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果てなき透明の夢

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降葩・璃緒

名称∶楽園の祝福
種類∶聖餐
設定∶硝子のように透明な球体。齧れば甘く、口に含むと魔力が増す神秘の果実。


◯世界を微かに歪める透明
 これは何だと思いますか?
 いえ、問い掛けたところで答えが出ない事はとうに知っております。
 それでも先にこう問わねばならぬ程に、これは珍妙な品なのでございます。
 どうぞお手に取って、じっくりとご覧くださいませ。

 直径は大凡10cm、無色透明、凹凸も汚れも傷もない完全無欠の球体。
 一見硝子玉にも見えますが、その材質は奇妙不可思議極まりなく。
 触れた瞬間は鉄の如くにひやりと冷たく硬質、けれど触れ続けていれば仄かな温かい。
 高所から落としても割れず、金属の槌で殴り付けても吹き飛ばされるだけで傷付かず、超高温の炎で焼いても融けず、超低温の空間に放り込んでも一切変化なし。
 この形、この美しさを数年以上保ちながら、我々が触れても指紋の一つさえ残らない。
 不思議でしょう?まるで一切の穢れを拒んでいるかのよう。
 けれど唯一これが形を変える方法があるのです。何だと思いますか?

 ──|食べる《・・・》のです。
 驚くべき事にこの奇妙不可思議な球体、食べる事が出来るのです。否、それしか出来ないと言うべきでしょうか。
『唇で触れると次第に表面が溶け出し、歯を立てれば容易く齧り取れ、噛めば噛むほど蜜が溢れ出して来る』
『限りなく林檎に近い爽やかな甘やかさがあり、心地の良い酸味が後を引く』
 と、かつてこれを食べた何方かは語っていたそうです。
 そう、これは果肉も種も何も見えませんが、紛うことなく果実なのです。
 しかもどうやら魔力を多く含んでいるらしく、食べると一時的な|強化《バフ》が施されるのだとか。
 とはいえど、私が聞く限り強化具合も個体差があるようでして……果実の含有量にバラつきがあるのか、人との相性があるのかは不明です。

 ……ええ、こんな食べ物見たことないでしょう?
 如何なる図鑑にも載っておらず、知る人も少ない奇っ怪な代物。
 恐らくは、我々もまだ知らない未知の√から流れ着いてきたものと思われます。
 しかしながら、その正体は一切不明。
 土壌は?環境は?どれだけの月日をかけて成長し、どのような条件が揃えば花咲き、実るのか。
 他の生物が食さなければ何も取り出せないという厄介の生態で、どのように数を増やしたのでしょうか。
 残念ながらこの果物がどのように実っているのかを見たものはおりません。
 何処からか流れ着き、いつの間にか市場に出回り、興味を向けた何某かが手に入れて調べ上げて、ようやく果実と気付くというのが発見の流れ。
 一体どんな環境にあれば『食べる』以外の方法で壊せない果実が実るのでしょうね。

 正しき名は不明ですが、神秘と謎に満ちたこの果実を口にした一部の人々は『楽園の祝福』と呼んでいるようです。
 中には実際に『神の声を聴いた』と言う人さえいるのだとか。
 それ故に、何処かの国においては『神の声を聴く儀式』を行う際に、神官がこの果実を口にするのだそうです。
 ……いえ、私は口にしていないので事実かどうかは知りえません。
 それを知る事が出来るのは、次にこの果実を口にする誰かのみでしょう。

 あなたはどういたしますか?
 ああ、別にわざわざ食べる必要はございませんよ。
 口にせずとも不思議と朽ちず、ただ美しく透明な球体として飾ってしまってもいいでしょう。


●口に含めば
 ──……■■、……▢▢ ──ぁ。
 ああ、やっと、やっと届いた!
 待っていたよ、我等の愛し子。きみが我等を食べてくれるのを!
 いや実に困ったことなんだけれどね、我等は滅亡の危機に瀕しているんだ。
 我等の生きる美しき平原は侵略者により破壊の限りを尽くされ、最早残されたのは数本のみ。
 どう頑張っても我等はあと二百年前後で枯れ果ててしまうだろう。
 だから、どうだろう。協力してくれないかな?
 代わりに我等が知り得る汎ゆる知識を授けよう!大丈夫!たった五千年分だから!
 ……え、無理?そっかぁ……容量不足なら仕方ないかぁ。
 それじゃあ次の実が流れ着く予定の場所を教えるから、誰かへと託して貰えないかな?
 ああ、勿論協力してくれるのならきみにも力を与えよう。ささやかなものではあるけれどね。

 きっといつの日か出会えるのだろう。
 美しき水晶平原、虹硝子の枝葉を伸ばす我等を育ててくれる、愛し子に。

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