シナリオ

花の国、芽吹きの春

#√ドラゴンファンタジー #ノベル

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√ドラゴンファンタジー
 #ノベル

※あなたはタグを編集できません。


  花の香りが、風にほどける。エルフィオールに、春が来た。

 四季折々の花咲く妖精の国――エルフィオール。
 春といえばこの国では春の妖精たちが国をパステルカラーで彩る季節でもあり、そして――。

「わぁ……!」
 桜の花の咲き誇る妖精の国に足を踏み入れたミモザ・ブルーミン(明朗快活な花妖精・h05534)は、観光客で賑わうその場所に思わず声をあげていた。
「さすがにこの季節は人が多いですね。」
 ミモザの隣。片手に木のバスケットを持ったエレノール・ムーンレイカー(蒼月の守護者・h05517)もまた、ミモザと同じように声をあげる。
 春の花の代表とも言える桜の花を、この国で見ようと訪れる観光客でごった返していた。
 それもそのはず。花々と共に在るエルフィオールの春の景色は、√ドラゴンファンタジーでも有数と言われているほどに美しく、混雑回避のために指定された区域で、そして抽選制でしか入れないのだ。
 2人もこの国の春の景色を楽しむためには、まず抽選に参加をしなければならない。しかし、目の前の観光客の多さに目を瞬かせていた所だ。
 観光客の多いシーズンに足を運ぶこともある。けれども今日以上の日を見た事がない。まさかこんなにも観光客であふれるなんて。とは冬にも思ってはいたが、冬以上の人の多さに少々尻込みもしてしまうもの。
「今年も観光客で賑わっているね……。」
「……想像以上です。」
「でも大丈夫!」
 エレノールの横で羽を羽搏かせていたミモザが、エレノールの眼前へと躍り出る。大丈夫だと告げる表情に、どこか自信が込められているのは気のせいでは無い。口の箸をつり上げて得意気に笑ったミモザは、観光客でごった返す道とは反対方向。春の地区へと小さな指先を向ける。
「今回は抽選に参加をしなくても、とっておきの場所にエレノールを招待するからね!」
「ミモザの言うとっておきの場所というのが、どのような場所なのか。とても楽しみです。」
 指先の向く方角へとエレノールは身を向け、2人揃って春の地区へと足を踏み出した。

 春の地区。
 春の花が咲き、そして春の花を育てる妖精たちの住む地区。嘗て、この地区で様々な調査をしたエレノールとミモザは、この地区に住む妖精たちとも交流を深めていた。
「エレノールさん!ミモザさん!」
 歩む合間に他方から、2人を呼ぶ声も聞こえて来る。今し方呼び止めたのは、鮮やかな青色の羽を背負った青薔薇の妖精だ。
「こんにちは!」
「こんにちは。」
 ふわりと春の鱗粉が舞う。青くやわらかい羽を羽ばたかせて、青薔薇の妖精は2人の前へと飛んだ。
「今からどちらに?」
「いまからとっておきの場所に行くのよ!」
「ええ、ミモザがとっておきの場所に、招待をしてくれるらしく。」
 エレノールはバサケットを軽く掲げ、これからの予定を示す。木のバスケット。片手で持つことの出来るそれは、誰がどう見ても花見の道具だと分かる物だ。
 バスケットへと近付き、網の隙間から中を覗いた青薔薇の妖精は、頬を春色に染める。
「いいですね!私も仕事が落ち着いたら、お花見をしに行きたいな……。」
「名案!この時期は、春の妖精たちが飛び回る時期だから、息抜きに皆でピクニックをしてみるのもいいかもね!」
「ミモザの言う通り、息抜きは大切ですから。その時には、美味しいお茶とお菓子を用意します。」
「良いんですか……!」
「もちろんよ!」
 青薔薇の妖精がその場で宙返りをすると、青い羽が春の日差しを反射する。閃光が円を描き、パステルカラーの街並みを彩る。
「俄然、やる気が出てきました!エレノールさんも、ミモザさんも、お花見を楽しんできてくださいね!」
 小さな手を翳し、2人に向けて手を振った青薔薇の妖精は、そのまま仕事にでも戻ったのだろう。出会った時よりも、うんと調子が良くなったらしい。飛び去る姿からは、もうあの時の重さは見当たらない。
 青薔薇の妖精の近況を間近に見た2人は、互いに視線を合わせて再び森を目指す。

「青薔薇の妖精さん、随分と元気になっていましたね。」
「うん、あの様子なら上手に息抜きが出来ているんじゃないかしら?」
「もうすぐ1年ですね。」
「1年……。」
 木々の隙間から、あたたかい日差しが差し込む。風はまだ冷たいものの、これだけ日差しが暖かければ、まだ蕾の花たちもすぐに咲くのだろう。
 緑ばかりの森を道なりに進む合間、エレノールは渦中の青薔薇の妖精を思い返していた。もう1年。
 あれからもうすぐ1年が経過するのだ。町の様子は相変わらずで、季節によってイベント事も、そして観光客も多い。
 妖精たちはこの国の花々を育てることに一生懸命で、だからこそこの国が四季折々の花を咲かせ続けることができているともいう。
 少し前までは過労に倒れる者もいた。しかし、お茶会を提案してからは、そうやって倒れる者も徐々に少なくなっているようだ。
 前よりも活気のあふれた妖精たちの表情を思い返すと、自然と胸も軽くなるようだ。うつくしく、そして新鮮な空気を吸い込み、エレノールは微かに笑みを浮かべる。
「エレノール、何だかスッキリした顔をしているね。」
「1年前の事を思い返していたんです。」
「エレノールも?実は私も……!」
「ミモザも?」
 そうして話をしながら、森の奥へと歩みを進めていると、次第に周囲の景色も移り変わる。緑で覆われていた周囲が拓け、軈て眼前に広がるのは――。

「とっておきの場所へ、ようこそ!」
「ここが、とっておきの……。」
 春の色で溢れた花畑だった。
 森の木々の代わりに桜の木が周囲を覆い、白、紫、黄色にオレンジのチューリップが彩を添える中、タンポポ、フリージア、それに加えて休憩スペースとして整備をされたベンチの頭上で、藤の花が風に流れていた。
「そう!ここは妖精たちや、妖精に招待をされた人しか訪れることが出来ない、とっておきのスポットよ!」
 桜の木の下でシートを広げた妖精たちが談笑し、藤棚の下では流れる藤の花で遊ぶ妖精。それから妖精に招待をされたのだろう、様々な種族の者たちが花の蜜で作った酒を片手に、乾杯を交わしていた。
「このような場所があったのですね……。」
「ここも、あのお茶会会場みたいに、妖精たちが羽を伸ばす場所になりつつあるのよ!」
 観光客の多い桜の名所に比べたら派手さはないかもしれないが、それが丁度いいともいう。仕事の合間に羽を伸ばす妖精、他の種族と交流を深める妖精。ここは、誰もが訪れることは出来ないけれど、出来ないからこそ、こうして密やかなお花見を行うには丁度いい。
 ミモザは先導するようにエレノールの前を飛び、桜の木の傍に咲いたチューリップの花に腰を落ち着ける。ミモザの向かい、切り株に腰を落ち着けたエレノールは、木のバスケットを横に置き、サンドイッチやからあげ、玉子焼きにカットフルーツを紙皿に並べ、最後に2人分の紅茶をカップに注いだ。
「わあ……美味しそう!」
「お花見と聞いて、張り切って作ったのですが……作りすぎてしまいました。」
「大丈夫よ!エレノールのご飯はどれも美味しいからね!」
 紙皿の上に並ぶおかずの数々は、ミモザも食べやすいように小さめに切っている。少々作りすぎたものの、食べきれな量でもない。
「いただきます!」
「いただきます。」
 2人揃って両手を合わせ、いただきますの挨拶を交わす。まず初めに、ミモザが手にしたのは野菜たっぷりのサンドイッチ。こぶりに切り揃えられたパンを大きな口で齧ると、瑞々しいレタスが口の中で音を鳴らす。
「ん~!美味しい!」
「それは良かったです。」
 ミモザの様子を見送り、エレノールもからあげに手を伸ばす。少しだけ胡椒をかけすぎたかもしれないと思ってはいたが、どうやら程良い味付けになっているようだ。口元を僅かに緩ませて、口の中で溢れる肉汁とカリッと揚がった衣の食感を楽しむ。
「こちらのからあげも、とても美味しく出来ました。」
 エレノールは、からあげの乗せられた皿をミモザの方へと僅かに寄せる。口いっぱいにサンドイッチを詰め込んだミモザが嚥下をすると、一口サイズに切られたからあげを口に含んだ。
「カリッとした食感、程好い胡椒!うん!とっても美味しいよ!」
 なによりも食べやすい。からあげと言えば、時間の経過と共に食感も楽しめなくなってしまうものの、エレノールの作ったからあげはいつ食べても美味しい。
 片頬に手を添え、美味しい美味しいとミモザが声をあげていると、その声につられた妖精たちが2人の周囲へと集っていた。
「美味しいお弁当?」
「よければこの花蜜のクッキーと交換しない?」
「この子の手作りなのよ!」
 妖精の差し出したそれは、淡いピンク色の花の形をしたクッキーだ。花蜜のクッキーと言えば、この妖精の国でも販売をされているクッキーでもあり、妖精たちが休憩中に頬張るちょっとしたお菓子としても有名である。
「手作りの花蜜クッキー!」
 ミモザの瞳がきらきらと輝く。手作りであるならば、普段販売をされている花蜜のクッキーとはまた違った味がするはずだ。そんなミモザの様子を見たエレノールは、紙皿を妖精たちに向け、小さく頷きを返す。
「ぜひ。こちらの玉子焼きが食べやすくて良いかもしれません。」
「ありがとう!」
 玉子焼きと花蜜のクッキー。その2つを交換していると、更に別の妖精がやって来た。
「この桜サイダーとそちらのフルーツサンドを交換しましょう?」
「桜サイダー?!いいの?」
 思わず前のめりの姿勢になってしまったミモザは、エレノールと向き合う。なんせ、この桜サイダーは観光客向けに作られたもので、早い時には午前中で売り切れてしまう程に人気なサイダーなのだ。
 ほんのりと桜色に色付いたサイダーの中に、桜の花弁が浮かんでいる様がとても愛らしく、そして見た目だけではなく味の方も桜の香りが仄かに漂い、春の訪れを感じさせるサイダーになっている。
「もちろんよ!」
 カップの中に2人分のサイダーを注ぎ、妖精は2人に差し出す。代わりにイチゴやパイナップル、キウイの挟まれたフルーツサンドを手渡すと、妖精は嬉しそうに礼を告げて花見に戻った。
「沢山いただきました。」
「これもまた花見の醍醐味ね!」
 互いに顔を合わせて笑い合い、花蜜のクッキーと桜のサイダーを口にする。噛めば噛むほど口の中では花の蜜がじわりと広がり、口内を甘く彩る。フルーツサンドとは違った濃厚な甘さに頬を緩め、喉を潤す桜サイダーを口にした途端、清涼感が広がった。
「花蜜のクッキーも、桜サイダーもどっちも美味しい!」
「桜サイダーは、桜の花のやさしい香りがしますね。」
「このサイダー、中々手に入らないから、今回はラッキーだったね!」
「はい。交換というのも新鮮でした。」
「来年もまた、ここでお花見をしたいですね。」
「大賛成!来年もまたここに招待するね!」

 デザートまでしっかりと堪能をした2人のお腹はすっかりと満たされる。春のあたたかい日差しも相俟って、周囲では午睡に勤しむ者たちも増えてきたようだ。
「ふぁ~……。」
 気の抜けた声と共に、ミモザが花弁の中で丸くなる。周囲の皆と同じように、すっかりと眠くなってしまったようだ。
 そんなミモザの様子を見つめ、エレノールもまた瞼を擦る。眠いのはエレノールも同じなのだ。花弁の中で眠る姿勢をとるミモザを横目に、エレノールも花畑の中で仰向けにの転んだ。
 春特有の、少しだけ冷たい風が前髪を攫う。深呼吸を繰り返し、瞼を閉じた時、耳元で小さな羽音が聞こえた。
「春の香りっていうのかしら?」
 ミモザだ。エレノールの耳元、声の良く聞こえる位置で仰向けに寝転がり瞼を閉じる。
「あたたかくて、甘い香りがします。」
「チョコレートとは違った甘さね。」
「心が凪ぐ、と言う言葉が近いかもしれません。」
「同感。」

 肺一杯に春の空気を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。鳥の囀りを背景に舞い散る桜の花びらが、眠る2人の上にひらひらと落ちて来る。
 騒がしい声は聞こえない。誰もが穏やかに眠る春の中で、2人の寝息が春を彩った。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト

閉じる

マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を閉じて「読み物モード」にします。
よろしいですか?