シナリオ

楽園の崩落する時

#√EDEN #√ウォーゾーン

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 #√EDEN
 #√ウォーゾーン

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●前触れなく、突然に
 人で賑わう街、その昼下がりのことだった。
 都市の情景が裂け、絶叫が轟いたのは。
「——————!」
 言語化不能の声を放ち、黒い人型が裂け目から身を乗り出す。纏った渦は無秩序を映す一方で、胸には寂しい大穴が開いていた。
 交差する横断歩道の真ん中に現れた正体不明の存在。人々を混乱に陥れるには十分だった。
 逃げ惑う人々をそれは突っ立ったまま眺めていた。かと思えば頭を抱え、あの耳をつんざくような叫び声を上げる。
 その声を合図にして、裂け目からはまた何かが飛び出した。
 人間大の球体が次々と打ち出され、街に転がっていく。着弾すると同時に球体は起動し、格納されていた脚を伸ばしてそこらを歩き始める。肩に構えた砲台は、何もない空を狙っていた。

 平穏そのものだった楽園は、瞬く間に崩壊する。
 前触れなく、突然に。

●星詠み曰く
 破滅の光景を、無愛想な少女は淡々と語った。
「あまり考えている時間はないんだ。どうか、この世界を守ってくれないか?」
 ジャック・ハートレス(錻力の従者・h01640)と名乗った彼女曰く、事件はまもなく起こるという。
 √EDEN、東京の繁華街にて。空間に裂け目が生じ、そこから現れた怪物が異界の存在を呼び込むらしい。
「現れる怪物の名は『DEEP-DEPAS』。敵については情報を集めているつもりだが、こいつについてはその多くが謎のままだ。突如出現しては絶叫でインビジブルを狂わせ、同化させていく……それ以外は何もわからない」
 空間を揺らすような叫びで√EDENに満ちる不可視の存在——インビジブルが狂い、それが結果として攻撃となる。過去の出現報告ではある程度交戦するうちに撃退できたと記録されているので、対抗策がないわけではないが……いずれにしても厄介な相手だ。
 しかも、現れるのはこの敵だけではないそうだ。むしろここからが問題だと、ジャックは指で顎の先を撫でた。
「この『DEEP-DEPAS』が呼び水となって、√ウォーゾーンから戦闘機械の軍勢が攻め込んでくる。『DEEP-DEPAS』が空間を不安定化させるのを読んで作戦を組んだと考えられる。大方、敵の星詠みの仕業だな」
 戦闘機械群は資源簒奪を狙い、√EDENに攻め込んでくる。今回相手が狙うのは『DEEP-DEPAS』に誘われたインビジブルだとジャックは言う。人間や都市には無関心だったその様子からの推測だが、放置してどうなるかは予想ができない。
「戦闘機械は『DEEP-DEPAS』の出現直後から、裂け目を通じて√EDENに現れ続ける。一旦は及ぼす影響の大きい『DEEP-DEPAS』を優先して退治してほしいが、もちろんこいつらも蹴散らす必要がある。場合によっては指揮官を狙える可能性もあるな」
 状況によっては軍勢を操る指揮官が√EDENに現れる見込みもあるとのこと。トップを倒せば敵も撤退するしかなくなるため、もし現れたら真っ先に倒すべきだろう。軍勢を相手取るか指揮官を狙うか、状況に応じた判断が求められる。
「何はともあれ、まずは『DEEP-DEPAS』への対処を頼む。こいつがこの事件の原因だ。難敵との戦いにはなるが、お前たちなら勝てるはずだ」
 力強く言い切って、ジャックは集った一人一人と目を合わせる。
「改めて頼む。どうか、この世界を守ってくれないか?」
 音を立てて崩壊する楽園。
 終極地を守るため、√能力者たちは現場へと急行する。

マスターより

堀戸珈琲
どうも、堀戸珈琲です。
いきなりクライマックスが来る展開が好きです。

●最終目的
 異界からの敵を撃退し、√EDENを守る。

●シナリオ構成
 第一章・ボス戦『DEEP-DEPAS』
 第二章・ボス戦『???』
     or
     集団戦『???』
 第三章・日常『ショッピングに行こう』

 日中、東京のとある街での進行となります。敵が出現した段階で一般人は避難を終えているものとします。

 第一章は到着と同時に敵が出現し、そのまま戦闘に入るという想定です。
 第二章は展開により分岐します。プレイングを元に、指揮官と戦うか軍勢と戦うかを判断します。
 第三章は敵から守った街で異変がないか見回りつつ、ショッピングを楽しみます。どんな店があるかなどはご自由に設定が可能です。

●プレイング受付
 第1章のみ断章はありません。
 第2章以降は断章の追加後に送信をお願いします。
 プレイング締切についてはマスターページやタグにて随時お知らせします。基本的には制限なく受け付けますが、状況によっては締切を設けます。

 それでは、みなさまのプレイングをお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『『DEEP-DEPAS』』


POW インビジブル狂化現象
視界内のインビジブル(どこにでもいる)と自分の位置を入れ替える。入れ替わったインビジブルは10秒間【暴走 】状態となり、触れた対象にダメージを与える。
SPD 深淵の叫び
【空間をも揺るがす叫び 】を放ち、半径レベルm内の指定した全対象にのみ、最大で震度7相当の震動を与え続ける(生物、非生物問わず/震度は対象ごとに変更可能)。
WIZ カウントレス・インビジブル
【叫びに呼び寄せられたインビジブル 】を召喚し、攻撃技「【敵との同化】」か回復技「【自身との同化】」、あるいは「敵との融合」を指示できる。融合された敵はダメージの代わりに行動力が低下し、0になると[叫びに呼び寄せられたインビジブル ]と共に消滅死亡する。
イラスト ゆひゃん
√EDEN 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

時任・桃花
〇アドリブ歓迎

こういう展開は予想してないかなぁ!
まだ|柊那《しゅうな》に恩返しできてないんだ。
おしまいになんてさせないよ。

とにかく召喚を行う敵に全速力で近づく
|特殊死霊《センシティブストーカー》!あとでなんでも応じるから
意地でも僕を守って!
愉悦の表情浮かべた気がするけど気にしない。
空中浮遊とオーラ防御も駆使してとにかく√能力射程圏内へ。
こんな敵に僕が敵うわけがない。でも負けられないから
√能力の願いは…
「召喚を封印して!!」
不発だとしても、途中リタイアでもいいから召喚の時間稼ぎはするよ。
「みんな、あとはお願いね!」
後のことはうん、今は考えない。
少しは役に立ったかなぁ。
天羽々斬・布都乃

「この街は……いえ、√EDENは天羽々斬流陰陽師の使命として私が守ります!」
『油断するでないぞ、布都乃。お主はまだ半人前でこれが初陣……さらに急いで駆けつけたゆえ、普段着なのじゃからな』

子狐姿のいなりの言葉に頷きます。
陰陽師としての戦闘服である巫女服は準備が間に合っていませんが、臆するわけにはいきません。

「とにかく、機械軍勢の侵略は最小限にとどめなくては。
急いでこの敵を撃破します!」

神社に伝わる神剣を構えると古龍の神霊を纏います。

『えっ、纏うの、妾じゃないの?』
「いなりとの融合技はまだ練習中ですし……」

敵に操られたインビジブルを素早く回避しつつ、敵に天羽々斬流奥義・古龍閃を叩き込みます。

●守るべき世界を背に
 現場に到着した√能力者たちの眼前、交差点の中央に生じた亀裂がさらに大きく割れる。
 こちらの世界へと完全に姿を現した黒い人型——『DEEP-DEPAS』は、耳の割れるような喚声を発した。
「こういう展開は予想してないかなぁ!」
 超展開を前にして、時任・桃花(祈るもの・h00063)は敵を睨む。口許こそ笑っていたが心を埋めていくのは焦燥ばかり。想定スケールを越えた存在と対峙して、瞬間的に様々な思考を巡らせる。
 傍らには少女がもう一人。胸の前に掲げた拳を、天羽々斬・布都乃(未来視の力を持つ陰陽師・h01742)は固く握った。
「こんな敵がいるなんて……でも、決めました。この街は……いえ、√EDENは天羽々斬流陰陽師の使命として私が守ります!」
 神社に代々伝わる神剣を抜き、その刃が白に輝く。構えを取る布都乃の足元で、子狐の姿をした護霊が彼女を見上げていた。
『油断するでないぞ、布都乃。お主はまだ半人前でこれが初陣……さらに急いで駆けつけたゆえ、普段着なのじゃからな』
「はい、わかっています。いなりの言う通り、準備は間に合っていません……それでも、臆するわけにはいきません!」
 今の布都乃の格好は一般人のそれと大して変わらない。陰陽師の戦闘着である巫女服を纏う余裕すらなかった。だが、ここで退くわけにはいかない。
 二人の会話を聞いて、桃花も決意を固めていく。その人の姿を思い浮かべれば、視線はまっすぐ敵へと定まった。
「まだ|柊那《しゅうな》に恩返しできてないんだ。おしまいになんてさせないよ」
 腰を落とし、アスファルトを蹴る。
 インビジブルを渦のように纏う人型へ、桃花は迷いなく突っ込んだ。
「何もしてこないうちに先手を取る!」
『布都乃、妾たちも続くぞ!』
「はい!」
 追うように、布都乃も肩にいなりを乗せて飛び出した。
 その接近がトリガーとなって、突っ立っていただけの『DEEP-DEPAS』も反応を返す。頭を抱えて発狂したように叫ぶと、インビジブルが前兆なく現れる。叫びによって掻き乱され、暴れながら降ってきた。
 先を走る桃花がそれを一瞥して口を開く。
「|特殊死霊《センシティブストーカー》! あとでなんでも応じるから……意地でも僕を守って!」
 命令が発された直後、影が桃花の前で盾となる。降りかかるインビジブルを影は弾き、不気味に蠢いた。
 彼女に付き纏う死霊。どんな命令にも応じる代わりに羞恥を求める、ある意味でどんな怨念よりたちの悪い奴らだ。今も顔らしき部分がいくつも愉悦の笑みを浮かべたように見えたが——。
「気のせいだといいんだけどなぁ!」
 大声で言い聞かせ、桃花は地面を踏みしめて跳躍する。空中を突っ切って無理やり渦の中心に飛び込み、着地と同時に顔を上げた。
 罅の生じた右目で『DEEP-DEPAS』が彼女を凝視する。怯みつつも、桃花は敵に手をかざす。
「来て! |神聖竜《ホーリー・ホワイト・ドラゴン》!」
 桃花の背後に顕現するは、巨竜。『DEEP-DEPAS』を越える体躯で佇む神聖竜の出現を感じ取り、指の隙間で敵を捉えて願いを唱える。
「インビジブルの召喚を封印して!!」
 言葉が響き渡った瞬間、インビジブルの落下が空中で停止した。異常事態に『DEEP-DEPAS』も絶叫を繰り返すが、停止は解除されない。せいぜい数匹がびちびち動く程度だ。
 現実離れした光景を眺めてから、桃花は振り向く。
「みんな、あとはお願いね!」
「もちろんです!」
 剣を握り締め、布都乃が『DEEP-DEPAS』との距離を詰め始める。インビジブルの召喚停止により阻む者は誰もいない。
 しかし、周囲を見れば機械軍勢は進行形で侵攻を行っている。被害を最小限に留めるためには敵の早急な撃破が必須。
「急ぎましょう! 古龍、力を貸してください!」
『えっ、纏うの、妾じゃないの?』
「いなりとの融合技はまだ練習中ですし……」
 きょとんとした表情をするいなりを差し置いて、布都乃はその身に古龍の神霊を纏う。格段に上昇した速力で、地面を一気に駆け抜けていく。
 途中、人型が叫ぶ。辛うじて動いたインビジブルが弾丸のように射出される。だが今の布都乃に回避は容易く、軽やかに跳んで躱していった。
 瞬く間に敵の前へ。回転とともに躍り出て、神剣を振り上げる。
「天羽々斬流奥義——古龍閃ッ!」
 一閃が人型を裂き、苦悶の絶叫が空間を染め上げる。
 その声にすら若干の恐ろしさを覚えながら、桃花は『DEEP-DEPAS』を見据えた。大丈夫だ、少しは役に立てたはず。不安を感じてはいるが、対立する姿勢は崩さない。一撃見舞った布都乃も体勢を立て直し、再び剣を敵へと向けた。
 守るべき世界を背に、彼女たちは揺らぎ壊していく脅威との対峙を続ける。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

不破・ふわり
インビジブルを狂わせる叫び声。強敵です。
私の風船もインビジブルです。大丈夫そうですか?
……大丈夫そうです。

動きも素早いのですね。瞬間移動。楽しそうです。
私はできません。風船はできるみたいです。

赤い風船にお願いするのです。
敵の周りにいっぱい浮かんで見え辛くしてください。
インビジブルを爆発で吹き飛ばしてください。
隙あれば攻撃なのです。

私がしっかり指示をします。
他の能力者のみなさまの邪魔になってはいけません。
みなさまと協力して√エデンを護るのです。
青い風船は痛いのを治します。お役立ちです。

貴方に何があったかは分かりません。
私は貴方を止めます。
人を傷付けることはいけないことですよ。
黒島・実
街中で暴れ出すなんて迷惑なやつ
余計なおまけもついてくるみたいだし、出来るだけ早く対処しよう

相手はインビジブルを利用してくる、か
私は近距離攻撃主体だから、位置入れ替えをされると攻撃を当てづらいかな……
だったら攻撃を外す前提で動く

戦場に着いたら敵に接近し『ピュルゴス』で殴りかかる
当たればラッキーだけど入れ替えで逃げられても大丈夫
【狩りの時間】を発動し周囲を殺気漂う空間にする
敵の動きを鈍らせつつインビジブルの暴走も十全に機能させないのが狙い
巻き込みそうな味方がいるならちゃんと事前に警告は出そう

あとは暴走インビジブルの動きを回避しつつ再び敵に接近
今度こそ『ピュルゴス』で霊力攻撃
さあ、思い切り殴らせろ!

●破裂と破砕
 交戦を開始してもなお、『DEEP-DEPAS』は不気味に佇む。敵意があるのかないのかは判然としない。
 そんな敵を、不破・ふわり(ふわふわり・h00647)もぼんやりと眺め返していた。ふわふわ浮かぶ赤い風船を一つ腕に抱え、今度はそちらをじっと見つめる。
「インビジブルを狂わせる叫び声。強敵です。私の風船もインビジブルです。大丈夫そうですか?」
 つんつんと指で突いてみた。普段通りのゴムの弾力が返ってくる。
「……大丈夫そうです」
「しかし、街中で暴れ出すなんて迷惑なやつだな」
 ふわりの隣で黒島・実(牙隠し・h01145)がため息を零す。動こうとしない人型に甘んじて、周囲をぐるりと見回した。球体型の機械が地面や壁面を這い回り、見慣れた街が異様な雰囲気に包まれている。
「余計なおまけもついてくるみたいだし、できるだけ早く対処しよう」
「そうですね。協力して、√EDENを護りましょう」
 ネイルハンマー風の武器——ピュルゴスを片手に、ぐーっと伸びをして準備運動を済ませる実。それにふわふわこくこく相槌を打つふわり。
 流れていた緩やかな空気は、実が敵を正面に見据えた瞬間——緊張に染まる。
 ピュルゴスの柄を握り締めて実が走り出す。敵に向かっていく直前、くるっとふわりへ向いた。
「できるだけ私から離れてて。それと私がもし『スカッたら』、そこから一気に仕掛けるから」
「……分かりました」
 不可解な問答を経て、二人は戦闘に突入する。意識を相手にのみ集中させ、実は『DEEP-DEPAS』へ突っ込んでいく。
 敵もそれを捉えたのか、絶叫を放ってインビジブルを呼び寄せた。魚や蝶のような存在が渦巻き、接近する実を阻む。それでも実は速度を落とさず、むしろ加速する。
 叫びで狂わされたインビジブルが実に雪崩れ込もうとする寸前だった。
 ふわりが呟く。
「いっぱい、浮かんでください」
 意思を持つ風船の群れ——バルーン・ゴーストが、彼女の命令に応じる。
 赤い風船が、インビジブルたちの隙間に次々と生じた。発生した風船はみるみるうちに膨らんで、インビジブルの渦を歪める。
 ぎゅうぎゅうという擬音が聞こえそうなほど膨張した後、ふわりが口を丸く開く。
「ぱんっ」
 破裂音で赤い風船が爆発を起こす。密集していたのが嘘かのようにインビジブルを吹き飛ばし、敵への道を強引に切り開いた。
「これで邪魔は消えたな」
 敵の群れに開いたトンネルを走りながら実は腕を構える。いよいよ人型に最接近して、頭を狙って大きく飛んだ。
 顔面に向かって振り下ろされた金槌。それが迫り、『DEEP-DEPAS』は叫び声を上げる。
 しかし、攻撃は命中することなく空を切った。敵のいた場所からはインビジブルの集合体がどっと流れ込む。遠ざかった喚声からおおよその位置を掴んだ。視線をそちらに投げれば、『DEEP-DEPAS』は若干離れた場所にいた。
 暴れ回るインビジブルの群れが実に迫る。危機に陥って、実は人型を見据えたまま——。
「そこなら届く」
 笑って、ピュルゴスを地面に振り下ろした。衝撃が何メートルという範囲を呑み込み、空気を塗り替える。
 殺気が空間を漂う。身を縛るような狩人の威圧に、インビジブルたちの動きが硬くなった。攻撃を躱して殴り返してから、実は再び『DEEP-DEPAS』に目を向ける。奴自身も身体の自由を制限されているらしく、動作が鈍い。
「逃がさない。ここからは狩りの時間だ」
 位置入れ替えを想定した行動制限。外したとしても、次は一撃を叩き込める。
 ハンマーの頭を向けて宣告する実に『DEEP-DEPAS』は絶叫を放つ。インビジブルが殺到し、またしても実を阻もうとする。行動はでたらめになっているが、多勢に無勢。
 接触時に傷つけられる腕に舌打ちして後ろへ跳ぶと、背中に柔らかい何かが当たる。
 青い風船だった。手許で膨らみ、優しい音とともに割れる。
 風船が破裂したのと同じくして、痛みもどこかへ飛んでいた。
「青い風船は痛いのを治します。お役立ちです」
 遠くからふわりが囁く。実に照準を合わせるように手を向ければ、さらに多くの青い風船が実を包み込むように現れた。
「すまないな。これ……いくつ出てくるんだ?」
「いっぱいです。いっぱい来てくれるのです。……それにしても」
 顎に手を添え、ふわりは『DEEP-DEPAS』を凝視する。
「動きも素早いのですね。瞬間移動。楽しそうです」
 どこか呑気な調子で、今度はそちらに手を向けた。
「私はできません。でも、風船はできるみたいです。だから、お願いするのです」
 『DEEP-DEPAS』を取り囲むように、たくさんの赤い風船が現れる。その視界は数秒で赤に占拠されていき、黒い渦をも赤に染め上げた。困惑の叫びが敵から漏れ出る。
「次は瞬間移動ができないくらい、いっぱい浮かんでください」
 それは『DEEP-DEPAS』の位置を固定したことを意味していた。ふわりが無言で促すと、実が応じて走り出す。妨害しようとするインビジブルは風船で吹き飛ばし、再接近する実をふわりは目で追いかけた。その先、赤い風船の中心には『DEEP-DEPAS』がいる。
 貴方に何があったかは分からない。悲痛な何かのために叫んでいるのかもしれない。
 しかし、どうあろうと行動は変わらない。
「私は貴方を止めます。人を傷付けることはいけないことですよ」
 向けた手を大きく開く。囲んだ風船が破裂し、絶叫とともに『DEEP-DEPAS』の身体が揺れる。
 隙だらけの敵を狙って実が走る。万全の身体で突っ込んでくるインビジブルを躱し、頭を狙って跳躍した。絶叫が放たれるより早く、ピュルゴスを振り下ろす。
「さあ、思い切り殴らせろ!」
 金槌の面が頭を捉え、痛烈な打撃音が響く。破砕と絶叫が混濁する中、実は笑みを浮かべていた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

霧島・光希
謎の敵、インビジブルの暴走、√ウォーゾーンからの侵略者……。
厄介だな。冒険じゃなくて戦争か。……ともかく、やれるだけのことはやってみる。
──行こう、|影の騎士《シャドウナイト》。

予知による情報に従い、DEEP-DEPASが現れる現場に急行。
その姿、その叫び、引き寄せられ暴れ狂うインビジブル達を目の当たりにして。
何てやつだ! と顔をしかめて憤りつつも戦闘に臨む。

DEEP-DEPASをさっさと仕留めるべく、【|戦闘錬金術《プロエリウム・アルケミア》】発動。詠唱錬成剣をDEEP-DEPAS用の【|対標的必殺兵器《ターゲット・スレイヤー》】へと仕立て上げて突貫する……
が、気づけばそこにヤツはいない! 代わりにいた暴走するインビジブルを打ち払いながらDEEP-DEPASを探して、視界に捉えて──【|不可視の瞬間移動《インビジブル・フェーズシフト》】!
ヤツの至近にいるインビジブルと位置を入れ替えて、今度こそ。【|対標的必殺兵器《ターゲット・スレイヤー》】で斬りかかる。叩き込む。黙らせてやるッ!

●無音へ還す
 謎の敵、インビジブルの暴走、√ウォーゾーンからの侵略者。
 提供された情報から、それが心躍るような冒険でないことは霧島・光希(ひとりと一騎の冒険少年・h01623)も理解していた。
 いうなれば戦争だ。外側から蝕もうとする脅威から、この世界を守るための。
 そうした想像を現実に味わう段階になって、光希は唇を固く結ぶ。
「——————!」
 絶叫により空気が震え、光希の肌にも微かな痺れとなって伝わる。
 何度か攻撃を受け、『DEEP-DEPAS』は被弾箇所を手で押さえていた。その痛みに悶えているのか、叫ぶ頻度は出現当初より高まっている。
 喚声に影響を受け、呼び寄せられたインビジブルたちも掻き乱される。身を捻じって暴れる姿に自由意志は感じられない。疲弊していると思わしき個体までもが傀儡となって渦の一部となっていた。
「何てやつだ!」
 顔をしかめる。対峙して覚えた畏怖が、憤りへと変わっていく。
 どれだけのことができるかはわからない。それでも、やれるだけのことをやるしかない。
 詠唱錬成剣の柄を握り締め、光希は敵を睨む。亀裂の走った右目と目が合った。得体の知れない存在を相手取って、独り唱える。
「——行こう、|影の騎士《シャドウナイト》」
 走り出す。インビジブルの渦を纏った敵に向け、まっすぐに突撃する。
 その接近を察知して、『DEEP-DEPAS』はまた叫び声を上げた。精神を揺すられた数匹のインビジブルが光希を阻もうと突っ込んでくる。
 視界の端でそれを捉え、光希は走りながら剣を構えた。彼らは操られているに過ぎない。だが、奴を倒さなければ前後不覚になるまでの暴走も止まらない。
「……ごめん!」
 振り上げ、剣の腹を命中させる。手応えを覚え、勢いでインビジブルを空高く吹き飛ばした。その後も連続して迫りくる群れを次々と弾き、光希は速度を落とさず渦の中心へ。
 もう少しで剣の間合い。そこまで肉薄して、詠唱錬成剣に内蔵された試験管が音を立てた。
「ここで仕留める!」
 |戦闘錬金術《プロエリウム・アルケミア》を発動。錬成された物質が試験管から抽出され、剣の刃に付与される。空間に対して不安定な存在を祓う——『DEEP-DEPAS』を破るための|対標的必殺兵器《ターゲットスレイヤー》へ、武装は変化する。
「これで準備は整った! あとは……向かうだけだ!」
 踏み切り、宙へ飛び出す。刃を前に突き立てインビジブルの群れを突破。
 歪な瞳が光希を直視する。怯みもせず、光希は『DEEP-DEPAS』を狙い定めた。
「食らえッ!」
 確殺の刃が人型に迫る。
 繰り出された剣は、命中する直前で空を切った。
 光希が目を見開く。『DEEP-DEPAS』は突如眼前から消失。敵がいたその位置からは、暴れ狂う大量のインビジブルがどっと湧き出した。
「しまった!」
 剣を地面に突き立て、暴走状態のインビジブルを凌ぐ。激しい衝撃が何度も襲いかかり、光希は強く奥歯を噛んだ。
 ヤツはどこにいった? インビジブルが狂わされているのなら、遠く離れてはいないはず。余裕はないが、敵の位置を探らなくては——。
 思考を巡らせる光希の耳に、もはや聞き慣れた絶叫が響いた。
「——————!」
 後方、やや距離を置いた地点。大まかに敵の所在を把握する。振り向けば目視でも捉えられるだろう。問題はそんな余裕はなく、隙を見せればインビジブルに数で押し負けること。
 それでも、ここで倒れるわけにはいかない。
「負けてられるかッ!」
 剣を逆手に握り、回転を見舞う。暴れ狂ったインビジブルを強引に振り払い、そのまま背後を見た。何十メートルと離れた位置に『DEEP-DEPAS』は佇んでいる。標的をもう一度認識し、光希は再び走り出す。
 まだ刃も届かないうちに空へと跳んで——。
「|不可視の瞬間移動《インビジブル・フェーズシフト》!」
 発すると同時に光希の姿は消える。代わりとして、インビジブルがその地点に漂う。
 奇しくも同系統の入れ替え能力で転移した先は、『DEEP-DEPAS』の頭上。
 影が被さって、人型が光希を見上げる。今度も目を背けず、落下しながら光希は剣を構えた。迎撃するように仰ぎ見る『DEEP-DEPAS』の絶叫が響き渡る。聴覚を埋めていく叫びを断ち切ると決めて、対標的必殺兵器を振るう。
 斬りかかる。敵の身に剣が触れる。実体のない肉体に刃が突き立てられる。
 叩き込む。その思いは、気付けば声になっていた。
「黙らせてやるッ!」
 光希が剣を振り切ったとき、剣は『DEEP-DEPAS』の身体を大きく引き裂いていた。着地して、光希は敵が上げる苦悶の叫びをただ聞いていた。
 振り向けば、新たに生じた傷を押さえて『DEEP-DEPAS』が崩れていく。最期の絶叫が無人の街に放たれて、数秒も経てば無音へと還っていた。
「……やった」
 荒い息をしたまま、光希は敵の撃破を確信する。異様な相手だったが、打ち払えた。疲弊と少々の喜びを感じて、拳を握り締めた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 集団戦 『バトラクス』


POW バトラクスキャノン
【爆破】属性の弾丸を射出する。着弾地点から半径レベルm内の敵には【砲弾】による通常の2倍ダメージを与え、味方には【戦闘情報の共有】による戦闘力強化を与える。
SPD 人間狂化爆弾
爆破地点から半径レベルm内の全員に「疑心暗鬼・凶暴化・虚言癖・正直病」からひとつ状態異常を与える【特殊化学兵器】を、同時にレベル個まで具現化できる。
WIZ スウィープマシーン
【機銃掃射】による牽制、【粘着弾】による捕縛、【突撃体当たり】による強撃の連続攻撃を与える。
イラスト V-7
√ウォーゾーン 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●殲滅戦
『DEEP-DEPAS』の消滅により、街には無音が戻った。インビジブルの暴走も止まり、散り散りになって空を回遊する往来の姿に戻った。
 しかし、都市に平和が戻ったわけではない。いまだ街には球体型の機械が這い回り、砲台を突き出してそこら中を歩いている。この軍勢を排除しなくては脅威が消え去ったとはいえない。
 √能力者たちが敵意を向けると、機械は取り囲むように続々と集まってきた。空に向けていた砲台でこちらを狙い、感情なく殺意を発している。
 だが、得体の知れない相手ではない。強敵は既に打ち払った。
 ここからは殲滅戦。一体だって残してはおけない。覚悟を秘めて、√能力者たちは武器を構えた。
黒島・実


さっきのはちゃんと消えたね
あとは機械の群れか……
見た目だけは丸くて可愛いかも
でも敵だから
壊させてもらう

敵の攻撃はなかなか厄介
街も破壊されるし……
ここは周囲の【忘れようとする力】を増幅していこう
破壊された地点が元の姿に戻れば、敵の共有する戦闘情報と戦場の状況が違ってくるはず
そうして混乱させたり足並みを崩したりできないかな

私は建物の影などを利用して、できるだけ砲弾から身を守る
姿を晒さずにいられたら良い
空飛んでるしピュルゴスで殴りにいくのは現実的じゃないかな……
だったら『殴り棺桶』に霊力攻撃を乗せて、少し離れた位置から攻撃しよう
機械に棺桶はいらないと思うけど
パーツくらいなら再利用してもらえるかもね
時任・桃花
殲滅戦ね!相変わらず直接倒せないけど、
僕にもやりようはあるさ!
お願い|みずがめ座の大鷲《アクエリアスイーグル》!僕を守ってくれるかい?
空中浮遊しながら全速力でへ向かい
敵をひきつけたら√の能力発動
お願い!敵を動けなくして!!
射程内の敵だけでも止めなくちゃね。
大鷲に助けられつつ、とにかく仲間のサポート専念。
√能力再発動できるなら、皆の移動支援しようか。
移動速度UPお願いね!
できなかったらヒットアンドアウェイの牽制もいいかも
体力はそれなりにあるから片付いても短い休息で大丈夫!
みんなお疲れ様。
初陣からクライマックスみたいな展開だったけど
うん、|柊那《しゅうな》にいい報告ができそうだよ。
不破・ふわり

√エデンを護れたのです。良かったです。
次は機械がいっぱいです?
丸いです。風船みたいです。……容赦はしませんよ?

殲滅戦。知っています。いっぱいいっぱい倒すのです。
いっぱい風船が必要です。さっきよりもいっぱいです。

風船は色んな形になります。お犬さまがお気に入りです。
今回はお花でしょうか? いっぱい咲くと綺麗です。

お花の風船。みんなみんな、ぱんってします。
あんまり強くはないです。みなさまと協力が大事ですか?

痛いのは嫌だと思います。きっと機械も同じです。
お花の風船で追いかけるのです。集まったら一網打尽、ですね?

機械。ちょっとかわいかったです。
本当は仲良くできると良いです。次は遊びで来てください。
霧島・光希
一番の脅威は何とかなった。あとは戦闘機械を叩き返せば……!

DEEP-DEPASを退けたあと、休む間もなくバトラクスの群れとの連戦に入る。
数が多いだけじゃないし火力も防御力もある。厄介なやつらだけど……やりようはあるはず!
敵に囲まれないようにと動き出しながら──【|謎めいた強化形態《エニグマティック・フォーム》】。
|謎めいた《エニグマティック》エネルギーを纏うことで機動力を一気に高めて、敵の弾幕を掻い潜って、あるいは剣で弾くなどして凌ぎながら距離を詰めていく。
多少傷つこうと間合いに入ればこっちのものだ。エネルギーを攻撃にも回して──『謎めいた強襲』! 装甲ごと叩き切ってやる、1機も逃がすものか!
雪起・柊音
出遅れたかな……それはそれでやれることもあるか。
援護に入る。

砲撃を掻い潜って対機拳銃での攻撃を行う。球体とかいう究極の傾斜装甲って厄介なんだよな……【零距離射撃】で確実に仕留めていかなきゃ。
で、どちらかといえばこっちが本題。戦域に残ってる√能力者に【早業】でリンケージ・ワイヤを繋いでいこう。ちょっとくすぐったいけどね、我慢してよ
まだ戦えるなら殲滅に、そうじゃなければ撤退を。

※アドリブ・連携・その他アレンジ諸々歓迎

●機々塊々
 崩れ去った人型を思い返しながら、霧島・光希(ひとりと一騎の冒険少年・h01623)は地上に蠢く機械の軍勢に目を向けた。
「一番の脅威は何とかなった。あとは戦闘機械を叩き返せば……!」
「さっきのはちゃんと消えたね。で、次は機械の群れか……」
 剣を構える光希の傍らで、気の抜けた立ち姿で黒島・実(牙隠し・h01145)が獲物を見定める。球体型のボディ、その表面に取り付けられた絵文字のようなパーツ。
「見た目だけは可愛いかも。丸いし」
「丸いです。風船みたいです」
 小さな身体を揺らして頷くのは不破・ふわり(ふわふわり・h00647)。√EDENを護れた、良かった良かったと満足感に浸ってすぐにたくさんの機械が近づいてきた。シンパシーを感じないでもないが、それは手を緩める理由にはならない。
「……容赦はしませんよ?」
「うん、そっちが引き返さないっていうなら……僕たちは立ちはだかるだけさ!」
 威勢のいい声を発し、時任・桃花(祈るもの・h00063)は拳を固く握り締める。相変わらず、自分に敵を直接倒す手段はない。内心に未だ焦燥を覚えつつも、やりようはあるさと真正面を睨む。
 その挑発を機械の軍勢——バトラクスは無反応に受け流す。搭載された計器で√能力者たちを捕捉し、照準を定めて臨戦態勢に入っていた。
 うち一体の計器が、別方向に何かを捉える。分析を開始し、集中して情報処理を実行するモードへ移行。直後、乾いた音が鳴る。
 銃声だった。貫かれ、バトラクスの一体が倒れる。その後に何発かの銃弾がばら撒かれ、前方に集合していた敵を退かせた。
「出遅れたかな……それはそれでやれることもあるか」
 拳銃を握り、雪起・柊音(Donnerschnee・h03670)は呟く。相手の陣形が整わないうちに走り出すと、急ぎ√能力者たちと合流。深く被ったフードの奥、感情の掴めない瞳で機械の大群を見据えた。
「援護に入る。この流れのまま敵を殲滅させよう」
「了解。厄介な奴らが相手だけど……やりようはあるはずだ!」
 声を上げ、光希が走り出す。それを合図にそれぞれが行動を開始する。
 果敢に機械へと突っ込んでいく仲間を見つめ、桃花は握った拳を空に突き上げた。
「殲滅戦だね! よし……お願い|みずがめ座の大鷲《アクエリアスイーグル》! 僕を守ってくれるかい?」
 叫べば、上空から大鷲が彼女の元に飛来する。桃花の背を掴んだ途端に大鷲は翼を大きく動かして羽ばたき、空へと繰り出した。空中から大量の機械を見下ろし、覚悟を決める。
「そのまま敵の真ん中へ!」
 命令に従って大鷲は敵陣へ急降下。生じた突風で数体のバトラクスが捲られる中、機械の群れは一斉に機銃を構える。接近する他の√能力者より脅威と判断したのか、集団で銃口を揃えていた。
 危機を実感しながらも、桃花は口角を吊り上げる。
 上手くいった。
「|神聖竜《ホーリー・ホワイト・ドラゴン》——お願い! 敵を動けなくして!!」
 天を塞ぐように竜が出現した刹那、バトラクスたちの動きが縛られる。原因不明のエラーに困惑して機械音を発する敵の群れに、桃花は安堵の息を吐いた。
「それじゃ、あとは任せたよ!」
「もちろんだ!」
 応じた光希が身動きの取れない機械へ肉薄する。試製錬成破断剣——ステラを振り上げ、敵の脚部を吹き飛ばした。だが、本体を両断するには至らない。鋼鉄が高い耐久性を成しているのだろう。
 なら、一太刀で斬れる火力があればいい。
 ──纏え。
 光希が念じれば、淡い翠色に身体が包まれていく。プラズマのような輝きが走ったのを捉え、今度は剣を一思いに振り下ろす。
「|謎めいた強化形態《エニグマティック・フォーム》!」
 球体が真っ二つに切断される。
 |謎めいた《エニグマティック》力から繰り出される|謎めいた《エニグマティック》強襲。装甲ごと叩き切る、未知故に絶対的な威力の一撃。
 剣を振り回し機械を切り裂く光希を、実は放棄された自動車の陰から眺めていた。前衛を張る者がいれば、その裏での隠密行動も取りやすい。
「さて、私は私で狩らないとね」
 棺桶の持ち手と鎖を両手に握り、獲物を品定めする。他に注意を割いていて、大きな群れからやや浮いている個体群に目を付ける。見れば見るほど可愛いフォルムだ。
 でも、敵だから。
 握る力を強めれば、空の棺桶が霊力で満たされていく。
「壊させてもらう」
 車体から身を晒し、大きく腕を振るって棺桶を放つ。視界外から接近する質量の塊にバトラクスは反応できず、ビリヤードのように連鎖して薙ぎ倒された。
 砕けて横転した機械に影が重なる。顔に似たパーツへ拳銃が突きつけられ、情け容赦なく零距離で銃弾が炸裂。弾丸は鉄塊を貫通して、機械はガラクタに成り果てる。
「球体とかいう究極の傾斜装甲って厄介なんだよな……こうでもしないと弾が弾かれる」
 隙を見せたバトラクスを立て続けに葬り、柊音は愚痴のついでに弾を装填した。次の標的へと向かう前に、戦場に点在する√能力者の位置を覚える。再び潜伏しようとする実と前線で剣を振るう光希、空を飛翔する桃花にやや後方で戦況を観察するふわり。
 順路を構築し、戦場を駆ける。邪魔をしようと進路妨害を図る機械は拳銃——HC-γ"Vajra"の徹甲弾で黙らせ、止まることなく飛び越える。
 √能力者を通り過ぎる間際、柊音の右腕にノイズが走った。ノイズを割って飛び出すは、サイバー・リンケージ・ワイヤー。肌に向かって飛ぶと、溶けるように半透明のワイヤーがそれぞれの身体に接続される。
「ちょっとくすぐったいけど、我慢してよ」
 言葉を零し、後ろを振り返る。
 突然接続されたワイヤー、その効果はすぐに現れていた。
「たしかに少しむず痒いけど……敵の動きが見える!」
「……なるほど、これは動きやすい」
 至近距離で放たれた銃撃を光希が回避し、実が今まで以上に離れた位置の敵を棺桶で殴り抜く。反応速度、命中率の向上。それは結果として攻撃の勢いを高め、バトラクスの大群をさらに削っていく。
「これなら……僕でもちょっとは戦える!」
 飛び回る桃花は空から翼での牽制攻撃を仕掛ける。接近と離脱を繰り返し、他の√能力者が立ち回りやすい状況を形成。攻撃を見切りやすくなったおかげで、桃花自身もそれまでより踏み込みやすくなっていた。
 ワイヤーの恩恵は他にも。
「なんだかこそばゆいです。ぱちぱちです」
 接続されたワイヤーに、ふわりが身体を震わせる。それでも身体能力が向上する感覚は実感でき、何度か瞬きをしてからふわりは戦場全体を眺めた。
 機械の位置。真ん中で硬直させられた集団以外の、周りで動き回る個体群。反応速度が上がったからか、のんびりしているふわりにもその動きが手に取るように分かった。
「殲滅戦。知っています。いっぱいいっぱい倒すのです」
 こんなにいっぱいの機械を倒すには——答えは明白。
「いっぱい風船が必要です。さっきよりもいっぱいです」
 口の前に手を添え、息を吹き込む。ぷくーっと長細い風船が生まれ、独りでに捻じ曲がって何かの形になろうとする。
 風船はいろんな形になる。ふわりのお気に入りはお犬さまだが、風船には風船の気分がある。何度も捻じれていくうちに、それは手のひらの上で花開く。
「今回はお花でしょうか? いっぱい咲くと綺麗です」
 ぷっくり膨らんだ花びらが愛らしい、お花のバルーンアートが完成。じーっと見つめてから、ふわりは風船をぎゅっと握った。
「ですから、いっぱい咲いてください。えいっ」
 掛け声とともにバルーンアートを前に投げると、そこを起点に花の風船が続々と咲き誇る。先ほど掴んだ敵の動きに合わせ、感知されるよりも早く風船を飛ばして接触させた。
「みんなみんな、ぱんってします」
 連続でバルーンアートが破裂。しかし敵は軽く転倒した程度で、威力はそれほど高くないようだ。ただし、この状況ではそれすらも命取り。
「オラァッ!」
 路上の案内板——そこから飛び出した実が棺桶を投げ、鎖を引いてバトラクスに叩きつける。機械は粉砕され、実の足元まで部品が飛び散った。それを拾い上げ、実は手のひらで弄ぶ。
「機械に棺桶はいらないと思うけど……パーツなら再利用してもらえるかもね。勿体ないとか思わず、思いっきり壊せるよ」
「……気付いてるか? そっちはもう、狩られる側になってるぞ」
 冷淡に言い放つ柊音に、バトラクスは何の応答もしない。感情を持たない機械として、動ける個体は変わらず武装を向けるのだった。

●例え幾度と崩れても
 交戦開始から、バトラクスはその数を減らしていった。
 初手の行動制限で多数が硬直させられ、その後は√能力者の猛攻によって破壊が続く。残された個体は手段を選べる状況ではなくなり、勢力に反して攻撃は激化。
 闇雲に砲弾が発射され、街が爆ぜる。サイネージを遮蔽にして隠れていた実は、苛烈を極めるバトラクスの砲撃に舌打ちした。
「やっぱり火力で押されるとなかなか厄介だなぁ……」
「あまりのんびりはできないです?」
 同じく退避していたふわりに実は頷く。数を削ることには成功していたが、このまま身構えていては都市への被害が甚大になってしまいそうだ。
 再び戦場全体を視界に入れてから、ふわりは前へ腕を掲げた。
「これで一網打尽です。みなさま、機械を風船の内側に集めてください」
 周囲を円形に取り囲むように、花のバルーンアートが大量発生。花の風船は機械ににじり寄り、接触を避けようと機械は自ら中心へ移動しようとする。円の中央には桃花によって行動不能に陥った集団が固まっていた。
 一発一発は弱い花の風船も、あれだけの数が一度に破裂すれば絶大な威力となる。だが、その狙いに易々と乗ってくれる敵ばかりではない。機械の何体かは同時に機銃を構え、風船の列に穴を開けようとしていた。
 取るべき行動を悟り、光希が剣を携えてその敵へと接近する。
「させない! 一機たりとも逃がすものか!」
 声を張り上げて近づけば、敵群の照準も光希へと逸れる。正面から機銃の掃射が浴びせられたが、光希は構わず速度を上げる。横に飛んで弾の雨を躱し、リロードのタイミングで前へ。いよいよ突っ込むという瞬間に装填が完了し、銃口が光希へと向く。
 咄嗟に、光希は剣を身体の前に構えた。銃弾は超硬質な刀身によって弾かれ、その間も光希と機械群の距離は詰まっていく。
 間合いまで詰め寄って、剣を横一閃に振り抜く。
「捉えた!」
 翠色の閃光が辺りを駆け巡り、敵が上下に両断された。
 仲間の残骸が転がり落ちる最中も、機械は絶えず√能力者たちを狙う。バトラクスが砲台を構えるのを見て、物陰で実が呟く。
「……そろそろかな」
 その直後、機械がまたしても機械音を発して硬直した。理由は演算結果と実際の状況に齟齬が生じたため——機械間で共有された戦闘情報から、目まぐるしい勢いで都市の状態が変化していたからだ。
 さっき爆ぜたはずのビルの壁面が、今や修復されつつある。地面や他の損傷も同様に、何なら√能力者の負傷までもが回復していた。
「忘れようとする力がこの世界の人間は強くてね。自分の目で見ないと対応できないよ?」
 実が高めた『忘れようとする力』が時間差で作用。機械は集団的な混乱に陥り、まともに身動きが取れなくなった。
 ならば、押し込む絶好のチャンス。
「絶対に外には出さない! ここが勝負どころだね!」
「協力するよ。どうしても逃がしそうなら……それは仕留めればいい」
 空から桃花が、地上からは柊音が包囲網に加わる。翼でまとめて中心へ押し込み、ヒットアンドアウェイで反撃を食らう前に空へ退避。逃れようと這い出す個体は銃により沈黙させ、生きた個体は一体も漏らすことなく中心へ。
 それを繰り返すうちに、機械は徐々に密集しつつあった。
「みなさま、離れてください」
 ふわりが声を飛ばし、√能力者たちが風船の近くから距離を取る。円の内側に入っていた光希が風船を飛び越えて脱出したのを見届けて、ふわりは両手をぱちんと打ち鳴らした。
「ぱんっ」
 その号令で花のバルーンアートがバトラクスへ集合する。寄せ集められた機械の群れに大量の風船が接触、カラフルに咲き乱れた花畑は瞬く間に破裂した。機械自体の誘爆も交え、連鎖して巨大な爆発へと転じていった。
 爆発が終わった後には、わずかな部品を除いて何も残されてはいなかった。

 爆発を眺め、ひと段落ついたと光希はゆっくり呼吸をした。
「これで侵入は防げたわけか」
「そうなるね。遅れた身だけどご苦労様」
「いや、そっちこそ援護に感謝するよ」
 柊音と光希が淡々と言葉を交わす後ろで、ふわりは爆発の跡をじっと見つめていた。
「機械。ちょっとかわいかったです」
「……それは私も同感かも」
「本当は仲良くできると良いです。次は遊びで来てください」
 ふわふわと身体を揺らしてお願いしてみたふわりに、実もバトラクスの愛らしいフォルムを思い返す。
 桃花もトンッと地面に着地して、共闘した一同へ頭を下げた。
「みんなお疲れ様。初陣からクライマックスみたいな展開だったけど……うん、|柊那《しゅうな》にいい報告ができそうだよ」
 笑って呼びかけ、それぞれは一旦解散となる。
 √能力者たちは日常へと回帰していく。自分たちの守った日常へ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 日常 『ショッピングに行こう』


POW 欲しかった品物を買い込む
SPD セールやクーポンを利用してお得に買い物する
WIZ 変わった掘り出し物を発見する
√EDEN 普通5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●日常へ
 かくして、脅威は去った。
 戦闘の起きた交差点は、数十分も経たないうちに人で賑わうようになっていた。戦いの最中に修復されたものの、街に傷跡はそれでも残る。しかし、気にする者は誰もいない。「ちょっとした事故があった」……まことしやかに囁かれ、それが事実として受け入れられて対応され、何の変哲もない日常の風景に溶けていった。

 少なくとも、これ以上は何も起きないはず。
 巡邏も兼ねて、√能力者たちはショッピングに赴くことにした。偶然にも、戦闘地点付近のビルには大きな商業施設があった。
 ファッション、雑貨、食品……飲食店や娯楽施設を含め、一通りのものは揃っているようだ。いつもの光景に気を緩め、あるいはあくまでも警戒の姿勢は崩さないまま、√能力者たちは自分たちが守り抜いた日常へと還っていく。
不破・ふわり

完全勝利、です。
みなさまお疲れ様です。
怪我は無いでしょうか。
あるなら青い風船で治します。

私もいっぱい頑張りました。
ご褒美があっても良いと思います。お買い物なのです。
このあたりはお店がいっぱいあるのですね。
……甘いものはあるでしょうか。

本当はいけません。
昨日もソフトクリームを食べました。
甘いものを食べすぎるのはふわりの健康に良くないのです。

……クレープ屋さんです。
ふわふわの生クリーム。
きゅっと酸っぱいいちご。
もちもちの生地。
私には分かります。おいしい奴です。

……ちゃんと街が元に戻ってるかの確認も大事です。
いっぱい動きもしました。きっと大丈夫です。きっと。

●ふわりふわり、ご褒美タイム
 たくさんの人が行き交う施設の中を、不破・ふわり(ふわふわり・h00647)は満足気な表情で歩く。
「完全勝利、です。√EDENを護りきりました」
 むふーと息を漏らして、街が元に戻ったかの点検を続ける。片手に青い風船の紐を握り、万が一怪我人がいた場合の対策も万全。√能力者を癒した風船の余りなのだが、傍目からはこの商業施設で受け取ったもののようにも見える。
 風船を手にるんるんとショッピングモールを歩く子ども——最も、インビジブルである風船が目に見えればの話ではあるが。
「私もいっぱい頑張りました。ご褒美があっても良いと思います」
 実際のところ、当のふわりは楽しいお買い物気分に浸っていた。
 通りの壁側はどこも店が入っている。今のところ洋服や雑貨の店ばかりだが、この規模の商業施設となれば食べ物の店も必ずあるだろう。
「……甘いものはあるでしょうか」
 呟いてから、ふわりはぶんぶんと首を横に振った。
 本当はいけないことだ。
 何故なら、昨日もソフトクリームを食べたから。
「甘いものを食べすぎるのはふわりの健康に良くないのです。絶対に食べません……絶対に」
 自分に言い聞かせて、ふと真横を見た。
「……クレープ屋さんです」
 気付けばフードコートに差し掛かっていた。店頭に飾られた商品写真に目を奪われ、ちょこちょこ歩いてメニュー表の前へ。
 ふわふわの生クリーム。きゅっと酸っぱいいちご。もちもちの生地。
 一目見ただけで、ふわりには分かる。
「これは、おいしい奴です」
 食べないという選択はありえない。
 しかし、このまま食べるわけにはいかない。自分はあらゆるものからふわりを護らなくてはならない——もちろん、高カロリーからも。
 突然やってきた欲望と使命の板挟み。
 ぎぎぎ……と無表情のまま写真の前で固まって、ふわりは閃く。
「……ちゃんと街が元に戻ってるかの確認も大事です」
 もしかすると、クレープに異変が起きているかもしれない。
 だから、これは仕方のないことだ。
「確認です。おいしさの、確認です……」

 ベンチに腰掛け、ふわりはクレープを頬張った。
 柔らかい生クリームの甘みをいちごの酸味が引き立てる。それを包み込む焼き立ての生地も相性抜群だ。
「おいしい……異常なし、です」
 ほっぺたを膨らませて、もぐもぐと甘さに癒される。目を瞑ってクレープをゆっくりと堪能する一方で、今になって罪悪感がちりちり心を焼く。
「いっぱい動きもしました。きっと大丈夫です。きっと」
 カロリーが差し引きゼロであることを願って、ふわりはもう一度クレープにかぶりついた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

時任・桃花
ふう。よかったよかった。でも|特殊死霊《センシティブストーカー》ったら代償に僕の私服消し飛ばすのあんまりじゃないかな!?
(コスプレ衣装で見回りして一緒に写真撮ったり、決めポーズ頼まれて撮られたり)
は!これは、新作の!(こっそりお気に入りキャラの出る新作男性向けギャルゲ発見し即買い)うん、今回のもなかなか魅力的(な衣装)。よし、さっそくコス作り&材料集めだ!仲間には内緒で…え?見てた?やだなぁ。僕は桃花じゃなくてレイヤーのモモカさ!た、ただの他人のそら似じゃないかな!それじゃっ(コスプレファン?の人にウィンクして手を振り空中浮遊でヒーローっぽく退散しよう)

●レイヤーのモモカ、参上
「ふう。よかったよかった。危ないのは追い払えたし、異変も特になさそうだね」
 商業施設のとあるスペースにて。一通りの見回りを終え、時任・桃花(祈るもの・h00063)は安堵の息を吐く。
 ただ、彼女自身は依然として脅威に晒されていた。
 パシャッ——桃花の周囲で、カメラのフラッシュが絶えず光る。
「でも|特殊死霊《センシティブストーカー》ったら代償に僕の私服消し飛ばすのあんまりじゃないかな!?」
 ポージングを取りながら桃花は小声で叫ぶ。
『DEEP-DEPAS』に突撃した際に発した言葉を|特殊死霊《センシティブストーカー》は忘れていなかった。影に目を落とすと、あの陰湿な笑みがニヤニヤ自分を嗤っている。
 だからといって直帰するわけにはいかない。そのまま見回りに赴き、当然衆目を集めることになったわけだが……この服の言い訳としてぴったりなものが一つ。
「なかなかのクオリティだろう? このコスプレ衣装は!」
 カメラマンへ大声で呼びかける。事実、今着ている服もコスプレ用に作ったものではあるのだが、上塗りするように声を張った。
「これでポーズ撮影は終わりだね。次は……ツーショット? ……もちろんオッケーさ!」
 半ばヤケになりながら、桃花は写真を求める人たちの期待に応えていく。合わせポーズで、セルフィー風で……ここまで来たらと堂々胸を張って撮影を受け続ける。
 人波が去って、桃花はまた大きく息を吐く。ほぼ疲れから来たため息だったが、そうして一呼吸置けたことで冷静に周りを見渡せた。
 やけにコスプレの同志がいた理由。
 スペース付近にあるゲームショップで何かの記念イベントを開催していたようだが——。
「は! これは、新作の!」
 桃花が目を輝かせる。
 そこには彼女のお気に入りキャラが刷られたギャルゲーのポスターが。隣には今日の日付と『新発売』の文字がある。
「そうか、今日が新作の発売日だったか! すっかり忘れていたよ!」
 ダッシュで即買い。
 店を出てパッケージを手に取り、まじまじと眺める。
「うん、今回のもなかなか魅力的。よし、さっそくコス作り&材料集めだ! 今回ばっかりは仲間には内緒で——」
「あれ? 桃花さんも買い物ですか?」
 その声に、桃花は顔を真っ赤にして振り返った。
 よく知らない相手だが……向こうはこっちを知っている。どこかで顔を合わせただろうか。
 とにかくマズい。知られたくないことが多すぎる!
「は、はは! 買い物って何のことかな?」
「いや、見てましたよ。店から新作のパッケージ持って出てくるところ」
「……え? 見てた? や、やだなぁ、だとしても僕は君の知る時任・桃花じゃない……レイヤーのモモカさ! た、ただの他人の空似じゃないかな!」
「あの、名字は言ってな——」
「撮影会も終わったし帰るね!」
 通路を走って桃花は逃亡。
 吹き抜けに突き当たって柵を飛び越え——。
「それじゃっ!」
 華麗にウィンク。手を振りながら、ヒーローのように宙を舞って去っていった。
「……レイヤーって飛べるんだ」
 一応√EDENの力で不自然なく受け止められたが……その後しばらく『レイヤーのモモカ』の存在はコスプレ界隈の中で噂になったという。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

黒島・実

敵は去ったし一安心だね
私も戦えて満足してる
……気持ちを日常に切り替えるためにも、買い物していこう

商業施設ってなんだかワクワクする
ただ色んなお店を見ていくだけでも楽しい
せっかくだから何か買おうかな
雑貨屋さんを見ていくよ

目に留まったのは割とファンシー系のお店
……並んでるものが全部かわいい
動物モチーフが多いからそういうコンセプトのお店かも
ぬいぐるみなんかもある、ふわふわだ……
実家にもいくつかぬいぐるみは置いてるけど、今の家にも1個くらい置いておこうかな
手に取るのは小ぶりな三毛猫のぬいぐるみ
……かわいい。この子にしよう

ぬいぐるみを買ったら、次はカフェでも寄って帰ろうかな
糖分補給して家に帰ろう

●狂犬のクールタイム
 賑わう商業施設に入って、黒島・実(牙隠し・h01145)は視線を巡らせる。戦闘中に発揮していた凶暴さは鳴りを潜め、今は落ち着いた大学生として施設の中を歩いていた。
 エスカレーターに乗る。吹き抜けから各階に並ぶ店の数々を眺め、実は小さく息を零した。
「こういう場所って、いつ来てもなんだかワクワクするな」
 敵は去った、これで一安心。実自身も溜まっていた戦闘衝動を先の戦いで発散し、とても満足していた。さっきまでピュルゴスを握っていた右手をもう一方の手で制して、切り替えようと心掛ける。
「ただ見ていくだけでも楽しいけど……せっかくだから何か買おうかな」
 エスカレーターを降り、小さな店が並ぶ通りへ。雑貨屋が集まっていて、店ごとに独特の世界観を演出していた。アンティーク、自然系、アングラ風味……個性的な店を流し見するうちに、ある店が目に留まった。
「この店……何かいい感じ」
 実が足を止めたのは、ファンシーがテーマの雑貨屋。
 店頭には動物のぬいぐるみがちょこんと座って並べられていた。ペンやノート、スタンプなどの文房具や目覚まし時計などの小物も置かれていて、子どもの頃を思わせる愛らしいデザインで統一されている。
「……並んでるものが全部かわいい」
 動物モチーフが多いからそういうコンセプトのお店なんだろうと想像しながら、実はぬいぐるみに顔を近づけた。どの子も丁寧に作られていて、柔らかそうな布地に心を絆される。
「ふわふわだ……」
 かわいいの集合に、服の胸元をぎゅっと掴む。それから何気なく、両手をぬいぐるみの一つに向かって伸ばす。実家にもいくつかぬいぐるみは置いてあるが、今の家にも一個くらい置いておいていいかもしれない。根拠はないが、生活に潤いが出る気がする。
 すっと実が抱き上げたのは、小ぶりな三毛猫のぬいぐるみ。白地に茶色と黒のぶち模様、ちょっと糸目で癖のある顔立ち。純粋なかわいさからは遠いが、そこがまた愛くるしい。
 指で三毛猫のお腹を軽く撫でてみる。ふわふわの触り心地と若干の反発が、実の心を掴んだ。
「……かわいい。この子にしよう」

 ぬいぐるみの入った紙袋を右手に下げて、実は雑貨屋の通りを抜ける。モニュメントの時計を一瞥。帰るにはまだ時間がある。
「帰る前にカフェにでも寄ろうかな。何か甘いものが食べたい」
 言葉として呟けば、動き回った疲れがぶり返してきた。生クリームか、それとも餡子か。摂取すべき糖分の種類を今の気分から考えつつ、カフェを探して再び歩き出す。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

霧島・光希
厄介な連中を倒せて、何とかなって良かった。
あとは……せっかくだからお店を見て回ろうかな。
何か美味しそうなものがあったら買い食いしたり、良さそうなものが見つかったら買ってみるのもいいね。

戦った後の疲れた身体には甘いものが良いかなー、なんてクレープを買って食べてみたりとか。生クリームとチョコソースだけのシンプルなやつ、こういうのが結構美味しいんだよね。
けれど……ううん、良い感じのものはなかなか見つからないようなー……っと?

ふうん、ヘッドホンか。こういうのも良いな……。
いくつか比べて、使い勝手を試せるのなら試してみて。
最終的に、ひとつ気に入ったヘッドホンを買っていく。なかなかいい買い物出来たかな?

●巡り合わせに期待して
「クレープ一つ。味は……生クリームとチョコソースで。はい……ありがとうございます」
 店頭で注文を終えて少々、クレープを受け取った霧島・光希(ひとりと一騎の冒険少年・h01623)は近くのベンチに腰を下ろした。零れそうなほどの生クリームにチョコが掛かったそれをしばし見つめてから、あーんと大口を開けて齧りつく。
 クリームの濃密な甘みにチョコレートの仄かな苦みが混ざる。流れ込むまろやかな味わいを柔らかな生地と一緒に飲み込んで、ゆっくりと息を吐く。
「美味しい……何か沁みるなぁ」
 疲弊した身体が糖分によって癒されるのを感じながら、光希は商業施設の景色を望む。個性的な店々の前を、たくさんの人が通り過ぎていった。
 由来不明の災厄に異界からの戦闘機械。厄介な連中を倒し、これにて一件落着。異変の見回りも兼ねて、光希はせっかくだからと店を見て回ることにした。
 戦った後の疲れた身体には甘いものが良いかなー、なんて思って買い求めたのはシンプルなクレープ。もうひと齧りして、素朴だからこその甘みに浸る。
「こういうのが結構美味しいんだよね」
 独り呟き、声は賑わいの中に沈んでいく。クレープを食べ進めつつ、光希は頬を掻いた。
 いろいろなものを見てそれなりに満足しているつもりだが、欲しいと思うようなものとはまだ出会えていない。どうせなら何か買っていきたいところではある。
「……ううん、良い感じのものってなかなか見つからないんだなー……っと?」
 視界の奥、はためくのぼりに目が留まった。開けたスペースにポップアップの店舗が設営されているようだ。
「あれは……オーディオショップ? へぇ、珍しい」
 クレープの残りを口に放り込み、ベンチから立ち上がる。ポップアップの区画に入り、棚の商品を眺めた。新作ブランドのイヤホンなどが並ぶ中、光希の興味を惹いたのは——。
「ふうん、ヘッドホンか。こういうのも良いな……」
 サイバーな雰囲気を纏ったヘッドホンを光希は手に取った。試聴用に音楽の流れているそれを装着して、性能を実感する。聴き心地もなかなかいい。デザインだけを意識して作っているわけではないらしい。
 いくつか聴き比べ、値段とデザインを見比べる。組んだ腕の上でトントン指を叩いて、最終的に買うべき製品を一つに定めた。
「すみません。これ、買います……いいヘッドホンですね」
 店員に笑みを向け、箱の入ったビニール袋を受け取る。区画を出て、袋の中にあるヘッドホンの箱に目を落とす。
「なかなかいい買い物できたかな?」
 これで音楽を聴きながら帰るのもいいかもしれない。偶然の出会いに感謝しつつ、光希は帰路についた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

雪起・柊音
特になんということはない全国展開チェーンの喫茶店に入るよ
頼むのもホットコーヒーとミルクレープ。皆さんご存知。
……こっちじゃないと味わえないからね。あ、クーポンあります……はい、交通系ICで。

のんびりしながら周辺の【情報収集】。どこでも無線が使えるっていいよね
商業施設内のカメラ映像をタブレットであらかた確認。他に見回ってる人がいたら……まぁ、そっとしとこう

飲み終えたらそのままビルのエレベーターへ。最上階の扉がそのまま道だから……
じゃ、またいつか。

●さよなら世界、また逢う日まで
 レジ前に立ち、雪起・柊音(Donnerschnee・h03670)は淀みなく注文を済ませる。
「あ、クーポンあります……はい、交通系ICで」
 端末を操作してコードで支払いを終えると、目印になる番号札を取った。ボックス席に座って卓上に番号札を立ててから、柊音は頬杖をつく。
「いつ振りだっけ……いつでもいっか」
 朱色のソファーに身を任せ、わずかにだらけた姿勢を取る。ここでは緊張している方が場違いだ。
 柊音が入店したのは特になんということはない、全国展開チェーンの喫茶店。均一化された木目のテーブル、談笑する女性客やパソコンを開くサラリーマン。何ら特別感はない。
 となれば、届く食事だって普遍的。到着したホットコーヒーとミルクレープに、柊音は瞬きする。皆さんご存知。
「……けど、こっちじゃないと味わえないからね」
 感動も悲嘆もなく、柊音は呟く。カップを掴み、コーヒーを飲む。嗜好品特有の複雑な苦みが口の中に広がった。
 のんびりとコーヒーを味わいながら、テーブルの上にタブレット端末を置く。喫茶店のフリーWi-Fiに端末を接続して、片手で画面を叩いた。
「どこでも無線が使えるっていいよね。うちもそうなんないかな……」
 投げやりな希望を零し、アクセスするのは商業施設の監視システム。すぐに各所の監視カメラの映像が画面に反映され、柊音はそれを流し目で眺める。
 ミルクレープの皿を引き寄せ、重なった層をフォークで縦に切り裂く。冷たいクリームと柔らかな生地を口内で揉み砕き、後に引かない甘みを堪能する。コーヒーとの対比で深まった味わいを楽しみつつ、ザッピングするようにカメラの映像を切り替えていった。
 これといって問題はない。ぼーっとタブレットを見ていると、他の√能力者が時折映った。買い物をしたり、トラブルに巻き込まれたり……それぞれのプライベートを過ごしている。
「……まぁ、そっとしとこう」
 この期に及んで邪魔なんてされたくないだろう。また映像を切り替えて、柊音はコーヒーカップを手に取った。

 コーヒーを飲み終えた柊音はさっさと帰路についた。他の客と一緒にビルのエレベーターに乗り、最上階のボタンを押す。ばらばらと降りていく客を見送って、柊音だけが箱の中に残される。
 自身の世界に繋がる道は最上階の扉——エレベーターが最上階に到着した瞬間に、道が開かれる。上昇していく数字を目で追うのにも飽きて、柊音は後ろを見た。ガラス張りの窓が都市の情景を、頼んでもないのに届けてくれていた。
 馬鹿みたいに長閑な楽園。扉の向こうに控える世界に瓜二つながらも、似ても似つかない世界。どれだけ平穏であろうと、ここは自分の世界ではない。
 エレベーターが最上階に到着して、軽快な音が鳴る。
「じゃ、またいつか」
 開いた扉から外へ。
 柊音が彼の日常へと回帰して、扉は静かに閉まった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

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