■でもない■の思い出
(画面の右下隅、判読不能の文字列『■■念■■歹■■昵』)
(映像には断続的に赤青のカラーバーが混じる)
(ノックの音。聴取室に柳・弥月が入室。青年だが、カラーバーに覆われるたびに姿が変わる)
「■■さん。言われた通り、に、日記……持ってきた、よ? な、中身……? 見せるのは恥ずかしい……かも。『内容を要約して、ぼくの言葉で』? そ、それならいいけど。ど、どの日?」
(画角外から特四捜査員の手。柳・弥月がめくっていく日記の、赤青のノイズが発生しているページを指定。わずかに映った文字は、記号が入り混じった解読不能のもの)
「こ、これ? ええと、普通の仕事のことしか書いてない日、だから……知ってる内容だと思う、けど……う、うん、じゃあ、話すね?」
(以降、この映像は『閲覧者によって弥月の発言内容が変わる』『再生するたびに口の動きが変わる』など記録の変異性が確認されている)
――日付は■■(データ破損)。だから、ぼくが特四に預かられて|すぐのこと《しばらく経ったころ》だね。
うん、厄介な怪異が相手で……ぼくは|もう寝るところ《目が覚めたばっかり》だったのに、連れてかれて。ぼ、ぼくってあんまり自由じゃない、よね……。あ、いや、文句じゃない、よ?
怪異の姿? や、やだな。一緒に戦った、のに……|男《女》の人だけを自殺させる、|髪の毛《口と歯》の塊だったでしょ?
うん。だ、だよね。それで、怪異を罠に嵌めるから、ぼくに、|男《女》の人になれって……うん、ぼく、兄さんの弟|だから《だけど》、やってみたんだ。
……あ、あはは……あ、ごめんね? 『|お陽さま《お月さま》がきれいだった』って書いてあって、ちょっとおもしろかった……だけ。
うん。作戦、うまく行ったよね。でも怪異が強くって……ぼくがぼくの首を絞め始めたところで、■■さんが叱ってくれたんだよね。
はっとして、【|過走結界《赤眼拘束》】で|髪の毛を分断《口の動きを停止》させて――弱らせたところを攻撃して、ようやく勝ったんだ。
『いい活躍だった』って、アイス、買ってもらったよね。棒、|あたりだったから《はずれだったけど》、嬉しかったな。――ねえ。あ、あれってもう、捨てちゃった?
(カメラが切り替わり、ビニールの小袋に入った棒を映す。棒先端を覆う流動的なブロックノイズが『あたり』と読める瞬間があるが、詳細不明。特四にこの棒が保存されていることも確認されていない)
……ね、ねえ? どうして|楽しそうな《怖がってる》の?
え、もう今日の報告記録、は……終わり? じゃあ、兄さんの配信にも間に合う、かな?
う、うん。嬉しい、な。ありがとうね、■■さん。日記も……持っていくね? ばいばい。
(弥月は日記をカバンにしまい、聴取室を出ていく。弥月の|学生《オフィス》カバンから、白い女の手らしき物体が見えたところで映像が終わる。その指が『5』と示していた、との報告が上がっているが、別の者からは親指を折った『4』の形だったと記録されている)
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この映像が誰に撮られたものなのか、映っていた捜査員が誰なのか、弥月の証言も一定せず未だに不明。映像は令和8年元日に特四のサーバー内に保存されていたが、その時刻にはどの端末もサーバーには接続されていなかった。
映像を閲覧した捜査員からの異常は報告されていないが、閲覧することによる映像の変異性、および女の手が表しているカウントダウンとみられる現象を警戒し、特四はこれを機密データとして閲覧不可のまま保管している。