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ダメ人間製造ダンジョン!
●まずはお肉を召し上がれ
「年末年始で暴飲暴食の限りを尽くしたみんな。もしくは胃袋と肝臓に自信のある諸君。……出番だよ。酒池肉林ダンジョンができたの」
星詠みのベイヴィル・シャムロック(ぽんこつエルフ・h05174)は、集まったEDENたちをキリリとした眼差しで見渡した。
彼女の見た予兆によると……とある海辺の洞窟がダンジョン化したのだが、入り口が魔法の力で固く閉ざされているのだそうだ。これを突破する手段は、ただ一つ。
「お腹いっぱいになるまで、お肉を食べなきゃいけないの」
浜辺には突如出現した大量の肉と、焼き肉用の七輪やBBQセットなどがこれでもかと並んでいる。肉の種類は豚、鶏、牛などのスタンダードなものから鹿や猪、鯨肉などちょっとレアなものまで様々だ。食器や食材、調味料は魔法のパワーで自動的に補充されるが、食べられるものは飽くまで肉がメイン……おまけで白米。この二つのみだ。飲み物は水かウーロン茶が提供される。
「ビールが欲しい~って思う人、いるよね? 安心して。入り口を突破すれば、中はお酒が無限に湧く鍾乳洞だよ」
岩の壁から不自然に生えたレバーを捻れば壁の穴から生ビールが噴き出す。つらら石から滴り落ちる透明な雫は日本酒だし、水たまりからはワインの匂いがする。……ただし、未成年が飲もうとするとアラ不思議。グラスに注ぐそばから全てノンアルコールに変わってしまう。香りで酔うこともない仕様になっている。
「ただし、ね。入り口を突破する前に、お肉に飽きて『野菜食べたい……』とか言っちゃうと、喜び勇んで『モンスター化農作物』が襲いかかってくるから気をつけて」
この場合、先へ先へと追い立てられ、お酒を楽しむどころではなくなってしまうだろう。
「ダンジョンの奥へ進むと、天上界の遺産を悪用してこのダンジョンを生み出した主がいるみたい。そいつをとっちめてやって!」
肥満とアルコール中毒の温床となりかねない危険なダンジョンは早々に無力化しなければ、とベイヴィルは拳を握った。
「こんなダンジョンを案内しておいて、こう言うのも何だけど……みんな、欲に溺れないように気をつけてね……!」
ベイヴィルは無意識に自分のお腹を摘まみながら、EDENたちを送り出すのだった。
第1章 冒険 『腹がはち切れるまで肉を食えッ』
【第1章:補足】
調味料として、おろしにんにくやおろししょうが、おろしポン酢、レモン汁、ゆず胡椒、唐辛子(一味、七味)は出てきます! 一般的な焼き肉店のテーブルにありそうなものを想定してください。
これらについては、野菜に含みません。お酒ルート希望者も使って大丈夫です。
●鼻歌1号
「ふんふーん♪ お肉、お肉♪」
|真白《ましろ》・|璃亜《りあ》(風花の冒険者・h09056)はゴキゲンに鼻歌を歌いながら焼き肉会場――もとい、ダンジョンの入り口の浜辺へとやってきた。足取りは軽やか、今にもスキップを踏みそうな勢いだ。
それもそのはず。ダンジョンを攻略できて、おいしいものも食べられるなんて……一石二鳥とはまさにこのことである! ダンジョン探索を生きがいとし、おいしいものが大好きの璃亜には堪らないシチュエーションなのだった。
浮き立つ心のままに、所狭しと肉の皿が並べられたテーブルから食べるものを選んでいく。
「何にしよっかなぁ? タンに、ハラミにロースに……鯨のお肉なんてあるんだぁ!」
いそいそと七輪の元へ向かい、肉を載せれば……炭火で炙られた肉がじゅうじゅうと食欲をそそる音と、香ばしい匂いを放つ。
反対の面もさっと炙り、まずは塩胡椒を振って口元へ運ぶ。そのお味は……?
「んー! どれもとーっても美味しいよ!」
噛みしめるほどに溢れる肉汁。しっかり身が詰まっていながらもやわらかな食感。頬を押さえて、百点満点の笑顔を浮かべる璃亜。その表情だけでおいしさが伝わってくるようだ。
「次はタレ、その次はレモン汁と塩……あっ、わさび醤油もいいかも?」
豊富に取り揃えられた調味料で味を変えつつ、笑顔のルンルンで箸を進めていく。
……ここまでは順調だった。
数分後。
璃亜は手に持った箸と己の肩をぷるぷる震わせながら、湧き起こる欲求と闘っていた。
(……お野菜が、お野菜が欲しいんだよ……!)
ダンジョンが用意してくれる肉はもちろん、どれも一級品かと思うほどおいしい。……でも。だからこそ。お野菜と一緒に食べたい。お野菜のシャキシャキ食感とともに、お肉の旨みを味わいたい。
(絶対口には出さないけども……!)
野菜を求める言葉は敵を呼び寄せると聞いたのだ。口にしない方が賢明だろう。
野菜欲から意識を逸らすためにウーロン茶を一口飲み、璃亜はこの欲求とどう闘ったものか考える。……そして、閃いた。
「そうだ! 全種類制覇を目指しちゃおうかなぁ? 目標があればきっと頑張れるよね!」
定番の豚、鶏、牛にも、その他の肉も、全て部位ごとに分かれている。それを全て味わおうと思うなら……きっと野菜に思いを馳せる余裕などなくなるはずだ!
我ながら名案と拳を握り、璃亜は次から次へと肉を頬張っていった。……一瞬、体重増加の心配が頭をよぎったものの、
「えっとねー。この後たくさん運動すれば消費されるはずだよ!」
たぶん、きっと。どうにかなるなる。
余計な心配は煙の向こうへ押しやって、璃亜は焼き肉を隅々まで堪能したのだった。
●鼻歌2号
「肉! そうこう言うのだよこう言うの」
セルゲイ・ヴォルコフスキー(一介の冒険者・h05241)もまた、目の前に並んだ肉の数々にギラリと目を輝かせていた。熊獣人の本領発揮といったところだろうか。
「酒と一緒じゃないのは残念だがまずは肉を堪能しよう」
ふんふんと上機嫌に鼻歌を歌いながら、自分の周りに七輪を並べて間断なく肉を食べられる配置にする。手始めに網に載せるのは、オーソドックスに豚、鶏、牛。味付けは塩と胡椒のみ。これが一番素材を、肉の旨みそのものを堪能できるというものだ。そしてそのシンプルな味付けの肉を……ガツガツ貪る!
「うまい! うまい!」
焼けたばかりの熱々の肉をはふはふと舌の上で転がし、噛みしめるごとに思わず感嘆の声が漏れる。あっという間に空の皿が積み上がるが、この程度はまだまだ序の口だ。
一度ウーロン茶で口の中の|脂《あぶら》を流してリフレッシュし、次の肉に取りかかる。――今度は、普段食べない鹿や猪にチャレンジしてみよう。
「なになに……『鹿肉はミディアムレアで、猪は中心ギリギリまで焼く』か」
肉と一緒に置かれた焼き方ガイドに従って火を通し、いざ実食。無論、こちらも塩胡椒のみだ。焼けた肉をいくらか頬張って噛みしめれば、鹿肉はあっさりと淡泊な味わいで噛み応えがあり、猪肉は豚肉に似ていながらより濃厚で、脂身が甘く、口内でとろけるような食感だった。
「どっちも、うまい!!」
思わず吠えながら、セルゲイは焼けた肉を一度に口へ押し込んだ。口内いっぱいに広がるいつもと違った旨みと、鼻を抜ける独特のにおい。いずれも大変好ましい。
セルゲイは肉の種類とウーロン茶をローテーションしつつ、肉の皿を次々と平らげていくのだった。