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今日はにゃんの日

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柳・依月
四季宮・昴生

 二月二十二日、三連休のまっただなか。柳・依月は、自宅でぼんやりと暇を持て余していた。ついでに言うと、たまには自分の身元引受人である刑事さんのために何かしてあげたい。
「……にーにーにー」
 にゃあ、にゃあ、にゃあ。インターネットで数年前から盛り上がっている語呂合わせの、猫の日。
「よっし」
 思い立ったが吉日、日頃から神経質すぎるばかりにストレスを溜めてしまいがちな彼を癒してやってもいいんじゃね? そうしてネットロアは、インターネットミームへと早変わりしたのだった。

 さて、本日の四季宮・昴生も、|警視庁異能捜査官《カミガリ》としての仕事に追われていた。書類仕事は勿論のこと、いつ危険な怪異が出没するかわからない。三連休であろうとも、彼が休む暇などあるはずもない。
「……ふぅ」
 缶コーヒーのなかでも無糖を選んでいるはずなのに、何故こんなにも甘ったるいのか。とはいえ、多少の糖分を流しこめば、頭もすっきりしてくるかもしれない。
 貴重な昼休憩はあっという間に終わってしまう。そろそろ部署へと戻る頃合いか、とコンビニの駐車場から移動しようとした時のことだった。
「にゃう」
「……ん?」
 昴生の足元にすりよったのは、かわいらしい黒と白のハチワレ猫。ちょこんと座りこんだ猫は、機嫌良さげに尻尾をふるり。
「……」
 おぞましい蛇神に憑りつかれて以来、男に近寄る動物は一匹たりとも居なかった。なぜ、一体。
「……おい、どうした」
 そんなカミガリは、猫の扱い方などひとつも知らない。困った挙句、そんな声をかけてしまった。

 ごろごろと喉を鳴らす猫――に、変化した依月は内心思った。ばっちりだ、と。
 普段かわいい生き物に振り向いてもらえない昴生に、ちょっとばかしの癒しを与えてやる。妖である依月だからこそできるプレゼントじゃないか。
 もしも正体が自分であるとバレたら間違いなくブチギレることは予想できる――が。
(まぁバレなきゃいいだけだし!)
「にゃあん」
 ぐるぐるごろごろ、ご機嫌な様子のハチワレを無碍にすることもできず、昴生はもう一度声をかけた。
「悪いが、俺はもう行かなくちゃならない。お前にやれる食事も持ってない」
 こいつ猫にもこんな態度なのか。どこまでも情緒がない昴生に、心の奥で呆れる依月。とはいえ、普段人間に対応する時よりも、カミガリの言葉はやわらかいような気がしないでもない。
 三連休ですら仕事に追われ、むしろ仕事を追い抜くレベルでみずから忙しくしている昴生のことを想えば、これくらいの息抜きだって悪くないはず。
 ――そこで依月は調子に乗った。

「んー」
「お、おい」
 ぎゅ。革靴にぐりぐりすりすりくっつく姿は、もはや妖怪すねこすり。さぁさぁもっと心を開くべし、とおなかも見せてきゅるんと見つめると、静かに昴生との目が在った。
「――ん?」
 カミガリは違和感に気づく。独特の色彩をもった双眸は、なんだか妙に見覚えがある。それはつい最近も、なんなら数時間前にも見たような――。
「……おい、人の足元でなにやってる、柳」
 バレた。しかしここで慌てる依月ではない。なんのこと、と言わんばかりに首をかしげれば、むんずと首根っこを掴まれた。
「にゃっ」
「お前がそのふざけた姿で永遠に居たいというなら、解剖してやってもいいんだぞ」
 あ、やっべ。すぐさまふわりと姿を現したのは、和洋折衷の着こなしを愛する大学生。
「お前はまたろくでもないことを!」
「誤解だって、俺は四季宮さんの日頃の疲れを癒してやろうかなって思っただけでさぁ」
 にこにこと笑ってなんとかこの場を凌ごうとするものの、昴生の怒りのオーラはかき消せない。これはもはや、逃げるしかない。
「ま、猫の日おめでとうってことで! じゃあ!」
「柳!!」
 ふわり、あっという間にその場から消えてしまったネットロアに、わなわなと怒りで震えるカミガリ。
 そんなふたりのやりとりを見ていたのは、遠巻きに覗いていた野良猫達だけなのだった。

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