シナリオ

赤く、甘酸っぱい

#√マスクド・ヒーロー #デザイアモンスター #魔法少女現象

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 #√マスクド・ヒーロー
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「いいなあ、イチゴ食べ放題なんでしょ?」

 なんて、もう何百何千回と言われ続けてきた。
 素直に返せば「お父さんかわいそうだよ」と非難される。当たり障りもないよう返せば「ええー、ゼータクな悩みー」と呆れられる。
 イチゴ農家の娘なんだから、イチゴ好きに決まっているなんて。
 そんな事あるはずないのに。
 冬。
 イチゴの収穫時期になれば、千冬の両親は忙しく働いている所しか見ることがない。
 深夜から働いて、それから昼にはいちご狩りのサポートをして、また働いて。そんな風に動き続けている。もっと従業員の人と分担すればいいのに、お父さんは困ったように笑うだけだ。
 お金もそんなに余裕がないのも、知っている。来年中学生に上がるのだ。それくらいは分かるようになっていた。
 イチゴ狩りなんて入場料を高く取ればいいのに「自治体からの補助金もあるから」なんて言って笑っている。その癖、燃料費が何倍だ、天候不良で収穫量が何分の一だと頭を抱えている姿を何度見たことか。

「なんでこんな事やってんだろう」

 やめちゃえばいいのに。
 塗装の剥げた『ようこそ、いちご狩りへ』と似合わないポップな看板を見上げて呟いた。帰宅途中、家のすぐ近くに両親の営む農園がある。毎年塗り替えている看板の赤色をみながら、早く家に帰ろうとした私は少し遠くで聞こえる慌てた声を聞いた。
 従業員の男の人だ。その人は、他の従業員に何かを口早に告げて、スマホを取り出して何処かに連絡を取っている。
 少し遠くて、滑舌が悪くて、難しい言葉を使っていて。それでも、その会話の中で聞こえた事があった。
 それだけはハッキリと、耳に飛び込んできた。
 お父さんが倒れた、と。


 宙を舞う。
 夜風が髪をさらう。
 泥と一緒になって、空を見上げた。
 霞んで。重くて。痛くて。軋んで。へしゃげて。
 見下ろす月は助けてもくれない。
 まるで、そうあって当たり前だと言いたげに、お高く止まっている。
 轟音。
 衝撃が全身を砕き折るように走り抜けた。
 衝突。
 ビニールハウスだ。張り付いたビニールの皮膚を食い破り、骨組みのパイプをねじ切りながら、私の体は高設栽培のベンチへと叩き込まれた。半ばでへし折れたベンチの中の土と水が零れ落ちては私の上に覆いかぶさってくる。
 赤く、暗く。
 潰れた果肉が指の間にへばりついている。滴る痛みが、土に染みて黒ずんでいく。
 痛い。
 ボヤケて欠けた視界の奥で、黒く蠢く何かが此方を見ていた。
 涙が溢れて止まらない。
 ぐちゃぐちゃだ。もう、何もかも。
 痛い。
 だから嫌いなんだ。
 嫌なことばかり運んでくる。
 嫌なことばかり。

「なんでこんな事」

 やってんだろう。
 声は掠れた。喉が痛かった。
 零れる土塊の端に根を覗かせているイチゴの苗に手を伸ばす。引きちぎって、地面に叩きつけて。こんなもの全部ぶち壊してしまえばいい。
 意味なんてないのに。
 いやだ。
 でも、それでも私は唇を噛んだ。噛み締めている。
 伸ばした手を戻して自分の胸を掴んだ。
 これが悪いんだ。
 ほんの僅かに、それでも確かに。
 胸の奥にある痛みが思う通りにさせてくれない。足が動いてしまう。土を踏みしめてしまう。
 自分でも理解ができない。
 
「どっか、行ってよ……」

 黒い。黒い腕が胸を貫いた。
 赤く果実が弾けて、最後は潰れて落ちていく。


「イチゴ狩りかぁ、じゅるり……俺もイチゴ狩り行ってみてえなぁ!」

  ネレイド・グラジオラス(ドラゴンプロトコルの|屠竜騎士《ドラゴンスレイヤー》・h07077)は、どこか興奮した様子で涎を垂らしていた。
 彼の脳内には、ジュワリと滲む甘い果汁。プチプチと弾ける種の食感と微かに繊維を感じさせる果肉。そして、口中に広がるイチゴの甘く芳醇な香りが広がっているようだ。
 もうすぐシーズンが終わるイチゴ狩り。旬を過ぎている、とはいえビニールハウス管理で今ぐらいの時期であれば寧ろ甘く柔らかい完熟のイチゴが食べられるのだ。
 
「いや……まあ、俺は、別にイチゴが可愛いとか思わないけどさ、美味いよな! 美味いのは好きだぜ! だよな!」

 と誰に断りを入れているのか分からないが、兎も角といった風にネレイドは一つ咳払いをした。
 彼は今ここに、ただイチゴが食べたい、などと世間話をする為だけにいるわけではない。その事を思い出したかのように、表情を引き締めようとしながら彼は、事件についてを語りだした。

「|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》……、それが起きちゃうんだ」

 √マスクド・ヒーローで確認されている、子供達が男子女子問わず魔法少女に覚醒してしまう現象だ。
 それだけならばいいのだが、この現象にはとある危険性が付きまとっている。魔法少女として覚醒した少年少女──まだ力を扱えずそれでも強大な希望の力に満ちている存在は、とある怪物にとって最高の供物たり得るのだ。
 デザイアモンスター。
 人間の「希望の心」を動力として半永久的に動く「自動的な怪物」。それが、この怪物だ。

「このイチゴ農園のオーナーである家の女の子が魔法少女に覚醒して、デザイアモンスターに襲われる予知を見たんだ」

 農園と言っても、ほぼほぼ家族経営のようなもので後は数人の従業員を雇っている程度。だが、自治体との関係もあってイチゴ狩りの宣伝や保育園や学校の見学受け入れも行っているような農園だという。
 そんな場所で、少女が襲撃されてしまう。

「魔法少女の覚醒は防げない。だから、そうなった時にあの子を助けられるよう、まずは準備を進めてほしいんだ」

 ネレイドは告げる。
 彼女を中心に発生する戦闘だ。巻き込まないという事は不可能だ。とすれば、√能力者の先輩となって、彼女に力の使い方をその場で教えなければいけない。
 だが、彼女の能力は未知数。けれど√能力はその人から発生するものだ。彼女が抱く思い。彼女自身がその力に対しての理解を深められればきっとEDEN達自身の戦いの力になってくれる。

「その子──千冬っていう子なんだけど、今は病院にお父さんのお見舞いから帰ろうとしている所なんだ」

 そして今夜。
 彼女に魔法少女現象が発生する。
 幸いな事に、千冬の父親は軽めの過労という診断で身体に別状はなく、二三日の検査入院だけで退院できるということだ。周囲から代わる代わる叱られて萎れてしまっているが、忍び込んでも彼に接触しても問題はない。
 当然、病院内で彼女自身にコンタクトを取るもいいし、母親や農場の従業員に話を聞くでもいい。そうやって、実際の戦闘になった際、千冬を支えられるように。千冬やその周りの人々から話を聞いたりして、戦闘となった時に動転するだろう彼女を励まし、導けるように準備を進めて欲しい、ということだ。
 それを伝えてからネレイドは、ぐっと拳を握りしめて瞳を輝かせてこう締めくくった。

「この子を助けて、それで俺らも美味しいイチゴを食べる! それで、ハッピーエンドってしようぜ!」

マスターより

雨屋鳥
●当シナリオを担当させていただく雨屋鳥です。
 イチゴ狩りです。季節としてはギリギリかもですね。
 あと、魔法少女との共闘バトルがあります。お話して、バトルして、イチゴ狩りします。
 そんなお話です。
 書けるタイミングで、書けていければと思います。

第1章🏠『お見舞いをしよう』
 魔法少女となる千冬について、本人や周りの人に聞いて、二章のバトルで彼女を上手く励ましたり、力を引き出させたりする為の準備をする章です。
 
●人物について

・千冬
 魔法少女として覚醒する少女。
 少し気が強かったり、大人びた考え方をしたがったりと割りと普通の女の子です。

 それでは、プレイングお待ちしております。よろしくお願いいたします。
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第1章 日常 『お見舞いをしよう』


POW 滞在者に直接お話しをしに行く
SPD 陰ながらこっそりと見守る
WIZ 施設の人に話を聞く
√マスクド・ヒーロー 普通5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

早乙女・伽羅
後々本人の力を呼び起こす助けをしなければならぬというならば
彼女の為人に触れておいたほうがよいだろう
とはいえ、俺みたいなのが少女に気安く話しかけるのも考えものか

中折れ帽を被って耳を隠し、この世界における体裁を取り繕う
普段はマスクをよく着けるが、今回はあまりにも不審者然としすぎるだろうからね
「千冬と入れ違いに誰かの見舞に来た」というていで足早に、
彼女にぶつかった拍子に抱えた果物を全部落す
もちろん、中には苺も入っている

”人の好さそうなおじさん”として振舞い、千冬の言動や目線を観察する
「君も誰かのお見舞いでしたか」
まだ誰かに「どうしたの」と優しさを向けられたい年頃だろう
さあ、君の話を聞かせておくれ


 静かな喧騒だ。
 騒々しい静寂が息づいている。窓の外には桜が揺れている。中庭を見下ろす。人気のない小さな庭では一人の清掃員が落ち葉を掃いている。足音。咳。テレビのニュース音声。誰かが誰かを呼ぶ声。瞬く。陶器のこすれる音。何かが跳ねる。鼻を鳴らして、自分の感覚を思い出す。入院棟。砂糖菓子を撫でたような冷えても温かくもない温度の廊下を、ゆっくりと踏みしめた。次の足は軽く踏み出す。手に抱えた荷物の重みを感じながら、すっくと背を伸ばした。やえの花びらが視界の端を泳ぐ。
 静かだ。
 荒げる声も必要のない空間で、足音を響かせぬように歩いて。
 影が目の前に踊った瞬間、僅かに息を呑んだ。

「きゃ……っ!?」

 軽い衝撃とあわせて、そんな声が耳先を揺らした。
 避けようと思えば避けられた。だが、そうしなかったのは、そうするためにここに来たのだと思い出したからだ。ほぼほぼ微動だにしなかった腕を態と揺らして、その中身を籠ごとに床に転がした。
 だが、それはさておき、彼はぶつかってしまった少女へと手を差し伸べた。

「ああ、済まない。怪我はないですかな、お嬢さん」

 |早乙女・伽羅《さおとめ・きゃら》(元警察官の画廊店主・h00414)は、少女に向けたのとは逆の手で少しズレた中折れ帽を直しながら、申し訳無さげに眉尻を下げる。
 そんな獣人の姿に、少女──千冬は、伸ばされた手を掴もうとして、しかし、その指先が触れる前に腕を引っ込めた。

「……む」
「あ、すみません。あの、果物……が、その……」
「ああ、拾ってくれようとしたんですね。かたじけない」

 どうしたのか、と見た伽羅の視線に気づいたらしい千冬は、焦った様子で伽羅の手を取らなかった事の弁解を述べた。そんな少女に、伽羅は首の後を掻きながら膝をついた。
 千冬は手にした籠から零れ落ちた果物を拾い集める。伽羅もそんな彼女に倣うようにして果物を籠の中に転がしていった。そうして、多くはない果物を籠にしまい込んでから、千冬はじっと籠を見つめる。

「お見舞いの、……なんですよね、ごめんなさい。あの、その……ちょっと待っててくれますか?」
「ああ、それは構わないけれど」

 言いながら千冬は視線を周囲に彷徨わせたかと思えば、籠を持ったまま軽い駆け足で伽羅から離れていった。まあ、そのまま消えてしまうような置き引きがあるわけ筈もない。伽羅はゆっくりと立ち上がりながら彼女の背を見つめる。その先には給湯室があった。
 入院者が自由に使えるような簡単な設備だ。

「一応、洗っておかないと。あのすみません、時間とか」

 給湯室を覗き込んだ伽羅に、千冬は心苦しそうに言う。
 伽羅は顎を擦り、腕を捲くる少女に向けて「むしろ、こちらこそ申し訳ない」と謝辞を述べた。

「……それがね、ああ、実は伝えていた時間より早く着きすぎていてね。お陰で気まずくならずで済みそうだ」
「そう、ですか」

 不思議に思う視線を向けられていることには気付いていながらも、伽羅は素知らぬ顔を突き通した。
 千冬は水道のハンドルをゆっくりと捻った。確かに誰かの見舞いなら、床に落ちたまま持っていく訳にはいかないだろう。それを言うのであれば、きちんと包みに入れておけというものではあるが、生憎、伽羅は本当に誰かの見舞いに来たわけではないわけで、そんな事は気にしていなかった。
 ここに来た目的。それは、こうして彼女に会うことなのだから。

「君も、誰かのお見舞いですか?」
「……お父さんが」

 筆の毛先を整えるように。
 体から力を抜いて吐き出した伽羅の言葉。少女は流れる流水に果物を潜らせながら、まるで無意識から零れ落ちたかのように応えを返した。
 少女の視線は果物にだけ向けられている。僅かに肩を壁に凭れさせる。伽羅が入口を塞ぐように立っていても、少女は警戒の素振りを見せなかった。
 シンクを柔らかに叩く水しぶき。
 暫く、その音に耳を傾けた後に伽羅は問いかけ、そして、返事に頷いた。

「そうですか。それは……心配ですね」
「別に」

 言葉は早かった。
 まるでそう言われることを分かりきっていたとばかりだ。

「ただ働きすぎなだけだって」

 馬鹿みたい。と音もなく彼女の唇が言葉を紡いだのを、伽羅は見逃さなかった。僅かに尻尾を揺らした。少女の手の中で転がるリンゴを見つめながら、僅かに手を握り握りとしては指を開く。
 リンゴ、オレンジ、キウイ。手慣れたように水洗いを済ませていく彼女の手が、イチゴに触れた。個々でネットシートに包まれている大振りなイチゴだ。
 意外にも、その手つきには他の果実と遜色なかった。赤い果実を見つめる目も険しさが覗くこともない。ただ、他の果物よりも見聞の時間が僅かに長かったくらいか。

「傷んだりはしてなさそうですけど……」

 と千冬は洗い終わった果物を見つめる。
 ある程度の高さから落ちたのに傷んでいないというのが腑に落ちないのか。それはそうだろう。伽羅は心の中でとぼけた。なにせ、|そう《・・》落としたのだから。
 僅かに表面に雫が散った果物は、寧ろ瑞々しさを見せているように思えるが、しかし、千冬はというと不安げな表情を浮かべている。

「大丈夫。贈る相手も、まあ……、腹の方はすこぶる丈夫だったはず」
「えっと、……なら、いいんですけど」
「ええ、気にすることはないですよ」

 伽羅はそうにこやかに伝えてから、不思議そうに首を傾げた。
 僅かに。
 少女の目に緊張が走った。口端に力が籠もり、頬に少しだけ硬さを増した。

「どうか、しましたか?」
「……、私は心配しなくていいんだって」
「ん……?」

 語りかけた伽羅の言葉に、しかし、返った少女の言葉は伽羅に向けてではないように思えた。何かを思い出して、その相手に向けてのような。
 だが、それについて千冬はそれ以上何も言おうとはしなかった。むしろ無理に会話を切り上げたがるようにして、果物の入った籠を差し出してきた。

「お大事に。その……その人も、おじさんも」
「ありがとう、心遣い痛み入る」

 居ようもない見舞い相手に労りを贈られて、ちょっとした罪悪感に苛まれながら、伽羅は差し出された籠を受け取った。
 半身を下げると、その間から千冬は給湯室を抜け出すと、廊下をゆっくりと歩き去っていく。途中、一度だけ振り返って小さく手を振られて、伽羅は緩やかに手を振り返した。

「さて……と」

 そうして、一人の残った廊下にて。
 まず彼が気にするのは。

「俺は果たして、通報されるような不審者じゃぁなかったろうかな」

 他愛なくも、しかし絶えず頭に過ぎり続けていた、そんな事柄だった。
🔵​🔵​🔴​ 成功

佐野川・ジェニファ・橙子
関係者面には定評があります
市の職員…にこんなのはいないか
まぁ今地方創生とかってあちこちにクリエイターが入り込んでいますしね
「昔いちごの育て方やらで世話になった」とかなんとか言ってお見舞いに行きましょう
こう見えて、土いじり自体は本当に好きよ

ロック・オンするのは従業員あたりかしら
ちらりと千冬を見て「あの子もうあんなに大きくなったんだ、月日が経つのは早いわね」なーんてありがちなセリフを
人様の子どもの成長が早いのは本当ですから

今おいくつ?何が好きかとか、ご存知?
だって、例え気丈に振る舞っていても肉親が倒れたのよ、内心めちゃくちゃなはずだわ
あの子の日頃の様子や元気の出そうなもの、教えてくださる?


「そうなのよねー、あたしもまさか『一度体験してみたいから〜』なんて|理由《ワケ》をバカ正直に話して、それで本当にイチゴ造りを教えてもらえるなんて思わなくって」

 土の匂いは、意外なほどに肌に合う。
 さて、そんな個人的な感想は兎も角、彼女が農園の光景の中に佇んでいて違和感が先立たないかと言われれば、思いの外馴染んで見えるものである。
 夕暮れの中、佐野川・ジェニファ・橙子(かみひとえ・h04442)はテックウェアの上衣を腰に巻いてインナーを露わにしていた。インナーとはいってもTシャツと大差なく、色気はあるのに不思議と色気がないという塩梅。それでいて、彼女が何をしているのかと言えば。

「いやあ、スマンね。お客さんに草むしりなんてさせちゃって……倒れてるタイミングに来客なんてなぁ」
「気にしないでってば。あたしだってやりたくてやってるわけなんですし?」

 草むしりであった。
 ビニールハウス周りの雑草を、せっせと抜いては日光焼けしたポリバケツに放り込んでいるのである。既に除草の処理がされている地面にも、強かな雑草は葉を覗かせるのだ。
 まあ、橙子としては、そんな雑草が嫌いでない──というか寧ろ好ましくも思うのだが、それはそれとしてここはイチゴ農園である。適材適所、またはTPOというものを理解している橙子は、容赦なく雑草を処理していく。

「にしても、まあ……社長らしいっちゃ社長らしいよな」
「んだなぁ、困ったもんだけど。一所懸命なんだよな、それを悪いとも言い切れんし」

 と従業員達が口々に言う。
 好意的な感情に包まれてはいるが、なんというか褒めているのか貶しているのかが微妙なラインの評価である。それが何かといえば千冬の父親。この農園の社長という立場の人間評である。
 橙子が語った冒頭の話など、純粋なでっち上げだ。社長にイチゴ農業の教えを請うたことはない。だが、彼はこんな弟子を持っていてもおかしくはないと思われるほどに──好意的に形容するなら寛容な人間らしかった。
 恐らく、実際にそういった人物もいたのだろう。
 まあ、寧ろ本人が病院を抜け出してまで労働に勤しもうとしていなくて安心した。休んでほしいというのもあるが、それ以上に、流石に本人に面通し叶ってしまえれば面識のないことがバレてしまうだろうから。

「そういえば、あの子も随分大きくなったのよね、千冬ちゃん。今何歳くらいでしたっけ?」

 警戒もなく、上手く溶け込めている様子を感じ取った橙子は、草むしりの手を止めることなく、あくまで世間話の体を保ちながらそう問いかけた。

「おー? 幾つだったっけな、ついこの前半成人みたいなのやってたろ」
「いや、十二だっての。来年中学なんだから」
「おお、そかそか」
「もうそんななのね、月日が経つのは早いわねぇ」

 と、橙子は体を起こすと、腕を交差させて三角筋を伸ばしていく。腰を捻りながらストレッチを行いながらも、その意識は二人の会話に向けられていた。

「しかし、まあ。随分しっかりしたよなぁ、千冬ちゃんも。お父さんが倒れたってのに、学校にお見舞いまで行って」
「父親がいまいち頼りないから、しっかりしたんじゃねえか?」
「あら、頼りないの? あたしは、あんまりそうは思わなかったけれども」

 橙子は、会話の切れ目に差し込むようにして、意外そうな視線を向けてみる。
 その言葉は橙子の本心でもあった。曲がりなりにも複数の従業員を抱える代表者だ。しかも、その纏める相手はほぼ同じ年代か、更に上の年代の相手。ともなれば、その気苦労は想像に難くない。
 それを彼らも自覚していない訳でもないのだろう。図星を突かれたような、僅かに口を尖らせては父親を認めるような事をぼつぼつと零していた。

「……まあ、それなりに頑張ってるからなぁ。「任せとけェ』なんつって、何かあるにつけて背負い込むんだもの。頼りないワケじゃねえけどさ」
「それはまあ昔からだ。でも、千冬ちゃんはとりわけ特別だなぁ。ま、一人娘なんて大事にしてナンボだけども」
「お前んトコ、男兄弟ばっかじゃねえか。何をわかった風な」

 長い仲なのだろう。まるで漫才のような掛け合いを聞いていてもいいのだが、何分脱線が多い。橙子はその手綱を上手く握って、元の路線の方へと押し出していく。
 つまりは千冬のことについてである。

「そう……でも、大丈夫かしらね、千冬ちゃん。お父さん倒れちゃった、なんて。あたしもビックリはしたけど、千冬ちゃんはそれだけじゃないんじゃない?」

 肉親が倒れたなんて相当ショックなはずだ、とごく当然として問いかけてみれば、従業員の男性は「まあ、なあ」と気まずげに顔を見合わせては唸った。
 そんな反応に。
 全く、と橙子は胸の内でため息を吐いた。少なくとも可愛らしく思っている少女の悩みを分かっていて、それでもなおも動こうとしないのなら、随分と怠慢な話だと。
 とはいえ、今更それを語った所でなんにもならない。なら、あたしがやっちゃえばいいってことじゃん。である。

「だから、千冬ちゃんが喜びそうな好きなものとかあれば教えて欲しいのよねぇ。オジサマ方、何か知らないかしら?」

 頬に指を当てて問いかけてみれば、男性は腕を組んで真面目に考えてくれていた。ただ、知らないとだけで終わる程ではない事を感じ取れて、僅かに少女の境遇に安堵する。
 そのまま橙子が数秒ほど待ったあと、男性の一人が口を開いた。

「そうなぁ、最近は料理も結構やってるって聞いたけどな。ほれ、ジャム造りとか、あと先週のイチゴタルトとか。食ったろ」
「ああ、作ってたな。というか好きなものといえば、昔から千冬ちゃんイチゴが好きだったろ」
「イチゴ」

 橙子は、その単語だけを反芻した。
 イチゴ農園の娘なのだったら、イチゴが好きであってもなんらおかしくはない。
 とはいえ、だ。橙子にはそれが意外にも思えた。少なくとも一週間前でも、千冬はイチゴが嫌いな訳ではないらしい。

「おうとも。『うちのイチゴが一番美味しい』つってな。たまに加工卸しのイチゴをつまみ食いしたりしてたんだ。あ、これ、社長には内緒のやつな」
「でも、最近は流石にそんな事ないかもな。好物っていうと他にできたのかもだけど、俺らは知らんなぁ……」
「そうなの、ありがとう。……うん、参考になったかも」

 一緒にお菓子作りや料理でリフレッシュさせたりも良いかも知れない。なんて事を考えながら、橙子は従業員たちに別れを告げてその場を後にした。
 見上げた視線の先、夕日が少しずつ稜線に沈んでいく。
 
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 集団戦 『デザイアモンスター』


POW クレイヴィング・ダークネス
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【欲望のオーラ】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
SPD ロンギング・アーム
【他のデザイアモンスター】と完全融合し、【巨大化した腕】による攻撃+空間引き寄せ能力を得る。また、シナリオで獲得した🔵と同回数まで、死後即座に蘇生する。
WIZ ヒュプノシス・デザイア
半径WIZm内の任意の有機物・無機物全てに【欲望のオーラ】を注ぎ、WIZ×1時間活動可能なエネルギーを与える。注ぐ[欲望のオーラ]を1体(人物・武器・乗騎等)に集中すると、対象を【デザイアモンスター】化して硬度強化と【暗黒】攻撃能力を与え、意思を抑え付けて術者の為に戦わせようとする事ができる。
イラスト ひろん
√マスクド・ヒーロー 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 眠れなかった。
 妙な胸騒ぎに引かれるようにして、無人の農園に赴いていた。
 苦しい。夜の風が静かにそよいでいる。
 胸を広げて、息を吸って。
 自分の身体の中。それも自分の中ではない奥。裏返って全てが外に繋がっているような、どこか。
 何かがそこにあった。
 それを意識した。
 五感のいずれでもない指先をそこに触れさせて。

「……え?」

 光が彼女の体を覆い尽くして。
 次の瞬間、千冬は──魔法少女に変身していた。
 そして、そんな彼女の変身に導かれるように、夜闇のステンドグラスを砕き割るようにして無数の怪物が現れた。
 虫と海洋生物をかけ合わせたかのような、欲を食らう獣。腕をくねらせながら、それが狙うのはただ一人、千冬の絶望だ。

「な、なに……、こ、来ないでよ……っ!!」

 誰も助けになどこない孤独の中で、月に照らされた昏い夜が始まる。

────────────────────────────────────────
第2章 集団戦 『デザイアモンスター』
 魔法少女と化した千冬。彼女を狙ったデザイアモンスターの群れが、襲撃してきました。
 周囲には千冬以外誰もいません。
 彼女を護り、デザイアモンスターを撃滅してください。

●人物について

・千冬
 魔法少女として覚醒した少女。
 少し気が強かったり、大人びた考え方をしたがったりと割りと普通の女の子です。

 また、千冬の心を奮わせ力を揺り起こせた場合は、その力を以て戦闘の助けとなってくれます。

 それでは、プレイングお待ちしております。よろしくお願いいたします。
アクセロナイズ・コードアンサー
アドリブ連携歓迎

クッ、少々出遅れたが……!
変身、アクセロナイズ・コードアンサー!

千冬さんは、実にこころ優しい方だ。倒れたお父様を心配し、家業を厭わずむしろ愛を持つ、そんな方のようだ。
そうでなくとも、子供を護るのがヒーローの責務! 銀刀による切断で彼女へ迫る攻撃を断ち、空間の引き寄せに対してはアクセルボードの空中移動で寧ろこっちから突っ込み居合でダメージを与えつつ、ヒットアンドアウェイ。目的はあくまで魔法少女の救助活動ですから。

「もう大丈夫です、我々にお任せを!」
鼓舞するような声掛けをしつつ、蘇生するなら何度でも相手になる。ふふ……継戦能力は折り紙付き。自分はしつこく、諦めが悪いものですからね!


 手にしたのは、可愛らしく装飾を纏わせる|短杖《ロッド》。
 どこから現れたのかも分からないそれを無意識に掴んで、千冬は震える手足で黒い怪物を睨みつけた。膝が笑っている。寒気に襲われているのに、汗が全身から溢れてくる。
 夜の冷たい風が、涙を汗に滲ませて分からなくさせた。怖気立つ極彩色が蠢いて、光る五対の目がこちらを見つめていた。
 見つめている。
 見つめられている。
 感情の読めないその瞳が、自分を見て、意識している。本能的にそれを理解してしまう。

「来ないで、来ないでってば……ッ」

 肺が震えて、声が掠れていく。
 少女はここで息絶える。その身に宿る力によって誘き出された怪物に蹂躙され、二度と彼女を大切にする人々に笑顔を見せることはなくなる。
 それが、星々が示した未来だ。
 黒く蠢く腕が、一切の予備動作なく放たれた。質量保存の法則などまるっきり無視したように肥大化し、槍のごとく少女の胸を貫く。
 そう、その未来を。

「させませんッ!」

 断つためにこそ、彼らここに来た。
 風切り。
 銀の剣閃。打ち放たれた腕が跳ね跳んだ。
 絶望をもたらす腕が少女に届くよりも早く、それは舞い降りた。

「だ、れ……?」


 「自己紹介は後で、今は……」

 アクセロナイズ・コードアンサー(飛来する銀蝗・h05153)は誰何の声に、視線をデザイアモンスターから逸らさず返した。

「こいつらを片付ける方が先決です──ッ!」

 言い終わらぬ内に、動きを見せたのは怪物の方。
 コードアンサーが切り裂いた腕がのたうちまわり、コードアンサーの体を薙ぎ払ったのだ。

「とと……っ」

 空中に投げ出される。だが、呼び出したアクセルボードを足場に跳躍、回転。即座に体勢を整えたコードアンサーは、視界の端で捉えた光景に、ここからが本番らしいと心中呟いた。
 複数のデザイアモンスターが、気味悪く震え始めていたのだ。声を発する器官もなく、しかし、その全身を震わせ、水面を汚く叩くような奇怪な音を響かせる。その姿はまるで己の不快を泣き叫ぶ赤子のそれにも似て。

「あの……ッ」
「もう大丈夫です、だから……我々にお任せを」

 怯える千冬の側に着地。そして、彼女を安心させようと声を掛け。
 刹那。

「うわ……っ」

 がぱ、と。のたうち回っていた腕の断面が裂けた。蕾が解けるように開いたかと思えば、烈風。いや、それは風ですらない。己の体が空間ごと引き寄せられている。
 抵抗したとて数秒も保たない。だが、いや、故にこそ、彼は抵抗の逆を取った。

「好、都合っ!」
「え……?」

 踏み込んだ。
 一歩、赤いマフラーが一瞬遅れて棚引く。一歩、アクセルボードを踏みしめ、更に加速。
 同心円の衝撃を撒き散らし、駆けた。
 矢の如く。斬撃が黒を散らす。
 文字通り瞬きの間に、指の間を抜けコードアンサーは、その腕に刃を突き立てていたのだ。巨腕を切り裂き、デザイアモンスターの本体を横一線に両断。
 遅れて烈風が轟音を運ぶ。だが、それをもすら背に追いやり上へ。

「ああ分かってる。再生するよな、お前たちは」

 その言葉通り、刹那の攻撃の間にすら、その両断せしめた筈の怪物の体は、接合しようと無数の腕を絡め合っている。
 振り上げた牙の如く、翅の如く、月光を映す刃が閃く。アクセルボードの加速に乗せた闇を裂く斬撃が、奔る。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

早乙女・伽羅
ジェニ(h04442)と合流

やあ、君も来ていたのかい
お互いの情報を共有しつつ待機

しっかりした子だが小学生にしちゃ出来すぎだ
本心では相当親御さんに甘えたいはずだよ
こういう子供には昔の仕事で何度か出会った

千冬の前に躍り出て最初の襲撃から彼女を庇う
無事を確認した上でジェニの説明に補足しておこう
大丈夫、君なら切り抜けられる
君のような悩める若者を手助けするのは|俺《年寄》の仕事だし
このお姉さんは世界中の女の子の味方だからね

√虚飾で敵の再生力を封じながらサーベルで応戦
魔法少女というくらいなのだから、連中に対抗する手段はあるのだろう
どうする?
“子供に戦わせない”のは正しい選択だけれど
それじゃあ君のご両親と同じだよな
愛情ゆえに遠ざけられて、「子供だから」で選ばせてもらえなくて
さあ、どうする?
君がどちらを選んでも、俺は全力でサポートする

お礼なんて要らないさ
けど、そうだな
|どうしてもというのなら《・・・・・・・・・・・》――
いちご狩りの一日貸し切りなんてどうだい
お父さんだって快諾するに決まっている
だって、弱気なところを見せたくないと見栄を張ってしまうくらい
大好きで大切な我が子のピンチなのだからね
さあ、俺にくれると言ってくれ

√贈賄で千冬の行動を常にフォローし、鼓舞する
君はなんだってできる
生き延びて、お父さんたちに文句を言いに行かなくちゃ
心配くらいさせてくれって
蚊帳の外に置かれちゃ寂しくてたまらないって
佐野川・ジェニファ・橙子
あら、伽羅くん(h00414)
居ると思いました

ハァイ、お嬢さん
意味わかんないって顔してるわね、残念ながらあたしもそう
アナタのソレを説明することはできませんけれど、少なくともコイツの目的はアナタ
で、あたし達はコイツをなんとかする、OK?

できるだけ派手な感じで見せましょう
髪であの気持ち悪い動きや壊れたハウスやらを拘束
千代紙は10倍に増やして回復の暇を与えません
近付く奴は卒塔婆で吹っ飛ばします
で、仕上げの神ビーム
なかなか全部盛りじゃない?

あたしね、こう見えて市松人形に宿った神様なの
それでこういう感じなんだけど
アナタだったら何かしら
ねぇ、苺モチーフって可愛いじゃない?
武器って考えると恐ろしいけれど、護る力ならどうかしら
ここはアナタのホームよ
可愛らしい苺たちも、家族も、アナタの味方
ノートの端の夢でいいから、見せてちょうだい
超イケてる、アナタの力!

正直巻き込むのは微妙よ
でも、話を聞く限り力にはなりたかったのでしょう
あたしはそれを、モチーフとして外に出すようサポートします
使命感ってより、ラフにね


 唖然と。
 その人智を超えた動きを見つめる。
 だが、ただ圧倒されていただけではない。普通の人間であれば、あり得ざる動きだ。常人であれば|目で追う事すら難しい《・・・・・・・・・・》程に。
 それが理解できる。動きに反応し、そして、追従する事すらできるのではないかとすら思える直感があった。

「ハァイ、お嬢さん。んー、意味わかんないって顔してるわね」

 困惑。そんな彼女に掛けられた言葉は、緊迫を足蹴にするような気さくな音に彩られていた。


 |早乙女・伽羅《さおとめ・きゃら》(元警察官の画廊店主・h00414)と少女を背で庇えるように左右に並び立つ。

「ま、残念ながらあたしもそう」

 そうして、佐野川・ジェニファ・橙子(かみひとえ・h04442)は肩を竦めた。
 実際問題、魔法少女という存在は知っていた。当然だろう、橙子なのだから。寧ろ詳しいまである。ただ、それが無数にある√の何処かに実在するのかどうかも知らなかった。幾つもの平行世界を知る者からしても空想上の概念でしかない。
 そんな存在に唐突に変身してしまう現象が起きている、なんて聞かされた日には。

「笑うしかないじゃない? あ、でも、ひとまずそのドレスはキュートで最高」
「えっ、と」
「笑えないか、そうよね。じゃあ手早く、真面目な方の話をしましょうか」

 と、橙子は僅かに言葉を固くした。少女の困惑した瞳に、しかし、確かにこの状況を理解しようと努める迷いを見た。故に、明るく誤魔化すのではなく、明るく受け止めさせるように。

「アレの狙いはアナタ」
「……っ」
「まあ、気付いてるわよね。それから、あたし達はアレをなんとかする」

 少女の視線に高さを合わせるように腰を折り曲げると、彼女の意思を確かめようと。

「だから、──ううん、あたしが出る」

 言葉を途中で切った橙子が呟き、その髪が解けた瞬間。
 半透明な黒い帷が周囲を埋め尽くした。
 寸前だった。デザイアモンスターから放たれた腕が、少女を狙い放たれたのは。
 だが、展開したその帷が──橙子の髪で作られた円筒状の結界が、その腕を触れる側から削り散らして、その欠片すら内側に通しはしない。汚染された泥水を撹拌させるような耳障りな音を響かせながら、怪物は痛みに震えることもなく不快を叫んでいる。
 髪の面紗に覆われた橙子は、肩の力を抜くように淡く息を吐いた。

「お話は少しお任せしようかしらね?」
「……ああ、請け負おう」

 そのまま帷の中に残した伽羅に向けた言葉には、呆れたような答えが返ってきた。十分だ。
 アップに纏めていた橙子の髪が解けて、滴るような黒髪にその全身が包まれている。その髪の隙間から、碧眼が覗いた。守る少女にでは当然ない。

「さて、と……ねえ」

 少女との時間を邪魔立てした、鬱陶しい愚物共に向けて。
 憎悪が滲む。
 呪いが滲む。
 それでも笑みを浮かべて、それでも柔らかな声色を浮かべて。

「あの子との時間は邪魔しないで欲しかったなぁ、なんて……お前らは聞いちゃないか」

 振り下ろされる。
 人一人容易く叩き潰して、その形すら分からなくするような剛腕の一撃。真横からの死角からの攻撃。
 轟音。
 だが、剛腕は誰を傷つけることも叶わず。悲鳴すらない静寂に、むしろその腕自身が体から引きちぎられて無残に空を踊る。

「折角ですし、派手な感じでいきましょうか」

 橙子は手すら使わずその美しい|顔《かんばせ》を遮る髪を後ろへと流すと、デザイアモンスターを一瞥すらせず、握った卒塔婆を薙ぎ払ったのだ。
 言い切るやいなや、黒髪の艶に踊る多色の花嵐。
 否、吹き荒れるは紙吹雪。千を超える千代紙の旋風が夜闇を埋め尽くした。
 色を混ぜれば黒になる、故に黒こそ全ての色を塗りつぶすものだ。だが、その光景はその常識を覆していた。千々の色が黒を喰らい尽くしていく。
 紙嵐を操る間も、近づく怪物には卒塔婆の殴打で報復し。

「それじゃぁこれは、オマケのサービス」

 浄化を暴力に押し固めた真白の閃光が、無情に振るわれた。


「……ああ、請け負おう」

 と返した伽羅は、攻撃の気配に対処しようとしたサーベルを所在なげに揺らし、髭を跳ねさせた。
 確実に対処できるという自負もあるのだろうが、それでも自ら進み出たのは十中八九憂さ晴らしだろう。サーベルを納刀することはなく、油断なくゆるりと構えたままに、伽羅は少女に向き直る。
 
「えっと、病院の……おじさん、ですよね」
「ああ」
「あのお姉さんは……お友達、ですか?」
「……、そんな所だ」

 帷の向こうで卒塔婆を振るって怪物の腕を叩き切る、という見る人が見れば卒倒しそうな光景に、あれが友人だという事によって生じる影響を考えながら、伽羅は渋々と肯定した。
 少なくとも、今この場に於いて彼女の信用を少しでも高める事は有用だと判断したのだ。

「まあ、アレは世界中の女の子の味方だからね。間違いなく君の味方だ」

 そうだよ、と言わんばかりに響いてくる暴力音に眉を顰めつつも、伽羅は少女に「きっと不安だろう」と橙子の言葉を引き継いだ。

「だが、君なら切り抜けられる」

 少なくとも、俺とあのお姉さんはそう思っている。とゆっくりと反応を見据えながら疑いはないと、少女に目線を送る。
 戸惑い、疑念。複雑な感情の中で、だが、今この状況について全くついてこれていないという無理解は感じられなかった。千冬は、驚くことに既にこの状況に対して、ある程度の理解を得ている。
 彼女が生来持つ気質ではないだろう、と病院での彼女と接した伽羅は思案する。魔法少女現象によって引き起こされた覚醒、その高揚によるものか。

「勿論、俺達も手助けする。その為にここにいるんだからね」

 伽羅は、それを利用することにした。
 そもそも時間に余裕があるわけではない。だからこそ、回りくどい説明を省く。先程の攻撃の際に握りしめたロッド。その咄嗟の反応には彼女自身がその宿る力を自覚しているのだと、予想し、告げる。

「どうする? 君は、戦うか?」

 問いかけながら、しかし、伽羅としては彼女が怖気づくようならそれも良いと考えていた。
 少女の思いも理解はしている。だが、それと同時に、父親の思いも理解できるのだ。結局の所、|老骨《ロートル》のすべきことは、若者の背中を押してやることだ。だが、それはあくまで転んだ時に手を伸ばせる場所での話。
 徒に崖へと突き落とす事を、ただ是としたくはない。
 ただ、それでも。
 その若者自身が空を飛びたいと本気で願うのならば、翼の使い方を教える事を厭うつもりもなかった。

「……怖い」

 そして、返ってきた少女の答えは、怯えに満ちていた。

「ああ」
「なんで、こんな事になったの? 私、が……悪いのかな」
「……この現象については表層しか分かっていない。だが、これが君が望んだ状況でないなら、君のせいではないよ」
「でも、あれは私を狙ってるんだよね」
「そうだな。君を狙っている、それは間違いない」
「……」

 沈黙。
 ロッドを握る手が真っ白になるほど、強く力が込められている。答えがどうであっても俺達は君をサポートする、それは変わらないと。高尾T場を続けようとした伽羅を思いとどまらせたのは、僅かに息を吸う音だった。
 少女は、伽羅を見つめた。

「だったら、……戦いたい」

 その感情の底にあるのは、罪悪感か。背負うべきではない罪に苛まれたが、故の責任感。
 だが、その決意の奥にあるのはそれだけではない。自らを責める自己怨嗟、だからこそ他の誰でもない私が決めるのだという光明を見せている。
 ふと、伽羅は笑みを浮かべた。
 やはり、無謀に過ぎる。その判断は彼女が今、振るう力があるのだと過信してのものでもある。ならば尚更、彼女の戦場に立たせるのは過ちに違いない。
 笑みは己を鼓舞するためだ。背中を押したからには、その責任を持つ。それは、正しい責任感に違いない。

「ああ、分かった」
「……ありがとう、おじさん」
「お礼なんて要らないさ、俺達も好きでやってる……ただまあ」

 伽羅は少女に密談を持ちかけるようにして、指を一つ立てて少女の視線を誘導した。
 ちょうど良かった。何かしらの仕込みをしておきたかったのだが、流石にこの歳の少女から金銭を巻き上げるわけにも行かない。無形の利益であるならば、心も懐も痛みはしない。

「|どうしても《・・・・・》というのなら――」

 機会損失を考えれば、天秤は釣り合うだろう。


「あら、もういいの……って。なに、澄ました顔しちゃって」
「真面目な顔だろう?」
「奥歯にガムが貼っ付いて取れないって顔」

 髪の帷を無効化して結界から歩み出た伽羅を出迎えたのは、そんな訝しく振り返る橙子の視線だ。自覚はある。命を利益で担保する、という身に染み付いた業に最早慣れきったとはいえ、想起される厄介事が多いもので。
 だが、態々他人に悟らせるものでもない。いつも通り肩を竦めると迫るデザイアモンスターを一刀の元に斬り伏せた。

「代わろう、話が途中だったろう?」
「ええ、じゃあお願いするわ。ちゃあんと守ってね?」

 尻尾を大げさに振って、裾を踊らせ旋回──地面が爆ぜた。振り下ろされた腕に土が抉り飛ばされ、そしてその泥が彼の頬を汚すよりも早く。
 跳ねた。
 一拍遅れの斬撃が、腕を斬り飛ばした。踊る細剣。瞬き。鋭光が直線的な軌跡を描く。中空へと踏み出した伽羅の腕から伸びる銀線は、これより放たれる斬撃を予感させる直線を描き。

「ああ、心配しなくていい」

 手繰り糸に導かれ。
 その怪物の体をぶつ切りにせしめた伽羅は、その手を傷口に埋めながら左の逆手に持ったサーベルをその中心の膨張部へと突き立てた。
 刃に滴る体液を散らし、細めたその眼光。言外の主張、誰も通すはずがないという自負。
 橙子は軽く手を振って、遠慮なく背を向けた。

「今更、こういうのはむず痒いな。どうも」

 少女の視線を感じて、不安を感じさせないよう見栄を切ったは良いものの、である。
 僅かばかりに照れて結ばれた口端が、振り上げた剣鏡に映った。


「あたしね、こう見えて市松人形に宿った神様なの」

 千冬の元に舞い戻り、その視線を受けて、橙子はそんな事を唐突に告げた。
 指先に千代紙で折った蝶が羽ばたいていた。まるで命が宿るように、柔く羽を広げている。それも分かりやすい超常だった。

「でも、本当はなんだっていいの。ただの人形でも、祀られる神様だって。あたしはこうあるべきだと思ってるから。……そういうの、アナタだったら何かしら?」
「私……?」
「ええ、戦うのでしょう? でも、怖がってもいる。分かるわよ、アナタのことだもの」

 伽羅の話が聞こえていた訳では無い。それでも、少女の表情を見ていれば、彼女が意を決した事は分かる。だから、次は、その背を伸ばしてあげる番だ。
 力に形を、響きに名前を。

「ねぇ、苺モチーフって可愛いじゃない?」
「ぇ……苺は、別に好きじゃない」
「あら、そうなの?」
「……嫌いなわけでもないけど……、うん、嫌いでも、ない」

 照れくさそうに、少女は笑みを浮かべた。ロッドに宿る光は決して鮮やかな色ではない。だが、それでも確かに、鮮やかに燃えている。
 彼女なりの答えを見つけたのか。それは橙子には分からない。
 それでも、その恐怖が僅かに和らいだのなら。

「行けそうかしら?」
「うん」

 問いかけに、千冬は確りと頷いた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

赤龍院・嵐土
ハッハッハこちらも出遅れ組だな

「いい農園だ。手入れがよく行き届いている」
だからこそ、さっさと敵を倒さねばな!
「さあ行くぞ二人とも!」
ブルーとイエローを呼び出して、再生される前にさっさと倒させてもらおう!
イエローの牽制射撃で動きを止めさせ、ブルーの|亀甲障壁《エネルギーバリア》で捕縛&一箇所に集め、そこへレッドのドラゴンズケインの竜頭から放たれる【レーザー射撃】や仕込み刀を抜いての【居合】で一気に倒しにかかる
「俺はみんなの夢を守りたくて、この力を振るっている。君の守りたいものは何だ?もしくは叶えたい夢はあるか?」
敵の攻撃はドラゴンズケインで【武器受け】しつつ尋ねよう。心を奮わせるきっかけになれば


「ハッ!」

 轟かせる。
 声を肺から溢れさせ、その分厚い胸板を震わせる。

「ハッハッハッ!! いい農園じゃないか、土が活きている! ……お前達の砂場にするには、少しばかり上等に過ぎるな」

 |赤龍院・嵐土《せきりゅういん・らんど》(プレジデントレッド・h05092)は、竜が眼光鋭く睨む杖で殴打し地面に撃ち沈めたデザイアモンスターを踏みしめ、周囲を埋め尽くす怪物の群れを睥睨した。
 赤く燃えるようなスーツとヘッドに素性を完全に覆い隠した男は、しかし、その大仰な所作と鍛えられた肉体、そしてその声に衣装が変われども人違いなどしないような存在感を放っていた。
 まさに、その場のデザイアモンスターが彼へと警戒度を一気に高めた事がその証左か。一斉にデザイアモンスターが彼へと迫る。

「はいはい、お掃除ですよーっ」

 だが、嵐土はその攻勢に怯むことはなかった。悠然と構える彼の背を飛び越えるようにして、黄色のスーツに身を包む女性が翼の意匠を持つ銃を突きつける。
 閃光。
 無数の光の礫。拡散するレーザーの雨がデザイアモンスターの波を容赦なく叩く。その直後、僅かに遅れて青色が戦場へと躍り出た。
 重厚なガントレットから展開された半透明の幾何学模様──亀甲を模したような障壁が展開しては、怯んだ怪物たちを力任せに押し戻し、男の前に広大な狩り場を作り上げた。

「イエローッ、無理に飛び出すなと何度言えば……っ」
「んもう、細かいなぁ。……御主人様! お支度整いましてございますよ」
「重畳」

 嵐土は、暴れる杖を完全に掌握し抑え付け、振り上げた。
 キイ、と鼓膜を刺すような充填音。なにかがその杖に蓄えられている。その危険信号を、彼らデザイアモンスターが認識できただろうか。それを確かめる方法はない。
 その充填音が最高潮に達した瞬間、地面へと突き立てられた、杖の先。その竜の|顎《あぎと》から全てを飲み込む咆哮が放たれた。
 それはもはや光線という生温いものではない。杖から解き放たれたのは、荒れ狂う竜炎を纏った白熱の奔流だ。
 業炎が舐めた後に残るのは散り散りに消えゆくデザイアモンスターの灰燼。
 だが、まだその数は多く蠢いている。

「待っていたぞ。さあ、……君の望みはなんだ?」

 だが、そんな敵に視線すらくれてやらずに、彼は背後を振り返った。そこに立っているのは、確かに決意を秘めた瞳を持つ少女。
 言葉は要らぬと悟った。

「ならば叫べ! その心のままにッ!!」

 激励。猛る烈火の如く、その心を奮わせろと。
🔵​🔵​🔵​ 大成功


「……ッ」

 少女は、唇を硬く噛み締めた。
 震える瞳に、力が宿っていく。噛み締めた唇が解ける。息を吸い込んだ。
 夜風がその髪を撫でる。
 見下ろす月は助けてもくれない。
 まるで、そうあって当たり前だと言いたげに、少女の姿を見つめている。

「出てって……っ」

 胸を張る。
 一歩踏み出して、怪物を睨みつけた。理不尽を拒絶する、意思の力。

「私達の大事な場所から、出ていってよッ!!」

 少女の小さな足が、大地を踏みしめた。微かな振動は、しかし、土に減衰することなく地面を奔る。土そのものが彼女の声に呼応するかのように。


 |火打ち石《フリント》の如く。
 コードアンサーは踏みしめた大地に、火花散らすような奔流を感じていた。

「ああ、来たんですね」

 瞬間、彼は理解していた。その力が他でもない魔法少女から受けた賦活の力であると。故に、その後押しを彼は躊躇いもなく受け止めた。踏み込んだ一歩が、湿った大気を爆ぜさせる。
 コードアンサーは弾丸と化していた。足裏に吸い付くアクセルボードが空気を噛み、高周波の駆動音を撒き散らす。目前には、黒泥を捏ね上げたような怪物の群れ。その中の一体を切り裂き、しかし刹那他の個体がしなる大樹のような剛腕を叩きつけてきた。
 深く、衝撃が胸を抉る。

「が、……っまだ、まだッ!」

 コードアンサーの身体は木の葉のように吹き飛ばされる。だが、意識は微塵も揺るがない。
 空中で身を捻り、背後に回り込ませたボードを蹴りつけた。大気が鳴った。叫ぶように跳躍。重力を嘲笑うような放物線を描き、コードアンサーは銀光を振るう。一閃、また一閃。肉を断つ感触が掌を伝い、黒い飛沫が夜を汚す。
 その乱戦の最中、熱を感じた。

「一掃するぞ!」
「ちょ、っ……!」

 コードアンサーの鼓膜を震わせるは、嵐土の雄叫。
 それを合図に、コードアンサーはボードの出力を全開まで引き絞った。垂直上昇。地上の怪物を真下に見下ろし。直後、眼下で世界が真っ白に塗り潰された。
 獄炎の咆哮。横薙ぎに一閃された光の巨刃が、空間ごと怪物を焼き尽くしていく。
 視界を埋め尽くす光の残滓。
 コードアンサーはそれが消えきるより先に、迷わず身を投げ出した。
 轟撃を受けた直後の、隙。それを逃す手はない。
 銀刀が月光を吸って輝く。光のカーテンを切り裂き、生き残りへと吸い込まれる刃。空から降る死神の如きその一撃が、絶望の種を確実に摘み取っていく。
 同時に、その派手な攻撃に威光を紛れさせるようにして、もう一つの刃が苛烈に動き出していた。
 大男──嵐土がデザイアモンスターへと肉薄する。
 カチリ、と。
 竜を象った杖の内部で、冷徹な金属音が鳴り響く。
 仕込まれていた刃が抜き放たれた。それは杖としての重厚さを保ちながら、剃刀のような鋭さを兼ね備えた凶器。

「黒焦げになるかと思いましたよ……!」
「ハッハッハ! 焦げ付こうとも磨けば輝くだろうさッ!」

 その技はまるで対局にあるようであった。
 傲慢かつ豪快に振るわれる、剛剣。
 かたや、俊敏に、実直に放たれる斬撃。
 そうして、そこに加わるもう一つ。
 二人の死角を埋めるよう、地面を突き上げ現れたのは、半透明に輝く水晶の枝刃。大地を駆けて表出した魔法の牙。少女の理不尽への怒りが、デザイアモンスターを確かに貫いている。

「さ、大詰めだ」
「ええ。終わらせましょう」

 二人は背中を預け合うことすらない。だが、そこに自然と連携が生まれていた。コードアンサーの銀刀が闇を裂けば、その隙間を嵐土の仕込み杖が埋め、少女の水晶が退路を断つ。


「行って……!」

 少女、千冬の叫びが夜の静寂を震わせ、大地が共鳴するように唸りを上げた。振り上げたロッドの光が岩礫の弾丸となって戦場を駆ける。

「はあ、ッ……まだ、負けらんない」
「ふふ、あはは。良いじゃない、ねえ、千冬ちゃん。今のアナタって超イケてる!」

 容赦なくデザイアモンスターを打ち砕く千冬に、橙子はその輝きに笑みを咲かせた。
 そう。
 少女は輝いてこそだ。その意志で煌めいて、そして幸福であるべきなのだ。その為ならば、橙子は幾らでも力を振り絞れる。

「フルスロットル、着いてこられるかしら?」
 
 千代紙で作られた鳥の群れ。旋風となって舞い上がったそれは、千冬が放つ土石の礫に寄り添い、形を変えて無数の鏃と化して敵影を食いつぶしていく。
 その猛攻の最前線。銀の閃光となって奔るのは伽羅だ。
 彼は背後から容赦なく降り注ぐ岩礫と紙鳥の嵐を、まるで見えているかのように紙一重で躱し続ける。一歩、右へ。わずかな重心の移動だけで、頭上を掠める土石の熱を感じながら、サーベルを横一線に振るった。

「……、ッ」

 尻尾が膨らむ。
 流石に数ミリ頭をズラしていれば耳を吹き飛ばされていた。
 あの手合は張り切ると良いことがない。などと口に出そうものならソレこそ後頭部にクレーターが出来かねない。喉から溢れ出しかけた言葉を呑み込んでは、銀閃を瞬かせる。
 円を描くような流線的な剣筋。靭やかな体幹から放たれる鋭い斬撃は正しく狩人のそれだ。
 短い断ち音が、戦場に刻まれる拍子となって響く。

「ひゅう、さっすが」
「あの、大丈夫なんですか……?」

 攻め立てる。
 猛攻に注ぐ猛攻。橙子の呪髪と千代紙、そこに千冬の礫弾が重なっては、怒涛の攻撃の中で伽羅は、更に敵を屠り続けている。感心しながらも心配を露わにする千冬に「これも信頼だから」と嘯く橙子。
 デザイアモンスターの数は、そうして目に見えて激減していき。もはや後もなくなったデザイアモンスター達が出来ることといえば、破れかぶれの特攻でしかなかった。
 そうだろう。
 もし魔法少女を喰らう事が出来たのなら。その絶望を身に宿す事が出来たのなら。その状況を覆す事すら出来るかも知れない。
 絶望は、黒い奔流となって少女を呑み込もうとしていた。
 死に物狂いの特攻。もはや思考も、理知もない。怪物が振り絞った最後の一縷、その暴虐を凝縮した巨腕が、空気を爆ぜさせながら少女の細い喉笛へと肉薄する。

「ひゃ……ッ」

 狙うは、そう、魔法少女──千冬だ。
 その心臓を握りつぶし、絶叫に全霊を震わせられたら。
 だが、その願いが叶うことはなかった。その願いだけは叶えることを許されなかった。

「通さないさ」

 声は、そこから聞こえた。
 伸ばした腕の、その上に。サーベルを振り抜いた伽羅がいた。尻尾が円を描くように翻る。視界がずれて崩れていく。
 既に斬られているのだと、デザイアモンスターはついぞ理解することはなかった。離れていた伽羅が、なぜこうも早く追い抜きすら出来たのかも。
 ただ、十の瞳はそれを見つめていた。
 それは、風がため息をついたような、あまりにも小さく、鋭い断ち音。
 瞬目の隙もない一閃。
 視界を横一文字に両断する、その銀閃だけを。

第3章 日常 『いちご狩りを楽しもう!』


POW 元気にいちご狩り
SPD スマートにいちご狩り
WIZ のんびりいちご狩り
√マスクド・ヒーロー 普通5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 デザイアモンスターの掃討は完了した。
 だが、魔法少女となった千冬の力はまだ安定しきっていないようだった。それは時間が解決するのか、もしくは、彼女の中にまだ呑み込みきれない感情が残っているのか。
 次の日。
 父親が倒れたからと、イチゴ狩りは休止にしようとしてた母親や従業員に頼み込み、千冬が補助役として、一日だけEDENのみなの為に貸し切りにしてもらう事が出来た。

「……あんなに誰かにお願いしたの初めてだったかも。でも……お父さんがどうしてイチゴ狩りも自分でやりたがったのか、分かるかも知れないから」

 なんと言って説き伏せたのかは分からないが、眠たげにそう語る千冬は、それでもどこか晴れやかな表情を見せていた。

────────────────────────────────────────
●第3章 日常 『デザイアモンスター』
 貸し切りのビニールハウスで、イチゴ狩りを楽しみます。
 千冬は特に気にしないで大丈夫です。楽しいイチゴ狩りの風景を見せてあげてください。

 イチゴは食べ頃の完熟具合な物が揃ってます。また品種としては6種類。酸味や甘味、香り、果肉の硬さなど特徴があり食べ比べも出来ます。
 
 それでは、プレイングお待ちしております。よろしくお願いいたします。
────────────────────────────────────────
●第3章 日常『いちご狩りを楽しもう!』
 貸し切りのビニールハウスで、イチゴ狩りを楽しみます。
 千冬は特に気にしないで大丈夫です。楽しいイチゴ狩りの風景を見せてあげてください。

 イチゴは食べ頃の完熟具合な物が揃ってます。また品種としては6種類。酸味や甘味、香り、果肉の硬さなど特徴があり食べ比べも出来ます。
 
 それでは、プレイングお待ちしております。よろしくお願いいたします。
早乙女・伽羅
ジェニ(h04442)と

打って変わって無邪気なネコチャン×無邪気なおじさん風
やあやあやあ、いちご狩りだねえ
上機嫌に両の肉球をすり合わせて舌なめずり

いちごは大の好物なのだよ
見てごらんよ、ジェニ
“俺のおかげで”貸し切りだよ

お店で売っているお行儀のよすぎるいちごよりも
農園で出会ういちごの方が絶対においしい
冷蔵庫で冷やすなんてもってのほかだ
温室でぬくぬく育ったいちごの馥郁たる香り、これ以上のものはない

よし、乗った
中央のラインをどっちが早く突破するか勝負しようじゃないか

大粒を見つけてはしゃぐのも楽しいのだけれど、俺の本命はこれだ
ほどよく小粒でころんとした、宝石のように真っ赤ないちご
こういうのが美味いんだ
佐野川・ジェニファ・橙子
伽羅くん(h00414)と

こら、舌なめずりはお行儀が悪いわよ
恩着せがましい発言はスルーしておきましょう

でも、あたしもいちごは大好き
可愛くて美味しい、最強フルーツ!
「映えるからって大きいものや綺麗なものばかり採られる」って嘆いていた農家の方を知っていますけれど、あたしたちがそんなことするわけがありません
赤ければ全て食べます
という訳で、あたしはあっちの端でアナタはこっちの端からスタートね
あ、もちろん緑のものは残しますからね
では解散!

ひたすら無言でいちごを食べまくります
何せ狩りですからね
甘い香りに程よい酸味と滴る果汁!なんて幸せなのかしら!
いちご狩りで食べるいちごが一番おいしい気がするわ〜


「やあやあ、イチゴ狩り日和だ。うん、うん」

 と昨日の様子から打って変わり無邪気な声を上げたのは、|早乙女・伽羅《さおとめ・きゃら》(元警察官の画廊店主・h00414)であった。
 瞳孔が広がった目で見つめるのは、一面のイチゴ畑。息を吸えば、土の香りに混ざって甘やかな芳醇な香りが、口の中に甘酸っぱさをもたらしてくる。それだけで、涎が溢れそうになってしまう。

「こら、舌なめずりはお行儀が悪いわよ」
「おっと、失礼」

 伽羅の後ろから声を掛けたのは、佐野川・ジェニファ・橙子(かみひとえ・h04442)だ。ゆったりとした所作でビニールハウス内を見やりながら、その口元は確かに緩んでいる。
 満面の笑みを浮かべる伽羅は、待ちきれないとばかりに手の肉球同士をこすり合わせながら、無意識にニャムニャムと舌なめずりをしていたのだ。それを指摘されながらもその視線は実るイチゴへと向けられている。

「まあ、したい気持ちはあたしも同じだけれど」
「ふふん」

 そんな伽羅に、橙子はその香りを肺に吸い込んでみれば、何故か自慢げな表情を向けてきた。

「なによ、何か言いたいことでもおあり?」
「そうだな。どうだい、|俺のお陰で《・・・・・》貸し切りだよ?」
「さぁて、食べまくりましょっかー」

 恩着せがましく向けられる視線を完全にスルーして、背を伸ばしてストレッチする。とはいえ伽羅もまともに返答が来るとは思っていない。分かりきっているからこそ、態とらしくジトリと向けられる視線を無視した橙子は、ビニールハウスの端へと指を指す。

「じゃあ、あたしはあっちの端からスタートするわね。あなたはこっち」
「乗った。どっちが早く中央ラインを割るか勝負といこうか」
「そういう事。じゃね」

 と手を振り、躊躇いなく反対側へと駆けていく橙子を見送りながら、伽羅は近くの赤い宝石の見聞を始めるのだった。


「映えるからって大きいものや綺麗なものばかり採られる、なんて声も聞くけれど……あたしが来たからにはそんな事言わせないわよー」

 腰を捻り、その柔らかな肢体を健康的にしならせながら、向かい側にいる伽羅へと合図を送る。
 中央まで先に着いたほうが勝ち、というのなら、目につくイチゴだけ食べていけばいいだろう。だがしかし、そんな事誰より橙子自身が許せるはずがない。
 形が悪かろうが、大きさが小さかろうが、甘く熟しているのなら全てを食べてみせる。と意気込みを垂れ下がる果実の房から形の崩れた身を摘み取って早速口に放り込んで、僅かに目を見開いた。

「ん……っ」

 くしゃり、と艶のある皮を噛みしめると、舌の上にざらりとした感触が直後に来る甘やかな香りを予告してくる。輪郭を歪ませる程度に力を加えれば、染み出してくる果汁が口中に広がっては、無条件にその甘みへの感覚を鋭敏にさせてくるようだった。
 爽やかな香り。
 甘みが舌先に乗り、種をぷちりと弾けさせた刺激の後に、仄かな酸味がしびれをもたらしてくる。果汁に交じる気泡が野性味を帯びた青い夏の香りを含ませては、甘さを名残り惜しく感じさせるのだ。
 これは甘さの少ない品種なのだろう。だが、それゆえに感じるイチゴの香りと甘酸っぱさのバランスは実に絶妙である。

「これはもう、ますます腕が鳴るわね」

 橙子はそう独りごちると、後はもうひたすら無言のままイチゴを食べ進めていくのだった。


 何を隠そう、イチゴは大の好物なのである。
 家人が買ってきていたイチゴを何度目を盗んでつまみ食いを試みた事か。あの馥郁たる香り、僅かな苦みを含んだ甘やかな果汁。伽羅は、思わずほころんでしまう口元に舌を出そうとして、橙子の言葉を思い出して引っ込める。

「さて、俺もいただくとしようか」

 橙子からの合図を受けて、手ぐすね引いて待っていた伽羅は、既に目をつけていたイチゴへと素早く手を伸ばした。彼が狙っていたのは、大振りな品種のイチゴではなく、その反対側のレーンにある小ぶりな果実が多く連なる品種だった。
 爪先でプチリと枝から切り出した伽羅は、その果実をまずは鼻先に垂らしてはその香りを楽しんだ。
 さながら酒精すら感じそうなほどの、薫り。
 それは、収穫され冷蔵庫で冷やされた売り物にはない荒削りな生の香りだ。赤みから、その香りが葉脈を流れる血のようだとまで思うような漲り。
 一つを躊躇いなく口の奥へと頬張り、奥歯で噛み締める。
 鮮烈だった。
 弾ける、もしくは走り抜けるといった方が良いだろうか。
 その小さな果実に濃縮されていた甘みが爆発したかと思えば、その高い糖度を決してくどくさせない香りがほんの僅かに舌を痺れさせる。酸味はあまりなく、わずかな青臭さが鼻の奥に残る。だと言うのに、印象に残るのは鮮烈な香りだけだ。

「ふん、ふん」

 と鼻を無らしながら暫く、その果実を口の中で転がしながら次の果実を求めていく。その姿は狩人というよりも、我が物顔で食卓に姿を表す家猫のようであったと、その場にいた少女はおかしそうに笑うのだった。


「あら、一足遅かったかしら?」

 橙子は、合流地点にて待っていた伽羅にそう声を掛ける。伽羅は「分かっていただろうに」と軽く片目を閉じて瞬きをした。スタート位置が違っただけで、同じハウス内にいたのだ。どうしようと違いの位置は視界の端に映る。

「満足したか?」
「ええ、最高ね! やっぱり可愛くて美味しい、最強フルーツ! これ以上食べたら苦しくなりそうだから、やめておくけれど」
「存外に腹に溜まるものではあるからな」

 腹を擦る伽羅は、満足げに頷いている。彼も十二分にイチゴを食べまくったらしい。

「やはり、農園で摘むイチゴは、店で売っているものとは一味違うな」
「ええ、いちご狩りで食べるいちごが一番おいしい気がするわ〜」
「全く、同感だ」

 二人は言い合い、今日の収穫に満ち足りた笑みを浮かべたのだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

赤龍院・嵐土
「ハッハッハ、これで一見落着と言うわけだな」
折角なのでいちご狩りを堪能しよう。ああ、素顔で会うのは初めてか?あの時の赤いのだ
「やはり摘みたては美味いな!」
食べ比べなどもして堪能してみるとしよう

そして色々と彼女に尋ねよう
「どうだ?自分主導で仕事をしてみた感想は」
何が見えてどう思ったのか、そして自分に足りない部分ややってみたい事はあるかなど。そして
「これはお父上と相談してからでいいのだが、赤龍院財閥のバックアップを受けてみる気はないか?」
自治体の補助ややりくりで足りない設備の一新など多少の援助や、千冬が魔法少女として訓練をしたいなら穴埋めの人員の雇用などだな。そうした補助に対して申し訳なさがあるようなら、
「なぁに、家族経営への融資というのは財閥のイメージアップにもいい。互いに利のある提案だと思ってくれればいい」などと言って後ろめたさを消せるよう丸め込もうとする
話が纏まれば【社会的信用】技能や【赤龍院財閥の力】でできる範囲で農園を応援しよう

俺には夢が欠落している。だから誰かの夢を叶えたいんだ


 EDEN達の貸し切りとなったイチゴ狩り用のビニールハウスに、快活な哄笑が轟いた。

「うむ、良い実りだ。俺の見立てに狂いはないな!」

 |赤龍院・嵐土《せきりゅういん・らんど》(プレジデントレッド・h05092)その人であった。まさに筋骨隆々を絵に描いたような剛体、赤い宝石のような大ぶりのイチゴを摘み取っているのだが、その手との対比でそれでも随分小さく見えてしまう。
 わざわざそれを手の平に乗せて見せに来た大男の満面の笑みに、千冬は思わず吹き出してしまった。

「んむ、味も香りもよいな、やはり摘みたては美味い!」
「ありがとう、ございます。えっと……?」
「んむ?」

 探るような視線に、嵐土はふと考えてから「おお、そうか」と思い至った。
 改めてと、嵐土は少女へと慇懃に礼をした。

「素顔で会うのは初めてだものな。ほれ、あの赤いヤツだよ」
「あ、やっぱりそうなんだ」
「ほう! 姿変われども疑わないとはな。君は聡いな」
「えっと……」

 あの場にいて、この場にいる『恩人』からの消去法である。なのだが、普段あのスーツに身を包んでいると不思議と正体に気づかれない為、その考えが抜け落ちているのだ。とはいえ、そんな前提知識のない千冬は、困ったような笑みを返した。
 実際、千冬も今ここに他に多くの人がいたなら、その声や仕草が似通っていても同一人物だと結びつけるのは難しかっただろうが、その事を少女が気づくはずもない。

「疲れは大丈夫だろうか? 君まで倒れてしまっては、ご家族も悲しむぞ」
「うん。大丈夫」
「どうだ? 自分主導で仕事をしてみた感想は」
「うん」

 少女に問いかけてみると、返ってくるのは短い言葉だけだった。その後、そのまま少し考えた千冬は躊躇いがちに呟いた。

「大事に育てたイチゴを美味しそうに食べてもらえてるのは、くすぐったいけど嬉しいなって思う」
「ふむ。……これはお父上と相談してからでいいのだが」

 何かを掴んだような言葉に、数回頷いた後に少女の表情を見やりながら、嵐土は彼女に手の平を差し伸べていた。

「赤龍院財閥のバックアップを受けてみる気はないか?」
「え、っと」
「なに、俺も利がないわけじゃない。家族経営農園への融資というのは、財閥のイメージアップにもなるという打算も勿論ある」
「どうして……?」

 なぜ、そんなことまでしてくれるのか。そんな風に問いかけた少女に、嵐土は少女に話して良いものかと考え、魔法少女になるという現象に巻き込まれた彼女になら、その意味も理解出来るだろうと口を開くことにした。

「俺は、夢が『欠落』している。だから、誰かの夢を応援したいのだよ」
「夢……」

 口の中で反芻した少女は、その意味を正しく理解したのだろう。力の代償。いや、欠落によってこそ生まれた力を、千冬も目の当たりにしたのだから。
 少女は遠慮がちにしながらも嵐土に問いかける。

「なにかをしたいって、思えないの?」
「そうだな……」

 と嵐土は僅かに思案して、イチゴを掌の上で転がしてみる。その一つを摘み上げて自らの眼の前にぶら下げた。

「俺は今、イチゴを食べたいと思っている。瑞々しく香り高いこの果実をな。だが、その願いは夢ではなく──欲だ。夢を抱くことと、欲を満たそうとすること。それは似ているのかも知れないが、明確に違っているだろう?」
「……うん。そうかも」
「だからこそ、誰かの夢を見たい、叶えようとするその心を尊敬する」
「そっか……」

 暫く嵐土は沈黙の中で彼女の応えを待つ。そうして再び少女は口を開いたのは、一分か、二分か。
 ごめんなさい。と少女は嵐土の目を見つめて、頭を下げた。

「ううん、違うの」

 遠慮しているのであれば、と語りかけようとした嵐土の言葉を遮って、少女は首を振ってみせた。

「おじさんは悪い人じゃないと思うし、お父さんも楽になるんだと思う。でも、おじさんに助けてもらったら、私は、私の夢を……叶えられない」
「……」

 その過程をなくして安易に手を伸ばし手に入れたものは、確かに願ったものそのものではあるのだろう。
 だが、それはただ欲を満たすだけの存在になってしまう。抱いた夢は、その瞬間から叶わなくなってしまう。
 願ったものを手に入れる事こそが夢であったのならそれも良いのだろう。だが、千冬にとっては違った。彼女が欲しているのは、自らの意思を強く持てる自分自身なのだから。

「そっか、だからなんだ」

 父がイチゴ狩りの案内まで買って出ていたのは、ただ従業員や家族に無理をさせたくない。という、後ろめたさだけではなかったのだ。きっと、自らが育てた作物に目を輝かせる、その景色に喜ぶことの出来る自分でいたかったのだろう。

「おじさん、ごめんなさい」

 ならば、少女はやはりその手を取るわけにはいかない。
 ハッキリとそう告げた。それは、嵐土の厚意を無下にするような返答に違いない。拙い少女の言葉に嫌悪はないが、それでも、直裁にすぎる言葉は、一種の無自覚の棘を持ってすらいた。
 生意気だと。折角の助けを断るのかと。そう思っても仕方のない事だ。

「ハッハッハ! そうかそうか!」

 だが、嵐土は違った。豪放磊落、まさしく些事には拘泥しないその性格のまま、彼は少女の決定をおおらかに受け入れていた。
 断るならばそれでいい。彼がこの農園を応援するという心は何も変わりはしないのだから。

「ならば、困った時は遠慮なく声を掛けるがいい。何、一族の中でもフットワークは軽いと有名だからな!」

 爽やかに、豪快に笑った嵐土は、手にしていたイチゴを口の中に放り込むと、いい話を聞けたとばかりに上機嫌にイチゴ狩りへと戻っていく。
 そんな背中を千冬は不思議そうに見送りながらも、胸に踊る温かな心地にゆっくりと微笑んだのだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功


 少女は魔法少女になった。
 だが、それ以上に。

「うん、私は……ここが大好きなんだ」

 少女は、自らの心のひとつを知った。
 きっと彼女にとってはそれこそが、赤く、甘酸っぱい思い出になっただろう。

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