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夜空の下、魔法は降って湧いた

#√マスクド・ヒーロー #デザイアモンスター #魔法少女現象

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 #√マスクド・ヒーロー
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●さようならふつう、こんにちは非日常
 夜の街並み。河川敷でひとり考え込む様にしていた不良がひとり。
 将来のことなんかマトモに考えたくないという、親とも素直になれない年頃。
 いわゆる『反抗期』の延長線で不良になってしまった彼は、親の小言を少しばかり反芻して――溜息を付いていた。
 学もないし、かといって才能が特にあるわけでもない。現実ってのはそういうものだ。

 ……だが、非日常というのは、突然降って湧くものである。
 突如前触れもなく、彼を包囲するように異形の怪物が群れなし始めたのだ。
 逃げ場を得るためにも、無理矢理不良フィジカルで応戦するものの……限度がある。

「殴ってもなんともならねぇ、ってか俺今なに着て……」
 必死に抵抗している最中、彼はようやっと気付く。
 着崩した制服はどこぞやら。彼の服装はちょっとピカピカするラインが入ってたり、日曜の朝に流し見するアニメで良く見たような格好になっている。……フリフリしまくってないのが唯一の救いか。だが。彼は――突然『魔法少女』になってしまったのだ。
「……はぁーーーーーーー!?!?」
 突然、魔法少女……いや、魔法少年にされてしまった少年の受難が始まる。

●少年には刺激が強い春先の夜
「春先だけどちょーっと手伝って欲しい案件が起きた」
 能力者達を前に、|常磐《ときわ》・|鋼汰《こうた》(幻鋼戦士・h00478)は話を始める。
「なんでも……√マスクド・ヒーローで起きている|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》が、今爆発的に発生しているらしい。……それこそ人手が今までのままだと足りないくらいに」
 原因は分からず、対処していたロボトロン達も手が回らない状況下らしい。

「つーわけで、お前達にはこの河川敷の周辺に向かって欲しい。……魔法少女になっちまった奴の名前は|神崎《かんざき》・|涼《りょう》」
 名前を聞き、一瞬ピクリとした能力者も居たかも知れない。……なんだか凄く『どっちとも取れる』名前なのだ。
 けれど、鋼汰の顔はとても申し訳なさそうな顔になるだろう。
「いや、そのね。……お前らに頼みたい奴ね……こう、いわゆる『不良』なんだよ。
 しかも、男子。そんな年頃の男子がいきなり『魔法少女』になってみろよ?」
 ……同情するものがある。
 ふつうに程よく不良学生ライフだったのだ。
 しかもそれがいきなりステゴロがマトモに効かない化け物が現れて。
 ……その上で、なんだか急にアニメっぽい格好にさせられて。

「……取り敢えず、現場は既にデザイアモンスター塗れだ。急いで排除しながら涼少年……というか彼今年で中3なんだが……うん。向かってやって欲しい」
 ただ、上手く救助できても、彼本人は喧嘩の心得は合っても、√能力者ではない。
 上手いこと教えるにしたって限度はあるだろう。

「しかしながら本当に気の毒っつーか……
 うまくケアしてやりながら戦ってくれると助かる。才能と望みって、得てして一致するとは限らないからさ……」
 能力者達は、なんだか哀愁を漂わせる鋼汰を尻目に……現場に向かうのだった。

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第1章 集団戦 『デザイアモンスター』


●夜の街に怪物が溢れれば
 ――夜空を星々が彩る春先のことである。
 既に人々は夜の団欒の中にあり……そういった意味では『彼』が食卓の場に居なかったことは不幸中の幸いだろう。

 デザイアモンスターと呼ばれた奇怪な怪物の群れが、河川敷に向かっていく。
 時に不幸な人を巻き込みながら、その数は膨れていく。
 ……河川敷にいる『魔法少女』になってしまった『彼』は、惨事が想像以上になりつつあるのを知らないままに、抗い続けているだろう。
 『遣い方』を知らない才能を胸に。
ケヴィン・ランツ・アブレイズ

●夜空に駆ける騎士、ひとり
 まだ、騒ぎにはなっていない。
 家族の団欒の時間がせめてもの救いとなっている。
 けれども、人影が1つ、河川敷に向けて駆けていく。

「――やれやれ、運命の悪戯っていうのも困ったモンだねェ」
 ケヴィン・ランツ・アブレイズ(|“総て碧”の《アルグレーン》・h00283)は独りごちながら、数多湧きつつあるデザイアモンスターを屠りながら突き進んでいく。
 多感な年頃の少年少女が発症してしまう『|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》』、それは半ば無差別に感じる所もあるだろう。
(ニンゲンとして一番多感な時期に、思いもよらぬ贈り物を問答無用で押し付けられりゃァ、そりゃ困惑もするだろうサ)

 受け入れられる下地があるタイプならまだ良かったろうに、今回の彼はどちらかと言うと『魔法少女』と言うには程遠い部類の少年である。多少の困惑のみで済むならば良かったが、彼らは√能力者では無いのだ。ようは、そのままだと『餌』と成り果ててしまうかもしれない。

 騎士の右眼が、集約された竜漿によって『魔眼』と成ったならば、その眼は怪物共の隙を曝け出す。対多の乱戦の最中とはいえ、確実に個を仕留めて行くのであれば、道中で戦力に変えられそう、或いは襲われそうになっている一般人の救助も容易であった。

「巻き込まれた一般人の数がまだ少ないたァ言え……やっぱり全部河川敷に向かってンなァ」
 騎士がデザイアモンスターを追えば、自然とその密度は増えていく。
 その密度の終着点になり得る場所に、苦戦しつつもその怪物の波に呑まれかけている件の少年の姿があった。

「――この場を生き延びてェンなら、黙って言うことを聞きな!」
 その後、涼の視界に飛び込んできたのは、おおよそヒーローの一部でしか見たことの無いような、甲冑姿の騎士の姿である。
「は、はぁ……? ああ、わ、わかっ……た」
 事態が自分を無視して転がり続ける様な最中でも、少年は我武者羅に応戦を続けるが。内心は……
 恐らく、多少の『安堵』というものが、あったかも知れない。
 何も知らぬ自分を導いてくれるというのなら、それが一番なのかも知れない、という。

花城・綾音

●格好が問題ではなく、それが勝負服と言えるならば
 |花城《はなしろ》・|綾音《あやと》(ブン殴り代行・h12165)が感じたシンパシーは気の所為ではなかったのだろう。
 彼は、昔の自分か何かか、と。 

 中性的、あるいは『間違えられそうな』名前。ただ、彼の場合は|望まずにして《・・・・・・》女らしい格好になってしまったのもあるのだが。
 喧嘩という我流の拳にて抵抗するその姿は、間違いなく共感を覚えるものだったろう。
 それでも、本格的な戦闘、なおかつ『対多』となれば涼少年が不利を背負うのは無理もないことである。

 河川敷にて抵抗する最中、デザイアモンスターの一体を飛び蹴りで仕留めて乱入するその姿は、パンクな格好をした女子に見えたろうか。
 けれども、その肉付きの端々を良く観察したならば、綾音のそれは『男子のもの』である。
「へぇ……よく似合ってんじゃん」
「……なんだよ、いきなり……好きでこんなカッコになったワケじゃねぇんだ」

 羞恥を隠しながらもまじまじと見る涼に反して、威風堂々とした貫禄さえ見せる、女装パンクスタイルの喧嘩屋の姿は、ある意味では今の彼に一番必要な教育材料と言えたかもしれない。
「――涼って言ったっけ?よく見てな。女のカッコで喧嘩すんのは、最高にカッコいいんだぜ?」

 そういうや否や、綾音は真正面から実演をしていく。
 頭部に一撃をめり込ませつつ、反撃も拳のメリケンサックでいなして素早くフェイントからのもう一撃。鮮やかな拳捌きだ。
 どんなに負傷が素早く再生しようとも、『喧嘩』という土俵の上ならば、彼の方が涼とは較べるべくも無いほど先輩なのだ。

「……そうかよ」
 それを横目で見ていた少年からは、多少の腹を括る覚悟は垣間見えたかも知れない。

マオ・ロンロン

●夜、パンダ、時々竹
 夜の河川敷はすっかり怪物の殺到し続ける魔境と化していた。
 騒ぎを見に来る出歯亀が今のところ見えない――のは恐らく、先程からデザイアモンスターの『欲望のオーラ』により次から次へと増援が『作り出されている』からだろう。
「いくら張り倒しても終わんねぇし、上手く戦えねぇしなんなんだよ……」

 だが、窮地に現れるものは当然存在する。
 夜空に突然出現するのは一億(概算)の竹。……竹???

「お待たせアル! あなたの心にふわふわを――」
 竹の雨がガガッと河川敷に降り注ぎながらも、決めポーズ(即席)を決めるマオ・ロンロン(満腹エブリデイ・h12417)。
「マスコットキャラクター、ロンロンの登場デス!」
 カットイン的に爆発(斃された怪物の)しつつ、不覚にも格好良い登場になったのだが――

「……もちろん嘘アル!」
「ノリで言ったなこのパンダみてえなヤツ!!」
 当然彼は(|鏢局《ギルド》ではそうかもしれないが)『魔法少女』のマスコットではない。ついでに涼が反射でツッコミを入れたがさっきから日常の斜め上の出来事ばかりなので理解が追いついているのかも不安になる所である。

 ただ、現実はお構いなしに襲って来る。竹の雨で随分と視界は拓けたとはいえ、おかわりとばかりにデザイアモンスターは雪崩込んでくる。
 近接戦闘主体にどうしてもなってしまう涼の死角を埋めるように降り注ぐもまた竹である。
「涼ちゃん、安心してほしいアル。魔法少女の変身はいつしか解けるものアル……」
 それでもAnkerである彼より遥かに場馴れしたかわいいパンダの降らせる雨は凶悪なのだ。彼を心配するように、背中合わせになるような位置で戦いつつ、数瞬振り向いてはこう告げる。

「ギザギザハートのお年頃にふりふりスタイルは恥ずかしーかもだけども、敵を倒すまでの辛抱アルよ!」
「……俺が気にしてるトコ全部、言うなー!!!」
 フリフリあんまり無いとは言え、年頃の男子に『魔法少女』の服装は恥ずかしいものである。照れ隠しの鉄拳がものすごくデザイアモンスターにめり込んでいたのは……たぶん、気のせいだろう。

ケヴィン・ランツ・アブレイズ

●教え導く以上はどうしても
「……考えてみりゃァ、|全身甲冑《フルプレート》ってのも魔法少女と同じくらい浮いた恰好ではあるかねェ」
 思案する。ケヴィン・ランツ・アブレイズ(|“総て碧”の《アルグレーン》・h00283)の懸念ももっともではあるのだが……。
「あ? 今更いうか? 『突然変なカッコになる』よりは見慣れてるぜ」
 ……此処は√マスクドヒーローである。甲冑騎士デザインのヒーローが居てもおかしくは無い訳で……怪人っぽく思われてないだけマシなのかもしれない。

 ただ、本人に『現在進行系で』余裕が無いのは事実である。
 能力者達の増援があるからこそ、まだ応対をする余裕が生まれているのはあるのだが。

(それでもまだ、『Anker』って事にはまだ変わりない、のかねェ)
 恐らく対人は対人でも『一般人』の、それも近隣学年の範囲での『喧嘩』程度のものだ。喧嘩屋家業でも、それこそこの世界に主流なヒーローの技量でもない。
 それとなく観察すれば彼の『魔法』の携行が多少は分かるものかと思い、適度に消耗を気に掛けつつ、支援を軸に様子を見ていたのだが――

(所謂『魔術師』みたいなスタイルとは違う気がするかねェ、どちらかと言うと『|付与魔術師《エンチャンター》』が近いかァ?)
 『魔法』は相変わらず行使される気配はないし、呪文なんて今までの彼とは縁遠いものである。体捌きを本格的に教えた方がなんとなく身の為になるであろう事だけが直感的に分かる、程度だが。
 ……時々、素人の喧嘩殺法とは思えない程の打撃が繰り出される事がある、というのは見て取れる。

「あんまりハイペースで飛ばすと次が来たら保たねェぞ!」
「次が来るとかあんまり考えたくねぇ状況だけど、よ!!」
 盾として割り込み、フィニッシュは涼に譲る、そんな形が続けば、ふと思う事もある。……段々新人能力者に向けての『訓練』じみてきたのではないかと。
 一先ず、河川敷に大挙していたデザイアモンスターは全て追い払うまでは来たものの、遠目にはまだ『怪物』の姿が映っている。

 ……完全に一息つくまではまだまだ時間が掛かりそうだ。

第2章 集団戦 『デザイアモンスター』



「――なんだよコイツらさっきから次々と!!」
 能力者達の救援のお陰か、涼少年は多少は戦える様になってきたものの……Ankerという『壁』は相変わらず危険性を孕んでいる。

 けれども、彼自身は知る由もないだろう。
 不服な事に、狙いは『魔法少女』たる彼自身で、デザイアモンスターが殺到し続けている原因を担っているのだと。

「……なぁ、次はどうすりゃいい?
 此処から下手に動くと、誰かしら余計に巻き込むぜ……?」
 涼が多少覚悟を決めた様な顔付きになったのは、この世界の独特の感覚が彼の根底にもあるからなのだろうか。それでも……変わらない事は1つ。
 共に戦うにしても、彼を護りながら導かねばならないと。
ケヴィン・ランツ・アブレイズ

●あったかもしれない『後輩』という話
 涼の言葉に多少驚いた様にしつつも、ケヴィン・ランツ・アブレイズ(|“総て碧”の《アルグレーン》・h00283)は感心した様な態度を見せた。
「なンだィ。色々揺れ動いてる年頃だからもっと余裕が無ェモンだと思ってたンだが、この状況で|自分《テメエ》よりも他人の心配とは……」
「悪りィか……んな状況で俺の判断で勝手に動いて巻き込むのが一番『気に食わねぇ』からよ」
 自分よりも他人を優先して判断している辺り、彼の根っからの気質自体はどうもそういう風な部分があったのかもしれない。
 色々な環境の噛み合いのなさ、そもそも自分の『したいこと』との差異。年頃故の壁が生んだ反抗期の流れ――という辺りだろうか。|所《ルート》変わればまたもう少々話が違ったろうか。
 自身の眼の節穴さを多少なりとも実感しつつも、その眼差しはまるで『後輩騎士』をみるかのようなものになりつつあっただろうか。

「……にしてもだ」
 『魔法』、が近所にある世界故だろうか。涼に見えた素質の片鱗は風変わりに感じれたかもしれない。
 花形たる攻撃魔法への適正ではなく、あくまで魔法自体は『補助』の為の才能である『|付与魔術師《エンチャンター》』というのもある意味では彼自身の内面を現しているようにも感じられるだろうか。
「色々あらァが『誰かの支えになる為の力』って考えるとまぁ……っと、ンなとこ考察してる場合じゃねェか」
 腰を据えてじっくりその諸種を解析するにも状況が余りにも惜しい。相変わらず実践教育しなければならないのがつくづく悔やまれるというべきか。

 時間は待ってくれない。芽生えたばかりの『希望』を求めた怪物は次々へと雪崩込んでくる。
 今の涼に最も最適な『付与』先があるとしたら、自身の肉体――早い話が『|身体強化《フィジカルエンチャント》』である。
 敢えてその身ひとつで戦う術を教導する為に、身体を竜の姿に少し傾けたれば。眼前の青年が竜人のようなソレになったのに一瞬驚く様もあっただろう。

「力の奔流を意識するンだ。ソイツでどこを強化したいかイメージしてみな!」
「……力の……奔流ゥ?」
 こういう手合は本人が感覚を掴めなければ『モノ』にしづらくはある。
 悲しいかな、サンドバック足り得る存在は向こうから勝手にやって来る。守りながら、それでもあくまで必要なのは彼の成功経験だ。
 叩いても叩いても再生しようとするそのカラクリを右の拳が突き崩しながらも、少しづつ、彼の拳の『威力』が安定しつつあるのを感じていく。
 ……その顔に少しばかり自身が混じっているように見えたのが、微笑ましく思ったのも、まるで『先輩』になったかのような視座なのかもしれない。

黒木・摩巳

●能力が無くとも戦う事は出来る
「成る程……急激な『|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノ》』の爆発的発生、ね」
 河川敷の様相を遠巻きに見つめる一人の人影があった。
「現象が頻発しだしたのはまた別の可能性があるとして――デザイアモンスターは『プラグマ』が関与していないと言い切れないわ」
 反プラグマ組織に身を置く彼女……|黒木《くろき》・|摩巳《まみ》(ひみつのおしごと・h02923)は冷静に事を進める。
「先ずは避難誘導を進め……てもいいけれど、『魔法少女』となった彼が不用意に動いていない事が幸いね。――火砲支援と行きましょう」

 まだ騒ぎとなり得る人影が少ないのを見遣ると、彼女は河川敷に躍り出る。
「おい、此処はさっきからバケモノだらけだぞ! アンタも逃げなくて大丈夫なのか!?」
 叫びながらも『怪物』の群れに応戦し続ける涼の心配を他所に、摩巳 はつとめて冷静に自分の手を進める。
「安心して、√能力は使えないのは同じだけれど……」
 ぱちん、と指を弾けば巨大化した『怪物』の足元を崩すように爆発が起こる。
「『能力』が使えなくとも戦う事は出来るわ」
 彼女の武器は、様々な銃火器による『支援』。

 爆発のタイミングを合わせて、態勢を崩させた彼女はそのまま援護射撃の態勢に移る。少年の技量はあくまで一般人のそれであるのは彼女も重々承知している。だが、彼に戦果を挙げさせることこそに意義があるのだ。
「少し白兵戦をしやすくするわ。巨大化したら無理せず一旦下がって。バランスを崩した瞬間に集中攻撃を浴びせるのよ」

 同じAnkerとしての視座からのアドバイス、並びに援護。
 修羅場を潜り抜けた経験は並大抵のものではない。
 少年への実地経験からのアドバイスは、少しずつ涼少年に蓄積されていくことだろう。

アリス・グラブズ

●捕食者はどちら?
 河川敷に目線を向けるひとりの『少女』がいる。
 アリス・グラブズ(平凡な自称妖怪(兼 ディスアーク下級怪人)・h03259)の微笑みは舌舐めずりの様にも見える。
 単純な話だ。河川敷に向かい、殺到していく『怪物』達など、彼女『達』からすれば、等しく『捕食対象』なのである。
 まるで、タガを外す様に彼女はその疑似餌めいた少女の姿を解いていく――
『今日はね、『食べて良い』存在がどっちか、教えてあげるね?』

 直後、河川敷は阿鼻叫喚とも言える光景へと変じていく。
 襲い掛かる触腕が片端からデザイアモンスターを河川敷の方方へと叩き付けて回り、動けなくなったところを捕食してゆくのだ。
「……えーと、味方の仕業……なのか?」
 幸いにも一般人がこのような状況を見かけるという不幸が起きていないのも良く働いていた。味方個体を如何に欲望のオーラで回復しようとも、『捕食』されてしまったのならば、ソレすらも意味がないのだ。
 ……それでも騒動の中心に関与している『魔法少女』もとい少年は困惑するほか無いのだが。

 何処からとも無く現れる無数の『アリス』。
 『怪物』が彼を襲う前に片っ端から捕食されるわ、傷を付けられた端から爆発するわで、やり方的には『どっちもどっち』と思わざるを得ない状況である。
 『強化』を主体とする関係で近接戦闘メインな涼少年的には、若干手持ち無沙汰になるような状況になっていた。
「……どっちが味方なのか一瞬わかんなくなったな」
『敵だったら食べてるからね! 安心安心?』
 少女の声が聞こえ、反射で彼は声を上げてしまう。
「そういう問題じゃねーだろ!?」
 ……ツッコミが夜の河川敷に響き渡った気がした。

角隈・礼文

●秘されし『深淵』の世界
 |角隈《つのくま》・|礼文《れいぶん》(『教授』・h00226)は宵闇の中で目を細める。デザイアモンスターの数は減りつつあるが、それでも向かう個体が止まりきったとは言えない。
「それでも、あと一押し……と言ったところでしょうか」
 ですが下手に『補充』されてもまずい、と教授は此処までの動向から『怪物』の対処法を分析していく。
「一般人を『怪物』にせずに、予め芽を詰む……となれば『彼ら』の出番ですかな」
 書を開く。この世界にはあまり馴染みが無いだろうが、知らぬ人々ならば『怪人』の一種だろうと、勝手に納得してくれるだろう。なれば都合がいい。
「――旧き印に従い、我が命を果たせ」
 ……夜空に|夜鬼《ナイトゴーント》の群れが飛翔してゆく。

「成る程、貴方が『魔法少女』、いえ、この場合は『魔法少年』と呼ぶのが適切ですかな」
 索敵と『排除』を夜鬼達に任せ、礼文はゆっくりと戦闘が終結しつつある河川敷へと降りてゆく。
「奮戦お疲れ様でした。ひとまずこれ以上の襲撃は起こらないでしょう」
 今のうちに休息を、と提案する男の言葉に、ようやく少年は肩の荷を降ろしたかのような溜息を吐いた。
「訳わからねぇ事ばっかだったけど、ひとまずは……大丈夫、なんだな」

 ところで、と涼少年は問う。空に舞う何者かの正体は分からないが、少なくとも眼前の男性が関わっていることくらいは理解できる。
「さっきから俺が殴り倒す前にあのバケモノが倒されてくんだけど……アンタの仕業か?」
 その返答の代わりに『教授』は口の前に指を立てる。
「貴方の知らなくても良い世界もあるものですよ」
 これからは『隣人』かもしれませんがね、と教授はあくまで穏やかに笑った。

第3章 日常 『ヒーローたちの星座』


【MSより】
・|神崎《かんざき》・|涼《りょう》の作成権配布を希望される方は
 プレイング冒頭に☆と表記をお願いします。
 複数いた場合は逢坂の方で抽選します。
・希望者が居ない場合はどこか別のシナリオで出てくる可能性があります。

●夜空は変わりなく全てを見ていた
 怪物は居なくなった。
 河川敷には元の静寂が戻りつつある。
 ……けれど、全てが元通りという訳ではない。

「結局何なんだろうなぁ、コレ……元に戻ったけどまた勝手に変身したりすんのか?」
 少年の『魔法少女』がひとり、生まれてしまったという事実は変わらない。
 だからこそ、ゆっくり話すべきことがあるだろう。

 これから彼が足を踏み入れなければならない世界のこと。
 其の上で彼がしたいこと。
 幸いにも静寂という安寧は時間をくれるようだから――
 腰を据えた話というのも良いかも知れない。
ケヴィン・ランツ・アブレイズ

●数多の選択の中のちっぽけな『一歩』
「ようやく終わったかィ」
 ケヴィン・ランツ・アブレイズ(|“総て碧”の《アルグレーン》・h00283)もまた武装を解く。鎧騎士の青年の正装たる姿に涼少年は顔を丸くするものの……ちゃんとした自己紹介の場が持たれていなかった以上、致し方ない側面はある。
 そう、一方的に知っていた涼少年と、ようやっと落ち着いて話す機会が巡ってきたのだ。

「俺はケヴィン・ランツ・アブレイズってモンだ。……『騎士をやってる』なんて聞いてもピンとは来ねェだろうが……」
 √マスクドヒーローの事情を思えば『騎士』というのはあっても『ヒーロー』の形の一種くらいのものだったか、そんな顔をしていたのだが、少年は意外にも『意味合い』を理解するのも早かった。
「言おうとするこたァ分かるけども。……基本的にはゲームの話だな」
「ま、ヒーローとは似て非なるモンだからなァ」
 案外理解が早いねェと感心した様な風体をしながらも、眼前の涼はボソリと呟く。
「けど、騎士にしちゃあ、荒っぽくて、どっちかって言うと俺の同類みてーな感じが……」
「ハハッ、ソイツは言わねえ約束だ」
 荒っぽい騎士というのは、今は正装だろうと今までの状況から見て取れてしまった事実であろうのは本人が痛いほど理解している。
「兎も角、今のお前サンに起きた状況を掻い摘んで説明するよ」

 説明をすれば胡乱げな顔になるのは致し方無いのだが、『事実』なのだからしょうがない。起きた事実を捻じ曲げるのは運命の三女神に懇願せねばどうにもならない事象だ。
「俺が……『魔法少女』???」
「そう、男ながらに『そういう力』を手に入れちまった訳サ」
 そう言われればあの妙な格好にも説明が付く。付いてしまう。
 自分が望まねぇ方の才覚が目覚めて、欲しい才覚は何処にもない。
 何とままならない話だろうか。けど、その程度で絶望には成り得ないだろう。
「言うまでもなくわかってンだろうが……今のお前サンにはいろいろ足りてねェモンが多い」
「分かってら……俺も、あの時助けが来なかったらどうなってたか、解らねぇ」
 戦いの知識は喧嘩程度のものしか無い。もっと言えば魔法とは無縁の人生だ。
 眼前の騎士を名乗った青年に言わせれば、『まだ十数年しか生きてねェ上に戦いの「た」とも魔法の「ま」とも関係無ェ人生を送って来たから仕方無ェ』のだ。

「じゃあ、俺が『魔法少女』になっちまったとして、だ」
 どうすれば良いのか、という話になる。
「……その上で。ここからは騎士としてではなく、かつて竜であった者としての助言だ」
 比喩にしても突拍子もない言葉が聞こえた気がするが、最早信じる他無いのだろう。だって、今の涼少年には『知らないこと』の方が多すぎる。

「生あるモノには、生きている過程で『決めなければならない』時ってのが来るモンだ。知り合いの言葉を借りるなら、旅の途中で分かれた道のどちらに進むかっていうのに近い」
「早い話が、俺にとっては今がその時ってコトか?」
 その少年の言葉に騎士は肯定を返す。『今まさに』そうなのだから。
「そう、この先の人生は二択だ」

 ひとつは、今日はスケールがでかすぎる夢だった、と割り切って『今まで通り』に無難に過ごす道だろう。
 けれど、『事実』が消えない以上、逃げたツケはいつか回ってきてしまう。

 もうひとつは。
「宿した力に向き合って、自分テメェが何を為すべきかを探して、挑み続ける道」

 涼少年は思案する。早い話が、『逃げない』道だ。
 ともすればヒーローとそんなに変わらない人生を送る羽目になるだろう。場合によっては今まで以上に親に迷惑を掛けるかも知れないし、『秘密』という後ろめたさを覚えるかも知れない。

「そしてそれは、世界も同じだ。ただ静かに眠るように滅んでいくとも、痛みに苦しみのたうちながら未来を目指すとも確定せぬまま――その狭間で揺らいでいる」
 その行き先を決めるのは今を生きる『命』ひとりひとりの選択であり。その選択が数多積み重なって世界は進んでいく。
「俺もそうだし――勿論」
「俺もだって、ことだよな」

 今日行われる選択は、世界から見れば世界の命運を分ける訳でもないちっぽけなものだが、少年にとっては重大なものだ。
「ただ、どちらが善いとか悪いとかの話じゃねェ。大事なのは『お前サンがどう振る舞いたいか』――それだけだ」
 青年の曰く、知識も経験も覚悟も足りなくても、自分の望むように振る舞うのが生命の『本質』という話だ。……少々小難しい話だが、刺さる所もある。
 良いか悪いかで選択肢が決まっているのなら、今こうして苦い想いをしていないのかもしれなかったのだ。
 役に立ちたかったけれども、勉学の才も、特に何かに秀ている訳でもなかったから、素直になれなくなった。その結果が半端な不良のような反抗期だ。
 けれど、この夜に生えてきてしまった『才能』はある種、神崎・涼という少年に取っては『自分に齎されたチャンス』とも言えるかもしれなかった。

「……もしお前サンが」
 その表情を少しケヴィンは見たのだろう。
「自分の往く道を定め、そのために自分が手に入れた力を正しく使いたいと願うのなら……」
 青年は言う。彼もそうだが、『|俺達《先達》』が力になろう、と。

「……まだ、俺も、全然解らねぇことばっかだけど、さ」
 少年は手を伸ばす。差し出された先達の手を取るように。
 夜に星が流れゆくだろう。……まるで少年の『選択』を見守っていたかのように、輝きは夜空に尾を引いていた。


【お知らせ】
 |神崎《かんざき》・|涼《りょう》の作成権は
 ケヴィン・ランツ・アブレイズ(|“総て碧”の《アルグレーン》・h00283)さんに配布させて頂きます。ご参加ありがとう御座いました!!

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