シナリオ

たいやき、どこから食べる?

#√妖怪百鬼夜行 #遅れて大変申し訳ありません、期待を裏切らぬよう努めます

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√妖怪百鬼夜行
 #遅れて大変申し訳ありません、期待を裏切らぬよう努めます

※あなたはタグを編集できません。

「√能力者の皆、集まったですね」
 星詠みの|少女人形《レプリノイド》、トロワ・レッドラビット(赤兎小隊長・h03510)が…髪型や目つき以外殆ど同じ容姿の|小隊の隊員《バックアップ素体》達とたい焼きを食べている。
 たい焼きの味は多種多様。幸せそうな表情の彼女達とは裏腹に、トロワは相変わらずの鋭い目つきだ。
「…あ。このたいやきは食うんじゃねーですよ。コレはおでか…んんっ!事前調査に行ってきたときのお土産なのです。自分で買えです」
 …鋭い目つきではあるが、いつもよりは穏やかそうだ。

「まず怪異の情報なのですが…その名は【不死の象徴『鳳凰童子』】なのです。
 比較的最近確認された怪異なだけあり、もしかしたら近いうちに会った事ある奴居るかもしれねーですね。
 『自らの血を飲んだら不死になれる』との誘惑で封印を解かせる奴なのです。
 しかし不死の象徴と言うのはあくまで自称、本当にその血を飲んだら死亡して死体を操られるのですよ。……トロワは死んでも嫌なのですソレ。いや、事実死ぬのですけど。
 戦闘中は死者を操ったり、炎での攻撃をしてくると思うのです。不死鳥を名乗るだけあり回復能力も備えてるですから気をつけるのですよ」

「次に事件について説明…とは言ってもかなりありきたりな事例なのです。
 怪異、鳳凰童子が人を騙し復活するのですよ。復活するのに使われた民間人は…既に操り人形なのです。
 老舗のたい焼き屋が襲撃を受けたことで注目を浴び、それが広告のような形となり。結果として彼の"甘い誘惑"に応じるものが増えて大きな騒乱が発生する…という形なのです。
 …とはいえ、祠の位置も不明ですから復活阻止はほぼ間に合わねーと思っていいのです。
 出来ることは場所を特定することのみなのです…なのですが。
 唯一の手がかりは、このたい焼きが売られてる店が最初に襲撃を受けることなのです。それなりに情報網を持つ能力者が居ない限り急行する流れにはならないと思うのですよ。
 基本的にはたい焼き屋でのんびり非能力者のフリをしてもらうのです」

「全体の流れなのです。
 最初はさっきも言った通りたい焼きでも食べて待ってるのですよ。
 もしも出来そうなのであれば情報採集しても構わねーですが…怪しまれて現場を逸らされたらマジでやべーのです。くれぐれも慎重に頼むですよ。
 もし特定できたようなら急行してもらうかもしれねーですが、その道中には色々罠があるかもしれねーです。
 その場合はたい焼き屋の防衛戦にはならずシンプルな戦闘になるですから、多少は有利になるのですが…まあ、情報網に自信がない限りやめたほうが良いのです。リスクとリターンが見合わないのですよ。」

「基本的には戦闘になるのです。
 対象は怪異により操られた死者…ではなく、怪異の元へ人間を連れて行こうとする妖怪犯罪者集団なのです。だって、広告の一面にもなる襲撃現場に生きる死者を連れて行ったら悪事がバレてしまうですからね。
 先に民間への被害を逸らすように普段の客足はこちらの裏工作である程度どうにかしといたですが…店主や常連客はどうにもならねーです。
 殲滅戦、されども防衛戦のつもりでかかるのです。
 民間人を守るために絶対に一匹たりとも中に通すんじゃねーですよ。
 その後の怪異、鳳凰童子も例外じゃねえです」

「んむ…そういえば、知ってるのです?
 たいやきには"頭から食べれば頭が良くなり、尻尾から食べれば脚が早くなり、胴体から食べれば身体が強くなる"という迷信があるみたいですね。特に何か関係があるわけでは無いのですが……」
 トロワの率いる|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》達は頭から食べているようだ。
 相対にトロワ本人は気にせず胴体から食べている。
「トロワはそういう迷信あんま信じないですが、そもそも妖怪や、そもそも異世界が存在すること自体がそこらの人々にとっては迷信みてえなものなのです。
 困ったら食べた箇所に頼ってみるのもアリかもしれねえですよ」

「…んむ。以上なのですよ。現場には各々向かってもらうです。
 たい焼き屋で好きなの食べてくると良いのですよ。
 我々はもう買ってきたですから、我々へのおみやげのことは気にしなくて大丈夫なのです。
 …大丈夫なのですよ?」

 トロワとその分隊達は何か求めるような眼差しで貴方達を送り出した。
 とはいえ行列の出来る店なのだから、身内や世話になった人々へ贈るためのものなら構わないだろう。

 到着したのはそれなりに賑やかな古風感あふれるたい焼き屋。裏工作で普段より数は減っているとのことだが、店の外までは行かないくらいのそれなりの行列ができていた。

マスターより

開く

読み物モードを解除し、マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を表示します。
よろしいですか?

第1章 日常 『どえらい美味いたい焼き屋』


クラウス・イーザリー
八木橋・藍依
科戸・嘉槻

「…うん。……そうか、わかった……ありがとう」
 無表情ながらも穏やかな口調で"誰か"と話すのはクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)だった。たい焼き屋の近く、人気のない路地で、誰にも見つからないように潜んでいた。
 会話はたった今終えたようで、クラウスが声をかけていた人影は薄らと消えていった。

「…順調ですか?クラウスさん」
「!」
 背後からの声。
 クラウスが一瞬にして振り向き携帯していた銃を構える。
 その表情はほとんど変わらずとも声がした方向の路地の曲がり角を注視する。
 …そこから現れたのは両手を挙げる八木橋・藍依(常在戦場カメラマン・h00541)だった。
 クラウスがその姿を少し観察する。少し目つきが任務の際と同じ何処となく鋭く見えるものになっていた。
 が、目の前にいる藍依が本物だと分かれば、すぐに銃を下ろした。
「…ごめん」
「いえいえ。私も警戒してる中来ちゃったわけですから、すみません。それで、誰と話してたんです?」
「…インビジブルだよ。√能力で協力してもらった」
「前に会ったときは無かった能力じゃないですか。お互い成長してますね」
「…まあ、そうだね」
「あ、そうでしたクラウスさん。情報はありましたか?」
「……場所を移したほうが良いと思う」
 クラウスの考えとしては、藍依に見つかってしまうならば他の√能力者や、それこそ妖怪にも見つかるのではないかと言うことだろう。同じ√の出身だけあり、其処は瞬時に理解したようだ。
 対する藍依は笑みを浮かべてみせ、近くにドローンを呼び寄せた。
「大丈夫だと思いますよ。だって…この子が飛び回って今さっきようやく見つけたんですから。苦戦しましたとも」
 『千里眼カメラ』と名付けられたドローン達は死角無く街を見守っていたのだった。尤も警戒されぬよう最小限の数ではある。復活したばかりの怪異やそれに率いられる妖怪集団に藍依ほどの情報網は無いだろう。
「……そうか。祠の位置は分からなかったけれど……この近くの川の流れる付近にあるみたいだ。でも、これだけの情報じゃ今から妖怪達が来るまでに特定して向かうのは難しい」
「そこは悪の親玉…今から来る怪異を戦闘不能にしてからじっくり行いましょうか。この近くには無かったみたいですし、なにより探索中にたい焼き屋が襲われたら本末転倒です」
 藍依がスマートフォンでドローンの情報を再確認し、一つ呟く。
「ああ、そろそろ並んどかないとですね…人増える時間帯ですから、買えなくなるかも」
「行こう」
「クラウスさん?」
「行くよ」
「あっちょっと歩くの早いですってば」

 …………。

 場所は転じてたい焼き屋の前にて。
 科戸・嘉槻(不思議古書店「雨夜の星」店主・h04878)が、店の側の和傘の下で立ち食いをしていた。
 一足先に並び買っており、紙の包装を破けばそれはそれは美味しそうなたい焼きが顔を出す。
 しっかりと中身が詰まって皮の外からも餡の色が透けて見えるたい焼き。職人が一つ一つ焼き上げる、俗に言う「一丁焼き」「天然焼き」とも呼ばれる一品が僅か150円だ。
 香ばしい香りにほんの少し口元を緩めて、大きく一口頭から齧る。
 外はしっかり焼き上がり、中から香ばしい香りと対照的な甘みが広がった。頭に突き抜けるような旨味だ。
 |この世界《√妖怪百鬼夜行》出身の人妖とはいえ、余り本拠地の古書店から自ら出歩く方でもないせいでこのような名店があることは知らなかったのだろう。そんな人物が何故此処までのたい焼きへの情報を知っているかと言えば、今回に合わせて折角だからと調べてみた…のかもしれない。

 そこに行列に並んでいた二人、クラウス・イーザリーと八木橋・藍依が近づく。
 とはいえ列順が近づいたから距離が近づいただけで、作戦を伝えられた際に軽く顔を見た相手だと気づきほんの少し目を合わせた程度…の、はずだったが
 三人で各々「仲間」に対して思うことがあるのだろう。藍依が先に笑みを浮かべてみせたのを見て、嘉槻は笑みを返すことはしなかったが小さく頷いてみせる。
 店の中に入る二人を見送った嘉槻は何となしに人の流れを眺めつつ、急襲や不審な人物等が来ないかを見張っていた。
 見張っていたというのも少し違うだろうか、あくまでも『出来ることはしておこう』という考えなのだろう。何か起こして無辜の民に被害が及べば、彼の元へ良い顔をして帰れないからだ。

 そうして暫く静寂が続いただろうか。
 嘉槻の居る和傘の下、木で出来た長椅子に先程の二人、藍依とクラウスが座る。
「どうも嘉槻さん、こんにちは」
 藍依が座り、紙袋をそっと倒れないように置く。
「ん…ああ。招集された時以来か。随分遅れたようだが?」
「まあまあ、一応監視はしてたので許してくだされば。クラウスさんも…」
「藍依」
 クラウスが藍依の言葉を遮る。
 実際この状況、それなりに人は多い。まずまずの喧騒はあるが会話の内容を聞かれかねない、ということだろう

「…おっと、これは失礼。それじゃあそうですね…」
 藍依は手に持ったたい焼きを見てふと思い出したように言う
「皆さんはたい焼き、どこから食べますか?」
「…どこから食べるかで変わるの?」
 クラウスが首を傾げたのを見て、嘉槻が呟くように言う。
「ああ。そういえば聞いたな…"頭から食べれば頭が良くなり、尻尾から食べれば脚が早くなり、胴体から食べれば身体が強くなる"…だったか?|柳葉魚《ししゃも》にも似たような話があると聞く」
「お、嘉槻さん話が早い」
「お前らが覚えてないだけだ。別に気にしたことはなかったが、俺は頭から食べたな…そっちのお前はクラウスだったか、何処から食べるんだ?」
「…その話は知らなかったから、同じく気にしたことはないけど…俺も頭からだよ。頭が良くなってくれれば良いかなって」
「ふむふむ、やはり皆さん頭からですか。私も頭から食べますよ。頭なんて良いに越したことはないですからね」
 その間クラウスは二人を見つつも、黙々と食べ進めていた。

 嘉槻が口を開く。
「だが、藍依。話題に詰まったからと言えばそれまでなのだが…何故そんな些細な事を聞く?」
「いやあ、これまた些細なことなんですが…私達、なんかちょっとだけ頭が良くなった感じしません?」
「…やはり俺だけではないか。頭から一口食べてからというもの、頭がほんの少し冴え渡るような気がする」
「私だけじゃありませんでしたか。まあそもそもが妖怪がいる世界です、伝承の一つ二つくらい本当にあってもおかしくありませんね」
「|プラシーボ効果《思い込みによる自己強化》とも言うがな」
「言わないお約束ですよソレは」
 その後も暫く、三人の談笑は続いたのだった。

桐生・綾音
桐生・彩綾

 その一方、たい焼き屋の行列に二人の少女が並んでいた。
 年齢の割に凛とした様子の姉、桐生・綾音(真紅の疾風・h01388)、その後ろに続いて居るのは桐生・彩綾(青碧の薫風・h01453)だ。

「…それにしても、最近たい焼き屋さんが狙われるよね」
 妹の彩綾が少し声を潜めて言う。二人とも比較して世間知らずながらも若くして気配りが上手な少女はこの会話が聞かれたら皆がパニックになるということを予見していた。
「そうだね、彩綾。…どうしてなんだろう。裏で何かあるのかな」
「ようか…んんっ。…悪い人達の方でたい焼き屋がリストか何かに載ったんじゃないかな?よくわからないけど…」
「…でも、悪いことするならどっちにしても見逃せないよね。」
「そうだねお姉ちゃん。私たちにとっても……だし、それに……」
「……」
 火の鳥だ。記憶が欠落していても、彼女達の『忌まわしい存在』についてはどう足掻いても種族だけは分かる。だって、優しき母は人間で、二人は半人半妖なのだから。
 【同族である】
 その事実は、二人にとって言わなくてもやはり伝わるもの。
 俯いた彩綾の手を、姉の綾音が黙って握った。

 沈黙が続いた。それは決して暗いものでも、かと言って明るいものでも無い。
 ただ単純によくある、姉妹としての気配りの結果だった。
 行列が前に進んだのに先に気づいた彩綾が、姉の背中を押して優しく先導する。

 店内に入ればたい焼きの香ばしい匂い。
 年頃の食欲で二人の鬱蒼は完全に、とまではいかないが一先ず意識からは吹き飛んだことだろう。
 メニューには老舗らしい王道メニューから、様々な変わり種もある。競合が多く居ておきながら今も尚人気を保つにはこのくらいしなければならないのだろう。
 最近の流行にもついていく職人の技は素晴らしいものだと感銘…したのだろうか?
 それは不明だが、二人は各々会計を済ませて店の外の椅子に腰掛ける。
 優しい日差しが二人を照らした。

「ねえお姉ちゃん、お姉ちゃんは何買ったの?」
「私はね…つぶあん。そんなにしっかりとしたお店で和菓子を買いに行くことはないんだけど、王道ならハズレは無いって思ったから」
 食べることはあるかもしれない。今は幸せに買って貰えることも時折あるかもしれないだろう。しかし、自分から買いに行くことというのはそれほど多い体験ではなかった。
「良いね、私は…コレ」
 そこにはチーズやハムを挟んだたい焼き。それは和菓子と言えば和菓子ではない、かと言って何かと聞かれればたい焼きである……かなりの変わり種のたい焼きがあった。
 サンドイッチのようなものなのだろうか、クレープのようなものなのだろうか。
 我々が知る和菓子にも時代の変化が訪れようとしているのかもしれない。
「わ…凄いね。ご飯や御馳走に凄くいいかも。」
「ねー。他にもずんだやカスタード、ホイップクリームなんかもあって…凄く迷ったけど、やっぱり気になっちゃった」
「…ふふっ」
「お姉ちゃん?」
「ううん。…彩綾が嬉しそうだから、つい」
「……えへへっ」
 今度は妹の彩綾が綾音の手を握る。
 甘い庵より優しく、それでいて炎よりも熱く、長寿で縁起物の鯛よりたくましい絆がそこにあった。

第2章 集団戦 『妖怪犯罪者』


 そうして各々が時間を過ごしていれば、自然に殺気を感じられる。
 妖怪犯罪者の軍勢が来た。
 それは√妖怪百鬼夜行の出身者ならばもはや肌で感じられるだろう。そうでなくても異常は伝わる筈だ。
 民間人もそれを感じたのは例外ではなく各々逃げ惑う。白髪の優しい笑顔を見せていたたい焼き屋の店主が顔を出し声を張り上げる。勇敢な一人の民間人の先導でたい焼き屋の中に退避しようとするものの、行列に並んでいた民間人の一部はパニックになり、退避にはまだ時間がかかりそうだ。
 概要から察するに、人間を多く攫うのは勿論、殺しても構わないと指示を受けていてもおかしくはない。
 親玉の目的はこの事態をとにかく広め、自らの名及び自らのもたらす誘惑についての宣伝を行うことなのだから。

 民間人がたい焼き屋の中に退避するのを守り、妖怪達を倒さなければ!
八木橋・藍依
クラウス・イーザリー
柴井・茂
桐生・綾音
桐生・彩綾
科戸・嘉槻

 ※事前の断り
 怪談『邪視』の掲載された掲示板について、掲載スレッドに関する使用申請等の手続きが必要の為
 『邪眼、魔眼』についての説明のみ行い語りの内容はオリジナルの内容で行わせていただきます。ご期待に添えず申し訳ありません。

 ーーーーー

「──来たか」
 科戸・嘉槻がひりつく空気にいち早く反応する。
「敵はパニックにすること前提でここを選んだみたい。狡猾だね、まったく」
「報酬のためなら人殺しも全然躊躇わない、よね」
 時を同じくし、桐生・綾音と桐生・彩綾の姉妹も立ち上がり、向かいに座る√能力者の存在を確認する。
「彩綾、民間人の方の避難任せられる?」
「任せて、お姉ちゃん!」
 視線すら合わせる必要なく、綾音は敵へ、彩綾は店の入口へと駆け出した。
 すぐに妖怪達は到着し、人々を守りながらの戦いは拮抗となる。

 しかし、逃げ惑う人々の中でただ一人歩み寄る者が居た。
「おれはただの通りすがりだが…これは。なかなかどうして物騒なことが起きているね」
 メモを懐にしまいつつ、妖怪達を見据えるのは柴井・茂(SHIBA狗・h00205)だ。一目見るだけでは頼りげのなく見える彼だが、√能力者である事を確認されれば口元のみの笑みを浮かべてみせる。
「小説家が、原稿を読み上げるなんて…貴重だから、よくお聞きよ」
 彼の武器は言葉だった。それはまさに、口撃。
「これは有象無象の中の一人の話。誰とも知らぬ者に雇われ、無謀な戦いに身を投ずる。彼らの妖生は……あまりにも滑稽なものであった」
『何…!?』
「和菓子屋を襲うだけと言われ、そこに記されるは多額の報酬。脳無し能無しの彼はたった今、ただ喜び力を振るう獣に成り下がる…」
 獣妖が一斉に茂を睨む。
「威張り散らして無力な者に力を振るい、その先に待つのは強き者に屠られる…ああなんと哀れなことか、盛者必衰とすらも言えぬ弱肉強食のほんの一コマ、無謀な小さい獣どもは能力者に返り討ちに逢うことだろう…」
 結果として茂の目論見は大成功だ。
 半分以上の妖怪の注意は大幅に茂へと向けられ、その隙に綾音が駆け抜け音もなく切り捨てた。

 民間人が逃げ惑う中、立ち竦み動けない幼き子が一人。
 するとその指輪に一匹の妖精が留まった。
 穏やかな風のようなオーラを纏うその妖精は、【薫風の妖精】。桐生・彩綾による√能力であった。
 呆気にとられた幼子の手は人のものより少し冷たく、されども前向きな意志を感じる手にて握られ、引っ張り上げられる
「大丈夫…じゃないですね。立てます?」
 現れたのは八木橋・藍依。今や戦場カメラマンを務める彼女にとってこの程度の事態は恐るるに足らない様子だ。
 立ち上がったのを確認したらその手を肩に置いたあと微笑んでみせる
「さ、お姉ちゃん達が守ってあげるので一緒に来てくださいね。離れないでくださいよ!」
 アサルトライフル『HK416』を握れば、口元はやや笑みを。それでいて青き瞳はかつての眼を取り戻したかのように妖怪共を睨みつけてみせた

 藍依とその子供に襲いかからんとした妖怪は電流により阻まれる。
 クラウス・イーザリーの√能力【紫電の弾丸】だ。
「…ナイスです、クラウスさん」
「任せろ。藍依は避難させるのに集中して」
「勿論!」
 帯電しつつ素早く駆け抜けつつアサルトライフルで隙を作り、子供は無事にたい焼き屋の中へ避難した。

 一方、一つ屋根の上から飛び上がり妖怪の一つの集団に飛び込むのは科戸・嘉槻。無謀にも思えるその行動は決して策なしのものではない
「──似合いの末路を語ってやろう」
 只事ではないその堂々とした立ち姿に、一匹の妖だけが飛び込む。さすればその妖は直ぐに形成された血色の鞭に引き寄せられ、仰向けに地に伏す
「とある男は、海に落ちて命も落とした。彼は多少女癖は悪く自尊心が人一倍あったが、何も罪があったわけではない。ただとある女との痴話喧嘩を鎮めるために割り込んだに過ぎない。数年後引き揚げられた彼の遺体は、白骨化しているにも関わらずどういう理由か【目だけが残っていた】」
 嘉槻は隠した右目で地に伏した妖怪を見つめる。
「引き揚げた船団達は恐怖した。何を隠そう、声が聞こえてきたのだ。【死んだ俺を見るな】【腐った姿を見るな】とな……そうして、骨だけのその体は一人に掴みかかった。そう…こんな風にな」
 妖の胸ぐらを両手で掴んで、目線を合わせる
「ところで、邪眼というものを知っているか?『魔眼、|Evil eye《イーヴィル・アイ》』等とも呼ばれているな。深い羨望や嫉妬を込めた目線は人を呪うという与太話だ。しかし俺も含め妖というのは与太話の存在、故に最も効果がある…さて。そんな貴様に彼からの伝言だ」
 自然に右目を隠す髪が退き、妖はその瞳を見てしまう
「【いいな いいな お前は肉があって みんなに見てもらえるんだもんな】」
 怪談の最後の一節を読み上げると共に胸ぐらを掴んでいたその体を地面に投げ捨てる。そうすれば妖の身体は強く痙攣し、飛び上がると絶叫と共に仲間の元へ駆け出す。その姿は混沌を生み、結果として邪眼に捕らわれた彼は仲間の手によって貫かれた。
 …その姿を見ていた柴井・茂。彼は怪談語りではないにしても、片方の顔は小説家。多少なりとも思うところはあっただろう
「これは…随分と派手にやったね」
「俺は甘くない。それに、獣のような妖には少しばかり痛い思いをさせなければ更正などしないだろう」
「…まあ。何方にせよ良い貢献だね、嘉槻」

 場所は少し離れたい焼き屋の前に待ち構える能力者達。
 ある程度の避難が進めば、民間人を襲う怪異も減り。自ずと敵は避難場所へと近づいてくるものだ。
 立ち塞がるのはクラウス・イーザリー、桐生・彩綾、八木橋・藍依の三人。しかし彩綾は妖精の召喚、藍依は"とある要請"の最中につき二人は支援に留まる。
「手は出させないよ……犯罪者ども」
 クラウスはたい焼き屋を後ろ手に立ち塞がり、近づく妖を撃ち抜く。大勢の妖相手でも拳銃による制圧射撃により対応する。
 藍依はその後ろで情報網を接続し、千里眼カメラによる状況把握から的確な指示を出していく。"どういうわけか冴え渡る頭脳"から成す連携は妖達の数を少しずつ減らす。
「強攻撃来ます、備えて!」
 クラウスは瞬時に前に出て電撃鞭により投げられた頭蓋骨を打ち落とす。しかしのっぺらぼうの指揮により、すぐ近くの彩綾へと蛇妖怪が向かう。
「…!」
 その間に割り込みガントレットを構えるものの、それは罠。素早く身体を締め付けられる。
 蛇妖怪がクラウスに語りかける。
『計算を間違えたなこの野郎!人助けなんてするお人好しならこうするって知ってたんだぜ…事前に女子供から狙えって聞いてたんでな!直ぐに背骨を折ってやる!』
「…違う。俺はお人好しなんかじゃないし…計算を間違えてもない」
『何を強がって──』
「──俺は」

「俺は人助けに取り憑かれた妖だよ」

 クラウスの身体ごと高圧電流が流れ、蛇妖怪は飛び退くように吹き飛ぶ。その体は焦げ、いかにも瀕死だ。当然クラウスもタダで済んではいない。しかしクラウスは変わらず其処に立っていた
『ば…化け物だ!?何考えてやがる!』
 蛇妖怪の元に現れたのは、柴井・茂。ただ歩み近づいただけではない。
「…化け物が人に化け物と。人を襲って金を取るような、そちらこそが化け物だというのに、彼は言った。『化け物』と」
『……!』
 刹那、蛇妖怪の身体は矛盾と恐れにより"瓦解"した。

「…大丈夫かい、若いお兄さん」
「クラウスだ。……ありがとう」
「うんうん…大変な怪我だ、しばらく休むといい」
「……俺は…大丈夫だ」
「クラウス…?」
 クラウス・イーザリーは次の敵へと駆け出した。

「…我が妹、桔梗よ。協力感謝致します!これが終わったらたい焼きを差し入れしますとも!」
 一方、藍依は連絡を取っていた。ほんの少しのささやかな契約を取り付け、画面の向こうでの笑顔を見てから画面を閉じる。
 到着したのは、デコイのついたドローン…及び『千里眼カメラ』と呼称されるソレにデコイ機能と最低限の戦闘能力を備えたもの。
 鉄の網により妖怪の腕や首を引っ掛けつつ敵の群れを翻弄していく。
 時間を稼ぐうちに妖怪達を掃討していた者たちも合流が進んだ、残された妖怪達は挟み撃ちの形に合う。

「綾音さん、その巨体の後ろにもう一人!」
「了解っ!」
 鳳凰の戦乙女となっていた綾音は盾を手にしつつ切り刻み、素早い二連攻撃により引導を渡す
「嘉槻さん、背後に!」
「言われなくとも分かっている!」
 血を操る『血呪』で形作った薙刀により背後の気配を切り払い。血呪に妖の血は馴染まず垂れるがその能力は健在だ。

 主たるのっぺらぼうさえ倒してしまえば、残る有象無象を倒すまでにさして時間は掛からなかった。
 力強くも圧倒的な殺陣がたい焼き屋の前で繰り広げられ、直ぐに事態は鎮圧したのだった

第3章 ボス戦 『不死の象徴『鳳凰童子』』


「ほーう……よもや能力者に先回りされていたとはの。元々期待はしておらぬ故、わらわも準備はしておったが」
 紅く燃える翼をはためかせ現れたのは古妖『鳳凰童子』
 今回の事件の首謀であり『不死の象徴』
「まさかあれだけの数がおりながら女子供の一人も攫えず、ましてや殺しも出来ないとはの…それほどおぬしらは腕が立つのじゃろうて。ならば相手をする気にもならん」
 近くの屋根上に降り立てば自らの翼を撫でつつ告げる。敬意にも見えるその立ち振舞いの裏にはやはり傲慢さが見え隠れしており

「わらわという火がこの世界に燃え広がる為の薪を、わざわざ一箇所に集めてくれたのじゃな…感謝するぞ」
 不敵な笑みを浮かべ、炎を纏う。君達を見下ろすその姿は不死鳥のようで、それでいてまるで絶望を告げる告死鳥のようだった。

 最優先で君達の背後にあるたい焼き屋を狙うだろう
 予知された事件を阻止する為に必ずたい焼き屋を守り切り、鳳凰童子を撃退しなければ!
八木橋・藍依
クラウス・イーザリー
桐生・綾音
桐生・彩綾

「感謝される謂れは無いね」
 クラウス・イーザリーは静かに、されども力強く前に一歩踏み出した。
 怒りでは無く、しかし無心でもない。その瞳は確かに鳳凰童子を見据える。
 続いて言葉無くして互いに構えるは桐生・綾音と桐生・彩綾。一歩前に踏み出したクラウスの焦げた体を見て、次に鳳凰童子をしっかりと目で捉える。
 【同族である】
 …などと。そんな感情は今や一つもなかった

「──まさか、逃げるわけでは無いですよね?」
 八木橋・藍依が帽子をかぶり直し、無機質な音と共にHK416のリロードを行った。その口元に笑みを浮かべてみせる。
「逃げる?まさか。そもそもおぬしらを相手するつもりは無い…が、わらわの前に立ちふさがるならば…容赦せんぞ」

 始まりの合図は轟音だった
 爆裂にも近い炎と共に直線的に飛翔し、炎の塊が襲来する
「止められまい、この炎!」
「止めてみせるっ!」
 瞬時に前に駆け応戦するのは桐生の姉、綾音。
 握るは鳳凰の大太刀、炎と刀が衝突し二人は炎に包まれる!

 ───そして僅か5秒後、炎は晴れる

 残るは片腕を痛める綾音とそれを支えるクラウス
 吹き飛ばされつつも冷静に笑みを浮かべる鳳凰童子
 そして無数の何かが焦げた残骸
 されども守るべき店には火の手一つ及んでいない
 時を遡り順次説明する。

 瞬間的に衝突した二人、しかし悪性のインビジブルが味方する鳳凰童子が優勢。鳳凰童子の手は刀で斬られぬよう、質量のある炎で遮る。その刀を溶かしてしまわんとするばかりに猛火は強まり辺りを包んだ。
 これが二人を包んだ炎の正体だ。

 綾音は鳳凰童子の炎により赤く染まりだした鳳凰の大太刀を見つつ、自らの持つ炎を燃やした。それはただ熱く燃やすだけの炎ではない。
 姿も知らぬ父の物であれど、それは遥かに気高き意志。
 覚醒した力を前に鳳凰童子はさらに力を強めた……ここで2秒経過。
 そうして視野の狭まった鳳凰童子に炎を厭わず突入してきたクラウスのスタンロッドが迫る
 古妖としての矜持を発揮し綾音を蹴飛ばしつつ避ける。が、狙いは其れでは無かった。
 天より決戦気象兵器「レイン」の無数の光が鳳凰童子のみに降り注ぐ!
 直撃し怯みながらも鳳凰童子は身体を翻し圧倒的な炎の弾を無差別に放った。
 其れはクラウスと綾音だけではなく、その向こうにあるたい焼き屋にまで向かう。
 吹き飛ばされ膝をつく綾音の前へクラウスが割り込み庇う、桐生の妹彩綾がたい焼き屋の前でエネルギーバリアを広げる…が、この範囲では全てを守りきれない。
 その刹那。彩綾の炎が覚醒しエネルギーバリアを強化、優しく包み込む炎の壁が形成される。
 4秒経過、不味いと判断した鳳凰童子はインビジブルを伝いその場から転移。至近距離からの炎の一撃を放たんとする。
 その一撃がたい焼き屋へ燃え広がり、炎弾から綾音を庇うクラウスにも直撃するかと思われた刹那。炎に飛び込む小さな何かが割り込むようにして遮り、地に落ちる。
 鳳凰童子が瞬時に炎を放とうとするが…
 転移した目の前には、彩綾の構える銃口。鳳凰童子は零距離での射撃を受け大きく吹き飛ばされた。
 この短時間で銃口を的確に合わせたのは藍依の指示。事前にインビジブルの位置を把握し知らせておいた上で、引き金に手をかけさせておいたのだ。
 5秒経過、クラウスの足元と綾音の足元に溶け落ち黒煙を放つのは。
 デコイへと改修された『千里眼カメラ』の残骸だ

「…間に合いましたね、流石にヒヤヒヤしましたよ。彩綾さん、よく信じて何もないところに引き金を引いてくれました」
「…小癪な、こんな機械に」
 状況を見たクラウスと綾音。静かながら瞳の炎を燃やす彩綾。
 樹脂と基板の融けた異臭の中、藍依はしたり顔で笑みを浮かべてみせた。
「こんな機械?そんなまさか。どれも撮影データが詰まった、"命より大切なカメラ"ですよ」
「…ほう?命より大切とは。わらわの血を飲めばその命を永遠に…即ち、いくらでもその身を投げ打てるというのに、なにをたわけたことを…」
 藍依は、一つため息。続けて低い声でポツリと呟く。
「……不老不死ってそんなにいいですかね?仲良くなった人に先立たれて看取る人生を永遠に送らなきゃいけないんですよ。…死体にされて操られるより、余程残酷だと思いますけど」
「………!」
 …藍依が再び意地悪げな笑みを浮かべる。
「それに。仮に不死になったとて美味しいたい焼きを独り占めしにいく間抜けさんには成りたくないですからね」
「こ……のっ…」
 安易な挑発だ。鳳凰童子はそれを分かっていた。しかし"不死"への絶対的な信頼を揺るがす言動。バッチリとたい焼き屋の目撃者にも聞かれたことだろう。鳳凰童子にとってこれ以上の失態は無かった。

「……使いたくはなかったが仕方あるまいて……小童め!」
 鳳凰童子は死者の軍勢を向かわせる。その数は十数名程度、妖怪犯罪者に対し完璧な防衛をしたからこそ人間の数が足りないのだろう。
 対する藍依と彩綾は銃を構え死者の軍勢を撃ち抜いていく。がしかし、頭を撃ち抜かれて肉片となっても前に進む軍勢に苦戦する。
 引き換えに鳳凰童子が羽休めをしようとしたのを綾音が足止め、炎が再び舞い遠方での激戦を物語る。
 鳳凰童子が執った手段は、死者へと炎を放つこと。燃え盛る死者達は苦痛のあまり走り出し、たい焼き屋へと走り出す。一匹でも通せば燃え広がってしまうだろう、銃では足りない。
「……手出しはさせないよ」
 駆けつけたクラウスが死者を斬り伏せ、レーザー射撃で跡形もなく消滅させる。藍依は何か頷き、クラウスへと耳打ちをした。
「それで行こう」
「…それじゃ、任せてください」

 クラウスは後方へと下がり、彩綾の回復を受ける。元より無理をしてきた体を見て、彩綾は息を呑んだ。
「…どうしてこんなに無茶を」
「無茶してるつもりは…無いけどな」
 自らを犠牲にすることを厭わない思考は若い彩綾にとって衝撃かもしれない。その様子を見てクラウスは一言。
「別に…このやり方だけが正しい事じゃない。自分の方法で、大切な人を守ってほしいから」
「…わかった。ありがとう」

 その一方、藍依は燃え盛る死者の軍勢に数多の銃とレーザー兵器を放ち、一匹ずつ、突進する物から順に焼き払う。
「ほーらほらっ!逃げないと蜂の巣になっちゃいますよー!」
 実際には蜂の巣にしてから歩みを封じ、這う肉塊となったソレをレーザーで焼き払っている。同時に2体来ればまずは脚を弾き飛ばし、手で這い始めたところを蜂の巣に。より多ければ頭を吹き飛ばして、と。
 単調に見えて慧眼と頭脳光る戦線維持を行い…遂に軍勢を全てを討ち払う。
「はっはっはっは!コレこそ我らがルート前線新聞社の……あだっ!」
「藍依」
 ぺしーんっ、とクラウスに頭をはたかれた後藍依は首根っこを掴まれ連行された。
「冗談じゃないですかーっ!歩きます!自分で歩きますから!」
「こっちのが早いから」
「削れる!足削れますってクラウスさん!」
 そんな様子を見つつ若干口元を緩めた彩綾もまた、姉の綾音の元へ向かうのだった。

 鳳凰童子の再生を防ぐ為絶えず猛攻を仕掛ける綾音。一瞬でも隙を見せればやられ妹達の負担になる。それだけは避けなければならない。
 火の玉を切り払うようにして、なるべく鳳凰童子に回復の余地を与えないように太刀を振るう。
 炎を向けられれば、此方からも炎で応戦し相殺する。次第に二人は疲弊していた。
「人の子風情の炎がわらわを阻むとはの…動きが鈍くなっておるぞ!」
「あなたの炎は…ただ焦がすだけ。だけど私…私達の炎は…!」
「不死の炎で身を焦がした末に、その生を清めるがよい!」
「ぐあっ!……それでも…っ」
 綾音の身体は受け止めた大太刀ごと吹き飛ばされ、落ちた瓦で更に腕を負傷し膝をつく。鼻先にまで熱が伝わった瞬間……
 炎は、また別の炎に包みこまれた。

「…助けに来たよ、お姉ちゃん!」
「あなたとは……違う!」
 彩綾の肩を借り立ち上がる綾音、二人を炎が包み込む。されどその炎は決して近くの建造物を燃やさずも焦がさずに。
 再び立ち塞がる完治したクラウスと、少し遅れて駆けつけた藍依。
「…お前を倒しに来た」
「あなたみたいな悪党なら、心置きなく戦えるってものです」

「……うつけ者どもが、身の程を知るが良い!」
 鳳凰童子は消耗しつつも炎を燃やし飛びかかる。しかしたいやき屋から離れた鳳凰童子は最高のアドバンテージを失った状態にあった。
「民間人に被害は行かない…なら!」
 万全のクラウスは雷を纏い本領の高速戦闘、対する鳳凰童子は次第に押され始める。
「…こうなれば…!」
 鳳凰童子の√能力、【黄泉より昇れ不死の炎】。視界内の敵を燃やさんと巨大な炎を纏おうとした瞬間の事だった。
「…2…1……ゼロ!」
 藍依はすかさず滑り込み、カメラのフラッシュを焚く。完全にタイミングを調整し『邪悪な炎を纏う悪の√能力者の写真』にピッタリの臨場感溢れる写真を撮ってみせ、フラッシュにより√能力の発動を阻害した!
「しまっ……」
 瞬間、桐生姉妹の炎が同時に放たれ鳳凰童子を包みこむ!
「……これで」
「おしまい!」
 鳳凰童子の体は、炎に巻かれて塵と化した!



 戦闘後、クラウスは綾音と彩綾に駆け寄られた。
「……お疲れ様、二人とも」
「クラウスさん!…怪我は平気なの?」
「わたしが治したけど…全然大丈夫には見えないよ」
 それに対しクラウスは無表情ながら、安心させるようにぽんぽんと頭を撫でる。幾ら年下であろうと別にそこまで子供ではない。やや失礼にこそ見えるが、クラウスは子供への接し方というものが分からなかった。
「一人にして、ごめん」
 クラウスのその言葉と共に、姉妹は見合う。互いを離してしまい、片や単独での足止めという重責。それでも戦い抜いた綾音にクラウスは敬意を示した。
「…私からも…ごめん、お姉ちゃん」
「……ううん。大丈夫…ありがとうね」
 手を繋ぎ合う姉妹を見て、クラウスは静かに藍依の元へ向かった。


「……んーっ、我ながらよく撮れてますね。コレは見開き一杯に出来ますとも。記事の内容ではなるべく不死というワードは避けて…と。後は記事用にたいやき屋の写真を…」
「藍依」
「ひゅい!?」
 声とともに藍依は足が痛んだような気がするようなしないような。最初に続きまさか今度は自分が背後を取られるとは。…と、思ったかもしれない。
「…運動したらお腹すいたから。皆で行こう」
 クラウスの後ろには、穏やかに笑みを浮かべる姉妹がいた。
「…はい!いいですとも!」


 そうして四人は再びたいやき屋へ赴いた。√能力の事をある程度誤魔化すのは骨が折れたが、それでも店主や人々は四人へ感謝し数えきれないほどのたいやきを配ってくれた。
 ある程度は藍依のドローンによる速達で各々の居場所へ届くだろうが、それでも大量の紙袋を直に持って行くのは必須だろう。
 王道の甘み広がる粒あん、上品な甘みのこしあん、その他にも小倉あん、カスタード、抹茶等々。思いつく限り幾らでもあると思って良い。
 疲労した体でそれらを持ち帰るのはなかなか堪えたが……
 皆で食べるたい焼きは、とても美味しいことだろう

 …もしこれといった集まりに属してなくても、たい焼きを手に新たな場へ上がり込んでみるのも良いかもしれない。語り手は全て許します。
 皆や友へこれらたい焼きを配る際は、この問いをしてみるといいかもしれない。
 『たいやき、どこから食べる?』と。

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト