、人を信用していない。信じないと決めている。惑わされているところを襲おうとした影の雨諸共幻影を打ち消した後、リオルは空間魔術【|_δημιουργώ《ディミウルグ》】を使い、|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》の1体を真っ二つにするように薄い箱を作り出した。

「あっはは! 勿論「演技」さ! こんなものに、惑わされるわけがない!」

 自身に予め意識汚染をハッキングする形で身を守っていたのもあり、この程度の幻に負けるはずがなかった。今度はこちらが攻める番というように、不敵な笑みを浮かべながら【|ἀπὸ μηχανῆς θεός《アポ・メカネス・テオ》】を発動する。

「……踊れ、嗤え、僕の手中で」

 時空の弾を撃ち込めば着弾した『ヴィジョン・ストーカー』を含め、多くの|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》はその動きを止められてしまう。動けなくなったのを見て、呆気ないと思いつつも、まだまだこの程度で済ませるつもりは無いから。

「ネタ切れされては困ります。もっと愉しませてくれるんでしょうね?」

 時空魔術を使い、動けなくなった『ヴィジョン・ストーカー』を次々と倒していく。静かな怒りを秘めた魔術に消されていく|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》へ冷めた目を向けつつも、1体残らず倒していけば振り向くことなく大ホールへと進んでいく。

(最も、あの二人の幻覚を見せた時点で塵芥になるのは必然だ
……完膚なきまでに叩きのめしても、とりあえず問題ないだろう)


 この先、残るは殺人犯のみ。
 誰が相手だとしても、場を良いように掻き乱すのも敵は面白くないはずだから。

神花・天藍

●
 静かに一歩ずつ。天藍は奥にいるだろう強い殺気を感じながら、オークション会場内を歩いていた。その道中、殺気に紛れて感じ取る気配がある。ふと足を止めれば、影から這い出るように『ヴィジョン・ストーカー』が姿を現し、真っ赤に染まる画面はナニカを映し出そうとしていた。

「見せられる幻影が何であろうと構わぬ……何があったとて、もう今更」

 ──ジジジ、ジ

 映し出された幻影は、かつて天藍が|終焉《ふゆ》をもたらしたことで、嘆き、凍え苦しみ、命乞いをしてきた人達。声こそないものの、その表情は怨み、悲しみ、怒り──どれも天藍に対して悪い感情を向けていた。

(その者達が我をどう見るかなど……今更、赦しをとは思わぬ)

 全ては幻。実際にそんな感情を向けられていたとしても、今の天藍にとって心を揺さぶるものではなかった。寧ろ、目の前で道を塞ぐ|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》の力はこの程度かと思うだけだ。

「……なんて、これで満足か? 怪異共よ。その程度の幻影で我の心を揺さぶろうなど、甘い考えをしているものだ。辛苦のすべては、遥けき時の向こうへと置いてきた。今更、何を見せられたとて動揺などせぬよ」

 怪異とはいえ、この程度の力であるならば何一つ揺さぶられるものはない。天藍は生命の終焉を告げる静寂な冷気を纏い、【|瑞花典麗《ズイカテンレイ》】を発動すると、自らを取り囲む|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》を纏めて凍りつかせていく。絶対零度の冷気を浴びれば、幻影を映し出す隙もなく全て凍てつき、近くにいた全ての『ヴィジョン・ストーカー』を凍りつかせた後、天藍はただ静かに一言呟く。

「凍てついた刻は砕けるのみ、だ」

 バキィン──粉々に砕ける音と共に、凍り付いた|影テレビ《ヴィジョン・ストーカー》は跡形もなく粉々になっていった。

 遥か昔に置いてきた辛苦。自分の心が揺さぶられるなど、この先あるのだろうか。あの頃よりも、随分時間が経った。想像が出来ないものを考えるものの、思考はすぐに切り替えて大ホールのある奥へと進んでいく。

「……ただならぬ殺気。急がねばな」

 少し長い廊下を抜け、辿り着いた大ホール。
 そこには他に動いていた仲間達も集っており、目的は共通していた。


 大ホールのステージに、一人の青年が姿を見せる。
 放たれる殺気は、先程まで相手にしていた怪異とは比べものにならない。

 凶行を止めるため、EDEN達はそれぞれ身構えた。

第3章 ボス戦 『『連続殺人犯』月代・皐月』


●
『あれ、おかしいね。俺が裁くはずの人間がいないのは、EDEN達のせいかな?』

 落ち着いた口調のまま姿を見せたのは、連続殺人犯『月代・皐月』。EDEN以外の人間がいない事を確認するように軽く見回した後、やれやれと肩を竦めてゆっくりと近付いてくる。

『どうして、彼らを逃がしたのかな? ここにいたのは法で裁かれる事なく好き勝手してたんだから、殺されて当然なはずなのに』

 法で裁けぬ悪人は全て殺す。それが救済であると、さも当然と言わんばかりに|殺人犯《皐月》は語る。だからこそ、EDEN達の行動には理解が出来ないというように肩を竦めた。

『君達の正義は何? 俺に聞かせてよ』

 ナイフを手にしたまま、淡々と『皐月』は問い掛ける。

 正義とは何か。何をもって正義と成すか。
 その答えは一体──。
チェルシー・ハートサイス

●
「あんな|成金《ブタ》どもに興味はないわ。追いかけるならご自由に。……けれど、そんなことでこのわたくしの前を立ち去るのは許しません。まずは一曲、わたくしと踊ってくださる?」
『直接手を下すつもりだったけど、わざわざ追って……なんてはしないよ。外にはだって、警察もいるでしょ?』

 連続殺人犯『月代・皐月』は不敵に微笑み、外にも警察が控えている事はとうに気づいていた。√‬能力を持たない人間相手なら、殺してでもという手法は簡単だろう。けど、今ここに集うEDEN達が見過すとは思えない。
 ただ、‪EDEN達の行動にはどうにも理解出来なかった。悪人を助ける理由、そんなものは無いはず。なのに何故、助けるのか。現に目の前にいる少女──チェルシーは興味が無いと言ったのだから。

『キミは、何のためにここに来たのかな? キミの正義はきっと、人助けとかじゃ無さそうだね』
「わたくしの正義、それは力。わかりやすいでしょう? 存分にご覧なさいな」

 チェルシーは【|真紅の薔薇姫《ブラッディ・メイデン》】を発動し、大鎌の真の力を解放した紅いドレスの姿へと変われば手に持っていた大鎌は敵の血を喰い己の生命力とするハートサイスへと変わっていく。

「光栄に思いなさい。わたくしの全力よ」
『なるほど……せっかく綺麗なドレスを着てくれたんだ、素敵なレディのために一曲踊ろうか』

 『月代・皐月』は一曲踊る前にと軽く一礼をして見せた後、心囚えし影を付与したナイフを手に、しっかりとチェルシーを視界に捉えればその生命を刈り取ろうとナイフを投げて攻撃を仕掛ける。飛んでくるナイフを見切り確実に避けていき、【ハートサイス】を大きく振るうことで衝撃を与えて叩き落とす。けれど、避けるのを見計らって投げられた事で、僅かに腕や足に掠ってしまう。少し掠っただけでも力が抜けていくような感覚を感じるが、まだ耐える事は出来る。だが、そう何度も当たってしまうのは危険だと判断し、己の威厳を持って一気に立ち向かう。

「この程度では無いでしょう? さっきのなんて、準備運動にすらならなかったもの」
『そうだね。……そうだ。せっかくだから、君の罪を測ってみよう』

『月代・皐月』の纏う心囚えし影は先程よりも濃くなり始めるのを見たチェルシーは、そんな猶予を与えまいと【ハートサイス】を二度大きく振るう。|殺人犯《月代・皐月》はそれを軽やかに避けるけれど、避けた先へ一気に詰めれば渾身の一撃を持って大きく斬りつけ、『月代・皐月』が何かを仕掛けてくる前にと先手を打ち紐状にした血液で強引に投げ飛ばした。

『くっ……キミの|正義《力》、なかなか強いね』
「わたしが求めるのは強さのみ。……さぁ、逃げ場はないの。文字通りね」

 チェルシーは【|血蔦の縛鎖《ブラッドヴァイン》】を発動し、己の魔力の籠もった血液を込めた衝撃波を繰り出せば『月代・皐月』も再び間合いに詰めることが困難になる。そのまま紐状にした血液で身動き取れないよう片足へ絡ませれば【ハートサイス】を手に、チェルシーの正義を一撃に込め大きく斬り付けた。

「……強者たれ、孤高であれ。わたくしの欲しい物は一つよ」


 強さを求める事が自分の正義。
 赤き姫の覚悟は、とうに決まっている。己も、隣も、目の前も。強くなくては、ただ踏まれるだけだから。

桂木・伊澄
アデドラ・ドール

●
(連続殺人犯『月代・皐月』…重要指名手配者……! 殺人犯とは、こいつのことだったんだな……)
「あらあら、ここからは警察のお仕事かしら」

 伊澄は今回の殺人犯が『月代・皐月』と分かり、驚きのあまり思わず息を飲む。|警視庁異能捜査官《カミガリ》として仕事をしている時に様々な犯罪者の情報に目を通していて、その中に新たな情報として入ったのは記憶に新しい。明らかに感じるオーラが違う。ピリついた緊張感を感じながら、一度深呼吸をしてから堂々と告げる。

「オークション運営に関わった者達は、ちゃんと身柄を確保し連行している。参加者についても、後ほど割り出して罪状について調査する。だからお前は、安心してここでお縄につくんだな」
(ふぅん、イズミったらこうしてお仕事しているのね。テレビとかで見る警察のドラマみたいだわ)

 どこかワクワクした様子で、アデドラは『月代・皐月』とやり取りをする伊澄を見ていた。ドラマとかなら、素直に犯人が応じるなり逃げるなり行動に移すだろう。だが目の前にいる|殺人犯《月代・皐月》は動じるでもなく、静かに微笑んで言葉を返した。

『とっても真面目なお巡りさんだね、キミ。こうして俺が動かなかったら、彼らが暗躍していたのに気付けなかったんじゃないのかな?』
「ねぇ、イズミ。あの人、絶対大人しく捕まってくれるとは思わないわよ。戦うのならサポートは任せて」
「……素直にお縄につくタマじゃないか。無力化を強行し身柄を確保する!」

 『月代・皐月』から放たれた言葉は、あながち間違いでは無かった。現に、星詠みの情報が無ければ気付くことの出来なかった。落ち度があると言われれば否定は出来ないけれど、結果的に今回は解決へと繋ぐ事が出来た。残すは|殺人犯《月代・皐月》を確保する事。そのためならば、何を言われたとしても怯むつもりは無いから。

 伊澄は素早く二丁の【|自動式拳銃《フルオートマチックピストル》】を両手に構えるけれど、それだけで威嚇にならない事も理解している。それでも、少しでも攻撃させまいと牽制しながら射撃を繰り出し、その支援をするようにアデドラは人形形態でふわりと浮いたまま移動して支援する。

『……っと、人形と連携とはね。なかなか面白い戦い方をしているようだけれど、キミ達は何のために戦っているの? キミ達にとって、何を持って正義だと言うのかな?』
「俺の正義は司法に則ること。警察の犬とでも、なんとでも呼ばれようと構わない。だが、お前は√能力者。抵抗を続けるなら排除も辞さない!」
「あたしの正義? あたし、そういうのよく知らないの。ごめんなさいね。でもそうね、あたしの大切な人が思う正義があたしの正義だわ」

 司法の元に動くために警察という組織が存在する。そして|警視庁異能捜査官《カミガリ》もまた、担当こそ違えど司法に則って悪を裁き続けている。それが例え、結果的に排除という形になったとしても。
 一人の人間が大切にしていたビスクドールは人が思う正義や覚悟といったものに未だ疎い部分はあるけれど、縁がありこうして共に行動をする捜査官が目指すものに寄り添うのが自身にとっての正義だと感じていた。

 だからこそ、ここで彼が立ち止まるなんてありえない。アデドラは【|魂葬の蒼《アズュール・エクセクイイス・アニマエ》】を発動し、惑いの蒼き花弁が|殺人犯《月代・皐月》に牽制を仕掛ける。

「……夜よりも、闇よりも、深い場所に誘ってあげる」
『その程度の牽制は……っ?!』

 花弁に意識を向けていたところに死出へ導く蒼き胡蝶が『月代・皐月』に纏わり付き、身動き取れなくなったところを狙い悪人を裁かんと蒼き裁きを下す。

「さぁ、イズミ。あたしが、あの人の足止めをしてるその内に……!」

 60秒という時間は短くも長い。けれど、その時間をアデドラが稼いでくれた。無駄にはしないと【|自動式拳銃《フルオートマチックピストル》】に魔眼の力を込めて【|零の衝撃《ゼロブレイク》】を発動する。

「魔眼の力を込めて……放つ!」
『……!?』

 魔眼の力が込められた零距離射撃が『月代・皐月』へと放たれればそのダメージは凄まじく、一度距離は取るものの流石に足元がふらついてしまう。


 国を守る司法の下、二人の正義は確かに|殺人犯《月代・皐月》へと向けられる。
 ──全ては悪人を裁くため。

金菱・秀麿

●
「正義ねぇ……俺は結構長く警官やってるが、そういうお堅い議論はどうも苦手でね~」

 脱力気味な口ぶりながらも、秀麿の手には【御用十手】がしっかりと握られている。ここで気を抜いてはいけない、それは長年の経験から嫌と言うほど伝わるから。

「しかし、こういう事は言えるだろう……お前さんは、悪党どもを裁くため無関係な人まで巻き込むつもりだった。それは、正義なんて天啓が閃いちまった途端、人はブレーキの壊れた加害者になるって公理だろうが!」
『ブレーキの壊れた? お巡りさん、勘違いしていないかい? 悪を裁くのは当然だけど、巻き込まれた人達だって弱さという罪を持った。ならば、それも悪だと思わない?』

 弱きは罪、そう捉える人間が一定数いるのは耳にする。だが、そういった言葉を口にする殆どが加害者。己の行動が正しいと、正義だと感じているから発せられる言葉。そこに思いやりも、優しさもありはしない。

『だから、この罰は必要なものなんだ。……結果的に、キミ達に邪魔されてしまったけどね』

 心囚えし影を付与したナイフを投げ飛ばしてくれば秀麿は【御用十手】で弾き飛ばす。──と同時に|殺人犯《月代・皐月》が接近戦へと詰めてくればガギンと金属のぶつかる鈍い音を響かせて鍔迫り合いで応える。押し切られる前に【|霊震《サイコクエイク》】を発動すれば足元は大きくぐらつき、バランスを崩した『月代・皐月』は一度後ろへと下がり距離を取る。

「……己が正義のためなら、その犠牲もお釣りが来ると思っているクチなのか? もちろん、警察だって正義の味方じゃねえさ。だか、私刑を見過ごせるほど暇じゃねぇのさ」
『暇じゃないなら、ここにも来る理由はないんじゃない?』
「理由はある。お前さんをぶちのめすのは個人的な正義の故じゃねぇ、ただの公僕としての職務だからだ。あるいは、こういう生き方を選んじまった俺なりの責任だろうな……」

 EDENとして覚醒したのは、とある古い曰く付きの骨董品に触れたのがキッカケ。長く警官として務め、その腕は確か。その甲斐もあり、出世の話も出ないわけではなかった。だが、秀麿は出世に興味が無かった。生き方は不器用かもしれない。失ったものはあれど、一人の警官としての職務を全うする。それが、秀麿にとっての正義。

「だから、いい加減に大人しくしてもらおうか!」

 【|渾身の弾丸《パラライズマグナム》】を発動すれば、愛銃【カミガリ式M60】は【パラライザ機能付きの特殊拳銃】へと変形し、しっかり狙い撃てば神経系に超音波ショックを与える銃弾は|殺人犯《月代・皐月》の脇腹を貫く。

『っく……キミのコレ、厄介な力だね』
「さっさとお縄についてもらおうか?」
『悪いけど、まだ足掻かせてもらうよ…っ』

 やはり、そう簡単に捕まる相手ではない。
 けれど少しずつ、確実にダメージは蓄積出来ている。捕まえるにしても倒すにしても、戦わなければそれら全ては叶わない。


 緊迫した空気は変わらない。
 殺人犯の正義とEDENの正義、勝つのはどちらか──。

エアリィ・ウィンディア

●
「ん-、悪いことした人が悪い目に遭うのはいいとして……でもだからって、あなたが殺しちゃうのはなんか違う気がするなぁ」

 エアリィは少し考える。悪い事をしたら怒られるし、それが大きい事であればあるほど罰が下り悪い目に遭う──それは仕方がないわけで。そのために法律があったり、警察がいたり、悪い人達を捕まえる人達がいてくれる。目の前にいる|殺人犯《月代・皐月》がそれをするというのは、エアリィの中で感覚的に違うように感じていた。

「正義っていわれても、あまりよくわからないけど……。でも、一つだけ言えることがあるよ」

 難しい事はまだ分からないことがたくさんで、正義とは何かと問い掛けられてもハッキリとした答えが出ているわけじゃない。それでも、エアリィにとっての正義とは何か。確かな答えが胸の中にある。

「あたしはあたしの信じたものの為に動くっ! 正義とか悪とか関係ないの。悪いことはしないけど……でも、信じたら真っすぐ、だよっ!」
『キミの信じたもの? 何を信じて、それだけ真っ直ぐになれるのか、ぜひ俺に見せてくれるかな?』

 不敵に微笑む『月代・皐月』に、エアリィの言葉が伝わったように思えない。それでも、|殺人犯《月代・皐月》の求める答えは示した。こうして話したところで、『月代・皐月』が手に持つナイフを手放すことないのも分かっている。

「……といっても、お話で終わることはないもんね。それじゃ、やりましょうか」

 【精霊刃『エレメンティア・ティアーズ』】と【精霊銃『エレメンタル・シューター』】をそれぞれの手に構え、エアリィは精霊銃を|殺人犯《月代・皐月》へ向けて乱れ撃ちをしていく。様々な属性の弾の威力は強く、ダメージが蓄積されている状態というのもあり、『月代・皐月』は避けきれないまま何発も被弾する。

『うっ、く! この程度ならまだ……』
「世界を司る六界の精霊達よ、あたしに力を……。精霊達とのコンビネーション、じっくり味わってねっ!」

 乱れ撃ちはあくまで牽制。精霊刃に自然界に宿る多くの精霊達の力を込めれば、一気に|殺人犯《月代・皐月》へと距離を詰め【|六芒星増幅術精霊斬《ヘキサドライブ・ブースト・スラッシュ》】を発動。

「これが、あたしと精霊達の正義だよっ!」

 精霊の力を纏った事で素早さは増し、残像で撹乱すれば強烈な一撃を繰り出せば、避ける事は叶わずグラりとフラついた。

『カハ、ッ……!』


 それぞれの正義を胸に、悪を裁こうとしていた|殺人犯《月代・皐月》へと立ち向かう。
 そして──その彼もまた、確実に弱りを見せていた。

リオル・プラーテ

●
「さて、漸く本命のご登場と。闇商人は警察に明け渡しましたが、何か?」
『……みたいだね。けれど、いないなら仕方ない。追うにしても、キミ達EDENが邪魔をする。俺の邪魔をした罪は、とても重いよ』

 この時を待っていたというように、リオルは仮面越しに『月代・皐月』を見据える。肩を竦めながら逃がした事を伝えても、|殺人犯《月代・皐月》は不敵な笑みを浮かべるのみ。それどころか、自分が裁く予定だった事を邪魔したという罪と捉えていた。

『キミは、何のためにここに来たのかな? 正義感だとするなら、キミの正義は何?』
「……僕の正義、ですか。あなたは正義の名の下に、法で裁けぬ悪を裁く。なるほど、理に叶っています」

 『月代・皐月』がこの闇オークション会場に来たのは、法律で裁く事の出来ない悪を裁くため。それ自体が間違っているかどうかと言われれば、答えは否だとリオルは考えていた。小さく息を一つ吐いた後、リオルは再び口を開いた。

「……少し話をしましょうか。ある国のお話です。王は、実力のある者に名誉と地位を確約し、そうでない者にはそうでないなりの生活になるよう、制度を確立しました。機能しているように見えてその実、能力が無い者、能力に欠陥のある者、そして能力はあるが使うことを望まない者――いずれも周囲から蔑まれます。
そして、僕は欠陥側。逆に問います。あなたの正義であれば、周囲へ正義を振りかざしますか? それとも……欠陥側が王へと反乱する、その異端分子を排除しますか?」

 もしもマトモであるならば、答えに迷いが出るはず。欠陥側のために正義を振り翳すのか、それとも排除するのか。だが、答えに興味は無い。否──その答えを聞く前に、目の前の|殺人犯《月代・皐月》は一つ大きな罪を犯した。だからこそ、答えるつもりも答えを聞くつもりも無かった。

「まぁ……だから僕は、正義とは何か答えません。何にしても……あなたはこの場に来ました。そして、あなたに付いてきた怪異が、僕の地雷を踏みました。だから僕は、あなたの正義を否定します」
『フフッ、直接何かしたつもりはないんだけれどね。随分と理不尽だ』
「ははっ、理不尽でしょう? 僕はあなたへ、正義を振りかざします。……僕の正義をね」

 笑ってはいるけれど、その仮面の内側はふつふつと怒りが湧いていた。間接的といえど、確かに親しい二人を利用したという事実がある。ただ静かに、粛々と──リオルは【|ἀπὸ μηχανῆς θεός《アポ・メカネス・テオ》】を発動する。

「……踊れ、嗤え、僕の手中で」

 時空属性の弾丸を『月代・皐月』へと放てば、どれだけダメージを蓄積してるといえどよろめきながらも直撃を免れようと横へ飛び退く。当たらなかったとしても大ホールは歪な空間形成を発生させ、|殺人犯《月代・皐月》の動きは更に鈍さを増していく。不利な状況だとしても、リオルの罪を図るかのように放たれた心囚えし影による乱舞攻撃を放つ。

「与えられた怒りを、あなたに返していきましょう。……消えろ」

 リオルを捕えようとする影に対し、淡々と右手を翳して【|_εξάλειψη《イグザリプス》】を発動。次々と影を消していき、攻撃は魔術でバリアを形成して防ぎながら、|殺人犯《月代・皐月》が振るうナイフの軌道をハッキング交えた魔術で逸らしていく。

「答えに満足してもらえましたか? していなかったとしても、関係ないですが」


 理不尽だとしても、これがリオルの正義。
 この心を、怒りを、必要以上に晒すつもりはない。仮面の下にひた隠した己を見せるのは──。

水縹・雷火
泉下・洸

●
「……気が乗りませんね。あんまり美味しくなさそうです」
「……おい、クソ怨霊」

 『月代・皐月』を目の前にして、美味しくなさそうという洸の発言に雷火は盛大な溜息をつく。相も変わらず|食欲《・・》旺盛で、だがこの発言も何となく予想は出来ていた。別の意味で頭痛はするけれど、気持ちを切り替えて雷火は|殺人犯《月代・皐月》を睨み付ける。

「それよりも今は、このクソ犯罪者をぶっ飛ばしてやる!」
『随分口が悪いね? ダメだよ、大人にそんな態度するなんて。躾がなってないのかな?』

 |殺人犯《月代・皐月》の言葉にカチンと来る。そもそも、こうして怒っているのはお前のせいだと言わんばかりに、雷火は鋭く睨みつける。

『キミ達も、キミ達なりの正義を持ってここに来たのかな?』
「正義なんてわからないが、悪人を殺してめでたしなんていう単純な話はないんだよ」
「正義? 強いて言うなら、ライカを守ることですかね」

 悪人を殺して平和になりました。なんて、そんな簡単な話があるはずがなくて。それで成り立つ時もあるかもしれない。そうだとしても、今回のような事件が平和的な解決に繋がるわけがないのだ。
 対して、同居人を守る事が正義だと答えた洸。彼を傷つけるなど許せるわけはないし、今回だって雷火が飛び出していかなかったら事件に興味が無かった。保護者としても守る、それが正義だった。

「そもそも勝手な解釈で悪人と見なした相手を殺すって、それって単なる私刑だろ。人買いにしろ人殺しにしろ、おんなじ犯罪だろ? どんな御託を並べたって、やってることはあいつらと同レベルなんだよ。それって、すごくダサくないか?」
『身勝手な解釈? それは違うよ。警察すらも裁けない悪が、この世のあちこちに蔓延り続けている。それも人知れず、私欲を満たすために。代わりに裁くんだから私刑じゃない。寧ろ、手助けをしてあげてるんだよ? 悪人の味方をするなんて、キミも悪い子だね』

 罪を測ろうと伸ばされる心囚えし影は夥しい数が伸びてくる。影を消すなら強い光で打ち消してしまおうと、雷火は【|神解《カムトケ》】を発動し、常闇を穿ち祓う天雷で次々とかき消していく。

「天を趨れ雷霆よ、常闇を穿ち祓え。……その影も、ろくでもない考えも、俺が全部祓ってやる!」

 激しい雷鳴と共に打ち消されていく影。その範囲から逃れた影が雷火へ伸びていくのを洸は見逃さない。連装式大型ガトリングガン【GdAzuriteM2024】を構えて【|反転呪弾《ハンテンジュダン》】を発動。

「私の呪詛を、心ゆくまで味わってくださいね」

 穏やかな口調でそう言葉にしながらも、呪詛の弾丸が乱射されれば影に対して大量に放たれる。雷と呪が全ての影を消し去り、呪詛の反転によって雷火への強化もしっかり施す。影が消えたとて、|殺人犯《月代・皐月》はナイフを手に生命を侵食させようと直接攻撃を仕掛けてくる。

『隙だらけだよ』
「なっ……?!」
「ライカには、指一本触れさせませんよ」

 雷火へナイフが振り下ろされる前に、洸は自身が編み上げた縄【黒百合】で『月代・皐月』を捕らえる。ただ捕らえるだけに留まらず、縛り付けたまま|殺人犯《月代・皐月》の生命力を奪い始めた。

「不味そうだとは言いましたが、食べないとは言っていないので。もぐもぐ……うーん、やっぱり美味しくないですねぇ」
「てか洸、食うな! 絶対腹壊すだろそんなの!」

 一応食べれるなら食べるけれど、味としては美味しくないなぁと首を傾げる。本当に食べ始めたのを見て驚かない方が難しく、思わず盛大にツッコミを入れるけれど。お腹壊すのかどうかまでは分からなくとも、害があったらどうするのかという心配もあるからこそで。

「美味しくないですけど、食べれますよ?」
「いや、だから食うなって!」

 奪われていく生命力に、流石の|殺人犯《月代・皐月》も為す術が無くなってくる。ふらつく足元、視界もぼやけてくる。終わりまで着実に迫ってきているのを、確かに感じていた。

『このまま、食べられる訳には……いかないんだ』

 何とか強引にナイフで【黒百合】を切り捕縛を逃れるものの、その足取りから追い詰めるまではあと少しとなっていた。


 ──殺人犯との戦いに幕が降りるまで、あと少し。

神花・天藍

●
 大ホールにて対峙する『月代・皐月』の姿を捉え、何とも愚かで哀れだと言わんばかりに小さく息を吐く。何故このような凶行に走ろうとしたのか、どうにも理解が出来なかった。

『キミからは、とても|冷たい《・・・・》ものを感じるね。その感じだと、キミに正義なんてあるのかな?』
「正義だのは、勝手にすれば良い」

 淡々と、静かに。天藍は音のない冬の如く、冷たい言葉で言い放つ。自分に正義というものがあるかと問われれば、罪を抱えた身としては否という方が正しいかもしれない。だが、|殺人犯《月代・皐月》がやろうとしている事は、決して許されるものでない。それはハッキリと分かるから。

「だが、それを他者を傷付ける理由にしてはならぬ。正義の名でいくら誤魔化そうが、為していることは愚鈍な暴力よ。それに、殺戮で為せることなどある訳がなかろうが。呆けたことばかり嘯くばかりで、己が身を振り返ることもない痴れ者よ」

 力を使う事で、命を散らす事で為された正義はあっただろうか。──答えは否。永く永く生きてきた中で、殺戮を繰り返し、血に塗れた人間は例に漏れず散っていった。それが正義だと謳っていたとしても、血で出来た道に誰もついて行く事はしないから。それで平和になるのなら、とうの昔にこの世はよくなっているはずなのだ。

「お前が痴れた正義とやらを語るのならば、その無駄に火照った頭を我の雪が冷やしてやろう」
『ハハッ、辛辣だなぁ。分かり合えると思ったけれど、残念だよ』

 『月代・皐月』は笑ってみせるけれど、ダメージを重ねているのもあり余裕とは言えない状況。天藍は手を翳し、己の権能を強めて【|消えせぬ雪《トコシエノフユ》】を発動する。

「散らせよ命、花は咲きえず春は来ぬ」

 すべてを凍てつかせるように冷たい氷雪の嵐が|殺人犯《月代・皐月》を襲う。まさに生命をも凍てつかせるかのように、氷雪の嵐は止まることを知らない。

『今日は、キミ達の勝ちにしてあげる……よ』

 その一言を残し、嵐と共に『月代・皐月』は凍てつき消えていった。争った形跡は、忘れさせようとする力が働いて違和感は無くなるだろう。
 力を弱め、小さく息を吐いた後、天藍は静かに思う。

(この冬の雪を溶かす何かがあるのだとしたら……心から他人を案じて、理想を抱き、真の正義を掲げる者の気高い炎だけだろう)

 気高き炎を抱く者。
 この先に現れるならば、その時はきっとこの世は平和になるはず。

 その時が来ることを祈ろう。そう思いながら、天藍は仲間達と共にオークション会場を後にする。


 ▽


 その後、闇オークションに関わっていた関係者は全て逮捕された。政治家といった役職持ちも当然剥奪され、彼らの未来は暗いものになっていく。
 悪に手を染めれば、明るい未来は訪れない。いつか明るい未来に繋ぐため、人知れずEDEN達も活躍を続けるだろう。

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