シナリオ

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桃源にして|戦域《フロントライン》

#√ドラゴンファンタジー #武装モンスター軍団 #リプレイ執筆中

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  甘やかな香りが、風にほどけていく。

 水蜜桃の森――そこは、争いとは無縁の楽園だった。
 淡く色づいた果実が枝先にたわわに実り、陽光を受けてやわらかく輝く。ひとつ手に取れば、指先に吸いつくような滑らかさと、ほのかに温もりを帯びた重み。かじれば瑞々しい甘さが口いっぱいに広がり、心の奥に溜まった疲れさえ、すっと溶けていくようだ。

 足元には花弁が降り積もり、風が吹くたび、ひらり、ひらりと舞い上がる。
 遠くでは小鳥がさえずり、木漏れ日が揺れる。
 ただそこにいるだけで満たされる、そんな穏やかな時間が流れていた。

 ――だからこそ。

 「ここが、狙われてしまうのよね」

 場違いな言葉が、その空気に小さなひびを入れる。

 如月・縁は、森の縁に立ち、静かに空を見上げていた。
 昼の光に星は見えない。けれど彼女の視線は、そのさらに向こうを捉えているかのようだった。
 ゆっくりと振り返り、集まった冒険者たちへと向き直る。

 「モンスターの軍団が、もうすぐこの森に来ます。目的は――補給」

 その言葉に、わずかな緊張が走る。

 「竜漿兵器、”エレメンタルオーブ”。あれは自然の魔力を吸い上げて力に変える装置です。つまり、この森みたいな“魔力の濃い場所”は、格好の餌場になる」

 縁は軽く肩をすくめた。

 「しかも、水蜜桃は古来より神聖な魔力を秘めるとされる果実。ここを押さえられたら、あの軍団は戦いながら補給できるようになる。……そうなったら、止めるのはかなり大変」

 ひと呼吸おいて、声の調子を少しだけ引き締める。

 「だから、その前に叩いてしまいましょう」

 森の奥へと続く道を指し示す。

 「まだ大規模な侵攻は始まってない。来るのは先遣隊。オーブを運び込んで、拠点を作るための部隊だと思うの」

 指先が、いくつかの地点をなぞる。

 「まずはこの森で待ち伏せ。地形はこっちが有利だし、相手も完全には展開できていないはず。第1段階はここで迎撃しましょう」

 視線が一度、森の奥へと流れる。

 「そのあと、敵の動きを止めたら、拠点に踏み込む。オーブを無力化するのが第2段階。放っておくと、森そのものが削られていくから」

 そして、ほんのわずかに目を細めた。

 「最後に――指揮官。ブラン・アリア・カーミラ」

 その名を口にした瞬間、空気がわずかに張り詰める。

 「竜漿兵器の適合者ね。たぶん、全部終わらせるなら避けては通れない」

 そこで、ふっと力を抜くように笑った。

 「……とはいえ、順番に全部する必要もありません」

 軽く手を広げる。

 「待ち伏せに集中してもいいし、オーブだけ壊して撤退してもいい。カーミラに一直線でも、それはそれであり」

 ややいたずらっぽく、続ける。

 「森でのんびりしてから戦いましょう。せっかくの水蜜桃、少しいただいて魔力を補給しても良いかも?」

 その言葉に、先ほどまでの緊張がわずかに和らぐ。

 「どう動くかは、あなたたち次第。でも――」

 風が吹き、花弁が舞い上がる。
 甘い香りが、ほんの一瞬だけ強くなる。

 「ここは、守る価値のある場所だと思う。この森を愛する国民のためにも、守ってほしい」

 静かにそう言って、縁は一歩下がった。
 ――遠くで、何かが揺れた気がした。

 枝葉のざわめきに混じって、わずかに異質な気配。
 空気の流れが、ほんの少しだけ歪む。

 楽園の時間は、終わりを告げようとしている。
これまでのお話

第3章 ボス戦 『竜漿狩り『ブラン・アリア・カーミラ』』


POW ブラン・ベルグ
60秒間【狩り取ってきた竜漿の炎】をチャージした直後にのみ、近接範囲の敵に威力18倍の【超重力の黒球】を放つ。自身がチャージ中に受けたダメージは全てチャージ後に適用される。
SPD アリア・リーパー
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【漆黒の大鎌】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【鴉の羽】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
WIZ カーミラ・オンステージ
「【私だけを見ていなさい】」と叫び、視界内の全対象を麻痺させ続ける。毎秒体力を消耗し、目を閉じると効果終了。再使用まで「前回の麻痺時間×2倍」の休息が必要。
イラスト 綺月るぅた
√ドラゴンファンタジー 普通11


 砕け散ったエレメンタルオーブの残骸が、なお赤黒く燻っていた。

 失われるはずだった森の魔力は桃園へ還り、萎れていた花々も再び息を吹き返し始めている。

 ――だが。

 その光景を、紅い瞳が不機嫌そうに見下ろしていた。

 「……ふぅん?」

 希望の風を裂くように、漆黒の翼が広がる。
 現れたのは、一人の少女だった。

 白磁のように白い肌。絹の如く輝く金髪。年端もいかぬ容貌に似合わぬほど巨大な大鎌を肩へ担ぎ、少女は空中で退屈そうに脚を組む。

 竜漿狩り『ブラン・アリア・カーミラ』。

 倒した者達の血から竜漿を奪い、力へ変え続ける簒奪者。

 「せっかく集めた竜漿だったのに。台無しじゃない」

 拗ねた子供のような口調だった。
 けれど、その声を聞いた瞬間だった。

 胸の鼓動が、不自然に早まる。
 視線を逸らせない。
 甘く澄んだ声音が、耳から直接脳へ染み込んでくるようだった。

 「貴方達、結構強いのね?」

 カーミラはくすりと笑う。

 その笑みは無邪気で、残酷だった。ふわり、と少女の身体が地面へ降り立つ。
 黒い翼が揺れ、大鎌の刃がギラリと鈍く反射した。

 「いいわ。気に入った」

 ぞわり、と濃密な竜漿の気配が溢れ出す。

 空気が重い。

 甘い香りの奥に、鉄錆にも似た血の匂いが混ざっている。
 カーミラは能力者達を見渡し、獲物を選ぶ肉食獣のように唇を吊り上げた。

 「さあ――誰から遊んでくれるの?」