シナリオ

古妖の侵略

#√EDEN #√妖怪百鬼夜行

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 #√EDEN
 #√妖怪百鬼夜行

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「はぁ、全く。ちぃと厄介なことがおきやしてね」
 護導桜騎はそう言って、目深に被った警官帽の隙間から辺りを鋭く見渡す。

「妖怪百鬼夜行から、ここ(√EDEN)に界渡りしやがった馬鹿がいやしてね」

「もちろん、奴らが観光目当てで来るわけがねぇ。当然ながら、被害は出るでしょうよ」
 このまま放置すれば、極めて悲惨な上に、被害はどんどんと広まっていくだろう。
なにせこの√は、周りから比べると『弱い』。

「その上、奴らの気に当てられて、ここのインビシブルまで元気になっちまってる。となりゃ、呑気に事を見ている訳にも行かねぇ」
 そんな訳で、だ。こちらも応戦しなければというのが今回のあらましである。

「まず、露払い。邪悪なインビシブルが元気になっちまってるもんで、こいつらを倒してもらいたいんですよ。奴ら、暴走して人間も食い始めちまってる。とはいえ、古妖ほど強いわけでもねぇ。こいつら相手なら、あんたがたならどうとでもなるでしょうよ」

「古妖に関しちゃ、√百鬼夜行で封印しねぇといけないんですが、そのためにまずは√百鬼夜行に押し込まなきゃいけねぇ。手段は2つ……ひとつは、奴らの居所を見つけ出して、誘導し、√百鬼夜行への道を渡らせること。もうひとつは、まあ言っちまえば力づく。とりあえず√百鬼夜行に押し込む。攻撃して弱らせて……力に自信があるならこっちの方が楽っていや楽ですか
ね」
 そこまで語ってから一呼吸、警官帽を被り直し、再度周囲を見渡す。

「√百鬼夜行にくりゃ、奴さんはその正体を表す。あとは弱らせて祠へぶち込みゃ、今回のお仕事は終わり、ってなわけで」
 なんにせよ、だ

「平和を守るためだ、頼みますよ?」
 最後に、くつりと笑って締めくくった。

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第1章 集団戦 『暴走インビジブルの群れ』


御剣・刃

 金魚みてぇな奴らだな……、と自身の周囲で暴れる邪悪なインビシブルの群れを前に御剣・刃(真紅の荒獅子・h00524)はつぶやいてから、いや、と一つ首を振った。

 赤い魚のような体をしたインビシブルの群れ、ビチビチと空中を飛びまわり獲物を探す姿は、実際のところ、綺麗で和みすら与えてくれる金魚たちとは正反対の醜悪さ、一緒にしたら悪いなと思いながら、ぐっと拳を構える。

「おい、てめぇら」
 声をかければ、大量の目が御剣を捉えた。ぐぐ……っと身体をうねらせ、なんだこいつは、と観察をされる。それに目を細めると、片手を挑発をするように、くいくい、来い来いと動かし

「腹が減ってるならこっちに来い……」
 インビシブルたちがその声を理解したかいなかはわからない。だが奴らは、確かに御剣を『補足 』した。

「鉄拳を死ぬほどご馳走してやるからよ」



 群れが、一気に御剣に襲いかかる。ビチビチと体を跳ねさせ、その身に赤い霊気をまといながら。当たれば装甲すら貫通する牙がギラリと光ったのが見えた。

 その動きはさながら赤い津波……、だが御剣はただの人間では無い、√能力者であり、剣士であり、格闘者である。身体能力も、タフさもそこらの奴らとは比べ物にならない。

 真っ赤な津波を冷静に捉えながらリミッターを解除、向かってくる奴らの動きを見切り、ぐっと拳を強く握りしめる。
 赤い津波のうち一体が、鋭い牙を光らせた……瞬間

ごぼぉ……ッ!!!

 音が、響き渡った。

 顔面を砕き、自慢の牙が粉砕され吹き飛ぶ津波の一匹……、カウンターの要領により繰り出された、御剣による零距離の殴打は、インビシブルの顔面を砕き吹き飛ばした。

「可愛くもねぇし、面白くもねぇ金魚だ。動きが速くなっても直線的なら至極読みやすい。つまらん勝負だ」

 烏合の衆の方がまだマシだろうと言わんばかりの態度で、御剣は赤い津波たちと対峙する。まだ、奴らの一角を吹き飛ばしただけ。

 さぁ、ここからだ。

 ぐっと強く拳を握り直すのだった。

神鳥・アイカ

「騒ぐだけなら多めに見るけどさ…カタギに手を出したってなら見逃せないね」

 赤い魚のような邪悪なインビシブルの群れを見ながら神鳥・アイカ(境界を滑る者・h01875)は怒り心頭という顔を隠しもせずにつぶやく。

 その怒り具合と来たら、ここに薬缶に入れられた水があるのならば即座に沸騰しそうなほどにカンカン。とはいえ、それで怒りのまま拳をぶち込むほど冷静さを欠いてはいない、むしろ思考は研ぎ澄まされるようにクリアだ。

 先行してきていた他の√能力者の仲間たちには自身の能力と戦い方を伝え、巻き込まれないようにと一声。

「まぁフィジカルには自信があるから何とかなるなる〜後はよろしくね」

 言葉は軽く、だがその身はその言葉よりもさらに軽い。先陣を切って群れに突っ込んだその動きは、まるで滑るように。どこか鳥を思わせるのは、彼女の使用する『岩飛流武術』が、鳥妖が開祖だからだろうか。

 難なく群れの中心にたどり着けば、その拳を握りしめ……向かう先は魚のようなインビシブル達ではなく、その地面。

「この一撃にッ!!」

 気合いの声と共に叩きつけられた拳はその地面のコンクリートを割り散らばせる。いくつか破片が飛び散るが、それは赤い津波を傷つけるほどでは無い。一瞬、動きを止めた奴らではあるが、すぐにまた動き出す。

 だが

「ノーコン?違うね〜わざとだよ。速さ自慢に速さで勝とうなんて考えてないさ、ボクの土俵に引き摺り込んであげるよ!!」

 その動きは明らかに襲い。先程までの津波もかぐやと言わんばかりの速さと動きはどこに消えたのか、愚鈍な魚などいい的だろう。

 にっと神鳥が笑みを浮かべる。役目のひとつは果たした。気負うことはない、なにせここには

「残念残念…狩人はボク一人じゃないんだよ」

 赤い群れがまたひとつ、吹き飛んだ。

神鳥・アイカ

 さぁてと問題はココからだよね 周囲は全部敵だらけ仲間の到着はまだ先と……、そう考えながら、動きが遅くなった邪悪なインビシブルの群れを見つつ神鳥・アイカ(境界を滑る者・h01875)は、ふむと首を傾げる。

 他の√能力者達はまだ到着していないようだ。そして神鳥は、タダで黙ってかじられる程、お人好しではない。むしろ、まだ来ないなら自分がもうひと暴れしてやろうと、ぐっと拳を握りしめる。

 ざっと周囲を見渡して魚たちの位置を把握……量が多すぎて赤い津波のようになっているが、今は逆に好機だ。固まってくれているおかげで、動きを遅くするバッドステータスは多くのインビシブルに撒き散らすことが出来た。そうなれば、宙を漂う魚などただのいい的である。

 間合いは十分……その場でサッと身をかがめてから、地面を蹴って

「さぁ行くよ!!喰らえ!!【岩飛流『小鳥遊』】!!」

 その身が美しく舞うように翻る。当然、ただ美しいだけの舞ではない、固まったインビシブルにとっては、死の舞だ。

 彼女の手から放たれるのは高速の手刀。先程技をひとつ発動させているが故に、少し精密さが欠けるかもしれないが、そんなもの関係ない。

 怒涛の二連撃により、切り裂かれたインビシブルたちが、捌かれた魚のごとく地面に落ちていく。

「ふぅ~…なんとかなった?」
 そうして暫くして、周囲のインビシブル達を捌いてからふぅと息を吐く。なんとかはなったようだが、それにしても

「暫くは魚を見たくないかも?」

 特に真っ赤な金魚系とかは、ちょっとご勘弁願いたいなぁと思う神鳥だった。

幻楼・みづち
伏見・那奈璃
戦闘員六十九号・ロックウェル

「はぁ、ほんとただの観光で現れたのであればどれだけ宜しかったでしょうか、ともあれそんな事を言っても始まりませんね。とりあえずは暴走しているインビシブルを何とかしましょうか。」
 深々と溜息をつきながら、伏見・那奈璃(九尾狐の巫女さん霊剣士。・h01501)はまだ数がそこそこいるインビシブル達を見やる。周囲を見遣れば、他にもこの事態を収めようと何人かの√能力者たちが到着しているのが見えた。これならば、なんとかなるだろうか……。

 たんっ!と地面を蹴って散り散りになり始めた方ではなく、群れの方へ。鋭い牙がこちらを狙おうとするのを上手く避けつつ、ぶわりと広がる九本の尻尾が一気に群れのインビシブル達を蹴散らし数を減らしていく。

「私の尻尾は9本ですからね、手数では負けません。さぁ一気に数を減らさせてもらいます。運よく逃れても貴方の相手はまだいますからね」

 集団戦に向いた範囲攻撃、殲滅力には劣るが、自分は1人ではない。運良く彼女の攻撃を逃れたインビシブル達を視界の隅に収めるが、ここは敢えて追うことはせず、新たな群れ飛び込んでいく。

 そんな風に九本のしっぽが少しずつ群れを減らしていく中、別の群れが吹き飛んだ。

「大物を擦り潰す快感があれば、大群を蹴散らす快感もある……質より量、というのも悪くは無いな
ハ!楽しく喰い合うとしよう!」
 
 そんな声と共にXR-T12 グレーターデーモンという名のモンスターバイクを駆って現れたのは2mを軽く超す巨体、戦闘員六十九号・ロックウェル(ヴィラン・h00728)だった。正義も悪も関係なく、戦いそのものを求める男がこの騒ぎに駆けつけないはずがなかった。

 何匹かのインビシブルを弾き潰しながらも群れの中心を突き進み、あそこか!と一際大きな群れを見つけるとその巨体に見合わず軽々と高く飛ぶとフューリアス・ブラストの体勢に入る。

「『うおおおおおッ!!』」

 咆哮をあげながらその体が空中でひらりと身軽に翻り宙を蹴る。これにより命中力は落ちるが、なぁに奴らは一塊になっているのだ、問題は無い。

 ドォン……!!と爆音、群れのインビシブルたちが大きく吹き飛ぶ。

「……数はどうだ?
まだ居るなら、もっと楽しめそうだな」

 にぃやりと好戦的な笑みを浮かべ、今度は散ったインビシブル達へ一気に距離を詰めていくのだった。
 
「…………」
 
 仲間達の攻撃により大きく数を減らしはじめ、群れも散り散りになり始めた魚のようなインビシブル達を前に、幻楼・みづち(蜃の貝殻屋さん・h01938)は僅かに目を伏せる。

 このインビシブル達は、いわば古妖に乱されたもの……、奴らが現れなければただ漂うだけで終えていたかもしれない。故に哀れではあるのだが、今はもはや人を喰らう者とかした、ならば放っては置けない。

 獣妖暴動体を発動、頭が3つ、足が7つに増える。群れに関しては伏見とロックウェルの攻撃により大きなものはかなり数を減らした。あとは、撃ち漏らされた魚たちだ。

 散り散りになっている、故に一匹でも多くに食らいつくため蹂躪力……より多くを屠る力のため、脚を増やして数をもつ相手と張り合う事とする。

 散り散りなり始めていても、もはやそれは関係ない。増えた頭のひとつが食らいつき、噛み砕く。足を増やしたおかげで機動力も上がっている。より早く、より多く。

 人から見れば大きな金魚のような魚型のインビシブル……だが、幻楼からすればこの程度喰い慣れたもの。強靭な顎は魚に喰らいつけばはなさず、確実に数を減らしていく。

 透明の怪物どもよ、我は汝らを哀れんでいる……弱肉強食の理に浮かされた汝らは、汝らよりも強き者からの蹂躪を受け入れざるを得ないのだから。

 故に、喰らい尽くそう。それこそが、強き者からの哀れみだ。

第2章 ボス戦 『鬼獄卒『石蕗中将』』


 順調に倒されていく邪悪なインビシブルたち。それもそうだ、彼らは古妖の霊気に当てられただけ、√能力者達には歯も立たない。いや、牙か?なんて思いながら、感じた力に桜騎は目を細める。

 おっと、どうやら来なすったようだ。

 ざっ、ざっ、ざっ

 行進の音がする。

 鬼が歩く。

 ざっ、ざっ、ざっ。

 ぎらりと周囲を睨みつける煌々と輝く金色の瞳、鋭い牙と天にそびえる二対の角……。地獄からはい出た獄卒が、部下を引連れてのご登場ってところだが

 おっと、ありゃあ、ちと厄介だ。どうにかこうにか誘導でなんとかならねぇもんかと思ったが……。

 ふむ、と首を傾げてからタッと地面を蹴って√能力者達の前へ

「奴さん、どうやら気が立ってるようだ……。ありゃ、誘導じゃ従わねぇでしょうねぇ。とはいえ、やるこたかわらねぇ」

 邪悪なインビシブル達を倒し、一息ついている彼らに告げる。

「さぁ、次の仕事ですぜ。奴さんを√百鬼夜行に押し込む。力づくでね」

 なぁに、あんたらの力は見せてもらった。これなら大丈夫でしょうよと笑いかける。

 地獄の鬼は、もうそこまで迫っていた。
神鳥・アイカ

 現れた鬼とその配下の者たちは更新していく。ざっ、ざっ、ざっとまるで軍隊のように。おっと、こいつはここに居たら巻き込まれるか?と桜騎が逃げようとした瞬間、爽やかな風が吹き抜けた。

「よし!ボクが相手だ!」
 
 能力値と技能値は3倍に上がっている。脳裏によぎる、どこかの√で見た『あにめの赤いろぼっと?』と同じ性能、なんなら『紅』ということで先程のインビシブル達まで思い出してしまった。いや、しばらく赤い金魚は見たくない。なんなら、ちょっと生臭い感じもして正直お風呂も入りたいけれど、まずはアイツらだ。

 隊列を組んでいるが、いや、だからこそ奴らの反応速度は半減している。そんな奴らに、羽ばたく鳥が捉えられるはずがない。

 ふふふふ…遅い遅いぞ!!

 にんまりと笑ってタッと軽やかに地面を蹴った、彼女の纏う服の萌え袖が無慈悲に奴らを撃ち払う。それはそうだ、ただの萌え袖ではない、インビシブルが宿ってとんでもなく頑丈なのである。それこそ、奴らを撃ち払えるほどに。

「このっ!!」
「遅いって!」

 配下の一人がこちらに切り込もうとしてくるのをあっさりと避けて、サッと体を屈めると足払い、その流れのまま頭を地面に着けてぐるりと素早く回ればその足によって配下たちが蹴り飛ばされる。

 軽々と戦場を駆け巡る神鳥に、配下のみならず石蕗中将も翻弄される。反応速度が落ちている今、捉えきれないのだ。

「クソっ、小賢しい鳥を捕まえろ!!」

 喚く、叫ぶ、だが石蕗妖鬼衆は少しずつ後退し始めるのも狙い通り。冷静な目で奴らの動きを見ながら、関係ない場所へ逃げぬよう神鳥は奴らを追い込んでいくのだった。

マハーン・ドクト

 神鳥が戦場を撹乱し始めた頃とほぼ同時、いつの間にかその空は重い雲に包まれ、ぽつ、ぽつ……と雨が降り出し、それは視界を悪くするレベルにまで達する。

 とはいえ普通の雨であれば戦場にいる者にとっては、気にする暇もない。命のやり取りの中、天候の変化は考慮すべきことではあるが、それで攻撃を緩むものが居ないのも事実。

 そこを歩いてくる男が一人……頭を覆う仮面ごしに、獄卒たちを見やる。

「悪いけど、ここから先は進めない。大体、その風貌だと地獄が住所だろ。ここにお前の仕事する場所はないよ。」
「何者だっ?!」

 石蕗中将の言葉に取り出すのはスマホ、たったっと慣れた動きで認証コードを入力!途端、光を放つスマホを構え目を閉じる。

「………転身開始。」

 その身が青いスーツに包まれ、ふわりと更に黒いレインコートを纏う。

「始めようか。雨の中でなら、「俺は弱くない」ぜ?」

 相手のスピードと数は多少なり厄介だが、その代わり反応速度は落ちている。ぐっと握り込められた拳、新たな邪魔者を殺さんと襲いかかる配下の者たちを拳で牽制する。

 なにも、徒手空拳で倒すつもりは無い。そう、マハーン・ドクト(レイニーデイ・ホールインザウォール・h02242)には切り札がある。

 石蕗中将は配下の者に激を飛ばしながら周囲を見やっている。いくら配下のものがいれど、指示を出すのはあの男……そしてこちらは徒手空拳を使えど、それがメインの攻撃方法では無いのだ。

……そこだっ!!

「背中、ガラ空きだぜ!」

 決戦気象兵器「レイン」によるレーザー射撃、それが石蕗中将の背を襲い、舞い散った赤は大雨に流され消えていく。

 まるでお前の居場所はここではない、そう告げるように……。

御剣・刃

「腕に覚えのある奴らしいな
ふふ、俺の中の鬼が闘わせろって叫んでるぜ
さぁ、やろうか。俺とお前、どっちが最後に立ってるか、勝負!」

 ぐっと拳を握りしめ、にぃやりと好戦的な笑みを浮かべて御剣・刃(真紅の荒獅子・h00524)は告げる。普段こそのんびりとした好青年であるが、その根は強い相手と戦うことに飢えている修羅である。

「鬼、貴様が鬼だと?笑わせるな!!」

 戦場が赤く染め上げられる。魔獄刑場によりその風景が塗り潰され、石蕗中将が持つ鞭が襲いかかってくる。たかが鞭では無い、その身の力が上がった今、その一撃は肉を割き、骨を砕いてくるだろう。

 だが御剣はその動きをその身に培う経験が故に予測し、攻撃のタイミングを計って避ける。修羅であれど、冷静に思考しなければ負けるのはこちら。

 もちろん、避け続けられる訳でもない。目を細め肉体のリミッターを解除、同時に肉体改造で反応速度と身体能力を限界以上にあげていく。繰り出される高速の鞭の攻撃を避けながらぐっと強く愛刀である獅子吼を握りしめる。

 狙うのは隙ではない、奴に最も重い一撃を与えられるタイミングだ。

「はあっ……!!」

 その身に纏う古龍の神霊……!相手の動きが僅かに遅くなる、いな、自身の動きが速くなったのだ。とはいえ、まだ速さでは1歩及ばず、無傷で奴を切り裂くのは難しいだろう。

 そう『無傷』では

「っっ!!」

 鞭が自身の肉を切り裂くのも構わず、踏み込んだその一撃は、石蕗中将へ追いついた。

 互いの体から舞った鮮血が地面を汚し、すぐにまた赤黒く染みていく。

「ふふ。自分の馬鹿さ加減に笑っちまう。さぁ、逃げるんじゃねぇぞ。大将!」

 まだ、戦は始まったばかり。自身から流れる血を止めもせず、御剣は獰猛に笑って見せたのだった。

伏見・那奈璃

「困ったものですね、素直に誘い込めたらよかったのに。」

 フゥとため息をひとつ、こちらとしては真正面でぶつかるより、誘導して押し込んでしまいたかったのだが、まあ仕方ないと伏見・那奈璃(九尾狐の巫女さん霊剣士。・h01501)は霊剣を構える。

 とはいえだ。

「まぁ、虫の居所が悪いのは此方も同じです。全力で押し返すとしましょう。」

 先程は妖術を使用したが、伏見の力はそれだけではない。ぐっと握りしめた霊剣……、神霊・麒麟が彼女に纏い顕現される。

 バチッ……雷のような霊気が彼女の周囲に散った。

 麒麟の霊剣士、それが彼女のもう一つの顔だ。

「小娘がぁ!!」

 石蕗中将が吠える。その場が赤黒く染め上げられる。元の風景を塗りつぶし、地獄が現れる様子に、けれども伏見は動揺しない。

 シッ!
 キィン!!

 鋭い鞭の一撃を太刀が防ぎ、いなす。相手の技を、攻撃を、冷静に見ながらグッと霊剣を強く握りしめる。

 いなした瞬間の僅かな隙、すかさずその間合いに入り込んで渾身の一撃のために構えた。一太刀必殺が伏見の基本剣技であるが故に。

 そしてその間合いに入った瞬間、雷が走るかのような一閃……!!

「雷光閃!!」

 その一撃は、確かに鬼を断った……!

戦闘員六十九号・ロックウェル

 ハ!地獄の鬼か……喧嘩相手にはお誂え向きだな!
 気が立っているなら逃げられる心配もあるまい、こいつは楽しくなりそうだ……!

 にぃやりと笑って戦闘員六十九号・ロックウェル(ヴィラン・h00728)は、僅かに考えて物は試しだとその身を変える。

 ショットシェルフォーム、パワーとスピードを向上させるその形態は、式神鬼たちを召喚したことでスピードの落ちている奴ら相手ならば十二分に効力を発揮するだろう。

 ダンっ!と地面を蹴り、取り巻きの一体へ接敵、その身体を打撃により吹き飛ばす。スピードと共にパワーが上がったロックウェルの拳は軽々と式神鬼を吹き飛ばし、道が開かれる。追撃は今行わない、向かう先は獄卒石蕗中将だ。

「ぐうっ?!」

 スピードは現状、ロックウェルの方が上、当然向こうもただで懐に入らせまいと鞭を振り上げるが、それよりもロックウェルが入り込む方が先だった。

「おぉっ!!!」

 力強い打撃と共に石蕗中将に浴びせられるのは弾丸、ロックウェルの両腕両足についた発射機構による零距離射撃は石蕗中将の体を大きく後退させ、それでも踏ん張った彼の指揮により、式神鬼が再度ロックウェルに襲いかかる。

 だがそれすらもにぃやりと笑って、ロックウェルは拳を構える。

「ハ!取り巻きが邪魔だな!
 お前を殴り続ければ引っ込めるか?
 どちらでも俺は楽しいがな!」

 そう、まだ戦いが続くのであれば願ったり叶ったり。闘いが彼の全てなのだから。

幻楼・みづち

 石蕗中将と√能力者達の戦いはそろそろ佳境へと差し迫っていた。

 奴が召喚した式神鬼達は√能力者達に及ばず、奴自身も少しずつ疲弊し始め、その身は後退し始めている。それでもまだだとばかりにその周辺がまたも魔極刑場へと変えられていく。幻楼・みづち(蜃の貝殻屋さん・h01938)はそれを見ながら、その身を変えていく。

 龍種である彼女の体は人間などよりも遥かに巨体、そして石蕗中将をここで倒す必要は無い、√百鬼夜行へ押し込めれば良いのだとなれば

「なっ?!」

 幻楼の体が真っ直ぐに石蕗中将へ向かっていく。これ以上ないほど単調な動き、交戦していた他の√能力者達は彼女の動きに一瞬目を見張るも、すぐに彼女へ道を譲るように、あるいは巻き込まれないように距離をとる。

 なにか考えがあるのだと、分かっているかのように。

 その逆に、石蕗中将は馬鹿めと言うように鞭を構えた。迎撃する体勢に、幻楼は更にスピードをあげ、その右腕を突き出した。

 ルートブレイカー、それは√能力を無効化する力、触れなければならないという制約はあるが、その力は絶大だ。

「なにっ?!」

 その右掌が石蕗中将の体にぶち当たる。√能力が無効化される、そうなれば当然、奴は無力になる。

 塗り潰していた刑場が消えていき、元の風景に戻っていく。そのまま、幻楼はその巨体を生かして突進の勢いのまま、更に強くすぐ近くにある路地へ石蕗中将を押し込む。

 何も無いように見えるその路地……だが、√能力者達だけにだがわかる、ここには√百鬼夜行への『道』があるのだ。

「貴様のような古妖は存在するだけで碌な事にならん。早々にお帰り願おう」

 ぐっと石蕗中将の体を押し込みながら、幻楼はそう静かに告げたのだった。

第3章 ボス戦 『大妖『荒覇吐童子』』


「くそっ!くそっくそくそっ!くそがぁ!!!」

 √百鬼夜行へ押し込まれた石蕗中将が怒りに元から赤い顔をさらに赤く染めあげて咆哮する、その姿が変わっていく。

 かつてこの地で暴れ回った古妖がその正体を表す。

「殺す!ころしてやる!!」

 自身を追いやった√能力者達へ怨嗟の声を上げながら叫ぶ者、それは鬼。

 大妖『荒覇吐童子』は、怒りに身を震わせながらその右腕を燃え上がらせ、√能力者達を強く睨みつけたのだった。



「さて、最後の〆ですよ」

 やっと正体を表したかと思いながら桜騎は目を細める。これが大詰め、あともう一歩だ。

「頼みやしたよ、皆さん」
神鳥・アイカ

 ずしりと感じる威圧感に神鳥・アイカ(邪霊を殴り祓う系・h01875)は、意識して息を吐き出す。

「五月蝿いなぁ、殺すって言い過ぎると弱く見えるよ」

 そう言いながらも、心中では奴を甘くは見ていない。その覇気は神鳥にもビリビリと伝わり、武者震いに体をひとつ震わせてから、にっと笑みを浮かべる。

 凄い威圧感…
 コレが『岩飛様』が話してた古き鬼に伝わる古の格闘術を使う、大妖『荒覇吐童子』覇気……

 話を聞いたことはある。自身が生まれるよりも昔、暴れ回った鬼の話……そいつはやっとこさ封じられたとの事だがなるほど、この覇気は確かに大したもの。

 こくりとひとつ頷いて、ぐっと拳を構える。

「あは、相手にとって不足無し
岩飛流、神鳥・アイカ推して参る!!」

 タンッと地面を蹴って、まるで空を舞う鳥のように爽やかな風を纏って荒覇吐童子の前に表れる。√能力、【先陣ロマンチカ】により、その体の力は跳ね上がっている。

 正面から堂々と急接近をすれば当然ながら向こうも気付かぬはずは無い。空を舞い滑空してくる鳥のような神鳥を見やり、眉間に皺を寄せる。

 奴は自身を追い込んだ√能力者の1人、先程も邪魔をされたのを思い出し、怒りにその右腕を燃え上がらせる。

「はあああっ!!」
「っと!」

 突き出される炎を纏った右腕を見切りによって避け、こちらも拳を握る。空を舞う鳥は、鬼の懐へと入り込んだ。

「岩飛流の真髄。型無き型を魅せてあげるよ」

 岩飛流は『手刀』と『滑るような特殊な歩法』を使う技、素早く、流れるように。自身の死角から襲いかかる連撃に、荒覇吐童子の体は傷ついていく。

「貴様ァ!!」

 当然ながら向こうもタダでやられるわけは無い、炎を纏った右腕を振り上げ、自身に連撃を仕掛ける鳥を叩き落とそうとする。その一撃は当然ながら重いが、速さは神鳥の方が上、流れるように交わし、時には撃たれる前提で自身に霊的防護を施して耐える。その程度で優雅に舞う鳥は止まらない。流れる六連撃は少しずつではあるが荒覇吐童子の体にダメージを与え、動きが鈍っていく。

「これで、最後っ!!」

 最後の一撃、力強く荒覇吐童子の首筋に入った手刀は奴の動きを強く鈍らせ、その瞬間に神鳥はサッと後方へ離脱する。

 勿論、撤退する訳では無い、その体はまだ舞える。だが、あくまで先陣を切っただけであり、彼女は感じ取っているのだ。先程、共に戦った仲間たちが到着したと。

 最後の攻撃はマヒ攻撃、当然ながら大妖である奴の動きを完全に止められるわけではない、ないが、その身の動きを鈍らせることは出来る。そしてそれは確かに、次の仲間へのバトンへとなるのだ。

幻楼・みづち
マハーン・ドクト

「汝は力押しが得意そうだな。我もここまで割と力押しだった自覚はある。強力な力があるならば、それを使うのは当然よな。最後までそうさせてもらおうか」

 神鳥による攻撃により、相手の動きは鈍り始めているがそれでもまだ奴はやる気だ。そもそも強大な力を持つが故に無数に分割されて封印された古妖が、その一欠片と言えども自身の攻撃だけで沈むと幻楼・みづち(蜃の貝殻屋さん・h01938)は考えてはいない。

 自身がやるべき事は奴を更に弱らすこと、確実に負傷を増やしその力を少しでも削ぐ事だ。

 ごきり、と体が変化していく。あの赤いインビジブル達を倒す時も使用した√能力、獣妖暴動体。
 だが、あの時よりも幻楼自体の力が上がっている故だろう、増やす数は増えている。

 二首を持ち上げ6足で地面を踏み鳴らし、こちらも6つに増えた腕が荒覇吐童子に狙いを定める。

「ガアアアッ!」

 二首が吼える。√EDENでも降っていた雨は、こちらでも地面を濡らしぬかるみが足元を滑らすが、6つに増えた幻楼の足はぬかるみ程度に取られることはなく、しっかりと踏み込んで荒覇吐童子に向かっていく。

「おおおおっ!!」

 こちらもマヒにより動きが鈍っているとはいえそこは力を持つ古妖、そう簡単に取らせまいと炎を纏った腕を振り上げ幻楼を貫かんとする。その身に流れる鬼の血を右腕に集中すれば視界に納めた幻楼の【隙】が見える。いや、幻楼とてわかっている。何も無傷で奴に傷を負わせようなどと思っていない。これは捨て身の攻撃、この身が死んだとて喰らいついてやるとあえて突っ込んでいく。

 その口はやつに喰らいつく為に、その腕は奴を貫くために、その足は力強くかけるために……

 雨粒が地面を跳ねる。

「レイン砲台起動。ガトリングコールスタンバイ。」

 幻楼がその身も構わず喰らいつこうとした時、雨音に混じり声が響く。

 雨は降り続いてる、ずっと……雨に濡れぬ者はいない、そしてたとえ僅かなりといえども雨に足は取られる。故に、彼は……決戦気象兵器「レイン」を操るマハーン・ドクト(レイニーデイ・ホールインザウォール・h02242)は弱くなどない。

「突然の霧雨にご注意ください。濡れずにいられると思うなよ?」

 |R・G・C《レイニーデイ・ガトリングコール》、雨によりプリズムレーザーは分散され、乱反射され、そして収束される。

 荒覇吐童子の視線は、自身に真っ直ぐ向かってくる幻楼に集中していた。故に、マハーンの攻撃への反応速度が遅れた。

「ぐうっ?!」

 レーザーが荒覇吐童子の体を貫き、血が吹き出る、その動きが止まる。その瞬間、幻楼の強靭な顎が荒覇吐童子の体に喰らいついた。

 だが本命はそちらではない、ごきりと腕を鳴らし、その身を強く貫く。

「がああっ!!!」

 荒覇吐童子の口から鮮血と共に悲鳴が上がった。ギリリと幻楼の顎は離れない。死んでも喰らいつく、喰らい続ける、その意志の通りに。

 荒覇吐童子の右腕が振り上がる。自身を喰らう不届き者を貫こうと。

 だが、その腕はレーザーによって弾かれた。

「悪いが誰も死なないし、殺させない」

 雨は降り続いている。濡れないことなど不可能だ。

「だいぶあったまってるみたいだからな。少し、頭を冷やしていけ!」

伏見・那奈璃
御剣・刃

「あらあら、変化してしまいましたね」
 
 真の姿を表した鬼に目を細め、伏見・那奈璃(九尾狐の巫女さん霊剣士。・h01501)は刀を構え思案する。

 奴は大分弱り始めている。他の√能力者たちによる攻撃やステータス異常はいかな古妖といえど、じわりじわりと追い詰めるには充分だった。あともう一手、二手で詰みといったところか。

 ちらり、伏見は隣に目をやる。そこには男が1人、先程修羅と呼ぶにふさわしい闘いをしていた御剣・刃(真紅の荒獅子・h00524)だ。

 御剣は古妖としての姿を現した荒覇吐童子を見やって、くつり、と嗤う。

 鬼か
 お前は俺如きがどうだって笑ったな
 その笑った相手に追い詰められてるお前はなんだ?今度は俺が言ってやる。お前程度が修羅を語るな

 闘いに御託はいらないと御剣は吐き捨てる。ただ強いやつが勝ち、弱いやつが負けるだけのこと。

 御託を語った時点で、奴は修羅を語る資格等なしとばかりに。

「前に出て動きを抑えてみます、後は宜しくお願いしますね」

 じっと荒覇吐童子を見ていた御剣に一声告げて、伏見が足を踏み出す。

 確かに弱り始めているが、それでもやはり大妖の一欠片、一人で戦うより仲間と連携をはかり、押し切るのが1番だと判断をしながら。それに御剣もこくりと頷く。

 大妖荒覇吐童子を追い詰める最後の二手が、ここに揃った。



「神霊来りて、顕現せよ・・・麒麟」

 神霊・麒麟が伏見の体に宿る。ダッと地面を蹴り、一気にその距離を縮め荒覇吐童子へ肉薄

「ぐう!」

 荒覇吐童子の巨大な爪が伏見を切り裂き解体せんと迫るのを構えた霊刀で受ける。

 ガキィーーンっ!

 辺りに鋭い音が響き渡った。荒覇吐童子の無数の人々や妖怪を切り裂いた鬼爪は、鋭く、素早く伏見に迫る。

「くっ!ふっ!」

 重い一撃だ。これまでの戦闘で弱り始めているとはいえ、そこは大妖、気を抜けばこちらがやられる。幾度も行われる鍔迫り合い、伏見は一瞬御剣に目をやり、彼の攻撃のタイミングを測りながら時に受け流し、時に打ち込む。

 撃破するのが目的ではない、自身の役目は敵の攻撃を引きつけること、そして奴の隙を作り出すこと。

 ちりっ、と伏見の感覚が御剣の覇気を感じ取る。荒覇吐童子も当然ながらそちらに一瞬目がいくが、その隙に奴に霊能波を打ち込み、よろけた瞬間に【麒麟・雷光閃】を打ち込む。

「ぐうっ?!」

 荒覇吐童子が呻き声を上げてわずか後退したのにすぐさま足を踏み込んで刃を振り下ろす。

がきぃーんっ!!

 鬼爪と霊刀が交差し火花が散る。
 
「さぁ、余所見はしないでこの小娘と踊ってくださいな」

 余所見をさせるほど、甘くは無いですよ?伏見の顔に美しく蠱惑的な笑みが浮かんだ。



 そんな二人のやり合いを見ながら、御剣は意識して呼吸を深くし、身体のリミッターを解除する。現状、伏見がやつの気を引いているが、いつまでも1人で戦わせる気などない。

 そもそも、自身は修羅、闘いを求めるもの、強さを求めるもの。

 リミッターが解除されたことにより、身体能力の限界を無くす。更に肉体改造で限界以上に感覚を強化、強化されきった身体と感覚はやつの動きを捉え、更にはやつの次の動きも捉える。

 それは長年修羅として剣を、拳を振るい続けたが故の戦士としての感覚。

 荒覇吐童子が爪を振り上げる、伏見がそれを受け、剣を振り上げる。それは普通の人間では捉えられないほどの動き、だが御剣はしっかりと捉え

ーーここだーー!!

 ぐっと踏み込んでほんの僅かな爪と剣の隙間を縫って荒覇吐童子の懐に

 やつが、大きく目を見開くのが見えるのに、にぃと笑う。

「鬼を語るなら、勝ち負けにくだらん理由を持ち込むな。それで俺と対等だ。阿呆」

 ぐっとその腕に力を込める。この一撃に全てを込めて、御剣はその剣を振り上げたのだった。

「あっ、あああああっ!!!」

 √能力者達の度重なる攻撃に荒覇吐童子は体を震わせよろける。

 やつの身体は血塗れで、傷がないところを探す方が大変な有様であった。もはや、立っているのもやっとだろうに、それでも、目の前の奴らを切り裂かんと爪を振り上げる。

 だが、それももはやただの悪足掻き。

 背後には古妖を封じていた塚が、今か今かと口を開けて待っているのだ。



 
「これにて、悪い妖怪は再度封じられたのでした。めでたし、めでたしってね」

 重い空気はなくなり、いっときの平和が訪れる。お互いの健闘を称えあう、あるいは何も言わず立ち去る、それぞれの道を歩む彼らは、また自身の生活に戻るのだった。

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