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茶治・レモン
野分・時雨
リュシル・フロスティア


 お洒落なテナントビルの一角で、軽やかに跳ねるような足音が響く。

「わぁい、たくさんのチョコやラッピングがいっぱいなの!」
「どれも美味しそう……!」
 期待に胸を弾ませた二人——リュシル・フロスティアと茶治・レモンが吹き抜けを見下ろせば、落下防止の柵越しに見えるはチョコレートのセレクトショップで。地下二階にはラッピング用品が、地下一階にはチョコレートが所狭しと並んでいるようだ。
 ここは既製品以外にチョコもラッピングも一から自分で選べるらしく、今日は三人でプレゼントし合おうと……あれ、三人?
「そこの白い小さきもの二人ー、ぼくを置いて先にいかないでください」
「ほら時雨さん、ダッシュダッシュ!」
「ふふ、時雨おにいさん、はやく~♪」
 二人の様子に和んで後方保護者顔していたせいで、すっかり出遅れた野分・時雨も合流して。

「僕は時雨さんに」
「ぼくはリュシルちゃんに!」
「わたしはレモンおにいさんに」
 それぞれ贈る相手を再確認したら、チョコを求めていざ出陣!


 中身は内緒とはいえ、やはりリサーチは大事なので。

「リュシルちゃん苦手なものとかない?」
「にがてなもの~?」
 早速動き出した時雨に問われ、リュシルはきょとりと視線を巡らせて。うぅんと考える様子が可愛らしく、それを見る時雨の涼やかな眦も柔く緩んでいく。
「たぶんないのよ~、チョコレートはあまいからぜんぶすきなのよ」
「甘いものならだいじょぶ、と。おっけい!」
「ふふ、時雨おにいさんのプレゼント、たのしみなの」
 その言葉にニカッと明るい笑みを浮かべると。
「お任せあれーですよう!」
 頼もしい言葉を残して離れていく時雨に手を振り、リュシルの視線は再び店内へ。たくさんのチョコはわくわくするけれど、選ぶとなると迷ってしまうもの。
(どうしようかなぁ~)
 悩みながら歩いていると、展示テーブルを挟んだ向こうに真白の少年を発見! こちらに背を向け立つ姿を、リュシルはじっと観察してみることにした。
(レモンおにいさんはやっぱり『まほうつかい』のイメージなのね。あとは、まっしろ、れもんいろ……ネコちゃんもすきだってよくきくの)
 小さな手で指折り数えながら、思いついたものを頭の中で並べていく。あとはイメージした形のチョコを探すのみ!

(……ふふっ。僕に選んで下さってるんですよね!)
 背後から熱い視線を感じ、そっと後ろを確認。すると熱心に悩む可愛い姿が見えて、レモンの働かない表情筋が僅かに緩んだ。このままじっと見ていたいけれど、ネタバレは良くないので。
(僕育ち盛りなので、なんでも食べますのでご安心下さいね!)
 薄目で見守りながらそう念を飛ばすに留め、視線を目の前のチョコに戻して。
 さて、時雨といえばお酒!
 ……だが、未成年のレモンが酒に詳しいはずもなく。
「——じゃあいっそ、猫のチョコレート?」
 天啓のように浮かんだそれを、ぽつり独り言ちたその時。
「猫って聞こえた気がしたんですけど」
「やめて来ないで、あっち行ってて」
「そんなこと言うともっと見ますよ。なに~なにくれるの~」
 ちょうど様子を見に来た時雨に付き纏われ、レモンは持っていたトレイでブロック! とはいえウザ絡みも塩対応も、お互い気の置けなさからくるもので。
「念のために聞くんですけど、猫と酒ならどっちが良いですか?」
「お菓子の話? 酒かなぁ。猫さん苦手ですけど、食べるのはなんかかわいそうじゃん」
「えぇでも、可愛いと食べたくなりませんか?」
「そりゃあモッ……はしたくなりますけど」

 結局、時雨が泣いちゃうからと猫は封印してあげたようだ。


 その頃リュシルはというと、ラッピング用品コーナーをトコトコ歩いていた。
 檸檬やリーフ型のホワイトチョコの他、猫と肉球モチーフのチョコ。観察して決めたそれを思い描きながら、どんなケースに詰めようかと眺めていると——。
(これはまほうじん? じゅもん?)
 雰囲気たっぷりにディスプレイされた、ブック型ケースが目に留まる。表表紙と裏表紙には魔術理論の一説や魔法陣が描かれており、分厚い魔導書のような装丁になっていて。
「……ん? このイラストなんだかマンドレイクさんみたい」
 マンドレイクといえば茶治・レモン。
 大鍋堂では常識らしいそれを背表紙に見つけ、リュシルの瞳が楽しげに緩んでいく。
(ケースはこれで、ラッピングはどうしよう?)
 せっかくの本のデザイン、その可愛らしさを活かさないと勿体ない!
 幅広の白いリボンをシンプルに結ぶとして、何かもう一つ欲しいところ。
「じゃあ、さっき見つけたレモン型のカードをそえて……かんせい~♪」
 彼の人を思わせるような仕上がりに大満足!
 渡した瞬間を想像して、弾ける笑顔が飛び出したのだった。


 ところ変わってこちらはその白い魔法使いの少年。
「日本酒に合うチョコレートとかもあるんですね」
 どうやら時雨が食いつきそうな物を見つけたようだ。希望者にはペアリングカードも付けてくれるらしく、そこには『ビターチョコには純米吟醸、ホワイトチョコにはにごり酒』などの文字が並んでいた。
 更には隣のワインボトルの形をした、洋酒入りのリカーチョコもチェックして。
 この二つをメインにと決めたら、お次はラッピングコーナーへ!
(やはりシックに、ダークで四角い重厚そうな箱が良いでしょうか)
 ダークマホガニーを思わせる箱を開ければ、中に鎮座するのは大人のチョコレート……想像したそれは落ち着いたバーのカウンターのようで。
「すごい! 高級感を感じる!」
 その雰囲気にレモンのテンションは上がっていく。
(あとは時雨さんのイメージ色と、挿し色も欲しいな)
 光沢のある緑のサテンリボンを手に取り、ラメの入った金の胴巻き包装紙の上からキュッと結んで。最後にその出来映えを確認すると、思わず満足そうな吐息が漏れたのだった。


 さてさて、最年長で甘いもの苦手な時雨の進捗は?
「いやぁ、選ぶとなると新鮮ですねぃ!」
 綺麗なキラキラが似合いそうなリュシルにと、あちらこちらへ視線を飛ばしては、こっそり少女と見比べ頷いて。
 そんな中で見つけたのは、星雲を閉じ込めたようなマーブル模様や、夜空に星を鏤めたようなチョコ。宝石みたいなそれは一粒ずつ味も違うところもまた楽しい。
「リンゴやキャラメル、ピスタチオ……いいな。これにしよっと!」
 さあ最後の仕上げ、ラッピングにもこだわりを。リュシルに似合うと自信持って選んだ宝石チョコなのだから、わくわく感も徹底的に!

 そうしてラッピングコーナーを巡ること数分。
 時雨は新たな扉を叩いていた。
「——可愛いもの選ぶのめちゃくちゃ楽しい……」
 立ち並ぶ『ゆめかわメルヘン』な世界に誘惑されながら時雨が手に取ったのは、くるくる回るメリーゴーランドが描かれた真白のデザイン缶。それを優しく箱に入れ、周りには金や銀の雪結晶が輝くものを飾りつけて。最後に銀糸煌めくリボンで可愛く結べば。
「……あまりにかわいい……天才かもしれない」
 完成したプレゼントを前に、はわわ、と口を覆って自画自賛。


「チョコえらび、とってもたのしかったの!」
「開封するのが楽しみですね!」
「ぼく、心がプリンセスになっちゃったかも」
「えっ」
「えっ」
 ——プリンセス時雨が爆☆誕したかはさておき。

 相手を思い、選び集めたチョコレート。
 この続きは【大鍋堂】で!

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