累積性ヴォイニッチ・オリジン
●神に怒り在らず
「汝……いや、汝|等《●》と呼ぶべきか? まさか、このような組織が|楽園《EDEN》に存在しているとはな。しかし、この邂逅は妾にとっても、汝等にとっても都合が良いのではないか? のう、|黒槌・諒《くろつち・りょう》とやら」
√EDENへの侵略。√仙術サイバー、東京Ⅶにおける最大のマフィア『ガルガンチュア』。その当主たる妖魔公女『冥鈴・ガルガンチュア』はひとつの影を認めていた。謎の多い組織「十全機関」における第三席『黒槌・諒』はそんな女を認め返している。
「√EDENに到達して数日で、俺達『十全機関』を見つけ出すとはな。一席との取引も済んでいるようだし、力を貸すのもやぶさかではない。それで、アンタらの『目的』は――√EDENに突如として出現した、正体不明の√の|残骸《●●》の回収で間違いないな?」
正体不明の√。あまりに抽象的ではあるのだが、しかし、そう描写をする他にない。されど其処は妖魔公女、雑学の知識が豊富なだけはある。パラパラと、取り出してみせたのは所謂『聖書』であった。
「ふむ……残骸の気配からして、あれらは『言語』のようにも思える。妾の考えでしかないのだが『あれ』はおそらく『バベルの塔』だ。いや、より『らしく』言うのであれば……√エ・テメン・アン・キかのう。ひとつでも回収できれば十分だ。それさえあれば、確かではないが――√仙術サイバーにとっての|致命《●●》のひとつを回避できよう」
「つまり、アンタらは全ての√に存在するとされるA.Z.T.Sとの|早期衝突《●●●●》を遅らせようと、そういう考えか。確かに、√仙術サイバーの『積層都市の無限化』はヴォイニッチ・オリジン……全知の書以外、不可能だろうよ」
残骸を|回収《●●》する。
それ即ち『統一言語』を一時的にでも放置する行為に他ならない。
ああ、一般人が巻き込まれたならば、狂気に陥る事は間違いなし。
●踏み倒せ!
「君達ぃ! 仕事の時間だ。ちょっと√EDENで面倒な事が起きそうなんだよ」
星詠み、暗明・一五六は|貌《ページ》を広げつつ言の葉を続ける。
「なんでも、正体不明の√、その残骸が異界とやらを作っているようだぜ。名前に関しちゃあ知らねぇが。おそらく、放置していたら√EDENが『同化』するかもしんないって話さ。そうそう、その残骸とやらを拾おうと簒奪者がやってくるってのも見えたぜ。あとは精々、負けないようにする事だねぇ。アッハッハ!」
第1章 冒険 『知識の塔』
煉瓦を作り、焼くといい――。
|死霊秘宝《ネクロノミコン》、ナコト写本、黙示録、アキュートの殴り書き――様々な禁忌がありとあらゆる|世界《√》には存在するのだが、その中でも最も神意らしい|書物《もの》と謂えば『全知の書』に違いない。√エ・テメン・アン・キの残骸、その正体とも呼ぶべき|文献《かけら》はヴォイニッチ・オリジンとして、写本として、嗚呼、愈々蔓延する沙汰となったのか。その名の通りの全知、ひどく便利なアカシック・レコード、されど使い方を誤れば神の怒りに触れる前に――発狂し、同化し、世界諸共に『差』が無くなるだろう。
使い方に自信の『ある』者は後を絶たない。何故ならば、事実、その恐ろしさを味わう者がいないが故だ。仮に、恐怖を知ったとしたならば、=で全ての終いと解せるだろう。√能力者達よ、EDENよ、この災厄を完膚なきまでに封印、或いは破壊しなければならない。まあ、君達が望むのであれば回収という手も不正解ではないのだが。
兎にも角にも正気であれ。
真実に触れた者は、それこそ、A.Z.T.Sめいた白痴となる運命なのだから。
紅葉を共有する事はできない。
水飲み鳥の真似事として、いつものように、めまいと付き合う感覚は悪くはないと思えたのか。或いは、悪辣サマからの小賢しい啄み、カッコウの餌食とされるが儘に、花喰・小鳥、溜息の代わりに紫煙を揺らす。残骸の回収か破壊、簡単に言ってくれます。|血社《ファシナンテ》の馥郁に誘われての灯火、抱かれるかのような冷静さに如何にも抗えなかったのだ。ええ、私たちを送り出したのは、彼の……あまりにずるい……信頼の証だと思う。少なくとも黙示録に今回の事件の未来が『ない』とは記されていないはずだ。……私も、随分と理性的な女になりました。いいえ、機械的な女とでも表現をすべきでしょうか。おお、眼球。この魔障こそが、魔性の繋がりこそが、脳髄への唯一こそが――災厄を維持する臓腑に過ぎないのか。お仕事をしましょう。可及的速やかに。いっそ、もう少し、遅延性とやらを愉しんでも良かったのではないか籠の鳥。頭蓋の硬さを譲り受けたかのように、只、振る舞って。戸口を叩くように。
月の海より誘いて――海月のように転がって――モフモフと、使役したのは|電子妖精《モーラット・コミュ》。もきゅもきゅ、もきゅもきゅ、なんとも愛らしい相談だろうか。……相談するのは構いませんが、そろそろ、探しに行っては如何でしょう。残骸とはおそらく断片なのだ。侵蝕とはおそらく断章なのだ。一枚、一枚、発見しては真っ黒い蜂がおどる。思っていたよりも甘ったるい匂いです。それこそ、気分が悪くなるような……。折角の全知なのだ。ほんの少しくらいは干渉したって――ハッキングしたって――罰は当たらないだろう。
もきゅ? もきゅきゅきゅ!?
収集するのは結構だが、干渉するのは結構だが、哀れ、妖精たちはすっかり目を回していた。バチバチと、パチパチと、千鳥足なご様子でお互いにぶつかったり、弾けあったりとしているのか。パチン! 悪い女のしつけ方のような平手ではないか。全知を得たモーラットなど破滅しかないと思いませんかもきゅ? ……語尾がおかしいです。全知の書とは即ち|統一《●●》の切っ掛け。成程、目玉が回転しているのはオマエも同じと認めるべきか。ああ……この感じ……本当に、私というものは……。
煙草が足りない。もう一本。
おいしいです、とても……もくもく……もきゅ……。
正義をするにも悪をするにも上等な|書物《ひとつ》に違いない。
オマエ以外の存在が手にしたならば、おそらく、いいや、確実に。
幾つかの『差』が融けて消えると思われた。
世界、未来、可能性――箱庭、過去、不可能――様々な想いが蔓延る中で、嗚呼、神へと挑戦する者どもの影や如何に。蟲か菌のように蔓延り続けると謂うのに、真に全知を冠するなら……余程小さく閉じた概念なのでしょう。概念、嗚呼、概念なのだ。ありとあらゆる√能力はある種の概念であり、それこそ、拡大解釈をしたならば|世界《√》の小型化なのかもしれない。無論、悪性を封じた身に嘲笑や玩弄の意図も無し。偏に何処ぞの種子と類似枠の危険物として――傲慢に対しての刑罰として――淡々と、処理をするのみ。つまりは、ディラン・ヴァルフリート、ドラゴンプロトコルよ。オマエは彼方まで到達してもオマエを辞めはしないのか。ええ……皆さんの知っている通り、僕は、僕を続ける事しかできませんので……。まったく、誰が風呂敷を捲ると謂うのだろうか。折り畳む術も無いとせよ。
権能領域の復元、高次元からの睥睨だ――禁忌に力が存在するのであれば、ああ、√の欠片など目立つ小石のようにも思えた。ええ、よく見えています。働きかけるべきは空間で、時間で、全知の頁ではないのです。文献を雑に扱うつもりは限りなく零なのだ。必要なのは丁寧に引き寄せるだけの沙汰で――勿体ない、云々とは口にしない。
遮蔽の類も絶えていく、盲目とやらも治まるほどに。
欲するを満たすには程遠い紙屑の群れ、もしくは、欲するが為に滅びぬ人類の性、手早く……? 焼き払うのは少々危ういのではなかろうか。軽率に破くなんて以ての外ではないか。確実な処理に越した事はありませんね。余計な禍根とならぬよう、余計な地獄とならぬよう。最早、全知に護りはなく――握り締めた|運命《●●》の儘に。
ええ、これで問題はないでしょう。
全ては最初から……いえ、最初も何もない筈です。
秩序と無秩序、両者の存在感こそが最も√を脅かしている。
極端なものを好むのは結構だが、成程、伝染性だけは勘弁してほしい。
ワタシは、ワタシを増やしたりはするけど、ヒミツはちゃんとしてるもの。
全知全能――たとえ、前者のみを得るのだとしても――その代償は正気だけには留まらないのか。仮に、何処かの|女《「狂科学」》が手にしたとしても、これはあまりに「ナンセンス」だと真顔になるのかもしれないか。あはは、“全部わかる”ってやつ? 外来種、アリス・グラブズ、平凡なエイリアンのクセをして――鵺よりも鵺らしいクセをして、興味津々と謂ったところか。|観測《あじみ》してみたいよね! √仙術サイバーの積層都市をパンデモニウムと定めたならば、玉座、辿り着く前に『抑える』べきか。でもさ、それって揺れが無いんだよね。結局のところは全知の書、ヴォイニッチ・オリジン、その頁の数々には位相の『い』すらも無いと思えた。ワタシは波をみつめる。まあ、これも、ちょっと角っぽいから気を付けて使わないとダメそうだけどっ。魔力の振幅、揺らぎ、欠けたところ――探しても、探しても、探しても、マトモに見つかりっこなさそうだ。いや、同化するよりも前。完全に重なり切る前の|波《ズレ》であれば――世界を均す欠片は、残骸は、そこだねっ。|全知《無味》になる瞬間、世界は|静か《無意味》になる。それこそアフォーゴモン、熱すらも無い亜種のように。静かすぎる場所ではワタシは暮らせないかなっ。
何の変哲もない|断章《ページ》だ。何の変哲もない|断片《フラグメント》だ。されど、猿のように動かなければ、いつ|爆発《はじまる》のかもわからない。整合が固定される直前の|差分《●●》、撹拌して、散らして、折り畳むように。ゼロにはさせない。同じにはしない。だって、|キミとワタシ《差分》が無いと面白くないでしょ? √エ・テメン・アン・キは神そのものだ。或いは、人の罪の末路なのかもしれない。
ワタシは守るよ。
|√EDEN《おうち》も、揺れてる世界もね。
ヴォイニッチ・オリジンの何頁目か。
胎児が幾つも転がるかのように。
人間なのだ。人間なのだから、追記修正も可能である。
何度も、何度も、脳味噌を丸々と取り換えるかのような感覚か。或いは、換えるのではなく、都市のように積み重ねるかのような行為なのかもしれない。……探し物、です……いえ、もしかしたら……捕り物なのかも、しれません。四之宮・榴、いつも通りなご様子で何よりだが|星詠み《黙示録》の注意喚起とやらは鵜呑みにした方が良いのかもしれない。……とても、曖昧なこと……ばかりな、気もしますが……さて、僕の目よ、耳よ……其れ等の名を持つ僕の|半身《レギオン》よ……起きて。起こすのは構わないが、目覚めるのは構わないが、それにしても想定外なまでには眠たいのではなかろうか。この眠気こそがある種の|将軍《はじまり》とも思えた。……辰巳……僕の『したいこと』は……。半身が場所を特定し解析を任せる。共同作業こそを施行し、ああ、知識の塔へと挑むがよろしい。そうだね、榴が探して僕が回収、それが一番だと思う。それに、こういった所は経験あるけど、ひとつ見ると頭に……頭の中に、致命的なダメージがあったりするから……。果たして、和田・辰巳、その忠告は旗の嵐ではなかろうか。絶対読んじゃダメだよ。知識は身に着いちゃうし、それこそ交換できないから。交換できないのであれば共有するのは如何に。楽園であれ、地獄であれ、門はしっかりと開いているのだ。……読む? 此の数の半身を動かしながら、それをするのは……困難かと。さて、ようやっと発見した。しかし、随分とスッキリした断片ではなかろうか。それこそ、普段見ている『もの』と比べれば心地の良い……。
僕の精神なら……脳味噌なら、きっと……何故か、揺らぎもしないはず……? 予感は予感でしかない。念には念を入れておくべきだ。他愛もないお話のついでに素早く、柔らかいもので柔らかいものを覆ってやれ――ヤバいけど必要な物があるなら、俺も、少しは男の子をしたって問題ない筈だ――治療行為だよ? 黙ってくれないかアダム。林檎の味わい方については承知しており、ぐるんと、目が回るほどの衝撃。……な、なに……なにを、するのですか……!? 複雑怪奇なのは精神ではない。この状況なのだ。
いや、この世で最もシンプルな『今』で在れ。
兎にも角にも駆けるといい。
駆けて、到着し――黄泉へと誘ってやればいい。
ころころと可愛らしい蛆のようだ。
蛆のような文字列とごっこ遊びをするといい。
全知ごっこだ。世界で一番楽しいだろう。
蝶と蛾、何方かの取り替え子がカッコウの獲物を認めたのか。秩序と無秩序、何方かの卵がひび割れて悪辣さを覗かせたのか。ふむ……本の類なら職業柄馴染みは深いし、魔道そのものが狂気と隣り合わせではあるのだけどもね。ヴォルン・フェアウェル、詩を終わらせようかと思ったところで『好奇心』がこぼれたのか。いや、こぼし方が上手なだけで『これ』が本物なのかは不明な儘だ。生憎と探偵の真似事は苦手なんだけどなぁ……ま、やれるだけやってみようか。それに、もしかしたら、探偵じゃなくて、犯人ができるかもしれないし。成程、暗殺者は暗殺者らしく、魔術師は魔術師らしく、貪欲さを隠してはいけないものだ。たとえ、その所為で誰かさんを驚かせる沙汰となったとしても。うん、ちゃんと、覗き込むことは出来そうだね。僕はどこまで行っても|紙魚《●●》の真似は得意だからさ。
カブトムシの幼虫がかくれんぼをしている、そんなイメージ。
小さな、小さな、蟲の群れが異界化した楽園へと放たれた。放たれ、蠢動を開始する彼等はいよいよ情報収集の鬼となり――幸運を運ぶ群体となり――物語の端切れを発見してくれた。ほら、思っていたよりも早く見つかった。これに触れたくらいで狂えるものなら、とっくに僕は狂っている筈。狂気は罹るものじゃなくて操るものだから……。適切な間合いを心得ておけよ能力者、そもそも、人と蟲では価値観すらも違うのだ。念のため用意しておいて良かった。万が一、他の人に感染ったらいけないしね。夢は夢のままに――自己暗示をするついでに――ようこそ。幻の光は皆の為に在れ。
しかし……真実ってなんだい?
この世にあるのは個々が認識する現実、すなわち「物語」だけさ。
回収するのも、破壊するのも、理想を選択したいオマエの自由だ。
これが物語なのであれば――母蜘蛛のように愛してやれ。
何処かの迷宮、暴力的な溶岩の熱を倣っていたのか。
或いは、無意識の内に『種子』の力を真似ていたのか。
何方にしても劫々、阿鼻叫喚も聞こえない。
楽園――上空――天地がひっくり返ったとしても、アーシャ・ヴァリアントの|欠落《●●》は変わらない。たとえ、塔が完成したのだとしても、それを未完成とするほどには|強力な催眠《おめめぐるぐる》だったのである。兎にも角にもドラゴンプロトコル、天から地を眺める姿は|最強種《その名》に恥じない勇ましさであれ。んー? 何かよくわかんないけど廃棄汚物が紛れ込んで危ないからぶっ飛ばしてくればいいのね、OK、OK。早速、如何にもな『もの』を発見したのか。成程、異界と化していると表現されたらしく、なんともモヤモヤとした真っ白さか。ふぅん……なんだか、想像してたのより綺麗っちゃ綺麗ね。ま、綺麗すぎて誰も泳げなくなってそうだけど。ぎょろりと、ようやくマトモになった眼球を容赦なく酷使してやれ。ああ、眼下、彼方の断片こそがお目当ての積層だろうかと。
知らず存ぜぬ、それ故に、オマエは何処までも強くなれる。
強く、柔らかく、何よりも今を吸収できる。
正直、全知とか用ないし、危険な書物は焚書に限るわ。どっかの魔術師の|羅紗《かみきれ》みたいにね。もちろん、|義妹《サーシャ》に渡しておいたのは別だけど。文字通り塵ひとつ残さず焚いてやれ。しかし、天空、こんなにも赫々としていて大丈夫なのか。無数のオマエが無数に吐息し、未曾有をまったくの無意味としたのだ。どうせ教えてくれるなら|義妹《サーシャ》の喜びそうな事だけ教えてくれたらいいのに、全知とかオマケが多すぎて鬱陶しいだけだわ。それなら、ゆっくり眠れる方法だけを持ち帰っては如何か。……そういや、そんな話していたわね? やっぱり自分の力で手に入れてこそ、喜んでくれる筈よ。
跡形もなく灰としてやった。
世界よりも塵芥としてやったのだ。
揺るぎない光の中でひとつ、本物を見つけたのか。
されど、その本物こそが最もおそろしい未来を決める。
未来、可能性、この一切を冒涜するつもりはないのだ。
何処かの紳士も吃驚するだろう状況下、一ノ瀬・エミ、誰かさんの苛立つ顔を想像してみせたのか。A.Z.T.S――種子も含めて――様々な√を蝕むだろう『それ』は汎神解剖機関にとっても頭の痛い内容なのかもしれない。兎にも角にも、今回、正体不明が出現したのは楽園である。故郷の√ではないにしても――文字通りの|楽園《EDEN》、これを放置するワケにはいかないか。大変なことになってるって聞いて慌てて来ちゃった……けど、一応、シュウ兄たちには連絡しておこうかな。メールの送信画面とやらを確認したならば、早速、世界の危機とやらに立ち向かってやると宜しい。んー、んー……? 残骸を回収? または、封印か破壊……だよね? それにしても天使よ、今回に限っては『わかりやすい』のではなかろうか。何せお相手は一種の「光在れ」――怒らずに、人類を放置した神の化身なのだから。よし、見つけたよ。そっと、そ~っと……。あ、ルティルス。力を借りるね。静謐、見事なまでに効果的ではなかろうか。まるで揺り籠のように|断片《ヴォイニッチ》を抱いていく。……え? 邪気が『ない』……? 破壊しなくて済みそう……? あ、破壊はした方が良いのかな。別の意味でもにょもにょしそうだよ。
眩暈ほどの辛さはないが、如何してか、吸い込まれそうな心地良さ。
容易に描写をするのであれば、ザックリと記載をするのであれば、正体不明とやら、全ての願いを叶える『杯』に近いのかもしれない。そ……それなら……壊れてって、お願いしたら壊れたりして……? ふと、意識へと這入り込んできた心の底からの願い。……これを読んだら、開いたら、皆が、仲良くなったり、しないかな……? ああ、危うく『叶ってしまう』寸前だった。精霊さんのおかげで脳味噌とろけず、銃を構えて。
ちょっと勿体ない気もするけど、覚悟を無駄にしない為にも、ね。
砕け散った。そうとも、ダルマを落とすように。
√EDEN――その片隅、ありとあらゆる災禍を招き入れるほどには楽園な此処に、見よ、新たな|建築物《せかい》が出現していた。いや、もしかしたら、いつかの|対処不能災厄《ティンダロス》侵蝕の際に残された|拠点《シンボル》なのかもしれないが。兎にも角にも建築解体、テロリズムに護衛暗殺、数多の案件をお気軽に相談するならば――嗚々、バベル建設。何を隠そうこの|頭《かしら》こそが人間災厄「統一言語」、アノマニス・ネームレスではなかったのか。フーム……概要は知っておりマスガ、行った事がある訳でなし、結局我輩の下に来た時には既に跡形もない世界デスシ……。或いは、全てが存在していたが故に『存在しない』とされたのか。考えていても埒が明きマセン。ここは社員に任せるとしまショウカ。もちろん、我輩個人としても今回は動くつもりではありマスガ……。サァイ!!! こいつは最高に次ぐ最&高ですね!!! そうは思いませんかネームレスさん! これは以前顔を出した団長の√と同類の……? いえ、おそらくは真逆デスネ。イザリさんが楽しそうで何よりデス。イザリ・ファクトリア、今宵も如何やらファナティックか。あの√に比べて『まるい』ということですか? ともかく!!! 好奇と浪漫の焦げ臭い匂いがしますね!!! こちとら邪神の一瞥なら散々貰って来てるんです! 今更神の怒り如くで止まるもんですか! 愚行上等、特攻上等! 行くぞおおおお!!! そうデスネ。でも、神はきっと怒っていないデス……あ……行ってしまいマシタ……。
√エ・テメン・アン・キ――たとえ、残骸だったとしても人間災厄「大君主ミゼーア」には、弔焼月・滅美には、眩暈がするほどの丸っこさか。……アキュートの殴り書きにも、詳細は記載はなしか……奴らのことだからどっかで断片だけでも観測してそうだとは思ったが……。ぺらぺらと、殴り書きを開いたところで情報なし。観測できなかった? いや、書き記しておけなかった……? それとも、書く前に逝ったか……? くそ、これならいっそ総帥にでも訊きゃよかったか……奴も『似たようなもん』だしな。オットー・Y・ソトトが首を横に振った場合はそれこそお手上げだろう。それに……今もどっかで見下ろしているんだろ……? なあ……『クソジジイ』……。ツングースカの二の舞なんぞやってられるかと、世界の破滅の跫音を聞くなんぞ莫迦げていると。ねぼすけなおじさんに伝えてやってくれないか。……まあ、少しくらいなら、俺なら見ても問題ねぇだろ……。狂気に狂気が重なったところで同じ沙汰。……少なくとも、お前たちは俺と同列だ。腹を空かせた獣、如何して、躊躇を知る必要があったのか。
この際、ベクトルについては考えない事とする。
猪突猛進、いいや、猪が仰天するほどの驀進だ。√能力を敢えて選択しないほどの旺盛さは能力者随一と表現してもいい。サァイ!!! 見つけましたよ! いやー、流石は神の√! 見たことも聞いたこともない異物がわんさか出て来ますね! え? なんだか別の『もの』まで混じってる? そりゃワタシが回収するのですとも! 神様関係のないものが見つかったって問題ありませんね! これが、ワタシの腹が底無しっていういい証拠です!!! まだ知りたいことが山ほどです! 山ほどに必要なのであれば、それこそ、√の再生を試みてしまうのは如何か。きっと、楽しくて、面白くて、半永久的に遊べる玩具に違いない。ははあ、それ『アリ』ですね! 例の種子と混ぜたら破壊と再生が反芻できそうです! 良いですね! 創作意欲がもりもり涌いてきました!!! 泉よりも泉らしい情景だ。暴走している知識欲のすぐ近くで大君主、溜息をこぼしたのか。……マジでいつか【這い寄る混沌】になるぞあれ……絶対読ませてやんねぇ……。
騒がしいのが回収しまくっているところで、ぴたり、汁気の薄れた残骸を拾ってみせろ。今日は珍しく頭の中が静かでさ……いや、外は相変わらずやかましいが……。ひとつ、確保したのであればその他の丸呑み。いいや、折角の邂逅なのだから咀嚼を忘れてはならない。……う……。想定していた以上に、異常なまでに、最悪なお味だ。まるで味のない肉を永遠と噛み砕いているかのような。或いは、臓腑から綺麗にお掃除されるかのような。……角がまったくない……清浄の味がする……。万物溶解液を一気飲みした不快感か。八つ当たりする為の相手がいない。ああ、めまい……。
イザリさんたちは上手くやっているデショウカ……。人間災厄「統一言語」、まるで旧い友を見つけるように、アッサリと断片を集めてみせた。我輩のヴォイニッチとほぼ同じものデスネ。保管されていた場所は……マァ、塔の上の方デショウケド……天に近い……? ならば、嗚呼、万が一のことを思惟して。A.Z.T.Sに最も接近している頁とすべきか。悪魔合体して妙なものに成り果てていなければ良いのデスガ……。
全ては杞憂だ。
ティンダロスの猟犬めいた住民も、おぞましいクリーチャーもなく、只、静謐が広大無辺をしている。これはこれで面倒デスネ。簒奪者が勝手することも容易デスシ。サァイ!!! いい感じに集まりましたね! 今から種子と合成して破壊と再生をしても良いでしょうか!!! それは終わってからにしてくれ……。
ウーン、もしかしなくても、我輩たちが世界を滅ぼすのかもしれマセン。
第2章 ボス戦 『十全機関三席『黒槌・諒』』
√エ・テメン・アン・キ――既に滅びたとされる|神意《せかい》の回収――手伝うと決め、数時間も経っていないと謂うのに先を越される体たらく。いや、黒衣の男は星詠みの力を理解しており、故にこそ、EDENが集めてくるのを待っていたのか。
「ああ、予想していた通り、アンタらは回収にも成功したらしい。アンタらには悪いが、これでも俺は約束を違えない男でな。今すぐにその残骸を渡してくれたら……俺自身は√EDENに攻撃しないと伝えておく」
黒衣の男の狙いは『残骸』だ。EDENと戦闘し、倒す、には『まだ』至っていない。勿論、君達はこの『提案』を断らなければならない為、避けては通れぬ争いだが。
「その残骸は√仙術サイバーを救う為のものだ。アンタらが持ち帰ったら、遠くない未来、√仙術サイバーは完全に崩壊するだろう。簡単に言うんなら……そうだな。それこそ、神に触れるのさ。|積層都市《バベル》らしく」
しかし、そうとも、たとえ世界の為だとしても、
楽園を犠牲にするわけにはいかない。
「……だろうな。改めて、自己紹介だ。俺は十全機関三席『黒槌・諒』――今回は用心棒としてアンタらを叩きのめすのが仕事だ。楽に殺してやるから、せいぜい、神にでも祈っておくといい……」
バベルが崩壊しようとも――神意が如何に揮われようとも――アーシャ・ヴァリアント、或いはヴァリアントの家にとっては、まったく関係のない危機である。別にどこぞの√がぶっ壊れても、世界がどうなろうと、アタシの知ったこっちゃないし。成程、第三席。提案する相手を違えてしまったご様子だ。そもそも、邪悪なインビジブルを酷使しないだけで『それ以外』は容赦なく『おんなじ』知的生命体なのだから。頭を下げて「助けてください」っていうなら手伝いくらいしてやんない事もないけど。結局のところ素直じゃないのだ。この『じゃない』の部分にはアーシャ・ヴァリアントも含まれている。または|義妹《サーシャ》が「お義姉ちゃん、助けてあげてって」ていえば是非もなく助けるけど。いや、その言の葉はある意味では『フラグ』なのかもしれない。何せ、その先に存在するだろう『可哀想』さとやらは、ああ、おそらく極上に違いない。……アンタは……いや、俺がどうこう口にしても、馬の耳に念仏か? 兎も角、さっさと片付けるとしよう。アンタが……アンタのような人物こそ、正気に戻るべきだと、俺は思っておくとするさ。何よ、まるで「アタシが正気じゃない」みたいな台詞じゃないの。ハッ、お気遣いありがたいわね。
竜漿を貪り啜る為の|得物《かいな》だろうか。借り物競争が大得意な黒衣にとって『相性の良さ』は肝と謂えよう。それじゃ、こっちも『殴り合い』してやろうじゃないの。その生意気な面を歪ませてあげるから、せいぜい、頑張って、死に物狂いをすることね。アタシを倒せなかったら? アンタのプライド諸共に四肢をへし折って一回休みにしてやるから|休暇《●●》でも味わってなさい。移動速度が速くなろうと、倍加しようと、見えるのだから仕方がない。成程、俺が思っていたよりも『強い』らしいな。だからこそ、アンタは自分を見失っているようにも見えるが……。ああ、竜よ、加減をしてやる所以はない。片手、片足では飽き足らず、いっそ全部を貰ってやれ。
見失ってるって? アタシが? なにを?
失ってるのはアンタの方じゃない。
常に爪を鋭利とせよ。
秩序・悪――混沌へと一石を投じるサマはある種の|英雄《ダークヒーロー》なのかもしれない。盲目で白痴なのは何も|神意《A.Z.T.S》だけではなく、地平、蔓延る生命体の中にも芽生えるものか。まぁ、どのような形であれ……インビジブル枯渇さえ解消すれば、それを以て"救った"と表現する事も出来るのでしょう。いえ、それ以上に、遠くない未来の衝突と言うものは……果たして、避けては通れぬ悪夢なのではないですか。先細りのslash-and-burnに――宇宙からの色彩に――肥大を、縋るというのもよくある話です。黒衣の男、三席を冠する簒奪者はドラゴンプロトコル、オマエの眼に何を認めたのか。アンタは、何方かと言えば|簒奪者《こちら》側にも思えるが……いや、アンタはおそらく『演じる』というのが生き甲斐なのかもしれねぇな。……人を勝手に解釈すると、それこそ、嫌われたりします。それはお互い様なのかもしれませんが。名乗りはちゃんと返してやれ。僕はディラン。ディラン・ヴァルフリート。正義の味方をしています。希望を摘む役割というのも今の身には不都合ですが……紛い物を砕く体裁なら、如何にか立つ面目もあるでしょうか。つまりは、この対決、同族嫌悪の沙汰なのか。借りてきた右掌の光輝、否定するだけの叫びと聞こえた。
読めた――いいや、読まずとも『わかった』のだ。思っていたよりも黒衣の男、十全機関三席、本気を出しているとは思えない。……もしかして、僕のことを、本当に『正しい』と考えているのですか。それだから、貴方は……。天よ、地を見るがいい。怪物よ、人を見るがいい。仮に、盤面を砕けなくとも――異形と化した血肉のみで、戦車よりも戦車らしく。貴方の目的が世界の滅びを覆す事なら……救世なら……尤もらしい劇物に手を出すより、呉越同舟の決め台詞でも考えておくのがよろしいかと。
俺が何を口にしようと、そうだな。争いは避けられないものだ。
そうですか、なら、お互いにらしさを追求するとしましょう。
天より落ちてきた使いなのか、地より現れた使いなのか、その両方なのではなかろうかと、黒衣の男は嘆息した。まるで天人、上流から下流までの一切合切を呑み込むかのような横顔に辟易としたのか。アンタは……いや、なんでもない。言の葉が詰まってしまうのも、目を逸らしてしまいたくなるのも、仕方がないのか。とにかく、だ。アンタなら、良い返事をしてくれると期待しておくよ。……お断りもきゅ。もきゅ??? 不意にやってきたシリアスの罅割れ。もちろん、目を回している暇などないのだから、咳払いをしておくと宜しい。誤魔化すならば酒と煙草を。この場においては紫煙しか赦されず、嗚呼、この味気なさは如何しようもない。“俺自身は”なんて、ずいぶんずるい言い方ですね。血眼を抉り出すかのように、巣を守るミツバチのように――真っ黒く、この弾幕とやらを緞帳殺しとするが良い。ずるい? 俺が? いや……それに関しては否定できないな。だが、アンタも『同じ穴の狢』じゃないか。或いは、それ以上の狢にも思えるが。弾丸を受け流すなんて莫迦げている。そのまま、紅葉とやらを描こうとしてくれたのだから――素直に頬を渡す所以はない。
三席と言うなら一席や二席、他にいる方たちはどうするのでしょう? 今度は花喰・小鳥、夢を蝕むように|嘆息《●●》、返してくれないかと。黒衣の男、黒槌・諒、彼の『借り物』の強さは本物だ。彼の『使い方』が本人とは違うからこそ『厄介』なのかもしれない。……これ以上、呑み込んであげるつもりはないのです。それに、どうして『あなた』はやる気がそこまでないのでしょうか。甘ったるい紫煙の中で――肺臓を侵さんとする暴力の中で――くるくる、くるくる、|死の舞踏《ダンスマカブル》は廻されるのみ。勘弁してくれ。俺は、アンタみたいな女が、目眩がするほど苦手なんだ。問題ない。構わない。私は慣れているし、何よりも、触れ続けている。黒衣の躰を撃ち抜いたならば、嗚呼、籠の中の鳥だって食われる運命。いいや、このモツ抜きこそがひとつの過去なのかもしれない。殺戮人形にお代官様を。
神はいるのでしょうか?
神……アンタこそ、何に縋っていやがる。
存在しない神に祈れだなんて、ずるいひとです。
ずるいのはアンタも同じだ、綺麗な面しやがって。
縛り付けたならば、極光、眩むほどの気迫だろうか。
√EDENでも、√汎神解剖機関でも、所謂、こういう|病《●》は蔓延っているものだ。その病が本物となって出現するのだからこの|√《せかい》というものは始末に負えない。……な、な、なんかピチピチの恰好の人が現れたよルティルス! 一ノ瀬・エミの言の葉に精霊さん――おまけに、黒衣の彼でさえ――若干、狼狽える状況だ。と……慌てちゃったけど十全機関の人だったんですね……十全機関が何かはわかんないけど……すみません。驚きの声と謝罪の言葉、このふたつを受け止められるほど黒衣は穏やかでは居られないのか。ああ、アンタ……その、なんだ。この空気を元に戻すにはどうすりゃ良いんだ……? うぅ、私……黒槌さんみたいに四天王っぽい通り名ないよ。全部口に出てしまっている。その結果、空気はますます辛いものとされたのか。えっと……ただの一ノ瀬エミです! よろしくお願いします!!! くらり、妖艶な女の相手をするのも苦手だが、こういう、純心を相手にするのも厄介だろうか。……あ、ああ、よろしく……? 地獄の炎よりも火照りそうだ。
残骸を救う為のものと言ってましたけど、その、やめておいた方がいいと思います。邪気が無いからこその忠告だ。何もかもを一緒くたにして終いそうだと警鐘してくれ。あの、吸い込まれる感じは……悪意があるものと同じくらい……ううん、それ以上に危険だと思うんです。ああ、アンタは如何やら、俺が思っていたよりもお優しいみたいだ。だがな。俺は約束を違えるほど賢くねぇのさ。……ですよね。契約を破るなんて、そんな人には見えません。死にたくはない。殺されるつもりはない。争いに身を投じてこその覚悟なのだ。
着信音――はじまりの合図として――今度こそ|地獄の炎《ヘルファイアー》がやってきた。確認している場合ではない。あとは、生き残るだけ。生き残って、この先にある未来の為にも――! 成程、アンタは優しいだけではなく、強さも理解しているようだ。誰に教わったのかは訊かないけどな。
踊れ、踊れ、天使の儘に。発砲、躊躇する必要はない。
取り替え子とされたのだ、神の方から振ってきたのだ。
蟻の巣を観察する為に、態々、餌を透明にしてやるくらいには上から目線であった。或いは、無数に積み重ねてみせた蛹、ぎゅうぎゅうと詰めていくかのような愚かさである。いや、故にこそ敵が『敵』をしてくれているのかもしれないと、取り替え子はぼんやりと思惟したのか。さて、仙術サイバーを救うため……だったかな? 聞くには他にも不安材料はあるようだし、残骸を……神様の子供のようなそれを、回収したとて安泰とは言い難いんじゃないのかい。君の提案を……提案のような何かを呑んだとて、EDENが不可侵なわけでもないわけだ。そもそも、君は『それらしく』言っているだけで、このお話に興味なんてないんだろう。だから、端的に言って交渉にもならない条件だね。ヴォルン・フェアウェル、青々としたものを食むようにして結論。黒衣の男の応えは如何に。……やはり、か。随分と、お見通しをしてくれるな。その通りだとも、アンタ……。争いの前、言の葉は養分としても不足していたのか。いっそ固めてゼリーにでもしてくれたならマシだったのかもしれない。
楽に殺せる――本気で思っているとしたら噴飯ものだ。おそらく、黒衣は『本気』ではないのだろう。これには二重、まったく腹が立つほどに含まれている。尤も√能力者、EDEN、オマエの感情の行方については曖昧な儘なのだが。慢心には相応の幻を見せてあげようか。……アンタ、その|隙《●》……わざとだな? なら、俺はあえて『飛び込んで』やろう。血を啜らんとする|腕《かいな》に対して、渦蟲、何処までも|奈落《アバドーン》に似ていたのか。気が緩んだ瞬間、いいや、緩み切っているお相手様に『群れ』の凄まじさを教えてやると宜しい。装甲も、君の血肉も、何もかも、蟲たちの糧にしてあげよう。アンタ、なんだってこうも、群れの中の一匹みたいな面をしていやがる。一匹? 間違いではないのかもね。
この世に墜とされた時点から、祈る神など持ち合わせていないさ。
別れを告げたってか? 勿体ない……。
極端なまでの善悪こそ何れ滅びる切っ掛けなのではなかろうか。真ん中、バランスの良さこそが維持の基本であり、されど、意地とやらが存在するからこそ、人は何処までも違う事ができるのか。……そうですか。それなら神に願い祈って貴方を倒すとしましょう。和田・辰巳、人間たる所以というものを随分と内包しているのではなかろうか。或いは、この神意、八百万が如くに讃えられているのかもしれない。あぁ、それと。存外世界は滅ばないものですよ。結局のところはEDENなのだ。衝動的な儘に、本能的な儘に、英雄らしさを発揮するこの混沌は――ある種の秩序に対しての特効とも考えられよう。……アンタ。いや、アンタら。どうして、こうも面倒な事ばかり口にするんだ。俺はアンタらみたいなタイプにだけは我慢がならないんだよ。黒衣の男、黒槌・諒の表情から『嫌悪』を捉えたのは四之宮・榴、オマエの足跡が原因か。……神は、別に……祈りませんけど……以外に、身近に神は在るんですから……。堕落をしている。あまりにも、情念に塗れている。もしくは、この艱難辛苦、マトモに見続けられる時点で正気の『し』の字も無さそうだが。……お渡ししたくても……もう違う場所に……ありますし、諦めてください? それに、存外……世界って、保つものです。どんな世界であっても――俺達がいるからな。
貴方様とは、平行線ですから。黒衣の男が見たのは『結びつき』である。このような状況下で、戦禍の最中で、何をしているのかと|本気《●●》を出したくなるほどの苛立ちだ。ああ、アンタら、俺のことを随分と『壁』としか思っていないらしい。そんなにも死にたいのなら少しは遊んでやるとしよう。馬鹿げている。莫迦げている。もちろん、この『莫迦らしさ』はお互い様なのだが。……辰巳? 啖呵を十分としたならば唱えてみせよ。『綿津見神に請い願う』――行くよ! 抱えてやれよその身体、支えてやれよその精神、たとえ、滅びがやってきたとしても、触れさせなければ問題ないのだ。駆けよ、駆けよ、風のように。もしくはあるが儘の音として簒奪者に喪失をせよと。
脳髄を置き去りにされた、そんなグロテスクな想いすらも情念の前では児戯にすぎない。……もう、動き出すなら……先に謂って頂かないと……僕の影が反応できない……。出来ようと、出来まいと、合わせられると踏んだのだ。すれ違いの際に落としてやった火と雷の威力については、視よ、描写を続ける所以もない具合か。……アンタら。どっちを見ていやがる。俺のことを塵芥としか思っていねぇのか? それとも、何か? そんなに盲目になりたいっていうんなら、勝手に、目玉を潰していやがれ。悪態を無視するかの如くに捻じれよ。この再会については最早、会話すらも無意味とされるのか。大きな、大きな、影の中で沙海月がおどる。泡沫、爆ぜるように絡み合ったのであれば伯爵よりも演ずるといい。
|蹴り《アクセラ》――砕け。
貴方は神に祈れそうですか?
はん……アンタ、いつか罰が当たるだろうぜ。
おっと失礼、踏んでましたね。
依頼主の情報を吐くなら見逃してあげますよ。
見逃す? 見逃すだと? この程度で勝った気でいるんじゃねぇよ。
水銀を月としたならば、成程、三月ではなくとも狂気の花か。咲う魔性に相対して黒衣、多勢に無勢とはこの|沙汰《こと》だろうか。積層都市をバベルと表現するならば、真実、親よりも先に息絶えたオコサマのようだと。フム――何か勘違いをしておられるようデ。これは……ヴォイニッチ・オリジンは、そもそも我輩のモノデス。引き継がれるべき遺産を、抱え込むべき罪を、引き取りに来ただけの話であって、そこから寄付だの取引だのを行いたいなら、我が社へ――? それこそ、勘違いしてるのはアンタだろ。まさか、これがお上品な『提案』だと思っているのか? HAHAHA! そうデスネ! 我輩は邪悪なテロリストデスノデ、人質など交渉材料にもなりはしマセンガ! HAHAHA!!! 道化は道化らしく踊ればいいのだと、英雄気取りは気取っているだけで十分だと、口にしてやれよ人間災厄。これだから|災厄《●●》は……いや、俺としては、アンタらみたいなのが相手の方が、幾らかマシなように思えるな。それは、それは、良かったデスネ。大量の砂糖を喰らった後なのだ。それこそ、汚れきった川の方が泳ぎ易い。開戦のご挨拶として魔力の雨霰、不躾な交渉人を「帰らせる」には些か、上等な茶漬けと考えられよう。
へぇ……随分と面白い事を言うもんだな……門前払いを食らったってのに、そのついでに、丸く収めようとするとは滑稽だ。まさか"邪神"相手に神にでも祈れ、とはな……祈ったところで、別に願うほどの祈りも無いがね……。お茶漬けをテキトウに啜った黒衣、三席に対してあきれ顔をしてやったのは大君主だ。ひとつ勘違いしているようだな……邪神ってのは『望まれれば、答える』もんだ。気分で振り向く神様とは違う……今、お前は『望まれている』んだ。望まれていて、更に言えば、追われているのさ。優しく説明してくれてありがとよ。けどな、少なくとも、簒奪を辞めた時点でアンタは『EDEN』だ。神だろうと、何だろうと、冠に『人間』が付く程度にはな……! 幾つかの魔弾を貰いつつも黒衣、狗を手懐けんと気丈に振る舞う。されど、鋭角、この包囲網を突破するには『今の手札』では足りそうにない。嫌われてるみたいだな……どこを見ていようとも、お前はおしまいさ。お前は俺だけではない。ある種の……そうだな、ツングースカの内側にいるんだぜ。A.Z.T.Sは――A.Z.T.Sの種子は、確かに|世界《√》の脅威だ。されど、範囲を狭めたのならば、未曾有なまでに、他の脅威は存在を赦されている。なあ、いっそアンタら全員『対処不能』と呼ばれた方が良いんじゃないか? 対処不能災厄「バベル」――なんてな。
うーわっ……聞いてもいないのに名を名乗るとか、これから返り討ちにされる典型的な悪役ムーブじゃないですかやだー! イザリ・ファクトリア、弔焼月・滅美と猟犬の包囲を見つつ溜息してみる。お生憎ですがこの残骸は主にワタシの浪漫を満たすための物であるので、√仙術サイバーを救うためとかいう建前掲げてズカズカ乗り込んできた阿呆にはご退場願いましょうか! 瀬戸際、追われつつもやってきた黒衣に対して、破壊とやらでお出迎えしてしまえば宜しい。ぬぞりと取り出したのは大型のレンチ。文字通りに|崩壊《●●》を籠めてやれ――アンタ、それの何処がレンチなんだ――うっさいですわね! 製作者であるワタシがレンチだと言えばそれは立派なレンチなのですよ!!! それに、ワタシが浪漫って口にしたらそれは完膚なきまでに浪漫です! さあ、この浪漫を食らってくたばるといいのですよ!!! サァイ!!!!!! 鮮血――借り物であるならば、見よ、壊れる事だって視野に入れるべきだ。これ以上の酷使は危ういと黒衣、装甲を仕舞い込んだ。んん? もう使わないつもりですか? それなら、勝負を捨てたと見て構いませんね! さっさと尻尾巻いて逃げるといいですよ! いや、逃げはしないさ。アンタら、どうせ俺を逃がすつもりはないんだろ。サァイ! 大正解ですね!
言ったはずだ。お前は『失せる事を望まれている』とな……。イザリさん、いい仕事をしてくれマシタ。このまま『総取り』するとしマショウ。跳躍、大君主が葬ると『決めた』のだ。ならば、致命なところで出現するのは至極当然と謂えよう。く……! これだから、腐っても鯛を相手にするのは面倒なんだ……! おいおい、腐った鯛とか言わないでくれ。これでも、まだ、俺は『俺』として存在しているんだからな。呪胎告知――今度こそ、月を見せてはくれないか。哀れな、憐れな、犠牲者たち。√エ・テメン・アン・キの統一に巻き込まれた彼等、彼女等の言の葉。味わっていただきマショウ。まだ、倒れるつもりはないとは思いマスガ――胎がひとつだけとは思わない方がいいデスヨ。
混沌の自我――苦悶そのもの――統一を身に受けても尚、喪失しないその精神性は流石、簒奪者と褒めてやるべきだろうか。黒衣、十全機関三席『黒槌・諒』は面を歪ませつつも、嗚呼、回収とやらを諦めていないらしかった。『残骸』はだーめ! あなたの求めるモノじゃないと思うなっ! ……たぶん! 外来種、出現。アリス・グラブズの神出鬼没具合については心霊テロリスト、アノマニス・ネームレスでも完全には捉えられないか。世界の隙間、√の歪み、沈んで、沈んで、沈んで――ズレにズレて、届くようで届かない。おい、アンタ。鬼ごっこをしたいんなら、逃げる側にも不利を付けるべきなんじゃないか? いやだよ! だって、捕まったら台無しだもんっ! 《スバシラさん》! かもーん!!! 暴れ狂う柱肢、それを、より凄まじい膂力を以て握り締め、ぶおんぶおんと振り回す。鬼に金棒? いいや、外来種に触手だ。伸縮自在な悪夢を捉えるには腕が無数と必要だろう! 停車するのはバスではない。そうとも構造、この血液の味わいこそが……。
Interface:残骸の利用方法を解析。
A.Z.T.Sへの接続導線の有無を確認。
Reformer:導線検出次第、因果ごと撹拌して遮断。
√エ・テメン・アン・キであれ、A.Z.T.Sであれ、神と呼ぶに相応な『もの』だ。神に神をぶつけるのは結構な事だが、その代償については――少し重すぎない?
ねぇ諒さん。それ、本当に……。
重要なのは『そこ』じゃない。
少なくとも、俺は『浪漫』ってのがわかってるのさ。
サァイ! それなら、ワタシに任せても良いじゃないですか!
おい、イザリ……その浪漫、ちょっとは抑えられないのか……?
まあ、何にしても、今回はお開きデショウ。
いえ……次が待っていますので、退場してクダサイ。
ぼこりと、膨れ上がって、混沌と共に「また今度」。
第3章 ボス戦 『妖魔公女『冥鈴・ガルガンチュア』』
「十全機関を、あの三席を……こうも容易に退けるとはな。奴が本気でなかったにせよ、成程、汝らEDENは――その衝動とやらは、想定していた以上に強いらしい」
十全機関三席『黒槌・諒』、強者の『仮初の死』を見届け、ようやく顔を出したのは女であった。いや、勿論、只の女ではない事くらいは一目瞭然。その立ち振る舞いは強者のソレであり、彼女こそ√仙術サイバー、東京Ⅶ最大のマフィア『ガルガンチュア』の当主。妖魔公女『冥鈴・ガルガンチュア』その人なのだ。
「汝らのことだ。妾がここに立っている所以くらいは想像できよう。しかし、汝らは『全知の書』を渡そうなどとは思うまい。ならば……ふむ……ひとつ、遊んでみようではないか。妾はこれでも好奇心の塊でな……汝ら、妾が『これ』をした場合、どう動く」
ガルガンチュア――冷酷かつ残忍な公女様――マフィアの当主は|仙術《ちから》を√EDENに向けて放たんとした。成程、彼女の目的は『ふたつ』。全知の書の回収。それが不可能なのであれば――ちゃんとした簒奪。
「全知の書か、民の命。汝らは何方を選択する」
※※※
妖魔公女『冥鈴・ガルガンチュア』の狙いは『全知の書』か『邪悪なインビジブル』です。全知の書を渡せば撤退してくれますが、しない場合、√EDENの人々を殺しに向かうでしょう。二兎を得たいのであれば民間人を守りつつ、公女様を倒してください。
強敵を斃す為には、まず、その性質を理解すると良い。
人間を――覚醒していない、√EDENの住民の群れを――鏖殺する程度、簒奪者であれば容易と謂えよう。文字通りに龍、天を焦がすかの如くに往くサマは武強主義の極致と表現したって嘘ではないのか。郷に入っては郷に従え……それが通用するのは、同格か、格下相手に対してのみ……貴女は随分と分かり易いですね。元よりマフィアを生業としているだけあって、堂に入っている、と言うべきでしょうか。追いかけつつもディラン・ヴァルフリート、お褒めの言の葉とやらを垂らしてみせた。ほう? 汝、世辞を言うではないか。しかし、汝よ。汝こそ、妾のような女を蹂躙したいのではないか? ええ、お世辞です。それと、今は『そのような』こと……望んでいる場合ではありませんし、残念ながらお求めの品は破壊してしまったので……。消去法なのだ。最早、交渉材料はなく。認められているのは善悪のふたつだけ。惜しいですね。まったく、心の底から思っています。にんまりと公女サマ、オマエの脳髄とやらを暴きたくなったのか。悪くない。汝は……そうだな。『ガルガンチュア』の構成員として雇いたいほどだ。ヘッドハンティング、鉛玉よりも威力はあると見たのか。
それらしい振りをいただいたことですし、今回は……「お断り」するとしましょう。魔王と勇者の関係性については見ての通り。まさか、この場で頷く勇者など存在しまい。ならば汝、民の命と共に死に絶えるが良い――。此度、ドラゴンプロトコル、オマエこそが|壁役《タンク》であれ。受け流さない分のダメージも確りと貰ってやると宜しいか。成程……さては、貴女も本気を出してはいませんね。ええ、勿論、この威力でも『民間人』であれば……殺すのは容易だと思いますが。異形、竜と称するよりも怪物か。再生し、立ち上がり、妖魔公女へと反撃すべく。……さて。次は此方の番です。
拮抗しているのか、或いは、若干と押されているのか。|重力《ぞくせい》を籠めても尚、彼女の動きは鈍くならない。いいや、おそらくだが――加速を封じ込めているのだ。ほう、汝……妾の力を鈍らせたのか。やるではないか、竜よ。加えて……他に、何かしら小細工をしておるな? 素晴らしい。ますます欲しくなったぞ、汝。呵々大笑、公女サマの『隙』は今だろうか。……流石に軽くないハンデですが――特に得られるものがない事も含めて――案の定、と言ったところですね。遊んでくれた事には感謝しておきましょうか。
見極めた確殺――ハイドラの睥睨――ある種の判決がやってきた。ただ、悪のみが滅する。ただ、敵のみが死する。ならば閃光、巻き添えの考慮は無用とせよ。汝……そうくるか。悪くない。面白いものを見せてくれたな。いや、妾の負けだ。好きにせよ。
既に金縛りは――肉体への干渉は――完成している。
視よ、眩め、多頭、三基の咆哮を浴びよ。
繝?こ繝ェ繝サ繝ェ――妾、アルビノは飽きるほどに見たのだが?
√仙術サイバーの東京Ⅶ、その頂点に位置しているのだ。武強主義において公女サマ、ガルガンチュアは圧倒的なまでの強さを誇っていよう。それ故に、彼女の心の根の部分にはEDENに対しての『慢心』があるのか。いや、違う。おそらくは――EDENたちの心の根にも、彼女に匹敵する力が宿っているのだ。ざーんねん。どっちもあげないよっ。あげてもさ、ほら、ちゃんと管理してくれないよねっ。だってアナタ、ワタシが思っていたよりもずっと賢くなさそうだし。外来種からの言の葉に、アリス・グラブズからの煽りとやらに、成程、涼しい貌をしてみせたが。内心、この沸々とやらは殺せそうになかった。ほう……? 妾に対してそのような態度。先程の竜と言い、汝ら、此方側で働く方が楽しめるのではないか? 一歩、一歩、確実に両者の距離は縮まっていく。いいや、刹那に世界が歪みにやられ、狂い――下級怪人、妖魔公女の御前とやらへ。民へ向かうその行き道、ワタシが貰うね。まがれ、まがれ、記憶や記録を混ぜるかのように。意図していようとも、いなくとも、この水溜まりこそが混沌だ。汝、余程に死にたいと見た。妾の前に現れるとはな。
七星剣――揮われるだけで無数の命を刈り取りほどの――その威力、これを抱擁せんとしたのが粘液であった。侵蝕する為だけに、奉仕する為だけに、まるで胞子のように侍った|従者《●●》どもが天ではなく地を清めていく。妾の足元を汚すとは……汝、万死でも足りないと宣うか。いや……汝、これは汝の『巣作り』と言うべきか……? 地を這う蜘蛛よりも這い寄ってやれ。混沌よりも蠢いてくれ。殿中でござる~♪ って、地球では言うんでしょ? 本も命も渡さないよ。代わりに粘液のおかわりはいかが? 揺れる、揺れる、文字通りに『運』の半分が逃げていく。揮っても、伸ばしても、嗚呼、星には如何やら届かない。塔を崩すのは雷かな、神意かな? でも、だめだめ、あれは祀っておかなきゃ。
祭囃子でドンドンパフパフ~♪ って!
吠えたてるだけの不調法な人はお帰りくださーい!
……汝、餌のやり方が雑ではないか?
権化と化身の違いを説明してくれ。
この憤怒は誰が為に。
星で竜を――或いは、龍を――墜とす事など造作も無いと、両者、脳内で思惟をしたのか。アーシャ・ヴァリアント、妖魔公女『ガルガンチュア』を前にしても尚、その貌とやらに怯えはなし。何かアタシのパチモンみたいなのが現れたわね。もしかして、アタシのファンにでもなりたいのかしら。ちょっとした冗句に対して公女サマ、ほんのりと笑いを浮かべたのか。汝、戯れるのは構わないが、まさか、妾を前にして余裕を見せているワケではあるまい。……余裕? 余裕ですって? これは『無関心』みたいなもんよ。別に他の連中なんて知ったこっちゃないけど、全知の書にも用はないし……燃やしちゃったからおとなしく帰ってくんない? 公女サマ、おとなしく帰ってやろうかとも考えたが、それ以上に『好奇心』の虜と成られたか。汝……無関心なフリは得意なようだが、ふむ……たとえば、汝の大切な人とやらはEDENに居たりはしないのか? あん? 待ちなさい。それ以上踏み込むって言うんなら、アンタ、ぶん殴ってぶっ飛ばすなんてもんじゃ済まないわよ? ぴしりと、頭の中で大切な糸が切れたかのような、そんな、熱量。汝……やはり、そういう人種であったか。良い……その貌の方が妾好みだ。呼吸を整えて、肺臓に空気を溜めて、宣言をせよ。アタシの全力全開の一撃に耐えられるかしらっ!? アンタ、死ぬ覚悟は出来てるんでしょうね。
竜と龍――何方が真に相応しいのか。
星が迫る――剣戟が往く――大振りがやってきた。妖魔公女『ガルガンチュア』渾身の一振りだ。受け止めるにしても、弾くにしても、躱すにしても、嗚呼、この威力は絶大である。アンタも一応は誇り高い『武強主義』ってやつらしいわね。けれど、パチモンに負ける本物なんて在りはしないのよ! 見えた。見えたならば竜漿を集中させるのみ。何……? 妾の渾身を防ぐとは……! 隙だらけだ。おお、|竜皮《ドレス》すらも爆ぜる爪撃――皮も肉も骨も断ってやれ。アンタ、粘土よりも柔らかいんじゃないの?
汝に言われたくはない……。
艶やかな髪の先までも、アァ、あなたは美しい。
黒衣と同じく目眩に遭った。
ある種の酩酊、ある種の翻弄、その化身として振る舞った花喰・小鳥の流し目は|致命《●●》を作るに適していたのだ。目眩がするほど、倒れそうになるほど、苦手らしいですよ? 果たして噓と真、混ぜ込むかのようにして吐息したならば妖魔公女『ガルガンチュア』、彼女は如何に返してくれる。汝……それは……いや、最早、言葉すらも見つからないと? 紫煙を遊ばせつつも人間災厄、同じ穴の狢とやらを歓迎するかのように。彼には女難の相が浮かんでいそう。ちょっとした微笑と共に落ちたのは灰だろうか。或いは、肺が軋むかのような音だろうか。汝にはキャンディがお似合いだと思うのだが、汝自身はどう思う? キャンディですか……いえ、今は断っておくとしましょう。それに、あなたにとっては数ある遊戯のひとつ、違いますか? さて、影を滑った女のカタチ。その胸中とやら――|深淵《マトリックス》――マトリョーシカも吃驚だろう|天獄《アンフェール・レプリカ》。如何か|断頭台《チェルノボグ》にご招待あれ。汝……まさか、この程度で妾を仕留めるつもりなのか? 切断できたのは|指《いちぶ》のみ。それでも十分な戦果と言えよう。
目的が果たせなくても困らない。目標を達成できなくとも戯れとして片付けられる。こちらは命懸けなのに……死ぬ覚悟だというのに、酷いです。脳天、尻尾で叩かれた。腹部、羅盤で殴られた。ああ、されど、気分はあんまり良くないけれども。問題なんてまったくない。私はまだ戦えるし――何より、此処が私の舞台なのだから。目と鼻の先にやってきた公女サマ、その立派な角とやらを掴んでやれ。ぐい、と、額と額がひっつく距離感。捕食される寸前の蝶々、その模様に対してのご褒美か。
髪が傷んでる。トリートメントはしていますか?
ぞわりと、あまりに蠱惑な赤色の宝石。自分の眼窩に嵌まっているソレと違って、嗚呼、おぞましいほどに輝くのか。汝……待て……待ってくれ。そんな目で妾を見ないでくれ……。最早、其処に宝石はない。されど背後、この魔障からは逃れられはしない。
綺麗なのに勿体ないです。
がくりと、妖魔公女の身体が落ちる。
甘い水には毒があった。
もっと直接的なのか。
虚無――永久の奈落を彷彿とさせる、蝗害の最中を想起させる、一種の遭遇が此処に成った。仮に、妖魔公女『ガルガンチュア』にとって、望外のひとつで有ったにしても、嗚呼、目の前の存在はあまりに昆虫的ではなかろうか。簒奪者らしい簒奪者、というべきかな。まあ、僕自身は? 人格にも組織にも興味はなくてね。ヴォルン・フェアウェル、アルビノよりも真っ白な表情で言の葉を続けるのか。どうせここで君の物語の終わりは観られないのだろうし、大根役者には――幼稚な殺戮者――誰も殺せず、ご退場願おうか。淡々とした否定、自然界からの放逐を臭わせる音とやらに公女サマ、頭を掻いたのだ。汝……妾を排除したいのは解るのだが、果たして、汝は誰の為に、妾との戦いを望むのか。武強主義、己の為、他人の為、熱っぽくなるのは咀嚼も容易い。されど、この、未曾有に広がる蟻の巣のような――思考の所為で遅れたのか。嗚呼、既にEDENは囁いている。
虫篭――夏の虫よりも灯りにやられて――心象の最中へと墜落するサマ。汝……妾は箱入り娘ではないのだが? それとも、胡蝶を違えて攫ったつもりか。そうだね、何方も正解だけれども、たぶん、間違っている部分もあると思うよ。檻であって枷でもある。そうそう、これは至極当たり前なことなんだけど。お客さんにはお触り厳禁だよ。龍だろうと、蝶だろうと、蛾だろうと、いよいよ飛び去る事なんて出来やしない。……ならば汝、壊すべきものが増えただけのこと……! 仙術、放ったところで泡沫は弾けない。その代わりに飛んできた『もの』はお忍びの|闇《つるぎ》か。……まさか、その程度の仕込みで妾を殺せると? 掴まれた。ああ、腕をがっしりと縛された。花の蜜のような汗の珠。
汝、終いだ。少しは粘ったのではないか?
うん、終わりだよ。好奇心は否定しないけど、内容がお粗末なのはいただけないね。ハッピーエンドが好まれる筈だよ。たぶん、ね。
ようこそ花弁、さようなら。
そんなことじゃ「全知」なんて夢のまた夢だぜ?
覚悟をした人間は強いのだ。
帯と共に、さあ、踊れ。
トラペゾヘドロンが転げ落ちるほどの壮絶、成程、墜ちてくれたのは蝙蝠に違いない。すいすいと撫でてやったスマートフォンとやら、見よ、何度目かの無茶が映り込んでいたのか。ぶっ……! リツ君、決死戦で腹裂けたのにこっち来ようとしてんの? シュウヤさんに怒られるなんて『もん』じゃ済まないんだけどぉ~? 笹森・マキ、可愛い後輩ちゃん達からの連絡に、ああ、頭の中がぐるぐるしそうだ。腹裂けたのに無理すんな。来たら頭ぶち抜くぞ……っと。よし! 送信!!! さて……次はあっちの困ったちゃんを助けに行くぞぉ~。ようこそ、EDENの真っ只中、マフィアの当主が引き起こした混沌の渦へ。お、やってんねぇ~! それとも、今からが本番かな? 天地はいよいよ同意となり、暗殺者、らしく飛び込んでやると愉しいか。狙いをつけて――お、随分とセクシーなお姉さんじゃん。マキも負けてられないねぇ~。発射までのカウントダウンは不要とせよ。
何方を選択する……ですか。黒槌さんとは違って、貴女は『本気』なんだよね。一ノ瀬・エミ、√仙術サイバーでも上位に位置するマフィアの当主と会話を試みるとは、やはり肝が据わっている。ほう……小娘、妾を前にして一切の動揺を見せないとは……流石はEDEN、汝も修羅場を潜ってきたと見える。ならば、賢い選択というものも理解できているのだろう。まるで『疑問』を知らない悪辣さだ。クエスチョンを投げかけないそのサマは武強主義の極みと考えられる。まず、この世界の民の命を簒奪することを選択肢に入れる方に……何かを渡したくありません。それに、結局のところ、貴女も彼と同じなのでしょう。ですから、私は諦めませんし、諦めるのは貴女の――? 問答の中での横入り、まさしく落涙。凄まじい|轟音《ドカドカドカーン!!!》とやらに両者、目眩を起こしたのか。
ひゃっ……うう……ま、眩しいよぉ……ま、まま、まだ何もしてない……って……マキさん!? 回避しきれなかった公女サマは黒焦げだろうか。兎にも角にも奇襲は大成功。これには暗殺者もニッコリピースか。失礼いたしました!!! おおっと早速だけどエミちゃん。連絡見てる暇なかったと思うし、こんだけ言っとくね。
――リツ君、生きてるよ。
へ――?
嫌な予感がする。いや、勿論、生きているだけでも十分なのだが、ああ、含みのある言の葉ではなかろうか。ざわつく脳味噌、うごめく胸中、されど今は|今《●》に集中しなければならない。……わかったよ、マキさん。あとで詳しく教えてね! 握り締めた形見とやら、ぎゅう、と、視線を『ガルガンチュア』へと向けてやれ。む……? 先程は後れを取ったが、次は『こう』はならない。それに汝ら、随分と注意散漫ではないか! 肉薄! 尻尾の嵐と共に放たれる仙術。この怒涛を抑え込まなければ『生存』はない。
絶対に! 一緒に帰るよ……!
もちろん、サポートは任せてね~!
震動、緩急を見逃してやる所以はない。魔障に続けての蒼白――幾度となく反芻してきたコンビネーション――公女サマの尾と胴体をくっつけるには上等だ。な……何……? 妾がこのような……。魔を壊すには、知るがいい、この光輝こそが狼煙なのだと。
私はもう迷わない……!
撃て! 撃った!
小娘……いや、汝のことは覚えたぞ……。
肉体面よりも精神面、蘇生したとしても大きなダメージだ。
お代官様ごっこは次にしておこう。
たとえば、果実を齧るかのような罪。たとえば、振り返ってしまう罪。数多の罪とやらの一切を冒涜する術など誰にも無いのだ。真に元に戻せないのだとしても妖魔公女『ガルガンチュア』、諦めはしない。或いは、彼女は『書』の神意とやらを信頼しているのだろうか。もう黄泉送りにしちゃったからここにはありませんよ。ええ、万が一にも『戻ってくる』なんてことはありませんから。和田・辰巳、彼方を覗き込むようにして言の葉を紡いでいく。それに応えたのは公女サマよりも前、四之宮・榴の皺くちゃであった。……返せない物は、渡せないと……先程も述べたのですが……まさか、伝達されていない……? まったく仕方のない沙汰だろう。黒衣の男は如何にも、仮初だとしても死んでいる。汝ら……あれが『黄泉』に送られたとして沈黙するとは思えない。いや、これは妾の『縋ろうとする』精神の弱さの所為かもしれないが。そんな気持ちは欠片としてない。ならば、先の宣言の通りに簒奪をしてやるだけなのだと。つまりは、こっちもいつも通り、みんなを守って勝てば良いってワケ。僕はあの妖魔の相手をしよう。榴……周りは任せたよ。信頼、これほどまでに上等な『二人組』は中々、見かけない。妖魔公女にとって二人はひどく奇怪に映るのだろうと。……是……無辜の民の命は……僕が、代わりに受けましょう。お互いの得意を覿面に使ってやると良い。まさしく、現、君達は武強主義の上位に在れ。
窮屈なのかもしれないが――息苦しくはないのだが――しかし、母胎のように扱うとは流石と謂うべきだ。視よ、民間人を一箇所に集めて金魚とした手際の良さを。水槽の中で|ご安全《●●●》と声を掛けられたのであれば、彼等、彼女等、産まれる前の歓びを味わえたのか。嗚呼、深海。このような暗黒を魅せられてしまえば妖魔公女、ほんのり目眩を覚えても仕方なし。な……汝ら……そのような、底知れない、真っ暗なところで……これならば妾に殺されていた方が楽なのかもしれない……? 積層都市に住む者がおぼえた感情。恐怖だろうか、それとも、別の何かなのだろうか。まあ、最早、如何でも良い。汝、まずは小手調べと往こうか。此方を『任せた』のだ。男の子よ、いますぐにやると宜しい。
フライングしていたのは|蛇《●》である。ある種の禁忌が這いずって、足元。妖魔公女の太腿を狙ったのか。ほう……? 毒蛇、式神の類か? されど、この程度で牽制できるとは……! 妖魔公女、目眩より復帰したところで自販機の包囲網。これには僅かに驚き隠せないご様子で、海淵流、幾つか完全には躱せなかった。……ちぃ……汝、やってくれる。それじゃあ、榴、思いっきり行くね! 果たしてマッチポンプは大成功だ。薙ぎ払われた式神の|死骸《なきがら》、これを手にしたのだから、混沌からの創世すらも容易いと。『黄泉津大神に請い願う。死者の無念を――』汝、妾相手に肉薄するのか? 良い度胸だ、小僧。前衛の務めを成せ。完遂せよ。ガルガンチュアの思考を掻っ攫うかの如くに。
互いに|必殺《●●》だ。天之瓊矛が命中したならば|根源《インビジブル》を|分解《ほど》ける。妖魔公女の攻撃を食らったならば致命は確実。ふむ……少々、面倒だな。いつ横槍が入るのかもわからない。ならば、ついでに……! 放たれたのは仙術だ。轟々と、劫々と、地面だけでは飽き足らず――やはり、柘榴を欲している。……っ……舌を、噛まなければ……僕は、大丈夫……ある意味では、目を廻すような震動は……当店の名物……。随分と厭な名物ではあった。されど、故にこそ、疑似餌として酷使されるには最適だ。……ええ、大波の中……海月のように泳ぐ事は……得意なのです……。乗りこなしてやった。この生存本能こそがオマエの切り札なのかもしれない。……さて、僕も、少し……仕掛けてみましょう。不可視。触手の行方については説明する必要もない。
お互いに心配は要らなかった。ひとつ、ひとつが必殺だとしても、これを布石にしなければ敵を倒す事など到底出来はしないと。……もう、片が付く。『御影虚造、肺腑を呪う』――不可視の触手と影色の触手。成程、両者が揃ったならば、其方かが触れれば良いのだろう。汝……汝ら……妾の想定を軽々と越えてくれる……いや、まっ……それ、やめっ……ふ、ふふふ……あはは……あははははっ……! 目を回しているなら擽ってやれ。前後不覚なんてチマチマしたもの、わざわざ、残してやるものかと。く……こ、こんなことで……! ……申し訳ないのですが……その、夜の鬼に出遭ったということで……。最早、公女サマは動けない。動けはしないのだから、あとは、ひと思いにやってやれ。
チェックメイトだ。
世界を壊す事だって、赤子の手をひねるかの如く。
地震も、雷も、火も、この一瞬ほどの最悪ではない。
積層都市が|低い《●●》事くらいは妖魔公女『ガルガンチュア』、理解しての沙汰だろう。根底、存在するのはおそらく自分自身の『強さ』の為なのだ。いや、勿論、√仙術サイバーの存続は武強主義を極める為に不可欠であり、されど、それも一種の踏み台と考えられた。そうとも、妾は、今の妾よりも強大で在らねばならない。その術が『書』に記されているのであれば――都市の無限化のついでに――貰ったって構わないのではないか。眩暈、目眩、この、脳髄へと圧し掛かるかのような、嫌な予感は何なのかと。虚空、訊ねたとしても其処には|螺旋《●●》だけが描かれている。サァイ! 貴女が噂の妖魔公女ですね! 好奇心の塊と聞いて来てみましたが……薄っ!!! 薄すぎます!!! 何がって? 好奇心がですよ! そんなんでは子猫どころかモグラですら平然とした顔で横を素通りします! それはもはや好奇心ではありません! ただの興味本位です! いや、違う。この|狂人《ファナティック》も、イザリ・ファクトリアも、目眩の原因だが『それ以上』の何かが這いずっている。答えも、応えもなく、ガルガンチュアは星をなぞるように構えて――おや、ワタシを無視するとは! 呆けているようですので、ワタシが本物の好奇心ってやつを教えて差し上げましょう! まずは「頭」をバーンっ!!! 続いて「左腕」をバーンっ!!! 文字通りだ。文字の通りに、二人の頭と左腕が爆ぜたのだ。さあ、続いてはどこが良いですか? お望みとあれば胸もいけますよ? え? これは好奇心ではなく狂気の沙汰? やかましい! ワタシの心は胸の谷間のように深いのであります!!! イザリさんは相変わらずデスネ。その吹っ飛んだ頭、はやく拾った方が良いと思いマスヨ? はっ!? そうですね! タングステンフレーム製なので粉々にはなってないと思いますが……ん? これ使い方次第では種子の発芽実験に使えません??? あとで実験してみましょう! 思いついたならば即刻行動せよ。浪漫狂いの奔走は幕開けたばかりで在れ。……さて、我輩の番デスカ。
彼方――或いは、隣人たる鋭角――カフェインでも摂ったのか、人間災厄「大君主ミゼーア」は脳髄を殴るかのようにして言の葉を走らせていた。そもそも、弔焼月・滅美に地球人類の|脆弱な《●●●》脳髄が嵌め込まれているのかなど、不明、不可解でしかないのだが。なんだろ……あいつの一人称、どっかで似たようなのを聞いたことがあるような……だったら……そうだな。親切心とやらを出してやっても、構わない……。親切心、譲り合いの精神、それを心の底から悪用してやる事こそが|社長《●●》の願い。ああ、最早、此処までの付き合いなのだから阿吽となっていても問題はないだろう。それにしても、好奇心の塊とは……欠片の間違いじゃないのか? 先程のファナティックの所為で如何にも生温く思えた。まあ、そうだな……そこまで、猫みたいに殺されたいと望むなら……不意打ちを仕掛けてやっても良いだろう。どうせ、今から『全知の書』も渡してやる予定らしいからな……【序文】も追記してやろう……。あいつの脳が、脳として機能するのか? 知ったことかよ。それに俺も……久方ぶりに少し発散したいんだ……。焼き付けてくれ、それこそ隕石が如くに。隣人はいよいよやってくる。石を投げつけたのだから、見よ、岩に潰されたって文句など、吐き散らかしている余裕もなく。――テロリストに人質は意味がないと……いや、貴女は初対面デスケドネ。はじめまして、我輩が人間災厄「統一言語」デス。
目と鼻の先に『目標』が存在していた。手を伸ばせば届くところに『全知』が存在していた。たとえ、爆破されたとしても、脳髄をアイスクリームとされたにしても、妖魔公女『ガルガンチュア』は仙術によって再生を完遂してみせた。全ては『√仙術サイバー』の為、何よりも『自分』の為、眼前のソレが災厄だったとしても、手にしてやると己に――。EDENの民には尊い犠牲になってもらう、とかでもいいんデスガ、マァ、引き換えが全知と言うならそっちでも構わないんデスヨネェ。想定外だ。或いは、心霊テロリスト相手なのだから『想定通り』の方が正しいのかもしれない。汝……それは、そういう事で、良いのだな? ええ、書の中身で良ければ引き渡しマショウカ……持ち帰れるナラネ? 代償については説明の必要なし。妖魔公女『ガルガンチュア』は覚悟の上で頷いている。……ふぅむ。イザリさんは薄いと叫んでイマシタガ、我輩は、貴女の覚悟を称賛しマショウ。では、頭を此方に委ねてクダサイ。直接、全知を授けマショウ……余すことなく、デスネ。
世界はあまりにも広大で、√はあまりにも無限で、嗚呼、ゴミ拾いをしなければ『正体』など当然暴けない。これらの殆どは|無駄知識《ざつがく》デス。貴女は雑学を好むと仰ってイマシタガ……この量デスノデ……ひとつの救済へ辿り着けるのか、如何か、それが肝でショウカ。その前に脳みそが容量オーバーで爆竹入れたトマトみたいに……おや……面白いデスネ。一頁与えても、尚、正気を保っているなんて、貴女が初めてデスヨ。頭が割れそうなほどの痛み? 否、先程の爆発を無限に味わうかのような地獄。臓腑がひっくり返り、胃液だけでは飽き足らず、ああ、口腔、散らかせそうな物の一切が――う……まだ……妾は……まだ……ゲホっ……。うーん、頑丈な脳みそデスネ。それじゃあ、次の頁に……おや、喜んでクダサイ。全知の書以外の『もの』も特別に貰えるらしいデスヨ。絶望は塔のように重なり、知識は『ひとつの√』に留まらない。対処不能災厄「√鋭角螺旋街ティンダロス」、√エ・テメン・アン・キと融合するかの如くに。ま……待て……なんじ……なんじら……わらわに、わらわは……! 捲られた「アキュートの殴り書き」、嗚呼、無情。
この文章は【全にして一、一にして全】【這い寄る混沌】【千匹の仔を随えし森の黒山羊】及び極一部限られた【もの】のみ閲覧を許可する。
仮に上記の【もの】以外がこの文章を閲覧した、又は出来てしまった場合、即刻【■■■■】を施すこと。ただし、その【もの】が上記の【もの】として覚醒・変質などしていた場合は【■■■■】を施さなくてもよい――この部分だけでも十分だ。既に開かれた『全知の書』によって解釈が拡大され――より、混沌とした、含蓄とやらがされてしまう。A.Z.T.S、魔王、痴愚神は未曾有を枕として、夢を見る。
鈍角の次元……角なき奴らに呪いの声を……赤子の赤子……ずっと先の赤子まで……。
√鋭角螺旋街ティンダロスの|住民《ばけもの》どもが咆哮する。咆哮し、大君主の命ずる儘に、角という角を移動していく。全知の書なんて覗いたから『こう』なるのさ。お前如きがまともに……いや……そもそも、まともに読める奴なんざ居ねぇか……さっさと潰れて死んでくれ……きっと『クソジジイ』も宙から見てるだろうしな……。
……く……くくく……ははははは……だが、これで『無限性』は証明された……妾は……そう……わらわは……たとえ……ふ、ふふふ……。
焦点が合っていない。涎が溢れている。脳髄が沸騰し、混沌の泡、カタチを保てない。だが、そうとも、神様が慈悲を与えてくれたように。この灰滅は……赫は……。
おう、終わったな……イザリは何やってんだ。
サァイ! 種子が爆ぜても問題ないケースを作るのですよ!
あの簒奪者、思ったよりも……いえ、何でもありマセン。二人とも、帰ったら実験の続きをしまショウカ。ああ、滅美さん、全知の書がアキュートの殴り書きを写したと思われマス。あとで解読してみマショウ。
……イザリは読むなよ?
それはフラグですね!!!