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甘香フォンデュ ~melty chocolat~

#√妖怪百鬼夜行 #ノベル #バレンタイン2026 #甘香フォンデュ

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夕星・ツィリ
ラデュレ・ディア
ココ・ロロ

「ここがひゆうろう……?」
 蒼玉おめめをまぁるくしたココ・ロロは甘い香りの滝を前にしてぱちぱち瞬き。
「また来たいなって思ってたのがこんな形で叶うなんて」
 彼岸花が咲く頃、夕星・ツィリはひとりどきどきしながら電車に揺られていたのに、今はお友達と一緒にこの地に立っているなんて!
「ツィリさまも訪れたことがあるのですね。わたくしも秋以来の緋幽楼なのです……! ココさまにとって、楽しいはじめてとなりますように」
 ラデュレ・ディアのやさしい言葉に、ココはこくんと頷いてから「すんすん」満ちる香りを辿ってゆく。
「……あまいにおい」
 蜜に吸い寄せられる蝶々のように、つやつや煌めく茶色い滝に近付いて香りの正体を突き止める。
「みずじゃなくてチョコのたきだ~……!」
 そう。本来ここは九重からなる塔が屹立しているのだが、何故だか今は天辺からとろとろにとろけたチョコレートが流れ落ちてきているのだ。彼岸花が咲き乱れる秋の景色も絶景で美しかったが、見上げるほどの高いチョコレートタワーにラデュレとツィリもにこにこ笑顔。
「あちらをいただけるのですね……!」
「あのチョコレートの花も食べられるのかな?」
 塔の周囲を埋め尽くすほどに咲いていた彼岸花。今は茶色や白、ピンクの薔薇が咲いていて、それら全てチョコレートだという。
「チョコのお花ココもたべてみたい……」
 あとでスタッフに聞いてみよう。もしかしたらお土産として持って帰れるかもしれないから。

「まずは乗り物決めないとだよね」
「ふしぎなのりものたくさん……!」
 夜行ならではといった浮遊する畳、牛車や朧車に馬車などが駐車されており、はじめて目にするものばかりで興味があちこち移ろってしまう。
「見て! 空飛ぶ絨毯!」
 ツィリが指差す先には、アラビアンナイトの物語からするりと抜け出してきたかのように美しい絨毯が「ボクに乗って行きなよ」とアピールしている。
「じゅうたんとソファもとぶのですか……!? かっこいい……」
「あっちの和風のものも緋幽楼の雰囲気にあってていいかも」
「むむむ……どれもきになる」
 種類が豊富だと、それはそれで困ってしまう。
 全く同じ表情で悩んでいるふたりを目にして、ちいさく微笑んだラデュレは、そのしろい指先を空に向けた。
「わたくしは、ガーデンが気になります……!」
 からりと晴れた空の下、地上からうんと離れた空中に蔓薔薇や低木に花を咲かせたちいさな箱庭が浮かんでいる。
「空でお茶会? とっても楽しそう!」
「わぁ~やりた~い!」
 宙に浮かんでのお茶会はラデュレもはじめて。
「存分に楽しんでまいりましょうね」
 なんだか甘くて美味しい、不思議なひと時となりそうな予感がする。

 〇

 ラデュレは濃い目に淹れてもらったストレートティーを、ツィリは甘さ控えめのミルクティーを、ココはホットミルクを両手に握って準備はばっちり。
「チョコレートのティーパーティーへごー!」
「ごー! ごー!」
 庭園まで伸びる煉瓦の小路をたんとん登ってゆく三人。アーチになった蔓薔薇の屋根の下には白を基調としたガーデンテーブルと揃いの椅子、それから机上を彩るたくさんのフルーツやパンにアイスクリームの数々が豪華絢爛にお出迎え。
 まずは瑞々しい苺にフォークを刺したのはツィリ。ココは一口サイズにカットされたバナナをぷすり。ラデュレは焼きたてほわほわのスポンジケーキを一切れ取ってミルクチョコレートへディップ。
「いただきます!」
 ツィリの言葉にラデュレとココも声を揃えて、ぱくりと頬張る。
 甘酸っぱい苺と濃厚なミルクチョコが舌の上でとろける美味しさにツィリは頬を抑えてうれしそう。
「あまあまうまうま。つぎは~……ミニクロワッサン……!」
 ぺろりと食べ終えたココは、さっそく二口目に手が伸びていた。楽しんでいる様子を見て嬉しそうに目口を綻ばせるラデュレはというと、たっぷりと甘さを吸ったチョコレートケーキにうっとり。
 滑らかで舌触りが良く、甘いのにすぅっと溶けていくような軽やかさのおかげで罪悪感も薄れる気がして、幾らでも食べられそう。
「ふふ~、チョコワッサンたべてみたかったのです……!」
「わたくしはオレンジを潜らせて――ショコラオランジュが仕上がりました」
「あ、そっちも気になる……!」
 やわらかく蒸かしたさつまいもをぷっすり刺していたツィリはおしゃれな食べ物に目をきらきら。でもさつまいもとチョコの組み合わせが気になるのはツィリだけではなくて。
「おふたりのお仕立てしたものも美味しそうなのです」
「さつまいものまねっこする~! ラーレさんのショコラオランジュもおいしそ」
 お友達が食べている物って、とっても美味しそうに見えるから不思議。
「こうしちゃう!」
 ナイフで切り込みを入れたチョコワッサンにショコラオランジュを挟んでツィリがひとくちかぷり!
「えっ……チョコクロオランジュ……? わぁ……ツィリさんてんさい……ココもたべなきゃ!」
 たいへんだぁ。慌てて真似するココも甘くて爽やかなツィリスイーツをぱくんと頬張って。同じ味をお友達と一緒に楽しめるひとときに、心が弾む。
 ふかふかのお芋にチョコレートもほっこりするお味。それはきっとこのふたりと一緒だから余計に美味しく感じるのだろうなとラデュレは淡く微笑んでいた。

 〇

 空中庭園がすこし浮上すると、今度は景色が真っ白に。
「つぎはホワイトのだ~……!」
「先ほどよりも、うんと甘い香りがするのです」
 ミルクチョコレートとホワイトチョコレートの層の境目はふたつが交じり合うマーブル仕様で、まるでチョコレートのプールみたい。
「でものそまえに~……ソーセージたべちゃう」
 ココはこんがり焼けたソーセージをはふはふ頬張り、塩味のきいたジューシーな肉汁に喉を鳴らしている。
「あまいのあとのしょっぱい……おいしすぎますね」
 甘い物に飽きるのはまだまだ先になりそう。
 ごくんと嚥下したとき、ちょうどツィリがもう一度苺をくぐらせるところだった。ラデュレも、そうっとマーブルプールに苺を浸して模様を描くように絡ませるのを見てココも真似っこ。
「先ほどよりもまろやかで甘くて、美味しい……!」
「やさしいあまさになったような~」
 真似してくれたふたりが美味しそうに味わって破顔するのを、ちょっと誇らしげに思うツィリは「そういえば」ふと、とあることを思い出した。
「ホワイトチョコの味が変わるって教えて貰った魔法のフォークあったよね?」
「まほうのフォーク……?」
 こてんと首を傾げたココにラデュレが、カトラリーからまるで魔法使いのステッキのようなフォークをひとつ摘まんで差し出した。
「お味が変わる、のでしたね」
「みんなでせーのでやってみない?」
「わあ! やりましょ~!」
 楽しそうなことは皆で一緒がいい。
 ツィリはワッフル、ココはドーナツ、それからラデュレはさつまいも。
「ふふふ、……せ~のっ!」
 えい、と魔法を使うみたいにチョコレートへたっち。銀フォークの持ち手にあしらわれた丸い硝子がちかりと光った――かと思うと、ココのチョコに可愛らしいピンク色が咲き、ツィリとラデュレのチョコは深い緑色へじゅわりと色が広がって、甘さの奥から香り高い茶葉の匂いが鼻先をくすぐっていく。
「この香りは……抹茶でしょうか?」
「私のも!」
 少し苦みがプラスされたワッフルは、何だか大人の仲間入りをしたみたいな味がして、ココのドーナツは苺の果肉入りで甘酸っぱくって、ほっぺたが落ちそうなくらいしあわせの味。
「あまずっぱくておいし…」
「緑とピンクで春カラーだね」
 ラデュレはさつまいもだけでなく、かぼちゃもくぐらせてスポンジにアイスと硝子の器にどんどん盛り付けていく。
「こうして味わえるだなんて、なんて贅沢なのでしょう……!」
 美しく盛られていくラデュレのパフェグラスは和のテイストに。まるでお店で提供されているかと思うくらいすてきな和パフェに触発されたツィリは、抹茶チョコのかかったワッフルに、バニラアイスと生クリームを添えて空中贅沢カフェ仕様に大アレンジ。
「……わわ! ふたりのとってもごうか……! ココもいっぱいのせるのする……!」
 ドーナツに生クリームとドライフルーツをぱらり。そのうえにクリームを絞って、さらに苺も乗せたりして。チョコのお花も飾ればもう完璧。
「ふふん、ココのごきげんスペシャルなのです! ……ふたりのもおいしそ。ちょっぴりわけてくださいな~。もちろん、ココのもどーぞ!」
「分けっこ! やった! 二人のどっちも美味しそうだなって思ってたの……! たっぷりのアイスと生クリーム添えて、はいどうぞ!」
「えへへ、ラーレさんも!」
「まぁ、いいんですか? ありがとうございます!」
 つい欲張ってしまっても、お友達がいるからシェアできる。大人な味も、ストロベリーの魅惑の甘さも一度に味わえる喜びを、さらにこうして共有できるのだから。ひとりじゃないって、なんてうれしいのだろう。

 〇

 でもビターって、甘くない。
 スプーンでひと掬いした香り高いカカオと睨めっこしているココは、ここぞとばかりにたっぷりと盛り付けたバニラアイスに、チョコを垂らしてお花の模様を描いていく。
「……おいし!」
 苦いのはまだちょっぴり苦手。でも甘い甘いアイスのおかげでビターなチョコレートも美味しく頂けてしまう。
「ふふふ、ココもちょっぴりおとなきぶんなのです」
 むふんと胸を張る様子に、くすくす笑うラデュレとツィリ。実はラデュレも同じバニラアイスを。でもココと違ってたっぷりとかけている。
「あたたかくて冷たくて、不思議な味わいなのですよ」
 ほろ苦いチョコレートに、まろやかなアイスの冷たさがきゅうっと口いっぱいに広がって、大人の階段をひとつ登った気持ち。
 ツィリはうすあじのポテトチップでチョコをひと掬い。けっこう美味しいと聞いていたけれど、果たして?
「……美味しい!」
 ビターチョコがポテトチップスの塩味を掻き立てている不思議。甘いのとしょっぱいのって喧嘩しないんだ。ぱりりと数枚食べたツィリは甘いココアを注文すると、そこにビターチョコをたっぷりひたしたマシュマロを乗せて飲んでみることに。こんな機会、次にいつ訪れるか分からないから、気になることはどんどんやってみたい。
「たくさんの“おいしい”を、おふたりと共有出来て嬉しいのです。ステキなお時間をありがとうございました……!」
 嬉しそうに相好を崩したラデュレの言葉にツィリとココもつられて破顔する。
「お喋りして美味しい物食べての空のお茶会楽しかった! 物語の一頁に楽しい素敵な思い出をありがとう!」
「えへへ、ふしぎでおいしいそらのおちゃかい。とってもたのしかったのです!」
 おなじ気持ちだと分かると、胸がぽかぽかあたたかくなるようで。なんだか一足早い春を抱きしめたみたい。
「また是非、遊びにまいりましょうね」
「はい! またいっしょにあそびましょうね」
「もちろん!」
 今度はどこへ行こう。
 その時もまた、甘くておいしい、楽しいひとときが過ごせたらいいな。

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