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あったかゆうごはん

#√汎神解剖機関 #ノベル

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 青々と茂る樹々と霧のなか、揺れる蓮の葉にはしっとりと露玉が浮いている。池のなかに佇む屋敷にはぼんやりと明かりが灯っていて、あたたかな夕食の香りがし始めていた。
 この屋敷の女主人が食卓に座ると同時、向かいの席にはうれしそうな男がひとり。ケオ・キャンベルはなんだかわくわくとした様子で、ふにゃりと笑みを浮かべている。
「今夜の晩御飯はすき焼き、すき焼き」
 ふんふんと鼻歌まじりのケオの向かい、玉蓮はコップの水をひとくち。はじめてのおつかいを完遂した彼の買ってきた材料で、世話人の少女達はすき焼きの準備を済ませる。
 ぐつぐつ沸騰する鍋のなか、整った彩りで置かれていく豆腐に野菜、白滝の横には牛肉を並べぬように。独特の甘いにおいと湯気、卵をかき混ぜた取り皿へと少女達が具材を取り分け、主人達の前に出来立てのすき焼きを置いていく。

「いただきます」
 手を合わせたのち、熱々の肉を頬張るケオの輝く眸がきらきらと瞬く。その様子をちらと見てから、玉蓮も箸を伸ばす。
「すき焼き、おいしいねぇ」
「そうね」
 金魚のような怪異の双子は、玉蓮の身の回りの世話を完璧にこなす。もちろん、料理の腕も素晴らしいものだから、いつだって女の口に合う美味を用意してくれる。
「あのね、このお肉はいつものお店で買ったんだ。こっちの豆腐は、ちゃんと焼き豆腐を選べたんだよ」
「そう、フゥン。頑張ったのね」
 こどものように今日の報告をするケオの言葉に、玉蓮は鍋を食べながら相槌をうつ。
「うん! 立派におつかいできたんだよ」
 えっへん、と誇らしげなその見目は、どこをどう見ても成人男性。けれど彼の本性は、聖なる光と称される人間災厄。ヒトの皮を被る彼の世話を機関から押しつけられた玉蓮は、日々こちらへのプロポーズに勤しむ災厄を適度にあしらって暮らしている。
「よかったじゃない、善い子ね」
「……! うん」
 やったぁ、玉蓮に褒められた。えへへ、と笑みをこぼしながら、ケオはすき焼きのおかわりをする。土鍋で炊かれた白米と一緒に食べる牛肉と葱は味がよく染みていて、卵のまろやかさも相まって食が進んでいく。
 そんな人懐っこい犬の行動を、玉蓮は嫌っているわけではない。彼は彼女の研究対象であり観察保護対象、同時に買い物の荷物持ちや雑務をさせるにはちょうどいい。仕事が恋人である女にとって、飽きる気配のないケオの求婚をあしらうのは多少面倒ではあるものの、人間よりは怪異の存在のほうが面白い。
 二人分の鍋は具材が随分減った頃、締めのうどんが投入される。
「すき焼きうどんもおいしいねぇ。俺、これ気に入った」
「そう。じゃあ今度食べたくなった時にも、お前におつかいを頼もうかしらね」
「やる!」
 母親に次のミッションを与えられたこどものように、ケオはすぐに返事をした。

 夕飯を終えたのち、双子のかたわれが食卓を片付け、もうひとりが菓子皿にロールケーキを用意する。食卓で丁寧に切り分ける姿に、ケオが口を開く。
「おつかいのとき、素敵なものを見つけたから、つい買っちゃったんだ」
 これ、と指さすロールケーキは、淡くきいろいスポンジにたっぷりのクリームが詰まったシンプルなもの。
「買うリストにはなかったけれど、玉蓮に食べてほしくて」
 いつまでもずっと彼女と一緒に居たい。そんな気持ちを抱く災厄は、玉蓮が喜んでくれそうなことをなんでもしかった。
「ねぇ玉蓮、一緒に食べよ」
 怒られちゃったらどうしよう、とすこしだけ考えつつ、ケオはお願いごとをする。彼のささやかなそれを拒むこともなく、女はアラ、と言葉をかえす。
「いいわね。甘いもの、嫌いじゃないわ」
 二枚の小皿に、少女がロールケーキを乗せていく。そうしてふたりの前に食後のデザートが用意されれば、ケーキの甘さにぴったりの渋めの緑茶も淹れられていて。
「おいしい?」
「ええ、ちょうどいいわ」
 玉蓮の返答に、ケオは満足げな笑顔を見せる。とある冬の夜は、こうしてあたたかく更けていった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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