鏡に向かって決めポーズ! でも本当になんて聞いてない!
●鏡に向かって決めポーズ
「こんな感じかな」
華麗に決めポーズを取る少女の名前は|高橋《たかはし》・|美紀《みき》。黒髪をボブカットに切りそろえた可愛らしい少女だ。
「どんな敵でも、華麗に撃退。マジカル☆ミキ! ……なんて」
魔法少女ものが好きで自分でもポーズを決めて決め台詞まで放っちゃう。
「もう中学にもなって魔法少女だなんて、恥ずかしいよね」
「そんなことありませんよ」
そういって苦笑する美紀に教会と言う場所を与えているシスターが微笑む。
「きっとあなたの心は明るく澄んでいます。きっとあなたもヒーローになれますよ」
「い……いやぁ、本当にヒーローになりたいわけじゃ……」
そう照れる美紀。
しかし、彼女が本当にヒーローになる時は、すぐそこまで迫っているのだった。
●でも本当になんて聞いてない!
「みんな、|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》のことはもう聞いた?」
そういって、EDEN達に呼びかけるのは星詠みのヨーキィ・バージニア(|ワルツを踊るマチルダ《ワルチング・マチルダ》・h01869)だ。
天啓的な予知を得て、その内容を伝えることができる√能力者である星詠みがこう前振りをしたからには、つまり、それに関わる事件が起きた、と言うことだ。
「|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》は√マスクドヒーローで起きてる事件で、子供達が男子女子問わず魔法少女に覚醒してしまう現象の事を言うらしいんだ。それだけなら、まだしも、魔法少女が現れるとそれと対になってその心を狙う怪物『デザイアモンスター』が現れるみたいなんだよ」
その現象そのものはずっと昔から起きていたらしい、とヨーキィは語る。
「これまでは、子供達を守るために造られたメカ『ロボトロン』達が、デザイアモンスターを退治してきたみたいなんだけど……」
どう言うわけか、最近、|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》が大量に発生し始めたらしい、とヨーキィは続ける。
「それと並行して、ヨーキィちゃんみたいに星詠みの予知に引っかかるケースも発生し始めたみたい」
罪なき人が傷つけられる可能性があると言うなら、それを放置できるはずはないよね、とヨーキィはEDEN達に視線を投げた。
「今回、|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》で覚醒してしまうのは、|高橋《たかはし》・|美紀《みき》ちゃん。中学二年生だよ。
優等生タイプの女の子なんだけど、実は密かに魔法少女ものが大好きで、行きつけの教会でこっそりと決めポーズの練習をしたりしているみたい」
とヨーキィは魔法少女になってしまう少女について説明する。
「いつも教会で決めポーズの練習をしてるみたいだから、コンタクトを取るのは簡単。教会に行って、それとなく接触してみて」
そのあとは、教会の中で美紀は魔法少女へと覚醒するようだ。
「そうなれば教会の礼拝堂の中で、デザイアモンスターとの戦闘になるよ。幸い寂れた教会で、美紀ちゃんとシスター以外に人気はないから、人の被害の心配はいらない。美紀ちゃんを守るため、思いっきりやっちゃって」
もちろん、教会への被害を気にしながら戦っても良い。そこは√能力者達の自由だ。
「それが終わったら、なんだけど。おそらくデザイアモンスターを狙っていた怪人が姿を現すはずなの」
だから、それを撃破する必要があるよ、とヨーキィは説明する。
「それが終われば事態は収束。終わりだよ」
「まとめると、美紀ちゃんに教会で接触、デザイアモンスターを倒す、怪人を倒すってこと。新しい事態ではあるけど、やることはシンプルだね」
美紀を守るため、出撃の時だ。
第1章 日常 『キメポーズの練習!』
「魔法少女って、テレビとかの話じゃなかったんだ」
星詠みの予知を聞いて思わずそう呟くのは好奇心旺盛で元気一杯の小柄な女の子、エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)だ。
「……でも、冷静に考えたら、あたしもある意味魔法少女?」
そんなことをふと思う。
「精霊魔法とか魔力砲撃撃っているし……。どーなんだろ?」
魔法を使うから魔法少女なのであれば、エアリィも魔法少女であると言えるだろう。
「ふむ、古びた教会? 思い出の場所なのか単に人が居ないから使っているのか……」
その隣で、同じく星詠みの予知を聞いてそう思案するのは電子よりも小さい極小物質『ナノ・クォーク』により構成された生態型情報移民船である真心・観千流(最果てと希望を宿す者・h00289)だ。
「……その辺も探りつつ接触しましょう!」
そう心に決めて、観千流は√能力『|量子観測・事象確定《ルート・コンファーム》』によって自身の存在を不変の真実とすることでその存在を確かなものとしつつ、エアリィと共に魔法少女候補である高橋・美紀との接触を図るために教会へ向かう。
「どんな敵でも、華麗に撃退。マジカル☆ミキ!」
教会に辿り着いた時、美紀はちょうど、変身ポーズの練習をしているところだった。
「え、お姉さん、魔法少女なのっ!?」
それを見て、驚いた様子で美紀の元に駆け寄るのはエアリィだ。
「かっこいーっ!」
「え、そ、そうかな……、って私は……」
十一歳という年齢であるエアリィは中学生である美紀とそう年が離れているわけではないが、137.8cmと小柄な姿ではしゃいで駆け寄るその様子は美紀には実際より少し年下の少女と映った。
だから、「って、私は本当は魔法少女ってわけじゃ……」と言いかけて、言い淀んだ。少女の夢を壊したくない、と感じたからだ。
「あたしもやってみたーいっ! どうすればいいの?」
そうしてどう対処したものか困惑している美紀にエアリィは畳み掛ける。
「ど、どうって……ただ、鏡に向かってポーズを決めて決めセリフを言うだけだよ」
「ふむふむ……」
エアリィがなるほど、と頷いていく。
「あなたも魔法少女が好きなの?」
「うん」
美紀の問いにエアリィが元気よく答える。
「お二人とも魔法少女がお好きなんですね! 私も超オタクですよ! ニチアサ歴代全部見ました!」
そんな話題になったところに、すかさず観千流が教会の中に入ってくる。
「うわ、びっくりした。え、ニチアサ歴代全部? それはすごいね」
美紀は素直に感心していた。魔法少女好きを辞任する美紀であるが、世代ではない魔法少女モノまで全てを網羅している自信は無い。
観千流の高い学習能力の賜物である。
「どれを見ました? 是非お話しましょう」
その豊富な会話デッキを駆使して、観千流は雑談をして、美紀との友好を深めていく。
「魔法少女がこの辺りにいるかもと聞いて探しにきたにゃ」
その途中で、一匹の猫が教会を訪れる。
√ウォーゾーンの人間である森屋・巳琥の母親を自称する不審猫、森屋・虎狐(こねこねこ・h03129)だ。
「魔法少女になるにはどんな心意気が必要と考えるにゃ?」
「え、えーっと……」
猫が喋っている驚きよりも前に、突然の質問に、美紀は言葉に詰まる。
魔法少女は憧れではある。だが、心意気、とは。
「安心するにゃ。|魔法少女《ヒーロー》への気持ちを貶す様な奴はここには居ないニャ」
参考という建前で、虎狐は美紀から魔法少女になる覚悟を尋ねるつもりだった。
「じゃあ、聞き方を変えるにゃ。魔法少女になれたら、どうしたいかにゃ?」
「どうしたい……」
真剣な表情で、美紀は思案し始める。
(「多分ミキは覚悟なしに覚醒する事になると思うので、混乱しないよう話を持ってきたいにゃ」)
茶化したりふざけるのではなく、真剣に思案する。この時点で、心意気は十分かもしれない。そう考えつつも、虎狐は美紀の答えを待った。
「私が魔法少女になったら、人を助けたい。困っている人が一人でも目の前にいたら、その人を助けたい」
「いい言葉にゃ。その言葉、くれぐれも忘れることなきようににゃ」
そう言って、虎狐は美紀のそばから、まるで気まぐれな猫のように歩き去って、√能力者達の側に近寄る。
「……ところで防衛対象にシスターが含まれてないので、警戒に越した事はないかも、かにゃ」
「同感です。私もGazerを併用し教会とシスターについて調べます」
観千流がその言葉に頷く。
ナノ・クォークの観測装置である三種のGazerを操って、シスターと教会について調べつつ、観千流は美紀に問いかける。
「ところで、どうしてこの教会に? 何か思い出の場所なんですか?」
「ううん、そういうわけじゃないの。シスターとは魔法少女好き仲間で。家だと魔法少女のポーズを取るのも恥ずかしくてって話をしたら、ぜひ教会で、って言ってくれたの」
「なんと、魔法少女好き仲間でしたか」
それは良いことですね、と観千流が頷く。
(「Gazerがなかなかシスターの情報を得られません。のほほんとこちらを見ているように見えて、隙がないですね」)
その時点で却って怪しいというモノだが、証拠がない以上、美紀を連れ出すのも難しい。
(「もし危険があれば美紀ちゃんを連れ出したいですが、初対面の人間が下手に誘導するのも不自然ですし適当な理由をつけて彼女のそばにいましょう」)
そう、それは「過去の自分」を欠落している観千流が天使事変で学習したこと。
(「魔法少女現象、妙にデジャブを感じるんですよね。果たしてどう転びますか」)
ごく少数だった例が突如として頻発する、と言葉でまとめると、√汎神解剖機関で起きた天使化事変と、|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》はよく似ている。
観千流は警戒する気持ちを隠せなかった。
「せっかくなので思い切ってやってみようかなー。ええと、決め台詞もいるんだっけ?」
どうやら、観千流もまだ有効な情報を得られていないらしい、と気付いたエアリィは、注意を自分に向けるためにも、そう言って鏡の前に移動した。
全員の注目が自然とエアリィに集まる。
「どんな困難もあたしにお任せっ♪ エレメント・エアリィ、参上っ!」
くるっと回転して腕を上に伸ばして、エアリィが宣言する。
「これ、たのしーっ♪」
と上機嫌な、エアリィ。しかし、これだけではまだ注意逸らすには足りない、と観千流がGazerから得られる情報を分析する。
「私ももう一回やろ。マジカル☆ミキ! どんな時も笑顔で……」
そう言って、美紀がポーズを決めた直後。
「そのポーズ、百点満点中…五十点! ネーミングが安直ね」
そう言って一人の少女が教会の入り口で仁王立ちしていた。
その姿はどうしても魔法少女。
「誰?」
「かわいい。かっこいい。絶対強い! 正義の魔法少女―—シスター・ジャスティス!」
美紀の問いにシスター・ジャスティスが薄紫色のマントを翻し、白金の魔力を放つレイピアと、精緻な銃をそれぞれ手に持って、堂々と返事をする。
そう彼女こそはシスター・ジャスティス。プラチナ・ポーラスタ(『|正義《ジャスティス》』の|魔法少女《タロット・シスターズ》・h01135)だ。
「どうだ参ったか」
√能力『|【超越】秘めたる覚醒《マジカルガール・オーバードライブ》』によって高められた魅力が美紀を正面から魅了する。
「美紀に足りてないもの……それはコンセプトね」
「ほ、ほう」
故に、真正面からのその指摘も、美紀は傾聴せざるを得なかった。
「私だとタロットという明確なものがある。何の魔法少女になりたいのかイメージしなきゃ。そしてキャッチコピーよ」
「た、確かに。私は漠然と魔法少女としか考えてなかったかも」
「でしょう? 必殺技? その前に武器と通常戦闘スタイルよ。もっとイメージを膨らませなさい」
そう言って、シスター・ジャスティスは美紀の相談に乗り始めた。
「うーん、魔法少女以外だと、星空を見るのが好きだから、コンセプトは星とかどうかな?」
「へぇ、じゃあ武器は何かしら?」
「うーん、星っぽい武器……」
全員の感心が美紀とシスター・ジャスティスに向かっている。
「ダメ押しで私も。精霊達よ、あたしに力を」
その隙に、こっそりとエアリィは√能力『|精霊交信《エレメンタル・コンタクト》』を発動。精霊召喚により、インビジブルを闇の精霊として召喚し、姿を隠したまま、√能力者達と会話可能にする。
そして、観千流がGazerから得た最新の情報と闇の精霊の得た情報を統合すると一つの結論が出た。
(「このシスター、怪人の類ですね」)
つまり、どこか『プラグマ』傘下の組織に属する存在。恐らく、魔法少女となる美紀とそして、デザイアモンスターを狙っていると思われる。
だが、その警告を美紀に発するより早く、デザイアモンスターは現れる。
第2章 集団戦 『デザイアモンスター』
突如、高橋・美紀の体が輝き始める。
「え、な、何、何これ!?」
困惑する美紀をよそに、|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》は待ってくれない。
輝きが消えた美紀の姿は星の意匠を取り込んだ魔法少女らしい服装に変わっている。
「な。何が起きてるの……」
消えない困惑。
しかし、もう一度言おう、|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》は待ってくれない。
「ググググググググ」
美紀の心を狙って、異形の怪物『デザイアモンスター』が突如として教会を囲うように出現し、教会に侵入してくる。
「な、なんなの!?」
さらに美紀の困惑は深まる。
けれど、そこで、美紀は先程の猫とのやりとりを思い出した。
『私が魔法少女になったら、人を助けたい。困っている人が一人でも目の前にいたら、その人を助けたい』
『いい言葉にゃ。その言葉、くれぐれも忘れることなきようににゃ』
そうだ。自分がもし魔法少女になったら、人を助けたいのだ、と美紀は思い直す。
もし、自分の今の姿が自分が魔法少女になったことを意味するならば。
自分の背後で怯えている——ように見えるだけだと調査をしたEDEN達にはバレているが——シスターのためにも、戦わなければ。
「こ、こい、化け物!」
美紀が手に持っていた何かを構える。
それは——。
「何これ、天球儀!?」
金色に輝く天球儀であった。
「こ、これでどうやって戦えばいいのーー!?」
強力な魔法の力を持ってはいるようだが、まだ美紀は覚醒したばかりの少女。
導くか、あるいは守るか、どちらにせよ、彼女を放っておけば、デザイアモンスターに食い殺されるばかりだろう。
(「黒確、しかし今は目の前の脅威ですね」)
シスターが怪人であるのは確定。しかし、今ここで、シスターのことを告発しても、高橋・美紀に無用の混乱を与え、最悪の場合信用を失ってしまう。
そう考えた真心・観千流(最果てと希望を宿す者・h00289)は、あえてシスターについては言及せず、現れた敵、『デザイアモンスター』に視線を向ける。
(「強い魔力が……? ……考えるのは後だね」)
一方、エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は別のことを感じていた。
それは、美紀の発する魔力。明らかに高い魔力。しかし、その出所を探る時間はない。
「おねえさん大丈夫。しっかり守るから」
そう言って、エアリィが金色に輝く天球儀を片手に困惑する美紀に語りかける。
「え……?」
「だから……。その天球儀と心を通わせて。おねえさんの意思から生まれたものなら、きっと力になってくれると思うからっ!」
「美紀がすべきことは自分のイメージを固めること」
まだ困惑している様子の美紀に、プラチナ・ポーラスタ(『|正義《ジャスティス》』の|魔法少女《タロット・シスターズ》・h01135)ことシスター・ジャスティスが語りかける。
「星の魔法少女は何と名乗るのか。ただ護るだけなのか、それともいかなる地平を目指すのか。それが見えれば、自ずと天球儀の扱いは分かるわ」
「いかなる地平を目指すのか……」
自身の天球儀を見て、美紀が呟く。
「その時間は……。しっかり稼いでみせるよ♪」
「えぇ。時間は稼ぐから安心なさいな」
そう言って、エアリィとシスター・ジャスティスが地面を蹴って、一気にデザイアモンスターに向けて突撃を開始する。
エアリィは、セレクター機能での威力調整機能付きの小型の精霊魔力銃たる精霊銃『エレメンタル・シューター』を乱射しながら、一気に美紀を脅かす喫緊のデザイアモンスターに肉薄し、刃渡り五十センチメートル程の精霊の力を秘めた魔力剣たる精霊刃『エレメンティア・ティアーズ』で以て両断する。
シスター・ジャスティスも使い手の精神力を魔弾に変換して放つ精緻な銃、『霊銃』Sister's Highで牽制射撃しつつ、やはり美紀を脅かす喫緊のデザイアモンスターに肉薄する。
敵の攻撃は華麗に正義を司る優美なレイピア、『凛剣』Platinum Heartで受け流し、デザイアモンスターを切り伏せる。
美紀の初陣のため、二人はあえてトドメを刺しきらず、美紀に近づかせないだけの戦いに留め、空中を蹴るように、美紀の側に戻ってきて、守りを固める。
「さて、それじゃあたしも……。六界の精霊達よ、我が身に宿りて新たなる力になれ……。魔法少女姿に変身っ♪」
エアリィは√能力『|精霊翼展開《エレメンタルドライブ・ウイング》』を発動し、三対の魔力翼を持つ魔法少女の姿へと変身。世界樹の双刃を手に、縦横無尽にデザイアモンスター達を撹乱する。
「さぁさぁ、まだまだあたしは元気だよっ! おねえさんには手を出させないから!」
「みんな……すごい、私は……何が出来るだろう……。やっぱりこれで殴る?」
天球儀を見て悩む美紀。
「勇ましいのは良し! ですが付け焼き刃は時に丸腰より危険ですよ」
短絡的な選択をとりそうになる美紀を観千流が止める。
「覚醒して力を得ても何ができるのかは確かに不安になるにゃ」
森屋・虎狐(こねこねこ・h03129)がそんな美紀をフォローする。
「天球儀にゃと、索敵か感覚か、一部カッコ物理なのもいるけど、ミキは戦闘でない方面で力になれそうな気もするにゃ」
「戦闘じゃない方向。そういうのもあるよね、うんうん」
確かに、と美紀が頷く。
「星を詠み、情報を収集するのも「人の助け」の一つにゃ」
「星を、詠む……」
「天球儀と言うことは重要なのは星の輝き星の並び。現在の星図から美紀ちゃんが効率的に力を引き出せる式を算出、操演の共振による限界突破を交え、共に天球儀を握って一撃入れてやりましょう!」
「カッコ物理をやりたがる人もいたにゃ」
観千流が計算を始める。
「ここらにデザイアモンスターが出たと聞いたのです! え、聞いたような流れですか?」
そこへ、虎狐をAnkerとする√能力者である森屋・巳琥(人間(√ウォーゾーン)の量産型WZ「ウォズ」・h02210)が駆けつけてくる。
「事情は大体分かりました。美紀さんの護衛ですね」
素早く事情を把握した巳琥が頷く。
「基礎訓練もなしの実戦は戦死不可避ですから。力の扱い方とこれからの在り方にじっくり向き合う為にも、まずはここを切り抜けましょう! 生き抜ければ割となんとかなるものなのです」
「う、うん」
小柄かつ明らかに自分より年齢の低い巳琥からさらりと告げられる過酷そうな言葉に、美紀は、しかし、頷く。
これは妄想の魔法少女ごっこじゃない、本物の魔法少女と怪物との戦いで、気を抜けば死ぬのだ、と、それはエアリィとシスター・ジャスティスの戦いを見れば、嫌でも分からされた。
(「屋内でWZをぶん回しするには少し破壊が過ぎますので美紀さんの想い出? の為にも控えておきましょう」)
√間交流で得た強素材を改良した複層の追加装甲であるドラゴンガーターをシールドに、暗器使用も可能な取り回しの良い自動拳銃、B-WZ-Vulcanを構えて、美紀へ接近する敵を阻む盾役を務める。
「さて、ミコも来たし、私はせめてシスターを見張るにゃ」
「あ、ココさん皆との連携の為に牽制でいいんで手を貸してください」
巳琥が虎狐の首根っこを掴んで√能力を発動する。√能力『|魔導応援召集《ネコノテモカリタイ》』。
それはAnkerを魔導戦闘形態へと変身させ、空間跳躍を併せた魔力射撃を行えるようにするもの。
「なんかミコが不穏な能力を覚えたにゃ」
猫サイズの魔女帽マントを羽織った人間姿になった虎狐が呟く。
「イグニッションカードは使えないので全力は無理だけど、求めるなら出来る範囲で手を貸してあげるにゃ」
そう言って、虎狐もまた、射撃で援護を開始する。
(「それにシスターがミキに近づき過ぎない程度に護衛するのに力あるのは好都合にゃ」)
「準備はオッケーです!」
観千流が計算結果を美紀に伝える。
「待ってたわ! 輝く正義の鎖よ。秘めたるを暴き、悪しきを捕らえろ!」
シスター・ジャスティスが正義のオーロラタロットを媒体として、複合魔法を放つ。
白金に輝く魔力の鎖が実体化して、デザイアモンスターの動きを止める。
デザイアモンスターはシスター・ジャスティス、エアリィ、巳琥の協力によって一所に集められていたため、まとめて捕縛するのは容易だった。
「主役はマジカル☆ミキだもの。トドメは譲るってものよ。どんな技を見せてくれるかしら」
「美紀ちゃん、技名はそちらに任せますよ! 細かい事はこちらてやるので、勇気を持って踏み出してください!」
観千流による√能力『|頂きへ届け、天上の歌《ルーフェン・ラインヴァイス》』をも使った万全の支援の元、美紀の天球儀に美紀の魔力が収束していく。
「天球よ! 邪悪なるものに天罰を! 堕ちて、空のかけら達! シューティング・スター!!」
天球儀が輝き、そして、空が夜空へと変わる。
直後、空が煌めき、無数の輝きが地上へと降り注いだ。
そして、輝きが晴れた時、そこにはデザイアモンスターはおらず、ごく小さなクレーターが残るのみであった。
「あ、あっちゃー。教会の天井壊しちゃった……」
美紀は自分の力への驚きと、あるいは恐怖で、声が震えていた。
「ご、ごめんね、シスター」
震えながら、美紀は怯えていたはずのシスターに振り向く。
「いいえ、素晴らしいですよ、美紀さん」
そこにいたのは、祈るようなポーズで美紀を讃えるシスターの姿であった。
第3章 ボス戦 『ドリアード怪人娘『シスター・イルフィア』』
「え、し、シスター?」
怯えているはずじゃ、と高橋・美紀が困惑を隠せずにシスターに近寄る。
が、それより早く、EDEN達が美紀とシスターの間に立ち塞がる。
「あら、この素早い反応は……どうやら、気付かれていたみたいですね」
ニコリと微笑むと、背中から無数の蔓が触手のように出現する。
「し、シスター……だよね?」
「はい。美紀さんのよくご存知のシスターですよ? シスター・イルフィアと申します」
その蔦を操る様子を見れば、怪人であることは明白。どこかの「プラグマ」傘下の組織の怪人だろう。
「みんなの反応を見れば分かるよ。シスター、敵だったんだ……」
「敵、だなんてそんな。美紀さん、私はシスターとして善行を成すのみです。今回もあなたとデザイアモンスターの力を手に入れて、『テンタクルーズ』の力にしようと思っていただけなんですよ?」
美紀の言葉が理解できない、というように、イルフィアが首を傾げる。
「私に優しくしてくれたのも、その力が欲しかったからってこと?」
「はい。ゾディアックサインの導きに従って、美紀さんに接触したんですよ。でも、そのおかげで美紀さんは孤独に苦しまずにすみましたよね、美紀さんもよかったんじゃないですか?」
「そ、それは……」
イルフィアの言葉に、美紀は後退る。
「じゃ、じゃあ、シスター。シスターは、私を回収したら、次はどうするの? 他の魔法少女を見つけて、また言い寄って回収するの?」
「えぇ。ゾディアックサインが導けば、その通りに」
「! それはダメ。私は最悪どうなってもいいけど、私以外の人に手は出させない! 私、マジカル☆ミキだから!」
そう言うと同時、美紀から突如として不思議な光が溢れ出し、周囲が「輝く魔法のフィールド」で覆われていく。
再び空が夜空で覆われ、EDEN達は体が異様に軽い事に気づく。おそらく、重力が弱くなっているのだ。
「え、な、何これ」
「あぁ、素晴らしい力ですよ、美紀さん。その力を、ぜひ私たちのために使わせて下さい」
「シスターがみんなを傷つけるなら、それには頷けない。みんな、もう一度、私に力を貸して!」
否という理由があろうか。
美紀を守るための、最後の戦いが始まる。
「これ、天球儀の力かな? うんっ!いくらでも力になるよっ!」
そう言って、エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)が精霊刃『エレメンティア・ティアーズ』と精霊銃『エレメンタル・シューター』を構える。
「了解しました美紀ちゃん、それじゃあザクっと決めましょうか!」
真心・観千流(最果てと希望を宿す者・h00289)も頷いて応じる。
「シスターに捨て台詞吐かせてお帰り願うなら力を貸すわよ。偽善でも優しくしてくれたんだし魔法少女誕生の恩赦ね」
『凛剣』Platinum Heartを一閃させ、迫り来る木の根を切り払いながら、プラチナ・ポーラスタ(『|正義《ジャスティス》』の|魔法少女《タロット・シスターズ》・h01135)こと、シスター・ジャスティスが宣言する。
「この戦闘が肝ですね」
森屋・虎狐(こねこねこ・h03129)を自身のWZで留守番させつつ、そう言って、ドラゴンガーダーとB-WZ-Vulcanを構えるのは、森屋・巳琥(人間(√ウォーゾーン)の量産型WZ「ウォズ」・h02210)である。
「EDENの皆さんですね……。先程の戦いも見事でした。でも……美紀さんを味方に引き込むのは私です」
「仲間にならないってば!」
『ドリアード怪人娘『シスター・イルフィア』』の言葉に、高橋・美紀が輝き続ける天球儀を構えながら、反論する。
イルフィアは既に木の根を這わせ、教会全体と一体化し自身の領域としていく。
「……少し、息苦しいですね」
その様子を見て、他者への「衝動」を欠落した|取り替え子《チェンジリング》な修羅の霊剣士、八月一日・圭(螺鈿を纏う修羅の語り部・h09402)が呟く。
「なるほど、教会自体が領域かしら」
根が四方八方から飛んでくるのを、『霊銃』Sister's Highで精神力を魔弾にして発射しつて迎撃する。
(「なんか戦闘の余波で教会吹っ飛びそうですがそうなったらもう気にせずにWZ使っても良いかもですね」)
巳琥はそう独白する。巳琥は本来、量産型WZ「ウォズ」を駆るWZ乗りである。それが今、盾と拳銃だけで戦っているのは、ひとえに教会を破壊しないがためである。
教会と半ば一体化して、自身の領域としているイルフィア相手に、この縛りがどこまで有効だろうか。最悪の場合、WZを呼び出しても良いかもしれない。巳琥はそう考え始めていた。
「そうですよ。地の利はこちらにある。それに、先ほどの戦いも全て見せてもらいました。皆さんに勝ち目はありません」
「なるほど、先の戦法は見られてたでしょう。ですが更に人数を増やし、集団戦術も織り交ぜれば複雑さも増すというものです」
イルフィアの言葉に、巳琥は首を横に振る。
「並列操作補助機構『蜃気楼』起動」
発動するは、√能力『|蜃気楼の分隊《ミラージュ・スカッド》』。
召集された見た目を類似させた素体達が巳琥の周囲に集い、拳銃を構える。
「僕も防御に回る」
漆黒の霊力を纏う刀たる霊刀真黒を構え、圭が宣言する。
「それじゃ懺悔の時間ですっ!!」
元気いっぱいにエアリィが宣言する。
「えぇ。今度は私がお手本をみせますよ! これは皆で繋げた未来への架け橋!」
観千流が√能力『|レベル3兵装・希望を物語る蒼の光《エデンブルー・ライトテイル》』を発動し、ナノ・クォークに刻まれた極小記録宇宙と融合する。
記録宇宙の因果と現行宇宙を繋ぎ、技能値が全員の獲得した🔵倍へと拡大した戦闘体へと姿を変える。
「何をするつもりかは知りませんが……」
周囲に無数の花の蕾が生え、開花のための力がチャージされていく。
先ほど美紀と接続した感覚を利用し、反転重力属性を合わせて、花を全て空中に打ち上げ、イルフィアを宙へと浮かせる。
「きゃあっ!?」
空中に体が浮かび上がり、思わず裾を押さえるイルフィア。
「本体はダメージを受けずとも周囲の花はそうではないでしょう?」
「ま……まだです……!」
イルフィアの足から根が伸びて、さらに地面へと迫る。
「行くよっ!」
地面を蹴って、精霊銃で牽制射撃しながら、一気にイルフィアに肉薄する。
残像を生みながら、ヒットアンドアウェイで攻撃を仕掛け、根を切断していく。
「くぅ……、で、でも、チャージは完了です」
開花の為のエネルギーを用いて、至近距離に花粉攻撃を放とうとする。
巳琥の素体達がイルフィアを足止めし、エアリィ以外が攻撃範囲から離脱するのを助ける。
(「相手の√能力は一撃系。なら……」)
しかし、エアリィは慌てなかった。
「光の精霊よ、我が身に宿りて空間を超える力を……。一気に突破する!」
一斉に放たれるイルフィアからの花粉攻撃を、エアリィは√能力『|光精幻影転移《エレメンタルドライブ・ライトミラージュ》』を発動し、一気にイルフィアの背後へと離脱する。
「あ、あぶなかったぁ~」
ほっと、エアリィが笑いながら、次なる攻撃に備える。
「主よ、私をお守り下さい」
イルフィアは空中で祈りを捧げると同時、周囲に触手のような蔓を展開する。
「敵の数が増えたのは……あなたの仕業ですね」
蔓が巳琥に迫る。
だが、巳琥も慌てない。盾で防御し、受け流しながら、継戦能力を維持していく。
巳琥の素体が持ち上げられ、素体同士がぶつかり合う。
それでも美紀を守る為の根と触手を防ぐのは止めない。
「これ以上の犠牲は許容できません。勝利だけでなく、全員が生還する結末を目指します」
圭はそう宣言して、√能力を発動。
「掌握せよ――界域展開」
√能力『|呪詛界域《マレディクト・スフィア》』を発動。魔性の力を教会に注ぎ込み、イルフィアの教会支配と拮抗し始める。
「乗り切れば後は減った素体も再度の追加増援で補充ですよ。意味を持った残像というやつです」
その間に、巳琥は、巳琥を模した増幅させたインビジブルの影が実体化し、イルフィアを攻撃すると同時に、再び√能力『|蜃気楼の分隊《ミラージュ・スカッド》』を発動して、素体を再招集する。
√能力『|繰り返す記録《フラッシュ・メモリー》』である。
「そんな!?」
それで驚愕するのがイルフィアである。彼女の持つ三つの√能力を活用した攻撃が殆ど損害なく乗り切られてしまったのである。
「これが美紀さん、魔法少女と、そして、EDENの力、ということですか……。素晴らしい、素晴らしいですよ、美紀さん。ますます、仲間になって欲しいです!」
「お断りだって!」
美紀の叫びと同時に、再び天球儀の輝きが増す。
「いいですね、美紀さん。そのままマテリアルを介して……」
美紀の放った重力操作のエネルギーを観千流が操って、イルフィアを押しつぶし始める。
「これで、おしまいっ!」
エアリィが再び一気に二つの武器を手に一気にイルフィアに肉薄する。
「ナイスよ、ミキ、ミチル、エアリィ!」
その様子を讃えながら、シスター・ジャスティスが一気にイルフィアに肉薄する。
「さあ『凄凛』の一閃で決めてあげる! 信じる正義を貫き通すために。輝け私のPlatinum Heart!」
魔力と「正義の意志」を注ぎ込み媒体たる『凛剣』を、光り輝く正義の『凛剣』へと変形させていく。√能力『|【凄凛】正義の剣戟《ヒロインズ・セイバー》』だ。
エアリィの精霊刃と精霊銃の接射でイルフィアを怯ませた隙に、シスター・ジャスティスが鋭い光り輝く正義の『凛剣』による一閃が襲いかかる。
√能力者は死後に蘇生するとはいえ殺したくない、そんな意思から生まれた敵に「負け」を叩き込むための剣であるこれは、敵から体力と生命力だけでなく、戦意を奪う。
「もう勝ち目はないわ、撤退なさい。死後蘇生でなく、バスか徒歩で帰れってーの」
「そうだよ、シスター。こんな戦い、やめにしよう。私、絶対にシスターのところには行かないから」
「美紀さん、あなたは優しい人ですね……」
イルフィアは目を瞑って一瞬考えるそぶりを見せる。
「ですが、だからこそ、私達のものになって欲しい!」
直後、一斉に蔦が動き出し、美紀に襲いかかった。
「シューティングスター!」
だが、美紀の流れ星がそれを打ち砕く。
エアリィ、シスター・ジャスティス、巳琥、圭がそれぞれ武器を構えてイルフィアの致命的な箇所を狙う。
観千流が動いていないが、いつでもイルフィアを潰せる、とばかりに準備万端だ。
「……分かりました。投降します」
それで、イルフィアは観念した。
教会を去っていくイルフィア。
一斉に、EDEN達が美紀の元に集まる。
「やったわね、華麗に撃退☆できていたわよ」
「ありがとう、シスター・ジャスティス」
シスター・ジャスティスが美紀を讃え、美紀が微笑む。
「重力操作、良い力ですね。ですが、さっき私が見せたようにとても危険な力でもあると、どうかお忘れなきようお願いします」
「分かった。絶対に使い方を間違えないよ」
観千流が力の危険性について語り、美紀が頷く。
「戦いは終わりました。でも、あなたがこれからどうすかは、ここからが本番、かもですよ」
「うん、そうだね。これからどうするか、考えないと……」
巳琥の警告に美紀が頷く。
「そっか。じゃあ、誰かを守るための力、大切にね」
「うん。絶対に私、この力でみんなを守るよ。みんなが私を守ってくれたみたいに」
エアリィがそう言って微笑むと、美紀も微笑み返す。
「守る側でいると決めたなら、あとは戦うだけですね」
「うん。私、戦うよ。ありがとう」
圭の激励に、覚悟を決めたとばかりに美紀が頷く。
「最後に警告しておくわ、美紀」
「はい、シスター・ジャスティス」
「魔法少女の正体バレは危険よ。特にこの√では。気をつけることね」
「分かりました。マジカル☆ミキの正体は、この場にいるみんなだけの秘密、ですね」
あるいはイルフィアは知っている。イルフィアの仲間が今後、現れるかもしれない。
けれど、きっと大丈夫。
もう美紀は戦い方を知っているから。
「それじゃ」
シスター・ジャスティスは正体を明かさず颯爽と去る。それこそが魔法少女のあり方だと美紀に教えるように。
美紀は確かに、その背中から多くのことを学んだ気がした。
今一つの戦いが終わったが、これは始まりに過ぎないだろう。そう感じながら、EDEN達は美紀と交流を深め、そして帰路についた。