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策謀、もふもふ、大乱戦――しかる後に
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「やあ、お集まりいただき感謝する。私は椎宮・紫水。僭越ながら星詠みの端くれだ」
椎宮・紫水(シセキエイ・h12162)は帽子をとって、恭しく一礼する。ゆっくりと姿勢を戻した後、紫水がEDENの√能力者達を見渡してから、告げた。
「それでは聞いていただけるかい? |ゾディアック・サイン《星》の導きを」
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「此度の星の導く先は『√仙術サイバー』。つい先日、√EDENと繋がった新√だね」
そういってから紫水がばさっと紙を広げる。超簡易的な地図の様だ。そしてその地図の一点を指さす。
「町の名はセイデン。階層はⅣ。武強主義はあるものの、こじんまりとした比較的穏やかな町だ」
そうなったのは理由がある。これまで抗争に巻き込まれる回数が少なかったからだ。
何故かといえば、これまでカリスマと力を持った『一強』がこの町を支配していたから。守護神とも逆らえぬ悪鬼とも言われてはいたが、事実として町の秩序を正しく敷き、周囲の脅威から守る、一柱の強者であった。
「『清電大侠』という方がいらっしゃったのだが……急な病を得て、先日お亡くなりになったようだ」
これにより、セイデンの町が一気に緊張に満ちた状態となった。
「清電大侠殿の後継はいらっしゃるようだが、まだ町を支配するまでは至っておらず、周囲のマフィアからの介入を防げずにいる」
周囲のマフィアからすれば、意図せず支配の空白が生まれたのだ、狙わない理由が無い。
「とはいえ、ただ武力で侵略しては反発があるかもしれない。その為、奴らは『切欠』作りに策を弄している様だ」
どういう事かと言えば――『大事』を起こして、それを解決すべく町に侵入する、という作戦。
「自分達が原因のくせに、恩着せがましく町に入るわけだ。そういうのはちょーーーっと違うんじゃないかと思うわけだよ、私としては」
そういって紫水がにやりと笑う。
「存分に壊してくれないか? |奴ら《マフィア》の策謀」
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「まず、町に敷かれている陰陽五行陣のバランスを正してほしい」
どういうことかと言えば、この町を包むように、陰陽五行の五行を示す『かごめ紋』が敷かれているらしい。
「もちろん、マフィアの仕業だ。元々こんなものをはなかったので破壊してもいいのだが……」
知っての通り、五行は隣接あるいは向かい合った属性と密接に関係している。そこを考慮せず破壊すれば、町に被害が出るかもしれない。
「それに陣を正せば、それを『鍵』にして妖魔が召喚される仕組みだ。奴らを呼び寄せる意味でも破壊よりは策に攻略したほうが良い、というわけだね」
では何をするかと言えば――。
「現在、陰陽五行陣によって、『火の陽』が非常に強くなっている状態だ。このままでは大火事ないしは大爆発が発生してしまう」
それは唐突に、町を飲み込み、人々の生活を破壊するだろう。そしてそれを『助ける』項目でマフィア達は侵略してくるのだ。
「なので、それが起こらぬ様、火の|気《け》を抑え込んでほしい」
五行でいえば、水克火。あるいは木生火を利用する。
陰陽でいえば、陽の気を陰の気に転ずる。
「なに、難しく考える事は無い。火は水で消えるし、火が大きくなるには燃える物がいるという話だ」
つまり、水気を増やす――水撒きするとか雨を降らすとか。氷を置いて回ってもいい。とにかく火を抑え込む水を、町中に用意してほしい。
あるいは、燃える物を遠ざける。町の中のゴミを処分したり、燃えそうな廃屋を破壊したり。風が通らない様に何かで道をふさぐ、というのも手だ。
「陽から陰への転気ならば、火を使ってしまえばいい」
火を使う――大道芸で火を噴いてもいいし、花火で遊んでもいい(後始末はしっかり!)。一番簡単なのは料理だろうか。少し火力が強くなるかもだが、その分火の気は抑えられるだろう。
「そんな感じで、陰陽五行のバランスが整うと、大火事や大爆発の危険は無くなる……代わりに妖魔が召喚される」
そう、妖魔が……『妖魔シュエバオ・マオマオ』が召喚される。
「もふもふだ。ユキヒョウの子供に近い外見だろうか? たぶん……退治は容易だ。なんなら遊び倒せるかもしれない」
きっと陰陽五行が正された影響なのだろう。こんな可愛い妖魔が出てくる。そしてもふもふだ。もふもふなのだ(大事なことなので2回言いました)
最後にはちゃんとお別れ(?)する必要があるものの、シュエバオ・マオマオが町に被害を及ばさないならば、倒しても遊んでいてももふもふしていてもいい。とにかく召喚時間が終わるまで最低限足止めを。
「そしてシュエバオ・マオマオをどうにかできれば、『異変が起こらない』という異変を察知してマフィアが雇った傭兵が現れる」
この傭兵達は金で雇われた者達だ。善悪など関係なく金が全て。雇われた以上、全力で襲ってくるだろう。
「この頃には住民達も危険を察知して家の中に引きこもっているはずだ。町の中を存分に使って、傭兵達を倒してくれ」
町の中は√仙術サイバーにありがちな風景。広場もあれば、物がごったごたに置いてある路地もあるし、街路樹が生えている道もある。好きな所で戦うといいだろう。
「というわけだ。後はお任せしてもいいかい?」
そう言って紫水がセイデンに繋がる『√』を示す。
「それではよろしくお願いする。良い『√』選択をどうか」
EDEN達を見送る紫水。
√を潜り抜けた先には、セイデンの町がある。
これまでのお話
第1章 冒険 『*空間の"気"が乱れている*』
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よき√選択を、という言葉の主はEDENの√能力者達である。
自身が求める結果に向けて行動してほしい、それが例え星詠みの思惑と違っても、それは正しく『選択』なのだから。
そんな思いを背に『√』を繋ぐ通路を抜けて。
√仙術サイバーのセイデンへ到着したEDEN達は辺りを見渡す。
町並みは中華街のそれ。町を彩るネオンは重暗いものではなく、晴天のように明るく賑やかだ。
行き交う人々の表情も明るく、不穏な気配すら感じない。時折『武強主義』の影が見え隠れするが……粗暴、野蛮はあれど卑怯は在らず。ゆえに、強き者が際立つ。正しく武強主義が根付いている。
セイデン――清電の名のごとく、この町は清く、強い。
しかし、今この町に悪意が迫っている。町の支配者がいなくなったからといって、成果だけをかすめ取ろうとしているマフィア。その純粋なる悪意が。
その作戦は、『陰陽五行陣で町を大惨事にして』『その後、妖魔を仕掛け』『それらを助ける事で介入する隙を作る』というマッチポンプ。
そのような卑怯、許していいものか? 対する答えは様々であろう。
されど、この地に救いの手を差し伸べんと思うならば。
策謀は突き崩さねばならない!
町の中心には円状の広場がある。真ん中には噴水。
東西南北の入り口にはそれぞれ像がある。四神の像。
町の東西に公園がひとつずつ。遊具もあって砂場もある。
大きな道の交差点には、木陰ができる程の木が植えられている。
そして囲碁の盤目のように走った道の左右には、所狭しと店が立ち並ぶ。
さて、この町に差し迫った危機――五行における火の気をどうしようか?
噴水を使って周囲に霧雨を降らしてみてもいい。
広場で屋台はどうだろうか?
砂場で水をためて池を作ってみるとか。
盤目の道からそれた路地に在るゴミをまとめて町の外へ運び出してもいい。
時間はしっかりとある。各々が少しずつでいい、火の気を削いでいけば。
問題なく、陰陽五行陣は正しいバランスに戻るだろう。
※シナリオ補足※
雰囲気を出すためにいろいろと細々書きましたが、『ちょっとボランティアするか』くらいの気持ちで全然問題ありません。
その際に、『水を撒く』『火を使う』『燃えそうな物を撤去する』『風が通り抜けないようにする』のいずれかを行って頂ければOKです。
精霊術や魔法でも可。不思議な力を使わずとも、たき火するだけでもオッケーです。
万能なのは広場。広いスペースは住民じゃなくても利用可能であり、商売や芸をしてもOK。OPにある許可は入り口でもらえるものとします(禁止事項にあたる行動は不可)
大道芸とか便利かもしれません。
町のお掃除もいいですね。食べ歩きのゴミなどが落ちていますのでこれらを掃除するだけで解決につながります。
その他、これまでに記載していないものでも大丈夫です。
皆さんなりに、火の気を抑えてみてください。
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星詠みの指した『√』を通り抜けて到着したセイデンの町。
『√』を抜けてくる時間に各々の差異があったのだろう。
今は夜。ネオンが輝き、照明が世界を眩く照らす。
そんな夜に神隠祇・境華(金瞳の御伽守・h10121)はセイデンに降り立ち――町の空気に触れた肌が、チリリ、とひりつく。吸い込む空気がどこか重くて、同時に、ざわり、と揺れる胸の奥。
それはカタチのないもので……持ち運んでいる『物語』達からの悲鳴だったかもしれないし、彼女自身の経験が為せる業だったかもしれない。
『火の気が満ちすぎている』――。
けれど、境華の内に起こるは恐れよりも先に。『どう整えるか』という静かな頁の感覚が、浮かんだ。
ならば。
境華が歩みだす。雑踏を通り抜け、やがて辿り着いたのは広場。そして視線が捉える――広場の片隅に積まれていた古い灯籠。夜の帳にそっと佇んでいた、見守るモノ。
境華が歩み寄ってそっと手を添える。撫でる様に手を添わせて、その存在を確認する。
(……この灯籠……形も重さも、ちょうど良いかもしれません)
器になる、と判断した境華が、ほぅ、とひと息をついてから……物語を手に取る。
「……では……この頁を、夜空へ――」
開いた頁がふわり、と揺れて。境華の口が物語を紡ぎだす。
物語は我が手に──南天を守りし朱の翼よ。
その浄き火、いま一時だけ我と歩みを共にしたまえ。
【|御伽「陰陽:南天に座す朱の翼」《スザク》】――境華の言ノ葉に応じる様に炎が揺らぎ、その浄き火が灯籠のみへと流し込まれれば……浄火を伴う南天の物語が灯籠を炎を纏う朱鳥へと変化させる。
ひと羽ばたき。炎の羽根が辺りに舞い散るが、周囲のものが燃える気配は無く。ただただ炎の揺らぎが、この地を蝕む『火の気』を取り込み、無害な浄火へと変じさせる。
「……行ってらっしゃい」
境華が指先で軌道を示せば、それに従って朱鳥が夜空へと羽ばたいていく。ゆっくりと円を描きながら高く舞い上がり、そこから一直線に夜の空を翔けていく。
その飛翔で朱鳥は火の気を取り込み、散らして、炎が細く尾を引いて。
直後、空に残った炎の尾が、パチパチパチ、と弾けだす。それは花火の様に、空に朱の花を咲かせて。
「……綺麗……」
火を抑えるための行いなのに、それはどこか祝祭のようで。
派手ではない、されど鮮やかに夜の空を朱で染めていく。人々が足を止めて空を見上げる程に。
「……これなら、町も……少しは呼吸を取り戻せるでしょうか」
空を見上げたまま、思わずそう呟いて。
境華は朱鳥のゆくえを見守る。
息の詰まる様な火の気に満ちた空気が、少し和らいだようであった。
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昨夜は夜空に朱色の炎の華が咲いたらしい。
そんな話題を耳にしながら、天咲・ケイ(人間(√ドラゴンファンタジー)の黄龍拳|格闘者《エアガイツ》・h00722)はセイデンの町を歩く。
星詠みの『√』を通り抜ける時間はどうなっているのか、今は朝。ケイを迎え入れたセイデンの町は朝市の賑わいに包まれていた。
「この√も中々興味を引かれる所ですね」
己を高めるために武道の修行を続けてきたケイにとって、『武強主義』はどう映るだろうか。修行の成果がクリティカルに成果へ繋がる世界は、ケイにとっても新鮮かもしれない。
そんな興味に後ろ髪をひかれつつ。
「色々と見て回りたいところではありますが、その前に一仕事ですね」
気持ちを切り替えて、セイデンの町を見つめ直す。
目を閉じて意識を集中する。氣を練る要領だ。その過程で取り込まれる『外部』の氣はどこか騒がしくて。しかし町の賑わいとは全然別のナニカ。
「なるほど、確かにこの町は気が乱れているように感じられますね」
目を開けて、ふむ、とひと呼吸。
落ち着いて見てみると、観光客が捨てていったものだろうか、あるいは人が多いからうっかり落として回収しきれてないのか。多くは無いが、至る所にゴミがあるように見受けられる。
「では、燃えるゴミを撤去していきましょうか」
木生火――木が燃えるから火が生まれる。燃える木が無ければ、火は大きくならないのだ。
40リッターのゴミ袋を手に、ケイが火ばさみを持って燃えるゴミを放り込んでいく。燃えそうなものも、まぁ大丈夫。燃えないものは後ろをついて歩く、鹿毛の愛馬『ウインドローズ』に持たせて、こちらもついでに。
往来を馬連れが歩く、などこの上なく目立つだろうが、忘れようとする力が働いて、ケイ達に『触れよう』とする者もおらず。視界から外れれば、程なくケイの事は忘れていくだろう。それでいい。だからこそ出来る。
テロや暴動対策なのだろうか、町中のゴミ箱は数が少なく、広場や交差点などでゴミが溢れかえっている。それらをゴミ箱にしっかりと詰めてウインドローズに乗せて。
「終わったら、美味しい物を食べさせてあげますから」
そう言ってウインドローズを撫でるケイ。もうしばらくがんばってもらうとしましょう。
町中にあるゴミ箱を巡って中のゴミを集積。ウインドローズに運んでもらう。持っていく先は事前に星詠みが伝えていた、セイデンの町の外にあるゴミのストックヤード。話は通っているのだろう、ウインドローズに積まれていたゴミ袋4~5個を回収してくれる。
「あとは……ゴミ集積場のものも持ってきましょうか」
「いや、それは……あ、まぁ頼もうか。ちょっと近づきたくないんだよね、今のセイデン」
ストックヤードの従業員がそう告げる。おそらく……何やら不穏な気配を感じているのだろう。
「もうひと仕事です。お願いできますか、ウインドローズ」
ケイがそう言って撫でると、ウインドローズからは了承の嘶き。
再度町へ戻って、もうひと仕事だ。
……ということがあって。
「やっとゆっくり町を見て回れそうです」
ひと仕事を終えたケイとウインドローズがセイデンの町中を練り歩く。ケイの手にはほかほかの中華まん。ウインドローズの口には野菜パンダまんが放り込まれている。野菜、小麦にあんこ……馬でも食えるじゃろ? そんな光景を横目で見ながら、ケイも中華まんを頬張る。ひと仕事の後のせいか、ことさら美味しい気がする。
そんな感じで散策をしつつ、これからの『出来事』に備えて地形を覚えておくケイ。大通りはもちろん、狭い路地や道が交差する小広場に至るまで。
「良い町ですから色々と写真にも収めておきましょうか」
手にしたカメラに風景を収めていくケイ。
そんなケイをウインドローズが後ろからじーっと見つめている。
「いえ、決して観光気分ではありませんので」
冷や汗をかきつつ、手を振ってウインドローズに釈明するケイ。
でもいいんじゃないでしょうか。そんな時間も大切なので。
大火事ないしは大爆発の後に延焼の元となるゴミの類が撤去された。これにより、セイデンの町の木気が大幅に減ったのである。
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人の往来。小さな中華街のような様相のセイデンは、少なからず観光の客足がある。そういう人々がセイデンの氣を運び、かき混ぜ、平静にしていく。良き人々の絆は良き氣を引き寄せるものだ。
そんな明るい風景を視界に収めながら、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)はセイデンの町を歩く。
何かしら視界に入ってくる『異常』があるわけではない。だが、星詠みがゾディアック・サインを得たのならば。それは遠からず起こる未来。
「街に被害が出るような作戦を放置しておく訳にはいかない」
決意を胸に、クラウスは町を見つめる――そこにある人の営みを。
町を巡り、至った場所は建物の上。大きな店舗の屋根の上。屋根伝いにいけば、隣にも飛び移れるだろう。この雑多な感じが√仙術サイバーの魅力かもしれない。
屋根の縁に近い場所に立ち、町を見下ろすクラウス。忘れようとする力が働いているのか、上を見上げる者もおらず、見上げたとて視界に入っているかどうか怪しい。けれども、だからこそEDEN達は活動ができる。
(陰陽五行というのはよくわからないけど……とりあえず、火の力を抑えればいいんだよね?)
『魔導手袋』を着用した両手を合わせる。魔力が両の掌の間を行き交い、編まれ、カタチを為していく――【|魔符創造《クリエーション》】によってクラウスの手に魔力で構成された護符が顕現する。
「よし」
護符を握り、その『ご利益』を感じながら。
魔導書を開き、呪文を紡ぐ――属性魔法:水。護符によって底上げされた魔力操作によって、水がさぁっ、と広がって霧雨のごとく町へ降る。
「きゃぁっ!」
「つめたっ?!」
急な雨粒に行き交う人々が悲鳴を上げる……が、観光や用事を邪魔する様な雨足では無く。しかし少し長めに降る事で大地に水分を蓄えさせる。
(町の人には急な雨で迷惑をかけてしまうかもしれないけど、少しの間だけ我慢してもらおう)
クラウスが少しずつ移動しながら霧雨を降らせて、地面を湿らせる。ついでに道に植えられている植物にも水をやっていく。こちらは少し水量を多くして、たくさん水を蓄えてもらう。
「くっ……」
クラウスの呻き声。その時、はらり、と護符の魔力が解ける。同時に魔符を為していた魔力が暴走、その反動を容赦なくクラウスへ与えていく。バチッ、と電流にも似た魔力がクラウスの手を灼き、思わず手を引くクラウス。
(だけど……)
『此処』でやめる理由は無い。否、例え魔力がその身を蝕もうと、必要なら躊躇わずに使う。
再度の【魔符創造】――今のクラウスが高い技量で安定した魔法を使うには、魔符に頼らざるを得ない。そしてこの先にある、悲しい未来を避ける為ならば。惜しんでいる場合では無い。
再び、属性魔法で水を生成。雨を降らせていくクラウス。水球が少しずつ少しずつ解けて、霧雨に変換するには繊細な魔力操作が必要だ。
(まだまだ魔法使いとしては新人の身だ、こういう繊細な魔法の調節を行うのも修行になっていい)
屋根を伝い、雨を降らせて、また移動する。そうやって町の各所へ水たまりほどではないが、水分を蓄えさせて、火の気に備える。
「これでいいか、な?」
町の大通りにはすべて雨を降らせた。雨が乾くまではまだまだ時間がある。その間に事は次の段階へ進むはずだ。そう、妖魔の召喚に。
「……この次は、もふもふが出てくるんだよね?」
その光景を想像して思わず口に出すクラウス。
そう、次はもふもふタイムである。いや、一応妖魔退治……まぁいいかもふもふタイムで!!
「楽しみすぎてそわそわしてしまうよ」
そんな言葉を口にして、クラウスは笑みを浮かべる。
町の至る所に、雨が降って。水克火――水は火を抑える理。またひとつ、火の気が抑え込まれて、陰陽五行陣は正しいバランスへと近づいた。
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星詠みの指す『√』を通り抜けて辿り着いた先の√仙術サイバー。セイデンの町は今日も賑やかに明るく、日常を刻んでいる。
この町が大惨事に巻き込まれるなんて微塵も思わないだろう、普通は。
それでも『そうとわかって』いる上で心得のある者であれば、巧妙に隠された町への悪意に気づくはずだ。氣の乱れ……陰陽五行の揺れ。
「火の陽が強いなら、金の気が弱ってる可能性高いヨ。 金生水、水克火。理屈は簡単ネ!」
セイデンの町に降り立ったレイラ・ウー(|契約至上主義のアウトロー武侠《ウラギリハユルサナイ》・h12286)が告げる。
そう、理屈は簡単なのだ。仕掛けが強弱のバランスを崩すものならば、弱きを強く、強きを弱くすればいいだけの事。
というわけでレイラが取った手段は。
「広場に即席の『清電金物屋』開店するヨー!」
と屋台を引っ張ってきた。広場の中にででんと座する清電金物屋(の屋台)。品揃えは金属製のバケツに鍋、火ばさみにちりとり。斧やノコギリもある。
「格安で配布するヨー! その代わり、水撒きと紙回収して欲しいネ!」
名付けて(?)、『住民にも協力してもらって、水撒きとゴミ撤去を同時進行ネ』作戦。ギブアンドテイクを地で行くともいう。『契約』に依って立つ彼女らしい作戦ともいえよう。
――まぁくれるっていうなら? やらないこともないですけども?
ちらちらレイラの方を見て様子を窺っている輩もいるが、レイラの目の前で盗んでいく様な根性は無い様だ。『武強主義』の賜物だろう。
そんなわけで、レイラの格安配布と引き換えに、町中のゴミが撤去されていく。
火ばさみで燃えそうな紙屑を回収していく人、斧やノコギリを使って、枯れた木や使わなくなって放置されている木造物の木材を撤去していく人もいる。
「皆でやれば早いヨ」
周囲を見守りながら、ふぅ、と紫煙を吐き出すレイラ。
町中に配布された『金属』が水気を導く『金生水』。そして木材を切り倒し木気を断つ『金克木』。いずれも『火』に繋がる要素であるならば、畢竟、『水克火』を為し、『木生火』を断つ。
「これで火の陽を冷ます流れを作るネ。ミーは商売も調律も、どっちも本気ネ!」
後は手元で『火』の消費……。
「オヤ?」
煙草が切れたようだ……と思っていたら、新たな屋台が見えてきた。
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「にゃあにゃあ、新鮮、珍品、異界のタバコはいかがかにゃあ?」
屋台を引く声は神喰・蛙蟋(紫煙の売人🚬・h01810)のものであった。不思議煙草屋『四叉椿』の店主はマイペースに何時でも何処でも煙草を吸いながら。何かの縁だろう、今回の星詠みに巡り合った。
話はきちんと聞いている。けれども。
(蛙蟋には陰陽五行がよく分からない。でも火を使えばいい話ならば)
手元を見る……までもない。そこには煙草が燻っている。
そう、簡単だ。
(煙草だ。いつも通り、煙草を喫めばいい。吸えばいい。吸わせればいい)
――セイデンの広場の片隅で、タバコ屋【四又椿】の出張販売をする。
シンプルな回答だ。
やる事はいつもと変わらない。煙草を喫んでは適当な屋台を開き、葉巻を咥えて客を呼び、紫煙を吐いてタバコを売る。いつもと違うのは場所が少し明るいだけ。
もちろん、一応、多分、きっと、売る相手は考えて。
倫理観からではない――誰も彼にも売っていては目を付けられるから。
蛙蟋自身の倫理観を問えば薄かろう。生きていくには必要ないものだ。だからこそ『敵を作りそう』な気配には敏感だろう。生きていくには『そちら』の方が重要だ。
そんなこんなを続けていたら見知った顔が現れた。
レイラ・ウーである。
「ご店主、タバコ買いに来たヨ! ミーのタバコあるカ?」
「はい、いつものやつにゃ」
手慣れた様子でストッカーから煙草を取りだしてレイラに渡す蛙蟋。
レイラが早速、煙草を取り出して吸いだす。……しばしして、レイラがぽむっと手を叩く。
「ついでに、ご店主も何か買うネ!」
「特にいるもんはにゃ……灰皿代わりの鍋でも売ってほしいにゃ」
「鍋? バケツもあるヨ、好きなの選ぶネ!」
ずらり並ぶ、鍋とバケツ。
そして2つの屋台の間に並ぶ、バケツと鍋。水を張って、愛煙者が煙草を喫んでいく。
金属に水、そして火の消費。
セイデンの町の、五行のバランスがまた均衡に近づき、陽が陰へと変じていくのであった。
●
夜が明けて朝が進んで。セイデンの町は賑わいを増していく。付近に観光資源もあるのだろう、そのついでと立ち寄る人々の行き交いはこの地に良き氣をもたらして、人の縁を繋いでいく。
(ここが新たにつながった√……来るのは初めてだ)
町の賑わいを肌身で感じつつ、紬・レン(骨董品店「つむぎや」看板店主・h06148)は町の中を歩く。新しい√にともなう様々な情報。もちろん噂レベルの話もあるけれど、やはり情報を得るには『自身の体』が一番。
「武強主義やらマフィアやら、何だか物騒な世界だなって思ってたけど。その力で秩序を守っていた人もいたって事か」
『武強主義』――簡単に言えば強い者が総取りする世界。されど、強い者の庇護も確実にあったのだろう。それがセイデンの町の賑わい、人の営みの明るさの根底にあるならば。
「その功績が正しく受け継がれていけるように、助けないとな」
呟く様に、しかししっかりと言葉にするレン。
受け継ぐ――その言葉の重さを知っているのもまたレンの『√』であるから。
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小さな中華街に近い町中を歩きながら、中華まんなどを勧めのままに購入したりして、散策という名の巡回を終えるレン。
明確に『何か』危機を目撃したわけではないが、少しばかりチリチリした空気を感じる。
(火の力を弱めればいいって話だったな。俺に出来そうなのは……)
思案しながらもそんな表情は見せず、ゆるりふわりと歩を止めないレン。そして視界に飛び込んでくる……。
「お、花壇があるな。それに綺麗な花も咲いてる」
町の景観の為か、あるいはそういう趣味の人がいるのか。大通りが交差する交差点のひとつに花壇があって、そこから町の東西南北へ、中央分離帯を築くかのように花のプランターが続いている。
しばし花壇に咲く花々を、じっ、と見つめて。
「……よし、こうしよう」
レンが想いを言葉にする。
その場を離れて、次に戻ってきた時に、レンの手には如雨露。
傾ければもちろん水がシャワーの様に花へ降り注ぐ。その光景を楽しそうに見守るレン。水を汲み、水やりをする。それを目につく花や植物へ片っ端から。
ついでにゴミを見つけたらそれも拾って処分。
(街並みが綺麗なのに越したことは無いだろうし)
それは花や植物にとっても良い事だろう。
ボランティア感を出しつつ、レンは手の届く範囲で出来る事をやっていく。ボランティア感を出していた為か、写真を撮らされたりもしたが、それはそれで。
さぁっ、と如雨露の口から霧雨の様な水が花壇へ注がれていく。天気の為か、如雨露の筒先にかかる虹。
それを見たレンは笑みを浮かべてから、水滴に濡れる花々を見つめる。
(俺自身も花や植物は好きだからな。これが敵の計画を崩す助けになるのなら、喜んでやるぜ)
レンの気持ちに応える様に、水に濡れた花々は元気に可愛く、そして美しくそこに在る。
レンの水やり。シンプルな方法にして、具体的に町中へ水の気を増やす方法。
これによってセイデンの町の火の気はまた抑えられたのである。
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EDEN達の活躍によって、徐々にそのバランスを正されていく陰陽五行陣。火の陽、すなわち『火が暴れ回る』可能性は確実に抑え込まれつつあり、そして同時に妖魔召喚の陣が完成に向かっている。
簡単に言うと順調である。
そんなEDEN達の活躍を知ってか知らずか、セイデンの町は日が高く上った中で賑わいを増している。春先のほんのり暖かい日中。
エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)がセイデンへ到着したのはそんな頃。
星詠みから聞いた話は確か……といった風に、エアリィは頭の中で色々と考えを組み合わせつつ、足は広場へと向かっている。
広場に到着。噴水のある広場は、普段であれば風に散った水が霧のように心地よいのだろうが、陰陽五行陣の為か、空中に散った水分がすぐさま蒸発している。
やはり水の気を足す必要があるのだろう……と、この光景を目撃した事で作戦が決まる。
「水ならスープ系とか作れば多少は水の属性を出せるかな。あと、スープを作るから火を使うしね」
そう言うエアリィは借りた屋台の中にいる。足元に台を置いて調理台との高さを調整した後、袖口が濡れないように少しまくり上げてアームバンドでぱちんと止めて。
「よし、今回はお母さん直伝のシチューを作ろうー♪」
楽し気に、携帯コンロに火をつける。火の気のせいか、ぼっ、と勢いよく火が上がるが、その上に鍋を置いて火を抑え込むエアリィ。
そこに予め準備しておいた鶏肉、たまねぎ、じゃがいも、にんじんが登場。
ちょっと背伸びしながら、しかし慣れた手つきでトレイから鶏肉を投入。
「まず、鶏さんを炒めてから」
薄く引いた油の上で軽く焦げ目がつく程度に、ぱちぱちと。
「野菜も一緒に炒めて」
ざっ、とトレイの上から滑り落ちていくたまねぎとじゃがいもとにんじん。後で煮込むのでここでは軽く、全体的に炒める程度に抑える。しゃっしゃっ、とへらでかき混ぜていくエアリィ。
「水を入れて、コンソメ顆粒を入れてぐつぐつと~~」
お鍋が少し大きいせいか、ぐるぐるかき混ぜている様子は魔女の様?
とはいっても最初の方だけだ。炒めていた具材を拡散するようにぐーるぐる。後はエアリィが言う様に、ぐつぐつと煮込んでいって。
「……うん、良い感じかな?」
最後は、自家製のルー(お母さん作)を入れて。最後に万遍なくルーが行き届く様にかき混ぜる。
「完成ー♪」
エアリィの前でとっても美味しそうなシチューが出来上がる。
良い匂いが漂っていたのだろう。エアリィが視線を上げると、屋台の前に人が集まってきていた。もちろんエアリィのシチューを目当てに。
「さぁ、せっかくなので食べてってーっ♪ おいしいよー」
早速シチューを振る舞うエアリィ。
楽しげで、美味しそうな香り。それに惹かれない者はいないだろう。あっという間に人だかり。
「わわっ。ちょっとまってねー順番だよー!」
押し寄せて来た人波にちょっと吃驚しながら、しかし順番に丁寧にシチューを配っていく。
あっという間に完売。食べた人は満足げにエアリィへお礼を告げていく。
「ふぅ。あとは……」
ひと息つく……前に、屋台から出て、エアリィは精霊の力を体中へと巡らせる。ふわり、と浮かび上がるエアリィの体。そして指先が魔法陣を描く。魔法陣を通じて集う水の精霊力を指先に宿して、もう片方の手に持った精霊刃の刀身へ指先を滑らせる――|付与《エンチャント》・水属性魔法。
「よし」
ひと声かけて空へ飛びあがるエアリィ。ぐんっ、と速度を上げて空を翔け巡る。手にした精霊刃から霧雨のように水が散っていき、辺りへ。そして、エアリィが水を宿した精霊刃を振り抜く。
空を切り裂く……のではなく、その一撃がもたらすのは虹。
「さぁ、虹の煌きをプレゼント!」
光の属性も付与して煌く虹をプレゼントだねっ♪」
きらきらと輝くような虹がセイデンの空に浮かぶ。その様子を地面に降り立ったエアリィも見上げて満足げに。
空の虹。そしてシチュー作り。水の気を増やして、火の気を消費したエアリィの行動に、セイデンの町の陰陽五行陣は、また一段とバランスを整えて、正しき陣へ近づいた。
●
密かに仕掛けられた陰陽五行陣。火の陽を強くする事によって火が暴れ回る――すなわち、セイデンの町において大火事や大爆発を引き起こそうとするマフィアの策謀。
それはセイデンに混乱のみをもたらし、色んな者達の悪意が付け込む隙を与えるだろう。
それを許すわけにはいかない、とEDEN達の奮闘は確実に、陰陽五行陣のバランスを正しい配分へと導きつつある。
「本当だ! ここは他の町よりも平和な気がするんだよ!」
セイデンの町へ降り立った真白・璃亜(風花の冒険者・h09056)は声をあげて驚嘆する。√仙術サイバーの根底にある『武強主義』はこの町でも変わらないが、暴力が支配する様な町ではないセイデンは、アウトローはいても道を踏み外した者はいない。
だからこそ希少で、希少が故に外からかっさらおうとしている者も多い。
「後継者さんに安心して継いで貰う為にも頑張っちゃおっかな!」
気合の入る璃亜さんである。
具体的にどうするか――あごに手を当てて思案する璃亜。
「ふむふむ。えーっと、『水』属性っぽい物を用意すれば良いのかな?」
星詠みの話を纏めるとその理解で問題ない。つまり、町の中に水分を増やせばいいわけだ。
「それなら私にお任せあれだよ!」
流れるような髪とスカートの裾をなびかせて、璃亜が足を運んだのは公園。
そこで愛銃『アブソリュート・シューター』を引き抜く璃亜。
広場というだけあって、遊べる広さがあるこの場所は端っこの方でオブジェを作っていても全然問題ない。
「ていやー!」
と構えたアブソリュート・シューターから発射したのはお馴染み【エレメンタルバレット『氷華繚乱』】である。着弾した位置から冷気を漂わせる氷弾は重ねていけば氷を発生させて、周囲を簡易なアトラクションへと変化させていく。
単純に滑る地面は遊ぶには楽しいだろうし、小さなかまくらみたいな氷の隠れ家を作ってみたり。
冷気漂う位置へ水を注げばあっという間に凍り付いて氷の柱ができる。それを削っていけば氷像も完成だ。
「氷で造れる物なら……そうだなぁ。『マオマオちゃん』の氷像とかも造っちゃおっかな?」
それはもはやただの可愛いにゃんこである。良いぞもっとつくろうにゃんこパラダイス。
そこら中に、にゃーんしているマオマオ氷像が出来上がっていく。その邪魔になりそうなゴミもちゃんと拾っていけば純度100%の氷像が透き通る感じで。
そんな楽しいの作っていたら子供達が放っておくわけがなく。
いつの間にか、璃亜の後ろに何人かがずらーり並ぶ。
「お?」
振り返って吃驚。でも笑顔で応対する璃亜。
「ねえねえ、良かったらちょっとだけお手伝いしてくれない? そしたらお礼に氷の滑り台も作っちゃうよー!」
お手伝いは遊んでくれてもいいし、ゴミ拾いを一緒にやってもいい。そんな風に言えば、子供達も大はしゃぎだ。
その後、さっくりと出来上がる氷の滑り台。
それで遊び、楽し気な声をあげる子供達を、璃亜も笑顔で見つめるのであった。
水転じて氷。逆もまた真なり。
故、水の気が満ちた公園から陰陽五行陣の火の気を抑え込む。またひとつ、陰陽五行陣のバランスが正された瞬間であった。
第2章 集団戦 『妖魔シュエバオ・マオマオ』
●
セイデンの町を覆っていた陰陽五行陣。
意図的に偏りを作ることで、火の陽を強烈に強化していたこの陣はそのまま行けばセイデンの町に多大な被害――大火事や大爆発を引き起こす要因であった。しかし今現在、EDEN達の活躍によって、陰陽五行陣のパワーバランスが均等に正しいバランスへと戻ったのだ。
――カチリ。
何かがハマる感覚がする。それは『√』を見る力のあるものであれば感じ取れただろう、陰陽五行陣の裏に潜む、もうひとつの陣――妖魔召喚陣の発動を示す気配。
陰陽五行陣のかごめ紋を氣が駆け巡り、それを動力にして妖魔召喚陣は成就する。
町の中心にある円状の広場。真ん中には噴水。噴き上げる水が空に散り、霧雨となって消えていく……はずの粒が氷と化す。冷気が漂い、凝縮されて――それはカタチを為す。
ぽんっ。ぽんっぽんっぽんっ。
何かかわいい音がした。
そして音がした方を見てみると、白銀色の何かがいる。
「なぁぁぁ」
「みゃー?」
「ふしゃー!」
急に召喚されて様々な反応を見せる子猫……じゃなかった、妖魔。そう、『妖魔シュエバオ・マオマオ』達である! 見た目ユキヒョウの子供っぽいもふもふである!!
たぶん、であるが。
本来、この妖魔召喚陣は火の陽によって大惨事を起こした後、すなわち、エネルギーを放出して陣の氣が空になった状態で完成するものであった。その際、足りない氣は周囲の……人々の負の感情などを利用するつもりだったのだろう。
しかし、EDEN達の行動によって、大惨事も無かったし、陰陽五行陣のバランスを整える行動もまた町の人々に安心や楽しみを与えるものであった。つまり、陣の氣も不足しておらず、町に漂う負の感情も少ない。
その結果、比較的弱い妖魔が召喚されたのだ。
個々の性格が違うのだろう、急にお呼ばれして、首を傾げるもの、周囲を威嚇するもの、動じずあくびをしているもの、と色々なマオマオがいる。てしてし、と噴水の池の壁を叩いている子もいる。
だがこう見えて妖魔なのだ。放っておけば√能力を使って暴れだすだろう。町に被害が及べばマフィア達の付け込む隙を与えかねない。
幸いにして召喚時間が決まっている様だ。その時間までマオマオ達が町に被害を与えなければ、問題なし。マフィアの策謀を完全に潰す事が出来、例え乗り込んできたとしても『武強主義』によって追い返す事も十分に可能だ。
そう、セイデンの町は強い。大火事や大爆発といった大惨事あるいは妖魔退治といったものによって乱されなければ、大丈夫だ。重要なのは、今その『隙』を与えないこと。
だからこそ、ユキヒョウ……じゃなかった、シュエバオ・マオマオ達には何もさせないことが肝要だ。
ねこぱんちやひっかき、甘噛みは見た目通りの力しかないようだ。つまり、殺傷能力は限りなく低い。ということは、√能力さえ封じれば……。
方法はいろいろある。
まずは、倒す。これが一番簡単で楽だろう。
次に捕獲して檻などに隔離する。掴まえる手間はいるが、町の人から離せる為、安全性は高いだろう。
3つ目は、マオマオ達には自由にさせつつ、後をついていって町の人が被害を受けそうな時に、エネルギーバリアなどで攻撃を防ぐ。町の人達がマオマオと触れ合える時間ができるが、EDEN達は気を抜く暇がないのが難点。
そして、最後の手段……EDEN達がもふる。遊ぶ……いや、落ち着いて聞いてほしい。子猫達の注意をこちらに引きつければ、EDEN達が多少√能力をくらったところで、セイデンの町に被害いかないし。何より、【ルートブレイカー】しながらもふれば全然大丈夫である。【ルートブレイカー】発動中の手で抱え上げれば、町の人も安心してもふれるっていうものだ。
そんな感じで、町の建物や施設、住民達に被害が行かなければどうやってもいい。
方法はEDEN達に任せるので、マオマオ達をよろしく頼む。
※シナリオ補足※
もふもふ or 集団戦のターンです。
放っておくと、町に悪さや悪戯するので、何らかのアクションを仕掛けて注意を引いてください。もふり倒してもいいし、戦闘で倒してもいいし。
いっぱいいるので、皆さんがプレでご要望した匹数が押し寄せます。
好奇心旺盛の為、遊ぼうとすると近寄ってきます。
皆さんと遊んでいる間は√能力を使わないようです。ねこじゃらしとかで気をそらせます。
あと食べている時。なんでも食べますが、ささみが一番好きかも。
また【ルートブレイカー】は本来、発動した√能力を無効化するものですが、当章においては、『発動中に触っているマオマオは√能力を使えない』を追加します。
倒す場合、そんなに強くないので速攻で倒せます。倒すのも立派な作戦です。貴方の信条と心に従って行動すれば、問題ありません。というか本来は集団戦なので戦って倒す事に何の問題があるのかって感じですね。
【ルートブレイカー】の当章限定追加能力はこちらの場合でも有効です。
この章の目的は『町や住民に被害を出さない事』です。ただしひっかき、甘噛み、ねこぱんちによる負傷はノーカウントとします。
見た目はイラストの通り。もふもふしております。氷の紋様とかありますが、体温は普通です。√能力を使おうとすると冷気を出し始めます。
最後にはちゃんとお別れ(?)する必要がありますので、名残惜しくともリリースしてください。
という感じでゆるふわオッケーな章です。よろしくお願いします。
●
セイデンの町に突如として現れた『妖魔シュエバオ・マオマオ』。石畳の上へ大量に現れたマオマオ達は世にも恐ろしい攻撃を仕掛けてくる……!
『なぁぁぁぁ』
めっちゃかわいい。天使のもふもふとはまさにこのことか。
しかし可愛くても妖魔である。その内に暇を持て余してしまったら大変だ。√能力で悪戯するに違いない。
「現れましたか。なるほど、これは話に聞いた通りの妖魔ですね」
ざっ、と石畳を踏みしめて、天咲・ケイ(人間(√ドラゴンファンタジー)の黄龍拳|格闘者《エアガイツ》・h00722)がマオマオ達に近づく
『シーシー!』
そんなケイに感づいて、ふりふりおしりを上げた体勢で威嚇(?)するマオマオ。
「これで戦意を失わせる作戦であれば中々だと思うのですが(?)、幸いにしてそうではないのですね」
幸いにしてそうではないのです。偶然です。っていうか、マオマオ達は真剣に威嚇してるよ! よ!
「では、早速取り掛かりましょうか」
そんなマオマオ達には惑わされずに、ケイは徐々に距離を詰めて……背に回していた手を、さっ、と差し出す。
その手にあるのは、ね こ じゃ ら し!
『なぁんっ』
たしっ。ひょいっ。ふりふり。
『にー!』
ぱしっ。ひょいっ、ふりふり。
『なー!』
『なぁぁ』
『なぁぅっ』
「複数っ?!」
巧みなねこじゃらしさばきで1匹のマオマオを遊んで……もとい、相手取っていたケイは四方からの攻撃(?)を受ける。さすがに、ねこじゃらしをかわした先にとびかかられては回避も難しい……事もない。
「ふふふ……」
ひょいひょいっ、と巧みに回避したケイの目の前に出来上がるマオマオタワー(とびかかりに失敗して積み重なった図)
「良い感じですね。このまま引き付けましょうか」
ここでにゅっと差し出されたのが『ささみ』である。
「『なぁぁぁんっ』」
マオマオタワー以外のマオマオもとびかかってきた。おなかへってたみたい。
「おっとと……」
とびかかってきたマオマオ達をキャッチしつつ、ねこじゃらしも振りつつ。ケイに対しての警戒心も薄れて来たのか、めっちゃ大量にとびかかってきた。埋もれケイ。身動き取れないケイ。
というかここまで来ると隠し持ってるささみとかも奪われるよね、計算の内である。
そう、マオマオが集まったならば!!
「もふりましょう。ひたすらもふりましょう。もふもふ祭りです。私ももふるのは大好きなのですよ」
もふもふもふもふもふもふもふもふもふ。っていうか、吸えるかもしれない、吸えた。そして、さらにもふもふもふもふもふ!! もふもふ。
「……ふぅ」
ひとしきりもふって落ち着いたケイである。いっぱいもふったせいか、マオマオ達も気安くケイをぺちぺちねこぱんちする、痛くない。そのパンチをキャッチして、にくきゅうを楽しむ、ぷにぷに。手先ももふもふなのでもふもふしておくもふもふ。
だがそろそろ時間らしい。残念。
「お別れですね。英気を養うことができました。ありがとうございました」
『にー』
『なー』
気にすんな、楽しかった、みたいなマオマオ達のニュアンスの鳴き声。どうやらマオマオ達も楽しんだらしい。
ケイの前でマオマオ達が還っていく。
セイデンの町に被害は無く、ケイもまた有意義な休息をとる事が出来たのであった。
●
陰陽五行陣を調えた事による妖魔召喚陣の完成。それにより召喚される『妖魔シュエバオ・マオマオ』――特性:かわいい。
「かわいい……」
クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)の呟きである。完全に罠(?)にハマってるヤツである。だが問題ない。目の前のマオマオ達は、もふもふごろんごろんなぁん、しているのだから。
妖魔ってもっと怖い見た目のものなんじゃないの?
そんなクラウスの思惑を完全にルートブレイカーしてきたマオマオ達。
「そう思ってたけど、こんなに可愛くて愛らしい妖魔もいるんだ……」
クラウスが近寄ろうとすると、ふりふりおしりを上げた体勢で『シーシー!』と威嚇してくるマオマオ達であるが、その態勢が既にかわいいので威嚇になってない。むしろ誘ってる? もふられたいのかキミ達は!!
「これはもう存分にもふもふするしかないね」
クラウスの言う通りなのである。
右掌に宿るは『√』の揺らぎ砕く力。あらゆる『√』能力を無効化する【ルートブレイカー】の力の揺らぎがマオマオ達の√能力の発動を許さない。
「ということで」
『なぁぁぁんっ?!』
じりじり、と最初に間合いを測ったのが失敗だった。ててててっ、と駆けだすマオマオ。
「あ、待って」
慌てて追いかけるクラウス。駆けだしたクラウスに驚いたのか、あるいは走るマオマオに影響されたのか、数匹のマオマオ達が一斉に同じ方向へ走り出す。
「逃がさないぞ、ねこちゃん」
待ってねこちゃん違う。いや、違わないなこれ?
ともあれ、ダッシュでマオマオ達を追走するクラウス。しかし、さすが猫(違)、トップスピードが違う。一説によると100mを約7.5秒である、はっや。
だが動きが直線的だ、それでは百戦錬磨のEDEN達には敵わない。
「つかまえたっ」
『なぁぁん……』
ぱしっ、と掬いあげる様にクラウスがマオマオをキャッチすると、大人しくなる子猫ちゃん。
1匹捕まったからだろうか、他のマオマオがしゅたっとクラウスの周りを囲んで、おしりっていうかしっぽをあげて、『ふしゃー』と威嚇(?)態勢である。
しかしクラウスは慌てない。
「――」
側にはえていた長い草を引っこ抜いて、ひらひら。
『なぁー!』
威嚇体制からとびかかってくるマオマオ達。
ひょいっ、と釣り上げると、先程まで草が踊っていた場所をマオマオ達が通過していく。その瞬間を狙ってキャッチ&キャッチ!
そうしてクラウスの腕の中に収まったマオマオ達。
「よーしよし、かわいいね」
『にー!』
クラウスの手をねこぱんちしてくるマオマオ。しかしもふっとした感触しか伝わってこない。もふぱんちを突破してマオマオ達の頭を撫で撫でするクラウス。
『なぁー』
クラウスの指をあむあむしてくるマオマオ。しかしクラウスは意に介さず、もふもふ。もふもふもふもふもふ。
「……」
うまく ことば に できない。
無言のままに優しく撫でていくクラウスにマオマオ達も諦めたのか、その内、大人しく撫でられる様になった。そんなマオマオ達にクラウスも優しく接する。
なでなで、ぽんぽん。……今なら、いけるか?!
吸った。たっぷり吸った。ねこ吸いは健康にいい。あと気持ちいい。
「……ふぅ」
堪能したようである。
いつまでももふれるのがねこだが、時間制限(違)がありまして。
そろそろマオマオ達が還る時間である。
「……」
無言でマオマオ達を手放す……いや、全然手放せてないな? クラウスさんお時間ですよー?
ものすごーく名残惜しそうにリリースするクラウス。
『なぁぁん』
マオマオ達も名残惜しそうな鳴き声を残して還っていく。
「かわいかったなあ」
思わず、そんな言葉が零れてしまう、クラウスさんなのでした。
●
セイデンの町に仕掛けられた陰陽五行陣を調えた事により、発動した妖魔召喚陣はマフィア達の次なる混乱の一手となるはずだったものを書き換える。調律の上にセイデンの陽気が作用したのだろう。
現れた妖魔は『妖魔シュエバオ・マオマオ』――じっとしていればまごう事無きアイドル(猫)となれる素質を持つにゃんこである。
そんなにゃんこ(違)達が、ぽんぽんっと町の中心に出現する。
「あれっ? 何だか可愛い音がしたような……」
次の事態に備えて町の中心まで戻ってきていた真白・璃亜(風花の冒険者・h09056)が振り向く。そこにいたのはもちろんマオマオ達である。
「可愛いっ!!!」(確信)
しゅばっと、何か√能力使った? って速さでマオマオ達の元へ女の子座りする璃亜。もちろんマオマオ達は逃げる暇も無く。
『に゛っ?!』
璃亜に対して威嚇しようとマオマオ達がふりふりおしりを高く掲げる前に璃亜は動く。
「よーしっ! マオマオちゃん達といーっぱい遊んじゃうんだよ!」
手品の様に出るわ出るわのねこちゃんと遊ぶ道具。ねこじゃらしにボール、そして関心をもって遊んでもらう為のささみである。
「いっぱい持って来たもんね!」
座ったまま、ささみを掲げる璃亜。それはまるで聖剣みたいな持ち方であるが、ささみである。
「おいでおいでー! ささみだよ!」
『なぁぁぁ♪』
璃亜の作戦通り、数匹のマオマオ達がとびかかってくる。といっても攻撃とかじゃなくて、ささみハントである。
たしっ、と1匹のマオマオがねこぱんちでささみを弾いて自分のものにする。ありつけなかった子達は着地と同時に、璃亜へ再度ジャンプ。
「わわっ、まだ出してないんだよー!?」
ちょうど袋から出そうとしていたところへ手にねこぱんちをくらう璃亜。その拍子にささみが散らばってしまい、つまりその場はマオマオ達が入り乱れ、もふ乱れる。もふもふがもふもふっともふもふを振りまいている!
あむあむ、かつかつ。
「美味しそうに食べてるねー」
マオマオ達がささみを食べている様子を、とろけ切った笑顔で見つめる璃亜。幸せそうである。
『にー』
もうないのー? って感じで璃亜をてしてしっとねこぱんちしてくるマオマオ達。
「まだあるけど……その前にマオマオちゃん達と遊ぶんだよ!」
そう言いながら、しゅぱっとねこじゃらしを振る璃亜。釣り糸の先端にあるお魚が空中を泳ぐ……と同時にマオマオ達が一斉にジャンプする。
『なぁー!』
『にゃうっ』
『ふなぁんっ』
四方八方からかわりばんこにとびかかってくるマオマオ達。
かと思えば。
『なぁんっ』
着地地点にあったボールに前脚が当たってしまい、ころころっと転がっていくボールを追いかけるマオマオ。そしてそのマオマオを追いかけるマオマオ。
「あっ、追いかけっこしてる! サッカーしてるみたいで可愛いなぁ」
ほんわかしながらその様子を視線で追う璃亜。……とその間にねこじゃらしをキャッチされてしまった。
「わっ」
マオマオの重みに引っ張られる璃亜。そして動きの止まったねこじゃらしに他のマオマオ達が殺到する。
そんな様子を見て璃亜が呟く。
「……抱っこできるかなぁ?」
そっと手を伸ばす……。
「あっ! シャー! ってされてる!」
威嚇(かわいい)されちゃった璃亜であるが、それすらもほんわかしつつ、次なるささみをふりふり。
「ほーら、ささみだよー」
『にー!』
「……かーわいい!」
あっさりキャッチされてもふもふされるマオマオ。もふもふ、もふもふもふ。その間もささみを離さないマオマオ。あむあむし続けている。かわいい。
「まだまだいっぱいあるんだよー」
とささみを出せばマオマオ達が集まってくる。
その子達を順番に抱えてもふもふ。撫でてもふもふ。あと吸った。可愛い吸えるねこは健康にいい。
璃亜が遊んでくれているせいか、マオマオ達が暴れる様子も無い。
「これなら町の人たちも一緒に遊べるかな?」
ちらり、と振り返った先には先ほどの公園で手伝ってくれた子供達がいる。
「おいでー。一緒に遊ぼうー!」
そう言って手招きする璃亜。念の為、【|雪妖の冷気《ステイクール》】を発動させつつ、にゃんこ(違)達と遊ぶ璃亜。
賑やかな声が辺りに響き渡った。
●
セイデンの町に敷かれた陰陽五行陣。大惨事を引き起こす為の策謀はEDEN達の活躍により、調律され、事なきを得た。しかし、次いで成立した妖魔召喚陣によって、セイデンの町の中央に召喚される妖魔達。
ぽんっ、ぽんっ、と可愛い音を立てて噴水の周りに現れたのは、『妖魔シュエバオ・マオマオ』であった。
「……猫ネ?」
「猫だにゃ」
広場にいた為、ほぼ同時にそれを目視したレイラ・ウー(|契約至上主義のアウトロー武侠《ウラギリハユルサナイ》・h12286)と神喰・蛙蟋(紫煙の売人🚬・h01810)が思わず呟いた。
そう、見た目にゃんこのマオマオである。ユキヒョウの子供にも見える?
マオマオの動向を確認しながら、レイラは肩を竦め、蛙蟋は『荒らされる前に』と並べている煙草などの商品を片付け始める。
「なんか強そうないヨ」
そんな蛙蟋を横目に、マオマオ達へ振り返ったレイラはじーっと確認していたが、召喚されたばかりのマオマオ達は、各々に遊んでいる状態だ。隣の子をたしたししたり、ごろんごろん転がってみたり。大人しく座っている子ですら首を傾げている。
見た目、本気でにゃんこだが、しかしきちんと妖魔である。
「でも、暴れられる困るネ。だから――まずは一服ネ」
レイラが【|香籠霧《ガラム》】を発動させる。ふわり、とレイラの全身から溢れ出る、深い安らぎの感情を与える甘い独特の香り。それがマオマオ達の方へ流れていって、白銀のにゃんこ達を包み込む。
広場に広がる、安らぐ空気。
(マオマオも、落ち着けば大人しくなるはずネ)
まずは興奮を鎮める。
レイラの思惑通り、マオマオ達が落ち着きを見せ始め、今にも走り出す様な雰囲気は無くなった。
その様子を視界に収めながら、屋台の間に並んでいた灰皿代わりの鍋とバケツまで片づけ終わった蛙蟋が煙草に火をつける。それは流れる様な動きで為され、ほぼ無意識と言っても構わない仕草。常日頃吸っている蛙蟋の習性ともいえよう。
そして火をつけてから思う。
(ただの猫じゃないにゃ。ヤニ臭い煙ぐらい大丈夫だにゃ)
そう思って紫煙を吐き出したところでレイラに目で訴えかけられる。
「……ダメ? ウー嬢が焚いた香の効果が薄れる? ……めんどくせぇにゃ」
渋々、といった様子で蛙蟋が紫煙を吐き出す。レイラの香と混ざらない様に天に向かって吐き、次いで【煙竜戦技】の応用で煙が拡散しない様に丸く纏める。ふわふわと浮かぶボールがいくつも出来上がる。
それを見て、マオマオ達がててててっ、と近寄ってくる。
「……」
煙のボールが空中を躍り始める。波のように高さが変わったり、空中を転がったり。遊んでもらえると思ったのだろう。マオマオ達がボールを追いかけて走り出す。時折ジャンプして捉えようとするが、煙のボールがふわりと動いてマオマオをかわす。
その間にレイラは噴水の縁へ腰を掛け、煙草に火をつけてからご店主をチラリ。
そんなレイラにも興味津々だったのだろう、数匹のマオマオ達が近寄ってくる。それに気づいたレイラが座ったまま、前かがみ、声をかける。
「ほら、焦らなくていいヨ」
レイラの【香籠霧】は現在も有効中。それに引き寄せられているのか、レイラに飛び乗ろうとするマオマオ達。
そんなマオマオ達をキャッチしたり、膝の上で受け止めて、そのまま遊ばせる。足元ではごろんごろんと転がっている。
「ミーの客になるなら礼儀守るヨ」
暴れない様に、と言外に告げるが、マオマオ達が聞いているかどうかあやしい。遊ぶ事に一生懸命だ。
香りに乗らず、暴れる個体がいれば――、などと考えてもいたが。
(『ジョン』と『スミス』は必要なさそうネ)
一応、銃を抜く準備だけは怠らない。でも本当に必要なさそうだ。
「無駄玉は嫌いヨ。出来れば撃ちたくないネ」
膝の上に乗せたマオマオを撫でながらレイラが呟く。
煙のボールはいくつも出来上がる。蛙蟋が煙草を吸ってる限り数はいくらでも増やせるし、蛙蟋が煙草を吸わない時間は無いからだ。
だからマオマオ達もいっぱい集まってくる。そうするとボールじゃなくて別のものに気を取られる子も出てくるわけだ。
「……痛。尻尾に急に来るのはやめるにゃ」
揺れている蛙蟋のしっぽにねこぱんち。揺れていると面白いのだろう、もう一回……の前にしっぽで叩かれた。それでも懲りずに飛び掛かってくるので、蛙蟋ががしっと掴んでぽいっと投げる。
着地したらてててっ、とまた駆け寄ってきてジャンプ。掴まれて投げられる。マオマオはめちゃくちゃ楽しそうである。
「まぁ、いいかにゃ」
とりあえず、マオマオ達は蛙蟋の周りで遊ぶ事に夢中なので、悪さする時間もなさそうだから。
こうしてマオマオ達の召喚時間まで、二人の周りで遊んだマオマオ達は満足そうに還っていったそうな。
●
EDEN達の活躍により、調えられた陰陽五行陣。それによって大火事や大爆発といった大惨事は防げたが、調えられた事を切欠に今度は妖魔召喚陣が作動する。二手三手と惨劇を重ね合わせる事でセイデンの町の混乱を狙ったのだろうが、その未来もまたEDEN達の手で変わっている。
召喚陣の中央――町の中央に顕現する妖魔達。
「現れたか、妖魔」
広場まで戻ってきた紬・レン(骨董品店「つむぎや」看板店主・h06148)が相対する妖魔の形――それは猫の形ををしていた。
『妖魔シュエバオ・マオマオ』である!
「くっ……何て恐ろしく……可愛い姿なんだ!」
あまりの可愛さに顔を腕で庇い、のけぞるレン。地面でごろんごろんしているマオマオ達からは可愛いオーラが出ているので直撃を防いだのかもしれない。
「よし決めた。俺は君たちを|構い倒す《もふもふする》!」
全然防げてなかった。むしろ直撃してた。
しかし、可愛いは正義というならば、マオマオ達は正義ではなかろうか? 人々の自由を脅かせばまごう事なき悪だが、それは防げる事が星詠みから告げられている。つまり、可愛いは正義だけが残る。もふっていいってことさ!!
ぐっ、と胸元で拳を握るレン。丸めた掌の間から零れ出るは宝石の優しい光。
「煌めき、羽ばたけ―――宝石蝶」
差し出す様に掌を空に向ければ、光より生まれる宝石で象られた蝶。それが優しい風に乗って、マオマオ達の頭上をひらりひらりと舞い飛ぶ。
『にー!』
空に向けて手を伸ばすにゃんこ……じゃなかったマオマオ。ぶんぶん、でもまだ宝石蝶の方が高くて届かない。
『なっ!』
ジャンプ&ねこぱんち! 完全に宝石蝶を捕まえる動きを、しかしそれを察していたレンが宝石蝶を操って回避する。
『なぅっ?!』
かわされたマオマオが華麗に着地……したと思ったら、反転ジャンプをしてくる。
「おっと」
不意を突かれたがそれで捕まる感じでもない。ふわり、風圧に乗って高度を上げた宝石蝶の真下をマオマオが通過していく。
うずうずしてきたのだろう。他の子もジャンプし始めた。ユキヒョウ……じゃなかったにゃんこ乱舞である。もふもふ乱舞ともいう。絶対かわいいやつ。
「何匹でも来ていいぞ! 片っ端から構ってあげるからな!」
目をキラッキラさせながらレンが告げる。
結果、いっぱいのもふもふが跳び交っている。自力で目指すもの、着地した瞬間に足場にされる子もいれば、タイミングを合わせて左右からジャンプする子達もいる。その内、数匹は捕まってしまって、『これ私の!』って地面にたしってされているが、√能力で創造されたものなので、ふわり、と霧散していく。
『なー……』
残念そうにしょぼんとしているマオマオ。
けれども、またレンが【|宝石衛星群"蝶"《スターライトバタフライ》】を使い、宝石蝶の数を増やす。
『なー!』
すると、嬉しそうに宝石蝶を追いかけ回すにゃんこ。かわいい。
しかし、身体能力にも個人差(個猫差?)があるのだろう。
なかなか捕まえられない子は飽きて来たのか、地面にもふっと丸まっている。
それをレンが見つける……!
「ほら、ささみスティックだよ~。美味しそうだろ?」
先の散策時に仕入れておいたおやつが炸裂(?)する。
最初は、ちらり、と見て興味なさげに顔を逸らせたマオマオだが、レンがそーっと近づいてささみスティックを差し出す。
光速だった。
しゅぱっとねこぱんちの要領で爪にささみスティックを引っ掛けて手繰り寄せたマオマオが口元をあむあむさせている。めっちゃ食べてる。
「――!」
手ずからのささみを食べてくれた事で喜色に染まるレンの表情。
今なら……いけるか……!? いけた。
もふもふ。
「おお……」
思わず声が零れた。その間ももふもふは止まらず、もふもふもふもふ、ともふり続けている。なお、マオマオは食べるのに一生懸命である。
「おお……寒そうな見た目に反して暖かい……可愛い……最高……!」
『にー』
感動していたら、ささみの匂いを嗅ぎつけてかマオマオ達が集まってきた。
もちろん抜かりは無い。この子達の分もささみスティックはある。
差し出そうとしたらその前にフライングねこぱんちが炸裂した。距離感とか無視してるので、ささみを狙っているにもかかわらず、全力でレンの手に当たっている。
「いたいやわらかいもふい」
手に当たった順である。爪はちょっと痛かったけど、にくきゅうはやわらかいし、脚先でももふもふだった。
そんな感触を堪能している間に、他のマオマオ達がレンをたしり始める。たしっ、たしっ、と『まだー?』って催促してくる。爪が出ているのでさりげなく痛い。が、レンはそれを甘んじて受け止める。
「だって可愛いから!」
心の叫びが迸った。迸りつつも手はしゅぱぱっとマオマオ達の為にささみを取り出している。ささみが空気に触れた瞬間、マオマオ達が動く。ダッシュ、ジャンプ、潜り込みに回り込み。あらゆる手段でレンの手元を狙うマオマオ達だが、当然距離感が以下略。頭の上に乗ってみたり、勢い余って肩に着地したり、レンの足の間から出てきてみたりと自由奔放なマオマオ達。
「うっ……」
そろそろレンが好きで滅するかもしれない???
そうこうしている間に召喚時間の終わりが訪れる。
「……うぅ……」
お別れがもの凄く名残惜しい。だが、この子達は時間が来たら元に還っていくのだ。それを止める手段は無く、また止めてはいけない。
だから、レンは……微笑む。
「またどこかで会おうな」
『にー』
優しい鳴き声を残して。
妖魔シュエバオ・マオマオ達の召喚時間は終わりを告げる。
●
陰陽五行陣の火の気を抑え込み、調えた事を機に完成する次なる罠。妖魔召喚陣によって、セイデンの町をさらなる混乱に追い込む為の妖魔が召喚される。本来はもっと凶悪な妖魔が喚ばれる予定だったのだが、EDEN達の活躍によってそれすらも阻止されていた。
ぽんっ。
可愛い音と煙を出して、町の中央の広場に現れたのは『妖魔シュエバオ・マオマオ』である。しかもいっぱいいる。見ているだけでもふもふパラダイス。
「わあ、ねこさんたくさん」
「……どうしましょう。かわいいですね……
マオマオ達の可愛さに思わず息を呑んだ神隠祇・境華(金瞳の御伽守・h10121)は、腕の中にいるココ・ロロ(よだまり・h09066)に同意を求める様に囁く。
「ふふふ、そうですね。と~ってもかわいいのです!」
境華の言葉に、こくん、と頷き返して、そう告げるココ。
そういうココは先ほど合流したばかりだ。
「きょうかさ~ん、ねこさんとあそびにきましたよ」
という声に、境華が振り返れば、後ろからてててっと駆け寄ってきた所であった。
ともあれ合流したふたりは一緒に広場へ戻ってきてマオマオ達を目撃したのである。
すとん、と地面に着地したココがたたたっと駆け寄る。
『……!』
一瞬、警戒の態勢を取ったマオマオ達。しかし、ココは近くまで来て立ち止まる。
「んと……ねこさん……マオマオさんですね。
ココ、おきにいりのボールもってきたから、いっしょにあそびましょ~」
『……』
返事は無い。だが、警戒の色より好奇心の方が強いっぽい。おしりをあげるような態勢から鼻先を出すような態勢へと変わったマオマオ達の前で、ココがちょんとボールを置く。
「こーやってね~、まえあしでぺしぺし~って」
ぺしっ、ころころ、たしっ。ぺしっ、ころころ、たしっ。
デモンストレーションなのでころころ距離は最小限である。それにもかかわらず、マオマオ達はボールが転がる度に『ぴくっ』って反応している。
ココがぺしっっとボールを叩く。ころころころ~っとボールが転がっていく。
『なー!』
限界が来ていたのだろう、マオマオ達が追いかける!
「マオマオさんたちとボールをおいかけっこなのです!」
そこにココも楽しそうに混ざる。
幸い、広場にはボールで遊ぶには十分な広さがある。
先頭の子が勢いよくぺしっとしてもボールが他に飛んでいく様な事も無く。
たたたーーっ、ぺしっ、ころころー。
まずはマオマオが追いついてぺしった。
次はココが追いついてぺしる。楽しいけれども、星詠みから言われた事を頭の片隅に。
(ひがいがでないようにてしてしちょうせいしつつ)
ぺしっ。
いい感じの力加減だ。しかし、ボールはまだ目の前に在る。もう一回追いついて、ぺしぺしっ。
たのしい。その内、夢中になっておいかけるココとマオマオ達。
「まてまて~。……あっ、きょうかさんのほうにボールが!」
勢い余ったのだろう、ボールが、しゃがみ込んでいる境華の方へ勢いよく転がっていった。
「みんなでもふもふごー! なのです!」
そっちに振り切っちゃったかぁ!
一方。
ボールを追いかけ始めたココとマオマオ達を眺めていた境華は、ボール遊びに混ざらなかったマオマオ達の方へ歩み寄る。ココとマオマオ達が楽し気に遊んでいる為か、残ったマオマオ達にも警戒の色は無く、思い思いにのび~っとしてみたり、ごろんごろんしてみたりしている模様。
「……」
無言かつそっと、しゃがみ込んでマオマオ達を見つめながら、懐から取り出したのは、ねこの玩具である。
ふりふり。ぴくっ。
「……」
知らんふりしているマオマオ達の顔が一瞬こっちを見たのを境華は見逃さなかった。なので、もう一度ふりふり。
ぴくぴくっ。
まだ警戒が強いらしい。
「えい」
わざとマオマオ達の前を通る様に大きく振ってみる。
『なー!』
ぴょーん、と数匹飛び掛かってきた。やっぱり警戒を解いたら我慢なんて無理なんだ。
マオマオ達の攻勢を回避しつつ、ふりふりと玩具を揺らして自分の袂へマオマオ達を集わせる境華。
手元でようやくマオマオ達の手が届く。揺れる羽根先にマオマオ達がたしっぺしっとしたり、前脚をあげてキャッチした子をそのまま釣り上げてみる。
「――」
優しい眼差しで見守りながら、その様子を丁寧に観察する境華。今日という日の『物語』が目の前にある。
「っと、これはひとつでは……」
1匹が捕まえると皆が掴み始めるからね!
すっごい数のマオマオ達がひとつの玩具に押し寄せている。これは玩具が耐えられない。
「……そんなこともあろうかと」
すっと懐からもうひとつ。玩具二刀流でマオマオ達のお相手をする境華さんである。
『なっ』
目ざとい子は新しい方へすっと飛び掛かってキャッチ……はそう簡単にできない。巧みにふりふりってする境華さんの前で、にゃんこ達が戯れる。
その内、疲れて来たか飽きて来たか。境華の足元で丸まったり座り込んだりするマオマオが出てくる。
「……少し、失礼して……」
境華が手を伸ばす。マオマオの背に手が届き、もふっとした感触が伝わってくる。そのままゆっくり優しく、丁寧に撫でる境華。
『なー』
気持ちよさそうに鳴くマオマオ。
「……ふふ」
もふもふを静かに堪能する境華。
そうこうしている内に遊んでいたマオマオ達が境華の周りで輪を作って休憩タイムらしい。
境華の足元にすり寄ってきたり、空いている方の手に収まってみたり。マオマオ達は自由に境華の周りで過ごす。
「これはそうとう癒されますね……」
そう言って、微笑んで。
しゃがみ込んでいる膝の上に、マオマオを何匹か乗せてみたりする境華。頭の上とか定番だし、肩でもたる~んとのびーってしてる。
どこからともなくボールが転がってきたのは、そんな風にマオマオ達を満足げに堪能している時であった。
「え?」
「ごー!」
振り返って境華が声を上げるのと、ココとマオマオ達が突撃してきたのが同時。
たたたっ、もふっ、もふもふもふーっ。
そんな感じで、ボールと共に来た追いもふもふに飲み込まれる境華。背中から倒れ込んだが、特にけがはない。
「もう、危ないですよ、ココさん」
そう言いつつ、しかし楽し気に嬉し気に、笑ってココと追いもふもふ達を抱え込んでもふもふする境華。
「わわ……ココまでもふもふ。ふふふ、くすぐった~い」
ココの表情も気持ちよさげに緩んで、境華の上でまったりのんびり……すやぁ。
「……はっ! ボールであそんでたのでした」
あぶないあぶないねるところだった。
「ボール遊びがしたいんですか? じゃあ……」
態勢を立て直して起き上がった境華の手の中に、先ほど転がり込んできたボールがある。
「えいっ」
とボールを投げる境華。
「あそんでくれるですか? やった~!」
それ目掛けて、マオマオ達と一緒にダッシュするココ。真っ先に動いたココが今回はキャッチ! 境華の元までボールを持ってくる。
「じかんがくるまでみんなでいっぱいあそぶのです!」
「わかりました。いきますよー」
ていっ、と投げたボールを追いかけて、一斉に移動するもふもふ達(ココ含む)。その様子を和やかに見つめる境華。
そんな感じで遊び倒した境華とココとマオマオ達。もちろん町に被害など無く、ただただ楽しい時間が過ぎたのであった。
●
セイデンの町を覆っていた策謀。『この機』を強引に作り出し、それに乗じて町を手に入れようとするマフィアの策は潰えた。しかし、罠は二重三重と仕掛けられていたのだ。本来は大惨事に追い打ちする為の妖魔召喚陣。
しかし、EDEN達の活躍によってその効力は極限まで安全なものに振り切られた。
その結果。
セイデンの町の今現在、町の中央に出現したのは『妖魔シュエバオ・マオマオ』であった。もふもふのもふもふである。
「わー、もふもふさんだぁ~」
屋台を片付け終えて待機していたエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は、眼前に現れたにゃんこ……じゃなかったマオマオ達を見て感嘆の声をあげる。
それを知ってか知らずか、マオマオ達は思い思いにしている。地面にごろんごろんしたり、隣の子をたしたししたり。反撃のねこぱんちからもみくちゃになったり。
「なでたい、もふりたい、むぎゅってしたいっ!!」
もふりたい衝動がそのまま溢れ出てるエアリィ。しかし、この場ではそれも正解だ。もふり倒せばマオマオ達から受ける被害は皆無となろう。
「ということで、もふもふタイムの始まりですっ!」
こそっと、【精霊消失陣】を発動させたエアリィのもふもふ無双がいま……?
そうはいってもマオマオ達も妖魔である。
エアリィが近づいてきたら警戒もしよう。
『シーシー!』
しっぽをふりあげておしりもふりふりしつつ、警戒の態勢を取るマオマオが数匹。それすらもかわいい。
「えーと、ねこさんって何がいいんだろ?」
これ以上近づくと逃げそうだ、一度足を止めてポーチの中を確認するエアリィ。この時の為に買ってきたものといえば……。
「たしか、星詠みさんはササミって言ってた気が……。あとは、これもかな?」
右手にササミ、左手に『ねこまっしぐら』なやつ。ちょっとずつしか出ないのでずっとにゃんこがなめなめするアレである。
「どうだっ」
同時にふたつを差し出すエアリィ。同時に四方八方から飛び掛かってくるマオマオ達。
「わぷっ」
手にきちんと着地なりタッチなりしてきた子はいい。しかしこういう時は必ず勢い余る子がいるもので、むしろそういう子の方が多かった。エアリィの体、腕、それから顔に着地するマオマオ達。思わず声を上げるエアリィ……はそのままマオマオ達をキャッチする。もふっとした感触が手に伝わってくる。勢いよく飛んできたマオマオ達を受け止めて、倒れ込まない様に態勢を整えたエアリィが改めてマオマオ達を抱き上げつつ。
もふもふ、もふもふもふ。もふもふもふもふ。
頭の上に1匹。腕の中に2匹。座り込んだ膝の上に2匹。あと背中の方からよじよじと登ってきてる子もいる。いつぞやの戦いの時に冗談のように言っていた、にゃんこまみれのエアリィの完成である。
「わー、ふわふわー♪」
青に白が映えて、見ている方もほっとする。
「せっかくだから抱っこするー♪」
そして抱えている方も和んでいる。
もふもふもふもふもふもふ。どれだけもふってもふり飽きない。というか、同じように見えるマオマオ達であっても、体格や能力の差だろうか、もふり具合が違う。沈み込みそうなもふもふもいれば、張りのある(?)もふもふの子もいるわけで。
「はうーん……もふもふだよぉ……」
ちょっととろけかけているエアリィさんである。
その様子を、マオマオ達をもふっているじーっとエアリィを、町の子供達がじーっと見ていたりする。
その視線に気づいたエアリィが、抱きかかえていたにゃんこ……じゃなかったマオマオを差し出す。
「ね、ふわふわもこもこでかわいいよ。
せっかくだから撫でちゃえー♪」
エアリィの言葉に、おそるおそる近づいてくる子供達が、そっと手を伸ばす……もふ。
「――!」
ぱぁっ、と笑顔を咲かせる女の子が、今度はエアリィからしっかりとマオマオを受け取って、ぎゅーってしながらもふもふ。その様子を見て他の子も『私も僕も』とエアリィの元へ来て、マオマオ達を受け取っていく。腕の中にいるもふもふを堪能する子もいれば、ササミやちゅーちゅーするやつも一緒に受け取って、あむあむぺろぺろするマオマオ達を堪能する子もいたりして。
『なー』
エアリィの腕の中にいる子が、エアリィの腕をたしたしし始める。もっと構え、の合図である。
「よーしよし、いっぱいもふってあげるからねー♪」
優しく抱きかかえながら、もふもふなでなですれば、気持ちよさそうに目を細めるマオマオ。
その様子を堪能するエアリィ。
しかし、そんな楽しいふわもこタイムは時間制限がある。
たっぷり満喫したといっても、いつまでももふりたい、そんな気持ちに後ろ髪を引かれながら。
エアリィはそっと抱きかかえていたマオマオを降ろす。しゃがみこんで、マオマオの鼻先をつんつん。
「もう悪いことしちゃだめだよ?」
そう言ってリリースするエアリィ。
『にー』
応える様にマオマオが鳴く。
(かわいいんだけど、飼えないからなぁ)
本当に名残惜しそうに手放したエアリィの前で、召喚時間の限界が来たマオマオ達がすぅっと消えていく。
こうしてエアリィのもふにゃんパラダイスinセイデンは終わりをつげ。
新たな気配に、エアリィは立ち上がるのであった。
第3章 集団戦 『フリーファイター』
●
セイデンの町を『襲うはずだった』脅威――陰陽五行陣による大火、そして妖魔召喚陣による妖魔。これらはEDEN達の活躍によって完全なまで阻止された。セイデンの町は今日も何事も無く、賑やかに日常を過ごしている。
しかし、最後の策謀が訪れる。
セイデンの町の入り口に立つ、金で雇われた傭兵【フリーファイター】達は眼前にて健在のセイデンを見て驚愕していた。
「これはどういうことだい?」
「聞いてた話と違うじゃあないか」
聞いていた話と違う――セイデンの町は大火事や大爆発に巻き込まれ、その混乱の中を妖魔に襲われ、大混乱と化しているはずだった。
それを『制圧』する事で、この町で幅を利かせるつもりだったのだ。
ところがどうだ、セイデンの町の状況は聞いていた話と全く違うではないか。
だが傭兵達は一切動じていなかった。
確かに聞いていた『混乱』『混沌』は無い。だが、此処は『武強主義』が絶対正義の地。まどっろこしい事などせず、ただ力で蹂躙すればいいだけだ。
「生温い策と思っていたのだ、我が武で叩き伏せてみせよう」
「そうだな。此れよりの戦果でさらに金を貰うとしようか」
「そういう事だ、ご同輩。事が此処に至って遠慮もあるまい」
「片っ端から壊して潰して、叩きのめす。なんと簡単な事か」
「ならば、此処からは自由に動くとしよう。ああ、同士討ちだけは無しだ。雇い主が煩くなる」
「心得た。ならば……!」
数人が伝令に走る。しばし後、空にあがる花火。
その合図を見て、フリーファイター達がセイデンの町へ足を踏み入れる。と同時に目についた物を破壊し始めた。門、モニュメント、そして品物を並べている軒先の台。
「何してんだアンタら!?」
「うるさいっ!」
その暴挙を止めようとした人もぶっ飛ばして、悠々とフリーファイター達が進む。
「我ら|黒天幇《コクテンホウ》がこの地を蹂躙する!! 文句があるならかかってこい!!」
白昼堂々と行われる侵略。
その騒ぎをEDEN達もまた聞きつける。
最後に少しばかり、セイデンの町を守る為に力を貸してくれないだろうか?
武強主義だというなら、その主義にのっとって力で叩きのめしてあげてほしい。
※シナリオ補足※
集団戦になります。フリーファイター達を倒してください!
フリーファイター達は町の入り口(東西南の門)から堂々と町中に入ってきて町の蹂躙を始めています
本来であれば、清電大侠の元、しっかりと町の警備も行われているのですが、今は統率が取れておらず、うまく北におびき出された後、3方の門から同時突入という嫌らしい侵入をしてきています。
町の人々は退避しつつ、清電大侠の部下だった者達へ助けを呼びに行っていますが、その間も町は破壊されてしまいます。
今なら被害を最小限にぶっ飛ばせるでしょう。皆さんの力を貸してください。
フリーファイター達の現在地点は各門を入ったところにある大きな通路上。此処から分散していくようです。
現状の通路上でも戦闘できるくらい広いのでそのまま戦闘も可能ですし、建物が並んでいる関係で門まで一直線です。纏めて何かで吹っ飛ばして外に追いやってもいいでしょう。また、挑発して狭い通路に連れ込む事も可能です。
広い通路は通路脇に街路樹が立っている事と、その外に建物(お店)が並んでいる程度で障害物も少ないですが、広い分囲まれる可能性があります。
狭い通路は建物と建物の間に入っていく為、囲まれる心配はありませんが、資材(木材や廃棄予定の什器など)が置いてあってなかなかに狭いです。その代わり、壁を駆け上がるなどすれば3次元的な行動が可能で、そこらにあるもので殴る、とかできます(戦闘前に拾っていってもいいです)
範囲攻撃は使用可能。ですが、建物が跡形もなく無くなる様な威力や効果は禁止とします(建物の死とみなす)。大きく壊れても直るよ『忘れようとする力』でたぶんめいびー。ということで禁止を除き、攻撃に遠慮はいりません。
あとはきっちりフリーファイター達を倒してください。
よろしくお願いします!
●
様々な策謀が仕掛けられていたセイデンの町。その悉くがEDEN達によって阻止され、排除され、このまま平和な時間となる予定だった町に『フリーファイター』達は不躾に踏み込む。
「おらぁっ! 抵抗すらしねぇのかよ!」
「弱ぇなぁ」
「平和ボケしてるからこうなるんだよォ!」
其処に『有る』もの全てを破壊しながら進むフリーファイター達。
清電大侠の息のかかった物などいらぬ。全て破壊して、人を支配して、そして|黒天幇《コクテンホウ》が支配するのだ。
町を破壊する喧騒を耳にして、天咲・ケイ(人間(√ドラゴンファンタジー)の黄龍拳|格闘者《エアガイツ》・h00722)は息を吐く。
「さて、ここからが本番というわけですね」
立ち上がり、駆けだす。その後を愛馬の『ウインドローズ』が駆ける。
喧騒の大元、町の入り口まで駆け付ければ、見えてくるフリーファイター達の横暴。
(しかし、敵のやり方も場当たり的というか何というか……)
知略などあったものではない。ただただ破壊――力が全ての『武強主義』。
「考えなしに暴れられても困るので早急に対処しましょう」
フリーファイター達の視界に入らない様に注意しつつ、一度立ち止まり。ウインドローズを近くの路地に待機させる。此処なら少し距離はあるものの、奴らの目に入る事も無く、またケイの声も聞こえるだろう。
「では、後ほど。頼りにしていますよ」
ウインドローズに声をかけて、大通りに出たケイは一直線にフリーファイター達の元へ駆けていく。
「……!? なんっ?!」
最後まで言い切る事は出来ない。
駆けながらも気を練っていたケイが懐に踏み込むと同時に、掌底の一撃を叩き込んだからだ。漫画みたいに体を九の字にして吹っ飛ぶフリーファイター。
「其処までです。私が相手をしましょう」
構えるケイ。
「ケッ。まぁいい、稼ぎが増える」
恐らく。チャイナ服姿のケイ――見た目、強そうに見えない、が首を突っ込んできたのが面白くないのだろう。強さが全てならば、こその考え方。だが同輩が一撃で吹き飛んだのも見ている。強い者を倒した、といえば報酬が上がる、そういう仕組みだ。
「やっちまうぞ!」
一斉に構えて、ケイへ襲い掛かるフリーファイター達。
「……!」
素早く接近してきたフリーファイターがトンファーを振るってくる。殴るような一撃から伸び切った腕を支点にトンファーをくるりと回転させれば、さらに伸びる様な一撃となる。
素早く見切り大きく後方へ回避するケイ。数度下がって、街路樹を背にしたところで、止まる。
「ハハッ。終わりだっ!」
一気に間合いを詰めて逃げられない様に鋭く横薙ぎのトンファー。樹に当たらない絶妙な一撃……を、しかしケイはそれよりも早く踏み込む。
「破ッ!」
悲鳴より早く吹き飛ぶフリーファイター。石畳を踏み割り、練り上げた気功で以て叩きつけられた気功拳が突き刺さったのだ。
「囲め!」
「させません」
散開しようとしたフリーファイター達に対して、回し蹴り。蹴りそのものは空を切ってもその軌道に放たれる衝撃波で以てフリーファイター達の態勢を崩して蹴散らす。躊躇ったその隙へ肉薄、腕を掴んで極めながら投げ、石畳に叩きつけるケイ。
しかし、いかに奮戦しようとも多勢に無勢という事実はある。ケイがフリーファイターを倒していく数より駆け付ける数の方が多ければ、そのうち囲まれてしまう。
だが、それすらも計算の内。
「今です! ウインドローズ!」
声を張り上げるケイ。
その声に応じて、路地から愛馬のウインドローズが駆けだしてくる。真っ直ぐケイの元へ駆け付けたウインドローズは前脚をあげて、フリーファイター達を威嚇して、そのまま蹴散らす。
「くっ、なんだっ?!」
突如として自身達の後方で起こった喧騒に思わず気を取られたり足を止めたりするフリーファイター達を視認してから。
呼吸を調えたケイが踏み込む。
「では、いきますよ」
息をはきだすとともに踏み込み、脚から螺旋を描いてイメージとともに自身に流れる気を込めて掌底――黄龍掌波で眼前のフリーファイターを弾き飛ばし、空いた視界に次に入ってきたフリーファイターを、跳躍からの飛び蹴り、龍星脚で蹴り抜く。着地と同時にすぐ側のフリーファイターへ肉薄、そして黄龍掌波、続く龍星脚――流れる様な連撃【|黄龍の連撃《コウリュウノレンゲキ》】がケイの周りに集まっていたフリーファイター達の悉くを仕留めていく。
敵を前にして隙を見せるほうが悪い。
程なくして、周囲のフリーファイター達を一掃するケイ。もちろんウインドローズも数体踏み抜き、蹴り飛ばした。
「武を誇る割には、武に精通していないようですね」
自身の服を整えながら立ち上がったケイは、地面に倒れ伏すフリーファイター達にそう告げて。
「ありがとうございました」
甘える様にすり寄ってきた愛馬の首をやさしく撫でるのであった。
●
セイデンの町を覆っていた様々な策謀。それらが覆された後、俄かに騒がしくなるセイデンの町。騒動を起こしているのは『フリーファイター』達。すなわち、マフィア|黒天幇《コクテンホウ》に雇われた傭兵達。
元の『混乱に乗じて制圧し、権限を一部強奪する』という作戦が瓦解した為か、己の武で以て直接攻撃を仕掛けてきている。
だが、この町にはまだEDEN達が居る。
「そぉらっ!」
「後で直してやるよ。ただし、黒天幇の|管理下《シマ》としてな!」
暴力のまま、町を破壊していくフリーファイター達。
そこへ駆け付けたのは。
「目論見が外れて残念だったね」
クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)の声に、フリーファイター達が振り向く。訝しげな視線、嘲笑う視線……いずれにしてもクラウスを値踏みすらせず、『叩きのめせる相手』と侮っている姿。
(目論見が外れて、それで諦めるような弱腰の相手ではなかったみたいだけど……)
冷静に周囲を確認するクラウス。巻き込んでしまう様な人はおらず、眼前のフリーファイター達を叩きのめせば、事は片付きそうだ。
『武強主義』によって退く事を知らない、武で以て全てを掌握しようとするフリーファイター達。
「最後は力で決着を付けるのならわかりやすくていいね」
魔導書を手に、クラウスもまた臨戦態勢へ移行。
戦闘が始まる。
フリーファイター達が一斉にクラウス目掛けて駆けだす。
「……!」
魔導書に指先を添わせながら、腰を落として迎撃態勢のクラウス。
(速い)
とはいってもそこらの一般人に比べてだ。クラウスのレベルなら十分に対応できるし、何なら妙な気を纏っているのも視認している。
「ハッ!」
振るわれる拳。それを見切って回避しながら、クラウスは相手の纏う気へと視線を遣る。バチバチッと弾ける様は電気の様。いや、まさしく電磁の力なのだろう。
(レイン砲台の接近は危ない……なら)
迫りくる拳の連打を数発、回避して小さく後退。
「ハッ! 逃げるしか能がないのかよ!」
「逃げも隠れもしないよ」
攻撃を回避しきって街路樹まで下がった所で、魔力を開放するクラウス。そう、『何もしていない』とは言っていない。
「【|茨の蔓を操る魔法《シュタルテン》】」
クラウスの【茨の蔓を操る魔法】が成る。
直後、自身や背後の街路樹、そして周囲にある建物の『影』から、黒い茨の蔓が伸び、瞬く間に周囲を埋める。無差別に伸びている訳ではなく、意志を持った様にフリーファイター達の足元へ迫り、その足元を掬う。
「くっ、このっ!」
蔓を引きちぎろうとするフリーファイター達の体へ蔓がさらに巻き付き締め付け、行動すらを制限していく。
間髪を入れず、空に待機させていたレイン砲台を呼び、空よりレーザー射撃で攻撃させるクラウス。間断なく放たれるレーザーが順番にフリーファイター達を焼いていく。
しかし、蔓の拘束を免れた者は巧みにクラウスへ肉薄する。
「接近されたら弱いってことだろ!」
「……そんな事も言っていない」
拳や蹴りを回避しつつ、注意をひきつけて……死角から蔓の一撃で意識を刈り取る。
魔法使いが動けない、なんて事は無い。
完全に場を支配しながら、油断なく茨の蔓を生み出し、次のフリーファイターへ差し向けるクラウス。
「悪いことを企む奴に雇われると碌なことが無いね」
告げながら、クラウスに容赦はない。しっかりと仕留めながら、内心で思う。
(雇い主はよく選んだ方がいいよ)
それは傭兵としての助言だ。
●
スザク、もふもふ、を経て、セイデンの町は平和へと調えられた。其処まで至れば、仕込んだ策謀の悉くを阻止されれば、普通ならば撤退を選び、策を練り直すはずだ。
現地にいるのが黒幕たる|黒天幇《コクテンホウ》の者であれば、その様に動いたのかもしれない。しかし、今、町にいるのは金で雇われた傭兵『フリーファイター』達だ。武を示し、金を得る。シンプルな方針であるが故に、目の前の策が崩れようとも武で制圧しようとする。
「ハッハァ!!」
「目障りだな。全部潰しちまえ!」
手あたり次第、目につき次第、自身の武で破壊の限りを尽くすフリーファイター達。
「乗じる混乱も無いというのに……武強主義はどうにも一方的ですね」
ふわり、とそよぐ風と共に。神隠祇・境華(金瞳の御伽守・h10121)が駆け付ける。友人のココを見送った後、すぐさま急行してきた彼女に注意を向けた為、フリーファイター達の手が止まる。
その視線を受け止めて、しかし一歩も退く事無く、境華は書を携え、構える。
「日常を壊すだけの武など、誇るに値しません。ここで止まってもらいます」
「出来るもんならやってみなっ!」
境華目掛けてフリーファイター達が殺到する。握った拳に宿る気が電磁を帯び、機械類を問答無用で破壊する凶器へと化す。
されど、境華の得物にそのようなものは無い――ただ威力の上がった拳や蹴り。ならば。
「物語は我が手に──蓮華の子が携えし綾よ。その仙の舞、いま一時だけ我が背より現れ、敵を縛したまえ」
境華の紡ぐ言葉が【|御伽「天を綾なす宝帯」《コンテンリョウ》】を語る。直後、境華の後ろの空間から幾本の霊布が伸び、その内の数本が境華の霊剣『御伽霊刀「紡ぎ」』へと連なる。霊剣と霊布が連なり、顕現するは哪吒の槍。
「――!」
境華が瞬く間に、彼女の意思に応じた霊布によって哪吒の槍が振るわれる。放たれた鋭い一閃がフリーファイター達をなぎ払う。
「ぐぁっ!?」
境華に攻撃しようとしていたフリーファイター達を一掃する一撃。間髪を入れず、境華は動く。哪吒の槍による攻撃は継続しつつ、境華を視界に収めていないフリーファイターを狙って霊布を飛ばす。
「ちぃっ! うっとうしい!」
霊布の攻撃を振り払いつつ、しかし店の破壊を優先するフリーファイター。魂胆としては壊して直してしまえば権利を主張できるから。
だがそれを境華は許さない。
「小娘如きも相手できませんか? 武強主義が聞いて呆れます」
「……!」
ビキッ、とこめかみに青筋を立てたフリーファイター達。霊布の攻撃と口での挑発で、強引に注意を自身へと向かわせた境華。
しかし、今の境華相手に『手足を止める』という事は自殺行為だ。
その止まった隙へ、木材や廃棄什器を掴んだ霊布が強烈な打撃を叩き込む。
「っ!?」
完全に無防備になった其処へ霊布を新たに飛ばし、ぐっるぐる巻きにして拘束して放置。あるいはその拘束したフリーファイター自体を新たな武器としてフリーファイター達の群れへとぶん投げる!
「ちっ、囲め!」
「……!」
声を出すと同時に素早く境華を囲むフリーファイター達。だが、境華も素早く脱出する。背後からの霊布を複数直立させてその間を蹴りあがっていく境華。すとん、と店の屋根に着地した境華は、そこから霊布を飛ばしてフリーファイター達を殴打してぶっ飛ばしていく。
「まだやりますか? 大人しく降参してみては?」
そう言いながら店の前に飛び降りた境華。
継戦の意思を見せたフリーファイター達を見て、境華は霊布で牽制しつつ、路地へと逃げ込む。
「追え!!」
武を誇るフリーファイター達としては、このまま引き下がる訳にはいかないのだろう。 素早く境華を追って路地へ入り……愕然とする。
眼前に織り成された綾の紋様。それは美しい蜘蛛の巣にも似て、しかし全く異なる、フリーファイター達にとっての。
「ようこそ。あなた方の終わりを綴りましょう」
哪吒の槍が鋭く突き抜ける。
反転しようとしたフリーファイター達に対して、地を蹴った境華が狭い路地の壁と霊布を利用して素早く回り込み、無防備な体へ掌底の一撃を叩き込む。その間にも哪吒の槍がフリーファイターを貫いていく。
程なくして、物語にピリオドが打たれる。もちろん、境華の完全勝利である。
●
俄かに騒がしくなるセイデンの町。それは全ての策謀を潰され、無策にも『フリーファイター』達が突入してきた証。
罵声とともに手あたり次第破壊していくフリーファイター達は傭兵というよりは無法者だ。
「全く、物騒な奴らが来たな。まだ俺はマオマオ達との別れを引きずってるっていうのに…!」
紬・レン(骨董品店「つむぎや」看板店主・h06148)はゆっくりと立ち上がる。もふもふなマオマオ達との楽しい時間、そして優しい鳴き声とともに消えていった別れ……そんな余韻をぶち壊す喧騒はとても歓迎できそうにない。
(…けどな)
レンが踵を返す。迷う事無く、フリーファイター達が暴れている場所へと赴く。
「何だ? 我ら|黒天幇《コクテンホウ》の行いに文句でもあるっていうのか!?」
フリーファイター達がレンの姿を認めて、視線を注ぎ、問いかける。
間合いを測りながら、ざっ、と立ち止まったレンは……顎の下へずらしていた黒いマスクへと指をかけながら、告げる。
「文句なら大アリだ。街の人達を危険に晒したお前達を見過ごす訳にはいかない」
マスクで口元を隠して臨戦態勢となったレンが、『霊剣"|花霞《はながすみ》"』の柄に手をかける。
――抜けば花舞う桜の刃。
すらり、と抜き構えた先に霊気の花が彩っていく。これはレンが修練を重ね、花開いた努力の一太刀。
「穢れ無き花、清浄なる風───無数の敵を斬り祓え」
その刀身に、重ね重ねと桜の花弁のような姿で具現化した『百花の霊気』と纏う【|風花繚斬《フウカリョウザン》】。
「やろうってか!」
「手加減してもらえると思ってるなら大間違いだぜ!」
フリーファイター達が一足飛びに間合いを詰めてくる。握る拳に宿る気は、パチパチと電磁を帯びて、威力と機会を破壊する力を宿す。
しかし、その拳が届くより早く。
「行くぜ!」
レンが上段から素早く一閃する。間合いに入ってきたフリーファイターへ斬撃を叩き込むと同時に、刃の軌跡から逆巻く様に神秘の風が霊力の渦を作って周りのフリーファイター達も巻き込んで迎撃する。
「くっ」
「見え見えだ!」
霊力の渦を無理やり突破して、拳を叩きつけるフリーファイター。その攻撃をレンは、百花の霊気を八重に九重に重ねる事でガード。
(壊れて困るような機械は無いが!)
極力ダメージは抑えたい。完全に威力を削いだフリーファイターの拳を百花の霊気で押し返すレン。
「ちぃっ!!」
「怯むな!」
レンの繰り出す攻防に先手を取られて浮足立ったフリーファイター達が態勢を立て直さんと距離を取る。
そこへ。
「俺の霊気とお前たちの気、どちらが強いか試してみようぜ」
レンが花霞の切っ先を突き付け、言葉を放つ。
(……って、何だか武強主義に寄ってきた気がするな、俺)
不意にそんな考えがよぎったが。
「こっちの数の方が多い。一気に畳みかけるぞ!」
レンを取り囲んだフリーファイター達が一斉に攻撃を仕掛ける。
だが、修練を積んだ連携ではない。それぞれの考えが微妙なズレを発生させて。
「――!」
その隙を見出し、見切るレン。サイドから迫る拳をステップを踏んで回避、身を翻しながら百花の霊気を振りまき、フリーファイターの視界を惑わす。怯んだその隙へ。レンが踏み込みながら花霞の切っ先を滑り込ませる。流れる様な一閃が鋭い刺突となってフリーファイターへ直撃、その勢いでフリーファイターを吹っ飛ばす。
「けれど。此処では、より力の強い者が正義なんだろう」
そう言いながら身を翻し、背後に迫っていたフリーファイターに斬撃を叩き込む。上から斬りつけ、返す刀で次なるフリーファイターを。刃の軌跡を追う様に百花の霊気が逆巻き、近づくフリーファイターを飲み込み、地へ叩き伏せる――レンの【風花繚斬】によって、迫りくるフリーファイターの悉くを倒していくレン。
「だったらそれに則って蹴散らすまでさ!」
花舞う桜の刃が全てを一掃していくのであった。
●
陰陽五行陣を経て妖魔召喚陣への対応までも完膚なきまでに行った結果、セイデンの町に訪れる筈だった混沌は霧散した。されど、『武強主義』は引き下がるを良しとせず、『フリーファイター』達はセイデンの町を破壊せんと押し入る。
「予定通り、おでましにゃ。」
マオマオ達とのひと時を過ごした神喰・蛙蟋(紫煙の売人🚬・h01810)が耳ざとく喧騒をかぎつける。
傍にいたレイラ・ウー(|契約至上主義のアウトロー武侠《ウラギリハユルサナイ》・h12286)もまた騒がしき喧騒を耳にして、ゆっくりと立ち上がり、その先を一瞥する。
「……騒がしいのが来たネ」
軽く肩を竦めてそう告げれば。
「んにゃ~暴れますかにゃあ? お前さん、一緒に行くにゃ?」
そう言う蛙蟋の言葉に頷きを返すレイラ。
歩き出すレイラに連れ添う様に、蛙蟋も歩き出す。
向かう先は、フリーファイター達が暴れている町の入り口だ。
すぐに見えてくる騒動の大元。町の入り口付近で暴れていたフリーファイター達は視界に入るものを片っ端から破壊していた。それを|黒天幇《コクテンホウ》の手で直せば、権利を主張して無理やり押し入る事が出来るという寸法だ。
そのフリーファイター達がレイラと蛙蟋の存在に気づく。
「あぁ?! どういう了見だ?」
「やろうってんなら遠慮はしねぇぜ?」
拳とトンファーを構えるフリーファイター達が油断なくレイラと蛙蟋を見据える。
相対した状態で、レイラが愛銃を抜き、ゆっくりと構える。
「暴れたいなら、相手するヨ」
両手にそれぞれ構えた大型カスタム拳銃『オートファイアM17大型カスタム【ジョン】』と『オートファイアM17大型カスタム【スミス】』の銃口が真っ直ぐフリーファイター達に突きつけられる。
その横で蛙蟋が『シリンジシューター』を構える。霊薬・毒薬・怪異の肉片等を詰めた注射器を射出する、連装式の大型ガトリングガンを向けられて、フリーファイター達が一瞬怯むが、引き下がる事は無い。武で押されたならば、何の力も無くなる、これがこの世界のルール。
「……」
無言で間合いを測りながら、横目で蛙蟋に合図を送るレイラ。その合図を受けてか、蛙蟋もまた『戦闘態勢』を整えながら、銃口をフリーファイター達へ突きつける。
フリーファイター達が動く……よりも早く。
「シッ――!」
レイラが双銃から銃弾をばらまく。弾幕がフリーファイター達の足元に突き刺さり、動きをけん制する。そこへ蛙蟋のシリンジが飛来して、フリーファイター達へ直撃していく。
「何が入ってるかは当たってからのお楽しみにゃ」
蛙蟋もよくわかってない。いや、何があるかはわかっているが、状況に合わせて付け替えて狙い撃つ、とか日本の警察みたいなマメさはない。いや、要らない。突き刺さり、中身が敵を害せばいい。麻痺毒なり呪詛なり……被害の低いところでニコチンなりタールなりだが、食らった方がまともに立っていられるかといえばノーだ。
がくり、と膝をつくフリーファイター達が壁になって、後続の動きが鈍る。
「ご店主」
「任せろにゃ」
短いやり取りの後、レイラが跳躍する。着地する先は蛙蟋の背中。先の視線で送った合図――【目的地は敵の土手っ腹】で突っ込む算段。
「蛙蟋の背中ほど安全な移動手段はないにゃ! 過度のG負荷、激しい揺れ、横転に目をつぶればにゃ」
「ご店主、飛ばすネ!」
真っ直ぐ突進する蛙蟋の背中から、曲芸騎乗の如く身体を使いこなして四方へ銃撃を叩き込むレイラ。
動きを制限する様に撃ち込み、敵の足並みを崩して分断。次いで、突出した敵を優先して撃ち落としていく。
しかし真っ直ぐに突っ込んでくる蛙蟋は狙いやすい。
「もらったぁ!」
どうにかレイラの銃撃をしのいだフリーファイターが勢い込んでトンファーを叩きつけんと肉薄する。しかし。
「ウー嬢、喋ると舌噛むにゃ」
と告げて、次の瞬間、蛙蟋の体が宙に舞う。曲芸の様に上下を入れ替える蛙蟋。当然背中のレイラも同じように動くわけで、どうにか蛙蟋の背中に掴まりながら、真下へ銃口を向けて数度トリガーを引けば、眼下のフリーファイター達が崩れ落ちていく。
「焦ると損するヨ」
着地した蛙蟋の背中でレイラが告げる。空からの弾幕で倒し切れなかったフリーファイターへは蛙蟋が速攻で肉薄してシリンジシューターを突き付け、至近距離からのシリンジで黙らせる。
「下からやれ! 足を奪え!」
レイラが主軸で蛙蟋がフォローの形、を見て取ったフリーファイター達は蛙蟋へ攻撃を集中させる。とはいっても接近戦しか手がないフリーファイター達は踏み込むしかないが、その踏み込みを許さないと蛙蟋のシリンジシューターが弾幕の如く注射器をばらまいて。嫌らしく、うざったらしく、呪詛や毒などをばらまき、フリーファイター達の動きを制限していく。
蛙蟋との連携によってフリーファイター達を蹂躙するレイラ。
「……見えたネ」
二人の攻撃によって、弱り切ったフリーファイター。そこへレイラが【|幸運の一撃《ラッキーストライク》】を叩き込む。
「いい|幻想《ゆめ》見るネ!」
幸運の弾丸が直撃したフリーファイターへレイラが告げる言葉は、死の宣告。自らの欲望が叶った幻想に耽溺していくフリーファイターが立ち上がる事はもう無い。
ダッシュに空中移動に縦横無尽に駆け回る蛙蟋によって、包囲陣系も縦列陣形もとれず、ただただかき乱されていくフリーファイター達。浮足立ったそこへレイラと蛙蟋からそれぞれ弾幕を叩き込まれ、フリーファイター達は動く事すら出来なくなっている。
「欲張りすぎネ」
とレイラが【幸運の一撃】で以て確実に仕留め。
「まだまだあるにゃ。遠慮するにゃ」
と蛙蟋もシリンジをばらまけば、死ななくとも地に倒れ伏すフリーファイター。しかし、いずれ死に至った方が幸せかもしれない。
「死な無けりゃ、苦しんで貰う他無いにゃ」
蛙蟋にとって、『|新鮮なお残り《実験材料》』はいつでも入り用だ。にっこりしながら回収していくだろう。
「次、行くヨ」
と冷静にトドメを刺していくレイラの手にかかるのとどちらがいいか。それはもう天運に任せるしかない。
油断せず、崩れた所へ的確にトドメを差し込み、全体を見渡して、弾幕を叩き込んでいくふたり。
程なくして、あっさりと制圧が完了したという。
●
陰陽五行陣の調律を経て、妖魔召喚陣で召喚されたマオマオ達との交戦(?)。それはエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)にとっても余韻の残るものであった。
「もふもふさんかわいかったなー」
もっふもふ。もふ、もふもふ。
まだ指先に残っているかのようなもふもふ感……に浸っている暇もなく、セイデンの町が俄かに慌ただしくなっていく。『フリーファイター』達がセイデンの町へ押し入ってきたからだ。
「――」
聞こえてくる喧騒にエアリィは、ふぅ、とひと息ついて、呼吸を調える。直後、ふわり、と浮き上がる体は精霊の力によって、騒動の元へと飛翔していく。
程なくして眼下に見える騒動。
フリーファイター達が町にある建物や建造物を破壊している光景。フリーファイター達の視界に入る様にして、ふわり、建物の上に舞い降りるエアリィ。
「なんだ!?」
手を止め、警戒しながらフリーファイター達がエアリィを見上げる。
対してエアリィは上から見下ろす形で……次の瞬間、エアリィが楽し気に笑う。
「傭兵さん達、わざわざやられに来てくれてありがとっ!」
「なっ」
軽く言葉のジャブを放つエアリィ。
とっても楽し気な笑顔でそんな言葉が飛んでくるとは思わなかったのだろう、一瞬フリーファイター達の動きが止まる。
その隙に。
エアリィが建物の上からフリーファイター達の前に着地。ふわり、と風の精霊が勢いを受け止めて、すたっと着地したエアリィはわき目も振らずダッシュで地を蹴る。
「あたしと戦いたいなら、まずは追いついて見せてっ! 追いつけないと思うけど!」
完全なる挑発である。
言い捨てる様に、しかしエアリィは猫もかくやという勢いで路地の中へ消えていく。
この後、どう展開しても、現状は良い様にあしらわれた形。それがフリーファイター達の怒りに繋がる。
「追え!」
「絶対に逃がすな!」
散開していたフリーファイター達が順番を競うようにして路地の中へ飛び込んでいく。前を走るエアリィ、その背は追いつける位置にある。
たたたたっ、とエアリィが駆けていく。路地に置いてある資材を軽やかに飛び越えて、奥へ奥へと進む。
「このまま追い込め!」
そんな言葉が後ろから聞こえてくるが、エアリィは構わず突き進み。
「……あれ?」
たっ、と足を止める。エアリィの眼前には大きな壁……つまり、行き止まり。
「今だ!」
「虚仮にしやがって、ただで済むと思うなよ!」
エアリィの足が止まったのを好機と見做したのだろう。
後ろから追いすがるフリーファイター達が拳に気を込め、その気が電磁の力を帯びて威力を増す。
「えーと、どうしよっ?!」
そう言いながら振り向き、困った顔を見せるエアリィ。困った風に口元に手を当てて悩む……振り。手の中で小さく、小さく言葉を紡ぎあげる――それは通常の声量であっても聞き取れないだろう。それほどの速度で以て紡ぎあげられた|力ある言葉《詠唱》、精霊に呼びかける声。
傍目、エアリィは『困って足を止めて悩んでる』風にしか見えないだろう。
だから。フリーファイター達はニヤリと笑いながら距離を詰めて拳を振りかざす!
「後悔しな!!」
「……どっちが?」
飛び掛かってくるフリーファイターに対して、エアリィがこてんと首を傾げて問いかける。
直後、触れるだけで機械類を故障させる電磁を纏う拳をかいくぐりながら。
エアリィが腰に帯剣していた精霊刃『エレメンティア・ティアーズ』を引き抜く。居合い抜きの要領でフリーファイターとすれ違い、その刃を振り抜くエアリィ。
「……?!」
声も無く崩れ落ちるのはフリーファイターだ。
対してエアリィは止まる事無く振り向きすらせず、地を蹴って跳躍する。同時に精霊銃『エレメンタル・シューター』も引き抜いて、空中を移動しながら斉射。先鋒が成す術もなく倒された事に動揺しているフリーファイター達の中へ精霊魔力弾を叩き込んでさらに混乱させる。
たっ、たっ、と狭い路地の壁を利用して跳び上がるエアリィ。壁の間を反復して駆けあがればフリーファイター達の頭上を取る事は容易い。その間にも精霊銃からの弾幕は間断なく。手にした精霊刃が纏う虹色の――【|六芒星増幅術精霊斬《ヘキサドライブ・ブースト・スラッシュ》】によって六属性精霊の複合魔力を束ねた力が空から煌めき、軌跡を描く。
「精霊達とのコンビネーション、じっくり味わってねっ!」
振るわれる斬撃は六芒星精霊収束斬。魔力が弾けるとか精霊力の奔流とかの派手さはなくとも、重厚なまでに束ねられた精霊達の複合魔力は、一閃でフリーファイターをなぎ倒す力がある。
小柄な体格も利用して、フリーファイター達の間へ飛び込んだエアリィが縦横に精霊刃を振るえば、その軌道にいたフリーファイター達が倒れていく。
「くっ……!」
狭い路地では不利だと思ったのだろうか、踵を返そうとするフリーファイター。それを視認したエアリィは壁に向かって跳びあがり、着地と同時に壁に立てかけてあった棒を蹴り飛ばして牽制する。
「うわっ」
不意に飛んできた棒を叩き落とすフリーファイター。その叩き落としている『間』にエアリィが左右の壁を利用して速度を上げつつ突っ込んでくる。
「逃がさないよっ」
フリーファイターの横を声がすり抜け、数瞬遅れて全身を走るダメージに膝を折るフリーファイター。
「さ、まだやる? とことん付き合うよ♪」
楽しそうに――エアリィを叩きのめす、その気持ちが前面に出すぎていたフリーファイター達を、魔力を纏わせた精霊刃でざっくり! と倒し続けるエアリィがそこにいたのでした。