元旦明賭博伝、一月八日にて
「ギャンブルに興味は無いか?」
そう言って堂に入った様子で金髪碧眼の吸血鬼、ティファレト・エルミタージュ(真世界リリーの為に・h01214)は√妖怪百鬼夜行の新宿付近で√能力者に説明していく。
「この近くに新興の裏賭博場があってな。そこでは裏の金が数千万単位で動くのだが……」
それは√妖怪百鬼夜行の|王権執行者《レガリアグレイド》の一人が設けた罠。
多数の裏の金に目が眩んだ妖怪や人間を秘かに包囲し、虐殺してインビジブルを獲得する算段との事だ。
「決行は一月八日……その前に、裏賭博場に潜入して|王権執行者《レガリアグレイド》『大妖『荒覇吐童子』』を撃破してほしい」
かつて√妖怪百鬼夜行にて衝動の赴くまま、ありとあらゆる敵対者を滅ぼし続けた、悪名高き犯罪妖怪の総大将たる古妖……其れが裏で糸を引いている古妖だ。
「それを炙り出す為、まずは裏賭博場でギャンブルを行ってほしい」
ギャンブルを行い、大稼ぎをすれば胴元である古妖側は動かざるを得ない。
そこから胴元の懐に乗り込む作戦だ。
「ちなみに、ギャンブルで獲得した資金はそのまま懐に納めてよい。裏の金なら、√妖怪百鬼夜行を守る√能力者の活動資金とした方が健全になるからな」
その後はギャンブルを行っていた√能力者の準備次第で行動が変わる。
そのまま胴元のイカサマありのギャンブル勝負をするか。
或いは『正体見破ったり!』と言って真っ向から『大妖『荒覇吐童子』』の配下である古妖と戦うか。
いずれにせよ『大妖『荒覇吐童子』』の配下を蹴散らさなければ|王権執行者《レガリアグレイド》の元へは辿り着けない。
「逆に言えば辿り着けばいつも通りの大立ち回りだ……『大妖『荒覇吐童子』』を蹴散らしてくれ」
そう言ってティファレトは賭け資金である五百万を√能力者の人数分用意するのであった。
第1章 冒険 『裏賭場で勝負』

「ココがウワサの裏賭博場かぁ……さてらしくないけど……気合い入れますか〜」
伝手でどうにかこうにか紹介状を手に入れて、場所が場所だけに、身綺麗に整えて胸元の開いた少しセクシーな和装で訪れたのは|神鳥《かみとり》・アイカ(邪霊を殴り祓う系・h01875)。
「はぃ紹介状。最近財布が軽くてね、ここいらでドカンと稼ぎたくて……お兄さん方、稼がせて下さいね?」
そんな、如何にもカモといった様子で軽い調子の女を演じるアイカ。
ディーラー達もカモ……この後虐殺し、邪悪なインビジブルになれば儲けものとしてアイカを裏賭博場に迎え入れる。
「賭博の内容は色々あると思うけど……ボクは、丁半博打かな?」
賽子の出目で勝敗を決める博打に参加するアイカ。
その際に√能力『|影鬼《エイキ》』を発動――半径21m内に21体の影に潜む小型の式神『影虫』を放ち、術者と繋がる霊感パスによる索敵か、対象を影に飲み込み隔離する無害な能力を放つ異能を以て細工を仕込む。
賭博場内に仕込んでおいた『影虫』を用いて情報収集や影の中を移動させ、転がる賽ノ目の出目を勝てるように操作していく。
「(勿論、勝ちっぱなしだと怪しまれるからね……)」
「あー! 1000万儲かったのにこれでパーだ!」
適度に負けつつ、それでいて――
「――よし! 2000万確保!」
程よく荒稼ぎするアイカ。
その後、スッと立って勝ち逃げして換金所に彼女は向かっていく。
「ここいらでお暇させてもらいますね……さて」
ディーラー達の方へ視線を向けるアイカ。
古妖達は、目線を厳しくしながらアイカをマークしている。
――直接戦闘か、ギャンブルか……それを決めるのは、他のメンバー次第だ。
「500万ぽんっとくれたわね……しかし、賭け事にお遊び以上にのめり込むとか馬鹿よねぇ、人間も妖怪も」
西洋風の座敷で行われているのは、ルーレット。
アーシャ・ヴァリアント(ドラゴンプロトコルの|竜人格闘者《ドラゴニックエアガイツ》・h02334)は自身のドラゴンプロトコルとしての翼等を広げ、ルーレットで大博打をしていた。
「妖怪連中もいるなら羽根とか出したままでも問題ないわよね……で、貰ったお金だし気兼ねなく使いましょ。宵越しの金は持たないってね」
――50万をかけたルーレットが、外れた。
その事に対してアーシャは肩をすくめるのみ。
「(どうせ最後にはぶちのめして終わらすんだし、買っても負けても気にしない気にしない)」
だかこそろ気軽に、大金を賭ける事が出来る。
既にアーシャの持っている金額は、200万――
それらを18番のストレートアップ……37つある数字の中で一つを選んで張る賭け方であり、配当金は36倍となるハイリスクハイリターンな代物。
「ある程度遊んだし……全額ぶっこんじゃいましょ、さてどうなるかしらね」
剛毅とも取れるその張り方に、胴元達も思わず鼻白む。
やがてルーレットは回る……仮に、アーシャが当てたならば返って来るのは――7200万円。
――思わず怯んだのが、隙となったのだろう。
「……18、番……となります……」
「あら、勝っちゃった」
本当に、意外そうな様子のアーシャ。
瞬間、ディーラーは崩れ落ちる……
「ま、貰えるものは貰っておくわね」
騒ぎ始めたルーレット会場から、チップを受け取ってアーシャは離脱するのであった――
「ギャンブルとは悪しき趣味じゃのう……まあ、儂とて娯楽は多い方が良い」
|玉梓・言葉《たまずさ・ことば》(|紙上の観測者《だいさんしゃ》・h03308)……ガラスペンの付喪神は元々嗜好品を好む性質。
「酒も煙草もいける口じゃて、手遊びを嗜んでも損はなかろ」
老獪な口調で言葉は賭博場のギャンブルの中で、ポーカーを選ぶ。
更には√能力『|謳い手《シンジツノコエ》』を発動――呼びかけによって視界内のインビジブルを『形代』に変え、対戦相手が持つ『やり口』の情報を得る。
「負けも楽しめはするが、今回は勝つのが目的……イカサマも躊躇いなしじゃ」
それでなくとも言葉……文具店を営む男の若かりし時代の恋から人生の終着点まで、修繕を施されながら大切に使われ付喪神化したガラスペンにとって目線や手の動きは分かりやすい。
特に――冷静さが無くなるほどそれは顕著になるもの、というのは例外を除いて大なり小なり、と確信している。
故、挑発として愛用の《翠煙》……最初の主愛用品の煙管を吸い、煙はおちょくる様に相手へ吹きかけていく。
「ほれほれ、楽しい遊びを教えてくれるのではなかったか。儂だけ楽しんでどうする」
その言葉に対戦相手は激昂し、思わず『サマ』を仕掛け……
「ほい、見抜いたぞ」
そこを言葉に捕まれ、対戦相手はディーラーに囲まれる。
不幸中の幸いか、大金持ちであった対戦相手は小切手を切る事で難を逃れた様だ。
「まぁ、生きていれば次がある……良かったのう」
楽しむ様は普段通りの好々爺――それとも蟻の巣を楽し気に埋める童かもしれない。
「(――私はベニー・タルホ(冒険記者・h00392)、新聞記者であり……そして冒険者だ。現在は√妖怪百鬼夜行の裏賭博場でギャンブルに挑戦しているが、リスクを軽視しがちという上司からの評価は概ね正確だったようで、強気に張り続けた結果、種銭は尽きる寸前だ)」
「ここから逆転するには私一人では無理だろう……という訳で」
トイレ休憩が認められベニーはトイレに行く……ふりをして√能力『ゴーストトーク』を使用。
賭場に漂うインビジブルから彼女は賭場とそこにいる者達も情報を集めていく。
「親のクセといった具体的なものから博徒としての心構えのような精神論まで、聞けることを全て……聞く」
聞き終えた後こそ、本番だ――情報を獲得し、会場へと戻ったベニーは見得を切る。
「先程までのボロ負けは練習ということにしておいて欲しい――私は非常に負けず嫌いなのだ」
そして、勝負は始まる……彼女はちゃんと、情報を活用している。
徐々に堅実に勝ち続け……数十万円分のチップを獲得すると、勝負に出る。
「猛禽の眼力を舐めないことです――いざ、勝負!」
その言葉に他の博徒達も『回収』するべく勝負を仕掛け――逆に情報のイニシアチブを握っているベニーは、それらに最適解たる奇襲強襲を仕掛けていく。
「言った筈です……猛禽の眼力を舐めない事、と」
やがて千数百万円分の勝ち金をもぎ取り、そのまま撤収していくベニー。
ベテランの博徒達は訝しがるも、既に勝負は決まったのだ――
√能力者達が謀略と豪運を巡らせる裏賭博場。
最後に、山高帽にステッキを持つ紳士ファッションで裏賭博場に入ったのはガザミ・ロクモン(葬河の渡し・h02950)。
賭博は花札の『こいこい』を選び、まずは10万円を張っていく――
「(得意中の得意なのですが、初心者を装って遊び方を伺います)」
「花札はいろんなお花や景色が描かれていてきれいで、大好きです」
何せガザミは花札の絵柄は全て覚えている上、山札に残る札がどれだけあるか……そこから札それぞれの引ける確率等も大体は把握している。
「(土地神様と竜神様相手に鍛え抜いた花札の腕前……勝ちで終わらせないと、お二人にあわせる顔がありません)」
故に、結果は無双……傍から見ればビギナーズラックに見える事だろう。
現在、ガザミが握るのは藤花の絵柄――
「(僕にとって特別で、幸運の象徴です)」
博打運は呪詛と幸運で補強し、1勝ごとに、賭けるレートを爆上げしていく。
負けもなんのその……2連敗は決してせず、負けた分は負かした相手から倍にして回収するガザミ。
その様は正に――
「こいこいしまくって、怒涛の荒稼ぎとまいりましょう」
……やがて、裏賭博場にやってきた√能力者が荒稼ぎしてきた佳境――
「お客様、もっと稼げるVIPルームに興味はありませんか?」
仕掛けてきたのは、上質な身なりのディーラー。
恐らく|王権執行者《レガリアグレイド》直属の古妖……どうやら、次は彼らとの『ギャンブル勝負』の様だ。
第2章 冒険 『如何様上等、命を賭けた丁半博打』

「イカサマねぇ、勝てばいいよのよ勝てばって事か――ならまぁこっちも勝てば良いのよね、何しても」
最初は普通に勝負するアーシャ・ヴァリアント(ドラゴンプロトコルの|竜人格闘者《ドラゴニックエアガイツ》・h02334)。
当然、相手は|王権執行者《レガリアグレイド》直属の古妖ディーラー……半分ぐらい負けてしまう。
しかし、其れこそがアーシャの狙いだった――ディーラーが目に見えて、調子乗っている所にアーシャは√能力『|竜王魔眼《ドラゴニック・アイ》』を発動。
「――見えた」
全身の竜漿を右目に集中し、そのまま燃やしていく。
当然目立つ、目立つが……
「(……そういう体質の妖怪だと思われているみたいね)」
ここは√妖怪百鬼夜行――人と妖が交わり、調和していく|世界《√》。
故に『少し興奮したら右目が燃える』なんて『異常』では決してない。
「(その『隙』が、命取りよ――アタシにかかればアンタ達の隙なんてまるっとお見通しっ!)」
隙を見せた所でディーラーのイカサマを見抜き、現行犯で捕まえていくアーシャ。
「どうする?――このまま、焔の様にブレスで燃やしても良いんだけど……」
首根っこを掴み、そのままディーラーの顔面に口を寄せていくアーシャ。
魅惑的なキスではなく破壊の炎が放射されると分かっているのか、ディーラーは平謝りだ。
「さ、誠意というものを見せなさいな」
ディーラーを放り投げ、その後彼らは金庫室に向かって賠償金を嫌々積み立てていくのであった――
「いやはやどうして……賭け事とは思いのほか容易い物よの」
√能力『|謳い手《シンジツノコエ》』で相手のイカサマ手も読めればさもありなん。
|玉梓・言葉《たまずさ・ことば》(|紙上の観測者《だいさんしゃ》・h03308)は煙管片手に機嫌よく酒を飲み、相手にも勧めていく。
無論、ディーラー達はそんな言葉から『回収』するべくイカサマを仕掛けていくが――それこそ事前に√能力でイカサマ手を見抜かれれば、という奴だ。
「くふふ、裸一貫になれば儂が金を貸してやろう……おお、そちらの勝ちではないか」
時折わざと負けては相手を調子に乗せ……そこから精神汚染を開始。
卓越した呪詛を『言葉』に乗せ、相手の手を翻弄……相手の隠されたイカサマ手等の情報を収集し、着実に勝ちを重ねていく――
「要は勝てば返せる。そうじゃろ?」
丁半のどちらか――半、言葉が選んだのも半。
これで一億弱は稼いだ言葉だが――ここでディーラー達の目の奥に濁ったものを決して彼は見逃さない。
「(仕掛けてくるのう)」
細工をした賽子を僅かな間で挟み込み――そこを、言葉は掴む。
決定的な証拠を握られ、歯噛みするディーラー達……呵呵大笑し、言葉は挑発を仕掛ける。
「返済はヒサンとは言わん、トイチでいいぞ」
……これにより、ディーラー達はトイチの借金を背負う羽目になるのであった。
「さて、近所の子ぉらに配る菓子でもたんまり買って帰るか……なんせ、あまりある程儲けさせてもろうたからの」
全てが終わった後の事を考えながら、ぐにゃりと歪んで倒れ伏すディーラー達を後目に言葉は『翠煙』――最初の主愛用品の煙管を吹かせていくのであった。
「ハイレートの賭博っすか……面白そうっすね。見させてもらうっすよ」
|山田・菜々《やまだ・なな》(どこにでもいる、大切なものを守りたい、ただの人間・h01516)はハイレート勝負に観客として入り、その様子を見物していく。
「せっかくの大舞台っす――イカサマとか、冷める行為は許さないっすよ」
そう言って菜々が見据えるは、ディーラー達の動向。
彼らが√能力者達に対し、イカサマを仕掛けないかを注視して菜々は何時でも証拠を掴める準備を整えていき――
「丁か半か――」
「ちょっとまったっす」
ディーラーの片手を握り、確かな確信と共に菜々は見据える――サイコロが握られたディーラーの左手を。
「おいらにはこの手にサイコロが三つ入ってるように見えたんすけど。賭けるっすか?」
「……言っておきますが」
「今、かかってる金額の倍額、賭けていいっすよ」
苦し紛れのハッタリを仕掛けるディーラーだったが、菜々の確信を揺るがし状況を覆すには至らない。
やがて、唸りながらもディーラーは賠償金を金庫から支払っていく。
「チンケなイカサマをした代償は重い――結構な額は貰えるっすよね?」
そう言って手首を放さず、更に強く握り締めて菜々はディーラー達に問いかけていくのであった。
「へぇー。ここが例の所か〜……てかお母さん気合い入れすぎでしょ」
刺繍有の中華風のセットアップを始めとして袖なし短めの黒ワンピ、その上に紫色の長袖に合わせた丈の短いシースルー素材、シルバーの蝶々結びの紐など結構凝った服装を見に纏い、|神来社・紬《からいと つむ》(月神憑きのゴーストトーカー・h04416)は裏賭博場に潜入。
普段はアレンジした制服を着用している女子高生の紬だが、今回は母の気合もあって中々フォーマルな服装で任務に当たっている。
「で、アイカとガザミ君は……いたいたー」
彼女は現在、二人の同行者を探しながら賭博場を彷徨い……やがて二人の姿を見つける。
「あぁ、もぅ遅いよ〜ずっと待ってたのにぃ〜……お兄さん、ボクが先約なのごめんね」
「アイカお嬢様。その髪型もかわいいですね。今日のお洋服によく似合っていらっしゃいます」
飲酒による効果で自己強化を施し、|神鳥《かみとり》・アイカ(邪霊を殴り祓う系・h01875)は√能力『|君の知らない物語《シークレットタイム》』を本格発動。
それとなくガザミ・ロクモン(葬河の渡し・h02950)の様子を伺っていたアイカは直属の古妖に声を掛けられていた彼と接触……後ろからガザミくんの腕にその豊満な胸を押し付ける。
ムニュリ――そんな擬音が聞こえそうな程、強く胸をガザミの腕に押し付けるアイカ。
腕を搦め、引きずるように一時的にその場を離れ……人気のない所で作戦会議を行っていく。
「助かりました」
「良いの良いの」
二人がそうしてこの後の段取りについて話していた所に、紬が合流。
「わぁ〜……2人とも普段と違うけど可愛い……」
「来たね、ツムツム」
「お疲れ様です……お召し物が素晴らしい」
そこから紬も加えた作戦会議を済ませ……
「じゃ、私はハタチって設定でよろしく!」
「え……ツムツム?――キミって確か……未成年じゃ……」
アイカの言葉に対し、紬はただ扇子で口元を隠すのみ。
「……事が起きたら隙が無くなるから、先に換金しよ……ボクも換金所に『用事』があるから」
アイカは今回、連撃で複数の√能力を同時に発動できている。
一つ目は『|君の知らない物語《シークレットタイム》』であり、そして二つ目は――
「さぁ影遊びと洒落込もう……」
――『|影鬼《エイキ》』、先程もギャンブルで稼げる要因となった√能力だ。
アイカは換金所で現金等をチップを交換している間、スタッフの影にしれっと影に潜む小型の式神【影虫】を仕込んで術者と繋がる霊感パスで索敵を行う……だけでなく。
「回収、しちゃいましょうか」
金庫内の現金と金目の物を根こそぎ影の中へ回収する準備をしていく。
流石に切った張ったを行う前だと感づかれかねないが、逆を言えば切った張った……|王権執行者《レガリアグレイド》が現れた直後に回収できる様に仕掛ける事は可能だ。
「それじゃあ……さっさと引きずり出しに行こうか」
古妖の陰謀を破壊するべく、アイカは二人の元へと向かう――
3人でVIPルームに入った後、それぞれの行動は当然別々であった。
「(古妖と大妖との通信はジャミングで妨害……勝負を仕掛けたら起動する)」
ガザミは脳裏で算盤を弾きながら、丁半の博打に全額を賭けるだけでなく己の命も賭けのチップとする。
更に『龍王之護』と『竹水筒』を出し、懇意にする土地神様と竜神様がいると話を持ち掛けていく。
「僕を取り引き材料にすれば、上客になるでしょう……」
明らかに罠……それに気が付かない程、ディーラー達も愚鈍ではない。
だからこそ、√能力で大蟹の姿に変身したガザミへと一切の油断も慢心も無くギャンブルを進めていく。
「イカサマは、ご自由に――気づけない方が悪いんです」
だからこそ、√能力で増やした頭部……視力と聞き耳と第六感が増強されたガザミに集中が『偏った』のは仕方のない事。
「(コレは相手が必ず勝てるように出来てるゲームのはずだから……可能性を潰して成功率を上げる)」
アイカはルートブレイカー……その右手には、あらゆる√能力を無効化する最強の√能力を持っている。
ならば、ギャンブルの場にアイカがいるだけで『空間に作用する√能力のイカサマ』は自動的に打ち消されるのだ。
「(念には念を、だね)」
更に『|影鬼《エイキ》』によって情報収集と準備された賽の回収と入れ替えて出目を操作。
そこに紬は√能力『|月待之祓《カミサマオネガイ》』を発動。
ガサミの肩に手を当てて囁くように『月神様に捧げる祝詞』を読み上げていく。
この√能力は『非√能力者にバフを仕掛ける』という特性を持つ故に、√能力者であるガザミにバフを仕掛けても意味はない。
そう――『√能力者にバフ』を仕掛けるのは、意味がない。
逆に言えば……『ギャンブルの場に一人でも√能力者ではない存在』がいるなら、話は別だ。
「(うん、確率操作おっけー)」
外ウマ……ギャンブルに参加しない見学者が任意のギャンブラーに賭けて『どのギャンブラーが賭けに勝つか』を決めるギャンブル。
当然、ここは外ウマは禁止されていない……そして『外ウマで大穴を狙う』者もいるなら――『三人のギャンブラーが胴元に勝つ』事に賭けた者の足元に、ぼんやりとした映像のようなウサギが出てくる。
「(これで負けることはないはず!)」
後は見守りつつアシストする事に決めた紬は、いよいよ始まる丁半博打に意識を集中させる――
「……ちょ、丁でござ……い……まず……!」
「こちらの勝ちですね」
瞬間、VIPルームが大騒ぎとなる。
何せ、彼ら三人が得た配当金は数十億を超えるのだから――
第3章 ボス戦 『大妖『荒覇吐童子』』

「――やるな」
瞬間、VIPルームに殺気と血の匂いが充満する。
それは|王権執行者《レガリアグレイド》が一人……大妖『荒覇吐童子』が現れたからだ。
「回収だ、全員活かして返すな……と言っても、もう一人でやるしかない、か」
溜息を付きながら、ヘマをした配下の古妖達……彼らを一瞬のうちにミイラの様に枯渇させ、葬った大妖は逃げ惑う妖怪達を後目に、√能力者達を凝視していくのであった――
「儲けさせてもらったわねっ……と胴元のご登場かしら。ギャンブルって普通胴元が勝つようなってるものでしょ?――それがこの始末じゃ才能ないから店じまいしたほうが良いと思うわよ」
「ほざけ、そちらも細工はしただろう」
それぞれ回し蹴りを決め、一撃を互いに与えた後バックステップ。
ファイティングポーズを取り|王権執行者《レガリアグレイド》『大妖『荒覇吐童子』』とアーシャ・ヴァリアント(ドラゴンプロトコルの|竜人格闘者《ドラゴニックエアガイツ》・h02334)は殴り合いを始めていく。
「ああ、プライドやらが邪魔するなら手伝ってあげるわよ、全部ぶち壊してあんたもこの世から退場させてねっ!」
「望みどおりにしてやろう――貴様の避けられぬ死、という形でな」
全身の鬼の血を右腕に集中させ、やがて鬼の血が発火すると同時にアーシャの『隙』という隙を見出して急所を抉る様に炎拳で責め立てていく荒覇吐童子。
対してアーシャは『ドラゴンプロトコル・イグニッション』――真竜へと回帰する√能力を発動。
灼熱のブレスを放つ無敵の|真竜《トゥルードラゴン》へと変身し、その瞬間を隙と見て攻撃してきたのを変身後の皮膚で受け止めていく。
「残念、隙は見つけられても攻撃が効かなきゃ意味ないのよねぇ」
「事実であっても、強い言葉は弱く見えるぞ」
「それも強い言葉に、聞こえるけどねっ!」
大きくなった身体で見下ろしながら前足を振り下ろし、踏みつける様に攻撃。
動きを封じた所で燃え広がりすぎないよう収束した『|灼熱の吐息《サラマンドラ・バーン》』で焼却処分するべく、アーシャは前足を振り下ろし続けていくのであった――
「燃える右腕……視界内の隙を見抜く力……こいつ、相当厄介っすね」
「でなければ、総大将等とは呼ばれん」
|山田・菜々《やまだ・なな》(どこにでもいる、大切なものを守りたい、ただの人間・h01516)は油断も慢心も無く、驚異的な√能力を持つ荒覇吐童子を前に拳を構える。
「拳で対抗するか」
「負ける気はしないっす!――おいらの拳だって、ただの拳じゃない。何度でも、どこまでも、敵を叩き込む拳っすよ!」
「ならば、やって見せろ」
瞬間、|王権執行者《レガリアグレイド》は√能力『鬼道怪腕撃』を発動。
燃える右腕が具現化すると同時、あらゆる菜々の『隙』を見出していく――
「おいらの百拳、受けきれるっすか?」
しかし菜々も『なんでも|格闘者《エアガイツ》』の担い手。
瞬時に踏み込み、拳を振るっていく。
「やるな」
「仮にも、|格闘者《エアガイツ》っすからね!」
そのまま菜々は√能力『|百錬自得拳《エアガイツ・コンビネーション》』を発動。
拳による攻撃の後に技能攻撃を繰り出してから、再び拳による攻撃を繰り出して――というループコンボを繰り出す√能力。
そこから『鬼道怪腕撃』の見切りを逆手に取り、連続攻撃で隙を埋めていく。
「鬼の血が燃え上がる前に、一撃、さらにもう一撃、間髪入れず叩き込むっすよ!」
「まだだ!」
燃える右手を菜々の鳩尾に叩き込み……しかし、それは彼女が持つバス停による『受け流し』で塞がれ――
「これが、本当のまだだ――っす!」
大妖の顔面、そこに菜々は右ストレートをぶちかます!
「ねぇオーナーさん?戦う前に換金させて貰ってもいい?」
「すると思うか?」
「えー、ケチぃ……」
のんきなやり取りとは裏腹に、√能力『|影鬼《エイキ》』と√能力『鬼爪微塵撃』による相克を『荒覇吐童子』と繰り広げているのは|神鳥《かみとり》・アイカ(邪霊を殴り祓う系・h01875)。
自身の使い魔に指示を飛ばし、裏賭博場の金庫内のお金を全て回収しながらアイカはフィジカルだよりの近接戦闘を仕掛けていく。
「正念場ですね。闘志がみなぎります」
「むむむっ、お金の回収は…アイカに任せるとして……出入口はひとつ、一般のお客さんが避難しやすいように数任せの撹乱攻撃を仕掛けるよ!」
相克というよりは、ガザミ・ロクモン(葬河の渡し・h02950)と|神来社・紬《からいと つむ》(月神憑きのゴーストトーカー・h04416)へのサポートというべきか。
ガザミが龍王之護と鉄壁で防御を強化し、大妖がよそ見する暇もないくらいに攻撃の手を休まずに大蟹の姿で鬼蜘蛛型の牛鬼のニナイとカナイと協力して挟撃を繰り出し、
紬が√能力『|神使召喚《ヒャッピキイテモダイジョウブ》』……月神様の神使である仔ウサギ百羽を召喚する異能を用い、足元にずらっと召喚。
「さぁ!みんなぴょんぴょんしながらたまに齧ってみよー!ごー!ごー!」
「心を引き締めてかかりましょう……命を懸けて最後の戦いも勝たせてもらいます!」
ランダムに動きながら|王権執行者《レガリアグレイド》に仔ウサギ百羽を嗾けていく紬と、大妖に接近して相手の腕や足を蟹鋏で切断するべく鋭利なその武器を振るうガザミ。
その様子を確認しながら、アイカはVIP客の救助と裏賭博場にある物品を回収する裏方に回っていく。
「せっかくだし、良いものを持って帰りたいよね~っと!」
「ゴフッ……!」
そう言ってアイカは景品の一つとして保管されていた|金の延べ棒《インゴット》を手に取り、笑みを浮かべながらそれを鈍器の様に振るい――
無数の人や妖怪を切り裂いた鬼爪をアイカに振り下ろすべく肉薄してきた『荒覇吐童子』を|金の延べ棒《インゴット》で殴りつける。
「おのれ……! 楽に死ねると思うな……」
「その言葉、そっくりそのまま返してあげる」
顔面をクリティカルに殴打され、目を血走らせながらも片手で顔を覆う大妖――彼の現状は、非常に厳しい。
蓄積された疲労と負傷……それがアイカを攻めきれずに逆に痛手を被った要因となっている。
「博打は楽しかったですが、僕にとってお金は時間を買う道具にすぎません」
その事を看破したのか、傲岸不遜にガザミはそんな言葉を述べる。
√能力を最大限に駆動させ、蟹鋏を最大数増殖させて『荒覇吐童子』を細切れにする準備を巨躯を誇る甲殻族「オオカニボウズ」の青年は整える。
「よしよし……あの鬼さんにくっ付いてみよー」
そして紬は仔ウサギを撫でながら、そんな命令を下していく。
刹那に100匹の仔ウサギ達は4方向に分かれ、紬の命令を実現させるべく次々と|王権執行者《レガリアグレイド》の元へと突進。
――敵との融合……『くっつく』を仔ウサギ達が果たし続けた場合、融合された敵に待ち受けるのは『死』である。
「それに攻撃されても……復活して飛びかかる姿はゾンビさながらだね。神使にゾンビは不敬だったかな?……まぁ、お仕置出来たからいっか」
「うおおぉぉおぉッ!?」
絶叫を上げながら仔ウサギ達の融合を食い止めるべく、√能力『鬼道怪腕撃』で群がる仔ウサギ達を必死で薙ぎ払っていく大妖。
――最大数の増殖を果たした蟹鋏が、気を取られた彼の背後から振るわれていく。
「どうやら……此方の方が、性にあっているようです」
嘆息と同時、斬閃の音が複数……重奏となって戦場である裏賭博場のVIPルームに響き渡り――
やがて、大妖『荒覇吐童子』……√妖怪百鬼夜行の|王権執行者《レガリアグレイド》はサイコロステーキの如くバラバラに切り刻まれた。
「うわぁ……すっごい」
凄絶な古妖の死に様と、感服の感情を獣妖の青年に向けて肩を竦めるアイカ。
「さて、帰りは何をしようかな」
再び100羽に戻った仔ウサギ達を一羽ずつなでなでしながら、戦闘態勢を解除して座り込む紬。
「では、帰りの準備をしましょうか」
そんな彼女達を見据えながらガザミは√能力を解除し、元の姿に戻るのであった。