狂戦師弟~リンケージ~
2月14日――多くの人がバレンタインを想起するであろうその日。モルドレッド・アーサー (防導の騎士・h04734)はミルグレイス・ゴスペリジオン(魔境を巡る舞軍師・h02552)と二人でゴスペリジオン領跡地へと赴いていた。
跡地、というだけあって周囲の風景は物寂しく、とても世界の乙女うきうきデーとは思えない光景であるが、そもそもここに来たのだってデートとは言い難い目的であった。
「寒くないか?」
「うん、これくらいへっちゃら……うぅっ!」
「無理をするな、これを羽織っておけ」
「う、うん……」
というはたから見たらちょっと奥歯噛み締める程度には甘いやり取りはあるもののモルドレットが言うには本日は墓参りのためにこの場に来ているらしい。
「すまなかったな、突然付き合わせて。お前の故郷と言っても正直、物心すらついてない頃だしお前にとってはピンとくるものもなかっただろう」
「んーん、いいよ|師匠《パパ》。どうせ今日は何も予定がなかったし、それに。なんとなーく、懐かしい気持ちにはなるんだよね、ここ」
本当のことだ。いかに乙女のイベントバレンタインといえどミルグレイスには何の関係もないものだった。それは大好きな師匠がチョコレートが嫌いとかそういうわけではなくて、単純にバレンタインとモルドレッドの誕生日が近すぎて2ヶ月連続ではプレゼントを遠慮して受け取ってくれないためスルーせざるを得ないのだ。
3月14日の誕生日とバレンタインデーなら、間違いなく誕生日にプレゼントを受け取ってもらうことを誰だって優先するはずだ。
仮にバレンタインを受け取ってもらえたとしても誕生日にそのお返しをさせてしまうことになるのだからなおさらのこと。
そういうわけだから、どんな理由でもバレンタインに一緒にお出かけが出来て、しかもそれがモルドレッドから誘ってもらえたものならば嬉しいに決まっているのである。
「でも、何で急に?」
しばらくの沈黙の後、そういえば今までも一人でこういうことはしていただろうにという疑問がわいたので問う。
するとアーサーは目をそっと開いておもむろにポケットから何かを取り出した。
「今日という日にお前に付き合ってもらったことにはきちんと意味がある」
彼の掌には耳飾りがあった。それも、とても特別な耳飾りであるのは一目見て理解できる。
「うそ……」
ミルグレイスはそう言って言葉を失う。先ず何よりも驚いたのはアーサーが今日をバレンタインだということを理解していそうなことであった。それは前前からずっと望んでいた、自分を女として意識してもらうがしっかりと実っている証に他ならない。そしてその証として渡されたもの、その材料もまた、彼女を驚愕させるに足るものであった。衝撃で涙が出てもおかしくはなかったが、その段階すら超えたらしい、きっと自分は今とんでもなく間抜けな顔をしているのだろうなとミルグレイスが冷静に考えるのは今夜以降のこととなるだろう。
「ねえ、師匠、これ、使ってるのって……」
ミルグレイスが耳飾りについている石を十分に見つめてからモルドレッドと目を合わせると、モルドレッドはバツが悪そうに頬を掻く。
「……その石の原料が何か、やはりお前には見通されてしまったか」
「じゃあ、やっぱり」
「ああ、そうだ。お前の理解した通りの代物だ」
赤く輝くその石は熱竜の血で出来ている。
「つまり、『俺(わたし)の血で出来たそれ』を、『装飾として贈る』……これが俺なりの決意と誓いだ」
ミルグレイスの胸はとたんに温かいもので一杯になり、気が付けば彼に飛びついていた。モルドレッドはしっかりとそれを受け止めてあやすように背中をぽんぽんと叩いた。
「これからも俺と共に生きてくれ。――弟子としてではなく、我が番(つがい)として」
散々親子の線を引こうとしたりした。意思に反して体が火照り慰みに付き合わせてしまった。そして今、葛藤に葛藤を重ねてモルドレッドが出した答えは、ミルグレイスと男と女としても歩んでいこうというものであった。
「――こういうのって、普通指輪を渡しそうだけど?」
ミルグレイスはにやにやが止まらない顔をモルドレッドに見せないように抱き着いたまま悪態をつく。もちろん声の上ずりは隠せていないので喜びはモルドレッドに通じてしまっているわけだが。
「お前、いつも籠手してるんだから指輪しても見えんだろ」
「まあ、そうだけどさ。あ、でもこういうのくれたってことは……皆にアピールして良いってこと???」
「――まあ、お守りだと思ってつけておけ」
「うん!」
束縛アイテム確定演出、高揚する気持ちを抑え、ミルグレイスはそっとモルドレッドからはなれてニコッと最上級にかわいい笑顔を見せながら、受け取ったイヤリングを早速装着して見せた。
「よく似合ってる」
「ふうん。師匠ってそういうこと、ちゃんと言えるんだ~」
「……」
にまにまと調子に乗るのが止まらないミルグレイスの指摘に頬を赤らめそっぽを向いたモルドレッドにミルグレイスは手を伸ばし、腕を絡めた。
「ふふ、じゃあ改めて、番としてもよろしくお願いいたします。師匠♪」
「ああ……」
恋人として歩き出す二人。
帰り道、ミルグレイスははっとしたようにモルドレッドの方を向き告げる。
「じゃぁ、詰所に戻ったら早速番としての夜を過ごしても良いのかな?」
と。その言葉にモルドレッドが硬直したのは言うまでもないわけだが。
「……そこまで踏み込むのは、お前が二十歳になったら考えてやる」
「待って! 今の発言もっかい言って!? 録音するから!! 言質とるから!!!」
「言うか?! 何度も言うわけないだろうが!! つか言質をとろうとするな――スマホしまえぇ!!?」
彼自身も関係を進め、一つの大きなイベントを超えたことで気が緩み大きくなっていた為に失言をしてしまい、その後しばらく何かがあるたびにミルグレイスから「ねえねえ、いつ手を出してくれるんだっけ?」とか「20歳になったら考えてくれるんだよね?」とか「下着はどんなのにしたら考えがすすむかな?」とかいろいろと問われては言質を取られそうになる日々も幕を開けるのであった。