シナリオ

ニ十尺越えの猫型獣妖は人の子が好きすぎて愛されたい!

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「……うにゃぁー」
 此処は√妖怪百鬼夜行のとある一角。古妖封印されし禁足の地の一つ。
 今しがた聞こえた鳴き声は、この地を守る警邏を務める妖怪の物である。
「人の子が、欲しいにゃ……」
 うわ言の様に呟くその様は正気にあるように見えず。よもや古妖に唆されてしまったのであろうか。
「可愛くて愛しい人の子に思いっきり抱き着いてスーハースーハーしたいにゃぁあ!!」
 否、単にストレスを抱えて仕事をしていたが為に少々おかしくなっていただけの様である。

 さて文字にして書く鳴き声は如何にも猫であるし、実際、二足で立つ見た目は猫といえば猫であろう。しかして|珠鳴 《たまなり》の名を持つ彼女の真の姿はニ十尺を超える化け猫の獣妖なのだ。
 無論、彼女も「人化けの術」を身に付けている。とある世界の獣人階梯図で言えば階梯2ぐらいまでなら何とかなる物の、その先への変化は一向に進む気配もなく。ものすごく気合を入れて、漸く数分程度であれば階梯4までなら何とかなるという有様。
 正直それくらい変化が出来れば暮らしてゆくに十分なのだが、在りし日に従来の姿で人の前に立った際、こっぴどく怖がられてしまった過去がトラウマとなり、少しでも獣の要素を減らしたい彼女にはこれでは足りず。
 そして追い打ちをかける様に力を持つ彼女は警邏の仕事に就く事になり、ますます人と関わる機会が無くなってしまったのだ。
「なんでじゃあー、なんでにゃぁー!神様、儂は悪い事したかにゃぁー!!」
 これはあまりの仕打ちではないだろうか?運命とはかくもなのだろうか?
 叫びに叫び、遂に涙を浮かべて叫ぶ声は濁りに濁って人が喋る様な物には思えなかった。
「びどがぁー、ごいじぃいぃー」
 警邏の仕事が嫌という訳では無い。むしろ、好きすぎてたまらない人を守れる仕事なのだから誇りすら持っている。
 だからといって人と関わる機会が減った事を良しとする理由にはどうしてもならない。同僚も妖怪だらけで人がいないのも悲劇の上塗りであった。
 今日は一匹で古妖の封印を守る為に寝ずの番で立つ日。
 何が起こった、という訳では無いが募り募った憤りが偶々今日爆発してしまった。
 それだけの話といえばそうである。
「……あー、世の中には猫カフェなる物があるって聞いたニャ。儂、お金を溜めて人カフェを作るニャ。選り好みの人の子を金の力で儂とスーハー匂いを嗅いで……駄目じゃ!こんなもん犯罪ニャァ!!」
 だからほんのり犯罪臭真っ盛りな妄想を奏でていても問題はないのである。
『ほう……人が好きか?』
 しかし、その声だけには耳を貸してはいけなかった。
「好きにゃ!!なんか悪いか!!」
『いや別に?そんなに人が好きなら沢山会わせてやっても良いぞ?』
 それは明らかに危険な呼び声。古妖の誘いに他ならない。
 しかして彼女も優秀な正義感の有る警邏である。この程度の策に溺れる程。
「マジでか!!会わせてほしいニャァア!!!」
 駄目だ、即答だった。
 こうして契約は成立し封印は解かれ、√妖怪百鬼夜行の世界に呪いが振りまかれたのでしたとさ。

「まあ、うん。好きな物にずっと関われないって大変だからね。わかるよ」
 自身も体が弱く吸血鬼となるまでは病室の外に殆ど出る事が出来なかったシーネ・クガハラ(魑魅魍魎自在の夢幻泡影・h01340)にとっても、思う所があったのであろう。
 集まった人々の前で理解を示し首を縦に振る少女は、それでも。と告げる。
「封印を解いちゃった事は事実だからねー。こればっかりはどうにかしないとね?」
 さて現状ではあるが。封印が施されていた一帯は呪いを帯びて、その中にいた妖怪は力を奪われ、人の姿になってしまっているのだという。
「願いの内容が内容だからね。確かに沢山の人に会いたいって言う願いは叶ってるよねー。それに珠鳴さんも呪いの影響で人になってるから、やっちまったと後悔しながらも怖がられない姿が嬉しくて結構楽しくしてるみたいよ。でもこのままだと、どんどん被害が広まるから、先ずは呪いをどうにかしてねー?」
 そして呪いを解いた先だが、どうにも珠鳴の扱いによって先が変わるのではないか?との話である。
「多分だけど珠鳴さんと関わろうとするか、そうでないかで未来が変わりそうな予感なんだよー。もし関わるのだったら珠鳴さんの心をケアしてあげると良いんじゃないかな?そうすれば道が開けそうなんだよ。あ、どちらにしろ最後は此処に封印されていた古妖さんと対峙するからそこの準備だけはしておいてね?」
 そこまで言い終えたシーネは、笑顔を作ると手を振って戦いに赴く人々を見送るのであった。
「頑張ってね皆。死なないからって簡単に死んだら駄目だからね?」

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第1章 冒険 『古妖の呪い』


 異変を覚えて駆け付けた警邏の妖怪。
 騒ぎを聞きつけなんやなんやと駆け付けた野次馬妖怪。
 その他もろもろの此処に集まった妖怪全てが、力を失い人の姿となっていく。
 一夜にして呪われた地となった場所が、そこにはあった。
「……やっちゃったニャ」
 その中で愛くるしい人の姿となっている一人の元妖怪がいた。
 名を| 珠鳴《たまなり》と言い、端的に言えばこの現象を引き起こしてしまった元凶である。
「もう駄目ニャ、お終いにゃ」
 此処に来て漸く自分がやってしまった事を自覚した彼女は、全てが終わってしまったと感じていた。
 どれだけ苦境にあっても守りに守った警邏としての誇り。それを支えていた忌々しくも人並外れた力。そして、この世界の行く末。
「長く生きてきたが、後悔先に立たずとは本当によく言った物ニャね……」
 だからこそ。こうなったからこそ、もうどうでもいいとばかりに。
 投げやりなままに人となった姿で、残り僅かな時間を後悔の鎖の付いた心で楽しむことにしたのだ。

 そんな彼女を探し出せば古妖に付いて何か分かるかもしれない。
 或いは力を蓄える前に古妖を探し出すのもいいだろう。
 どう動こうと先に進む事さえできれば、巨大な力を持つ敵に近づくのだから。
ミユファレナ・ロッシュアルム
ヴィルヴェ・レメゲトン

 √妖怪百鬼夜行のとある一角。封印が解けて真新しいそこは、奇々怪々な増築を繰り返した古い木造の建物が、歴史の影に隠れてひっそりと立っていた。
 そこから滾々と人化の呪いは波となって音を立てる事無く広がり、飲まれた妖怪達は悉く力を失い人と成り果てている。
 一刻も早く止めなければ、この世界の存続すら危ういだろう。

「人になる呪い、ですか。私が呪いに浸り続ければ、翼が消えて瞳の結晶化も鎮まる……ということもあるのかしら」
 その様な地に降り立ったミユファレナ・ロッシュアルム(ロッシュアルムの赤晶姫・h00346)は辺りの惨状を目にしながらも、ふと思う。
 煌めく宝石の如く光を放つ瞳。赤子のほっぺの如く柔らかな翼は、彼女がセレスティアルである証。
 人の姿となれば違う未来があったのだろうか?等と言う『もしも』を首を横に振って振り払う。
「考えていても仕方ないですね。力を失っては今為すべき事も為せなくなります」
「そうじゃな!しかしながら情けないのじゃ」
 同じくセレスティアルであるヴィルヴェ・レメゲトン(万魔を喚ぶ者・h01224)も、ミユファレナと同じ光景を見ながら、頭に浮かぶのはこの現状を引き起こした獣妖の存在である。
「人が好きなのは良いとして、古妖と絡まず、もっと合法的な手段でどうにかしてほしいものじゃな」
 その言葉は最もだ。
 しかしながら、そう言った心の隙間を付くのが彼等のやり方でもある。
 そもそも封印という物は解決の先送りに他ならない。いつかは破れるものだったかもしれないし、破られないかもしれない。
 それがたまたま今日で、引き金が彼の獣妖だと考える方が自然なのかもしれない。

「さて、変な古妖の呪いが広まっておるようじゃが……」
 そして無論。こうなった以上、誰がどうこうという前に、事態の解決を急ぐ方が先なのは明白。
 今も溢れ出る呪いは徐々に広がりを見せているのだ。
「呪いの拡大を防ぐには再封印、それが叶わないな封印された地ごと吹き飛ばす……」
 おっと、何やらミユファレナから物騒な言葉が出てきたぞ?
「やめとけ。それで解決する見込みもないし、最悪手に負えん事にもなりかねんのじゃ」
「ですよね……流石に手法が乱暴でした」
 よかった。改めて事態を穏便に解決する方向に向かったようで。
「では、私が今は被害の拡大を防いでおきます」
 再封印するには呪いの解析が必要。それには時間を掛けて手段を研究するしかない。
 今必要なのは呪いの被害を少しでも抑える事だと、両手を組み膝をついてミユファレナは祈りを捧げた。
(我、守護者として法を保たんがため、この地に砦よ在れ)
 瞬間、天より光が舞い降りる。
 否、この様の物とは思えぬ輝かしい砦が大地を揺らすことなく降り立ったのだ。
 此れこそミユファレナの√能力。
 天上界の聖なる地に構築された難攻不落の戦砦にて、あらゆる災厄をはねのけた不屈の要塞。
 それを幻想の物とは言え、この地に顕現させたのだ。
「なんだ、あれは……」
「皆さん、先ずはこの砦の中へ。ここなら呪いの影響を最小限に抑えられます!」
 突然現れた砦に何事かと妖怪達の間で動揺が走る。
 それでも彼等はミユファレナの言葉を信じた。天上界に嘗てそびえたという清浄なる砦の威容は、彼女の言葉を信じさせるに充分過ぎる物だ。
「なーる程。これで呪いは暫く防げるみたいじゃな!」
 ならば、やるべき方向性は決まった、と。
 『Lesser Key』――先端が鍵の形をした魔を司る杖を手に取る。
「呪いの対抗手段なぞ悪魔に聞けば一発じゃな!!」
 ヴィルヴェの魔力に惹かれ、地に描かきたるは赤き六芒星。
 招集、変換、顕現。
 即ちこの世有らざるモノに続く導、代償を払いて望みを叶える者達を呼び寄せる、理の外への道。
 餅は餅屋。呪いと言えば、昏きに潜む者達に聞くのが一番である。
「出でよ『72柱の悪魔』!この呪いへの対抗手段を教えるのじゃ!」
 声に応え、陣より現れし異形の姿。
 従順さを示す様に恭しく頭を下げる彼の真名を臆することなくヴィルヴェは口にする。
「……ふむ。お前は『オリアス』か?」
「如何にも。契約に従い望みを叶えましょう」
 そう口では言う物の、周りの惨状に我関せずと緩やかに歩き、ヴィルヴェの横に跪くと耳元へ口を寄せる。
「毒を以て毒を制すと申します。人を妖に変ずる呪いであれば」
「成程の。それで対象を変身させられるお前が出てきたのじゃな。よし、その術を教えるのじゃ」
 仰せのままに。と、更に囁く言葉にヴィルヴェは顔を顰める。
「えーっと、なかなかめんどくさい術じゃな……本当にそれしかないのか?」
「契約に対して嘘を付くことなどありませぬよ」
 そうは言う物の悪魔の顔は何処かにやけているように見えるのは気のせいであろうか?
 もしかすればもっと良い方法があったのかもしれないが、その術を知る方法はなく。
「ええい、解った!此処をこうして、こうして……これでどうじゃ!」
 魔力の操作、力ある言葉の掛け合い、手順一つ一つの煩雑さ。
 それらを乗り越え、漸く一人に対なる呪いを掛ければ、確かに人ならざる妖怪へと変じてゆくではないか。
「お見事に御座います」
「世辞などよいわ……上手くは行ったが、疲れそうじゃの」
 ヴィルヴェの言う通り、被害に遭った人数を考えれば余りにも小さな一歩ではある。
 しかしながら、事態解決の橋頭堡が出来上がった事に間違いはなく。
 対なる手段を用いた二人のセレスティアルによって、妖怪たちの間に希望の光が見えてきた瞬間であった。

玖老勢・冬瑪

 突然何が起こったのかわからぬという風に、元妖怪の人々が下を見ている。
 何が起こったかは分らぬが、異様な事が起こっているのは理解できて。
 何より姿と力を失い、何も出来ぬと下を向く。
 諦観と絶望が渦巻くこの地にて。
 しゃりん、と鳴り響く鈴の音に辺り一帯の人の目が、一つの場所を指し示す。
 作務衣の体は屈強であり、編笠より零れ落ちる貌は幼さ残る男の面。
 古来の浮世絵に描かれる通り、猫に踊りは付き物という。なればこそ祝の舞をご覧じろ。
『おとこみこ』玖老勢・冬瑪(榊鬼・h00101)が此処に在り。全霊を持って呪いを払う舞いの美しさに一点の曇りなし。

(大丈夫。まだ、何も終わっとらんよ)
 様々な思惑は有れど。事態を解決しようと、大勢の人が此処に来ている。
 だから大丈夫だと、きっと解決できると。未だ見えない彼女を想って舞い踊る。
 周りに見えるは無数の人の数。何処に彼女がいるのか未だに知れず。
 だからこそ、交わしたく思う言の葉は落ち葉が如く積もりに積もる。
(それに一緒に踊ってもみたいな。よかったら1曲と言わず、2曲、3曲。一緒にどうかな?なんて)
 人恋しさに耐えながら、役目を果たしてきた猫の一夜の過ち。そんな形で全てが終わる等、耐え難いと。
 何より此処まで頑張ってきたのだ。少しばかり労をねぎらっても良いではないかと一人想う。
『俺も生物部の部長だからね。……もふもふしてる珠鳴さんも、見てみたいな。ふふ』
 この世の安泰に、最早古き物の居場所は無いと冬瑪は、自らに降りた『鬼』に奉る。
「神々の 御渡る道に あやをはり 錦をしきて 御座としようじる……!」
 やがて薄紅色の靄が冬瑪より溢れ、呪いの波を押し流す。
 靄に触れた妖の中に満ちた呪いも解け、元の姿が垣間見える。その中に目的の姿は未だないが、それでもいい。
 続けていれば、きっといつか出会える筈だ。

 いざ咲けや『|善鬼神降臨・花祭 《フユノハナ》』
 退けや悪鬼厄災の呪詛よ。
 今世は未だ春遠くとも、だからこそ咲く奇跡の花があるのだ。

カデンツァ・ペルッツィ

「これ、俺も「呪い」とやらにかかれば、階梯5も余裕だったりするのか……?」
 目の前に広がる光景を前にカデンツァ・ペルッツィ(星を見る猫・h01812)が独り言ちる。
 瞳に映る人の群れは元妖怪だという。ならば呪いを受け続ければ階梯5――即ち、人の姿になれるのでは?
「おい、アンタ……」
 そんな考えを断ち切ったのは、人の姿に成り果てた元妖怪の一匹。
「速く逃げな……俺もアンタみたいな妖怪だったが、今じゃこの様だ」
 思わず、ムッとなって言い返しそうになる。
 自分は√ドラゴンファンタジーの出身であり猫獣人。妖怪とは違うのだと。
(でもまあ、仕方ないか?)
 小さな猫が二本の脚で歩くこんな成り。間違われても仕方がないか、と首を横に振る。
 そもそも、この呪いは力を奪う物でもあった筈。もし√能力を奪われたりすれば一体何が起こるのか想像もつかない。
「心配すんなよ。俺はアンタらを助けに来たんだぜ?ちゃぁんとな」

 じわりじわりと押し寄せる呪いへ、一歩も引かぬと前に立ち、魔導書を開いたカデンツァの口から詠唱が漏れる。
 魔導書は詠唱を取り込む等に光を帯びると、人魂の様に浮かぶ炎を吐き出した。
 【ウィザード・フレイム】――カデンツァの持つ√能力の炎が時間が経つごとに幾つも魔導書から生まれ、炎は呪いを弾き返し、押し返してゆく。
 やがてあふれ出す呪いの発生源であろう場所の一つにたどり着くと、呪いで隠されていた景色が見える様になった。
 元は要石で蓋をして、その上に建物でも築いたのであろうか。倒れた要石の上には材木が重なり、巻いてある注連縄は黒ずみ邪気を張らんでいる。
(とりあえず簡易封印だな)
 反射の力を纏っていた炎が、今度は物品を直す力を帯びる。
 巨大な石に炎がぶつかれば、災い清め祓うが如く黒ずみを燃やし尽くし元の姿へと戻り。
 ダルマが如く起き上がると、呪いが湧き出ている穴の上を塞ぎ呪いの排出を止めたのであった。

「別に悪気があってやらかした訳じゃないんだろうなぁ」
 一息付いたカデンツァの頭に浮かぶのは、この一件の発端である獣妖の事。
 なんといってもカデンツァにも似たような経験がある。とは言っても人が恋しい訳でもなく、寧ろ珠鳴の言う人側での経験ではあるが。
 つまる所。
(何っつうかなあ……例えば人間だって俺ら猫獣人相手に「吸わせてもらうことで助かる命がある」とか真顔で言うし)
 そんな人間達に自身も愛想を振りまいた事もある。そうすれば彼等は心の底から「助かった!」「これで後10年は戦える」「ダンジョン制覇確定だコラァ!!」等と言い始める事もある始末である。
 だから人が恋していいではないか。
 怖がられたのは気の毒だが、それでも人の為に頑張って来たではないか。
 その事は間違いではないのだ。と、そう言ってやりたいのだ。

「アンタ、一体……」
 そんな物思いに耽っていた彼を、未だ人の一人が呼びかける。
「なぁに、大したもんじゃないさ」
 本当に大したことではない。人思いのネコチャンを助けに来ただけの。
「ただのお人好しなネコチャンだよ」

織狩・莉都

 ――おやおや、おや。此れは此れは。
 では一つ、お話をして上げよう。
 キミ達。こういう噺を知っているかね?
 真実の鏡を覗き込んだ、蛙に変えられた王子の噺だ。
 今のキミ達は宛らその王子といった所か。
 そら、鏡を、水面を覗き込んで自分を思い出し給え。
 一度思い出せば、次からは己を忘れる事等ないだろうさ。

 まるでおとぎ話の様な話を聞かされた。と、人の姿に変えられたとある獣妖は思った。
 そんな事で治る訳がないだろう、と。
 それでもである。その話には、どうしようもない位の真実味というであろうか?
 説得力とも言ってもいい。そういう物を何故か持っていたのも事実であった。
 それに、まるで用意されていたかの様に水たまりが見えるのだ。
 だから、つい、覗いてしまって。
 ――底に居たのは、紛れもなく獣の姿をした自分の姿で、つい手を伸ばしてしまったんだ。

 それは七世を超えた七つ尾の実父から嘗て聞かされた話の一つであり。
 うたかたを現に変える織狩・莉都(ひとつ尾の猫又擬き・h01332)の√能力『|ある日ある時ある時代 《イツカドコカノヨノハナシ》』
 父から聞かされた、嘘か真か分らぬ話は、莉都の手に罹ればこの通り。
 言葉は現実に取り込まれ、言葉のままに世界は変わってゆく。
 だから呪いに侵された獣妖達は、次々と莉都の言葉に飲まれて元の姿を取り戻しており、何れ全ての獣妖が元の姿を取り戻すであろう。
「さて、と」
 そうして言葉を売りながら、目的の獣妖は何処かと莉都は練り歩く。

(成程。此れまで立派な躰と、人の子を愛おしむその心でこの地を守って来た彼女は、数多の人の子を掬っているのだろう)
 今はまだ彼女の体を受け止められる人の子は少ないかもしれない。
 それでも、いつか必ず。時が、人が、世界が巡るその先の『何時か』で、キミの全てを受け止めてくれる人の子も現れる。
 キミが今しているのは、その為の『種蒔き』だ。だからそう恐れる事はない。
 有りの儘のキミが、人の子を愛おしみ続ける限り。何時か必ず、キミも愛される日が来るのだ。

 この様に、此処に居ないモノへと向けて、莉都は心で語る。
 何故ならば知っているからだ。物好きな人間というのは何処の世でも必ずいる物なのだと。
 例えばそう。余りの猫狂いが故に、相手が猫又だと知っても構わず嫁いで、子供まで産んだ人間であるとか。
 そういった類の物を莉都は知っている。
 だから話をしたいのだ。ゆるりと尾を揺らし、暫し日向ぼっこと洒落こんで。
 ゆるりと話をしたい。今日はそんな気分だから。
「見つけた」
 カンカン帽から突き抜けた、対の猫耳がピクリと揺れる。きっとアレに違いない。
 なんともまあ、大きな姿をしながらも、随分落ち込んでいる様。いや、この世の終わりみたいな顔をしているが気にしないでおこう。

 何せやらかした事が事である。話をする気分じゃないかもしれない。
 だが、そんな事は関係ない。猫とは気紛れなものだ。そうだろう?
「やぁ、キミ。そう落ち込まず、一寸我輩と話をしてくれ給え」
 ――さてさて。キミは、私に何を聞かせてくれるのかな?

第2章 冒険 『彼、彼女は何故封印を解いてしまったのか』


「……やっちゃったニャ」
 まるで先程と同じ様な事を言うこの事件を起こした元凶である|珠鳴 《たまなり》は、今度こそ終わりだと元に戻った涅色の毛並みでふかふかな体を大の字にして天を仰いだ。

 先程まで、人の姿をした、自分と同じ様に人が好きな元獣妖達と投げやり気味に人の体をお互いに堪能していたのだが、√能力者達の力によって、事態は収束し珠鳴達は元の姿に戻る事が出来た。
 ――つまる所、人の姿でイチャコラしていた者達も、元の姿に戻った訳で。彼等は人の姿を堪能していたと思っていたが、見知らぬ同族と楽しんでいた事を嫌でも思い知らされた訳で。
「もう終わりニャ……こんなの生んでくれたおっとうにもおっかあにも申し訳が立たんニャぁぁぁ!!」
 先程までの彼女は自分がやらかした事の重大さに絶望し、今は自分がやるべき事をやらずに行っていた事に絶望していたという訳である。

 如何にも項垂れて、この世の終わりだと嘆く彼女の姿を√能力者が見れば、微かに古妖の気配が感じ取れる。
 どういう訳か絶望に嘆く彼女に合わせて強く色濃く気配を残している様にも見えるそれは、つまり彼女の絶望を払えば何か古妖の力を削ぐ事が出来る様に見えなくもない。
 何より、彼女をこのままにしておくと、何をした物か分った物ではないと、情報を集めるついでに、彼女の心を癒して古妖の力を削ぐ為、√能力者達は珠鳴に近づいたのであった。
玖老勢・冬瑪

「会えて嬉しいよ、珠鳴さん!凹んだ時こそ、一緒に踊って忘れようじゃんね!」
「にゃ、にゃニャ!?」
 寝耳に水とばかりに、大の字になっていた珠鳴の大きな耳がビクリ!と上に立つ。
 一体何事か?と顔を上げれば、此方に笑顔を向けて立っている玖老勢・冬瑪(榊鬼・h00101)の姿が一人居る。
(に、人間ニャ!?人の子にゃ!?何で儂に声を掛けてるニャ!?)
 絶望という名の暗闇の淵に立たされていた所に、突然舞い込んできた僥倖とでも言うべきか。
 長年の夢と希望で色褪せた| 存在《モノ》が目の前に現れ、突然一緒に踊ろうと誘ってきたのである。
「む、無理にゃぁ……人と踊った事なんて一度も無いし、怪我させるニャ!絶対そうニャ!!」
 そもそも今の状況が信じられない。これは夢なのではないか?そうでなくても、何か裏があると思ってしまうのは仕方のない事だろう。
「そっかぁ。じゃあ先ずは一人で踊ってるよ!」
 それなら仕方ないと。冬瑪の足がリズムを刻む。
 首輪に付くような鈴が並ぶ神楽鈴がしゃりん。と音を鳴らしたかと思えば、そこに居るのは手慣れた仕草で舞う『おとこみこ』の姿。
(こっちは一昼夜だって舞う祭りだからね。根気勝負なら負けないよ)
 神事奉納に舞いは付き物。我慢比べには慣れている。
 それに、これは伝えに聞く天岩戸に似たような物では?と、冬瑪はふと思う。
 心の奥底に隠れて陰りを見せるは大きな猫妖怪の、お天道様みたいな真ん丸笑顔。
 ならば踊りに踊れ。踊らニャ損。嫌な事など楽しく騒げば何処かに落っことすという物だ。
「ニャ……にゃ」
 真摯で陽気な拍子に釣られて、ほんの少しずつ、心の扉がずれる音がする。
 しゃりんと一鳴り鈴の音響き、トンッと地面に足が付く度に。
 大きな尻尾が振り子の様に。規則正しく左右に動く様は可愛らしい物だ。 
「じゃあ、その。ま、先ずは軽く手を取っても、良いかニャ?」
「勿論喜んで!」と、まずお手を拝借。
 恐々と出した手はふわふわで、肉球はプニッとクッションみたいに柔らかく触り心地も抜群である。
 ずっと触っていたいが、先ずは我慢。だって尻尾が踊りたそうにしているのだから。
「ほら、一緒に踊ろうじゃんね!」
 もう一度。最初に言った事を笑顔でもう一度向ければ。
 今度は怖がられる事も無く、恐れられる事も無く。
「……う、ウニャ!!」
 笑顔のお天道様が漸く咲いた。纏わりつく邪気もほんのりと晴れる気配がある。

 誰にだって墓場まで持っていきたいモノ等、一つや二つあるという物。
 だからこそ、笑って、踊って、忘れてしまえば良いのである。

カデンツァ・ペルッツィ

「あのな?一度怖がられたのは気の毒だけどよ、それでも頑張ってきたんだろ?」
 それは見る人が見れば奇妙な光景に映るかもしれない。大の字で不貞腐れている巨大な猫の様な妖怪を小さな二本足で歩く猫が慰めていたのだ。
「いいか?まだなーんも終わっちゃいねえ。お前が捨て鉢になったままだとマジでこの世の終わりなんだが、ここで立ち直ってくれれば救われる命が山程あるんだ」
「それは、そうかもしれんけどにゃぁ……」
 小さな体の両手両足を目一杯広げ、体全体で身振り手振りしながら心を込めて話をするカデンツァ・ペルッツィ(星を見る猫・h01812)の言葉を無碍にしない辺り、珠鳴という人物が「いいヤツ」である事は、カデンツァ自身が良く感じ取っている。
(こんな場面で親御さんに申し訳ねえって言えるヤツに悪いヤツぁいねえよ)
 そうは思うのだが、どうにも説得に思い切りの様な物がない。
 一言で言うと、気まずいのだ。

 何故ならカデンツァは、人の猫との関係において勝ち組である。
 この巨大な猫の妖怪が必死に人に振り向かれる様に努力している間、人に好かれると言う一点において、殆ど労する事無く人からの称賛や寵愛を受けてきたのがカデンツァの実情なのだ。

(大丈夫だよな?バレたら「お前は可愛いネコチャンだからいいよな!」とか逆ギレされそうでおっかねえよ……)
「大体にゃ……儂みたいにおっきな姿じゃあ、人なんて寄ってこないニャ!」
 そんなカデンツァの気持ちを知ってか知らずか。
 自棄気味に放つ珠鳴の言葉に、嫌な予感を覚えるカデンツァ。
「おみゃあさんぐらいに小さくて、可愛らしいなら寄って来るかもしれんけどにゃぁ……」
「あー、その。ちょっとそれは」
 ついに来てしまった。と、心の中で頭を抱える。下手に答え方を間違えれば、珠鳴の信頼を失い古妖の力を増してしまうかもしれない状況に。
「……まあ、少しだけなら」
 覚悟を決めて、過少評価しながらも、嘘は言わない事にした。
「やっぱりニャ!こんなに大きな体じゃ駄目なんだニャア!!」
「いやいや!落ち着けって!さっきも言ったけど、一度怖がられても頑張って来たんだろ?その為に苦手な『人化けの術』も練習したんだろ?一度見せてくれよ。何か、アドバイスできるかもだぜ?」
 途端に。泣いた赤子が何かに興味を持った様にピタリと泣き止む珠鳴。
 確かに自分よりも人に好かれている同じ猫の種族(の様に見える)存在が目の前にいるのである。そう言った存在が、自分が会得した人に好かれる手段を見てくれるというのだ。
「じゃあ、ちょっとだけにゃ……」
 駄目で元々と珠鳴の手が印を組めば、彼女の体は徐々に、ドンドン縮んてゆく。
 やがてそこに居たのはカデンツァの世界でよく見た姿。
 階梯2と呼ばれる様な獣の手足をした、涅色の毛並みに良く似合う、この世界特融の落ち着いた黒色の生地に、和のオリエンタルな紋様が入った着物を来た獣人の様な姿の珠鳴が、そこに居た。
「お、おう?……これは」
 正直に言って十分ではないか?と。なんなら同じ獣人として考えても、綺麗な人という部類に入るのでは?と、思うカデンツァに。
「……やっぱり駄目ニャよね」
 言葉が詰まった事を、落胆として捉えた珠鳴が目を伏せる。
「いや、十分に行けるだろコレ」
「にゅあ?」
「大丈夫だって。此れなら人前に十分出ても付き合ってくれる人間はいるって。何なら人から吸われるぞ」
「う、うえぇ!?」
 思わず出てきた小さな猫の本音に、狼狽える大きな猫。
 この後、足りないのは自信だけだと言うカデンツァの言葉に、そんな事は無い。と、珠鳴は何度も首を横に振る事になるのであった。

ミユファレナ・ロッシュアルム

「そうですか……残酷な話でしたね」
「うにゃ……だから儂は必死に頑張ったのに、どうしてこんな事をしてしまったのかニャ」
 夜遅くに解けた封印から始まった騒動から時間が経ち、空は明るみを帯び始めている。
 冬の夜空の寒さは体を凍えさせるが、地面に横たわりぼうっと空を見上げている珠鳴の全身を覆う猫の毛皮は寒さから身を守り。
 その横に座るミユファレナ・ロッシュアルム(ロッシュアルムの赤晶姫・h00346)も『竜漿杖エアレイド』より生まれた炎で寒さから身を守り、座って彼女の話を聞き頷いていた。
(……確か、ヒトナーなる趣味嗜好に分類されるのでしょうか、この場合)
 人の趣味趣向の中には獣を愛するケモナーと呼ばれる物がある。
 っと言う事はである。人を愛する妖怪である彼女の場合はヒトナーという事になるのだろうか。
 等と考えても珠鳴を元気付ける事は出来ないだろうと、今浮かんだ考えを頭の片隅に追いやったミユファレナは。
「私、近々ダンジョン探索の配信をするチャンネルを開設してみようかな?なんて考えているんです」
 突然、突拍子もない事を言い出した。
「……ダンジョン配信?ゲームでもするのかニャ?」
 √妖怪百鬼夜行には馴染みのない言葉に首を傾げる珠鳴。だが配信という物には心当たりがある。
 最近の人間達は電子機器等を用いて、テレビゲーム等の遊戯の遊んでいる姿を動画で放送している事も思い出し、ダンジョンなる物も人が生み出した娯楽の何かであろうと勘違いをしているのだが、それは置いておくとして。
「コミュニティが広がれば、自分の世界を広げてみようかと思いまして。先ずはネットワークの世界に同好の士を求めて見ようかと」
「そうかぁ……おみゃーさん、頑張っているニャア」
「それ程でもないですよ?……ちょっと話が脱線しました。何が言いたいかというと、珠鳴さんもコミュニティを広げてみるのはどうでしょうか?」
 実際、そういう事なのだ。
 彼女の挫折はたった一度であり、その挫折を乗り越える為の努力はしてきたはずなのだ。
 だが、そのたった一度が。人に嫌われた経験のある珠鳴からすれば、新しく人と関わるというのが難しい。怖いのだ。
 それでもである。
「ヒトの魅力を語る場を作って、見てもらう。少しずつ、考えに共感してもらえる人を増やす。すぐに効果の出る話ではありませんけれど」
 何かを……自分を諦めさせる為の言葉を言おうとする珠鳴を遮り、ミユファレナは言葉を紡いでゆく。
「何もしないよりは、ずっと楽しい明日になりますよ」
 正論とは人を傷つけるものだが、だからこそ光り輝いてもいるのだと言う様に。
「それに、あなたがヒト種の外見を好むようにヒト種のなかにもケモノ種の外見を好む趣向の人が必ず存在しますよ!」
 自分が思うが儘に、感じた儘に。ミユファレナは思いの丈を珠鳴へとぶつけてゆく。
「……眩しいニャァ」
 だからこそ、思い出してしまった。なぜ自分が人が好きになってしまったのか。
 そこらの人好きの妖怪と変わらない。短い命を燃やして、自分が正しいと思った物に突き進む人がいる。
 その光が。光り輝く人の姿が長い時を生きる妖怪達からすれば余りにも眩しい物で。
 そんな人の姿を思うと、心が温かくなり、何か悪い物が抜けていくような感覚を覚える程に。
 その姿を、ただ隣で見ていたいだけだったのだと。
「儂、こんなにも臆病だったのだニャ……」
 思わず涙が出て止まらない程に、思い出したのだ。

織狩・莉都

 空が白み始める夜明け前。寒さも厳しく、闇夜も明るさがあるからこそ、濃く残る明け六つ前。
 その空を、まるで暮れ六つの黄昏時の様に、ぼうっと大の字になって空を見上げる妖怪が一人いた。
 名を珠鳴という獣妖に、何か目的があって横になっている訳では無い。
 ただ空を見たくなって、空を見ていただけである。
「……人は、良いニャァ」
 何を考えている訳でもなく心のままを言葉にするのが、こんなに気持ちの良い物だとは思わなかったという驚きも、直ぐにまどろむような心地よさの中に消えてしまう。
 一体どうして、こんな事になっているのだろうか?と、ふと思う。
 古妖の封印を解いてしまった自分に、何故だか色んな者達が関わってきて、こんなダメダメな自分を喜ばせようとして、励まそうとして、慰撫してくれた。
 それに彼等は古妖の再封印まで試みようとしているという。いわば、自分の尻ぬぐいをして、この世界を救おうともしてくれているのだ。
「本当に此処までしてもらって良いのかニャ」
 そうは言うが、きっと自分が出来る事は無いだろう。だから此処で彼等の無事を待つのが正しいのだ。

 そんな事を思う彼女の背中と地面の間から、邪な気配が僅かに洩れる。
 彼女自身は気が付いていないし、これだけが目的で√能力者達が珠鳴に関わった訳では無いが、此れこそが古妖と珠鳴の繋がりであり、彼女が抱く負の感情を喰らい古妖の力を増す一種の呪いの様な物。
 だがそれも√能力者達のお陰で、放っておいても消えてしまいそうな程に弱く小さな物になっていて。だというのに残滓は親に駄菓子をねだる稚児が如く、珠鳴の体から離れようとしない。
「おやおや、おや。先約が居たからと後に回ったら、こんな時間になってしまったね」
 その様を見ていたかどうかは分らぬが。
 此方に向かって歩いてくる音と物珍しい物を見つけたかの様な声に、寝そべる珠鳴の耳がピンと立つ。
「おミャーさんは……」
「ああ、良いよ良いよ。大の字になってい給え。その代わり我輩も隣で横にならせてもらうよ」
 無遠慮に、そうあるのが自然であるように。織狩・莉都(ひとつ尾の猫又擬き・h01332)という妖猫の半人半妖は「ほら、同じ猫同士。分かる事もあるやもしれん」と言うなり珠鳴の横に寝そべると、彼女と同じ大の字になって空を見上げる。
 この様なぶしつけな対応は、人次第では思う所があったかもしれないが、珠鳴は気にしない。
 何せ今日だけで不可思議な事は数えきれないほど起きた。だから、これもその続きで、横に同じ様に寝そべる、同じ様な匂いのする半人半妖も、今まで自分に関わってきた者達と同じなのだろうと解釈する事にした。
「おせっかいだとは思うが、我輩からしてみれば、キミくらい立派なら舐められる事等なくて良いと思うのだがね?あれだな。お互い『無いもの強請り』というヤツか」
「というと、おミャーさんも見た目で苦労した口かニャ?」
「そんな所さ。とはいえ、この世の人の子は変わり者も多い。妖を恐れる子もいるが、無条件に好く者もいる」
 何せ合いの子の我輩が此処に居るのだからね?と、片方の目でウィンクしながら語る莉都に。
「だろうニャア。世界は少しずつ、変わっていく物ニャ」
「そうとも。何なら吾輩の母親を紹介するぞ。七つ尾の猫又の番になる程の猫狂いだ。恐らく……いや、確実に。それはそれは良い笑顔でキミを撫でまわす事だろうよ」
「儂をかニャ?それは、筋金入りだニャ」
 珠鳴も答え、他愛無い会話が続いて行く。
 そうやって言葉を重ねる度に、心を開いて言葉の光が差し込む度に。闇に潜む珠鳴に憑いた古妖の残滓が居場所を失ってゆく。
「長くなったが、つまりはね。始まりは少しずつ、自分を認めてくれる人と交流を重ね給え。そうやって縁を繋いでいけば、いずれキミの周りにはそういう人の子が増えていくさ」
「……そうだニャア」
「そうとも。志は大きく。だが歩みは一歩ずつ確実に。キミはまだ道の途中というだけだと、我輩は思うのだよ」
 此処まで莉都が珠鳴に気を掛けるのは勿論、古妖の陰謀を阻止する為でもある。
 だが何よりである。言葉や文字は知恵より生まれし物で、知恵持つのが人や妖であるのならば。
 莉都は誰かと話すのが好きなのだ。
「一先ずはそうだね。我輩と友になってみようか。もれなく猫狂いの人の子がついてくるぞ?」
 何より同じ猫の妖同士である。悪い様にはしたくないと。
 そうも思っている。
「……じゃあ、その。これからよろしく頼むニャ」
 一瞬の逡巡を見せるが、同じ猫の妖怪繋がりならば。と、首を縦に振る珠鳴。
 それが止めとばかりに、彼女に憑いていた古妖の気配は消え失せて。
 後に残ったのは、二人の猫妖怪繋がりの友が二人だけ。
「……人は、良いニャァ」
「妖怪というのも、悪くないと思うのだけどね」
 気が付けば夜の帳よりも長々と言葉を重ね、語り合えば。空は次第に明るみを帯びてゆく。
 ゆっくりと登る朝日は、二人の姿を。そしてこの場にいる大勢の姿を。何よりこの世界に住む全ての人々を照らしだして。
 いつもの朝と同じ様に、明けない夜はないのだと語っていた。

第3章 ボス戦 『星詠みの悪妖『椿太夫』』


「あらあら。酷い事しなさる。わっちの楽しみを潰してしまわれるなんて」
 朝日が照らしだす封印場所の直ぐ近く。眼下に封印が解けて、てんやわんやしている人や妖怪達を一望出来る小高い丘の頂上にて。
「ほんに√能力者とは酔狂やね。まあ、わかりんす。死なずの体なんて持て余すのが常という物」
 この場所で身を隠しながら騒動の一部始終を楽しみ、力を取り戻す算段であったのだろう。
 だが自らの戯れを邪魔が入りそれが叶わぬと知るや、何処に逃げる訳でもなく。
 この騒動の元凶たる古妖怪は、大きな岩を椅子代わりに、煙管を吹かして√能力者達を待っていた。
「お前様方の事は、お星様がよーく教えてくれましたわ」
 今は朝日に照らされ見えずとも。星を見る者は片方だけに有らず。
 太陽が等しく善悪問わずそこに住む者を照らすのであれば、星もまた導を求めるものに区別なく。
 星読み。未来を読む力を持つ敵は| 暇を潰す為だけ《・・・・・・・》に己が酔狂に身を任せたのだ。
「ようござんす。それならそれで、お前様方で遊ぶとしましょうか」
 此処に集まった√能力者達、そして件の古妖共に√能力者であれば。
 死なないモノ同士の戦いに何の意味が有ろうか?
 否。意味はあるのだ。例え一時の勝利であろうと、仮初の平和であろうと。此処で負ければ、この世界の未来は無い。
 この世がある限り明けない夜は無いのが理なれど。世界が滅びれば朝を見る者は居ない。
 だからこそ彼等の名を『簒奪者』という。
「それでは。死なぬ者同士、血にでも酔いながら仲良くやりあいましょうや」
 そして古の悪妖『椿太夫』は残忍な笑みを浮かべると√能力者達の方へ向き直るのであった。
ヴィルヴェ・レメゲトン
玖老勢・冬瑪
カデンツァ・ペルッツィ

「せっかくのお空の下やもの。願いをかなえてあげた、あの子の|双六 《人生ゲーム》でも楽しもうかとおもっとんたんよ」
 朝日の下で夜の象徴たる妖の花魁が煙管を吹かせて邪悪に笑う。
 遊びと言えば聞えばいいが、実際は駒が進むほどに珠鳴が願い、歪んだ形で叶った呪いが進む破滅の遊戯に他ならず。終着がそのまま世界の終末と繋がる一本道。
 一人遊びはつまらぬ物だが、慰めにはなるだろうと。そう思っていた所に現れたのは、自身と同じ死なずの者達。
 彼等は遊戯盤をひっくり返し、一人遊びの企みは潰えたが、それならそれで楽しみようがある。
 此度の伽は同じ死なずの√能力者。
 先の決まった悲劇よりも、先の分からぬ狂想劇を。
「さあ。遊ぼうやないの。賽の目でも転がすように」
 誰も彼もが滅びるかも知れない破滅の宴の幕が、今上がろうとしていた。

「他人様らに迷惑を掛ける楽しみは、潰して正解だらぁ?」
 彼が顔に被った『榊鬼の面』を別として。
 命を弄ぶ外道とばかりに古妖を睨みつけ、片手に鉞を構える玖老勢・冬瑪(榊鬼・h00101)の姿は、まさに鬼の形相。いや鬼そのものと言っても過言ではない。
「代わりに鬼ごっこと行こう。逃がしたらんが」
「おうよ、そんなに暇なら俺達が遊んでやらあ、お前が他人様を弄んだみてえによ!」
 冬瑪の怒りの籠る声に応じて「あとはお前をぶっちめるだけだな!」と気鋭を見せるカデンツァ・ペルッツィ(星を見る猫・h01812)
 猫らしく爪を出して、シャドーボクシングの猫パンチ。弄ばれた珠鳴の代わりに、一発ぶちのめすという腹積もりである。
 共に意気揚々、後は火蓋を切って落とすだけ。
 だが迂闊に動けずにいるのは古妖の力を知っているからこそである。
 完全な対策があるわけではない。だから時間を掛けて、どうにかなる物でもなく。
 だからこそ、覚悟を決めて一歩前に進もうとする。
 その時であった。
「あらまぁ」
 素っ頓狂な声を上げる古妖の声に応える様に。
 悪魔、天使、妖魔、魔獣。空が僅かに揺らめいたかと思えば、ありとあらゆる魑魅魍魎が空より現れたのだ。
 突然の事にこの場に居た全ての者達が警戒するが、その矛先は全て古妖へと向かっており。
 古妖の頭を踏みつぶさんと、勇んで先陣を切った巨大な狼の様な魔獣の爪が上から振り下ろされる。
「いけずやねぇ。せっかく面白くなる様に準備しとったのに」
 まるで最初から外れるのが決まっていたかの様に爪の一撃は横に逸れてしまうが、古妖のセリフと溜息から何かしらの企みが潰れた事には間違いなく。
「そういえばおったねぇ。いつの間にか消えてたお人が」
 その頭の中では、とある人物の姿を思い返していた。
 
 その頃、とある√汎神解剖機関の旅団内部の一室では。
「ふっふっふ、ヴィルヴェからは全部見えているのじゃ!」
 高笑い、という程ではないが。自身の策の完成度に惚れ惚れするかの様な少女の声が響き渡り。
 ヴィルヴェ・レメゲトン(万魔を喚ぶ者・h01224)は、自身が| 視えている《・・・・・》光景を前にして満足げに頷いていた。
「簒奪者の星詠みとは厄介じゃ。しかし、その上で霊能力者と言うことはないじゃろう?」
 他の√能力者達が珠鳴の対処をしている間に、√汎神解剖機関の旅団拠点に帰宅していたヴィルヴェ。
 だが、例え世界を隔てていようとセレスティアルの霊能力者である彼女にとって大した障害では無い。
 √妖怪百鬼夜行の小高い丘から遠く、世界を隔たり離れた場所。
 遠見の術が無ければ見る事の叶わない場所から、数多くの人ならざるモノ達を召喚したヴィルヴェに古妖の策は届かない。
「さあ、倒れるまで延々と召喚し続けてくれる!まさか卑怯とは言うまいな?簒奪者相手の戦いなぞ、勝てばよかろうなのじゃ!」

「誰だか分らんけど、ありがっさま!」
「何処からかは分らんが、助けてくれるって事は理解したぜ!」
 一方√妖怪百鬼夜行の小高い丘に視点を戻すと、そこは大混戦というに相応しい様相であった。
 二人から見れば突然現れた味方の援軍だが、この混沌とした場を使わないという選択肢は無い。
 直ぐに異形の群れの中に姿を隠した訳で、それには理由がある。
 次々に古妖に襲い掛かるヴィルヴェの異形の軍勢であるが、直ぐに味方である筈の異形同士が争い合うという異変が起る。
 その様を間近で見ていた二人は、確かに見た。艶やかな色使いで装飾された香箱が、突然宙に幾つも現れたかと思えば、その中心から近くにいた異形達が味方同士で争い合う姿をである。
 あれこそが星読みに語られた力に他ならないと直感したからこそ、標的にならぬ様に自身の姿を隠したのだ。
「あらまあ。鬼ごっこで遊んでくれるのと違うん?」
 そんな混沌とした場の中心に、その混沌を生み出し、涼し気な顔をして鎮座する人物が一人。
 いつの間にか遊びの内容が変わっているではないか。と揶揄う声を上げる古妖に、応える声は無い。
「そんなら、正直に応えるまで楽しんで――」
 そう言いながら、再び香箱を創り出した古妖の顔が驚きに歪む。
「ほらよ」
 小さな、先程隠れた小さな猫が宙に飛び出して、香箱の一つをその手に掴むと。
「コイツは返すぜ!」
 それを思い切り、古妖の方へと投げつけたのだ。
 異形達の陰に隠れて、何度か香箱の攻撃を見ていてカデンツァは一つ気が付いた事があった。
 香箱は古妖の近くで香りを振りまく事は無く、必ずある程度の距離が開いていた。
 その事実が告げる事は、一つしかない。
「お前の香りは、お前が吸っても効果があるんだろ!!」
 そう言うなり、むせかえる様な香りを振りまいた香箱の匂いに、古妖とカデンツァの二人が包まれる。
 だが、その効果は異形達が狂った物とは違う物であり、戦いに支障をきたす様な物では無い。
「へぇ?面白い事するやないの!」
 楽しさが抑えきれぬという顔を見せる古妖を見るに香箱の効果を寸前で、戦闘に支障がない物に変えたのだ。
 そしてお返しとばかりに、もう一度香箱を創ろうとする古妖は。
「てーほへてほへ!!」
 気迫の乗った掛け声を聞いた。
「天照らす、御神のごとく。我が心、くもりなければ、神や守らん……!!」
 鬼気迫る威勢と共に、肉薄する異形の姿を見た。
 それはヴィルヴェが召喚した物にあらず。
 名を榊鬼。善鬼神として、とある地方に祭られている神の一柱であり。
「これが俺の鬼ごっこだらぁ!!」
 冬瑪という少年が√能力によって変化した姿である。
 元々怪力と言っても過言ではない力は鬼となった事で、尋常ではない程に膨れ上がった力で握り締めた鉞の固い持ち手が、ギチギチと音を鳴らしている。
 未だに香りが残る事など気にも留めず、守りという物を考えず。
 ただ狙うは、簒奪者の頭を割る事ただ一つと振り下ろす。
「あはは!随分とがっつくやないの!!」
 その動きは余りにも直線的過ぎたのであろうか?
 両の腕を頭よりも突き出して、鉞の刃を深々と肉に食い込ませながらも。
 致命の一打だけは避けた古妖の腕から、着物よりも赤い鮮血が風のように吹き荒ぶ。
「逃がすかぁ!!」
 怒りのままに。鬼が吠える。
 二度、三度、四度と鉞の刃は煌めき、その度に古妖の体は血に濡れてゆく。
 それらを何度もいなしながらも、その度に熱に浮かれる古妖の心が、冷や水を浴びた様に縮こまってゆくのを感じていた。
「おー怖え。鬼ってのは怒らせると怖いもんなぁ」
 その心の動きを人は恐怖と名付けており。僅かに強張り鈍った動きを、暗殺者は見逃す事は無い。
「ってなわけで、お代わり追加だ。変に耐えると逆に苦しいぜ、一撃で終わっとけ!」
 鬼の気迫は彼の姿を隠すにちょうどよく。カデンツァの不意を突いた爪の一撃が、今度は古妖の喉を後ろから裂かんとする。
「ええやないの……随分と死なずの者の壊し方、解ってるやない!」
 手に持った研いだナイフよりも鋭い爪の一撃を今度は振り向き様に煙管でもって受け流す。
 先程まで深々と鉞が刺さっていた割には俊敏な動きを見るに、古妖を名乗るだけあって彼女の体は常識では測れない所は有るのだろう。
 それでも、だ。
「全くもう。じくじく、じくじく。痛いやないの」
 逸らされた代わりとばかりに、カデンツァが彼女の腕に付けたのは数本の線を引く引っかき傷。
 その傷跡は、引っかかれたばかりだというのに熱を帯び、膨らみ、膿が爛れており。既に破傷風となって冷や汗を流す古妖の体を蝕んでいるのだ。
「爪痕が痛えか?ざまあねえな、お前がしでかした事の報いだっつうの」
「死なぬと言うても、痛みや恐怖は持ち越しだらぁ?」
 死んでも蘇る√能力者と言えど、どれだけ体が治ったとしてもである。
 頭で覚えた事は忘れる事無く。心に付いた傷は治りが遅いのは間違いない。
 だからこそ、この邪悪な古妖に報いを与える為には。体の傷だけでは足りないのだ。
「この鬼を、よぉく覚えとりんよ。何度でも、頭をかち割りに行くでね」
「せっかくだから俺も付いてくぜ。こんなもんじゃ、まだまだ収まりが付かないんでな!」
 これだけやっても、まだ足りぬ。
 珠鳴を思えば、まだ足りぬ。
 この世界の事を思えばまだ足りぬ。

 もう一度、彼女に会いに行く時には笑顔で会いたいからこそである。
 何れ完全に古妖が滅びるまで、まだ足りぬのだと。
 妙に正直になっていた二人は言うのであった。

アレクシア・アークライト

「妖怪が暇を潰すために悪さをしでかし、最後には酷い目に遭って泣きを見る、か」
 元々の柄がそうだったろうか?はたまた流した血の色が移りこんだのか?
 最早どちらか分からないし、どちらでも良いと。己から流れ出る赤黒い血が染みこんだ艶やかな着物を纏う古妖の前で。
 赤いコートを羽織り赤い髪を纏めた女性が、別に興味が有る訳では無いという風に語りかけている。
「寓話によくありそうな話だけど、こっちの世界でもそうなのかしら?」
「さぁ、ねぇ?わっちは他の世界のお話なんて興味なかったさかい」
 不躾なアレクシア・アークライト(エージェント・h03369)の問い掛けに。
「まあ少し言わせてもらうなら、悪い妖怪だなんて傷つくわぁ。わっち等はただ楽しーく暮らしてただけやで?」
 傷だらけの体何するものぞと、古妖は知らぬ存ぜぬとニヤリを笑みを浮かべて応える。
「せやのに、あっちが勝手にお行儀よく生きたい言うさかい、そんならそんで楽しくやりましょってだけやったのに、ねぇ?」
 酷い話やわぁ。等と、全く残念であると言葉の端からも全く聞こえてこないが、古妖の言葉に嘘はないだろう。
 確かに今の√妖怪百鬼夜行の文化を創り上げたのは、人に寄り添う新しい考えに目覚めた妖怪達に他ならない。
 その前までの妖怪達は己の欲望のままに行き、恐らくほとんどの妖怪達は目の前の古妖と同じ考えだったのだろう。
 そして少なくとも目の前の古妖は新しい考えに目覚めた妖怪達を良しとしながら、目障りと有れば力を振るったのも間違いない。
「そうか。ではせっかくだ、私もお前達の流儀に倣うとするか」
 だからこそ閑話休題。お話のお時間は終わりである。
 元より親しく話をする仲では無し。ならば後は力で語るのみ、と。
 時代劇の侍が立ち会う様に、お互いに一定の距離を取って向き合う二人。
 互いに手の読み合い、隙の伺い合い。流れる風は暖かさを帯びて、夜の終わりを告げている。
 その風が、まるで映画の様に。木の葉の一枚を二人の間で躍らせる。

 ――瞬間、同時に動いた。
 先に動いたのは古妖の方。
 地面を問わず、宙であろうと構うことなく。辺り一帯に咲かせた椿は人を惑わし、徐々に追い詰める妖の花。
 その様な光景を顧みる事無く、ただ真っすぐにアレクシアは歩を進めて。
 ただ花でも積む様に右手を伸ばした。
 そして手が触れた途端に、そこにあるべきではないとばかりに、花びらだけを残して次々と弾け飛ぶ椿の花。
「悪いな」
 未だに宙に浮かび漂うただ綺麗なだけの赤い花びらを突っ切って、一筋の赤が古妖の元へと迫る。
「あなたよりも私の方が上だった、それだけよ」
 そして右の拳を力強く握り締めると、思い切り驚きに歪む古妖の顔を殴りぬけたのだ。
 衝撃で思い切り後ろに吹き飛び、地面に体をこすりつけて漸く止まった古妖。
 その体に、もう立つ力は残されていないのだろう。
「……いったいねぇ。ああ、もう」
「死なずの体なんて持て余すのが常、とか言っていたわね」
 ただぼうっと。倒れ伏して空を見上げる古妖。
 そんな彼女に、淡々と歩いて近づくアレクシアは蔑む様に語りかける。
「それなら良い所、連れて行ってあげるわよ」
 今までの行いによって傷いた者達。その償いをしろと。
 汎神解剖機関に連れて行けば、その髪の毛一つまで『資源』として活用してみせる、と。
 そう豪語するアレクシアに。
「あかんよぉ、お嬢ちゃん」
 古妖は最後の力で左腕を動かす。
「捕まえるんなら、最初からそうしないと」
 その腕は、まるで手慣れた様に古妖の胸へと突き刺さり。
「こうなるんやで?」
 胸の奥から、まだ動いてる心の臓を取り出すと、彼女の前で握りつぶしたのだ。
「お前……!」
「これが死なずのやり方って奴やねぇ……」
 未だに喋る事は出来る様だが、それでも彼女の体から血の気が失われているのは間違いない。
 合わせて体は元々そこに無かったかの様に、力の源に還ってゆく様に崩れ去ってゆく。
「ああ……楽しかったわぁ……ほな、またねぇ」
 そう言葉を残して、完全に消失した古妖。
 どれだけ調べようと、彼女が此処に居たという証拠は戦いの後しかなく。
 血の一滴から、髪の毛一つまで。見当たる物は何もない。
「チッ。死に逃げってのは面倒だな」
 そう呟くアレクシアだが、本来の目的は果たした事に違いない。
 あの古妖は完全に消失したので無ければ、再び封印されて彼の地に眠るだろう。
 無論、また封印が解かれる可能性はある。それでも、この行為に意味はあるはずだ。

 危うくとも一時の平和を積み重ねる。
 それがこの| √妖怪百鬼夜行《せかい》の在り方なのであろう。
 そして、どのような世界でもそうなのかもしれない。

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