シナリオ

見え去る神の手

#√汎神解剖機関

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 #√汎神解剖機関

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●隠れるもの
 隠れてしまいたい時がある。
 消えてしまいたい時がある。
 どこからも。
 だれからも。
 見ないでくれ。認識しないでくれ。「ここにいていいんだよ」と言わないでくれ。
 鬱々とした情動は、ノイズと混ざる。
 陰々とした表情は、明滅に照らされる。
 隠れてしまおう。
 消えてしまおう。
 さあ、この手を取って──。

●見えざるもの
「よーっす、集まったなー」
 気楽な様子で、ナナ・ヤードマン(YCの少女人形の戦線工兵・h02689)が√能力者たちへ笑いかける。
「世間話がしたいわけじゃないだろ、仕事の話さ。√汎神解剖機関で、怪異が復活する。まあいつものことだ。ちゃちゃっとやっつけてきてくれ」
 星詠みが気楽に言うほど軽い話題ではないのだが、残念ながら√汎神解剖機関は確かに、怪異と呼ばれる存在が跳梁跋扈する世界なのだ。
「ある廃ビルで、新興宗教だか何かしらの流行だかなんだか分からんが、訪れた人が失踪する事件が起きる。まあ当然怪異の仕業なんだけど、どうもテレビが関係しているようなんだ」
「テレビ?」
「その廃ビルには、壊れたテレビがぽつぽつと置かれているんだわ。テレビを調べても何も起こらないんだが、こいつが関わってるに違いないのは明らかだ。なんで、まずはこいつを調べるところから始めてもらうことになるな」
 調べても何も起きないのに調べるとは?
 怪訝な顔をする相手に、ナナはへらっと笑う。
「あんたたちなりの調べ方があるだろ。それで何が出てくるかは分からないけどな、おそらく事件解決の|緒《いとぐち》を得ることができるだろうさ」
 言って、それから少し首を傾げた。
「そうだな。失踪の原因となる怪異についての手がかりか、あるいはそいつに辿り着くことを阻む怪異か……それは、あんたたちの調べ方次第で分かるかもしれない。何にせよ、油断なく頼むよ」
 まあ心配はないだろうけどさ、と笑って、星詠みは√能力者を送り出した。

マスターより

鈴木リョウジ
 こんにちは、鈴木です。
 今回お届けするのは、かくれんぼ。

●廃ビルでの失踪事件
 とある廃ビルで、訪れた人が失踪するという、怪異による事件が起きます。
 この事件には廃ビル内に置かれたテレビが関係するようですが、詳細を掴めていません。
 まずはこのテレビを調査し、事件解決のきっかけを得てください。
 廃ビル内の通路は数人横並びで歩けるほどの広さがあり、元はオフィスであっただろう各区画もそれなりに広いものの家具などは撤去されているので、調査に複雑な手順を必要とせず、また戦闘の際に支障が出ることはありません。
 第1章の判定結果により、第2章が分岐します。
 第2章の判定結果に関わらず、第3章ではボス戦となります。

 それでは、よろしくお願いいたします。
14

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第1章 冒険 『忌まわしきゴミ』


POW 廃棄物を力任せに一掃する。
SPD 廃棄物を手早く仕分けする。
WIZ 廃棄物をついでに研究する。
√汎神解剖機関 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

神鳥・アイカ
…テレビねぇ
…まぁ十中八九アイツ関連かな?

(以前戦った敵のいやらしい笑みを思い浮かべ、廃ビルの底冷えする寒さに、はぁ~ッッッと息を吹きかけ、手を擦り合わせながら暖を取ります)
さぁどうしますかね…
こっちとら日常からオバケと同居してる世界から来てるから、きゃ~きゃ~言う初心さなんて欠片も残ってませんよっと…
(テレビは先ずは無視しながら廃ビルの構造を確認する為にズカズカ進んで全部屋を巡ります)
ふ~ん…床の埃に残った足跡の状態、遺留品を見る限り…
この辺りかな?
(状態からアタリをつけて周囲を確認)
はぁ、めんどうなのはキライなんだ
どうせ見てるんだろ?出てきなよ…
中村・無砂糖
ほほう、怪異の退治とその捜査じゃな。
なら仙人のこのわしに任せるがええのう。
「まぁとりあえずじゃ、ゴミは処分するのじゃ」
まったく……近頃の者は要らないモノ使えないモノときたらこうしてすぐ不法投棄する。
実に嘆かわしいのう…。

こういうモノはしっかり『介錯』しないといかんじゃろう
……ということでじゃ。
持参してきた不燃ゴミ袋に廃棄物を手早く得物で分解してゴミ袋に突っ込んでしっかりとゴミ袋を結び閉じて次々と捨てに出しておくとするかのう。

おおう、もしそこの能力者も廃棄物に手をつけるなら、その後片付けはわしに任せるがええ、きっちりとやるわい。
もちろんゴミ袋に突っ込んでシッカリとゴミ出し廃棄じゃ。
辻・幸太
この世界でいう失踪って大体怪異絡みじゃね? 失踪した後に発見されることってあんまないような気がするぜ……
ほっといたら危なすぎるし、俺らで何とかしないとな!

この廃ビルには色んなテレビがある感じ? 全部壊れてんのかな。そもそも電気通ってないか。
とりあえず|ゴーストモバイル《スマホ》で動画撮りながら調査するぜ。あとから見返せるし、動画にだけなんか映ったりするかも? 心霊写真的な? 怪異にはテレビが関係してるらしいから、なるべくテレビを映すようにしようかなー。

あとは【ゴーストトーク】でこの辺の|インビジブル《ひと》に話聞いてみよ。
廃ビルで変なことが起きてないか教えてもらいたいなー。特にテレビ関係!

 廃ビルに足音が響く。
 寒さとは違う、ひりとした空気を感じ取り、中村・無砂糖 (自称仙人・h05327)はふむと唸る。
「ほほう、怪異の退治とその捜査じゃな」
 なら仙人のこのわしに任せるがええのう。
 長い髭を撫でて胸を張る彼に、√能力者たちが視線を交わす。
「この世界でいう失踪って大体怪異絡みじゃね? 失踪した後に発見されることってあんまないような気がするぜ……」
 好ましくない結末を想像した辻・幸太(現・h02773)がふっと息を吐いた。
「ほっといたら危なすぎるし、俺らで何とかしないとな!」
 どのような怪異が潜んでいようとも、やるべきことは明解だ。
 新たな犠牲者が出る前に解決しなければ。
 そのきっかけを探すため、まずは分かれて調査を進める。

 神鳥・アイカ (邪霊を殴り祓う系・h01875)は、注意深く顔を巡らせて目を細めた。
「……テレビねぇ」
 ガラスが割れ落ち枠しか残っていない窓から部屋のなかを覗き込む。天井が落ちて、かつて照明を吊り下げていたであろうケーブルが力なく垂れ下がっているのが見えた。
(「……まぁ十中八九アイツ関連かな?」)
 以前戦った敵のいやらしい笑みを思い浮かべ、廃ビルの底冷えする寒さに、はぁ~ッッッと息を吹きかけて手を擦り合わせ、生まれた熱で暖を取る。
 もうずっと役目を果たしていない窓から強い風が吹き込んでこないのはありがたいが、その停滞がかえって陰鬱な衝動を想起させた。
 さぁどうしますかね……。
 どこからでも入ってくる風が、ひやりと頬を撫でる。それ自体に違和感はなく、どこかに何かが隠れていて、不意打ちを仕掛けてくるような気配はない。
「こっちとら日常からオバケと同居してる世界から来てるから、きゃ~きゃ~言う初心さなんて欠片も残ってませんよっと……」
 誰へ言うでもなく、そこここでさも当たり前のように鎮座しているテレビをまずは無視して歩を進める。廃ビルの構造を確認しながらズカズカと進んでは、すべての部屋を巡っていった。
 ドアや窓などの位置に違いはあれど、基本的には広さも形も同じようだ。しかし、部屋によってテレビがあったりなかったりその数が違ったり、あるいは|そこに誰かいた《・・・・・・・》かに思える痕跡を見つけることもあった。
「ふ~ん……床の埃に残った足跡の状態、遺留品を見る限り……」
 この辺りかな?
 室内の状態からアタリをつけ、周囲を確認する。冷たい風が、そろそろと頬を撫でているままだ。
 はぁ、めんどうなのはキライなんだ。
「どうせ見てるんだろ? 出てきなよ」
 呼びかけるが返事はない。
 ただ、それは、彼女の予想したとおりだったか、かすかに女の声が聞こえた気がした。
 しばしの沈黙のあと、アイカは踵を返して別の場所へと向かう。

 翻って別の場所。
「この廃ビルには色んなテレビがある感じ? 全部壊れてんのかな。そもそも電気通ってないか」
 注意深く内部を観察しながら独白する幸太。
 あとから見返せるし、動画にだけなんか映ったりするかも? 心霊写真的な? と、|ゴーストモバイル《スマホ》を構えて動画を撮影しながら調査を進める。
 なるべくテレビを映すようにしながら調べていくと、電源が入っていないはずのテレビの画面に、時折何かが映るような現象が現れることに気づく。
 いくつか撮影してから改めて見返せば、それは1台のみの時には起こらず、複数台、それも多ければ多いほど強く発生していた。
 これだけでは分からないなと、目を閉じ小さく祈りを捧げる。目を開けると、所在なげに佇む人の姿が見えた。
「そこの|インビジブル《ひと》、この廃ビルで変なことが起きてないか教えてもらいたいなー。特にテレビ関係!」
 √能力者の呼びかけに、|見えない怪物《インビジブル》は、少し戸惑うような素振りを見せつつも応える。
 どこからか、ノイズ音に混じって誘う声が聞こえた。それははっきりとしたものではなかったが、何か抗いがたい調子があった。
 そしてそれにつられてこのビルを訪れた人々が吸い込まれるように入り、そして二度と出てこなかった部屋には、積まれたテレビが置かれていた……。
 説明を聞きながら積まれたテレビを観察する幸太のすぐそばで、ぱつりと音が立つ。
 床に残された足跡は、テレビに向かいテレビの前で消えていた。

「まぁとりあえずじゃ、ゴミは処分するのじゃ」
 唸る無砂糖の視界には、不自然に置かれたテレビ以外にも、犠牲者にならなかった侵入者が置いていったであろう様々なものが散乱していた。
「まったく……近頃の者は要らないモノ使えないモノときたらこうしてすぐ不法投棄する。実に嘆かわしいのう……」
 無砂糖の悲嘆が建物内に反響していく。
 不穏な話のある廃墟であれば、怖いもの知らずの不届き者が訪れて『ゴミ』を置いていってもおかしくはない。
「こういうモノはしっかり『介錯』しないといかんじゃろう」
 ……ということでじゃ。
 ばさばさと取り出したのは、大きな不燃ゴミ用のゴミ袋。得物を抜いて手早く廃棄物を分解すると、手際よく突っ込んでいく。ある程度まで入ればしっかりとゴミ袋の口を結んで閉じて、次々と捨てに出せるように始末する。
 他の場所から探索を進めていた√能力者と出くわせば、情報交換を兼ねて声をかけた。
「おおう、もしそこの能力者も廃棄物に手をつけるなら、その後片付けはわしに任せるがええ、きっちりとやるわい」
 もちろんゴミ袋に突っ込んでシッカリとゴミ出し廃棄じゃ。
 彼の申し出を受け、事件に無関係そうな廃棄物の情報を提供する。それを元に、可能な限り廃棄物を片付ける。
 ためらいのない『介錯』をどんどんと進めていく√能力者を前に、電源もなく床に置かれたままで動かないはずのテレビが、戦慄し身を寄せ合って震える素振りを見せたようにさえ思えた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​ 成功

野原・アザミ
連携、アドリブ等はお任せします。

いわゆる神隠しというものでしょうかね。

この廃ビルも、もともとはどこかのオフィスが入っていたのでしょうけれど、今がこういう状況ならどんな会社だったのかは…まぁ、今更ですね。
このテレビだってかつての会社の備品だったのか、それとも此処が廃ビルになってから持ち込まれたものなのか。
とりあえずテレビの製作年数を確認。
最近のものなのか、それとも古い年代のものなのか。
壊れているようだから画像が出ることはないだろうけど、念の為確認。
そして、サイコメトリ。
もしも何らかの残留思念があれば教えてもらいたい。

まさか、テレビの中に取り込まれてるとか、ないでしょうね?
しゅ・らる・く
■アレンジ/共闘OK
無知の子 解説/話の聞き役・余計な行動しいなど歓迎
走り回りよく笑う 人の指示は素直にうん!と聞く幼児
パワータイプ

-
「ひろいー!」
いっぱい走れるからたのしー!
てれびどこかなー? シューがみつけたいもん!

色んなもの、木の棒で叩いてみる!
「てれびやーい、いますかー?
 てれびはしかく。これかなー?」
てれびの周りをぐるぐる
「あ、よこ!ボタンいっぱい!えいえいえい!!」
うーん?
(端子)穴に指、入ら…ないっ!
「おい、おはよー?」
画面を覗き込み、木の棒でつんつん…

(怪異起きたら)
「しゃべったあああ!」
裏に回り込んだり、よじ登って上から後ろ覗いたり

「どこいる?オマエ。シューもそこ行きたい!」
都留・臻
分かりやすい仕事は好きだ。
デットマンズ・チョイスー二個下の弟が得意だったんだよな、腕力任せ

まずはテレビの配置をそれとなく眺めてみるぜ
いや、効率良さそうなとこから始めないとな
で、動線だいたい決めたら、片っ端から鉄棍で潰し回る

他の能力者に諌められたら一応話は聞くようにしておくか
ん、そしたらこっちのはぶち壊していいか?

まぁ一応、中から異音ー特にヒトの声がしたら手を止めて覗き込むけどよ

何か厄介ごとが起こったら-それこそ潜んでいた敵が出てきたりしたら
出来る限り前衛として振る舞うかね
受け流し肉壁殴る蹴るあたりは得意だぜ

消えてしまいたい時?
消えちまってるおれたちには関係ないね。

アドリブ、他能力者との絡み歓迎

 野原・アザミ (人間(√妖怪百鬼夜行)の|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》・h04010)は、廃ビル内の状態を見ながら口を開く。
「いわゆる神隠しというものでしょうかね」
 |犠牲者《誰か》がいた痕跡はかすかにあれども、何かが行われた痕跡はない。ということは、手が下されたのは、少なくともこの建物内ではないのだろう。
 ただしそれは、あくまでも『この建物内』というだけで、神隠し……つまり、怪異によって異空間などに連れ去られた可能性はある。
 アザミの推測に、都留・臻(|枳殻《きこく》・h04405)は少し考え、そのきっかけを見出すためにどうすればいいか見当をつけた。
「分かりやすい仕事は好きだ」
 さっと廃ビル内を歩いてみても、何かしらの儀式などが行われた様子はない。
 逆に言えば、特殊な手順を踏まずにその事象を起こすことが可能ということだろうか。
(「二個下の弟が得意だったんだよな、腕力任せ」)
 想起された記憶に促され、その腕力が強化される。鉄棍を手に、まずはテレビの配置をそれとなく眺めてみた。
「いや、効率良さそうなとこから始めないとな」
 状況把握は大切だ。臻の言葉を受け、アザミも視線を巡らせる。
(「この廃ビルも、もともとはどこかのオフィスが入っていたのでしょうけれど、今がこういう状況ならどんな会社だったのかは……まぁ、今更ですね」)
 このテレビだってかつての会社の備品だったのか、それとも此処が廃ビルになってから持ち込まれたものなのか。
 思案し、ぽつんと佇むテレビの山を観察する。会社の備品であれば統一されているだろうが、様々な大きさやデザインのものが集まっている。
 特に異常な様相を見せないため、とりあえずテレビの製作年数を確認する。最近のものなのか、それとも古い年代のものなのか。それも様々で、メーカーも様々だ。
 壊れているようだから画像が出ることはないだろうけど、念の為確認。それから、そっとテレビに触れた。
 誰にも使われないまま廃棄されたようにも思えない。
 もしも何らかの残留思念があれば教えてもらいたい。念じて請うと、情動が伝わってくる。
 それは、助けを乞うものではない。
 受け入れられることは救いではないという自己否定。世界中の誰もが許しても、ただひとりだけ、自分が自分を許せない。
 消えてしまいたい。存在するという記憶。存在する痕跡。存在そのもの。
 そんな時に、|テレビから聞こえてきた《・・・・・・・・・・・》。
 隠れてしまおう。
 消えてしまおう。
 さあ、この手を取って──。
「消えてしまいたい時?」
 ひりとした声音で臻が反芻する。
「消えちまってるおれたちには関係ないね」
 言って、鉄棍を振り上げた。
 戦闘となった際の動線は決めた。おとなしく眺めているのは終わった。
 力任せに得物を振り下ろすと、神経質な破壊音を上げてテレビが変形し、内部が覗く。
 もう一度同じ動作を繰り返すが、破壊されていく様子に異常はなく、音や残骸に異物が混じることもない。
「よし、次」
「それでいいのかしら……」
 まったくシンプルな破壊行為に、アザミが眉をひそめる。行為そのものを咎めるのではなく、それが解決策となりうるのだろうか。
 しかし、受け身のままでは情報の切れ端を得るだけだ。これぐらい積極的に動くべきか。
 次のテレビの群れを探しながら考えていると。
「ひろいー!」
 あどけない声と足音が響き、√能力者たちはそちらを見た。
「いっぱい走れるからたのしー!」
 軽快に走り回るしゅ・らる・く (彷徨う|穂先《スピカ》の・h02166)。
 てれびどこかなー? シューがみつけたいもん!
 という声が、まさしく流星のごとく流れていく。
 先行した面々によっていくらか片付けられているので、確かに広々として、はしゃぎまわりたくなるのは分からなくもない。
 元気いっぱいの彼が取った行動は。
 色んなもの、木の棒で叩いてみる!
「てれびやーい、いますかー? てれびはしかく。これかなー?」
 テレビの周りをぐるぐると眺め、
「あ、よこ! ボタンいっぱい! えいえいえい!!」
 叩くに近い勢いで押していく。
 うーん?
 首をひねって、次に端子部分を触り、穴に指、入ら……ないっ!
「おい、おはよー?」
 画面を覗き込み、木の棒でつんつん……。
 あまりに自由な振る舞いに、臻がアザミに問う。
「ん、そしたらこっちのはぶち壊していいか?」
「そうね……それぐらいしてもいい気がするわ」
 落書きとかされないだけマシかも知れない。
 と。
 …………────。
 何か。
 ノイズめいた音が聞こえた。
 √能力者たちが身構え注視するなか、不意にテレビの画面が昏く灯り、|砂嵐現象《スノーノイズ》が映る。
 ざりざりとした砂嵐は波打ちうねり、
「|廃棄物《ゴミ》でも何でも、好き放題していいと思うなよ!!!!」
「しゃべったあああ!」
 男性とも女性とも、老人とも子供とも取れる、幾重にも重なったようでひとつの声にも聞こえる怒声が、廃ビル内の空気を震わせた。
 突然のことに驚きはしたが、すぐに気を取り直して裏に回り込んだり、よじ登って上から後ろを覗いたりして調べる。
「どこいる? オマエ。シューもそこ行きたい!」
「来るな!!!!」
 いっそ無邪気とさえ思える問いには、やはり怒声が応える。明滅する画面のなかで、異形の腕が何かを掴もうとする映像が映し出された。
 その何かの姿は、ノイズが走るごとに切り替わる。
 それはあるいは見知らぬ誰かであり、あるいは……この場に集う√能力者たちであった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​ 成功

第2章 集団戦 『ヴィジョン・ストーカー』


POW 影の雨
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【影の雨】で300回攻撃する。
SPD 影の接続
半径レベルm内の味方全員に【影】を接続する。接続された味方は、切断されるまで命中率と反応速度が1.5倍になる。
WIZ 影の記憶
知られざる【影の記憶】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
イラスト 志摩 ほむら
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

しゅ・らる・く
■アレンジ/共闘OK
近接・POW

-
おー、おてて!
「こんにち……うわわっ、雨ー!?」
天井は?
お顔を上げてかくにんっ!
「ある!雨!なんで?いたいいたいっ!」

「みんなたち!あぶないっ!シューがまもってあげるね!!
 離れたトコから『エイエイ!』していいよ!!」
シャキーン!うぉー!
シューはてれびに走って、木の棒で『えいっ!』する

雨いたいっ!
さっきの、おめめ開けれないー!う、涙でてくるっ!
…シュー強いもん、おめめつぶってても分かる!
「あたれー!!」
振り下ろし!

当たった?
当たってない?

「んもー!!ここシューの陣地!シューだけ強い!わかった!?」
諦めない!当たるまで…ズバシュっ!ズバシュッ!(お口で効果音)
野原・アザミ
連携、アレンジ等お任せします

さて、そうきたか。
こいつらは無理矢理に人を連れ去ったのではなく、消えてしまいたいと思う人たちをうまく利用して集めたってことかしら。
でも、何の為に?
そりゃ、夜中に独りでぽつんとテレビを観てる時にふと孤独を感じることはあるかもしれないけど…
まさか、独りぼっちが寂しくてそういうお仲間を集めてみたとか?
いやいや、まさか…まさかよね?
事情はともかく、まずはこの厄介なテレビのお化け達を何とかしないと。
邪魔なやつらは排除するのみ。
装備した卒塔婆をぶん回して薙ぎ払う。バラバラと降ってくるお化けの攻撃が地味に厄介なので、確実に一体ずつ仕留めていこう。
都留・臻
おーおーようやくお出ましじゃねぇの
オチビに絡まれんのがよっぽど気にくわなかったか?
混戦必死ってとこか?そしたら俺は前衛肉壁一本だろ

鉄棍七尺の領域内にいる敵はまとめてなぎ倒し
敵味方の位置によって突き、払いを切り替え対応
先に配置を意識して捉えてたのが活かせればいいんだが
必要に応じて、味方に警戒呼びかけ
特に周辺を強化するような動きを見せた敵がいたら肉薄
周囲の仲間に『離れてろ!』—1644-Bizzarria発動
外れても相手の行動成功率を下げられれば御の字だ

ところで、消えた奴らはどこだ?
(一応軍属だった身、安否確認)
吐くかそこに連れてくかしねぇと、「好き放題」しちまうぜ?

アドリブ、他能力者との絡み歓迎

 ぞぶぞぶと、昏いはずのテレビ画面から闇が溢れ、漆黒の腕が現れ伸びてゆく。
 あるものは這いずるように。あるものは掴もうとするように。
「おーおーようやくお出ましじゃねぇの。オチビに絡まれんのがよっぽど気にくわなかったか?」
 鉄棍を抜きながらの臻の挑発的な言葉を受けてか、ぎぢぎぢと腕を蠢かせ、テレビの怪異……ヴィジョン・ストーカーたちは数を増やしつつある。それは、増殖しているということではなく、周囲にいる怪異が集まってきているようだ。
(「混戦必死ってとこか? そしたら俺は前衛肉壁一本だろ」)
 そう判断すると、無骨な鉄棍を構えて足に力を込めた。同時に、群れ集まってくる怪異が飛びかかり、できる限り多くを鉄棍のその七尺の領域内に捉えてまとめてなぎ倒す。
 倒しそこねた敵を、アザミが得物の卒塔婆を一閃して確実に仕留める。敵味方、そして仲間との位置をよく注意しながら、臻は払いから突きへと攻撃を切り替える。
 先の探索で把握したテレビの多寡や配置は、移動や集合により変化しつつあったが、それでも大きく速いものではない。
 先ほどテレビを好き放題に叩いたりつついたりしていたシューの回りに、心なしか少しだけ多めに集まっているように思えた。
 おー、おてて!
「こんにち……うわわっ、雨ー!?」
 場違いに元気なシューの挨拶を遮るように、黒い雨が降り注ぐ。影の雨は√能力者たちを激しく穿ち、ひとつひとつは小さいものの、決して無視できないダメージとなる。
 天井は?
 お顔を上げてかくにんっ!
 気象現象でない雨は、屋内であろうと降り来る。
「ある! 雨! なんで? いたいいたいっ!」
 ぱたぱたと走り回っても、遮蔽物のない戦場のどこにも逃げ場はなく、避けることができない。
 降りしきる影の雨のなかで、怪異が腕を伸ばしてくる。捕まえようとしているのか、害そうとしているのか。今は、こちらが敵対行動を取っているために攻撃的なのだろう。
 さて、そうきたか。
「こいつらは無理矢理に人を連れ去ったのではなく、消えてしまいたいと思う人たちをうまく利用して集めたってことかしら」
 でも、何の為に?
「そりゃ、夜中に独りでぽつんとテレビを観てる時にふと孤独を感じることはあるかもしれないけど……」
 まさか、独りぼっちが寂しくてそういうお仲間を集めてみたとか?
 今はそんな気持ちにはならないが、落ち込んでいる時にあのノイズを聞いていたら、孤独を刺激されることもあるかもしれない。
「いやいや、まさか……まさかよね?」
 事情はともかく、まずはこの厄介なテレビのお化け達を何とかしないと。
 邪魔なやつらは排除するのみ。
 とん、と手にした卒塔婆で手のひらを叩くと、素早く持ち替え振り回す。襲いかかってくるヴィジョン・ストーカーを薙ぎ払って、
(「あの攻撃、地味に厄介だな」)
 ダメージ自体はそれほどではないが範囲が広く、回数も多い。あれを何体も一度にやられたら。
 確実に一体ずつ仕留めていこうと、襲いかかってきた怪異を叩き伏せた。
 臻が警戒するような、周辺を強化するような動きを見せるものは見えなかったが、何体もが集まり連携して攻撃してこようとするのが見えた。
「離れてろ!」
 鋭い警告──1644-Bizzarriaを発動させ、敵へと肉薄する。
 ヴィジョン・ストーカーにとっては、攻撃威力と精度を高めようと集まったのが裏目に出た。鉄棍の長大な攻撃範囲にもろとも入り、いちどきになぎ倒された。
 範囲外に避けていた怪異が、再び影の雨を降らせる。
「みんなたち! あぶないっ! シューがまもってあげるね!! 離れたトコから『エイエイ!』していいよ!!」
 シャキーン! うぉー!
 効果音や雄叫びを叫びながらテレビの怪異へと走っていくシュー。
「雨いたいっ! さっきの、おめめ開けれないー! う、涙でてくるっ!」
 ぎゅっと目をつぶって、思いきり木の棒を振りかざした。
 ……シュー強いもん、おめめつぶってても分かる!
「あたれー!!」
 振り下ろし!
 …………。
 当たった?
 当たってない?
 目を開けると、影の腕が彼目掛けて伸びてくるのが見えた。
 素早く木の棒を前に構えて攻撃を受け止め、
「んもー!! ここシューの陣地! シューだけ強い! わかった!?」
 諦めない! 当たるまで……
 ズバシュっ! ズバシュッ!
 激しい勢いで叩き込まれ……ているわけではない攻撃は、シューの口から放たれる擬音で強化されている……ような気がする。
 いや、実際にそうなのだ。攻撃が当たらないことで、彼の周囲は【彼だけが強い】空間となる。怪異の攻撃や回避は目に見えて失敗するようになり、対称的にシューの攻撃が当たるようになっていた。
 得物を画面のなかに叩き込んで、臻は怪異を睨みつける。
「ところで、消えた奴らはどこだ?」
 個人的な心配ではない。それは、彼が一応軍属だった身としての安否確認だ。
「吐くかそこに連れてくかしねぇと、「好き放題」しちまうぜ?」
 脅迫を含めた問いに対する答えは、神経を逆撫でするノイズだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​ 成功

中村・無砂糖
「ふぉっふぉっふぉ、ゴミが喋り蠢くとは摩訶不思議じゃのう」

こういうときはその、アレじゃ!
暗いしジメジメしてるし、いちいち『処分』するのも面倒くさいし、この辺りの明かりも兼ねて纏めて焼却処分といのうかのう!

というわけでさっそく仙術…√能力を扱うわい
「仙術……オーライベイベーじゃ」
仙術決戦気象兵器「サンバースト」を呼び寄せ天井を突き破るサテライトビームで明かりを得ながら
そこの廃棄物…怪異を光と熱で燃やしてみるのじゃ
「ふぉっふぉっふぉ、なかなか良い仙術であろう?」

(アドリブ・絡み連携などOKじゃ)
辻・幸太
レトロなテレビはぶ厚いから、怪異が入るスペースがある感じ? あんま関係ない?

とりあえず右手でテレビを触れれば【ルートブレイカー】で何とかなるか? けど、俺が抑えられるのはたくさんあるテレビのうちの1つだけだ。テレビ同士の根っこ? がつながってたりすれば怪異全体に効果があるかもだけど、そこはわかんない!
ま、こっちも人数はいるわけだし、あとは皆にまかせるぜ!

あのテレビが降らせる雨、地味に痛い! っても避けらんないし、右手を上にあげて触れた分無効化するしかないかなー。
雨粒1滴に触ったら全部無効化される! とかだったらいいけど、効果範囲は俺にもよくわかんないんだよな。できるだけやってみるしかないぜ!
エディッサ・エヴァーフィールド
ひとりになりたい気持ち、分かるわ
どうしようもなく寂しい気持ちになって、ここではないどこかへ行きたくなるの
だけど、だからって本当にどこかへつれていってしまうのは、間違っているわ

私は強くないから、他の人のお手伝いね
攻撃は、できるだけ離れたところから援護する形
レインでダメージを与えて、他の人が倒しやすくするわ
攻撃はレーザー射撃をメインに、敵に近づかれそうなら、効果があるか分からないけど歪みで弾き返してみるわね

ごめんなさいね、まだ少し戦い方が分からないの
次はもっとうまく戦えるように頑張るわ

 影の腕の間から、テレビ画面が誘うように明滅する。
 注意深く怪異の様子をうかがいながら、エディッサ・エヴァーフィールド(いきさきはまだしれず・h05711)はそっと溜息をついた。
「ひとりになりたい気持ち、分かるわ」
 どうしようもなく寂しい気持ちになって、ここではないどこかへ行きたくなるの。
 目的があるわけではない。行き先があるわけではない。望むのは、誰もいない、誰も知らない場所。
「だけど、だからって本当にどこかへつれていってしまうのは、間違っているわ」
 たとえそれを望んだとしても、その苦しみを抱えて生きていかなければならないのだから。
 ヴィジョン・ストーカーは、ごづごづと重い音を立てて地面を這いずりながら、影の腕を蠢かせる。
 その音のなか、かすかに聞こえた。
 さあ、この手を取って──。
 最前聞こえた、悲鳴じみた拒絶とは違う。群れなす怪異の、そのテレビ画面のいくつかに、影の腕とは違う|白い腕《・・・》が、不鮮明に映って消えた。
 奇妙な現象に、幸太が首を傾げる。
「レトロなテレビはぶ厚いから、怪異が入るスペースがある感じ? あんま関係ない?」
 今の薄型テレビよりも前のテレビは、電子レンジほどもある大きな箱だ。しかし、腕だけの怪異だとしても、なかに収まるには少々無理があるように見えた。
 あるいは、失踪した人々を連れ去ったのは、この怪異ではないのか?
 浮かんだ疑問を、無砂糖の笑声が払う。
「ふぉっふぉっふぉ、ゴミが喋り蠢くとは摩訶不思議じゃのう」
 あるいは、怪異だからこそ、摩訶不思議なのだろう。
 ともあれ、真相に至るためのきっかけは得た。
「こういうときはその、アレじゃ!」
「アレ?」
「暗いしジメジメしてるし、いちいち『処分』するのも面倒くさいし、この辺りの明かりも兼ねて纏めて焼却処分といこうかのう!」
 何のことだろうと仲間たちが怪訝な顔をするなか、さっそくと√能力……彼にとっての仙術を扱う無砂糖。
「仙術……オーライベイベーじゃ」
 真意の読めぬ笑みを浮かべ、仙術決戦気象兵器「サンバースト」を呼び寄せる。照射される太陽の如き光と熱のサテライトビームが、天井を突き破り周囲を照らし出して、ヴィジョン・ストーカーを灼いて燃やす。
 プラスチックが燃え焦げるのとは違う不快な臭いを吐いて、怪異は炎を消そうとごづんごづんと転げまわっては近くのものとぶつかった。
「ふぉっふぉっふぉ、なかなか良い仙術であろう?」
 そう口にする無砂糖はどこか自慢げで、どれ次はと構えた直後に、勢いよく転がってきたヴィジョン・ストーカーにはねられた。
 同様に自身へ向かって突進してくる怪異を、幸太がのたうち回る群れのなかへと蹴り込めば、連鎖的に激しくぶつかり動きを止める。
(「とりあえず右手でテレビを触れれば【ルートブレイカー】で何とかなるか? けど、俺が抑えられるのはたくさんあるテレビのうちの1つだけだ。テレビ同士の根っこ? がつながってたりすれば怪異全体に効果があるかもだけど、そこはわかんない!」)
 思考を巡らせるが、どこまで思い通りに能力を行使できるか、彼自身にも把握できていない。
 どのようにも使えそうであるし、制限があるようにも思える。使い手次第のようにも考えられたが、今はそこまで考えている場合ではない。
「ま、こっちも人数はいるわけだし、あとは皆にまかせるぜ!」
 言い放って、幸太は炎を携えて敵の群れへと駆け出した。
「ええ、任されたわ」
 その背を見つめ緊張気味に頷いて、エディッサがすと手を掲げる。彼女もまた決戦気象兵器を操り、無砂糖によって破壊された天井から、幸太の周囲を中心に、レーザービームの|雨《レイン》が降り注いだ。
 ざがざがと外殻を穿たれ、もがくように暴れる怪異の腕。それをかいくぐった1体が地面を掴んだと思うと、驚異的な素速さでエディッサを狙って飛びかかる。思わず上げそうになった悲鳴をこらえて、世界の歪みで攻撃ごと怪異を飲み込み、どこか遠くへと放り出しながら敵から距離を取った。
 なおも彼女を狙おうとする敵の群れを、幸太の破壊の炎が焼き払う。
「あのテレビが降らせる雨、地味に痛い! っても避けらんないし、右手を上にあげて触れた分無効化するしかないかなー」
 顔をしかめたその時、まさにその影の雨が√能力者たちへ|沛然《はいぜん》と叩きつけられる。雨粒に触れた瞬間、小さな針で突かれる程度の痛みが走った。
 それが全身を打つのだから鬱陶しいし、わずかなダメージと看過するには侮れない。
(「雨粒1滴に触ったら全部無効化される! とかだったらいいけど、効果範囲は俺にもよくわかんないんだよな。できるだけやってみるしかないぜ!」)
 ざあっと右手を掲げて、降りしきる雨を払うように振るう。
 影の雨は広範囲を射程とする攻撃であるため、完全に無効化するには至らない。だが、少なくとも彼の周囲には影響を与えられるようだ。発生源と思しき怪異を周りごとなぎ倒せばすぐに雨はやみ、替わってビームの雨が怪異へ滂沱と落ちはじめた。
 無砂糖とエディッサによりじりじりとダメージが蓄積されていく怪異へ、幸太がとどめを刺していく。
「逃げるなよ!」
 最後に残った、ごろんと転げたヴィジョン・ストーカーを捉え、渾身の一撃を叩き込む。
 画面から伸びていた腕が音もなく消滅し、テレビだけが残ったかと思うと、少し遅れてそれも消えた。すべてのテレビが消えるわけではなく、怪異が消えて抜け殻のようになったものもあるようだった。
 倒されたふりをしているものがないか確認し、つかの間の安堵を得る。
「ごめんなさいね、まだ少し戦い方が分からないの」
 次はもっとうまく戦えるように頑張るわと、困ったような表情で告げるエディッサへ、仲間たちは大丈夫と笑いかける。
 誰もが最初はうまくできないのだから。
「うむうむ、ではわしが戦闘の手ほどきをしてやろうかのう。なに、遠慮はいらんぞ」
 首肯して彼女へ提案する無砂糖。
 エディッサはやはり困ったような表情で頷きかけ、しかしふと表情を引き締めた。

 さあ、この手を取って──。

 先ほどよりもはっきりと、声が聞こえる。
 そして、巨大な白い腕が、√能力者たちへと差し伸べられた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​ 成功

第3章 ボス戦 『神隠し』


POW 攫う『かみのて』
【虚空より生える無数の『かみのて』】を用いた通常攻撃が、2回攻撃かつ範囲攻撃(半径レベルm内の敵全てを攻撃)になる。
SPD 増殖する『かみのて』
自身の【かみのて】がA、【かみのうで】がB、【かみのかいな】がC増加し、それぞれ捕食力、貫通力、蹂躙力が増加する。ABCの合計は自分のレベルに等しい。
WIZ 荒ぶる『かみのて』
【虚空より生える『かみのて』】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【掴む腕】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
イラスト 八木ふつき
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

 隠れてしまおう。
 消えてしまおう。
 明滅とノイズに誘われた者を迎える巫女。
 隠してしまおう。
 消してしまおう。
 その背後から巨大な腕が差し伸べられる。
 そして巫女もまた自らの手を差し伸べた。
 さあ、この手を取って──。
 巫女の手を取るか、それとも取らないか。
 どちらにせよ、無事に帰れることはない。
 であるなら、取るべき行動はただひとつ。
野原・アザミ
来た。
これが神隠しの本体ですね。
隠してしまいたい、消えたいと思う理由もあるでしょう。
でも、だからってあの手をとってはいけないのよ、絶対に。

あれは増殖するのか、厄介ね。
でもあたしには範囲攻撃する手段がないから、目の前にいるあれをひとつずつ潰して行くしかない。
なるべく大振りしないように、捕獲されないように動き回る。
あんたみたいなやつ大嫌いよ。
はじめは優しく味方ですって顔して近づいてきて、懐かせてから突き落とす。
絶対に許さない。

これを倒せば消えた人たちは戻ってくるかしら?
…まぁ、きっと感謝はされないでしょうけどね。別に気にしませんけど。
生きてるだけでも充分よ。

連携、アドリブアレンジお任せします
しゅ・らる・く
アレンジ/共闘OK
近接・POW
-
手を取って、っておねえちゃん
|おねえちゃん《巫女》のおててをじぃってみる

「おいでー?…うー?」
ずっと…かくれんぼ?
かくれんぼしたいのか、どーしよ…
シューも、かくれんぼ、得意だから、でもぉ…

隠れるのは得意
それで、そうしてると、ずっと、おもうんだ
『誰かシューのこと、はやく、みつけてくれないかな』って…
…ずっと、おもわなくちゃいけない

うんうん、伸ばしてるおてての数ってそういうことだ、シューはかしこい!
だから、えーっと
おねえちゃんのたっくさんのおててと右手であくしゅっ!
全部ぜーんぶ!
それでシューはいうの!

「おねえちゃん、みーつけたっ!」
かくれんぼは、お仕舞だ!
都留・臻
「遅ぇんだよ!」
口上なんざ聞いてられるか

鉄棍での突きを主体に距離を意識
味方の遠距離攻撃手が居ればそいつの射線上に誘導を試み
敵が手の内を見せるような有効距離まで詰める

相手の大腕がPOWで仕掛けてくるようなら
受けて立とうじゃねぇか
ツナギの上を脱ぎー

「いいぜ、こっちだ!『おれたちを、見ろ!』」
1825-Adamii 発動

敵味方の射線に入ろうが多少身体が抉れようが
前に立ち、進み続けろ
それが叶う肉を持つ身だろう

おれたちはデッドマンなんだぜ



責め立てる自分の声が、自分だけのものだと
自認できるオマエらは、まだーー

……いや
こんな問答に意味は無ぇな

基本ダウナー
連戦にやや興奮気味
台詞含め諸々アドリブ無問題、連携歓迎
中村・無砂糖
おおう、わしには隠したい髪がもう無いし
それにコレはただの挨拶の握手てわけでもないじゃろう?
「手を取るのはわしはノーセンキューじゃ」

ただならぬ怪異の気配じゃのう
「ふむ…なら、ちょいと真面目になるかのう」
どろん煙幕で自身と周囲の仲間を煙で隠してから
わしは仙術…超スーパー仙人モード3に変身じゃ!

決気刀をケツに挟み込んでいざ─!

2倍にしたパワーと跳躍力と勇気とケツ(決)意で相手のかみのてを切断していきながら、相手の隙を作ることに専念じゃ
「この老いぼれのあとに続くのは若人の番じゃ」
わしのあとに続く仲間の能力者に敵の大きな隙を大チャンスをフォーユーじゃ

あ、掴まれてビタンビタン叩きつけられるのはちょ…まっ!

 |それ《・・》が現れた瞬間、この場の空気が変わったようにすら感じられた。
 来た。
「これが神隠しの本体ですね」
 アザミの言葉に、√能力者たちもまた理解する。これが、人々をどこでもないどこかへ連れ去っていったのだと。
 まだあどけなくさえ思える姿の女……巫女は、慈悲深い笑みを浮かべて手を差し伸べる。

 隠れてしまおう。
 消えてしまおう。

 隠してしまおう。
 消してしまおう。

 さあ、この手を取って──。

 胸の内側をそろりと撫であげる声はあくまでも静かに、巫女の周囲に浮かぶ巨大な『かみのて』が優しく包み込む形を取る。
 憔悴しきった心でそれを聞き、正体を失った目でそれを見れば、手を離したボールが坂を転がり落ちていくかのごとく、すぐさまその手中へと落ちるだろう。
 こちらへ向けられた巫女の手を、シューはじっと見つめる。
「おいでー? ……うー?」
 ずっと……かくれんぼ?
 誘うのは、永遠に見つからない、見つけられないかくれんぼ。
 かくれんぼしたいのか、どーしよ……
「シューも、かくれんぼ、得意だから、でもぉ……」
 巨大な手は、どれほど大柄な相手でも、あっという間に隠してしまうに違いない。
「おおう、わしには隠したい髪がもう無いし」
 無砂糖が禿頭に触れ、それからじらりと睨めつけた。
「それにコレはただの挨拶の握手てわけでもないじゃろう?」
 老獪な視線を受け、巫女は笑みを消さない。ただ、背後の手がぎしりと蠢く。
「手を取るのはわしはノーセンキューじゃ」
 √能力者の拒絶に怪異がなおも誘おうとしたその時、
「遅ぇんだよ!」
 鉄棍を手に、臻が力強く踏み込む。口上なんざ聞いてられるか。
 敵対行為を認めたかみのてが、√能力者へと襲いかかる。臻は仲間たちの前へ立ちながら長大な得物を巧みに扱い、捕らえられないよう注意しつつ衝き掛け攻め立てた。
 はたはたと増えていく巨大な手は、よく見れば巫女を守るものと攻撃を仕掛けるものとに分かれているようだ。
 ただならぬ怪異の気配じゃのう、と霊剣を手に唸る無砂糖。
「ふむ……なら、ちょいと真面目になるかのう」
 唸って放ったどろん煙幕がかすか吹く風に乗って広がり、自身と周囲の仲間の姿が隠されてゆく。
 敵対者を見失いつつある巫女は、不意打ちを警戒して自身を守るてを増やしながら、半ば乱暴に払おうと煙幕のなかにかみのてを突き込んだ。
 その時、
「『仙術、超仙人モード』」
 詠唱とともにカッ、と煙幕が光る。
 煙をまとって現れた無砂糖は、決気刀をケツに挟み込んでいざ─!
 キリッと意気込む無砂糖の姿に、ほんのわずか、奇妙な空気が流れた。
 尻の霊剣士という立場である彼にとっては、それは得手の剣術であり(手で持ったほうが扱い易いけど)、|超スーパー仙人3《チョウスーパーセンニン・スリー》へと変身すれば、その力も倍増である。
 しかし、神隠しの怪異には、尻に霊剣を挟み込んだ相手と相見えるとは、と戸惑うような気配があった。
 ──えっ。
 それまで誘う言葉を繰り返すばかりだった怪異がはっとして、対抗してかみのてを操り異様の霊剣士を迎え撃った。だが、2倍にしたパワーと跳躍力と勇気と|ケツ《決》意で、無砂糖はかみのてを切断していき討ち減らす。
 移動や攻撃の速度こそ変わらないが、一撃ずつのダメージは増えている。また、跳躍力を活かして、かみのてを足場や盾にするなどしながら繰り出される剣撃に怪異は翻弄され、少しずつ隙が生じていった。
「この老いぼれのあとに続くのは若人の番じゃ」
 ひときわ大きく跳躍して、その勢いのままひといきに一閃を放って複数の敵をいちどきに斬り伏せる。攻め手であるかみのてが減り薄くなったところへ、アザミが得物を大上段から落として討ち払った。
「隠してしまいたい、消えたいと思う理由もあるでしょう」
 誰だって、いつでも胸を張って前を向き、笑っていられるわけではない。背を丸めて後ろを向き、胸を掻きむしりながら膝を突き、頭を抱えることもあるだろう。
「でも、だからってあの手をとってはいけないのよ、絶対に」
 あんなものが救いであってはならない。
 アザミの拒絶に、怪異は目を細めた。この手を取らないのなら、この手で捕らえよう。
 づくづくとかみのてを増殖させると、一網打尽にせんと√能力者たちへ覆いかからせる。
 受けて立とうじゃねぇか。
 臻はツナギの上を脱ぎー
「いいぜ、こっちだ! 『おれたちを、見ろ!』」
 ──|1825-Adamii《ラバーナム》。
 大喝を受け、巫女の周囲にあるもの以外のかみのてが一斉に彼のほうへ向いた。攻撃を仕掛けてきたのはすべてではないが、決して少なくはない。
 それでも、彼は鉄棍を構えて躊躇することなく向かう。ただひたすらまっすぐに、敵を屠るために。
 敵味方の射線に入ろうが多少身体が抉れようが前に立ち、進み続けろ。
 それが叶う肉を持つ身だろう。
 死して生きる自分の持てるものを、最大限に行使するだけだ。
 広範囲に幾重と重なり、もろとも叩き潰そうとするかみのてに、鉄棍を突き立てる。
「おれたちはデッドマンなんだぜ」
 言って、ひと薙ぎに叩き伏せた。
 減ってなお、ぞぶぞぶとかみのてが数を増す。
「あれは増殖するのか、厄介ね」
 かみのて自体はそれほど強くないようだが、増えれば増えるほど厄介になる。そのうえに、群れて行動する。
 しかし、彼女には複数を巻き込める範囲攻撃の手段がなく、目の前にいるあれをひとつずつ潰して行くしかない。なるべく大振りしないように卒塔婆を振るい、周囲に気を配って捕獲されないよう動き回ることを意識して、確実に狙っていく。
 相対した当初の余裕ぶった表情ではないが、それでもまだ笑みを消さない怪異。
「あんたみたいなやつ大嫌いよ」
 はじめは優しく味方ですって顔して近づいてきて、懐かせてから突き落とす。
 絶対に許さない。
 武器を手に睨みつけた。
 シューは、隠れるのは得意。
 それで、そうしてると、ずっと、おもうんだ。
「『誰かシューのこと、はやく、みつけてくれないかな』って……」
 ……ずっと、おもわなくちゃいけない。
 それは、彼が誰かと触れることを受け入れているから。
 この幼い感性は、自分が存在することを自分自身が許さないことなど、埒外なのだ。
 見つけないでくれ。「ここにいる」と認識しないでくれ。「見つけてあげる」と言わないでくれ。
 そう望む心など知り得ない。
 だからこそ、彼はその手を伸ばして触れられる。
 受け入れるのではない。拒絶し、引き戻すために。
 うんうん、伸ばしてるおてての数ってそういうことだ、シューはかしこい!
 だから、えーっと。
 シューを捕らえようとするいくつもの手をかわさず、逆に右掌を触れさせ握手する。途端、かみのてはびたりと動きを止めると、崩れるように消えた。
 彼の手はただ触れるのではなく無効化するのだと、巫女が気付きかみのてを戻そうとするが、シューはそれを追いかけ可能な限り触れて消していく。
 他方、決気刀を器用に振るって戦う無砂糖は、一瞬のタイミングのズレを狙われ、掴まれかけていた。
「あ、掴まれてビタンビタン叩きつけられるのはちょ…まっ!!」
 なんとか避けかわそうとするも、目の前にもかみのてが現れ、挟み撃ちの形になる。
 そこへシューが駆け寄り、タッチするように右掌でかみのてに触れた。一方が動きを止めると同時に、無砂糖がもう一方を断ち切って、巫女へと対峙する。
 かみのてを顕しても、あの右掌に消される。攻め守りあぐねた巫女は、√能力者の接近を許してしまった。
「おねえちゃん、みーつけたっ!」
 かくれんぼは、お仕舞だ!
 シューが木の棒を構えて鋭く打擲する。
 ──…………!!
 自身で攻撃を受けたことなどないのだろう、絹を裂く悲鳴をあげる巫女をアザミは見据える。
 これを倒せば消えた人たちは戻ってくるかしら?
「……まぁ、きっと感謝はされないでしょうけどね。別に気にしませんけど」
 消えたいと望む以上は、救いなど求めていないのだろう。それでも、怪異のその手を取ってしまったのは、やはり誰かを求めたのか。
 真実は分からない。だが、そんなことなど気にすることはない。
 生きてるだけでも充分よ。
 口にして、得物を振るう。
 隠れてしまいたい。
 消えてしまいたい。
 その願いが、怪異の目的と合致したとしても。
 隠してしまおう。
 消してしまおう。
 そう軽々に口にするほどのものを背負っているというのか。
 昂ぶった情動に、普段であれば顕わにしない衝動に駆られる臻。
 責め立てる自分の声が、自分だけのものだと自認できるオマエらは、まだーー
「……いや」
 自分のなかのことでしかない彼らが、それを理解することなどない。
 守るかみのてを打ち払い、無防備になった巫女へとそのまま鉄棍を繰り出す。
「こんな問答に意味は無ぇな」
 吐き捨て、怪異を穿つ。
 娘の身をづぐと抉られて、巫女は信じられないと目を見張る。
 ──どうして、この手を……
「いらねぇよ、そんなもん」
「ええ。お断りよ」
 拒絶とともに、再びの攻撃を浴びせかける。
 怪異は自身を守るためにかみのてをなお顕そうとするが、果てしなく現れるように思えた巨大な手は、次第にその数が減り増える速さも遅くなっていた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

煙道・雪次
ハッ、(能力者由来の)不死だなんてただの呪いだよな。俺もその手をとったら楽になれるのかね。

……だが、まだだ。
まだ彼女(香奈子)を殺した奴を見つけていない。

被害者をどこへやった?
……怪異に聞いても答えるわけがないか。
(タバコを吸いながら)

WIZ【煙使い】で敵の腕を使い魔で封じ
『殺傷力の高い物体での攻撃』は使い魔で気を散らした上で壁や遮蔽物に隠れる。
(使い魔の容姿は動物でお任せ)
そしてタイミングを見て飛び出し拳銃で頭を狙い撃つ。【覚悟・カウンター・援護射撃・零距離射撃】
手を握ってやれなくてすまないな。

『新興宗教だか何かしらの流行か』こんな廃ビル、さっさと更地にした方がいい。
エディッサ・エヴァーフィールド
そうね……誰にも会いたくない、どこかに消えてしまいたい、ってことはあるわ
救われたくない気持ちも分かる
でも、だからって本当に救われたくないのかしら?

その手を取ったら、どこへ連れていかれるのかしら
きっと、何も考えなくていい場所なんでしょうね
でもそれって、自分さえいない場所だわ

私は強くないから、他の人のお手伝いね
攻撃は、できるだけ離れたところから援護する形
レインでダメージを与えて、他の人が倒しやすくするわ
攻撃はレーザー射撃をメインに、敵に近づかれそうなら、効果があるか分からないけど歪みで弾き返してみるわね

いつか誰かの手を頼ることがあっても、あなたじゃないことは確かよ
あなたの手は握らないわ(手を振り)
辻・幸太
あの巫女さん? が怪異の本体な感じ?
見た感じ優しそうだけど、罠なのかな。

結局さ、手を取らなくても帰らせてくれる気無さそうじゃんね。俺はそういうのひどいと思うぜ!
この神隠しの怪異についての話をして、【あれは一体何だったのか】を使おっかな。
ただ、そのまんま神隠しの話するんじゃなくて、巫女さんの手を取った人は帰ってこなかった……けど、『手を取らなかった人は無事に帰れた』って感じに改変して語るぜ。
そうすれば、心象空間の中では手を取ってない人に危害を加えられなくなるんじゃないかなー。心象空間は語りの内容を反映するからな!

ま、向こうに掴まれたらダメかもだけど……! その時は破壊の炎で応戦するぜ!

 巫女とそれを守ってぎぢりと蠢くかみのてを交互に見やり、幸太は思案する。
「あの巫女さん? が怪異の本体な感じ?」
 見た感じ優しそうだけど、罠なのかな。
 少なくとも、あの手を取った人々が二度と戻ってこなかったことだけは分かる。
 彼らがそれを望んだとしても。
「そうね……誰にも会いたくない、どこかに消えてしまいたい、ってことはあるわ」
 エディッサには、救われたくない気持ちも分かる。差し伸べられた手を取ることが、必ずしも救いになるとは限らないのだから。
 でも、だからって本当に救われたくないのかしら?
 それでもあの手を取ったのだから、どこかで救われたいという願いはあったのだろう。
 救いか、と煙道・雪次 (人間(√汎神解剖機関)の|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h01202)は吐き捨てる。
「ハッ、不死だなんてただの呪いだよな。俺もその手をとったら楽になれるのかね」
 √能力者である彼には、死による安寧は得られない。であるのに、その手を取れば救われると言うのか。
 死ぬのか、それとも別の解決方法か。何かしらの「救い」を与えようとするのは間違いない。
 ……だが、まだだ。
 まだ|香奈子《彼女》を殺した奴を見つけていない。
 どれほど懊悩しても、果たされるまでは安易な救いを求めるわけにはいかないのだ。
「被害者をどこへやった?」
 問われた巫女は、薄笑みを浮かべたまま。
 もとより答えなどないのだろう。彼がタバコをくわえて火をつけても答えず、ただづくづくとかみのてがその数と威圧感を増していくのを、深呼吸めいて|喫《す》いながら睨む。
「……怪異に聞いても答えるわけがないか」
 溜息とともに吐き出した煙がゆらとくゆる。部屋のなかでかすか吹く風にたなびきながら、白く羽ばたく鳥の姿をいくつか模った。
 かみのては周囲に転がっているテレビを無造作に掴み、√能力者へと投擲せんと構える。その射線を遮るように紫煙の使い魔が舞い飛び、攻撃を阻害するその間に、素早く壁向こうへ身を隠す。
 使い魔自身の攻撃は弱いが、それでもかみのてを翻弄し気を逸らせる。狙いを誤ってずれた位置に落ちかけたテレビをレーザーで撃ち落とし、レイン砲台に手を掛けながら、エディッサは巫女の手を見つめた。
「その手を取ったら、どこへ連れていかれるのかしら」
 きっと、何も考えなくていい場所なんでしょうね。
 つらいこともかなしいことも、さみしいこともくるしいこともない場所。
「でもそれって、自分さえいない場所だわ」
 物理的にか、精神的にか、あるいはどちらともか。そんなものを受け入れるわけにはいかない。
 レーザー光線の雨が、周囲一帯へと降り注ぐ。巫女を守り包むかみのてが、はらはらと傷ついていくさまは、まるで虚構が剥がれていくかのようだ。
「結局さ、手を取らなくても帰らせてくれる気無さそうじゃんね。俺はそういうのひどいと思うぜ!」
 怒りをあらわにして抗議する幸太。巫女はもちろん何も言わない。いや、真実を指摘されて、何を今更と言わんばかりに笑った。
 だから語ろう。この神隠しの怪異についての、「|あれは一体何だったのか《ワスレガタイキオク》」を。
 しかしそのまま語るのではなく、改変を加えた。
「巫女さんの手を取った人は帰ってこなかった……けど、『手を取らなかった人は無事に帰れた』」と。
 場所そのものに何かしらの変わりはないが、ふっと別のものと替わったような感覚。心象空間へと変わったこの場では、幸太が語ったとおりに再現される。
 手を取っても取らなくても怪異が危害を加えてくるのならば、「手を取らなければ無事である」と改変されればそれは否定される。
 もっとも、「無事」であっても、かみのてが文字通り手を出してこないとまでは定義できない。
 投げつけられるテレビは、エディッサが操るレインによって撃ち落とされていく。数を減らしつつある手のいくつかは、テレビではなく√能力者へと掴みかかろうと襲いかかる。
 少なからずダメージを負っているかみのてを雪次の使い魔が討ち、倒せないものは銃弾が撃ち抜いた。攻撃をすり抜け触れる距離にまで接近してくるものには、幸太が破壊の炎で焼灼して打ち消す。
 そうして残ったのは、ひどく傷つき、しかし身を守る|術《すべ》も戦う術も持たない巫女だけだ。
「いつか誰かの手を頼ることがあっても、あなたじゃないことは確かよ」
 降り来る光条のなかで、エディッサが怪異を拒絶する。
「あなたの手は握らないわ」
 手を振りながら告げられても、自身を守るものを失った怪異は、それでもなお手を伸ばす。
 ──この手を……
 救いを与えるはずの手は、救いを求めるように差し伸べられる。
 だが、その手が届く距離に立つ雪次が巫女へ向けたのは、鈍く光を返す拳銃だった。外すことのないよう、しっかりと頭へ狙いを定める。
「手を握ってやれなくてすまないな」
 手を取る代わりに放たれた弾丸が、怪異を撃ち抜く。はたと倒れ伏す姿を幸太の炎が包んで、怪異ごと消え去った。
 後に残ったのは、傷ついたテレビが散乱するばかり。
「『新興宗教だか何かしらの流行か』こんな廃ビル、さっさと更地にした方がいい」
 ふ、と煙を吐きながら雪次が口にした言葉に、エディッサはゆるく視線を巡らせた。
「死体とか出てこない、わよね……?」
「……断定はできないんじゃないかな」
 苦い顔で応える幸太。
 だが、少なくともここであの怪異の犠牲者が新たに出ることはないだろう。
 救いを求めるものが後を絶たずとも、「救い」を与えるものはもういないのだから。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​ 成功

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト