チョコっと甘い出会い系大作戦❤
「いいかい、これは全然悪いことじゃないからな、北條」
「もうその一言で『ダメなんだろうなこれ』って気しかしないんだけどね八百夜君?」
北條・春幸は深いため息をつきながら、自分を呼び出した八百夜・刑部の顔をじろりと見つめた。
「何を言うんだ。いいか、まず儲かる。そして儲かる。さらに儲かる。あとなんだっけ、そうそう人助けになる。こんな素晴らしい話はないぜ。さあ俺と一緒に夢を掴もうじゃないか」
「どうしてそう奇跡的なまでにダメなフラグを建築できるかな……まあ、聞くだけは聞かせてもらうよ」
「ふっふっふ北條屋。お主も悪よのう」
「誰が北條屋だよ。っていうか昭和かい」
ニヤリと見交わすと瞳と瞳。かくして何だかわからないうちに二人の悪だくみは粛々と進行を開始した。……キッチンという意外な場所において。
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「うっふ~ん❤」
「だから昭和かい。いまどきうっふーんて。リアルで初めて聞いたよその言葉」
「いいんだよこのくらいわかりやすい方が」
その会話自体は紛れもなく春幸と刑部のもの。おお、だが!
なんとしたことか、その場にいたのは見目麗しき女性二人ではないか!
グラマラスなボディラインを強調したセクシーなワンピースを着こんだ妖艶な美女、そして、知的なシゴデキ系バリキャリウーマン美女の二人。いったいこれは!
「しかしわざわざ女性に化ける必要があるのかい八百夜君?」
「そりゃあるだろ。なんたって今回のミッションは!」
と、春幸声の美女が問うた言葉に刑部声の美女が豊満な胸を揺らしながら答える。
「『バレンタインにチョコを貰えない|警官《カモ》相手に出会い系を立ち上げてみたけど実は相手は化術で女性化したオレたちでしたー! ってオチでがっぽり儲けようプロジェクト』だからな!」
なんとわかりやすいプロジェクト名であろうか! そう、それは刑部と春幸が化身した美女の姿であったのだ! 春幸と言えば怪異料理の名手、刑部が彼を巻き込んだわけもわかろうというものだ。
「……しかし、やはりそれはまずくないかい。詐欺では?」
「『出会い系』って最初から言ってるだろ? そして実際オレたちに『出会う』んだから嘘じゃないさ。その正体がオレたちだとは言ってないだけで」
「ああ言えばこう言うねえ……しかし、チョコを作る今の時点から化けておく必要はないんじゃないかい?」
「なんとプラス料金で『あなたのために手作りチョコを作っているところです動画』がオプションで付いてきます! お得!」
「……どんだけ搾り取る気だよ……まあ購入した人が喜んでくれるならいいか」
「ということで録画するぞ、口調もちゃんと女性らしくな! ……じゃなく、女性らしくするのですわ❤」
「…………それ僕もやるの?」
「やるのですわ❤」
「マジかい……まあ仕方ない」
デカいため息を付きつつ、春幸、いやギャル幸は見事な手並みでチョコを造り始めた。そのしなやかな指が芸術のように舞い、絵画のように鮮やかに器具を操り食材をデザインしていく。
「じゃあ、簡単に作れて配りやすい生チョコクッキーを作るわね。用意するのはブラックチョコとバターと薄力粉よ。……材料を混ぜて冷蔵庫で寝かせてから、筒状にして丸型クッキーにしましょうね❤」
「……結構ノリノリじゃんですわ?」
「生地は練り過ぎると固くなっちゃうから……そうね、このくらいでいいかしら。冷蔵庫で1時間ぐらい寝かせるけど、焼くのは10分くらいね❤」
手早くチョコを作り上げていくギャル幸に、ギャル部は感心したように長い睫を瞬かせた。
「お見事ですわ、これで完成ですわ?」
「ですわの使い方おかしくないかしら? まあともかく、ラストに隠し味が大事なのよ❤」
「知ってますわ、最後に『愛情』ってやつですわ? やーん真心のプレゼント素敵ぃ❤」
「いいえ邪神よ❤」
「真心から一番遠い奴きちゃいましたわ!?」
おお、だがそれはジョークではなかった! ギャル幸は浮き浮きとした様子で悍ましくびくびくと蠢きのたうつ新鮮な邪神クヴァリフ器官を取り出したではないか!考えてみれば春幸は怪異料理の専門家、こっち方面に振り切れるのは当然の展開であった! イッちゃった目の鼻歌交じりでドバドバとクヴァリフ器官をチョコに混ぜていくギャル幸! なんたるコズミックホラー的なはかり知れざる永劫の元に混沌が這い寄る光景か!
「うふ、うふふふ。クヴァリフ料理うふふ。なんて素敵なクヴァリフクッキング、さあみんな楽しくクヴァリフクッキング~♪」
「知ってましたがこいつヤベエですわ……」
「あらあら、ただ私が趣味のためにやっていると思われたら困るわ。クヴァリフ器官を入れれば記憶が曖昧になるのよ」
「なるほど、これで足は付きませんわ。完全犯罪の完成ですわ!」
「犯罪って言っちゃってるじゃん」
こうして二人の出会い系プロジェクトは一部の隙もなく完璧に完遂されたのだった。
……と思えたが。
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「八百夜のヤツはどこだー!!」
「おおお落ち着いてください署長! そんな渋いイケボでロケラン振り回さないで! つかオレ目の前にいるっすから!」
なんということか、後日、刑部は署長の|釈・馬頭把《しゃく・ばずわー》に、覿面に呼び出しを喰らっていたのだった。
「つか署長、よくわかりましたね? 痕跡は消したんだけどなあ」
「自慢そうに言うな! 記憶が曖昧になった警官が多すぎたらそりゃ怪しむだろうが!
お菓子の材料買い込んだのと投函したお菓子と見回り経路報告を照らし合わせた結果だ!」
「すごい……警察みたいですわ」
「警察なんだよ! っていうか『ですわ』って何だバカにしとるのか!」
「しまったですわ! まだ口癖が抜けませんわ」
「どこまでふざける気だ! そこへ直れー!!!」
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「……って流れで見事に始末書で譴責で謹慎で売り上げ没収だったわ」
「僕もねえ……クヴァリフ器官をこっそり持ちだしたのがバレてねえ。ゴーストトークが使える人がいることを考えに入れておくべきだった」
その夜更け、ボコボコにたんこぶのできた頭をさすりながら、刑部と春幸はしょんぼりと杯を交わしていた。やはりあぶく銭は身につかぬものであろうか。
「……とはいえ、だな」
「ああ、だね」
しかし二人の口元にはニヤリと笑みが浮かぶ。それは紛れもなく――勝利と成功を味わう笑顔だ!
「プランBは無事遂行だぜ! 『時間のない婦警の告白を後押しするためのチョコづくり計画』はな!」
「ふふ、上手くいくといいね、彼女」
然り、二人の計画は、モテない男どもをカモにしたものだけではなかった。
本当に口に出せない切ない思いを抱えた女性への応援のためにチョコを作ってもいたのである!
まぎれもなく感激と感謝に溢れていた彼女の表情を二人は思い出す。彼女の告白が成功したかどうか、二人はあえて知ろうとしなかった。けれどきっと、ひとつのささやかな幸福が生み出されたに違いない。チョコのように、甘く蕩けるような幸福が。
「で、その謝礼金はちゃんと確保してあるからな、今夜は飲み明かしますわ!」
「あら、また口癖出てるんじゃないかしら?」
「気にすんなですわー!!」
かくして、夜を徹し、何故か色気のある女性口調で飲んだくれる二人の青年の姿がどこかの酒場で見られたという噂が流れた結果。……しばらくの間、釈署長の頭痛の種が増えたのだった。
「謹慎と言っただろうが! 八百夜のヤツはどこだー!!!」