星降る夜の秘密のお茶会
お茶会がしたい! その言葉は天啓のように夕星・ツィリ(星想・h08667)の脳裏に閃いて、ツィリは衝動のままに立ち上がる。
「お茶会をするなら、素敵なお菓子と紅茶が必要だよね」
ケーキにマカロン、ゼリーにチョコレート、スコーンだって忘れちゃいけない。
「そうと決まれば買い物に行かなくちゃ!」
お気に入りのワンピースの上に、新しく買ったケープコートを羽織って、いざ出発!
「前に教えてもらった美味しいって評判のパティスリーは……あった!」
青を基調としたパティスリーは、どこか懐かしさを感じるような色合いでツィリはそっと扉を開く。カラン、とドアベルの音と共に店内へ入れば、星空と海の境目にいるかのような心地になって、ツィリは瞳を瞬いた。
「素敵……!」
壁から天井にかけて嵌め込まれた青いモザイクタイルはグラデーションを描くように色濃くなって、吊り下げられた星型のモビールが室内灯の光を反射しながら揺れている。そして、ショーケースに視線を向ければ、星屑のグラスゼリーや夜空のマカロン、三日月が飾られたプチケーキなどがツィリを待っている。
吸い寄せられるようにショーケースの前に立ち、あれも、これもと買い求め、気が付けば片手にずっしりとした重さのショッパーを持って、通りを歩いていた。
「たくさん買ってしまったけれど、どれもお茶会には必要だもんね」
ああ、早く帰って素敵なお茶会を開かなくっちゃ――そんな風に帰路を急ぐツィリの瞳に、星が瞬いた。
「……素敵!」
立ち止まったツィリの視線の先には、フレームが丸く弧を描いたハイティースタンド。トップには青いリボンが揺れて、淡いブルーのプレートは縁が金色に輝いている。
「お茶会といえば、ハイティースタンドが無くちゃ始まらないもんね」
一目惚れしてしまったスタンドも購入し、急いで家に帰ればお気に入りのテーブルにティーセットを用意して、ハイティースタンドにスイーツを並べていく。
「せっかくのハイティースタンドとスイーツだもの、会場だって素敵にしなくちゃ!」
可憐な唇から星々の物語が紡がれれば、ツィリの私室はあっという間に濃紺色の夜空へ書き換わる。星が瞬く夜空の下で、ふわりとした紅茶の香りが甘い時間の始まりを告げれば、無敵のお茶会――。
素敵なアフタヌーンティータイムのはじまり、はじまり!
「どれから食べようかなぁ」
お店で悩みに悩んで厳選したスイーツはどれも美味しそうで、思わず幸せな悩み事を口にする。アフタヌーンティーは下段から食べるのがマナーだとは言うけれど、この場にいるのはツィリひとりだし、見ているのは煌めく星々だけ。
「うん、グラスゼリーに決めた!」
そっと手に取って、貝殻デザインのスプーンで一口掬いとり、唇へ。
「ん~美味しい!」
口いっぱいに煌めくような甘さが広がって、幸せな気分も一緒に広がっていく。
「次はどれにしようかなぁ?」
ねえ、どれがいいと思う? なんて星空を眺めてみれば星々が瞬いて答えてくれる。
「ふふ、それじゃあスコーンだね」
手に取ったのは綺羅星のミルクスコーン、星の形をしたミルクスコーンにブルーベリージャムとブルーシュガーが鏤められたクロテッドクリームは最高の相性だ。
「さくさくほろほろで、香ばしくって、甘くって……!」
思わず足をじたばたさせたくなるくらい、素敵なお味。指先を軽く拭いて、貝殻の形をしたティーカップを持って紅茶を飲むと、ツィリはほっと柔らかな吐息を零す。
「とっても贅沢だけど、のんびりする時間もときには大事だよね」
誰からも返事はないけれど、流れ星がきらりと流れていき、ツィリは嬉しそうに微笑みながら次のスイーツへと手を伸ばす。
「店員さんにおすすめして貰ったこれ、お味は……」
どうかな? なんて思うよりも、まずはその美しさに目を奪われてしまう。
小さなケーキの表面は、まるで夜空を閉じ込めたような艶やかな青。グラサージュと呼ばれる手法で作り出された夜空の上には金箔シュガーが鏤められ、三日月を模したホワイトチョコが飾られていた。
「食べるのがもったいないくらい!」
でも、食べちゃうのよね! と笑ってフォークを入れると、しっとりとしたスポンジの間からブルーベリーソースがじゅわりと零れ、甘酸っぱい香りが広がって、ツィリの口の中へ!
「~~~っ! 買って正解!」
美味しい、とツィリが喜ぶと星々もきらきらと輝いて、まるで拍手喝采のよう。
「やっぱりアフタヌーンティーは最高だよね。今が何時でもお茶と言えばアフタヌーンティーの午後3時!」
またひとつ、世界の素敵な味を知って――星と海に煌めく14歳になったばかりの少女は嬉しそうに笑った。