赦しは乞わぬ
王劍『|縊匣《くびりばこ》』関連シナリオ
これは王劍『|縊匣《くびりばこ》』に関連するシナリオです。
これまでの関連する事件は#王劍『縊匣』をチェック!
●いちどあればにどもある
「ヒャーッヒャヒャヒャ! よくぞ集まってくれた、我が精鋭達よ」
コウモリプラグマは、お決まり・いつもの口調で王劍奪還作戦に加わる怪人達を迎えるが――彼らの表情は暗い。
それもそのはず。全員がEDENの√能力者に敗北するという失態を演じていたのだから。
だが、コウモリプラグマは彼らの不安を一笑に付す。そう広くもないコンクリート貼りの部屋にはあまりに声量が大きな声で。
「一時の敗北など、気にする必要は無いのである。先の作戦の目的は、もう1本の王劍を見つけ出す手がかりを得る事。そしてそれは、成功しているのである!」
敗北はともあれ、その情報の精度は確かなものだ。情報さえ得られるのなら、その手段は問わない……それが前回のコウモリプラグマの動きである。
「王劍を強奪したデュミナスシャドウは独自勢力を組織しようと、√EDENの弱小怪人組織を荒らしているらしい。であれば、我らが先回りして罠に嵌める事など容易いのだ。ヒャーッヒャヒャヒャ!」
コウモリプラグマはそう断言すると、計画書を怪人たちに配っていく。意外と丁寧。
そこには、彼らが何処の組織を傘下に収めるかといった指示や、プラグマ組織からの正式な命令書など必要な物が揃っていた。
……その資料を受け取って溜息を吐く一人の怪人。長身、金髪、『銀の弓』。
「デュミナスシャドウから大首領プラグマに献上すべき王劍を奪い返すため、よろしく頼むぞ!」
コウモリプラグマはやたら自信満々にそう激励し、怪人たちに出撃を命じたのだった。実に、上司にしたくない者の態度である。
「……ともあれ、頓死させるだけではならぬ、と」
アポローン・アルケー・ヘーリオスの吐く息は、憂鬱かつ、白い。
●おとどけもの。
「厄介事の『お届け』だ! |縊匣《くびりばこ》案件――コウモリプラグマが再び動き出したよ!」
テーブルの上へと転がされたカプセルがホログラムを投影する。現れた情報群に記されるは、オーガスト・ヘリオドール(環状蒸気機構技師・h07230)が得た予知の内容だ。
「怪人コウモリプラグマは相変わらず王劍を握ってる。その対となる王劍を、デュミナスシャドウから奪おうとしているみたいだ」
先月の事件で情報を流した結果だ。コウモリプラグマはデュミナスシャドウを敵視し、彼を罠に嵌めようとしている――。
「あの声のデカい――コウモリプラグマは配下に命じて、デュミナスシャドウが狙いそうな弱小組織に接触して傘下に収めたんだ。福岡市植物園でこっそり活動してた怪人たちだね。悪の組織プランツ……まんまだなあ。植物を媒体にして、怪人を増やすのが目的の組織だ」
とはいえ、組織としては小規模。だがコウモリプラグマたちはこの傘下組織を利用し、デュミナスシャドウを迎え撃ち、王劍の奪取を目論んでいるという。
「コウモリプラグマは大首領プラグマの命令で動いてる――接触した組織は、当然のようにコウモリプラグマ配下の命令に服従する。つまり、すべてはプラグマに通ず! ってやつだ」
腕を組み、顎に手を当ててうーんと唸るオーガスト。思うところあれど、仕方がなし。|悪の組織《プラグマ》とはそのようなものなのだから。
「皆にはコウモリプラグマが傘下に収めた弱小組織の拠点に向かって、コウモリプラグマの目論見をぶっ潰して欲しいんだ。デュミナスシャドウ配下が襲撃して来るまでには、まだ時間があるからね!」
奴らの襲撃前に状況を『自分達に有利なように整える』のが、勝利の鍵になるだろう。
舞台となるは植物園の温室。それなりの広さがあり、隠れられる植物群も存在する。
「このコウモリプラグマの作戦に対し、相手が――デュミナスシャドウがどのように動くかは現時点では予測できない。皆がどんな準備を整えるかで、|あっち《デュナミスシャドウ》側の作戦が変わって来るはず」
星詠みとて読める情報は限られているのだ。その情報で動かねばならない以上、慎重に、そして時に大胆に作戦を組む必要がある。
「今回現れるコウモリプラグマの配下は、前回の戦いで戦った怪人と同じ――つまり、アイツだよ」
それは爆発オチがお嫌いらしい怪人。アポローン・アルケー・ヘーリオス――。
「コウモリプラグマの持つ王劍と、デュミナスシャドウが持つ王劍……2本の王劍が関わってる。油断せず、作戦に参加して」
当然、君たちならできるでしょ? ぱちりとウィンクした星詠み。軽薄な表情に見えても、真剣だ。
●温室にて
悪の組織というものは多種多様。福岡市植物園にて潜む緑色、量産型ハナハチドリ怪人達たち――拠点としている温室の中、愚痴めいた話を延々続けている。
「いや分かってるんだ、所詮俺たちは使い捨ての怪人……」
「でも、なあ? こうなっちゃったからには、ネ……美味い汁ってのをたまには啜りたいもんで……」
まさしく量産されて生まれた彼ら、思考も似ている。どうにかこうにか成果を持ち帰りたい気持ちも同様か。
悪の組織プランツ。名の通りに植物を利用し、自分たちの特殊な花粉をばら撒くことで怪人を増やそうと試みており、小規模ながら|悪の組織《プラグマ》に貢献するため行動している。それはそれとてうまくいっているのかといえば……規模でお察しか……。
静まり返った夜の温室にて、かつ、と蹄のような音。それに勘付いたハナハチドリ怪人が立ち上がる。
視線の先に見えるは、十二神怪人。コウモリプラグマの配下として訪ったその男は咳払いをしてから、構える量産型ハナハチドリ怪人達に静かに告げた。
「コウモリプラグマからの命令だ。我が配下として働くがよい、とな。……従ってもらう」
――|悪の組織《プラグマ》として。
番えられた銀の矢に逆らうことは、彼らには勿論、出来はしない。
第1章 冒険 『コウモリプラグマ傘下組織への対応策』
「……で、成果はたいしたものではない、と」
低い声色が温室に響いている。体格由来のものかそれともやや呆れているためか。暗く視界の悪い中でもよく目立つ銀色がそこにいた。
植物園にこっそり築いた悪の根城。うーん、よく燃えそうな場所である。
「――シンメンボク先輩いるじゃん」
「いるね」
ひそひそ。ヘーリオスはすでに傘下組織と合流済み――ジェイド・ウェル・イオナ・ブロウクン・フラワーワークス(笑おうぜ・h07990)とクラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は顔を見合わせる。彼まで既にしっかり『いる』とは少々予想外だっただろうか、少しばかり作戦を考えるべきかもしれない。
とはいえ温室の茂み、夜間であること、そして植物園の職員の格好へと変装した姿なら、短時間であれば作業してもバレないだろう。
監視やら戦闘が発生するまでなど、待っていられない。その間に好き放題されてはたまったものではないのだから。
「(悪いことを考えているし、アポローンもいるのなら容赦は無用だね)」
「(まずは植物野郎共を一網打尽にしてやろう)」
ひそひそと声を小さくしながら、しかし足音を殺すことはせずに歩く。
そこで一体のハナハチドリ怪人が反応した――来訪者に気がついたか、その気配を探る。しかし彼の視界に見えるのは変装したジェイドとクラウスの姿。当然、温室は定期的に見回りや植物の様子を見るために人の出入りがある。『|あちら《怪人側》』は声を発することができないようだ。
ここは√EDEN。忘れようとする力がどれだけ強くても、派手に動けばどうなるかを彼ら――怪人たちも、知っているのだろう。
「(……ま、シンメンボク先輩に嫌がらせしたいってのも本音)」
毎度のごとく嫌がらせをしてきたのだ、此度もしなければ逆に失礼ではないか。いやそんなことはないか。
さて、ジェイドとクラウスは手始めにと屈み込んで、植物の状態をチェックするように見せかけ――罠を貼る。
ジェイドは任意で起爆できる小型爆弾の設置。土を弄るように見せて埋め込んでおく。外付け爆弾と連動させられるように仕込みつつ。少なくとも混乱を与えることはできるだろう。
クラウスは視認するのが困難な細いワイヤーを張りつつ、ジェイドの爆弾と繋げて、これに触れたら爆破できるように仕込んでおく。こちらも植物の影や土を被せて隠し――温室の植物や通路の様子もしっかりと見て、罠を張り巡らせていく。
これらを用いて、デュミナスシャドウの襲撃に合わせ、温室を破壊できたら一網打尽にできるかもしれないという算段だ。――植物たちには申し訳ないが、そこはまあ、後でどうにかなるものだ。今は気にしなくてもいいだろう。
「いやあ、夜の見回りってのも大変だな」
ほんの少し大きめの声でジェイドが言う。それに「そうだね」と頷いたクラウス。
「手入れは今日はこんなもんでいいだろ。撤収すっか」
そうして二人は自分たちが張った罠に触れないようにしながら、職員用の出口から出ていった。
「……あれに見覚えは?」
声を上げたのはヘーリオス。ハナハチドリ怪人たちは首を振る。「新人ですかね」なんて呑気なことを言って。そんなのだから……というのは余計な話か。
「(違和感はあったが、まあいい……一般人であれば、だが)」
目を細めて二人が去ったドアを見つめる怪人。その視線は鋭いままだ。
「(コウモリプラグマとヘーリオスさん、再び動き出したんだね)」
植物園の草むら、その陰から赫夜・リツ(人間災厄「ルベル」・h01323)は怪人たちを観察する。これ以上戦力が増すのはごめんだ。様子を見にきてみれば、既に合流して何かを話しているようだが……。
「そも、何故このような人の多い場所に?」
「最近は寒くて……」
「単純な」
なかなか雑談めいているが、ヘーリオスの圧が半端ない。ハナハチドリ怪人、どうやらわりと圧迫されている。
――リツは彼らの会話を聞きながら考える。怪人たちは温室で戦いたいはずだ。この場所を拠点としている時点で……そして何やらのんきな発言をしている点からも。この中でどんな作戦を取って戦うつもりなのだろう?
まあ何を考えていようと、ここから追い出してやればいい。
リツが呼び出すはひらり舞う緋色の舞、炎の蝶が火の粉の鱗粉を散らして飛ぶ――!
「ぬあっ何!? 炎!! 襲撃か!!」
慌てて戦闘態勢を取り、蝶の飛んできた方向へと構える彼ら。だが慌てていたからこそ、足元やあちらこちらに張り巡らされていた『それら』に気付けなかった。
先に動いていた√能力者たちが作り上げた罠が――作動した。
「ウワーッ!?」
「ばばば爆発! 爆発ナンデ!?」
足元や木などが爆薬によって炸裂する。炎の蝶が舞うその性質としても、多少の引火は免れず温室内の気温が上がる――!
「(ヒイちゃん! 火力落としてあげて!)」
その意思は伝わっているのだろうが誘爆は止まらない。後で忘れようとする力が働くだろうが、それはそれ。爆風で温室の窓が破れ、風が吹き抜けてくる。延焼は少ないが逃げ惑うハナハチドリ怪人、即座に空中へ浮き上がり上方へと逃げたヘーリオス。
「怪人が爆発にビビってどうする!!」
そういう|貴方《ヘーリオス》もビビる側。爆発オチなんてサイテーだ! とはまだ言わなくとも良さそうだが、準備くらいはしておいたほうが良いかもしれない。
破壊された温室からわらわら逃走するハナハチドリ怪人たち――そうして。
「……やはり来たか、EDEN」
目を細めたヘーリオス――リツの姿をとらえて、唇を吊り上げた。
リツも軽く手を上げ、挨拶といこう。
銀の弓に矢が番えられる。浮上したヘーリオスの元へと、ハナハチドリ怪人たちが戻ってきた――。
第2章 集団戦 『量産型ハナハチドリ怪人』
「……手筈通りというほどには、話してはいないし、そうともいかなくなったが」
破壊された温室はずいぶん風通しがよくなってしまった。これでは潜む場所もありはしないし、暖を取ることもできはしない。
――悪の組織プランツ。弱小とはいえ数が極端に少ないわけでも、戦えないわけでもない。プラグマに通ずるものとして確かな戦闘能力を有している。
「さて。時間稼ぎ程度、お前たちにもできるだろう? その本能、存分に振るうといい!」
「このっ……こうなったら、ヤケクソだァ!!」
上空に陣取るアポローン・アルケー・ヘーリオスが高らかに声を上げ。EDENへと襲い掛かろうと動き始めた量産型ハナハチドリ怪人たち。
彼らを早急に討ち倒さなければ、デュミナスシャドウ勢力が現れ挟撃されてしまう可能性がある。求められるのは、速戦即決――!
●一方、|二尾《・・》は
「――あれは!」
……『怪盗ツインテールキャット』たちの目に映ったのは、植物園からの爆発音と上がる煙だ。配下と共に一瞬足を止める。
間違いなく『邪魔が入った』! それでも、ここに留まるわけにはいかない。デュミナスシャドウの命令に従い、彼女らは温室へと走る。
「寒いの苦手なんだって?」
にんまり笑顔、派手に破砕されし温室を背に笑うはジェイド・ウェル・イオナ・ブロウクン・フラワーワークス(笑おうぜ・h07990)。
「それに、いかにも火に弱そうな見た目だ」
頷いて続けるは、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)。職員への変装はもう必要ない。
「俺達向きの相手だね」
さて、既に派手に爆発したがまだオチはついていない――二度目の爆発チャンスがあるということだ。特撮でいえば変身の爆発と怪人の爆発、二回あっても当然、損ではない。まあ損得で語ることでもないが。
上空で腕を組み、嫌そうな顔をしているヘーリオスをちらりと見るクラウス。まずは目の前のハナハチドリ怪人を蹴散らすのが先だ!
「そんじゃ、あっためてやるよ!」
「ぬあっ――うおぉ!?」
最初に動いたのはジェイドだ。空間引き寄せにて集められるハナハチドリ怪人たち――デュミナスシャドウ勢力に割り込まれる前に、迅速に片付けてしまおう!
投げつけられる爆弾があちらこちらで炸裂し、団子になったハナハチドリ怪人たちが炎上する――!! 爆風によってさらに荒れる背後の温室!
「この! おい! 何をしてくれてるんだ!! このままだと消防のお世話になるぞ!?」
ハナハチドリ怪人が何かを喚いているが知ったことではない。消防を呼んだところで忘れようとする力が働いてそもそも来ない可能性がある。
ほい、とクラウスに軽く渡されたジェイドの爆弾。なんとか引き寄せから逃れた敵へと二人から爆弾が投擲されていく。
ついでに上空のヘーリオスへと投げつけてみるも、それは軽く矢で射抜かれ往なされてしまった。
手を出してくる気はないようだが、不愉快そうなツラではある。僥倖!
「草タイプには炎タイプ!」
「?」
ゲームに明るくなければわからない話だったかもしれない。ちょっと、かろうじて、わかっているか? 首を傾げつつも弾丸を装填するクラウス――ともあれ草タイプは炎タイプや虫タイプ、ついでに|ヘーリオス《飛行タイプ》なんかにも弱いというのがお決まりだ!
「つまりはおれが植物先輩らの特効ってわけ! やり甲斐を感じるね! いけっイーザリー先輩! 炎攻撃だ!!」
ここ最近暴れる機会が少なかったからか、とてもテンション高めなジェイド。その横から放たれるクラウスの火炎弾! 言葉も発せぬままに大炎上していくハナハチドリ怪人たちだが、黙り続けているわけにはいかない!
右腕の触手を振り回して突撃してくる敵を避け、魔力兵装で斬り捨て、追い打ちとして弾丸を打ち込むクラウス。ずっこけた怪人に追い打ちをかけながら……実に楽しそうなジェイドを見た。
彼が楽しそうだと、自分もなんだか嬉しい。戦いの最中ではあるが、間違いのない自分の心だ。
「真冬の焚火とは、趣があるね」
「な、あったけーだろ?」
数の減ったハナハチドリ怪人、炎上する球体めいたそれを目下にし、上空のヘーリオスは己の顎を揉んだ。
確かに熱はあるが……煙たい、燻されそうだ。
「(温室は目的達成後に直しに行くとして……)」
派手な爆発によって破壊された温室。
冷たい空気が吹き込んでくる中、赫夜・リツ(人間災厄「ルベル」・h01323)は火の粉が残る戦場にて、周囲を一望する。温室はずいぶんとさっぱりしてしまったが、怪人たちはまだ残っている――!
「クソッ俺たちの縄張りを台無しにしやがって!!」
「勝手に縄張りにしてたのはそっちだよね!」
突撃してくるハナハチドリ怪人。そのクチバシをすぐさま異形化した腕で受け止めるも――。
「――ぐぬぅ!!」
リツではなく、何故か怪人の方が悲鳴を上げた。おっと。すぐに距離を取る敵……「首が! 首が!」などと言いながら己の首をさする彼を見て。
「え……その技、首が折れるの!?」
似た√能力は見たことがあるが、流石に……首が折れるだなんて、普通に自滅行為ではないか!! だが容赦をするわけにはいかない。いけないいけない。
思わずちょっと同情しかけたようだが、それはそれ。
手を休めている暇はない――美しい緋色の舞、炎の蝶が羽ばたき、ハナハチドリ怪人たちの間をひらり抜けていく!
「あぢっ! あちちっ!? お前も炎使いか!?」
「火が!! タテガミに火がー!!」
タテガミというより花弁に見えるが、部位としてはそうなる。尾羽らしき箇所などに燃え移った火を消そうと転げ回ったりなんだりしているハナハチドリ怪人たちを見ていると、つい気が抜けてしまうものの……次なる怪人がクチバシでリツを貫こうと突っ込んできた。
今度はそれを回避して――しかし、命中すると折れるとなれば。
すれ違いざまに異形の腕で軽く叩いて距離を取る。案の定命中したと扱われたか、敵の首から少し嫌な音がした事に眉をひそめながらも、次々襲い来る怪人どもを往なしていく。
けっこうに千切っては投げ、という雰囲気と勢いだ。その最中でも上空に陣取るはアポローン・アルケー・ヘーリオス。
光背を背負い顎を揉み、何かを考えているようだ。その弓にはしっかりと矢が番えられている……いつ攻撃してくるかは分からないが、まだ『|その気《・・・》』ではないか。ただ静かに、リツと怪人たちの戦闘を眺めている。
上空も念の為警戒しつつ、リツは眼の前に飛び込んでくる怪人どもをその剛腕でぶん殴っていく。
「こんばんは」
凛と温室に響く声。穏やかな表情と共に現れた暁月・仄火(暁に燃ゆる・h08799)。煙たい空気の満ちる空間へと降り立った。
「随分と派手に花が咲き乱れていますね」
「えぇい! 何が花だ!! ただの炎なんだよなあ!?」
冗談すらも流せるような状態にないらしい。怒鳴り声と共に仄火へと猛烈な速度で突っ込んでくるハナハチドリ怪人――!
「では、私からも一挿しを」
だがそれをまともに許してやるような義理はない。怪人たちの足元に広がる炎――!
「ぬあっちぃ!?」
「うおっ、あ、頭ゆれっ、ゆれっ!?」
「地面! 地面だ!!」
燃え上がりながらも猛烈に揺さぶられる怪人たち。足をすくわれ踊る様はまるで花々のよう。うっかり倒れでもすれば、ばき。
……前から倒れた嫌な音があちこちから。地面への、ずいぶんと情熱的な口付けだった。流石に数が減っているため同士討ちはなかったが、あったらあったで大変に奇妙な図だったことだろう。
――そしてぐらつく怪人どもに迫るは、仄火の回転鋸である。温室に持ち込むにはお似合いと呼ぶべきか、物騒すぎるというべきか――!
「このっ……負けてられるかぁ!!」
もはや敵はやけくそだ。揺らされつつ叫びながら走り抜けてくるハナハチドリ怪人。わかりやすいがふらついている足取り、足元を鋸でオサラバしつつの回避、地面に倒れると同時に嫌な音。
「一度刺さると首が折れてしまうのですか……可哀想に」
仄火はなんとも奇妙なものを見る目で怪人たちへ目を向ける。まったく、威力を優先して妙な手を、いやクチバシを使うから。威力についてはマトモに直撃していないため、わからないわけだが……。仄火が目を細めて息を吐く。
「では首を」
そして、ぎゃあの一つも言わせてくれない。とどめとして振り下ろされる鋸は確と断ち切る。植物のように。
「その状態で二度目はお辛いでしょう。楽になって結構ですよ」
既に|楽《・》になっている、返答はない。残る僅かなハナハチドリ怪人たちをその回転鋸にて刈り取り散らしてやれば――温室はきれいさっぱりだ。
上空からの拍手。苦々しい顔をして、アポローン・アルケー・ヘーリオスが仄火を見て手を叩いている。
さて――どう出てくるか。
第3章 ボス戦 『アポローン・アルケー・へーリオス』
季節外れの花たちは見事に散っていったようだ。ハナハチドリ怪人たちはすべて倒れ、残るはアポローン・アルケー・ヘーリオス――そして、その後方から迫ってきているであろう、デュミナスシャドウの配下。
目論見は見事に潰されている。この作戦は失敗だ。だとしても、引き下がる理由はこの怪人には無かった。
好き勝手やられたのならば、こちらもそうすれば良い。どのような形で終局しても、何らか、コウモリプラグマからの怒号が飛んでくるだろう。それなら――。
「……言っておくが、ゆるしなどひとつも乞いはしない」
番られた矢。浮遊したままの彼、その足の爪先が、向けられた。
クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)の笑顔の花が場違いなほどに柔らかく咲いている。
「やあ、待たせてごめんね」
「いいや、構わんとも。面倒ではあるが」
「や! |シンメンボク《真面目》先輩、待たせたな!」
「貴様のことはあまり待っていない」
番えられた矢、その鏃がジェイド・ウェル・イオナ・ブロウクン・フラワーワークス(笑おうぜ・h07990)へと向く。どうにも扱いに差があるような気がするが――是非もなし。爆発に関する主犯がどちらかといえば、まあ。
「あまり、っていうことは待ってはくれてたんだ。待っていてくれてありがとう」
無邪気な笑顔のクラウス――! アポローン・アルケー・ヘーリオス、流石に嫌そうに口角を下げた。この笑顔は、素ではないか。|初対面《・・・》の無表情さはどこへやら。……それに『成長』を感じてしまうことを、ヘーリオスは自分自身で、忌々しく思った。怪人として持つべきではない感情だ――ともあれ。
「爆発オチのお届けに来たぜ!」
オチになるかはさておき――いや断言しよう、流石に今回は爆発オチにはならないぞ! すでに戦場は結構な頻度で爆発しており、今回で追加の爆破も確定しているようなものなのだから。ヘーリオスとてお腹いっぱいだろう! だが|地の文《わたくし》は楽しい。
「結構だ!!」
敵対したとなれば動きは早い。迷いなく撃ち込まれる矢を避けて笑うジェイド。
「つれないこと言うなよ。爆発オチが嫌ならまず、お空から降りて来るといい」
配下とした組織が潰えるまで、文字通りの高みの見物をしていたのだ。そのような態度を毎度毎度取っているのだから――。
「それともこっちがお好み?」
――ジェイドの手の中に見えるは爆弾。投げつけられる寸前、それを視認した瞬間にヘーリオスの左脚、銀の弓が変形する! 竪琴と化したそれから放たれる音響波、投擲された爆弾を宙で切り裂いた。
同時に、クラウスからは『レイン』のプレゼントだ。ばら撒かれるレーザー、|自分達《味方》を避けるようにと展開されたそれが温室の枠組みや残っていた窓をかち割り破壊していく。
爆弾が空中で爆ぜ、レーザーの雨と煙で視界が濁る中、ヘーリオスはレインを正面から――正確には、降り注がれるままに受けることを選択したらしい。
――何か策があると、ヘーリオスは察している。視界を悪くしてくるとなれば、相応構えることができる――目眩しの煙を払おうと放たれる音響波。と、同時!
「――ッ!!」
ヘーリオスの左脚へと巻き付く、鎖鎌の分銅。引き寄せれば確と絡みついていることが分かる。ジェイドの放った鎖だ。音が止まった……一時的でも、僥倖!
「よしっ!」
捕らえた! 小さくガッツポーズをするクラウス。――√能力の性質上、連撃を挟まぬ限り、発動は一度きり。そこから先は工夫が必要だ。
クラウスのレインの雨が止まぬうちに、微震動爆破によってヘーリオスの目前へと転移したジェイド。
「……これ、飛んでるわけでも、留まれるわけでもねーんだ」
細めた瞼、張り付いて見える笑み。互いに塞がれた片目。鋭い眼光がばちりと合い。
ジェイドが掴み上げたヘーリオスの胸ぐら。自らの体重と勢いを利用し、偽神を地上へ叩き落とす! 自由落下――真下には、ジェイドと入れ替わった後のインビジブル。
些細な振動ですら拾うそれが、質量のある人体を受け止めればどうなるか。それは当然、お察しだ。
……カッと一瞬稲妻のように光って、爆風と轟音が温室へと広がった。
「おすそ分け、喜んでくれるかな」
少し――そう、いつもより機嫌が良さそうな、クラウスの声。それに反応したか、煙を裂き『音』の刃が飛んでくる! 魔力の盾をもってそれを防ぐが、まだその一撃はクラウスがよろけるほどの威力を保っている。
「おれらのお裾分け、気に入らなかった?」
晴れた煙の中、白かった衣服は煤を被っている。左脚の弓は健在だが、それでも偽神、地上へと引き摺り下ろされた。
「……まったく、センスが無い。あったとしても、すべてお断りするがな!!」
ジェイドへと憎悪の視線を向けるヘーリオス。ジェイドへ放たれた音の波を、前へ立ちはだかり受け止めるクラウス。
何度飛翔しようとも、EDENはきっとそれを叩き落とすことだろう。歯軋りの音を聞きながら、二人は小さくハイタッチをする。――温室での爆発回数、だいたい五〜六回!
夜が深まるにつれ、また一段と焦げ臭くなった温室。まだ燻る火と煙の匂いに眉をひそめるアポローン・アルケー・ヘーリオスは、先の|√能力者《EDEN》から受けた傷を確認する。物理的に弓を引く動作が必要なかったのは幸いだ。未だ片足を拘束し続ける鎖を断ち切り、気を取り直すように前を向く。
「こんばんは。素敵な弓ですね」
そこへこんなふうに声をかけられてしまえば、不機嫌にもなるというものだ。
「お褒めに預かり、なんとやらだ……まったく、邪魔をするのが上手い」
穏やかな表情を浮かべる暁月・仄火(暁に燃ゆる・h08799)へと悪態を吐きながらその体を宙へと浮き上がらせるヘーリオス。
矢を弓に番え、上空で構えた。そんな彼へと仄火が声をかける。
「ゆるしは乞わずともこの温室、ひいては福岡市植物園に|謝意を示《ごめんなさい》すべきではないでしょうか」
……ごめんなさいができたら、言えたら、こんなことにはなっていないのは前提として。
「私以外のほうが、盛大に破壊してくれていたようだが?」
それはごもっともだが、作戦のひとつだった。悪の組織として裁かれるべきは間違いなくヘーリオス。だが。
「ええ、ですので全員で。無論貴方もです」
――ん? 今けっこうな人数が巻き込まれたな?
白かった仄火の吐息が、静かに消える。何故か。それはすぐ側に、『熱』が発生したからだ。目眩しとして放つ破壊の炎、だがヘーリオス、その程度では止まりはしないか! 速射された矢が空中で分たれ、扇状に広がり仄火を襲うも――勢いをつけた跳躍。矢の一本を足場に、次に今にも折れそうな焼けた木を踏み台にし、ヘーリオスへと迫る!
発動されるは|炎の手枷は外れない《スコールディング・チェイン》――弓を引くその手を狙い、炎が燃え盛る!
「――ッぐ!」
狼狽えた。隙が生まれた。己の腕諸共燃え上がる炎を叩き潰すように――上方から、|回転鋸《Specter》が迫る。
左腕の盾をもって鋸を受け止めたヘーリオス。だがその勢いと重量を防ぐには、準備が足りなかったか。
再度地上へと落とされた偽神。同じく落下してきた仄火が追撃として薙ぐように回転鋸を振り、それを咄嗟に避けるヘーリオス。
「貴様……腕一本封じるためだけに、己の苦痛をも厭わぬか」
冷や汗をかきながらも、偽神はまだ笑ってみせる。だが仄火はさほど表情を変えず。同じく燃え上がる右腕をチラリと見て。
「はい。こちらもめちゃくちゃ痛いですよ」
回答はあまりにあっさりとしていた。あまりの返答に偽神は目を見開く。
「なので|めちゃくちゃ我慢して《覚悟と気合いと根性で》武器を振るっています」
己の手の炎を払うように、ぱっぱと動かして、再度武器を握り直す。その仕草、なんとも呑気に見えて――恐ろしい冷静さだ。
「貴方もそうなさるとよろしい」
その視線は挑発か、それとも。何にしろ、ひくりとヘーリオスの眉が動く。
「は……ハハハッ!! 良い、気に入った! では、よろしい、頓死だ――いくらでも、蝗のように、撃ち放ってやろうではないか!!」
とん、と地面を蹴り、滞空するヘーリオス。弓から放たれる矢を回転鋸で叩き落としながら、「結構」と、再度距離を詰めるために動く仄火――。
●二尾の直感
温室へと辿り着いた怪盗ツインテールキャットが、その入り口で足を止めた。
……だめだ。状況を見て察する。このままでは、|あれ《・・》はすぐに仕留められる。そうなればこちらが、後方から迫るEDENらに挟み撃ちにされかねない。
気付かれぬうちに離れ、せめて、もう少し、勝ち筋のある戦法に切り替えねば――!
……その二尾の足音を、仄火は小さく聞き取っていた。
燃え尽きた怪人たち、その灰と化した体が破れた窓から吹き込んだ冬の風によって舞っていく。
これで憂いなく、対峙できるというものだ。
「さて、今回はどのような手で来るのかね」
真剣勝負と理解しているのか。赫夜・リツ(人間災厄「ルベル」・h01323)を静かに見据え、アポローン・アルケー・ヘーリオスは声をかける。
「ゆるしなどひとつも乞いはしない、ですか」
求めていないのだ、ゆるしなど。
なれば、求めぬそれを与えるのはお門違い。ヘーリオスが真に求めているものが何かを、リツは察している。
「分かりました」
構えられた血液貯蔵瓶。異形と化した腕へと注がれる活力。全力を出さねば対等に渡り合えぬ相手であると、リツは理解している。
「引くことなく戦い抜くことを選んだあなたへ敬意をこめて……」
そして、立ちはだかることを選んだヘーリオスが、そのような手段を好むであろうことを、リツは知っている。
「僕も今出せる精一杯の力をぶつけて戦います」
「――来たまえ」
背負う光背が強く輝く。放たれた頓死の矢が遍く死を齎すべく、分かたれ広がり、リツへと降り注ぐ――!
文字通りの矢の雨を傷つきながら、世界の歪みも利用して突っ切り、空中へと飛び出した彼の深紅の光が温室の暗闇に軌跡を描く。
それを避けることを、ヘーリオスは選ばなかった。
リツの拳を盾で受け、与えられた殴打を背後へ受け流すように左腕を逃がす。同時、異形の腕に、ヒビのように傷が走る。……たった一撃。だがそれだけで、みしりと音を立て歪んだヘーリオスの盾。|それ《・・》を横目にちらりと見た偽神は、楽しげに鼻で笑うとリツへと視線を戻し――。
「そら、耐えてみせたまえよ!!」
城壁砕き。振るわれる拳を前にして、炎の蝶が舞ったがそれに怯むような精神性を、ヘーリオスは持ち合わせていないらしい。炎には既に慣れたとでもいうかのように。だが、一瞬の目眩ましだとしても効果はある。強く叩きつけられた拳をなんとか受け止める異形の腕。リツが小さく苦痛に呻く。
流石に防御を固めたとしても、強力かつ直接的な打撃だ。『人間の腕』ではひとたまりもなかっただろう。どうにかヘーリオスの拳を払うように腕を振るも――繰り出される二撃目!
「ッ!!」
地面へと叩き落とされたリツへと追撃とばかりに放たれる矢。それを既のところで避けながら、彼は顔を上げた。
「ハハ……良い。確実に|腕《・》を上げているじゃあないか!」
同じ手は二度と食わない、わけではないものの、リツの狙いや戦闘の癖というものをヘーリオスも理解しているのだろう。互いに隙を与えぬように動いていく。全力をもってしても対等より少し上を行かれている。
リツが腕を振るうたび、少しずつ傷ついていく体。そうして削り取ってなお、適切なカウンターをしかけてくるヘーリオス。
「(――やっぱり)」
退かぬ覚悟と、戦法への理解。加えてヘーリオスの一撃は重く素早いものとなっている。ふわり飛び続ける緋色の蝶が振りまく炎が、燃え残っていた草葉を灼いていく。長期戦である。互いに、疲弊している。死にたくなければ逃げれば良い? そんなこと、互いに選ぶわけもなく。
双方、ここで退くつもりは一切ない。逃走などゆるすものか。
ここで、仕留める――!
己に降り注ぐ矢を異形の腕で文字通りに薙ぎ払い、叩き落とすリツ。再度の跳躍、近接。
……先の攻撃で左腕へダメージを与えた、ならば次に動くのは右腕、あるいは装備を装着していない右脚。加えて彼は右目に眼帯をしている――ならば狙うは、右半身!
「あなたという大きな壁を――打ち破ります」
リツの左腕が、瞬いた。
狙いを定めたのは腹だった。たとえ体を捻ろうとも掠り傷が生まれるよう。当然のように捻られた体。だがそこからリツは――真横に腕を、振り抜く!
「――!」
直撃と、落下。墜落。巻き上がる灰が視界を隠す。煙る隙に矢が飛んでこないかと構えていたリツだったが……灰の中から聞こえた咳に、ようやくの『手応え』を感じ取った。
中心へと、ゆっくりと近づいていけば、そこには腹を庇うように蹲るヘーリオスがいる。まだ息はあるが、当然長くはないだろう。
「どうでしたか」
自分の、全力は。口を衝いて出たのは、そんな言葉だ。確かな力を見せつけた勝者の言葉ではなく、ただ、それは、対等な。
「――見事だよ。これでは……また、怒鳴りつけられるな」
少し遅れての、冗談。わらう彼へとどめを刺すために振り上げた腕が止まることは、なかった。
――さて、温室は悲惨な状態だが、これもしばらくすれば元に戻るはずだ。静けさを取り戻した深夜の温室、それよりも……今、目を向けるべきは、コウモリプラグマとデュミナスシャドウの動向。そして、後方に迫っていたデュミナスシャドウ勢力だ。
このまま片付けば良いが――如何に。リツは温室の入口を見ながら、小さく息を吐いた。