シナリオ

夫がデス餅つきに殺されて二日が経ちました

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 ――夫がデス餅つきに殺されて二日が経ちました。
 デス餅つきに殺された夜、私は自分の感情を抑えることができず……一晩中泣いて明かしました。
 元旦でただ美味しいお餅を食べたかっただけなのに、どうしてデス餅つきで死ななければいけなかったのでしょうか?
 私は未だに、夫を止めていられればと思って後悔しているのです――……。

 ●
「貴方も聞きましたか……『デス餅つき』の話を」
 元旦から数日後、写・処(ヴィジョン・マスター・h00196)は神妙な顔で自らの事務所のテレビに映像を映し出していた。
 そこにはなんとも恐ろしい、餅が人を襲っている光景があるのである!
「……これがデス餅つきです。認識を阻害する怪異が関わっている可能性がある……恐ろしい行事です」
 これはとある山間部の村で行われているそうで、デス餅つきに巻き込まれた者はことごとくが死んでしまっているという。
「これの解決にあたりましょう。頑張ってください……!」

 ●
「うーん、どこが変なのかなぁ……」
「お餅ぶっ殺しゾーンとかあるけど、不審な点は見当たらないなぁ……」
 ――その村にやってきた、御当地餅を楽しみにやってきた若者達は、『かかってこいや√能力者』、『おどれら血祭りにあげるぞ』、『デスのデスって何の意味か知ってる? それはね、死』と村の入口に赤い文字で書かれているのも、なんだか個性的な歓迎だなぁと思いながら歩を進めるのであった。美味しいお餅が食べられるといいのだが――。
「あ! そうだ、ここ、祠とかあるらしいから見に行こうぜ!」
「いいね! あと開かずの扉とかもあるらしいじゃん!」
 ――その前に食べられるステージまで行けるのだろうか、彼らは……。

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第1章 冒険 『因習村|体験《調査》ツアー!』


日南・カナタ
タマミ・ハチクロ
ふわ・もこ
イグニス・カラミタティス
カンナ・ゲルプロート
瓜生・コウ
天草・カグヤ
機織・ぱたん

 ――新年早々、なんともおぞましい事件が舞いこんだことか……。
 被害者の奥様心中お察ししますと胸の中で手を合わせ、報告書を見てあまりの惨事に、日南・カナタ(新人警視庁異能捜査官・h01454)は思わず涙する。デス餅つき……!
「警視庁異能捜査官として、必ずこの手で仕留めるデス!」
 ……あれなんか語尾が変なことになった。これもデス餅つきの仕業か? まぁいいや、そんなことより認識を阻害されて誘き出された若者たちを救わねば! そうして日南は早速因習村直行! 現着! 着いた先には禍々しい歓迎の文字! 『かかってこいや√能力者』の文面からして相手もこちらを意識はしているのだろう、つまり間違いなく怪異の仕業である。この看板、明らかにヤバい。
「どこかに巨大な頭の……ん? なんだか視線を感じる……!?」
 木の影に人あり! 無事なようだったが、何故か大の字に倒れていたその人物を助け起こす。
「お前……餅は食わねぇか!?」
「え!? な、何!?」
「餅は餅だべ! 『お餅様』に捧げる餅を皆で食うべ!? 餅だべ!」
「何!? 何なの!?」

 ●
 日南が異常村人に絡まれている同時刻――。
「変な所しかねえであります!」
 一通り村の中を見て回っていたタマミ・ハチクロ(TMAM896・h00625)は思わずツッコミの言葉を叫んだ。お餅ぶっ殺しゾーンって何でありますか! 不審以外の何者でもないであります!
 本当に大丈夫だろうかあの若者ども、ここから生きて帰れたとしても別のところで死亡フラグを建築するのがありありと見える。危なそうである祠見学の方に向かおうかと思っていたところに、同じく√能力者である機織・ぱたん(スレッド・アクセプター・h01527)と鉢合わせた。
「お、どうも。この異常村、どうでありますか……?」
「いやもう、新年早々なにこのオモシロ風ヤバ怪異としか……」
 人が死んでいる、という情報も怪しくなってきた。だってなんか見渡す限りの村人常時餅食べてるけど喉に詰まらせる気配もないし。なにより少なくとも映像から想像していた異常餅因習村地獄は繰り広げられていないのである。餅を誰かしらが食べている異常光景は見られるが。
「ふむ……あの映像、誰かが作っている可能性、もあるでありますか……?」
「あり得るねぇ……√能力者をおびき寄せる罠かも。んで、一般人は美味しい餅の噂で引き寄せてるわけだ」
 一般人を盾にされたら√能力者も戦うのが困難であるからして。しかしこんな異常光景の中で真っ当な推理するのもなんだか異常である。
「ともあれ、祠の方に案内してもらうでありますか」
「そうだね! すみませーん!」
 そうして声をかけて配信用スマホを取り出す。
「……それは……何でありますか……?」
「よく言うでしょ? フラグは積み過ぎると折れるって。ならアタシは開始十分で死ぬタイプの動画配信者、投稿者役よ」
「ふむ?」
「祠に何かあるかもしれないから、『隙』を見て体重をかけるくらいはしてみる。……まっさか、十代女子の重さにすら耐えないとか無いよね!」
 
 ●
「マジでありますか」
「マジか」
 フラグは建築しすぎると逆の逆で積み重なるものである。ものの見事に粉砕された祠にウッソだろという表情を隠せない二人である。
「というか、この祠……新しすぎるでありますね」
「……あ、確かに。木が綺麗すぎる」
 新築の祠……そもそもこの村はもともと餅で有名という話はなかった……ということは何も起こっていないはずはなく――と、いうところまで思考が至ったところで。
「オメ! 祠壊したのか!」
「あ、ええと……」
「終わりじゃあ……この村は『お餅様』に破壊されて終わりじゃあ……! せめて餅を食べて最期の時を過ごすしかない……!」
「クスクス……祠壊しちゃったんだ……『お餅様』に連れられちゃうよ……」
 発狂するジジイにクスクスと笑う謎の双子、なんなんだこの村は。
「あの、『お餅様』ってなんなんですか?」
「『お餅様』はありがたいが恐ろしい神様じゃ! ……餅を美味く食わせてくれるかわりに……おお……お許しください……」
「餅を美味く食べさせてくれる代わりに何をしてくるのでありますか?」
「――ウェイな気分にさせてくるのじゃ! もうウェイは終わりじゃぁ~!」
「ウェイな気分って何!?」
 思わずツッコんだ機織の背後から、ドタドタと走る音が聞こえる。
「村長! 大変だ!」
「どうした!」
「祠が壊された! 二つくらい!」
「――ここ祠いくつあんの!?」

 ●
「めぇ~……」
 美味しいお餅が食べられると聞いてやってきた子ひつじがいました。かわいいですね。道に迷ってウロウロしていたようです。かわいいですね。野生の勘のまま突き進むと、祠に向かったようです。かわいいですね。そしてうっかり祠を壊してしまいました。その壊しちゃった祠を隠そうと、周りの葉っぱや土を被せていたようです。かわいいですね。
「こいつが祠を壊しました!」
 震えるふわ・もこ(ふわふわもこもこ・h00231)を捕縛した村人の目は、明らかに正気ではなかった。
「どうしてくれましょう……! こいつでひと思いに……!」
 餅つきの杵を手にした村人に、思わず機織はやめて! と声を上げる。さすがに小動物に手を上げるさまは看過できなかった。
「じゃあこいつで!」
 ふわふわのブラシが出される。ふわを優しく撫でるようにブラッシング。ふわも満足そうな目を細めている。かわいいですね。

 ●
 ――えっ……いや、聞いたことねえよ。デス餅つきなんて。√EDENってそういう風習あんの……?
 無論ない。イグニス・カラミタティス(封じられた邪竜・h01278)はぐるぐる目になりながら混沌の村の様子を改めて確認した。村人は何かしら餅を口にしていることが多く、そうでない村人は餅をついていたり餅のためのトッピングを作っていることが多い。
「これ、何ためにやっているんだ?」
「お客さん、これは『お餅様』に捧げる行事だべ、食べる、用意する、それだけでおいしーいお餅を『お餅様』はくださるんだべ」
「へえ……その『お餅様』っていうのは、いつから居るんだ?」
「ちょっと前から?」
「なんかその辺に居た」
「『なんかその辺に居た』ものをこんなにありがたがっているのか!?」
 殴って正気に戻そうかどうかと迷うが、会話そのものは通じる。
「ゼエ……ハア……」
「あ、お客さん、お餅美味かったべか?」
「美味しゅうございました……」
 そんなところで、餅を食べさせられていた日南が満腹の状態で民家から出てきた。
「大丈夫か!? 変なもの食わされてないか!?」
「だ、大丈夫……」
 日南曰く、出されたのは普通に美味しいお餅だったという。襲いかかってくる様子もなければ、食べて何か異常な状態になることもない。ただ――。
「家の中、なんかテレビの数が多かった。一室に必ずひとつ」
「ふぅん?」
 √EDENに疎いイグニスであるが、その違和感は大切だろうと記憶の中に留める。
 ――……バカみてえな事件だけど、ひょっとして結構ヤバイ敵なのか?

 ●
 ――ここからは私の推理にはなってしまうのだけれど、あの開かずの扉は怪異が二百五十匹いるかもしれない――。
「いや待て私。なぜそう思った。認識を阻害されている……?」
 知性ランクが著しくダウンしている気がする。カンナ・ゲルプロート(陽だまりを求めて・h03261)はかぶりを振った。いけないいけない、かかってこいと言われたのならばお前をぶっ殺しゾーンに変えてやるがこちらの戦いである。『影に住まう烏』を放ち、村の様子を見る。概ねの情報を統合すると、祠が何故かいくつもある、村人は美味しい餅作りに励んでそれを食べている、という、デス餅つきというにはわりと能天気な光景が繰り広げられていた。
 ――しかし、どうにも祠の位置が気になる……。
 配置されている祠はどうにもピンポイントでインビジブルがたまり場のようにしている箇所のようであった。村人が√能力者である気配はない、視えている様子もない。となると、誰かに指示されたか、操られた可能性が高いか。
「…… 『資源』の回収の可能性、か……」
 祠には特別な細工はないようだったが、『目印』のように感じた。これは注目するべき点だろう。

 ●
「おーい、餅食うなら俺とも食ってくれよ」
 瓜生・コウ(森の魔女/G∴O∴D∴・h02922)は村人に絡まれていた女性に向かって気楽に声をかけた。
「えっ!? あっ、ありがとうございます……!」
 ナンパに見せかけた救いの手というのは彼女も感じてくれたのだろう、それではー、と村人に向かって手を振る。
「なあ」
「なんでしょう……?」
「『お餅ぶっ殺しゾーン』がおかしいとは思わなかったか? そんな連中ほっといて、夜中にあいつらにバレないように宿から抜け出して、ここに来なよ、悪いようにはしねえぜ」
 そう言って地図を指し示す。
「……冷静に考えてみれば……『お餅ぶっ殺しゾーン』って……何なんですか……!?」
「いやそれは俺もわかんねえ。謎すぎる。だから仲間と一緒に調べてるんだ」
「な、なるほど……」
 女性は納得した風でありつつも、ぶっ殺しという言葉が気にかかったのか、心配そうな表情をする。
「あの……では、お言葉に甘えますが、無理はなさらないでくださいね……?」
「勿論だとも」
 恵那ずく瓜生に、女性は頭を下げた。
「さて……祠の様子を見に行くか」
 カンナの言葉だといくつもあるという。すでに三箇所くらい何故か壊れているらしいが、だったらドサクサにまぎれて壊してみても悪くはなかろう。

第2章 集団戦 『ポルターガイスト現象』


 祠を壊し、しばらく経つと――√能力者の元へ、餅が飛んできた。
 そう、餅が、飛んできたのである。ポルターガイスト現象で。
 おそらく祠は怪異達がインビジブルを喰らうための目印――黒幕が村人を操って作ったに違いない!
 おのれ許せん! 餅は争いのための道具じゃない! ここは餅と勝負だ――!
 フライング・デス・餅・モンスターとの戦いが、今、始まる!
「『お餅様』がお怒りじゃあ……!」
「クスクス……」
「大変だ、もう助からないぞ」
 ――村人達が見ているが、そんなん知るか! とりあえず戦え!
 ――時は少し遡る。天草・カグヤ(成長欠落少女・h00581)はデス餅つきと聞いて困惑していた。
 餅は元より死がつきまとう恐ろしい食べ物であるのだが、かといって人を襲うということは通常ありえない。あの映像が作り物だとしても、合成にしては良く出来すぎていたように思う。よって、普通の子供のフリをして、村の人間に話を聞くことにしたのだ。
「小学校の新聞に載せるので、よろしくお願いします!」
 そう言うと、そうかそうか、とりあえずお餅をお食べと言われてよそわれる。これがのちほどフライング・デス・餅・モンスターとなるのだから恐ろしい、しかしこの時に天草がそれを知る術はないので、食べる他ないのであるが。食べてしまえば美味しい味わいに普通に舌鼓を打つ。
「あ、美味しい……」
「そうでしょう! 『お餅様』を信じればもっと……」
 と、村人が続けようとしたところに、スパーンと扉を開けたもう一人の村人の叫び声が響いた。
「あぁ~祠が壊れる音~! 助けてー! 祠がまた壊された!」
「どこの馬鹿だそいつは!」
 ……祠壊したりとか開かずの間に入ったりとか、そういう危ないことはちょっとやめとこうと思ったのは正解だったのかもしれない……。
 ひっそりともぐもぐ食べ終えてごちそうさま、さて、どうしようか……。
タマミ・ハチクロ
日南・カナタ
機織・ぱたん
天草・カグヤ
イグニス・カラミタティス
瓜生・コウ
カンナ・ゲルプロート

 ――お餅は飛ばす物じゃなくて食べ物であります!
 ごく真っ当なツッコミ、さらに言うのであればタマミ・ハチクロ(TMAM896・h00625)の故郷たる√ウォーゾーンでは食べ物をもったいない扱いにするなんて犯罪ものである。
「異郷の神様とて許せぬでありま……」
「あれは『お餅様』じゃあ! 祟りじゃあ! 祟りじゃあ!」
「クスクス……始まったね、『餅まき』が……」
「崇められるのか殺しにかかる存在なのかどっちなのかはっきりするでありまーす!」
 タマミはどうあがいても邪魔な村人達をかばうようにしつつフェザーレインを展開し、その姿はまるで天使のようになった。次いで『慈雨の射祷』を発動、餅を迎撃する!
「聖なる光は、傷のみならず祝福をも与える……つまりは祝福されし餅、聖餅になるのであります」
 地面に落ちる前に走り込んで確保すれば、無力化した餅がこころなしかぐったりとして見えた。ともあれこれで食べ物がもったいなくなることはなかろう。
 ――聖餅とは本来パン、つまり主の御体でありますが……食べ物を粗末にすることは出来ませぬゆえ。主よ、此度ばかりはお赦し下さい――。
「あっ! それ、私も手伝う~!」
 タマミの奮戦を見た天草・カグヤ(成長欠落少女・h00581)が駆け出しつつ、『とっておき』の兵器を取り出して装着した。
「そ、それは……!」
「そう……! 対モチ用決戦兵器……マスクだよ!」
 これは敵性餅もきっと想像していない事態であっただろう――口に入って窒息無惨という結果を根底から覆す必殺……ならぬ、不殺の兵器だ!
「いただけるでありますか!?」
「使い捨て二百個入り大盤振る舞い! つけておいて!」
 セット商品の中から投げ渡されたそれを袋から開封して早速装着したタマミを襲うフライング・デス・餅・モンスターは完全にどう襲っていいか困惑しているようであった。その間に無力化した餅は天草によってそっと回収されていく。
「餅は……もう餅は勘弁ッ……!」
 日南・カナタ(新人警視庁異能捜査官・h01454)は軽度の胃痛を起こしながらもマスクを装着、もうおなかぱんぱんデス! しばらく餅はたくさん! と武器を構える。――100gあたりで比べてみると切り餅は223kcal、ごはんは156kcalらしい!
「つまりお餅の方がカロリーが高い! でもお餅の方がついつい食べちゃうよね!」
 などと叫びながら餅を避けるものの、食後の急激な運動で脇腹が痛い! これはDEATH!
「くそっ! これもデス餅つきの仕組んだ功名な罠だってわけか……!」
「黒幕、絶対そこまで考えていないと思うよ……」
 機織・ぱたん(スレッド・アクセプター・h01527)もまたマスクを装着しつつ、変身! 『侍血装・不退転舞』、ここからはお餅様ぶっ叩きゾーンである! もうヤケクソに突出してくる餅をさばく! 日南が何か溜めているようだ、その時間稼ぎのために立ち回る。
「何秒かかる!?」
「……一分間ほど!」
「余裕!」
 機織は日南襲いかかる餅をしばき倒していく。しかしそれだけで完全に無力化されない餅はタマミの『慈雨の射祷』がトドメ、そして餅を拾うのはあまり戦い向きではない天草というかたちだ。
「これ敵と戦っている図でいいのか!? 敵なんだな!?」
 ――倒せる相手なら文句は無え。速攻で片付けるぜ!俺の頭がおかしくなる前に!
 イグニス・カラミタティス(封じられた邪竜・h01278)は最早新年明けましてお餅取り競争の様相を呈している場面に、ぐるぐる目になりながらも『ドラゴンプロトコル・イグニッション』を発動させる。
「広域攻撃! 助かる!」
 熱気に対して機織が思わずそう言う。
「灼熱のブレスで全部まとめて灰にしてやるぜ――動く餅とか食べたくねえし!」
 そうして灼熱のブレスで炭にした――はずだった。
「は?」
 餅は勢いを失いながら、香ばしいかおりを発している――これは……焼き餅だ!
「『お餅様』が……あんなに美味しそうに焼けた!?」
「いやオレ最大火力で焼いたんだけど!?」
「怪異のオーラ的なサムシングと『いや言うてこのカッコイイ姿で全力で餅焼くのもなぁ』という心に守られて相殺され、普通のこんがりお餅になったようだね……」
 天草は戦えないなりに戦況を冷静に見てそう言った。餅を拾う。あたたかく、美味しそうである……。
「よし――『溜まった』!」
 日南の声が響き渡る。迫りくる餅、それを『超絶気合撃』による超絶気合ハンマーでぺったんぺったん――!

 ●
「餅だけにみなごろし……ってやかましいわ!」
 瓜生・コウ(森の魔女/G∴O∴D∴・h02922)は末法な様子に天を仰ぎながらも祠の周辺で襲いかかってくる餅を迎撃する。祠は『怪異腹腹時計』にて破壊、餅が出てくる場所は『事上げせぬ『予言』』である程度把握済みなために、餅を迎撃している『本隊』には餅が殺到していることはなかろう。……いやそれでも随分愉快な光景になってしまっているのだが。
「えーと、認識阻害に資源回収の為かもしれない祠、そしてやたらと多いテレビ。つまり……クソでかい怪異?」
「シッ……知性がランクダウンしてる」
「ハッ……いけないいけない……」
 瓜生のツッコミに、知性を人類くらいまで上げて察しを良くしたカンナ・ゲルプロート(陽だまりを求めて・h03261)が餅を影技で武器受けして逃れる。マスクは事前に天草からもらっているものの、襲いかかる速度はそれなりに速いため、対策は必須だ。次いでに倒した餅はさっきからドロップしている。なんとなく、食べ物もったいないの嫌だし……。
「餅がポルターガイスト現象で動いているに過ぎないとすれば、目的は餅の物理的な破壊ではなく祠に仕込まれた術や呪詛だ」
 まだ壊れていない祠の前で瓜生は立ち、祟りを払うことに集中する。
「理に叶ってはいるわね……問題は襲ってくるのが餅なところくらいなんだけど」
 『黒幕』は一体どういう意図でこんな現象を起こしているのか――? カンナは考える。餅はきっとたまたまに過ぎない、あっもしかしたら『棚からぼた餅』に願かけしている黒幕という可能性が……また知性が下がっている気がする……。
「大丈夫か? ――呪詛の爆弾はむしろ有効だろう、祟りには祟りをぶつけるんだよ!」
 こうして、祠はバカスカ壊されていく! 恥を知れ!

 ●
「――やったか!?」
 イグニスの広範囲攻撃による焼き餅の美味しそうなかおりと、日南によるぺったんぺったん大会によって磨きのかかった美味しさになった餅は皆ぐったりとしていて、襲いかかる気配はなかった。
「お、お餅様……? ハッ!? お餅様とはなんじゃ?」
「あっれれぇ~? おっかしいなぁ~、こんなにお餅だらけの村だったっけ?」
「ねー?」
 ジジイと双子もどうやら餅の呪縛から解かれたようである。
 そして――√能力者達は、ただならぬ気配を感じた。
「……クソッ……もったいないことしてくれたねえ……」

第3章 ボス戦 『ヴィジョン・シャドウ』


「折角餅とインビジブル食べ放題していたのに……」
 苛立った様子と共に現れたのはテレビであった。テレビはお餅のCMを垂れ流している。見ているといかにも美味しそうだ……。
 こんなふざけた餅騒動に自分達を巻き込んだのか、と問えば、そうだけど? とあっさりと返される。
「そもそもふざけてなんかいないよ……インビジブル回収の次いでに、餅のクオリティにガチになっていたのに……!」
 相手に回収された餅を見て、ヴィジョン・シャドウは歯ぎしりした。
「俺の餅を返してもらうぞ――!」
 あ、インビジブルより餅メインなんだ――その場の誰しもが思っただろう。
逝名井・大洋
タマミ・ハチクロ
日南・カナタ
イグニス・カラミタティス
カンナ・ゲルプロート
瓜生・コウ
機織・ぱたん

「ちわー! 令和のオマワリさん、応援に来ましたぁ! で、昭和感漂う喪服の未亡人は?」
「ないよ……そんなもの……」
 逝名井・大洋(TRIGGER CHAMPLOO・h01867)はヴィジョン・シャドウの言葉に衝撃を受けた。――餅? はぁ!?
「課長ぉぉ! 未亡人いねぇぞ課長ぉぉお!」
 携帯端末を手に絶叫する姿は哀れかな、しかし夫をデス餅つきで殺された未亡人は……存在しない! なんなら圏外だ課長ォ! 仕方がないから携帯端末をANARCHYに持ち替える、こうなりゃヤケだ戦うしかない。
「その餅……返してもらおうか!」
「返さないでありまーす、もう小生らのお餅でありますゆえ。拘る程にお餅が大事なら、飛ばすようなことさせるなでありますよ!」
 タマミ・ハチクロ(TMAM896・h00625)のド正論が飛ぶ、同時に強い震動を感じた。
「――餅餅と言うわりに意外と厄介かよ!」
「これでは飛び道具はマトモに狙いをつけられないでありますね……」
 ――であれば、こちらは格闘戦を仕掛けるのみ、タマミはまっすぐにヴィジョン・シャドウの方へと接近する。――『八九六式近接格闘銃術』! 蹴りからの連続打撃だ!
「……くっ……」
 テレビが本体であるからして、動けないヴィジョン・シャドウの影がジジ、とブレる。回避が不得意な相手はこれ幸い、いくらこちらの照準がブレようと、相手が固定ならば!
「オラァッ!」
 逝名井が霊力を込めた弾丸をブラウン管にねじ込む。
「おお……すごい……なんかすごい戦いじゃあ……」
「やっと静かになったかジジィども……」
「えっ!?」
 しみじみと言っていたジジイが意表を突かれた顔でいる。
「ジ、ジジィ!? だ、駄目だよそんな口汚い事言っちゃ! ……って俺言った? 言ってない言ってないって! やだなぁもう!」
 日南・カナタ(新人警視庁異能捜査官カミガリ・h01454)はどこからか受信したナレーションを思わず口にしたことを否定しつつ先鋒に続いて攻撃に加わる。
「しつこいなぁ――放送禁止」
 ぼそりと呟くヴィジョン・シャドウがテレビを複数基召喚した。
「……えっ、放送禁止ってそれって……」
 それってどういう――み、みたーい! バンザイポーズで近寄る日南を影が容赦なく襲う。ぐふ、と声をあげて一度倒れた日南は立ち上がる。
「く、くそ、恐るべし、ヴィジョン・シャドウ……」
「ほぼ自爆だったよな?」
 逝名井のツッコミに構わず日南は『精神限界』を発動させる。
「こうなったらリミットブレイク――んぐはぁ!? 俺の腕も一緒にブレイクー!」
 腕を骨折して転がる日南に、なんだこれと焼き餅のかおりに包まれ謎の敗北感を感じながらもイグニス・カラミタティス(封じられた邪竜・h01278)は警戒をやめない。何気に相手の攻撃に苛烈なのが多すぎる!
「クソッ……なんか自信が揺らぐぞ……それもこれも全部テメェがデス餅つきなんて始めるからだ! なんだよデス餅つきって! ふざけやがって!」
「いやぁ、デスってついた方が……箔が付くと思って」
「どういう箔だよォッ!」
 『百錬自得拳』で接近戦を仕掛ける、ヤケクソの塊である。とはいえ遠隔技に長けたヴィジョン・シャドウを相手にするには最善策、ともかく殴る他あるまい。拳は遠慮なくテレビへと叩き込まれる! ピシリと画面にヒビが入る、ヴィジョン・シャドウの幻影は不快そうにぶれた。
 ――よぉし、殴る。
 カンナ・ゲルプロート(陽だまりを求めて・h03261)が抱くのはたった一つのシンプルなアイデア。影技で抑え込む、殴る、絶対殴るという強い意志である。
「餅餅餅餅って頭が杵柄にでもなったの? 餅とかもうたらふく食べた訳。ちゃんこ鍋でも用意して歓待しなさいよ、かかってこいって言うから来てあげたのに! 餅のクォリティ? 知るかーっ!」
 カンナの知性は最早限界であった。思考はショート寸前、今すぐ殺りてぇという気持ちでいっぱいである。なんだよ箔って! 蝙蝠と黒猫で死角のフォローは忘れず、ちらと仲間の動きを見ながら連携を取る。
「でもまあ、前のジョークより笑えるからそこは加点ね。点数溜まったらお笑い芸人のライブチケットあげるわ……餅を包んでね」
 そうして『瞬動術』がヒットする。
「ところで、ヴィジョン・シャドウさんよ」
「……なに」
 不快そうな相手を前に、瓜生・コウ(森の魔女/G∴O∴D∴・h02922)は連れていた女の唇を奪い、あろうことかディープキスをする。じっくりと――これは魔女が見せる幻。
「ところで餅は喉につかえるよな。そのテレビにも、餅がつかえてるんじゃないか?」
「――は、何を言って――」
 事上げせぬ『予言』で、放送禁止行為をすれば放送禁止を行うことは分かっていた――攻撃の手が伸びる、『怪異腹腹時計』を発動! ――テレビはいわば砲身だ、餅そのものが詰まることはなかったが、今までいいようにされてきた餅の情念的なサムシングが概念的につっかかったのだろう、威力が弱まっていく。
「――ここでぶっ倒されなさいな!」
 機織・ぱたん(スレッド・アクセプター・h01527)が『レディナチュラルフォーム』に変身! 槍の距離へとぐいぐいと進んでいく、影の波動をくぐり抜け、前へ、前へ! 他の前線を維持するメンバーに追いつけば、容赦なくその槍を叩きつける。
「くっ……!」
 ヴィジョン・シャドウが敵の背後へとテレビを召喚させるが、感づいたカンナが走り込み破壊していく。日南も倒れ伏すのをやめて骨折していない方の腕やその脚でテレビを破壊していく。どのテレビが本体なのか、それとも全てのテレビが本体なのか、それは知れないけれども、ともあれ破壊せねば!
「い、く、っよ~!」
 機織の勢いの良い掛け声、そして槍は確かに、テレビを貫いた――!
「く……そっ……」
「これでアタシたちの勝ちだ……!」
「餅は……くれてやるよ……」
「いや最後まで餅なんかい」
 カンナの冷静なツッコミが響き渡った。そうして、場は静かになる。
「終わった……? 終わったといってくれ……気がおかしくなりそうだ……」
 イグニスの言葉に、全員が謎の多大な疲労感に襲われていた。本当になんだったんだアイツ。
 
 ●
「いやぁ……なんと御礼を申したらいいか」
 ジジイ――もとい村長は、孫である双子を撫でながら、テレビを見ていたらむしょうに餅が食べたくなったのだと証言した。何故餅をヴィジョン・シャドウが求めたのかは、卵が先か鶏が先か、わからない。わからんもんはわからん。デス餅つきなんてもんを求める怪異の心理が分かってたまるか。『忘れる』とはいえ、村が餅の熱狂から取り戻されたのは大きな出来事であろう。
「ところで――」
「どうしたんじゃ?」
 機織は気恥ずかしそうにしたのち。
「ちゃんとお餅食べてなくて……ちょっとだけなら欲しいかも」
 ――こんな頑張ったんだしご褒美あってもいいでしょ。ダイエットはまた明日から。なんて。

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