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悪戯なショコラ ~光輝~

#√ドラゴンファンタジー #ノベル #バレンタイン2026 #悪戯なショコラ

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クラウス・イーザリー
ジェイド・ウェル・イオナ・ブロウクン・フラワーワークス

 ふたりで交換した、あのチョコレートシガレットより甘いものなんて、きっとこの世に存在しないだろう。

「イーザリー先輩、寒くない? 好き」
「うん、平気。ジェイドこそ。好き」
 口を開けば愛の二文字が追いかけて来る。
 クラウス・イーザリーは常日頃から「好き」と想いを言葉にしていることもあってか、さほどの動揺は見られない。むしろジェイド・ウェル・イオナ・ブロウクン・フラワーワークスからたくさん「好き」の言葉が降りそそぐのが嬉しいくらいで、終始笑みが浮かんでいるほどだ。
 オーロラが見たいと言い出したのはジェイドだった。
 北欧は息を吸えば肺から凍り付きそうなほど外気は凍てつき、骨身に染みるほどの寒さだったが、それもクラウスとくっついていれば忘れられる。
 未熟な小さき魔女がまじないをかけたチョコレート。好きが飛び交う大混乱のティーパーティーを抜け出したふたりは、日が暮れるまで人気のない温室で過ごした。枝葉を伸ばした大きな木の翳りの許、ベンチで肩を寄せ秘め事のように言葉を交わし合う。
「まさかこんなに早く実現するなんてな。好き」
「そうだね。なんだかちょっと妙なことに巻き込まれたけど。好き」
 自分の意思とは関係なくついてくる想いの二文字は、思っているより破壊力がある。挨拶のように軽やかだけれど、それでもクラウスの言葉にはきちんと想いが込められていることを知っているジェイドは、はじめこそ自分の口元を抑えたり、唇を引き結んでみたりしたが魔法に抗うことはできなかった。
 けれど、クラウスがこんなにも嬉しそうにかわいらしく笑ってくれるなら、まぁいいか、と思ったのも本当で。
(だからと言って、全くの平気って訳でもないんだよなぁ)
 自分のキャパシティがそろそろオーバーしそうなのは、きっとその瞳が真っ直ぐに自分を見つめてくれているからだろう。灰にけぶった髪に隠れた耳はすでに赤くなっていた。

 オーロラが現れたのは、とっぷりと日が暮れた頃。
 ふたりは白樺の森をすこし散歩して人気のない湖畔にテントを張った。魔女姉妹から借りた保温ポットでマグに熱い飲み物を淹れ、分けてもらった軽食を食みながら、ふたりごろんと空を仰ぐように横になる。
 冬の寒さが溶けだしたような、あるいは冷たい空気の流れが可視化されたような青い光が空いっぱいに揺れていて、時の流れが止まったかと思うほどにそれはひどく曖昧だ。光がゆらゆら揺蕩うのをただぼんやりと眺めているだけなのに、それがむしょうに嬉しかった。
「綺麗だね……」
 感極まったクラウスの言葉には、もう想いの言葉はくっついていない。
 異国へ赴いたことは初めてではなかった。どれも辛く苦しい戦いばかりで、気が休まるような時間などはなく、いつだって目まぐるしくて。だからこそジェイドとこうしてただの旅行が出来ている今この瞬間を、なによりもいとしく思う。
 ジェイドがそんなクラウスの横顔を盗み見て、双眸をやさしく細めて笑っているなんて露知らず。
「俺、いまとっても幸せだ」
 クラウスは首を巡らせると、ジェイドを見て相好を崩した。
「ジェイドからいっぱい好きって言ってもらえて。それから、こうして一緒にオーロラを見ることが出来たから」
 こんな日が来るなんて思いもしなかった。降りそそぐ極光に洗われたクラウスの瞳には溢れんばかりの多幸が滲んでいる。己がクラウスにとって大きな存在になれていることが、ただただうれしい。
 好きの二文字がなくても、ジェイドのこころはよろこびで震える。絡めた指先から伝わる彼の熱を、喪いたくないと思った。

「あ、チョコレート」
 分けてもらった食材の中に、ひとくちサイズの包み紙が交じっていた。開くとそれは、ティーパーティーで目にしたような形をしていて、ふたりは目配せをしあう。これを食せば、また小さき魔女のまじないにかかるのだろうか。
 焼いたマシュマロをビスケットと一緒に挟んだスモアを作ろうとしたのだが、さて。
「まぁ身体に害はないみたいだし、いいんじゃないかな」
 何の抵抗もなくクラウスがマシュマロを炙り、チョコレートと一緒にビスケットに挟む。それを頬張ろうとした手を、ジェイドはやさしく掴んで、抑えた。
「待って」
「どうしたの?」
 ジェイドは小さく呼気すると、地上に揺らめく火と、宙のオーロラへとゆっくり視線を滑らせ、それからクラウスを見た。眼差しは真っ直ぐに。
「イーザリー先輩。一緒に来てくれて、隣にいてくれてありがとう。だいすき」
 ぱちぱちと瞬きを繰り返したクラウスは、雪がとけるようなゆるやかさで心に染み渡ってゆくジェイドの言葉を反芻して、それから。
「うん……うん、大好きだよ、ジェイド」
 咲きこぼれる花のような微笑みを浮かべてみせた。そうしてふたりはそっと額を重ね合わせて、くすくす笑い合う。
 やっぱり魔法の言葉より、彼自身の言葉がいちばんうれしい。

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