シナリオ

かふんしょう~極彩色の輝きを添えて~

#√汎神解剖機関 #クヴァリフの仔 #受付中 #ゲーミング #3月15日(日)8時30分受付開始 #3月19日(木)8時30分締切

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 #√汎神解剖機関
 #クヴァリフの仔
 #受付中
 #ゲーミング
 #3月15日(日)8時30分受付開始
 #3月19日(木)8時30分締切

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 ――√汎神解剖機関。
 行き詰まりの、どん詰まり。
 ――くしゅん。
 そんな閉塞感に閉ざされたこの√にも、春という季節はやってくる。
 長閑な日差しに、普段よりも少しばかり陰鬱な空気も和らぎ、少しばかり浮かれ気分の者も出てくる様な、この季節。
 ――くしゅん、ずび。
 少し鼻が出るが、初春の寒暖差で風邪でも引いただろうか。
 ――ずび。
 ふと、ある者が山を見る。
 今年は春が少し早い気もするが、山々も花粉シーズン真っ盛りを示す様に、それはそれは色鮮やかな赤に染まっているではないか。
 あの一帯なんて、赤に、緑、黄色。そう、紅葉のシーズンは、こんな……。
 ――くしゅん。
 …………。
 …………いや、待てよ。黄色はおかしい。
 あの山、スギ山じゃなかったか?

 ――ずび。ずび。

 その日。突如大量発生した奇怪なカラーリングに輝く杉から、これまた珍妙なカラーリングで輝く大量の杉花粉が、麓の街を襲ったのであった。


「花粉!ゲーミング!なんて取り合わせにゃ!二重の意味で目が痛いにゃ!」
 星詠みの半人半妖の子猫、|瀬堀・秋沙《せぼり・あいさ》は思わず目をくしくしと擦りながら、その思わず耳を塞ぎたくなる様な大惨事を極めて端的に、そして実にうんざりとした表情で集まったEDENたちに告げた。
 処は√汎神解剖機関の地方都市。その都市に聳える小山の一部が、突如としてゲーミング発光する杉に覆い尽くされたという。
 ――またゲーミングか。
 それを聞いて、急ぎ回れ右をした√能力者を子猫は止めなかった。
 それもその筈。ゲーミング発光が関わる依頼で、今まで(関わった敵を含め)碌な事になった試しがない。
 しかも今回は国民の5割以上が罹患しているという、この日本の国民病たる花粉症。
 その大本たる『杉』が関わっているのだから、さもありなん。
 あまりにも目に優しくない事が解り切っているのだ。
 その勇気ある撤退を止める事など、どうしてできようか。
「だけど、今回はクヴァリフの仔まで関わってるから、捨て置く訳にもいかないのにゃ……」
 それを先に言って欲しかった。とんでもないブツまで関わっていやがった。
 退席しそびれた不運な√能力者が、渋々と席に戻る。
 つまり。どっかの|狂信者《莫迦》どもの、どうしようもないやらかしである。

 ――『クヴァリフの仔』

 少しおさらいをするならば、仔産みの女神『クヴァリフ』が齎した手法によって喚び出される、ぶよぶよとした触手状の怪物であり、それ自体はさしたる戦闘力を持たない。
 しかし、他の怪異や√能力者と融合することで宿主の戦闘能力を大きく増幅するという特性を持つ。
 これをゲーミング杉の植林に邁進する狂信者たちよりも遥かに危険な組織に渡れば、惨事の発生は免れないであろうし、『クヴァリフの仔』からもまた、人類の延命に利用可能な|新物質《ニューパワー》が得られる可能性を持つという。
 EDENたちは1年程に渡ってクヴァリフの仔の奪取・生け捕りを行ってきたのだ。今回も、この形式の類型である。
 ――以上、おさらい終了。

 どうも連中、間伐され、新たに花粉を飛ばさない杉に樹種転換されようとした区画にゲーミング杉を植樹しやがったらしい。なんて余計な事を。
 そして、杉は見る見る内に伐期齢並のサイズにまで成長し、目に痛い1680万色の輝きを発しながら、あらゆる手を尽くして目にダメージを与えてくるゲーミング花粉を撒き散らし始めたという訳である。
 本来、杉の標準伐期齢までは35~50年かかるため、木材としては夢の様な存在と言えなくもないが、その対価があまりにもどうしようも無さ過ぎる。
 奇怪に輝く杉の植林事業により、何故クヴァリフの仔が召喚されるのか、因果関係は全く不明だし知りたくもないが。
 兎に角、先ずはこのゲーミング杉を片っ端から伐り倒して頂きたい。防火帯を作って延焼を防げるのなら、焼き尽くすのだってありだ。
 元の間伐地に戻せるのであれば、一切の手段を問わない。
 なお、ゲーミング杉林を皆伐すると儀式の妨害に怒る狂信者たちが呼び出した怪異の群れが現れるらしいが、なんだか目が赤くなっているらしい。
 なんなら、酷い現場に呼び出した狂信者たちを半殺しにしてから、涙目でEDENたちに襲い掛かってくるらしい。
 分かり合えそうな気がしなくもないが、残念ながら危険な怪異である。花粉症的な意味でも涙を堪えて、退治してほしい。
 怪異の群れを退ければ、配下に半殺しにされてなお諦めない狂信者たちが召喚した、本命の怪異と対峙する事となる。
 ……何というか、こう、天を突く様に聳えているらしい。
 戦ったことがある者なら、何となく察しは付く事であろうが。
 アレにクヴァリフの仔を捧げたところでどうなるのか、甚だ疑問であるが。
 まあ、兎に角叩きのめしてクヴァリフの仔を回収して頂きたい。
「マスクとか、花粉防止眼鏡とか、目薬とかアレルギー用のお薬とかちり紙とかゲーミング発光対策のサングラスとか、色々用意してってにゃ……!
 みんなの目と鼻の無事を、猫は祈ってるにゃ……!」
 子猫は沈痛な面持ちで、恐ろしく目に優しくない現場に向かう、勇気ある√能力者たちの背中を見送るのであった……。

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第1章 冒険 『ゲーミング杉』


 ――春霞。
 言わずと知れた、春の季語である。
 水蒸気、或いは偏西風によって運ばれた黄砂、或いは花粉によって霞が掛かる光景を差すという。

「――うわぁ」

 そして、この現場を訪れた誰かの第一声がこれである。
 空気は微かに約1680万色に輝くゲーミング春霞に覆われ、天に輝く太陽の周りには|日暈《ハロ》……いいや、ゲーミング花粉光環を確認する事が出来た。
 その全てが紛う事なく花粉であるのだし、花粉症でなくても見ているだけで目が痒くなり、鼻が緩くなる気もする。
 陰鬱な気配が漂い、ひとを発狂させ得る怪異が蔓延る√汎神解剖機関であるが、この無暗に明るい光景に長時間曝されていても、やはり正気度が削られていくのではなかろうか。
 そして何より、目の前の山林の一区画。如何なる植物にも有り得ぬ、目に刺さる様なゲーミング発光を示す針葉樹たちが聳え立っている。
 これこそ、ゲーミング杉。狂信者たちの地道な植樹事業によって、見事大地に根を下ろした、今回のゲーミング花粉騒ぎの大本である。
 花粉によって、林床もまるで油膜が張ったかの様に仄かにゲーミング発光しているし、何なら√能力者が一歩足を踏み出せば、ぶわりと花粉が舞い上がるという始末である。
 これは、未だ花粉症を発症していない者は花粉症を発症する前に、一刻も早く何とかせねばならぬ。
 √能力者たちは、ゲーミング杉の目を刺し貫く様な発光と、そして花粉から目を保護しつつ。
 この傍迷惑な樹木を皆伐し、根絶やしにするべく、それぞれの手段を以て杉の伐採事業に挑む!
ウィズ・ザー

 ウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)は、困惑していた。

(確かに俺には目が無ェ、加えて匂いは解っても花粉症にもならねェ)

 何故なら、彼はD.E.P.A.S.に分類されてはいるものの、生き物と呼ぶには微妙な存在であるし、花粉が齎す重大な健康被害の影響を受けないのであれば、かの樹木に思うところは、ゲーミング発光している点以外には何も無い筈である。
 ――だが。
 この丹田より湧き上がる様な怒りはなんだ。憎しみはなんだ。
 無い筈の目を掻き毟りたくなる様な衝動、そして匂いしか解らぬ筈の鼻から、汁が止め処なく溢れ出さんかの如き不快感。

(……全く状況が解らねェが、言わなければいけない気がする)

 故に、衝動に突き動かされるままに闇の蜥蜴は二足で立ち上がり、約1680万色に輝く杉林の下でありったけの憎悪を込めて咆哮する。

「―― 伐採を!! 溢れんばかりの伐採を!!」

 ゲーミング春霞が漂い、ゲーミング花粉光環が天に輝く山中にて。
 言葉に尽くせぬ憎しみを込めた、EDENたちによる杉の|伐採事業《粛清》が幕を開けた。


「泡沫の刻!! オラオラ、禿山にしてやるぜェェェェエ!!!」

 さて。幾ら毒々しい虹色の輝きを放つ怪樹であろうと、(一応は)大地に根を下ろしたただの植物である。
 ちょっとばかり、外敵に対して反撃のゲーミング花粉を放ったりするが、ただそれだけの存在である。
 故に、殺傷力のある様な行動も(一応は)起こさなければ、逃げる事もない。
 √能力により異形に変異したウィズは、林床を覆うゲーミング花粉を巻き上げ、外敵に対抗して撒き散らされるゲーミング花粉の嵐を物ともせず。
 纏った花粉により、ほんのりゲーミング発光しながら突き進み、ゲーミング杉に肉薄した。

 ――【|星脈精霊術【薄暮】《ポゼス・アトラス》】

 身体を異形化するこの力により、ウィズの影より出でる黒霧は通常時よりも遥かに増大している。
 蹂躙力を得た黒霧は、杉の根元を覆うと。

「木材大量ゲットのチャンス到来! だったら残さず余さず伐採してやるぜェ!!」
 ――ちゅぎぃぃぃぃぃぃぃん!!!!

 俄かに火花を散らすが如き、何かを削り伐る音が山中に轟いた。
 黒い霧が通り抜ければ、辺りのゲーミング杉の幹には一様に、決まった方向に受け口、追い口が綺麗に刻み込まれているではないか。
 そう、林業に於いては、樹を伐り倒す方向などの安全確保も非常に重要だ。あらぬ方向に幹が倒れれば、同業者をも巻き込む事故が発生しかねない。
 そして、この熟練の樵を思わせる匠の技を可能にしたのは、ウィズが√能力によって無数に増やした刻爪刃にある。
 簡易のチェーンソーと化したそれは、霧に呑み込まれた範囲のゲーミング杉に二回攻撃を加え、理想的な切り口を付けたのだ。

 ――めりめり、ばきばき……!

 やがて幹は重力に従い、ゲーミング花粉を振り撒きながら、受け口を潰す様に一方向へと倒れて行き、ウィズはその木材を増やした闇顎で回収・収納。
 ぶわりと広がった約1680万色の靄を融牙舌で焼却するのであった。

「さァて、コイツらは何に使うかねェ!」

 なお、かの闇蜥蜴が木材をどのように利用するかは不明だが。
 杉の葉には精油が豊富に含まれているため、アロマオイルにしたり、または杉の葉茶にする事も可能だ。
 問題は、その杉の葉が目に刺すかの様な光量で光り輝いている事だが……
 何を作り上げるかは、彼のみぞ知る。

天翳・緋雨

 EDENたちによるゲーミング杉の伐採事業は、幸先の良いスタートを切っている。
 切っている、の、だが。
 樹が倒れる度に、その振動と風圧で林床のゲーミング花粉が濛々と舞い上がり。
 辺り一面、ちかちかと不規則にゲーミング発光する靄がかかるという、光刺激、花粉、ゲーミング……あらゆる要素で常人では3秒と正気を保つ事が困難であろう状況が広がっている。
 恐ろしい事に、これでもこの怪樹は怪異ではないのである。本当です。

「さて、現着かな。任せて。他人事だとは思っていないからさ」

 そんな空間であろうとも、鼻水も涙も流さず、正気も失わずに通信を行っている彼……|天翳・緋雨《あまかげり・ひさめ》(天眼浪士・h00952)は、間違いない。EDENの√能力者であろう。きっと。たぶん。めいびー。

(オレは今のところ花粉に苦しんではいないけれど、彼女は常に強火の姿勢だしね)

 実際のところ、彼は人工心臓と体内を巡るナノマシンによって生命活動を維持しており、現状で彼の中のナノマシンはフル稼働して花粉に対抗中。
 その上、アンカーさんお手製であるという、『耐ゲーミング発光サングラス』を装着し、マスクもかけているという完全防備である。

 ――クールに行こう。

 そう彼は言うが、見た目は不審者のソレであると言っても過言ではなく。こんな季節でもなければ、出る場所によっては補導、或いは職務質問の対象と成り得るのではなかろうか。
 それはさておき、彼は医術に長けた従姉との連携を終えると、サングラスで完全に保護した淡紫の瞳で、木立の間に立ち込める靄を見上げ、『よし』と気合を入れる。

「さぁて、一仕事といきますかぁ~!

 踊りを愛する迷い人は軽い調子で肩をぐるぐると回しながら、ゲーミング花粉光環が燦然と煌めく空の下、ゲーミング杉の伐採に乗り出した!

「……特殊サングラスをしてても、目がチカチカするんだけど……!?」

 ……前途は多難だ!!


 さて、杉の伐採と言えば、基本は土砂災害防止の観点からも切株を残す形となるため、伐根まで行うのは珍しいと言える。
 だが、緋雨の目に油断はない。何といったって、敵は高速で成長するゲーミング杉。
 ともすればあっさり復元するかもしれない、常識の通じない相手である。

(ひこばえからいきなり大木に育って花粉を撒き散らしても驚かないよ、オレは)

 ここまで√能力者を警戒させるのだから、この物言わず、誇らしげに葉をゲーミング発光させながら、ぶわさ、ぶわさと薄靄の如く花粉を放出するゲーミング杉も、中々どうして大したものである。
 とまあ、杉の木の称賛はさておいて。
 緋雨は念動力により形成された刃で、飛翔と攻撃を行う自律兵器……その名も『幻想翔剣』を飛ばすと、精密に操作をしながら受け口と追い口を刻んでいく。
 先にも述べたが、幹を伐り倒す方向が疎らでは、重大な事故に繋がる可能性があるため、此処は手の抜けない作業だ。
 やがて、まるで受け口を潰す様に、めきめき、ばりばりと幹は折れ曲がり……ついに、倒れてゆく。
 勿論、倒れ様にゲーミング花粉を舞い上げていくあたり、ただでは死なぬという執念を感じさせるが、果たしてこの樹に執念があるのかは定かではない。
 それはさておき、倒木を規則正しく並べたら、此処から先が緋雨の本領だ。そう、伐根の始まりである。

「リミッター・オフ……!一気にいくぞ……!」
 ――【|分身は誘う夢幻の狩場へ《ワケミハイザナウムゲンノカリバヘ》】

 作戦の進捗状況に応じて、複数の己の影分身を呼び出すという√能力だ。
 作業が始まってから間もないため、呼び出す事が出来るのは3人のみであったが。それでも伐根を行うには心強い人数である。
 それにしても、ただの切り株でありながらも√能力の発動を決断させる切株など、√世界広しと雖もゲーミング杉くらいではなかろうか。
 成長速度を考えればそれも当然の処置であろう気もするし、恐ろしいものである。
 それはさておき、緋雨『たち』は念動力を発すると、それを切り株に集中させ。斜面から引き抜き持ち上げては、並べた幹の隣に積み上げてゆくのであった。

「うわぁ……服までほんのりゲーミング発光してる……。
 この仕事が全部終わったら、付着分も綺麗に落とさないとね」

 一仕事終えて休憩する緋雨は、己の衣服を見て、年相応の、辟易とした表情を浮かべて見せた。
 さて、花粉強火勢という従姉が家に上げてくれるようになるまで、一体どれ程の処置が必要となるであろうか。
 思案しながらサングラス越しに見上げる斜面に、ゲーミング杉は未だ健在だ。

深見・音夢

 EDENたちがゲーミング杉を伐り進めた事により空は開け、薄らぼんやりと輝くゲーミング春霞に覆われた天もはっきりと見えてきたところである。

「一体何を思って杉、しかもゲーミングなやつを植えたのやら……」

 |深見・音夢《ふかみ・ねむ》(星灯りに手が届かなくても・h00525)は、見ているだけで正気度を削られそうな空を見なかった事にし。
 しかし、目を背けた先には、より激しく燦然と輝くゲーミング針葉樹たちが聳え立っている。
 彼女はげんなりとした表情を浮かべ、ゲーミング植樹事業を実施した狂信者どもの正気を疑った。
 本当に、何故こんなものでクヴァリフの仔やら怪異やらが呼び出せてしまったのかは不明だが、呼べてしまったからには仕方がない。
 音夢たちが粛々とこなすべきは、伐採と狂信者たちへの教育的指導……は怪異によって終わってしまっているので。悪用されぬとも限らない、クヴァリフの仔の確保である。

「ばらまき過ぎて花粉が雪みたいになってるし、どう見ても環境破壊待ったなしっすよ、これ。ゴーグルとマフラーで防ぐにも限度があるっす!」

 それはそれとして、未だ健在なゲーミング杉からは、まるで彼女を阻むかのように、ぶわっさぶわっさと花粉が降り注ぎ。風が吹く度に林床を覆う約1680万色の花粉が地吹雪の如く舞い上がり。
 彼女のマフラーやら黒衣やらも、既にうっすらとゲーミング発光するに至っている。

「もういっそのこと、怪人の本性晒して全部焼き払うのも考えたっすけど、流石にそこは自重っす」

 何だかもう、四方八方虹色に覆われた惨状に加え、更には自分の状態からも、何も見ず、何も存在しなかった事にしたくもなるが。
 一時の破壊衝動で林野火災を起こさぬ彼女は流石である。

「代わりに……」

 音夢は、弾薬ポーチより特別製の弾丸を指に挟み込み、引き抜くと。
 目に痛くなる様な輝きをちかちかと放ち続ける杉たちが密集する先に銃口を向ける。

「伐採向けな弾丸をお見舞いっすよ!」
 ――【|斬裂式解体弾《デモリション・バレット》】

 この√能力は、命中した部位を切断する効果を持つ、着弾地点で炸裂する対物斬裂弾を発射する。
 この弾丸の前では、如何に頑強な幹を持っていようと、√能力者ではないゲーミング杉など物の数ではない。

「まぁ、花粉が迷惑なだけで元は樹自体に罪は……あるかもしれないけど、あえて憎まない方向で」

 ゲーミング杉たちも、元はといえば己の意思とは無関係に植樹された存在である。
 愛銃が火を噴く度、次々と悲鳴の様にバキバキと音を立てながらゲーミング花粉を撒き散らしながら倒れてゆく様に、音夢は同情は見せつつも、引き金を引く指先は休めない。

「ちょっとだけお土産に持って帰って、残りはあとで、ここら一帯を野焼きするときの燃料にでもするっすよ」

 彼女が銃口から立ち昇る硝煙を軽く振るって掻き消した時。
 山を覆っていたゲーミング杉は皆伐され、元の間伐地の開けた空が戻って来ていたのであった。
 ……お陰で、ゲーミング花粉に覆われた斜面とゲーミング花粉光環は、よりよく見えるようにはなったが。
 花粉の発生源を絶ったからには、この仕事が終わるころには元の汎神解剖機関らしい空が戻っている筈。
 そう信じて、狂信者たちを追い詰めるべくEDENたちは作戦の第二段階へと移ってゆくのであった。

第2章 集団戦 『さまよう眼球』


 ――ゲーミング杉の皆伐は、成った。
 あれ程聳え立っていた虹色の針葉樹たちは全て、虹色に輝く花粉を遺し、その身を斜面に横たえている。

「この暗い世界に明るいニュースと明るい笑いを届けようという我らの想いに、なんてことを!!」

 などと、善意の環境破壊活動に加えて花粉テロを行っていた事を棚に上げ、口々に憤っていた狂信者たちと共に。

 代わりに√能力者たちの前に姿を現したのは、巨大な眼球に鋭い牙を並べたが如き異形の姿。

「ぶぇっくし!!」
 ――『さまよう眼球』

 そう呼ばれる怪異の群れである。――だが。
 眼という粘膜を外気にこれでもかという程に晒したその姿では、花粉の影響をまともに受けるは必定。
 その目は痛々しいくらいに真っ赤に充血し、各々止め処なく涙を垂れ流し、鼻も無いのにくしゃみをしているという、マスクと点眼薬や抗アレルギー薬などを差し入れたくもなる様な惨状である。
 この様な酷い現場に呼び出した狂信者どもを叩きのめした彼らは、その怒り冷めやらぬまま、遭遇したEDENたちも纏めてゲーミング花粉の海に沈めようというのであろう。
 少しばかり同情できぬでもないが、だからといってやられるわけにもいかない。
 EDENたちはゲーミング花粉が足元を照らす中、花粉症に苦しみ狂乱する目玉の怪異たちを討つべく駆け出すのであった。

「ぶぇぇぇっくし!!!!」
チェルシー・ハートサイス
青木・緋翠

「――どうして、わらわはこんなところに来てしまったのかしら」
「さあ、どうしてでしょうね。わあ、空も地面もぴかぴかです」

 チェルシー・ハートサイス(強者たれ・h08836)の苛立ちが見え隠れする声音に対し、対照的なのんびりとした声で|青木・緋翠《あおき・ひすい》(ほんわかパソコン・h00827)は辺りを見回しながら応えた。
 彼女たちはとある港にて、√能力者でないにも関わらずやたらと殺傷力の高い怪魚、その名も『ゲーミングダツ』を討伐するべく轡を並べた経験がある。
 まさか、今度は海ではなく山で、しかしまたしても頭を抱えたくもなる様なゲーミング溢れる空間で共闘する事になるとは夢にも思わなかったであろう。
 幸いにも、この状況を生み出したゲーミング杉なる怪樹はEDENたちの手によって皆伐されはしたものの。
 ゲーミング杉がこれでもかと振り撒いたゲーミング花粉はしっかと林床を覆い、√汎神解剖機関に見合わない、頭のおかしくなりそうな、場違いな輝きを放ち続けている。

「わたくし、この様な空間に、一秒たりとも長居したくはないわ。
 見ているだけで、頭痛とめまいがしてくるもの」
「ええ、ゲーミング発光するだけならともかく、|塵《ダスト》はPCの大敵です。
 僕も早く切り上げて、一刻も早く帰還したいところです」

 何たる因果か、運命の悪魔の悪戯か。
 約1680万色のゲーミング発光に引き寄せられてしまったふたりは。

 ――ぶぇぇぇっくし!!

 すっかり目を血走らせ、鼻も無いのにくしゃみが止まらぬ哀れな彷徨う眼球たちを一刻も早く片付けんと、虹色の斜面を駆けだした。


「辛いのでしょう? 直ぐに楽にしてあげるわ。
 ――あなたたちの命と引き換えに、ね」

 チェルシーが家門の銘を刻まれた大鎌をくるくると旋回させながらステップを踏む度に、林床を覆う花粉は舞い上がり、彼女の足元に光り輝く虹色の軌跡を描き出す。
 獲物が命を刈り棄てていく度に浮かび上がるそれは、妖精が踊るかの如く実に幻想的な光景で。
 彷徨う眼球たちもその美しさに見惚れていたに違いない。……舞い上がっているものが、ゲーミング発光する花粉でさえなければ、の話だが。
 魔力の籠もった血液を込めた衝撃波が花粉を巻き上げながら行く手を阻めば、巻き上げられた花粉が眼球に直撃。

 ――ぎぃぃぃあぁぁぁぁぁ!!!? ぶぇぇ、ぶぇっくし!! ぶえっくしょぉぉぉい!!!!

 ……なんだか、衝撃波が直撃したよりも痛々しいのは何故だろうか。
 だが、チェルシーの辞書に情けという文字は無い。
 己の魔力を以て網状に編み上げた血液が、くしゃみが止まらなくなった哀れな眼球を捕らえ。

「感謝なさい、あなたをこの場から一抜けさせてあげるのだから」
 ――【|血蔦の縛鎖《ブラッドヴァイン》】

 若干、羨ましげな声と共に振るわれたハートサイスによって両断され。

 ――っぷしゅん。

 小さなくしゃみを遺して、眼球はゲーミング溢れるこの場、この世から退場するのであった。


「彼らに瞼はあるのでしょうか。あってもなくても、花粉にゲーミング発光のダブルパンチ。色々と痛そうです」

 のほほんとした声音ではあるが、翡翠は普段より細い眼を更に細めて、涙をちょちょぎらせながらもEDENたちに花粉への怒りをぶつけんと迫ってくる彷徨う眼球たちに相対した。
 ただでさえ目の粘膜、口粘膜の露出の多い|形状《フォルム》だ。
 一度花粉症を発症してしまっては、この空間は彼等にとって地獄以外の何物でもないであろう。

 ――ふぇ……ふぇ、ふぇ、ふぇ……ぶぇぇぇぇっくしょい!!!!

 この様な場に呼び出した|召喚者《狂信者》たちを半殺しに止めたのは、むしろ穏当ですらあるのではなかろうか。
 翡翠は色々と思うところを胸の内に収め、チェルシーが言う様に、彼等にとっては死こそが救済なのではなかろうかと心を定め。
 パソコンの付喪神たる己の身に宿る√能力を発するべく、3.5インチFDを敵集団に向けて投擲する。

「では、纏めてこの場から退場させてあげましょう。
 >実行execute 古代語魔法 "高電圧大電流"」
 ――【|高電圧大電流《パルスパワー》】

 先頭の怪異に、かしゃんと音を立ててFDが音を立ててぶつかると同時に。
 戦場に奔るは大電圧による閃光。
 次いで、ずん、と。爆炎が沸き上がった。

「……おや、花粉に引火したのでしょうか。思わぬ威力になってしまいましたが、まあ、結果オーライです。少しは花粉も減ったでしょう」

 本来、300発の大電圧を放って敵を焼き払う√能力であるが。どうにも、ゲーミング花粉に引火して、粉塵爆発を起こしたらしい。
 爆発下限濃度を上回るとは、どれ程のゲーミング花粉がこの地に浮遊しているのだろうか。
 黒焦げになり、ぼろぼろと焼け崩れていく怪異たちに手を合わせながら。
 翡翠は、考える事をやめた。


 戦いの前哨戦は、EDENたちの圧倒的優位に進んでいる。
 彷徨う眼球たちは花粉症というデバフに苦しんでいるのだから、さもありなん。

「先ずは、わたくしたちの為すべき事は為せたかしら」
「はい、敵影はまだまだいますが、後に託しても良いと思います。
 このままここにいては、僕たちも花粉症を発症しかねません。付喪神でもなるのでしょうか?」
「どうかしら。……さ、一刻も早くここを離れましょ。
 服の隙間にまで花粉が入り込んで……帰ったらすぐにクリーニングに出さなくてはね」

 一仕事を終えた吸血姫と付喪神は、ここで服に付着したゲーミング花粉を払っても無駄と判断したのであろう。

 ――ぶぇっくしょぉぉぉいい!!

 うっすらと虹色の輝きを纏いながら、山に木霊する怪異たちのくしゃみの音を背に。
 後に続く者たちに、クヴァリフの仔を巡る戦いを託すのであった。

獅猩鴉馬・かろん
七夜・星斗
若命・モユル

 開幕一番、粉塵爆発により派手な爆炎が上がった山中。
 爆風と衝撃波に、林床を覆っていた約1680万色に輝くゲーミング花粉がぶわりと舞い上がり、辺りの空気をゲーミングカラーに染め上げた。
 何とも頭にも目にも悪い極彩色空間であるが、これもゲーミング杉によって撒き散らされたスギ花粉。

 ――ぶぇっくしょ、ぶぇぇぇぇっくょぉぉぉぉぉいい!!!!

 哀れにも、既に杉花粉症を発症している彷徨う眼球たちには効果覿面であり。
 鼻も無いのにくしゃみも涙も止まらないという、同情を禁じ得ない姿である。
 そんな見るも無残な怪異たちの状態を見て、この地を訪れた金髪の少年は溜息を吐いた。

「うわぁ……花粉症は一度発症しちゃうとひどいって聞くけど、これじゃあ怪異も形無しだね」

 |七夜・星斗《ななよ・せいと》(願い星は夜空に煌めく・h04589)は、少年の様な姿に見えるが。その実態は器物に宿る妖精……付喪神である。
 故に、花粉症などという病は、彼にとっては対岸の火事でもあるのだが。
 彷徨う眼球たちの苦しみ様を見ると、何だか自分の緑色の瞳も、鼻もむず痒くなってくる……気がした。

「わー! これがゆめかわいいってヤツか!?」

 一方で、この天地全てがゲーミング発光に覆われた空間に、きゃっきゃとはしゃいでいるのは| 獅猩鴉馬《しじょうからすま》・かろん(大神憑き・h02154)である。
 山を染め上げる程に輝いていたら、たらたまたま通りすがった彼女も興味を惹かれるでろう。

「お? 怪異か? かろんもおてつだいするか?」

 目を真っ赤に染めて、涙をぼろぼろと流しながら迫る怪異たちの姿を見れば、かろんもすぐに『遊び』の現場と理解して。
 彼女を護る様に『大神』と呼ばれる山犬の如き護霊や、その眷属たちが姿を現した。
 なお、ゆめかわいいとはあくまで夢の中の世界を表したような、パステルカラーで可愛らしくデザインされたものを表すのであって、こんなにもギラついた、けったいな空間を対象には取らないと思われる。
 そして、かろんが怪異を『遊び相手』と受け取った一方で。

「うわ、わらわら出てきたな。とりあえずこいつらを倒すしかないね!
 ……早く楽にしてあげないと、なんだかかわいそうだし……」

 |若命《わかもり》・モユル(機獣戦士サイバー・カヴ・h02683)は相手を正しく『脅威』であると看做して、赤き狐の如き装甲に身を包んでいる。
 かろんと齢の変わらぬ彼であるが、改造されたその身に宿る力は、並の簒奪者相手に引けは取らない。

「なるほど。今はこの3人で、怪異たちに相対すればいいのかな。
 既に弱体化しているようにも見えるけれど……油断せずに行こうか」
「ぶっとばせばいいんだな、まかせろ! やるぞー!」
「よーし、オイラもがんばるよ!」

 素早く彼我の戦力を把握した星斗が音頭を取ると共に。
 燦燦と輝く太陽と、ゲーミング花粉光環に照らされて。

 ――……ぶぁーーーーっくしょい!!!!

 この大きなくしゃみが、小さな3人と花粉症に苦しむ目玉の怪異たちの戦いの号砲となった。


「援護は任せて!」
「ありがと、いってくる!」

 後衛を請け負った星斗が魔法で星を降らす中、モユルは赤く燃える炎の如き剣を携えて、敵に斬り込んでゆく。
 膨大な魔力を持つ付喪神であるが、√能力者ではない彼は、不死の力を持たない。
 故に、身の危険を感じれば即時撤退を選ぶが、前中後衛が揃ったこの状況であれば協力する事で安全に、戦況を優位に運ぶこともできると判断したのであろう。

「ほらほら、√能力者でもない僕にいいようにやられて、恥ずかしくないのかな?」

 妖精らしく相手を煽りながら、降り注ぐ星が眼球の怪異を打ち据え、林床に着弾した星がゲーミング花粉を巻き上げて味方たちの姿を覆い隠してゆく。
 花粉症ではない星斗たちには光がギラついて目に痛いだけの粉塵であるが、怪異たちにとってはどうだろうか。

 ――ぶえっくしょん!!!!

 この様に、近付くのも困難な結界として機能するのである。
 このゲーミング煙幕を突き破り。敵に襲い掛かるのはかろんに宿る、大神の眷属たち。

「いけー! やっちゃえー!」
 ――【|壱百霊壱式降霊撃《ワンオーワンゴーストコール》】

 眷属は、滂沱の涙を流す怪異の一匹に躍り掛かると、その爪や牙を以て、瞬く間に敵を解体してゆく。
 彼女の戦いは、主に大神やその眷属任せ。遊びの一環として捉えているかろんは、主に応援するだけなのである。――とはいえ。

「そこだー! かろんも加勢するぞー!……だめかー」

 と、彼女が前に出ようとすると、大神や眷属たちがかろんの袖に食い付いて慌てて止めるため、本人は何とも残念そうではあるが、その身の安全はしっかりと確保されている。
 そして、星斗の援護魔法とかろんの眷属に足並みを揃えて、ついに接敵したのはモユル……いや、機獣戦士サイバー・カヴだ。

「すぐにでも楽にしてあげたいから……こうなりゃ、暴れてやるよ!」
 ――【リミッターブレイク】

 自身の姿を真紅に輝く【モード・フレイム】に変身させることで、捨て身ではあるが神速の移動速度と連撃速度を得る√能力である。
 敵を翻弄し、林床を軽やかに駆ける彼の後には約1680万色のゲーミング花粉が舞い上がり。

 ――ぶぇぇ…………

 舞い上がった花粉が剥き出しの眼球を直撃するも、怪異はくしゃみを堪えた。
 耐えて、怪異の充血した目が彼の姿を捉えはしたが。

「まず、一体! 次は、くしゃみに悩まされないといいね……!」

 カヴは既に紅蓮の剣を振り抜き、斬り捨てていたのであった。


「かろんはまだ、遊びたりないぞー」

 はいはい、と言いたげな大神に咥えられながら、不満の声を上げるかろんはさておいて。
 モユルと星斗、そして眷属たちの連携により、怪異の数は目に見えて減ってきている。

「退き際も大事、僕たちもこの辺りで打ち止めにしようか」
「そうだね。この現場にはオイラたちだけじゃなくて、たくさんのEDENたちが来ているみたいだし」

 そう、仲間がおり、そして十分な戦果を挙げたならば。
 彼らが無理をして戦闘を続行する必要など決してない。

「もっと、もっとあーそーびーたーかったーぞーー……!!」
 ――ぶぇ…………ぶぇぇぇっくしぃ!!!!

 星斗と変身を解いたモユル、そして大神たち眷属に引き摺られたかろんは、ゲーミング春霞の立ち込める現場より撤退するのであった。

黒虎・路明
赤龍院・嵐土

「はっはっは! これはまた、何とも酷い現場だな!」
「笑い事じゃねぇよ。……ったく、また面倒な指令よこしやがって」

 虹色に輝く林床。虹色に輝く空気。虹色に輝く太陽の周りに輝く花粉光環。
 【隊員召喚】で呼び出された|黒虎・路明《くろこ・ろあ》(バウンサーブラック・h05749)が、隣で呵々大笑する|赤龍院・嵐土《せきりゅういん・らんど》(プレジデントレッド・h05092)とは対照的に、うんざりとした表情を浮かべるのも致し方の無い事であろう。
 そも、対照的な育ちや性格の路明と嵐土はライバル同士でもあり、嵐土率いる『闘志戦隊ファンダーズ』のメンバーでもあるのだが、それは今はよしとしよう。
 それよりも頭を抱えたくなるのは、この天地がゲーミング発光で覆われたこの空間に対してである。
 過去に秋葉原でこの様な約1680万色に輝く戦場に遭遇した事がないでもないが。今回はその全てがゲーミング杉なる怪樹が撒き散らした、ゲーミング花粉なのである。
 この空間にいるだけで鼻がむず痒くなってくるし、嵐土と違って√能力者ではない自身が花粉症になったら、いったいどう責任を取ってくれるのか。
 文句を言いたい事は山とあるが、呼ばれたからには仕事を果たさねばなるまい。

 ――ぶぇくし!! ぶぇっくし!!!!

 目の前でぼたぼたと滝の様に涙を流す目玉の怪異を放置しておけば、やがては麓の住民たちにも被害を及ぼすであろう。
 元より見た目に反して面倒見の良い彼は、その可能性を放置して、見て見ぬふりを決め込める程器用な性質ではない。
 タイガーバスターと名付けられた斧を担ぎ、敵を睨むライバルに。嵐土は満足そうに頷いた。
 その様な細やかな性質と責任感を持つ路明だからこそ、彼はこの現場に呼んだのかもしれない。

「では、一刻も早くあの目玉どもを片付けるとするか!」
「言われなくても! いくぜぇ!!」

 赤と黒の戦隊ヒーローが、花粉症に苦しむ怪異たちに挑む。


「合わせろ、ブラック!」
「遅ぇぞ、レッド!」

 仕込み刀としての姿を見せたドラゴンズケインが閃き、一拍遅れて巨大斧が怪異に叩き込まれ、両断する。
 斧で敵のガードごと切り崩し、ドラゴンズケインの射撃が確実に止めを刺す。
 憎まれ口を叩きながらも、ゲーミング花粉を巻き上げながら共に戦う2人の淀みない連携は、なるほど、同じ組織で戦ってきた年季が感じられた。
 
 ――ぶぇ……ふぇ……ふぇふぇふぇ……ぃぃぃぃっきし!!!!

 くしゃみついでに苦し紛れに繰り出された牙など、あまりにも隙だらけ。
 次の瞬間には4分割され、花粉の海となった林床に沈んでゆく。

「ふ、いつかはスギ花粉に苦しむ人々を助ける……そういう夢を持つ人々に投資してもいいかもしれないな!」
「まーたお前の道楽か。……だけど、まあ、いいんじゃねぇか。苦しんでる連中も多いみたいだしな」

 そう、今や杉花粉症は3割を超える国民が発症し、苦しめられているという。
 赤龍院財閥の力を以てすれば、この国民病への対策も大いに前進する事であろう。
 夢を否定しない路明を好ましく思う嵐土は笑みを浮かべ。よし、と気合を新たにする。

「はっはっは! よし、前向きに検討していくとしよう! と、決まれば……」
「怪異の花粉症患者は、さっさとご退場願うとするか!」

 ヒーローたちは虹色の花粉まみれになりながらも、落涙しながら押し寄せる怪異たちを相手に無双し。

「「闘志戦隊、ファンダーズ!」」

 ライバル2人が、山の斜面を背景に見得を切る頃には。
 彼らが受け持った怪異たちの中で動き、くしゃみをする者は、一体たりとて残されていないのであった。

神楽・更紗
祭囃子・桜
フィオ・エイル・レイネイト

 ゲーミング杉の皆伐地における、花粉症を罹患した怪異たちとの戦いは順調に推移している。
 EDENたちが走り回る度に、林床に積もったゲーミング花粉がぶわりぶわりと舞い上がってはいるものの、幸いにも√能力者たちの側に花粉症を発症した者はいないらしい。
 ――だが。
 此処に一人、あまりにもあんまりな光景に、頭を抱えている者がひとりいる。

「うへぇ……見渡す限り、ゲーミングじゃないか……」

 |祭囃子・桜《まつりばやし・さくら》(百妖を宿し者・h01166)は、天にゲーミング春霞とゲーミング花粉光環、地にはゲーミング靄と斜面を覆うゲーミング花粉というゲーミング特盛セットを前に、呻いた。
 何を隠そう、桜にはこのめくるめく約1680万色に輝く世界と同様の色調を持つ宿敵が存在する。
 その縁が、このゲーミング極まる空間にまで結び付いてしまったのであろうか。悪縁というにも、程度というものがあろう。

「おや、大丈夫かい? 随分と目にちかちかとくるものね、気分が悪くなるのも仕方がない」

 桜が己の悪縁を呪っているとは露知らず。彼女を心配する様に声を掛けたのは、フィオ・エイル・レイネイト(無尽廻廊・h06098)だ。
 齢若く、小柄な少女の様にも見えるフィオであるが、彼女がただの少女ではない事は、腰に佩いた二本差しからも窺えるであろう。
 その正体は、齢100を数える半人半妖にして妖の融合体である。穏やかな声音で細やかに桜を気遣う様は、なるほど。
 彼女の自己自認である、『おばあちゃん』らしい性分と言えるであろう。

「それにしても、怪異が花粉症に罹るなんてな。目まですっかり充血させて、痛々しいにも程がある」
 ――ふぇ……ぶぇぇっくしょぉぉぉぉい!!

 |神楽・更紗《しがらき・さらさ》(深淵の獄・h04673)が豊かな銀毛九尾を揺らして観察していた対象……今回の討伐目標である怪異、彷徨う眼球が、言っている傍から盛大にくしゃみをした。
 さて。花粉症による日本の経済損失額は、労働生産性の低下により1日あたり2,000億円を超えるという。
 その国民的大問題となっているアレルゲンに対し、怪異たちの大口を開け、目玉を剥き出しにするという、花粉に対してあまりにも果敢……いや、蛮勇と言わざるを得ないノーガード戦法は、覿面に彼らの肉体に花粉症という特大の|不調《デバフ》を齎した。
 その弱体っぷりは、花粉が巻き上がる度に滝の様に涙を流し、くしゃみが止まらなくなるという悲惨なカタチで現れ、その隙を突いて次々とEDENに駆除されているという有様である。

「鼻も無いのにくしゃみをするのかよとか、怪異もアレルギー発症するのかよとか、そもそもなんでゲーミング杉を植樹したらクヴァリフの仔が出て来るんだよとか、ツッコミどころは満載だけど」
「ああ、彼らを排除しない事には、クヴァリフの仔の確保も難しい。私たちの手で1体でも多く屠ろうか」
「この様な現場に長居しては、妾の尾も奇妙奇天烈な色に染まりかねないからな。
 疾く駆逐して、温泉でこの不快な花粉を洗い流したいものだ」

 √汎神解剖機関らしからぬ珍妙極まりない明るい輝きに染まった空を、元の陰鬱な空に戻すべく。
 三者三葉に妖に縁がある者たちは、くしゃみの止まらぬ花粉症怪異たちを討つべく行動を開始する。


 この身も心も侵食してくる様な約1680万色のギラつきに溢れる現場から、少しでも早く逃れるためには、一秒でも早く目玉の怪異たちを斃してノルマを達成するしかない。
 そう覚悟を決めた桜の行動は早かった。

「それじゃ、先手は俺から! それでは皆さま、力を借ります!」

 その言葉と共に現れた巨大な姿に、怪異たちは驚きにその大きな目を見開いた。

 ――【|複合妖術:妖怪変化《オレデナク、ワタシタチ》】

 僅かな時間念じると、好きな姿に変身する事が出来るという√能力だ。そして、桜が選び変身したのは、彼女が得意とする『鋼鉄の巨人』。
 これにより向上した驚かせ力により、怪異たちは目論見通りに驚いてくれたのだが。
 目を見開いた分、露出が大きくなった目粘膜に飛散したゲーミング花粉が付着し、滂沱の如く涙を流してのた打ち回る羽目となっている。

「見ていられないけれど、折角作って貰った隙だもの。逃してあげる訳には、いかないな」

 そして行動不能に陥った目玉たちに、追撃に懸かるはフィオだ。
 彼女は腰に差した妖刀『無尽廻廊』をすらりと鞘から抜き放つと。
 石火の如き素早さで、一気に敵の懐に飛び込んだ。

「――ここから先、容赦は期待しないで貰うよ」

 燃えるが如き瞳で見据えるは、斬るべき敵の姿。
 閃くは、あらゆる防御を貫く翡翠の剣閃。
 刀身に刻まれた獣の如く、あらゆる獲物を食い破る牙。

 ――【|妖刀解放《ヤドレ・ワガカイナニ》】

 この√能力は、妖刀『無尽廻廊』に宿る妖の力を纏うことで足に神速を、彼女の細腕に装甲を貫通する程の一撃を放つ力を与えるという効果を持つ。
 桜の驚かせと、そして花粉症の合わせ技により行動不能に陥った者を斬るなど、あまりにも容易いこと。
 燕の様に疾く鋭く駆け回り、次々と怪異たちをゲーミング花粉まみれの肉塊へと変えてゆく。

「おお、やるな。なら、妾も戦場を駆けまわろうぞ!」

 そして、フィオの斯様な戦いを見せられては、更紗も戦いに興が乗ってくるというもの。

「――吉祥や 舞いて断つ身の 残る花」

 ぱさりと桜狩扇を開き、詠い舞えば。
 その身に降ろすは異国の破壊の神にして舞踏の神、人呼んで『吉祥ある者』。
 雷炎を纏えば、ひらりひらりと戦場を舞い踊り。
 腕が四本に見える程の速さを以て、扇も用いた怒涛の連続攻撃を叩き込む。

 ――【|雷扇炎舞《ハイパースパーク・コネクト》】

 異国の神霊を降ろすこの√能力は、疾さと装甲を貫く効果そのものはフィオのものと変わらぬが。
 明確に違いがあるとすれば、連撃を前提としているという点にあるだろう。
 銀毛九尾と漆黒の着物の裾を翻しながら、足元の虹色の塵を巻き上げて舞う様は、なるほど。目を見張る程に美しい。
 戦場を駆けまわる翡翠の剣舞に、雷炎の舞に怪異たちは散々に蹴散らされ。

「ほらほら、あんまり踊り子さんに見惚れてると、俺が踏み潰しちゃうぞー?」

 地響きとともに踏み出した、鉄巨人と化した桜の巨大な足に。
 残る敵も、ぷちりぷちりと踏み潰されてゆくのであった。


「よし、俺たちがやるべき事はやったな! 帰ろう!」

 桜は自分たちのノルマを果たすや否や、√能力による変身を解き。
 こんなゲーミング空間に長居は無用と、すぐさま踵を返した。
 実際、3人の活躍により、山の斜面に木霊していた怪異たちのくしゃみの数は、目に見えて減ってきている。

「妾も存分に力を振るった事だし、すっかり虹色の塵まみれだ。
 ……はあ、何処かに良い温泉などないものか」

 更紗がふるりと九尾を震わせれば、まるで鱗粉の様に極彩色に輝く花粉が落ちてゆく。
 その声を聴き付けた桜の耳が、ぴこりと動いた。
 くるりと振り向き、半人半妖の狐を笑顔で見詰める琥珀色の瞳には。
 小さな商機も見逃さぬという、経営者らしい輝きが宿っていた。

「なら、俺の温泉に来る? 戦いの汗も花粉も、綺麗さっぱり洗い流していくといいぞ!」
「ほう、それは良い事を聞いた。ならば、立ち寄らせてもらうとしよう。
 さて、同じ妖に連なるもの、これも何かの縁だ。良ければお前も来ないか?」

 袖振り合うも他生の縁とはこの事だろう。
 更紗の誘いに、フィオも嬉しそうに翡翠色の目を細め。

「そうだね、私もしっかりと戦ってへとへとだ。すっかりおばあちゃんになったみたいだよ。
 この現場が終わったらゆっくりとお湯に浸かって、羽を伸ばさせてもらおうかな」

 こうして新たに生まれた縁とともに、2人が桜の経営する温泉を堪能しに行ったかは……
 これまた、別のお話。

深見・音夢
天翳・緋雨
ウィズ・ザー

 虹色の空、虹色の靄。足元を照らす、虹色の林床。
 一歩踏み出せば、まるで粉雪の様にその足を約1680万色に輝くゲーミング杉花粉が優しく包み込む。
 あまりにビビッド、あまりに極彩色な輝きに満ちた世界に、目も頭も痛くなるが。
 恐るべきは、このべらぼうに明るく染め上げられたこの空間が、あの√汎神解剖機関に属するという事である。
 ……正気を奪いかねない、という意味ではまさにその通りなのかもしれないし。

 ――ぶぇぇぇぇっくしょぉぉぉぉん!!

 豪快にくしゃみ一発、それに連鎖する様にところどころでくしゃみをする怪異たちが、此処が確かに、あの√汎神解剖機関であることを思い出させてくれる。

「やっべェおもしr……げふん。いや気の毒だなァ」
「漏れてる、本音が漏れてるっすよ。
 あーあー……それにしても、これまた随分とお怒りな様子で。
 こんなとこで戦えと言われたら、そうなるっすよねぇ」
「あ~、まぁ。同情すべき点はあるのだけれど」

 果たして、笑いをかみ殺すつもりがあるのかないのかわからぬウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)はさておいて。
 |深見・音夢《ふかみ・ねむ》(星灯りに手が届かなくても・h00525)と|天翳・緋雨《あまかげり・ひさめ》(天眼浪士・h00952)は、そんな花粉症を発症し、目から滝の様な涙を流し続ける怪異たちに、憐れみともつかぬ視線を向けた。
 国民の3割以上が罹患する花粉症の経済損失額は、1年で2,000億円を数えるという。
 それほどまでに人類を弱体化させる恐ろしい病であり、花粉過激派な従姉を持つ緋雨などは、その辛さもよくよくわかっているつもりだ。
 一方、怪異とは異なり目を持たぬウィズにとっては、花粉症など全くの対岸の火事である。故に。

「コレ花粉で包んで密室にしたら面白い事にならね?」

 などと、血も涙もないことを口にしたりもする。
 鬼であろうか? いいや、闇蜥蜴である。
 とはいえ、どちらにせよ討伐せねばならぬ相手であることも確かだ。この花粉症患者の群れを斃さねば、クヴァリフの仔には辿り着けないのだから。

「彼らとは相容れないのは間違いないからね。ここは漬け込む様でちょっとアレだけど冷徹に行こう」
「そうっすね! こちらもさっさと片付けて、シャワーで流したいっす!」

 緋雨の言葉に、自慢の一張羅をほんのり虹色に輝かせた音夢も頷いて。
 物理的に怪異たちを楽にすべく、この眼玉の怪異たちとの決戦の火蓋が切って落とされたのである。

 ――ぶぇっくしょい!!


「――ゲーミング花粉の海に沈むのは手前だ」

 先ほどの、笑いを嚙み殺した声音は何処へやら。
 虹色の花粉に照らされながら怪異たちを射るは、晩冬の冷え込みの如き冷たい声音。
 撒き散らすは霧の如き刻爪刃。水大蜥蜴の如き大口を開け、放つは彼の顎でもあり舌でもあるという、虚無の焔を纏う融牙舌。
 焔の高温で上昇気流作り、更には高速移動する刻爪刃の風で、周囲の花粉を舞い上げ集め、纏め上げてゆく。
 その様はまるで、虹色の竜巻の様。
 そして、敵をその竜巻に追い込む様に、戦場を牧羊犬の様に跳び、舞い踊るのは緋雨である。

「さぁ、いこう。フルスロットル……!」
 ――【我が身は駆ける無限の回廊】

 視界内のインビジブル1体の位置まで近距離転移と重力操作で飛翔出来るようになるという√能力だ。
 時を経れば経るほど加速するというこの効果は、滂沱の如く涙を流す怪異の目を幻惑するにも十分だ。

「……ほっ、よっと! 空中でも無力って程では無いんだ!」

 更に、『最も被弾する可能性のあるタイミング』……転移直後という己の弱点を知る彼は、念動力と体術を組み込んだ軌道変化、更に黄昏界域とも呼ばれるオーラと重力波による防御があれば、ブレスの直撃を避けるなど実に容易いことである。

 そして、緋雨の陽動により、怪異たち全てが約1680万色に輝くゲーミング竜巻に追い込まれた、その時である。

「花粉症相手に、ゲーミング花粉への抵抗力下げたらどうなるのか……
 ――俺様、ワックワク⭐︎」
 ――がぱり。

 さて。|水大蜥蜴《ウィズ》の顎まで裂けた大口から、何やら、聞き捨てならない言葉が聞こえてきた気がするが。
 聞き間違いかと問うよりも早く、虚無の如き漆黒の喉奥が1677万色に煌めき。

 ――カッ!!!!

 戦場を包むかの如く、ゲーミングの閃光が煌めいたのである。
 怪異、EDEN問わず現場の皆の目が心配されるが、果たして無事であろうか。

 ――ぶぇぇぇっくしょぉぉぉい!!!!
 ――ぶぇっ、くしょん! ぶえっくしぃ!!

 くしゃみの激しさが増した気がするが、それがあるという事は少なくとも怪異たちは無事なのであろう。

「……うぅ、またしても目がちかちかするっす……。ゴーグルがなければどうなっていたやら」

 そして、音夢、緋雨たちEDENたちも当然、無事であった。
 何故なら、ウィズが放ったこの√能力。その名を――

 ――【|はかいこうせん《シリアスノ》】

 という。見間違いと思われた方もいるであろう。だが、間違いではない。
 シリアスのはかいこうせんである。
 一定範囲内の、自分含む全員のギャグ事象やデバフ攻撃に対する抵抗力を10分の1にまで下げるという、星詠みによっては……もとい、恐るべき効果を持つ。
 そして抵抗力が落ちたのは勿論、|ギャグ事象兼デバフ《花粉症》に対してである。
 さて。ただでさえ目を痛々しい程に充血させ、くしゃみが止まらなくなっていた怪異たちの抵抗力が10分の1になったら、どうなるか。

 ――ぜひ……ぜひ……。

 虫の息で林床に転がり、ゲーミング花粉に包まれていた。

「うわぁ……敵ながら、ってやつっすけど。お労わしや……」
「……無力化したら、葬るのは容易いかな?」

 重篤化してくしゃみする体力も奪われた目玉の怪異たちの姿に、音夢と緋雨は思わず合掌するが。
 だが、彼女たちの仕事は目玉たちの討滅である。手を休める訳にはいかない。

「あ、刻爪刃が弾かれるわ」

 そして、眼球たちの異変に気付いたのはウィズであった。
 無数の牙の生えた巨大な口と化した怪異に、霧の如き爪が通らないのである。
 【ヒュージ・ファング】と呼ばれるこの√能力、【強酸】のブレスを放つ無敵の姿であり、攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化するという非常に強力な√能力だ。
 ……とはいえ、体内で起きている、己の免疫の暴走までは防ぐ事が出来ていないようであり、虫の息のまま動かないのだが……それはさておき。
 この状況を打開すべく動いたのは、音夢であった。

「完全無効化の√能力は厄介っすけど、この状況なら攻略方はあるっす!」

 彼女はなけなしのマフラーを首より解くと、巨大な口と化した怪異……いいや、ウィズが掻き集めたゲーミング花粉に向けて投げ放ったのである。

「正真正銘のとっておきっすよ。直接攻撃しても無力化されるっすから、狙う相手は敵じゃなく……周りの花粉っす!
 ――こんな量の干渉を全部無効化してたら、一気にガス欠するはずっすよね?」

 にやりと鮫の様な歯を見せて、音夢が笑うと同時に。黒いマフラーが、爆ぜた。

 ――【|火遁・連鎖爆雷変化の術《ヒートエンド・シェイプシフター》】

 この√能力は、彼女が身に着けている装飾品を、視界内の対象1体にのみ大ダメージを与え、誘爆の状態異常を付与する【|連鎖爆雷《ガンパウダーマイン》】に変異させるという効果を持つ。
 さて、その辺に履いて捨てるほどある花粉に誘爆させ、連鎖的に爆発させたら、どうなるか。

 ――ずどぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!

 それこそ一生を費やしても数え切れるかわからぬ量であろう。
 山そのものを震わせる轟音、舞い上がった花粉によってゲーミングカラーに可視化された衝撃波。
 そして爆裂に次ぐ爆裂が、『無敵』の怪異を覆い尽くした。
 怪異の無敵は、大小問わず『外部』からの干渉を受けた時点で『生命力』の大量消費が発生する。
 この無数の爆発は刹那の内に怪異たちの『生命力』を枯渇に追い込み、気絶させ。

「死こそ救済とは、この事っすかねぇ……」

 一向に止まぬ爆炎の中で粉微塵となり、ゲーミング花粉症からの永久の解放という福音を得たのであった。


「普段ならもっと苦戦しそうな相手っすけど、まぁ何というか、色々と間が悪かったとしか言いようがないっすね」

 √能力の反動により、黒いインナー一枚となった音夢は、ふぃー、と一息つくとともに、額の汗を拭った。
 ……なお、その細腕にゲーミング花粉が付着するのも防ぎようがないため、額もうっすらゲーミング発光する羽目になったが、それはさておき。
 音夢の言う通り、狂信者たちが齎した|スギ花粉《デバフ》により、大幅に弱体化しており苦戦を避けられたのは、不幸中の幸いであっただろう。

「あ、狂信者も逃さないようにした方がいいかな?
 彼らも自ら行った事の責任と向き合った方が良さそうだ」

 自分たちの手駒であった筈の怪異たちに反逆され、半殺しの目にあったゲーミング杉植林事業者……もとい、狂信者たちは緋雨の手で既に縛り上げられている。
 彼らの扱いは、戦いが終わった後に考えれば良いであろうが……まあ、怪異に堕ちた訳で無し。
 機関やら何やらに送り込んで『再教育』すれば、真人間になるであろう。たぶん。

 ――その時であった。

 突然に大地が揺れ、花粉が舞い上がり。

「……ぶぇっくし!?」

 音夢がくしゃみをしたのは。

「God bless you!」

 さて、これが偶然、鼻がむずむずしただけのくしゃみであるのか。
 それとも、音夢に対して妙に良い発音でもって声を掛けたウィズの使用した√能力により顕在化した、本格的な花粉症の訪れを告げるものなのかは。
 ――神と、そしてアレルギー検査の結果のみぞ知る。

第3章 ボス戦 『デカチンアナゴ』


「話はきかせてもらいましぶわぁぁぁぁっくしょぉぉぉぉぉぉい畜生めぇ!!!!」

 ――お前もか。お前も花粉症なのか。

 ゲーミング花粉に覆われた林床より、突如として出現した凡そ9mはあろうかという、大樹の如き巨大な怪異。
 その名も『デカチンアナゴ』は、出現早々に豪快なくしゃみを放った。
 既にEDENによってふんじばられている狂信者たちは、この巨大怪異にクヴァリフの仔を捧げるつもりであったのだろうが……

「ふぇ……ふぇふぇ、べーっくしょいべらぼうめぇ!!!!
 なんですか、目がかゆ……ぶぇーっきしぃ!!!!」

 果たしてクヴァリフの仔を得たところで、この花粉症に苦しみ身をくねらせる怪異に何が出来るのであろうか。
 兎に角、わからないことだらけではあるが。
 この怪異を撃退しない限り、この事件は終わってくれないのである。
 EDENたちは一刻も早くこの心身ともに、特に目を疲れさせてくる現場から離れるため。
 ゲーミング春霞が未だ立ち込める中、出現早々出オチをかました海洋生物風怪異に挑む!

「この私に挑もうとは、身の程知らずにも程が、ふぇ……ふぇふぇ…………
 あ、引っ込みましたぶぇぇぇぇぇっくしょぉぉぉぉぉい!!!!」
ミオ・カタギリ

 さて。EDENたちにより、約1680万色に輝く怪樹、ゲーミング杉の皆伐は成ったが。
 その杉がまき散らした花粉は、未だに雪の様に林床を覆い、ぎらぎらちかちかと輝きを放ち続けている。
 更に、空気は漂うゲーミング杉花粉によって汚染され、ほんのりゲーミング発光するゲーミング春霞が立ち込めていた。
 そして、そんな地面より、にょきりと現れたはいいものの。出現早々に花粉症という特大デバフに苦しむ巨大怪異、デカチンアナゴ。
 大きいという事は、そのサイズに比例してどでかい目の粘膜が触れる外気も多い訳で。

「目が、目が大変に痒い!!……ふぇ、ふぇふぇ……ぶわぁぁぁっくしょん!!!!」

 この様に、目を真っ赤に充血させて苦しみのた打ち回っている真っ最中である。

「まったくはしたない、大きなくしゃみですこと。
 それに空も山も空気も、何をどうすれば、この様な無粋な煌めきに満ちるというのでしょう」

 全く以て、ミオ・カタギリ(終身名誉生徒会長・h08302)の言う通りである。
 元はと言えば、狂信者たちが『クヴァリフの仔』を呼び出し、この巨大怪海洋生物を強化するという目的でゲーミング杉の違法植樹事業を行ったのが事の発端であるが。
 仔産みの女神クヴァリフも、一体全体何を考えて、この様に全く度し難い行為によるクヴァリフの仔の召喚を実行させたのか。何故呼べてしまったのか。
 怪異の考える事は深淵よりもなお深く、常人には理解の及ばないものなのかもしれないし、理解したいとも思わなくてよいものであろう。

「まあ、良いでしょう。いずれにせよ、この巨大怪生物をぶっとばせというのならば、話は早いですわね」

 ――理解し得ない事に思考を巡らせていたところで仕方がない。
 地響きとともにゲーミング花粉を巻き上げ、一歩踏み出すは黒鋼の巨躯。

 ――ミオが駆る決戦型WZ、『ドラグーン』である。

 その名の由来は、竜を思わせる頭部形状からであろうか。
 空色のバイザーの下のツインアイ越しに、ミオは己の愛機よりも3倍以上は大きく……そして、重篤な花粉症によるくしゃみの止まらぬ巨大怪異を睨み上げた。


「オーッホッホッホ! 悪い生き物相手には容赦いたしませんわよ!」
「ちょっ、べっくし! そんな、派手に花粉を巻き上げないでくれまぶわっくしょぉぉい!!!?」

 巨大怪異の抗議の声など華麗にスルーして。高笑いとともに、|竜騎兵《ドラグーン》がアサルトライフル、その名も『ぶっ放しガン』をフルオートで連射しながら大地を駆ける。
 漆黒のボディに、瞬くマズルフラッシュ。そして極彩色に輝くゲーミング花粉はよく映えるが。
 その一方で、一歩踏み出すごとにアレルゲンに曝される魚類型怪生物はたまったものではない。
 さらに言えば、ミオは安心安全、花粉など恐るるに足らずのWZのコクピットの中。
 何なら、わざと盛大に花粉を舞い上がらせているフシすらある。これではチンアナゴも、目の痛みで戦う事もままならぬ。

「この花粉では、べぇっきし! 戦うなどとてもとてもはーっくしぃ!!
 斯くなる上は【ほとぼりが冷めるまで潜r」
「逃がっしませんわー!」
「ほぶぇぇぇ!!!?」

 此処は一度地面に潜ってやり過ごさんとした巨大怪異。
 その横っ面を、なんとぶっ放しガンの銃床のフルスイングが捉えた。
 ぐしゃりと何かが壊れた様な音とともに、起き上がり小法師の様に巨体が豪快に揺れるが。
 身を起こしたところをサンドバッグか何かの様に、更に殴る! 殴る!! 殴る!!!
 なお、ドラグーンには近接戦用装備に『ぶった切りブレード』という、非常に用途のわかり易い装備が搭載されている事を追記しておく。
 そして鈍器でこれだけ滅多打ちにされれば、さしもの巨大怪異の頭にも星が飛ぶというもの。
 ミオはその隙を逃さず、とっておきの追撃を叩き込むべく√能力を発動する。

「ふっ、今こそチャンス! 『不撓不屈』『自在不羈』の教育方針を体現する時ですわね!」

 ――ごごごごご。

 本日何度目になるであろうか、数える事も忘れたが。
 またしても地鳴りと共に大地が揺れる。
 約1680万色に輝く、ゲーミング花粉の靄が晴れた時。
 誠に信じがたい話ではあるが、そこには……

 ――何と言う事でしょう。学園施設が生えていた。

 私立クローバー学園。ミオの血族が取り仕切る財閥が創立し、彼女が生徒会長として納まる学園であり、魂の寄る辺……Ankerである。
 なお、この√能力。前以て説明しておくならば、特定条件を満たした時にAnkerを召喚するという効果を持つ。
 特定条件とは、学生向け救難信号装置を受け取り、これが壊れる事なのだが……
 彼女は銃床にくっ付けて巨大怪異をぶん殴る事で自ら粉砕し、強引にAnkerの召喚条件を満たしたのである。
 これほど荒唐無稽な√能力も中々ないであろうが、発動してしまったものは仕方がない。発動したからには、Ankerが召喚されねばならぬのである。
 それはさておき。林間学校と化した学園より現れたのは、クローバー学園印の超巨大レーザーキャノン。
 この砲身を、グロッキー状態の海洋生物風怪異に、ほぼ零距離で突き付けて。

「これが、我が私立クローバー学園の力ですわ!」
 ――【|超学園砲《スーパーガクエンキャノン》】

 √汎神解剖機関とは思えぬゲーミングカラーに染まった空の下。
 生徒会長の高笑いと共に放たれた極太レーザーにより、緒戦にしていきなり巨大な光球が弾けて消えたのであった。

 ――なお。
 生徒会長の一存で生えてきたクローバー学園がどうなったかは、また別のお話。

鸙野・愛宕
御門・雷華

 クヴァリフの仔を巡る巨大怪異との戦いは、いきなり混沌とした状況に陥った。
 ゲーミングカラーに煌めく空の下、燦燦と輝く太陽の周りにはゲーミング花粉光環がギラギラと主張し。
 大地からは突如として生えてきた林間学校が鎮座し、焼き魚と化した海洋生物風巨大怪異が横たわっている。
 何を言っているかわからないとは思うが、星詠みにもよくわからないであろう。
 兎にも角にも、これも√能力によるものなのである。

「そっか、あなたは冒険者なんだ! いいよねぇ、やっぱり時代は冒険だよ冒険!
 ダンジョン! お宝! 非課税!!」
「ええ。危険は付き物だけれども、リターンは大きいわね。あなたも冒険者を志すなら、がんばって」

 その様な状況を|豪快にスルー《見なかった事に》して。
 |鸙野・愛宕《ひばりの・あたご》(気になる、ドラゴンファンタジー!!・h00167)は持ち前のコミュ力を生かし、|御門・雷華《みかど・らいか》(エルフの|精霊格闘者《エレメンタルエアガイツ》・h00930)とすっかり打ち解けていた。
 半人半妖である愛宕は非常に好奇心旺盛な性質であり、現在の個人的なトレンドは√ドラゴンファンタジーでのダンジョン探索にある。
 そして、雷華は趣味で学生服に身を包んでいるが、その実態は悠久の時を生きるエルフであり、幼い頃よりダンジョンを渡り歩いてきたベテラン冒険者である。
 その様な存在に、愛宕が興味を持たぬ筈がなかった。

「けほっ! ごほっ! ぶえぇぇぇっきしぃぃぃぃ!!!!
 ――あー……死ぬかと思いましはぁっくしょい!!!!」

 だが、尽きぬ質問をするよりも早く、戦場に轟く花粉症に伴う巨大なくしゃみ。
 ぷすぷすと黒煙を上げながら、巨大怪異デカチンアナゴが意識を取り戻したのである。

「もう! そのまま寝ててよかったのに!」
「気持ちはわかるけれども、これも仕事。どんな奴が相手でも蹴り砕くだけよ」

 不満を露わにしながらも、ドローン……レギオンの群れを展開する愛宕と、魔道具でもある眼鏡の下の金の瞳で敵を睨みつける雷華。

「ほう、くるというのですくわぁぁぁぁっくしょぉぉぉぉん!!!!」

 再び轟いた巨躯からのくしゃみと同時に、エルフと半人半妖の共闘が幕を開けた。


 愛宕が得意とするのは手数の多さを活かした、息もつかせぬ連続攻撃である。

「お願い、行って!」

 その声と共に展開されたのは、36体のレギオンの群れ。
 √能力、【レギオンスウォーム】である。
 呼び出されたレギオンたちは釣瓶打ちにミサイルを放ち、巨大怪異の肉体を爆炎に包んでゆく。

「ふ、私も舐められたぶわっくし!! ものです。 この程度、痛くも痒くも……ぶぇぇぇっくしょぉぉぉい畜生めぇ!!!!」
「もう、喋るかくしゃみするか、どっちかにしてくれないかな!?」

 思わずツッコミを入れる愛宕であるが、確かにレギオンが放つミサイルの威力は小さい。
 怪異に決定的なダメージを与えるのは難しいであろう。しかし、だ。

「――それで、十分。いい目晦ましだわ」

 爆炎に紛れて、金のエルフが愛銃の引き金を引いていた。
 途端、巨大怪異の胴が爆発し。戦場に、まるで蜘蛛の巣の如き雷が奔った。

 ――【エレメンタルバレット『雷霆万鈞』】

 ダメージを与えるとともに、味方に雷による戦闘力強化を与える、攻防一体の√能力である。
 この効果を得た愛宕のレギオンたちは活性化し、威力を増したミサイルが雨霰の如く浴びせかけられ。
 雷華はその爆炎を掻い潜りながら、9mはあろうかという巨躯を一気に駆け上ってゆく。

「これなら……痛くも痒くも、なんて言ってられる?」

 彼女がそう、冷ややかに告げると共に。
 岩をも砕く程に鍛え上げ、凄まじい脚力と跳躍力を誇る『瞬脚』による踵落としが、巨大怪異の脳天に、まるで雷の様に叩き付けられたのであった。

ルーネシア・ルナトゥス・ルター
廻夜・歌留多

「ふぁ、ふぁふぁふぁふぁ…………ふぁぁぁぁっくしょぉぉぉいてやんでい!!!!」

 ゲーミング杉の皆伐跡地での戦闘は、√EDENの側に大いに優位に運んでいる。
 それもそうであろう。虹色の林床から大樹の如く聳え立つ巨大怪異は、既に花粉症による特大デバフを受けており、くしゃみを連発するばかりで碌な戦闘行動も取れていないのだから。

「おっと、何気なく……というには、随分と悪目立ちする輝きだったかな。
 フラフラと引き寄せられてみれば、大きな怪異もいたものだね! そう思わない?」
「これだけ大きいと、それなりにタフそうよね。それにしても、この眼に刺さってくる様な光は何なのよ。空も地面もゲーミング発光するとか、全く訳がわからないわ」

 飄々とした声音とともに、褐色の肌によく映える金の瞳で怪異の巨躯を見上げるルーネシア・ルナトゥス・ルター(逢魔銀・h04931)は、その背後に揺れる銀の尾が示す通り、銀狼の獣人である。
 その言葉に同意しつつ、√汎神解剖機関であるとはとても思えぬ極彩色の空間に愚痴を零すのは、|廻夜・歌留多《やどなし・かるた》(真っ赤な嘘のイカサマ師・h06203)。
 彼女が赤い靴で踏み締める林床も、在りし日のゲーミング杉がばら撒き降り積もったスギ花粉で虹色に輝いており、直視しているだけで頭が痛くなってくるほどだ。

「とはいえ、君も此処に来たからには仕事の関係だろう?
 なら、ここで会ったのも何かの縁。もちろん協力させてもらうよ」
「話が早くて助かるわ。……ちょっとスッちゃったから、種銭が欲しいところだったのよね……こほん。
 簡単に自己紹介すると、あたしは野良ギャンブラー。√能力で賭場を荒らして生きてきた感じの生き物。サポートは出来ても、直接戦闘は無理よ」

 己の得手不得手を開示する歌留多に、ルーネシアは構わないよと笑って頷いた。

「私の得意分野は暗殺だ。痛みや狂気には多少の耐性はあるからね、多少の怪我は厭わず積極的にいかせてもらうよ」

 そう事も無げに言うと、仕事道具……『銀嶺』と名付けられた、幅広のマチェットナイフを取り出した。

「そ。分野は違うけど、棲む世界は同じアンダーグラウンドって事かしら。
 ――じゃあ、その誼でこれ、あげるわ」

 そう言って、イカサマ師が暗殺者に手渡したのは、真っ赤なお守りである。
 ルーネシアはそれを興味深げにまじまじと眺めると。確かな力が感じられる代物である。

「――これは……?」
「ただのお守りよ。担ぐだけなら験もタダ。なら、担がなきゃ損じゃない」

 歌留多は赤い瞳をにやりと細めると、ぱん、と両手を合わせるように手を叩いた。
 おしゃべりは此処まで、という事であろう。
 銀狼は『ありがとう』と、そう一言告げて。お守りを黒衣のポケットに押し込んだ。

「さ、時は金なり、始めましょ。
 ――勝ってる時に負けを考える必要なんてない。何も考えず走るのみよ」
「へぇ、いいこと言うじゃないか」

「ぶわぁぁぁぁぁぁっくしょぉぉぉぉぉい!!!!」

 ――余計なくしゃみの邪魔が入ったけれどもね。

 そう言い残すと、銀の暗殺者は赤い雷を纏い。
 虹に輝く地面をまるで滑るかの如く、巨大怪異へと斬り込んでゆく。


 赤雷を纏うルーネシアが軽やかに舞い、白刃を振るう度に、巨大怪異の身に明らかなダメージが刻み込まれてゆく。

 ――【|破軍星《アルカイド》】

 彼女が発動している√能力は、雷を纏う事で己の能力や技能の|技量《レベル》を3倍にも伸ばすという、強力無比な|強化《バフ》を齎すという効果を持つ。
 だが。この身の軽さは、明らかにそれだけによるものではないと、彼女は気付いていた。

(……すごいな。力が籠っているとは思ったけれど)

 その力の源は、歌留多が手渡した真っ赤なお守りである。

 ――【|野良ギャンブラー心得:運は偏ると信じて攻めよ《ドリフター・フォーチュン・チキンレース》】

 この√能力で作成された|ギャンブル道具《お守り》は、歌留多の|力量《レベル》と同じだけ、所持者の技能を引き上げるという効果を持つ。
 元よりEDENの中でも上位に位置する|力量《レベル》を持つ歌留多から、それとほぼ同等の力を持つルーネシアの手に、道具が渡ったからには。
 今や銀の暗殺者は一騎当千の力を持つに至ったと言ってよいであろう。

「はは……ははははは! ははははははははは!!!!
 そうさ、私は戦いに来たんじゃない! 殺しに来たのさ!」

 その凄まじさときたら、つい、狂気を孕んだ笑い声を上げてしまう。
 強い破壊衝動を、それを上回る理性で抑え込むのにやっと、というほどだ。

(――だけど)

 だが、これ程強力な|強化《バフ》であるならば、当然裏もあるだろう。
 銀狼はぴたりと|山鉈《マチェット》を止めると、とんと跳ねて、歌留多の元へと戻ってきたのである。

「あら、もういいの? あなた一人で止めを刺せるでしょうに」

 首を傾げる歌留多。そんな彼女に、ルーネシアは自らのポケットに収めていた真っ赤なお守りを返したのである。

「うん、いいんだ。
 ――あんまり勝ち過ぎると、後が怖いからね」

 そう、歌留多の√能力には、ひとつ、大きな落とし穴がある。
 ――技能を使う度に1割を超える確率で道具が壊れ、その分の不幸が歌留多に襲い掛かるのである。
 そして、巨大怪異との戦いも中盤に差し掛かった今、彼女に襲い掛かる不幸の数は30にも迫る程となっていた。
 『使う自分にではなく、創った者に危険が及ぶ』。
 その危険性をルーネシアが察知できたのは、似た様な効果を持つ√能力を見る事もあった、『戦闘知識』の賜物であろう。

「ふふ、博奕で退き際を見誤らないなんて。流石、暗殺者は慎重という事かしら?」

 力に酔い痴れず、味方を窮地に陥れる継戦よりも、撤退を選んだ暗殺者に。
 イカサマ師は赤い瞳を細め、初めて笑みを返すのであった。

深見・音夢
天翳・緋雨
ウィズ・ザー

 相も変わらず、燦燦と照る太陽の周りにはゲーミング花粉光環が輝き、柔らかにそよぐ春風は極彩色に彩られ。
 まあ、端的に述べるならば。ゲーミング花粉地獄は未だ続いている。
 この際、いつの間にか生えてきている謎の林間学校はさておく。√能力に逐一ツッコんでいたらキリがないとは、諸兄も御存知の事であろう。
 話を本筋に戻し、その元凶たるバイオテロリスト……もとい、クヴァリフの仔を呼び出すべくゲーミング杉の違法植樹事業を展開した狂信者どもには縄が掛かっているが。

 ――ぶぇぇぇぇっくしょいてやんでいべらぼうめい!!!!

 一面の裸地となったゲーミング杉の皆伐地には、ゲーミング杉に負けない、9mはあろうかという巨樹……否、巨大怪異、デカチンアナゴが聳え立ち。
 そして、見ての通り、どでかいくしゃみを乱発している。

「遂に海産物まで花粉症っすか……。いや、ボクも人のことは言えないし、そもそもアレ海産物カウントしていいのか怪しいっすけど」

 ――同病、相哀れむ。
 ゴーグルで目だけでも完全防備を施した|深見・音夢《ふかみ・ねむ》(星灯りに手が届かなくても・h00525)は、先の目玉怪異との戦いに於いてインナーを除く装備の多くを火薬に変えてしまったため、漆黒のインナー装備での戦闘続行である。
 さらに言えば、これもまた先の戦闘の後遺症と言えようか。とある√能力者の√能力の余波で、哀れにも花粉症を発症するに至っている。
 まだ、鼻水をだらだらと垂れ流す様な、乙女にあるまじき惨状を呈するまでには至っていないが、このまま戦闘が長引けば、一体どうなってしまうのか。

「ともあれ、この御立派なのを片付ければ晴れてお仕事完了っすね。ちゃちゃっとやるっすよ!」

 乙女の沽券を守るためにも、音夢は早期解決を宣言した。

「さて。ゲーミング発光物質も花粉も拡散しちゃダメでしょ?
 それを貴方の配下がやらかしてしまった、と」
「それは私に言われても仕方なぶわぁぁぁぁぁぁっくしょぉぉぉぉぉい!!
 むしろ、私もこんなところに呼ばれて困っ……こま……っ、こま……っくしょぉぉぉぉぉん!!」

 |天翳・緋雨《あまかげり・ひさめ》(天眼浪士・h00952)の指摘に反論しようにも、巨大怪異は言葉を紡ぐのがやっとという有様。
 喋るためには呼吸が必要。呼吸をすれば、ゲーミング杉花粉がアレルゲンとして体内に侵入し、その粘膜で悪さをするも必定。
 大きな目まで開けっぴろげにしているのだから、金の瞳も当然の如く真っ赤に染まっている。
 この巨大怪異も巻き込まれた側と思えば何とも哀れだが。こんなものでもクヴァリフの仔によってパワーアップすれば、どうなるかわからない。
 なお、0に何を掛けても0ではあるし、例えそうでなかったとしても、花粉症という特大デバフを喰らっている現状、どれ程戦力になるかはわからないが……まあ、警戒しておいて損はないだろう。

「それじゃ、実行犯だけしばき倒してもね?
 ――哀しみを断ち切るには、象徴を殲滅するのみ」

 そう。ゲーミングエコテロリストどもが、二度とこの様な喜劇……もとい悲劇をやらかさぬよう。
 この巨大怪異とともに、心を圧し折っておかねばならぬだろう。

 それはそれとして。何やら、戦場に奇怪なものが増えている。
 奇怪というには、見慣れてしまっているのが悲しいところであるが。

「花粉に包んだ、先の怪異も楽しかったが。今回の物も楽しそうだなァ?
 ゲーミング杉林に並び、ゲーミング花粉に塗れるデカチンアナゴ。何か違和感があんま無ェ。外見似てるし」

 ――ゲーミング発光要素が、増えていた。

 闇の水大蜥蜴の如き姿を好んで取るウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)であるが、こうして人型を取る事もある。
 そして、その頭に得意げに装着したアフロからは。これ見よがしに燦然と輝く約1680万色。

 ――何故増やした。

 何を隠そう、音夢の花粉症発症の原因となったのが、『とある√能力者』改め、このウィズである。
 どうにも彼、『面白おかしいこと』を率先して巻き起こす傾向にあるらしく。
 この仕事の大詰めとあっては、飛びっきりのパーティー衣装を用意せずにはいられなかったらしい。
 先の【シリアスのはかいこうせん】といい、戦闘が始まる前から、既にシリアス要素に立ち戻る事は不可能となっている。
 ……今更であるが。

「ぉお、俺よりデカいぢゃん?こりゃァ…良い的になるぜ!」

 巨大怪異をサングラス越しに見上げ、祭りの準備は整った。
 この筆舌に尽くし難い、どうしようもなさ極まったこのゲーミング騒動に終止符を打つべく。

「やるというのではぁぁぁっくしょい!! この私の力をぅぇぇぇぇぇっくしょぉぉぉぉん!!」

 海棲生物風巨大怪異のくしゃみを号砲替わりに、3人の√能力者が伐り斃しにかかる!


 さて。約1680万色のゲーミング発光も、ただの光であれば、多少ムーディーと言えなくもない。
 だが、輝きも過ぎれば痛みとなる。明確に視神経にダメージを与えてくる毒となる。
 まして、花粉症でダメージを受け続けている海産物風怪異の目には、どうであろうか。

「ちょ、あなた、眩ぇぇぇぇっくしょぉああああ!!!!」

 こちらが質すまでもなかった。聞いての通りである。戦う前からくしゃみまじりの大ダメージである。

「俺が眩しい?しょぅがねェなァ、目元をカバーしてやるよ。
 ――と、その前に。ついでにこいつも喰らっときなァ?」

 にまりと嗤ったウィズの頭部、そのゲーミングアフロに。
 この現場のありとあらゆる|不条理《ゲーミング発光》の力が集まり、一点に収束し。
 なお、この時点で何が起こってしまうのか全てを悟った緋雨と音夢は、すちゃりとゴーグルとサングラスを掛け直している。
 そしてアフロより放たれるのは、自分も含めて味方をも巻き添えにし。ありとあらゆる【ギャグ事象やデバフ攻撃】への抵抗力を10分の1にする、恐るべき怪光線。

 ――【|はかいこうせん《シリアスノ》】

 目玉の怪異に引き続き、また撃ちやがったと言わざるを得ない。

「くっさめ、くっさめ!!!!」

 ほら御覧なさい、遂に巨大怪異が古語でくしゃみをし始めたではないか。
 これでは、とてもではないが【論破させてください】と爆弾を投げ込む事は難しいだろう。
 これはたまらぬと、【ほとぼりが冷めるまで潜ります】とばかりに穴に逃げ込もうとする巨大怪異であるが。
 まるでウィズと示し合わせたかのように、恐ろしいものを用意していた者がいる。

「あ、隠れようとしても無駄ですよ? 用意したゲーミング花粉パウダ~!」

 なんと、緋雨である。てれれってれー、と某国民的アニメの不思議で秘密な道具を取り出すが如きBGMと共に取り出したるは、袋。
 ……何やら不穏な輝きが漏れ出しているが、まあ、本人が自己申告した通り、花粉がぎっちり詰まっていることであろう。

「!!!?」

 それが、どでかい顔面目掛けて投げ込まれれば。ぼわん!! と広がる虹色の靄。
 おお、何たる非道! ウィズも先の戦闘で似た様なことをやったが!

「これでくしゃみは避けられまい……」

 くしゃみどころか、ぜひ、ぜひと呼吸に異常をきたして身を捩る様には憐みを覚えなくもないが。
 ここまで追い込んだならば、巨大怪異においてはあと少しの辛抱であろう。

「くっしっし、此処からは光量マシマシでいくっすよー!!」

 音夢が天にマイマイクを突き上げれば、ほのゲーミングに輝いていた林床は、更なる強烈なサイリウムの輝きに満たされて。
 吹っ飛ばした服の代わりにゲーミングな花粉に映える白基調のドレスに早着替えを完遂したドルオタが、いつの間にやら設営されたライブステージの中央で、スポットライトを一身に浴びている。

 ――【|熱情語りの独壇場《オシカツオンステージ》】

 推しへの愛……この場合、彼女が応援するバーチャルアイドルを語ると一定範囲内がコンサートステージに変わり、音夢のあらゆる攻撃に必中効果が付与されるという効果を持つ。
 林間学校に加えてステージまで現れるとは、本当にここは√汎神解剖機関なのであろうか。
 違法植林事業に加えて違法建築物らしきものまで乱立しているが、√能力の前に森林法や自然公園法などの法は、有って無いようなものなのである。

「そもそもコスプレっていうのは、見られてなんぼなものっす!
 ――あ、でも花粉で歌どころじゃないしそもそもめっちゃ音痴なんでそこのところをは勘弁を」

 そう、ドルオタである彼女の特技はコスプレ。故に、少しばかり自己肯定感の低い彼女も、推しに成り切れば【ずっと見てますよ】と怪異に凝視されようと苦ではない。
 とはいえ、自己申告ではあるが歌唱などの苦手な分野はどうしたって苦手であり、早口になるのも致し方なかろう。
 何よりステージに揺れるサイリウムの輝きは、巨大怪異の目には効果覿面であり。

「ぜひ……ぜひ……うぇぇぇぇぇっぷしょあぁぁぁぁぃ!!!!」

 恐ろしい事に、一切の直撃弾もなしに、デカチンアナゴは力なく項垂れたのである。

「そろそろ目を休めたい頃合いだろ?」

 追撃としてウィズが放つは、彼の分体としても使用可能な手足である『闇顎』。
 それは黒い長方形を形作り、巨大怪異の眼を塞ぐ。

「……やば、ビジュがイケナイ黒ノリっぽい。ウケるぜ」

 そう、週刊誌などに用いられる、目元を映したくないときに使われるアレである。
 住所不定職業無職巨大怪異Aと化したデカチンアナゴは、完全なる無明の闇に包まれ、束の間の視神経の安らぎを得た事であろうが。
 戦場で視覚を失うというのは、あまりにも致命的な事態といえよう。
 此処に追い討ち、勝敗を決するべく、緋雨が両腕両足に纏うは雷に重力波。

「【サード・アイ】オーバードライブ。【魔眼】覚醒……!」

 彼の額に埋め込まれた【|第三の瞳《サード・アイ》】は変形し、メビウスの魔眼として覚醒する。

 ――【|魔眼は統べる其の命運を《マガンハスベルソノメイウンヲ》】

 視界内の対象1体にのみダメージを倍加させ、【体感時間の遅滞による速度低下】を付与するという効果を持つ√能力である。

「イマイチ締まらない絵面っすけど容赦なく撃たせてもらうっす!」

 巨大怪異の姿などどうやったって視界に納まるであろうし、更に、必中効果を持った音夢の狙撃まであるのだ。
 這う這うの体で穴の中に逃げようとも、最早無駄な事である。

「これで、チェックメイト。決別の時……!」

 雷を纏った拳打の嵐が巨大怪異に叩き込まれ。

「こちとら早く帰って、シャワー浴びるっていう大事な予定があるんすから!」

 真っ白なドレスに虹色の花粉を付着させた音夢の悲痛な叫びと共に放たれた、一発の銃弾が、怪異の額に吸い込まれ。

「これで、狂信者達も思い知るでしょう。たぶん、きっと、めいび~」

 緋雨が、巨樹の如きその巨躯に背を向けると同時に。
 巨大怪異、デカチンアナゴは地響きを立てて、ゲーミング花粉の海に沈むのであった。
 幸いにも。もう、あのどデカいくしゃみは、もう聞こえない。

「やっと終わったっすね……っくしゅん!」

 ……音夢のくしゃみは、不幸にも止まっていなかったが。

●エピローグ
「クヴァリフの仔も回収しねェとなァ」

 と。無事に巨大怪異の討伐及び、クヴァリフの仔の回収を終えた一行であるが、その全身は隈なくゲーミング花粉により汚染されているという有様である。
 恐らくは、この姿で歩き回れば道行く人々から奇怪な目で見られ、そして地獄の様なくしゃみの渦を巻き起こす事は疑いようの無いことであろう。
 特に、花粉を絶対に許さないという従姉が待つ緋雨にとっては、これからの帰宅が最も困難と言えるかもしれない。

「終わった……。帰るとなると、りっちゃんの審査を通る位に身を清めないといけないかなぁ……?」
「そうっすねぇ。シャワーとか温泉とか、一刻も早く、ここの戦いの記憶含めて花粉を景気よく洗い流したいところ!」

 やれやれと苦笑を浮かべ合う二人であるが。刻爪刃で伐採した樹木を持ち帰ろうというウィズは、何か悪戯を思い付いたようで。

「ここは、仕事のシメに……花粉で楽しく粉塵爆発と行くか!!」

 この一言に、2人の間に浮かんでいた苦笑が、凍り付いた。

「それは、更に巻き上げてしまうんじゃないかなぁ……!?」
「ちょっと待つっす! 爆発オチなんてサイテーっすよー!!!?」
「いいや、やるね!! 面白さは全てにおいて優先するぜェ!!」

 緋雨がツッコみ、音夢が悲鳴を上げる中。無情にも落とされる火種。

 ――カッ!!!!

 ほのゲーミングに輝く山の皆伐跡地に、ゲーミング春霞を貫いて極彩色のゲーミング爆炎が立ち昇り。
 轟音とともに、この依頼は終わりを迎えたのであった。

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