シナリオ

星灯りと小さな約束

#√ドラゴンファンタジー #ノベル #クリスマスノベル2025 #星響の街

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 #√ドラゴンファンタジー
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降葩・璃緒
夕星・ツィリ

 冬の夜。空に瞬く光。星響く音色に耳澄ませ。
 白い息を空に溶かしながら、二人の少女はアストリヴァの街の門をくぐる。
 石畳の通りは雪をうっすらとまとい、頭上には星の光に似た小さな灯りが連なっている。燦めく星灯りは雪の石畳にやわらかな光の粒を落としていき、その輝きはまるで夜空がそっと地上へ降りてきたみたいだった。
「わぁ……! 星が地上に降りてきたみたい……!」
 海色の眸に光をいっぱい湛え、ツィリは両手で空を受け止めるようにめいっぱい仰ぐ。
「すごーい、見渡す限りキラキラしてるんだよ……! クリスマスの街って楽しいけど、ここは格別!」
 隣に並ぶ金糸の髪に宝石の翼を背負った璃緒も、ぐるりと周囲を見渡してその眸をきらきらとさせた。
 通りの灯りが揺れるたび、どこからか微かな音がする。鈴にも似た、ガラスを弾いたような澄んだ音だ。この街では、星はただ光るだけじゃない。優しい音と響きを宿している。
「星空を散歩できたら、こんな感じなのかなぁ……」
 璃緒が袖に包まれた手をもふりと口許にあてて楽しそうにふくふくと笑う。
「たしかに、星空を散歩できたらこんな感じかも……!」
 深く蒼い夜空に光り輝く星を散りばめて、その上を優雅に軽やかに揺蕩いながら歩くの、なんて星空散歩の光景を想像しつつツィリも一緒に笑みを零す。
「じゃあさ、いつか本当に星空を散歩してみる?」
「わぁ、するするっ! 今度ほんとに行こうよ、星空の散歩!」
「ふふ、約束だね」
 新しく小さな約束をまたひとつ結びながら、二人は通りの灯りを見上げてゆっくりと歩き出す。
 今宵の楽しい時間はまだ始まったばかりなのだから。

 アストリヴァの通りはどこを見てもきらきらと燦めくイルミネーションや、人々の笑顔に溢れていた。そんな中をウキウキ気分で歩き始めて少し。ツィリはふと足を止める。
「……あれ?」
 どこからか、ふうわりと何かを誘う香りだ。
 香ばしい匂い。バターと、焼きたての小麦。それに、ほんのり甘い果物の香り。
 璃緒も同じくそれに気付いたらしく、ぴたりと立ち止まり振り返る。
「……まずは腹ごしらえからでも、良い?」
 たぶん考えていることは一緒かも、とちょっとだけ頬を染めてへにゃりと笑いながら。
「さっきから良い匂いがして、我慢できそうにないんだよ」
 ツィリはもちろん、と笑顔で頷いた。
「賛成!」
 そして二人の視線は、同じ看板へ向く。さっきから誘う香りはきっとあの店からだ。
 ――星実のパイ工房。
 窓の向こうでは、こんがりキツネ色の星型のパイがずらりと並んでいた。

 店の扉を開けた瞬間、二人は同時に立ち止まった。
 バターの香り。焼きたての小麦の匂い。そこに果物の甘さと、ベーコンの香ばしさが混ざっている。
「……わぁ、すごい」
 ツィリが思わず呟く傍らで、璃緒はふわふわと完全にショーケースへ吸い寄せられていた。
「ツィリさん、見て見て!」
 指差した先には、星型のパイが整列している。リンゴ。カスタード。ベリークリーム。チーズハーブ。そして――ベーコンポテト。こんがり焼けたパイの網目模様の隙間から、ツヤツヤの具がちらりと覗いている。
「どれも美味しそう……」
「これは……難問なんだよ」
 ツィリが小さく唸り、璃緒も腕を組んで考え込む。
 しばらくの沈黙。真剣すぎる二人に、カウンターに立つ店員の顔が綻ぶのに二人は気付かずに。
 その時、璃緒の目がぱっと光った。
「ひらめいた!」
「な、なになに?」
 ツィリが顔を上げる。
「頼んだやつを半分こして交換しない?」
「そっか、それいい!」
 一人で何種類も食べるのはおなかと相談しても無理だったけれど、これなら。
「二種類食べられるんだよ!」
「天才かもしれない!」
「えへへ~」
 そして璃緒はパイに向き直り、迷わず指を差す。ひと目見て先ずはこの香り! と決めていたのだ。
「ベーコンポテトください!」
 ツィリはちょっとだけ悩んでから、よしと決意を込めて同じく人差し指をぴしりと。
「私は……星型リンゴパイを!」
 悩んだ末に選ばれたパイは温かさを残したまま紙製のパティスリーバッグに収められ、二人の手許へと飛び込んでくる。
「すごい、ほかほかだ~」
「いい香り……! 早く食べたいね」
 香り立つパイの袋を抱えながらそわそわと逸る気持ちを抑えつつ、次はパイに合う飲み物を調達しに星香のスパイスココア屋へと足を運ぶ。
「スパイスココアってボクはじめて!」
「私も! どんな味がするんだろう……?」
 わくわくを隠せない様子で屋台の様子を覗き込む。見慣れた漆黒のココアの粉末、それと沢山の瓶に詰められた色とりどりのスパイスたち。その組み合わせで未知の味わいが生まれるかと思うと、今からドキドキしてきてしまう。

 パイの袋とココアのマグカップを手に、二人は通りにあるテラス席へと向かった。温かな屋根の下もいいけれど、せっかくなら冬の空気と街の賑やかさを感じたいとおもったから。そんなテラス席から見える通りには、人々の影と星灯りが幾重にも連なっていた。
 通りの雰囲気を横目に、二人は「せーの」で紙袋を開く。
 ふわりと上る湯気と芳ばしい香りが目の前に広がった。
「わぁ、いい匂い~」
「じゃあまずは、半分こ……!」
 サクッ、サクリ。
 切り分けられていくパイ生地は気持ちの良い音を立てながら、中からも湯気がふわっと立ち上る。ベーコンポテトの断面には、黄金色のポテトと、こんがりしたベーコン。リンゴパイの中には、とろりとした蜜色のフィリングがぎゅっと詰まっている。
「断面きれい!」
「ほんとだ……」
「はいっ、璃緒ちゃん!」
「ツィリさん、ありがと!」
 互いのパイを交換し、改めて二人の声が重なる。
「いただきます!」
 璃緒が先にベーコンポテトパイをひと口ぱくり。
 パリッとした表面の生地の香ばしさがまず飛び込んできて、その後にふわふかポテトの食感と甘み、そしてジューシーなベーコンの塩気が絶妙に交ざり合う。
「んんーっ!」
「どう?」
 こくこくこくと、璃緒はもぐもぐしながら力強く頷く。
「美味しい!!」
 思わず少し身を乗り出して。
「ベーコンの塩気とポテトの甘さがちょうどいいんだよ!」
「しかもパイ生地のバターの香りが、すごい!」
 ツィリもぱくりとひと口。パイの層がほどけて、ぎゅぎゅっとした旨味が口いっぱいに広がる。
「……ほんとだ!」
「ほくほくしてる~」
「この組み合わせ考えた人すごいね」
「うんうん、天才なんだよ」
 そしてお次は甘いリンゴパイ。璃緒がそろっと断面を覗き込む。
「ツィリさん見て!」
 フォークで持ち上げるとつやつやのリンゴのフィリングがきらめていた。
「キラキラしてる……!」
 我慢できずにひと口食べれば、さっくりとろ~り。生地の香ばしさとリンゴの甘味がぎゅっと詰まった味わいが重なり合う。
「意外と……甘すぎない!」
 もっと甘いのを想像していたけれど、このパイはリンゴ本来の爽やかさと香りを残していた。
「ほんとだ、ちょっとリンゴの酸味があるね」
 ツィリももぐもぐと頬を膨らませつつ、じっくりとリンゴパイを味わう。意外と重たくないからか、サクサクと口に運べてしまう。
「これはいくらでも食べられるやつ……」
「これも、危険なパイなんだよ」
 パイを食べながら、温かいココアにも手を伸ばす。
 マグカップの蓋を開ければ、ふわりとスパイスの香りが広がった。
 パイに合うと店主さんにおすすめされた、シナモンとクローブ。それとほんのりカカオの香り。
 ツィリがさっそく一口。そして眸を瞬かせる。
「……あれ?」
 璃緒が興味津々にツィリを覗き込み。
「どんな味?」
「う~ん、思ったより甘くない?」
 普段飲んでいるココアのイメージは砂糖とミルクたっぷりの優しいまろやかさだけど、これは全く違う新しい飲み物だと感じながら。
「でも、美味しい……!」
 璃緒もおそるおそるカップを口に運ぶ。
「……ほんとだ!」
 甘くはない、けれどココアの苦みは意外となくて、想像していたよりも飲みやすい口当りにもうひと口、ふた口。
「甘いパイにも合うし」
「しょっぱいのにも甘いのにも合う!」
 ツィリが思わず笑って。
「万能だね」
 そして璃緒は結論を出す。
「これは……危険な飲み物なんだよ……!」

 お腹も心もポカポカさせながら、二人は再び通りを巡り歩く。
 最初に立ち寄ったのは星砂の硝子工房。店の中はガラスの光でいっぱいだった。
 グラス。プレート。アクセサリー。そのどれもが灯りを受けて、星のように燦いている。
 璃緒はきょろきょろと眸を輝かせながら、小さな花瓶を一つ手に取る。そっと光にかざすと、ガラスの中に光の星座が浮かび上がった。
「……わぁ」
 思わずため息が零れ落ちる。
「水入れたら、絶対きれいなんだよ」
 ツィリも近くの棚を覗いていると、ふと目に留まったのは青い星空色のペンレスト。
「……あ」
 小さく声を洩らす。思い出したようにツルリとした表面にそっと指で触れて。
「そういえば今のペン置き、壊れちゃったんだよね」
 手に取ると、深い星空の中に小さな光がキラキラと瞬いた。
「これ……お迎えしちゃおうかな」
 そこへ璃緒が花瓶を手に、ひょこりとツィリの手許を覗き込む。
「ツィリさんもなにか買う?」
「うん、私はこれにしようかなって」
 ツィリが手にしている小さな硝子の置物を見て、璃緒はこてりと首を傾げ。
「……へこんでる?」
「ここに、こうやってペンを置くんだよ」
「へぇ~、なるほどー!」
「璃緒ちゃんのは……花瓶? でも小さいね」
「そう、これは一輪挿し用だからね!」
 とっておきのお花を入れて飾るんだ~と温室の花たちを思い出しつつ、思わず表情も綻んでしまう。

 きらめく硝子でお気に入りを見つけたなら、次は音色が織りなす星響のオルゴール工房へ。
 店内は静かだけど幽かに澄んだ音が響き渡っていて。棚いっぱいに小さなオルゴールが並んでいる。
「ここのお店って、全部手作りで同じ音がないんだって」
 なんとなくひそひそ声で耳打ちする璃緒に、ツィリは目を丸くして。
「同じものがないってこと?」
 璃緒はうんうんと楽しそうに頷いて笑う。
「じゃあ運命の出会いってことだよね!」
「直感で選ぶ出会いも、素敵……!」
 璃緒は見た目の直感で選んでみることにした。もちろんオルゴールの音色は大事だけれど、それは帰ってからのお楽しみにとっておくことにしたのだ。
「う~ん、キミ。目が合った気がする!」
 璃緒は呼ばれた気がして手に取ったのは、雪の花が舞う星夜のオルゴール。まるで冬の夜に咲いた庭園の花みたいに、光り輝いている気がしたから。
 ツィリは少しだけ螺子を回して音色を聴き比べてみることにした。ある音色は風のような、ある音色は森のような、目を瞑ればまるで音の囁く景色が視えるような、不思議な音色に耳を傾けてしまう。
 そして海色の眸をぱちりと瞬かせたのは星の音みたいな優しい旋律だった。
「……うん。これにする」
 小さな夜の旅みたいな優しい音色。自分の旅路にもそっと寄り添ってくれそうな、そんな気がした。

 そうして再び街の通りを歩くころには、夜空の色は深まり、星灯りはいっそう輝いていた。
「わ、もうこんな時間?」
 ツィリが時計を見て驚く、楽しい時間はあっという間だ。
「うわー、もっと色んなところ見て回りたいのにっ」
 うぅ~と悄気る璃緒を見て、ツィリもちょっぴり残念そうに笑顔を零しながら。
「でも、今日はとっても楽しかった!」
 その言葉にぱっと顔を上げ、璃緒も元気に頷く。
「ボクも、すっごく楽しい一日だったんだよ!」
 綺麗な景色見て、美味しいもの食べて、素敵な宝物も増えて……。
「半分こしたパイも美味しかったし」
「スパイスココアも!」
 二人は顔を見合わせて笑い合う。
「また来ようね」
「うん、絶対!」
 星の音が、静かに夜空で鳴っていた。
 ふたりの笑い声も、やがて灯りの中へ溶けていく。
 冬の空に、星は瞬いている。
 その響きはまるで、いつか歩く星空の道をそっと教えてくれているみたいだった。

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