シナリオ

濫觴

#√汎神解剖機関

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 #√汎神解剖機関

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 ー最初はただ 存在しないという事実だけが 確かに存在していたのだー

●特務職員による調査報告

 バーンズ博士「気分はどうですか? ■■君」
 特務職員■■(以降、Aと呼称する)「最悪だ。人生最悪の日と言ってもいいね」

 バーンズ博士「よろしい。ではキミは【閲覧済み】で何を見ました? 何があったんですか?」
 A「何も無かったさ! ああ、クソッタレ……最初から何も存在すらしなかったんだ」

 バーンズ博士「落ち着いてください。映像記録によるとキミは確かに【閲覧済み】に存在しました。そして■■■も確認されています。機器に異常はありませんでした。それを踏まえて、もう一度確認します。キミは【閲覧済み】で何を見たんですか?」
 A「ああ……ちくしょう……やめてくれ。何も……何も無かったんだ……」

 バーンズ博士「心拍数の異常を確認。聞き取りは中断する」

●√汎神解剖機関 【閲覧済み】県■

 始まりは些細な事だった。ある雨上がりの昼。とある交差点で同じ顔をした2人の男が出会った。その奇妙な出来事に2人の男は困惑したままにお互いの顔を見合わせていた。その時、交差点を行き交う群衆の中から悲鳴が上がった。自分の幻影と出会ってしまった人間は彼らだけでは無かったのだ。群衆の中には既に数多の幻影が紛れ込んでいた。最初の悲鳴は群衆に伝播して、いつしか渾沌の合唱となった。パニックに陥った人々は逃げ惑い、押し合い、やがて暴動となって殺し合いへと発展した。

 ――遠くから聴こえる警察車両のサイレンの音。何十層に積み上がった死体の山と鮮血の流河と化した交差点では1人だけになった男が薄笑いを浮かべていた。

●とあるオープンカフェ

 最近オープンしたばかりのお洒落なカフェテラス。そこの1席でカフェオレを味わいながら星詠みの贄波・絶奈(|星寂《せいじゃく》・h00674)は√能力者達の到来を待っていた。

「や、来てくれたんだね。ちょっと厄介な事になりそうだったから助かるよ」

 まぁ、座ってよ。と絶奈はカフェテラスの席に√能力者達を案内すると今回の予知の説明をまるで雑談でもするかのようにし始めた。

「なんか知らないけど汎神解剖機関でも危険視されてる怪異が復活したみたいなんだよね。で、コイツが質の悪い奴で遊び感覚で人間を虐殺するような怪異っていうワケで例に漏れず今回もそんなノリで事件を引き起こすみたい」

 カフェテラスの頭上を覆う街路樹の葉から差し込む木漏れ日がカーテンのように揺れる静かな空間に、ズズッと飲み物を啜る音がやけに響いた。呑気にカフェオレで一息入れると絶奈は説明を続ける。

「怪異の仕業っぽいんだけどこの街で今、ある噂が流行ってるらしいよ。自分そっくりの人間が現れるだとか巷じゃ大騒ぎみたいだね。実際の所は怪異が見せてる幻影なんだけど」

 所謂、一種の都市伝説――だが、今回に限っては全て紛れも無く怪異の仕組んだまやかしだ。この噂を利用して怪異は街の人間達を疑心暗鬼に陥れ、しまいには集団幻覚を利用し狂気の中でパニックに陥った群衆に殺し合いをさせるというのが怪異の目的だと言う。そして、事件の現場となるのは市街中心のスクランブル交差点。そこで人々が自身の同一存在を目にした事で徐々に狂気に囚われ、暴動に至る――その混乱を収め、惨劇を未然に防ぐのが今回の目的だ。

「パニックの原因は怪異にあるワケだし、現場に行ってその原因をどうにかすれば少なくとも死人が出るような暴動は防げると思うよ。まぁ、それなりに現場は混乱してるだろうしその対処も必要かもしれないけど。……で、本当に重要なのはここから」

 絶奈は言う。この騒動を防いだ後は直ちにその首謀者である怪異を追い、対処する必要があると。そうでなければ遠くない日に再び惨劇が引き起こされるであろうという事を。

「何より、汎神解剖機関が怪異の身体に用があるみたいだしね。ま、テキトーに頑張って来てよ」

 そう言って、√能力者達を見送る絶奈はその最後に微かに笑みを浮かべ、餞別の代わりに一つの冗談を言い放った。

「もし実際に自分そっくりの人間が現れたらさ。どっちが本物の自分だなんて、分からないよね」

マスターより

鏡花
 ■いつもお世話になっております。鏡花です。

 ■今回のシナリオの目的は予知された騒動を鎮圧し、その首謀者である怪異を倒す事となっています。

 ■1章はスクランブル交差点に人々が怪異の幻覚に惑わされて騒ぎになり始めた状況から開始となります。どうにかして群衆を落ち着かせるか、もしくは騒動の大本を断って騒動を収めるのが目的となります。

 ■2章以降は1章の解決方法によりシナリオが分岐します。詳細はシナリオ進行後に追加する断章にてご確認下さい。

 では、余命幾ばくかの憐れな世界の延命の為、皆さんのプレイングをお待ちしております。
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よろしいですか?

第1章 冒険 『*奇妙な現象が起こっている。*』


POW 腕力と気迫で何とかする💪💪💪💪💪
SPD 周囲をよく観察し、原因となる物や条件を突き止める。
WIZ 呪文や聖句を唱えたり、生贄やアイテムを使う。
√汎神解剖機関 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

 人は自身と同一の存在を目の前にした時、どのような反応をするのだろうか。少なくとも、このスクランブル交差点に存在した人々はその奇怪な現象を受け止める事が出来ずに狂気に蝕まれようとしていた。始まりは1つの疑念だった。それは1つの悲鳴に変わり、やがて無間の狂気へと至っていく。

 誰かが化け物だ!と泣き喚く=化け物など存在しないのに

 誰かが助けて!と助けを乞う=危害を与える者など存在しないのに

 誰かが逃げろ!と叫ぶ=逃げる必要なんて存在しなかったのに

 交差点を訪れた√能力者達の目の前には混沌が広がっていた。我先にと右へ左へうねる波のように逃げ惑う人々。押し合い圧し合い、転倒した誰かは群衆に踏み砕かれて悲鳴を上げる。行き場を失った車両は交差点の中で立ち往生し、群衆に飲み込まれていく。悲鳴と怒声、このままでは人々の生命を脅かす暴動に発展するのも時間の問題だろう。予告された悲劇を止める為、仕組まれた狂気の中に√能力者達は踏み込んでいく。
馬車屋・イタチ
う~ん・・・。自分と同じ顔って、そんなに嫌なもの~? イタチさんたちには、よくわかんない感覚だね~。だって・・・ほら、イタチさんはイタチさんたちだからね~。【少女分隊】の、イタチさんたち大集合~なのさ~。とりあえず、偵察戦闘車両で現場に向かうよ~。分隊のイタチさんたちを車両の上に載せて、工具銃を構えて周囲を威圧しておくね~。 異常現象とか怪異だとか、よくわからないけど~。それって、目の前の軍用車両と武装した分隊よりも怖いかな~? にひ、撃ったりはしないよ~? ただ、私刑とかが始まりそうなら、イタチさんたちが盾になるよ~。無抵抗に殴られサンドバッグ~。頑丈さには、多少自信があるのさ~。
ミンシュトア・ジューヌ
(連携、アドリブお任せで)
√汎神解剖機関は初めて訪れましたが……
どうも勝手が違いますね。
早く慣れなくては。

まずは使えそうな技能でなんとか周りの群衆を落ち着かせます。
近くの人に“催眠術”を使って、
「化け物など存在しない」
「危害を与える者など存在しない」
「だから逃げる必要なんてない」
と暗示をかけ、“言いくるめ”て落ち着かせます。
理想は、数人単位のグループのリーダーと覚しき人に正気に戻ってもらって、それが波及することです。

また、新しい√能力「邪風の棘」で風妖「鎌鼬」を放ち、周囲をよく観察します。
原因となる要素、怪しい人物が見つかったら、すぐ仲間に情報共有します。

●騒動鎮圧作戦――混沌に影1つ 

 騒然とする灰色の道路を力強く走る1両の|偵察攻撃車両《RCV》。それを口笛を吹きながらご機嫌に操縦するのは|偵察攻撃車両《RCV》の|少女人形《レプリノイド》の馬車屋・イタチ(|偵察戦闘車両《RCV》の|少女人形《レプリノイド》の素行不良個体・h02674)だ。

「う~ん······自分と同じ顔って、そんな嫌なもの〜? イタチさん達にはよく分かんない感覚だね〜」

 そんなイタチの運転する車両の上には運転手であるイタチと同じ顔をした|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》が工具銃を構え待機していた。|少女人形《レプリノイド》であるイタチは|自分以外のイタチ《バックアップ》が存在するのが当然だった。だから、別の自分が存在する事が異常であるという人間達の感覚は至極不思議な事であった。

「|少女人形《レプリノイド》である方々と違って他の種族には馴染みがありませんからね。未知とは時には恐怖の対象になる事もあるんです」

 そんなイタチに、車両に同乗していたエルフのミンシュトア・ジューヌ(エルフの|古代語魔術師《ブラックウィザード》・h00399)が声を掛ける。尤も、ミンシュトア自身が自分にとって未知の世界である√汎神解剖機関の環境に慣れようと試行錯誤している状況ではあったのだが知識欲旺盛なミンシュトアにとってはそれもある種のスパイスでもあった。

「そんなもんなのかな〜······あ、そろそろ現場に到着するよ」

 間もなくして、車両は騒動の現場へと到着する。交差点は既に逃げ惑う群衆によって渾沌としていた。

「ど……どうなってるんだよコレは!」
「やめてッ!来ないでぇッ!」
「早くどけッ!轢き殺されてぇのか!」

 悲鳴。怒号。罵声。狂気の|合唱《コーラス》の舞台にイタチの操る車両が突入し、ど派手にドリブルをかまして滑り込むようにして停車する。

「ほいほ〜い。イタチさん達の到着だよ〜ほら、みんな落ち着いて落ち着いて」

 停車した車両から武装したイタチ達が次々に飛び降り、逃げ惑う群衆の波の中へと飛び込んでいく。武装した集団――という事もあり、その光景に威圧された群衆の一部が困惑したように動きを止めた。

「やはり武装集団というのは迫力がありますね……でも、流石に抑え込みきれはしませんか。私も出来るだけの事をしないと」

 次々と車両から飛び降りて行ったイタチ達に続いてミンシュトアも渦中の交差点へと降り立った。我先へと右へ左へ必死に惑う群衆の中でミンシュトアは他の√では感じた事の無い、形容し難い感覚に襲われるがそれを噛み殺して今取れる最善の行動に移った。

「皆さん――」

 喧騒の中で妙に通る声。ミンシュトアのその声に人々は手を引かれるように思わず足を止めた。ミンシュトアは呼び掛けるようにも、語り掛けるとも言えないように言葉を続ける。

 ――化け物など存在しない

 ――危害を与える者など存在しない

 ――だから、逃げる必要なんてない

 ミンシュトアはそんな暗示を催眠術の要領で逃げ惑う群衆に刷り込んで行く。それはまるで認識を書き換える魔法のように鮮やかだった。

「大丈夫です。何も事件は起きていません。実際に襲撃を受けた人なんていないですよね? 落ち着いてください、ここは危険じゃありません」
「そ……そうなのか? 確かに化け物だのなんだの言われても影も形も無いけど……」
「やはは、集団心理って怖いよね〜ま、イタチさん達が来たからにはもう安心安全だよ〜」

 イタチ達の抑制とミンシュトアの催眠術――言いくるめにより群衆の一部は落ち着きを取り戻しつつあった。説得の成功により、場の混乱を収めようとする人々も何人か出現した。そんな最中、群衆の中から一際大きな怒号が上がった。混乱の末、暴徒と化しつつある一部の群衆がこちらに迫りつつあったのだ。

「このままでは埒が明来ませんね……イタチさん。彼らの足止めをお願い出来ますか? 私はこの騒動の原因を探ってみます」
「へーい、了解だよ〜イタチさん達にお任せあれ〜」

 要請を受けて、イタチ達は暴れる群衆から他の人々を守る障壁となるように立ち塞がる。そんな彼女らに暴行を振るう者もいたが、イタチ達は抵抗する素振りすら見せずになすがままに耐えていた。通常の人間であれば耐え切れなかっただろうがイタチ達は手慣れた物だ。頑丈さに自信がある彼女らはその暴行など気にもしていなかった。

「ほら落ち着いて〜……いてっ。大丈夫だよ〜怖くないよ〜……いたっ」
「すみませんイタチさん……!」

 イタチらが時間を稼いでいる間にミンシュトアは騒動の大元を特定する為に行動を開始する。

 ――邪風の棘。ミンシュトアの唇が素早く上下し、詠唱を唱えると彼女の周囲に鎌鼬が姿を表す。そんな鎌鼬にミンシュトアが声も無く目配せをすると鎌鼬は風を巻き上げ、スルスルと交差点の上空へと昇った。見える光景はうねる波のように逃げ惑う交差点を埋め尽くさんばかりの群衆。――その群衆の中。交差点の中心辺りに奇妙な人影が見えた。その人影は周囲の群衆を観察でもしているかのように立ち尽くしていたかと思えば、そのままゆっくりと群衆の中に消えていった。ミンシュトアはこの人影こそがこの騒動の首謀者だと直感する。

「イタチさん! 交差点中心部に犯人の影ありです!」
「アイアイサ〜交差点真ん中了解〜」

 イタチとミンシュトア。2人は現場の混乱を抑制しつつ、交差点に潜む異質な存在の影を捉える事に成功した。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

無害・チャン
無害ちゃんはスクランブル交差点の混乱を目にして、くるりと踵を返しながら群衆を見渡した。
「無害ちゃんの偽物〜?許せないよねぇ」
不敵な笑みを浮かべながら錆びたコインをくるくると指先で回す。
「まぁ、偽物も混乱もまとめてぶっ飛ばせばいいや」
コインを天高く投げ上げると、周囲に黒い稲妻が走った。それらは無害ちゃんの手のひらに集まり、真っ黒なサイコロの形を成していく。無害ちゃんはニヤリと笑い、それらを放り投げて叫ぶ。
「出たとこ勝負!これが無害ちゃんの大・博・打!」
転がったサイコロが弾け飛ぶと同時に、霊能震動波が周囲を駆け巡った。

 ●吉と出るか凶と出るか――

 混乱と狂気に満ちた交差点。のらりくらりと現場を訪れた無害・チャン(人間災厄「ハッピー・ラッキー・ルーレット」の警視庁異能捜査官カミガリ・h05396)はくるりと軽やかに踵を返すと逃げ惑う群衆を見渡した。彼らを恐怖させたのは彼らの鏡映しの如き存在――言わば、彼ら自身だ。それを証明するかのようにザっと様子を伺っただけで全く同じ姿をした幾人もの人間が視界に入った。怪異の影響か、逃げ惑う人々の間には無害ちゃんそっくりな人物の姿さえ目撃された。

「無害ちゃんの偽物? 許せないよねぇ」

 自身と同一の存在が目の前に存在する――そんな奇妙な体験をしながらも無害ちゃんは不敵に笑う。そんな彼女の指先にはいつの間にか1枚の錆びたコインがクルクルと楽しげに弧を描いている。そんなコインは不意に無害ちゃんに握られ、その手のひらの中に姿をくらました。

「まぁ、偽物も混乱もまとめてぶっ飛ばせばいいや」

 交差点はまだ渾沌の中にある。この事態を早急に治める術は無いように思えた。だからこそ無害ちゃんは大胆な行動に出た。彼女は不敵な笑みを浮かべたまま、その手のひらに収めたコインを天高く放り投げた。陽光がコインを照らし、俄に鈍色が煌めく。――かと思えば唐突にコインを中心に黒い稲妻が宙を走る。それに無害ちゃんが手を差し出せば、その稲妻は無害ちゃんの手のひらに収まるように集まり、真っ黒な立方の正四角形の六面体――サイコロを形どった。その異様な光景――その雰囲気に飲まれるように一部の群衆は動きを止めた。

「さぁ、出たとこ勝負! これが無害ちゃんの|大・博・打《ギャンブル・ボム》!」

 賽は投げられた――今まさに無害ちゃんの放った運命のサイコロは弧を描き、灰色のコンクリートに着地すると暫く転がったのちに静止する。出た目は――それを確認する間も無く、一瞬の静寂を伴ったかと思うとサイコロは内側から膨張するかのように弾け飛んだ。その瞬間、サイコロを中心として霊能震動波の嵐が吹き荒れた。大気は揺れ、たった一つのサイコロから始まったその余波は交差点の広域を飲み込んだ。その影響を受けた群衆の一部は突然の衝撃に呆気に取られ立ち尽くし、そのまた一部は夢幻の如くに掻き消えた。

「ラッキー! 大当たり~! お邪魔な偽物ちゃんも消えてくれたねぇ」

 無害ちゃんの放った大博打の霊能振動派は一部の群衆の正気を取り戻させた他、群衆の中に紛れ込んでいた数々の同一存在……偽物達を消し去る事に成功した。騒動はまだ収束には至らないまでも着実に事態は好転してきている。この大博打には勝利したと言っても過言ではないだろう。
🔵​🔵​🔴​ 成功

雪月・らぴか
おおお、こんな人が多いところで騒ぎを起こすなんて、大胆なことをする怪異だね!結構自信があるのかな?そうだったらやばそうだね!
そして今の状況もだいぶやばいね!さてさて、どうしたものかなー?

落ち着かせたりするには人数多過ぎるねぇ。原因探して元を断つのが良さそうだね!
ってことで【霊界通話スピリットボックス】でインビジブルに話を聞いてみるよ!この交差点で騒ぎが起こる前に何か普通ではないものはあったりしなかったか?どこから騒ぎがはじまったか?騒ぎがはじまってすぐに不審なことはなかったか?
このへんのことを聞けば、どこでどうすればいいか大体わかるかなー?
話を聞けなかったら歩き回って何か探すしかないね!
七州・新
自分そっくりの人間が現れたら、どっちが本物の自分か分からない?
そうかな?
どっちが本物の七州新か分からない、はあり得る。
こっちは記憶も無いんだから。
でも、どっちが本当の「自分」かは、迷うことはない。
例え自分が「偽の七州新」でも、それ込みで「自分」は自分でしょ。

…っと、いい加減目の前に集中しよう。
申し訳ないけど大勢を落ち着かせる手段は僕にはないんだよね。
だから原因になってる怪異を探すとしよう。
どうか分かりやすく、混乱する人たちの中で、演技もせず落ち着いて眺めててくれると良いんだけど。
人の波を「逃げ足」技能で避け、「目立たない」技能で人目も避け、移動しながら周りと様子の異なる人か物を探して止めるよ。

●嗤う男 

 青い空に絶叫が反響する。明瞭な晴天とは酷く不釣り合いな喧騒に包まれた灰色の地上では群衆が忙しなく右へ左へ目的地の見えない逃避行を繰り返していた。そんな人々に視線を向ければ、同じような顔ぶれが散見された。

「随分と酷い状況だね」

 そう零すように呟いた七州・新 (無知恐怖症・h02711)の横を既に何度見かけたであろう男性が逃げ去って行った。そんな彼を横目で見送り、また視線を目の前の惨状に移す。

「自分そっくりの人間が現れたら、どっちが本物の自分か分からない……か」

 ――そうかな? 新はこの状況を自身に置き換え思考する。同一存在を目の前にした時、確かにどっちが『本物』の七州・新であるかは判断が出来ないだろう。そもそも自身の記憶が無い以上は判断の仕様が無い。然し、どっちが本物の『自分』であるかを考れば新は迷う事なんて無いだろう。例え、自分が偽物であったとしても自分は自分でしかないのだから。自己を失う事を尤も恐れる新だからこそ、自分の存在の定義を見失ってはいけないのだ。

「そんな難しー顔してどうしたの?」

 そんな新に声を掛けたのは雪月・らぴか (えええっ!私が√能力者!?・h00312)だった。彼女は大騒ぎとなっている交差点に落ち着きなくキョロキョロと視線を巡らせていた。

「ほら! こんな人の多い所で騒ぎを起こすだなんて大胆な怪異だね! ……という事は結構自信があるって事? だとしたらヤバそう! 今の状況もだいぶヤバそうだけど!」

 らぴかはフツーの大学生だ。事故物件に住んでいたら突如√能力に目覚めたという点を加味しても、人々が狂気と恐怖に駆られ、悲鳴と怒号の中で正気を失い逃げ惑う目の前の光景はあまりにも異質過ぎる存在で、らぴかもその状況には思わず呆気に取られていた。そんな彼女に逃げ惑う群衆の一部が押し寄せ、あわや衝突という事態になりかけた。そんな状況下でらぴかは、あわわ!どうしよ!っと視線を新に向ける。

「……まぁ、いい加減目の前に集中しようか。とは言っても僕にはこんな大勢を落ち着かせる手段は無いんだよね」
「奇遇だね! 私もそう!」
「うん、そうなるとこの騒動の原因になってる怪異を探した方が早そうだ。ちょっと手伝ってくれる?」
「もちろん! 任せて! こういう時は私の霊界通話スピリットボックスの出番だね!」

 新の言葉にらぴかは大きく頷くと手元にスマホを取り出した。そんな様子を怪訝な表情を浮かべる新に見守れながら、らぴかは霊界通話アプリなる胡散臭いアプリを起動する。胡散臭いが、√能力の不思議な力によってアプリは正真正霊界――幽霊と通話する事が可能になっているのだ。彼女がアプリを起動すると、この阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた交差点でも呑気に漂っていた無数のインビジブル達が1種の霊――おしゃべりゴーストへと姿を変貌させた。

「もしもーし! ちょっとお話を伺いたいんですけれども! この交差点がこんな騒ぎになる前に何か普通じゃないような事ってありましたかー?」

 すぴかがそう問うと、一体の幽霊がその問いに答えた。

「普通じゃない事? そうだなー……そういえばスーツ姿の男がこの辺りにずっといた気がするナ。なんか気になったから見てたんだけど、不思議な事にどれだけ見ても顔が良く分かんねーんだわこれが。というかついさっきもそこらへんに居たゾ」
「え! どこに居たの!?」
「丁度、交差点の真ん中辺だったかなァ。なんならこの騒ぎが広まったのもそこら辺だったと思うゾ」

 ビンゴだ。らぴかの瞳があからさまに嬉しそうに輝く。彼女はバッと近くで見守っていた新を振り返ると間髪入れずに幽霊から聞いた怪しい人物の事を新に伝えた。

「新くん! 交差点中央! そこに怪しいのが居たって!」
「分かった……!」

 らぴかのその情報を聞いた新もすぐに行動を開始した。目的地は交差点の中心部だ。その為には逃げ惑う群衆の波の中を逆流するように進まねばならないが、新は躊躇する事なくその群衆の中へと飛び込んで行く。無我夢中で次々と雪崩込んでくる群衆。呼吸を整え、その隙間を縫うように新はその中を突き進んで行く。そして交差点の中心部へ凡そ接近した頃合いを見計らって新は周囲の様子を伺った。当然、目標に感づかれてはいけない――新は右往左往する群衆に極力目立たないように紛れて移動を続けながら探索を行う。

 ――ソレは愉し気に嗤っていた

 群衆の中で、逃げるでも無く有象無象の人間を観察するようにそのスーツ姿の男が嗤っていた。いや、実際にその表情を確かめる事は出来ないのだが新にはその人物がこの状況を酷く愉しんで嗤っているように見えたのだ。

「この事件の元凶さん……かな」
「おっと、見つかったか。こりゃ参ったね。この臨場感を存分に味わおうと思ったのが失敗だったか。いや、まさかこの中を突っ切って来るなんてね」

 表情の読めない男は飄々と嗤う。新が臨戦態勢を取ろうとする中、必死に新の後を追いかけて来たらぴかが遅れて合流する。

「ひぃ~!大変だったよ~!って、まさかこの人が犯人!?」
「うん、多分ね」

 2人の目の前の男。姿こそ人間と変わらないがその雰囲気は異質そのもの――この人物こそが怪異の正体と見て間違いはないだろう。新とらぴかの2人はこの事件の首謀者、その怪異の姿を視界に捉える事に成功した。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

久瀬・千影
高台が良い。別にスゲェ高い場所ってワケじゃなくてもいい。スクランブル交差点を一望できる場所。先導してる奴――要するに首謀者を探したい。
右眼に集中。龍眼は本来、相手の隙を探すモンだが。【視力】を合わせて首謀者の位置を把握したい。とはいえ、脳に負荷が掛かる龍眼は持って数秒。それでどーにか分かりゃ良いが。
見付けられれば【追跡】を試みるぜ。臭いは元からってな。

恐怖が伝播するっつーのは、|こっちの世界《汎神解剖機関》出身の俺としちゃ、分かってるつもりだったが。悲鳴ってのはいつ聞いても気分の良いモンじゃない。
ヤベェ怪異だって、最初に話は聞いてる。俺の手に負えない相手なら、騒動だけ止めて俺はバックレるぜ。

●怪異捕捉
 
 阿鼻叫喚の交差点。数多の悲鳴をバックコーラスに憐れな群衆は狂気に囚われ逃げ惑う。そんな光景を一望できる高所――交差点近辺の雑居ビル、その上階の空きフロアの一角で久瀬・千影 (退魔士・h04810)は騒動の様子を伺っていた。目的はこの騒動の発端――首謀者の発見だ。誰からの妨害を受けず、全体を俯瞰できる位置からであるなら首謀者が現場付近に存在する限り必ず特定できるであろう。そう考え、地上を監視する千影の右眼に静かに焔が灯る。全身の霊力を集中させる|龍眼 壱《リュウガン イチ》――抱えた秘密の1つであるその力を以て千影は探索に当たる。

「――存外、視えるモンだな」

 程なくして、千影は交差点の中に不審な影を発見する事に至った。脳に多大な負荷の掛かる龍眼はそう長く使えるものでは無い。故に千影は素早く目的を果たさなければと考えていたが、万全を期していた事もあり、すぐに千影の研ぎ澄まされた視力にソレは捉えられたのだ。

 交差点中心部――群衆が乱れるその中に於いてその男は微塵も動かない。恐怖で動けないという訳では無い。何故ならば、その龍眼が捕捉したその男の隙があまりにも少なかったからだ。この状況下でソレはありえない事だった。

「こりゃ臭うな。十中八九アイツが首謀者だろーよ」

 そんな最中、その男は突然移動を始めた。まるで何者かに愉しみを邪魔されたとでも言うように渋々と中心部から離れ始めた。そうとなれば次に取るべき行動は唯一つ。事件の元凶を追い詰めるべく千影は追跡を開始する。屋外へと飛び出した千影は男を見かけた付近へと向かって駆けだした。前方から混乱する交差点から逃げ出そうとする人々が迫り、それを衝突する寸前の所で身を躱しながらも千影は先へ先へと突き進んで行く。然し、それよりも千影の気を滅入らせたのは交差点全域を包み込む悲鳴と怒号で構成された喧噪だ。

「……ちっ、気分ワリーな」

 恐怖は伝播する。まるで疫病のように人々を侵していく。この|世界《汎神解剖機関》の出身としては十分に理解しているつもりだったが、この耳を劈くような悲鳴にはどうも慣れる気がしない。胸底から込み上げてくるような不快感、それに眉を顰めながらも先へと進んで行けばやがて、逃げ惑う人々の間をのんびり散歩するように歩く男に追いつく事に成功した。

「……おい」

 千影が声を掛ければ、男は存外素直に立ち止まり振り向いた。そう遠くない筈なのに不思議とその表情が読めない事に千影は更に不快感を募らせる。

「今日は随分と来訪者が多いな。これでは余興が台無しじゃないか」

 表情は読めないが、恐らく不敵にそう嗤う男。千影がその男――怪異が人の形をしながらも人の常識では測れない埒外の怪物である事を退魔師として直感する。千影はその男の行動に備えながら思考を巡らせる。相当厄介な怪異である事は事前に聞いていた。そして、いざ怪異を目の前にしてみれば事実厄介であろう事は嫌という程に実感できる。さて、どうしたものか――千影は次に取るべき行動を模索する。ともあれ怪異と接触する事に成功した以上、好き勝手に行動っさせる事を防ぎこれ以上の現場の混乱を悪化させる事はないだろう。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

叢雲・颯
SPD

「怪異によるテロか…」
溜息ひとつ。狂気・痛み・精神汚染… そんなものは【慣れたもの】だ。(狂気耐性、精神抵抗、呪詛耐性、激痛耐性)
目の前の混乱に対処しても原因を止めなければ焼け石に水。市民を止めるのは他の√能力者に任せ私は根幹を調査しよう。(レッド・マスターのお面をつけつつ)
「わざわざこんな白昼堂々こんな目立つ行為をする…」
これは怪異にとって【大勢を殺す事】か【死ぬ様を見る】のが目的かのどちらかだろう。
で…あるならば。
「確実に何処かで『視ている』はずだ」
腰のホルスターから装填装置を抜き 鎮圧弾丸「杜鵑」を義手に装填。
「どれだけ死んだか… あるいは 死んでいく様を愉悦とするか…」
「なんにせよこの人混みで唯一人の寄り付かない【一角】が存在する」
義手に装填された杜鵑に点火し【案山子の潜入】を発動。この人混みで私を目視する事は困難だろう。
気配を消し 狙うべき【一角】を探す。
しかし… これほど大規模に事件を起こすあたり計画性が全く無い。
少し考えれば私のような【専門家】が動くと分かるだろうに。

●悪意へと至る作意

 透き通るような青い空に人々の悲鳴が木霊する。冷たい灰色の大地では寄る辺を失って人々が惑い走る。

「怪異によるテロか……」

 現場を訪れた叢雲・颯 (チープ・ヒーロー『スケアクロウ』・h01207)は惨状を目の前にしてため息混じりに呟いた。もはやすっかり馴染み深くなったこの光景。常人であれば気が狂ってしまいそうな伝播する悲鳴に曝されても颯はすっかり慣れたもので只々現場状況の分析に努めていた。然し、胸の奥につっかえたような不快感ばかりはどうしようもないようにも思える。

「さて……元凶を絶たなければ焼け石に水か」

 颯の瞳が静かに揺れた。ゆっくりとした動作で持ち上げられたその腕には電光レッドマスターのお面が掴まれていた。かつて憧れた|彼《か》のヒーローのように自分も成れたのだろうか? そんな夢想を皮肉るように微かな笑みを零すとお面を被り臨戦態勢へと移行する。――|スケアクロウ《チープ・ヒーロー》の出撃だ。

 優先すべきは元凶の特定だ。幸いにも他の√能力者によって混乱のこれ以上の拡大は阻止され、事態の収拾が図られている。完全な鎮静化にはまだ遠いが十分騒動の元凶の調査に集中する事はできるだろう。颯は周囲に視線を配りながら今回の事件における推論を展開する。まず、注目すべきはこの阿鼻叫喚の地獄絵図そのものだ。

「わざわざこんな白昼堂々こんな目立つ行為をする……という事は」

 怪異は人知れず犯行に及ぶ訳でも無く、わざと事件を露呈させる事によって騒動を大事にさせている。そこから颯は怪異の目的が【人々の大量虐殺】自体である事。或いは【その過程】のどちらかであろうと推測した。つまり、そこから導かれた颯の答えはこの事件の元凶である怪異は今まさにこの現場を自らの目で視ているという事だった。

「――そうだ、怪異はこの場に存在する。確実に何処かで『視ている』はずだ」

 で、あるならばと颯は逃げ惑う人々の間を縫うようにして歩き出した。群衆と接触しそうになりながらも颯は冷静に腰のホルダーからリボルバー式の装填装置を引き抜くと己の義手へと鎮圧弾丸「杜鵑」を装填した。流れる様に手際よくその一連の動作を行いながら颯は靴底の音を灰色の地面に響かせ狂気の舞台を進んで行く。すれ違う数多くの悲鳴と怒声がやけに頭の中に響く。だが、それでも颯はぴくりと眉すら動かさず、ただ1つの目的を果たす為にその歩みを緩めない。

「どれだけ死んだか…… あるいは 死んでいく様を愉悦とするか……」

 弾丸を装填した義手の右腕に、颯に残された生身の左手が添えられる。

「なんにせよこの人混みで唯一人の寄り付かない【一角】が存在する」

 義手に装填された鎮圧弾丸「杜鵑」が点火される――その途端、颯の気配がまるで大気に溶ける様に希薄になっていく。それはまるで存在自体が消えてしまうのではないかと思われる程だ。案山子の潜入――鎮圧弾丸「杜鵑」の特性と√能力を組み合わせた潜入態勢によって今や颯は目視以外の索敵を全て無効化する状態へと化している。つまり、この群衆に紛れ込んだ状態である以上、颯を探知する事は何人にも不可能だった。これにより颯は怪異にその存在を気取られずに行動する事を可能にした。そして明らかに不自然な場所を探知する事に成功する。そう――世界から隔離されたかのように不自然に孤立した一角だ。怪異が猟奇的な趣向でこのスクランブル交差点に存在するのであればその趣向を邪魔されたく無いとそこに逃げ込む筈だ。その颯の推測は見事的中していた。

「これは驚いたな。いつの間にそこに居たんだ?」

 混乱するスクランブル交差点に於いて、まるで人々が避けているかのように不自然に人気の無い一角にその男はいた。その男は感嘆したように颯を振り返ると、対面しているのに何故か表情の見えない顔をこちらに向けてパチパチと戯けるように拍手をしてみせた。

「よく此処が分かったな? お陰様で折角の余興が台無しだ。やれ、お見事お見事」
「あいにく、お前の様な連中を相手にするのには慣れているからな」

 その男のふざけたような言動にも颯は男をジッと視線の先に捉えたまま粛々と対応する。その一挙一動全てを見逃さぬように気を張り、いつでも行動を起こせるように構えながら男の様子を伺った。なにしろこの男の行動にはあまりにも不可解な点が多すぎる。颯はこの男の底知れぬ悪意そのものを警戒していた。

「しかし、不可解だな。これほど大規模の事件を引き起こす力があるくせに計画性が全くない。少し考えれば私のような【専門家】が動いて計画そのものに支障を来す事ぐらい分かるだろうに」

 楓の言葉を男は黙って聞いている。その男の様子を見て、推測は確信へと変わった。

「――本当の目的はなんだ」

 颯の鋭い眼光が男を刺す。その問いかけに男は愉し気に嗤ってみせた。

「ああ、お見事だ。キミ達のお陰で本来の計画は頓挫してしまったが、まだ十分楽しめそうで何よりだ。さぁ、次の舞台へと案内しようか」

 男がその言葉を言い終わった瞬間、遠くから警察車両のサイレン音が次第に大きくなってくるのが聴こえた。そして、阿鼻叫喚の騒ぎだったこのスクランブル交差点も完全に騒ぎが治まった訳では無いが確実に落ち着きを取り戻しつつあった。少なくとも群衆同士の殺し合いのような惨劇は回避されたのは間違いないだろう。そして今、この事件の元凶である男を完全に補足する事に成功した。だが、事件は終焉を迎えてはいない――
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 集団戦 『ヴィジョン・ストーカー』


POW 影の雨
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【影の雨】で300回攻撃する。
SPD 影の接続
半径レベルm内の味方全員に【影】を接続する。接続された味方は、切断されるまで命中率と反応速度が1.5倍になる。
WIZ 影の記憶
知られざる【影の記憶】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
イラスト 志摩 ほむら
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●狂気繚乱

 その男は嗤う。その計画の全てが破綻したというのに満足気に嗤っている。

「別の会場に案内しようと思ったが予定は変更だ。何より聴衆は多い方が盛り上がる。さぁ、パーティを始めようじゃないか」

 男が指をパチンと鳴らせば、晴天は赤錆染みた曇天に塗り替えられ陽射しの代わりに影が差し込んだ。気が付けばスクランブル交差点の中心には無数のテレビが山積みになっていた。世界にノイズが奔る――積まれたテレビの画面から影のような手が世界へと這い出ようとしていた。『ヴィジョン・ストーカー』――それこそが群衆を惑わせた元凶だ。尤も、全てはあの男の手引きによるものなのは明白な所ではあったが。その首謀者足る男は身を翻すと『ヴィジョン・ストーカー』の群れの中へと姿を消した。

「次の余興はコレにしようじゃないか。今度も楽しませてくれよ?」

 何処からかそんな男の声が聴こえたかと思えば『ヴィジョン・ストーカー』が一斉に動き出した。群衆は到着した警官隊が保護しているとは言え、この怪異の集団がそこに雪崩込んだらもはや為す術は無くなるだろう。更なる悲劇を望み、次の狂気の幕は開かれた。


 
 ※1章と同じスクランブル交差点を舞台とした集団戦となります。群衆は到着した警察が保護している為、怪異の集団を放置しない限りは√能力者達が何かをする必要はありませんが、多少のフォローを行っても構いません。また、基本的に現場に到着した警察官は怪異に対しては戦力にはなりませんが協力を要請する事自体は可能です。
雪月・らぴか
おおお、この空の色はいかにもホラーっぽい感じだね!
いきなりこういう変化があったらビビってたけどねー。犯人わかってると余裕っていうか寧ろテンション上がっちゃうね!
このテレビの怪異も、1人で家で居る時にでてきたらやばそうだけれどここでならそうでもないねー。ささっと倒してあの男をぶっ飛ばしにいこう!

ありがたいことに敵がまとまってるからいきなり【霊雪叫襲ホーンテッドスコール】!
これだけで終わればいいけど多分撃ち漏らし出るから、あとは1体ずつ殴りにいくよ!
敵の√能力は何が強くなるかわからないから、ガンガンせめて、発動される前や発動されても活用される前に倒したいね!
やられる前にやれば怖くなーい!

●ある日、異界にて

 青空から一転した赤錆の焦げ付いたような色の不気味な空。まるでサイコホラーの世界にでも迷い込んでしまったようで常人であれば精神に異常を起こしかねない状況であったが、その中で雪月・らぴか(えええっ!私が√能力者!?・h00312)はむしろ嬉しそうにはしゃいでいた。

「おおお、この空の色はいかにもホラーっぽい感じだね!」

 日常から突然にこのような非日常に変貌したのであれば流石のらぴかもビビり散らかしていた可能性は否めない。だが、この状況に於いては原因はおろか犯人も既に分かっている。ともなればホラー好きのらぴかにとってこれは気分を高揚させるものでしか無かった。

「このテレビの怪異も家で1人の時だったらヤバかったかもだけど……うん! 大丈夫! ここでならそうでもないね!」

 そうなれば後はこの怪異を片付けて首謀者であるあの男をぶっ飛ばすだけだ。そんな決意を胸にらぴかはスクランブル交差点の真ん中に積み上がり蠢く『ヴィジョン・ストーカー』に視線を向けた。

「ふふん! いい感じに纏まっちゃってるねーこれは好機到来! 一気に片付けるよ!」

 まるで羽化でもしたかのように『ヴィジョン・ストーカー』が這い出るテレビの塔に向けて気合十分と意気込めば、らぴかは大きく息を吸い込んだ。

「本日の天気はーっ、霊と雪が降ってぇ、風が強いでしょー!!」

 らぴかが叫べばノイズが奔るこの異界のスクランブル交差点に|螢《ほたる》の灯りの様な氷雪がふわりと舞う――かと思えばらぴかの声に呼応する様に死霊が現れ、その叫びを重ねていく。それは次第に強い風を引き起こし、氷雪を巻き込み瞬く間に暴風を伴った吹雪と化してテレビの塔――『ヴィジョン・ストーカー』を蹴散らし、散り散りに吹き飛ばし、何百もの氷塊を叩き付け打ち砕く。その一撃でテレビの塔は崩れ瓦解する。それでも辛うじて暴風から逃れた『ヴィジョン・ストーカー』達はまるでらぴかに怨みでも晴らそうとでも言うように伸びた影の腕がテレビを引き摺るようにして彼女に向かって進む。知られざる影の記憶が怪異の力を増幅させ、らぴかへとその魔の手を伸ばす。だがそれよりも自ら距離を詰めてきたらぴかの拳がその画面を叩き割る方が早かった。

「よく分からないけど危険な気配! 何をして来るのか分からないけど……!」

 敵陣の中へと飛び込んだらぴかは攻める手を緩めず、ガンガン攻め立て怪異の反撃を許す事無く次々とその拳で黙らせて行く。

「やられる前にやれば怖くなーい!」

 その言葉通り、らぴかは『ヴィジョン・ストーカー』達がその能力を発動しきる前に叩き伏せる事に成功した。コンクリート上に転がるテレビ画面の破片。その奥にあの男の姿が見えた気がした。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

七州・新
ミンシュトア・ジューヌ(h00399)と連携。
「おや、こんな所で知り合いに会うとは」
他の方とも協力できるならもちろん歓迎。

とりあえず一つ目の危機は超えたかな。
引き続きこっちの仕事をしよう。
敵がそれを楽しめるなら、楽しめばいいさ。

手近な敵を標的に、戦闘錬金術で手持ちの竜漿兵器を強化。
群衆や味方に接近されないよう、こちらから接近して攻撃するよ。
敵の攻撃は避け難いかも知れないから、「鉄壁」技能も使ってしっかり耐える。
錬金毒は「錬金術」や「毒使い」で強化し、1体倒せたら次の敵を標的にまた戦闘錬金術だね。
敵を一気に倒すのは苦手なんだけど、今回は味方がいるからね。
僕はなるべく前線で長く戦うことを目指そう。
ミンシュトア・ジューヌ
※七州・新(h02711)と連携。

七州さんを見つけたら声をかけます。
「七州さんも来られていたとは、奇遇ですね……どうです?組みませんか?」

警察官には、絶対に群衆を近づけないように念を押してお願いします。
(“世界知識”の中から、魅力的な女性の“演技”でウインクして)
「貴方のこと、信じているわ。だから、わたし達のことも信じて任せて!」

(敵に向かって)
「さぁ、ここからは怪異を刈り取る者となりましょう。」
宣言通り、“なぎ払い”で敵の手を刈り取っていきます。
今回は敵への攻撃と味方へのバフを考慮し、「邪風の爪」を使います。
群衆や警察官を巻き込みそうなら、効果範囲は狭めます。

●邂逅は怪異を撃抜く光となり

 空は赤錆色に覆われ、スクランブル交差点には無数の『ヴィジョン・ストーカー』が這いずり回っている。もはや異界と化したその場所で何の偶然か七州・新 (無知恐怖症・h02711)は見知った人物と出会う事になる。

「おや、こんな所で知り合いに会うとは」

 その相手は銀の髪を靡かせるエルフの|古代語魔術師《ブラックウィザード》、ミンシュトア・ジューヌ (|知識の探索者《ナリッジ・シーカー》・h00399)だ。彼女は新を見つけると足早に彼へと近寄った。

「七州さんも来られていたとは、奇遇ですね……然し、とんでもない事になりましたね。せっかく混乱が収まるかと思ったのに……どうです? このような状況ですし、ここは組みませんか?」
「ああ、そうだね。状況が状況だし見知った人がいるのは僕も心強いからね。取り合えず一つ目の危機は乗り越えられた事だし、引き続きこっちは仕事を続けようか」

 そう言って新は首謀者である男が姿を消した『ヴィジョン・ストーカー』の群体へと視線を向ける。計画を破綻させられたというのに不遜な態度を崩さなかった男の事は気に喰わない。だが、新たちが男を追い詰めているのは確かな事実だ。

「それを楽しめるなら、今のうちに楽しめばいいさ」
 
 そう呟くと新は付近を彷徨う一体の『ヴィジョン・ストーカー』に視線を向ける。そんな彼と一度視線を交すとミンシュトアは前線を新に任せて一旦後方へと退いた。目的は後方に存在する群衆と彼らを保護する警官隊だ。犠牲者を誰一人も出さない事でこの事件は本当の意味で解決する――その為にミンシュトアはまず動く事にした。避難の対応に追われる警察官は近づいてきたミンシュトアを見ると驚いたように目を見開き、そんな彼女に声を掛けた。

「き、キミ! 早く避難しなさい! ここは危険だ!」
「ご心配には及びません。ここは私たちにお任せを――ですので、他の皆さんの事はあなた方にお任せします。こちらに近づかないように誘導をどうかよろしくお願い致します」

 ミンシュトアは凛と――そして、どこか神秘性を纏っていた。その紫の瞳に覗き込められた警察官は思わず息を呑む。厳密に言えば、ミンシュトアはそうなるように演技をしてみせた。この混乱の中に於いて確実に人々の心を動かし、奮い立たせる為に彼女は自身が持つこの世界の知識の中から人の心を尤も惹き付ける事のできる魅力的な女性を引き出し、それを演じたのだ。

「貴方のこと、信じているわ。だから、わたし達のことも信じて任せて!」

 それは星が弾けるような、思わず引き込まれるウィンクだった。その紫水晶のような瞳の輝きに当てられた警察官――それだけに留まらず周囲の警官隊もミンシュトアの言葉を真摯に受け止める事だろう。

 一方、新は自身の竜漿兵器を以て『ヴィジョン・ストーカー』と対峙していた。|戦闘錬金術《プロエリウム・アルケミア》――竜漿兵器は目標を屠る槍へと強化され、新はそれを構えると一気に『ヴィジョン・ストーカー』へと距離を詰める。背後の群衆に手を出させない為にはこちらから出向いてその気を引かせれば良い。そんな新を迎え撃つ為に『ヴィジョン・ストーカー』のそのテレビ画面から漆黒の黒色が伸び、影の手となる。だが、それが攻撃に転じるよりも早く放たれた新の竜漿兵器の矛がその画面を影ごと貫いた。画面にノイズが奔る――それでも『ヴィジョン・ストーカー』は抵抗しようとするが、錬金術によって強化された竜漿兵器の毒が忽ちにその身体を蝕み、暗転させ沈黙させた。

「新さん! 左方向から来ます!」

 再び合流したミンシュトアが叫ぶ。その声が示した方向からは別の『ヴィジョン・ストーカー』の文字通りの魔の手が新に伸ばされようとしている。だが、新は即座にそれに反応すると槍形態となった竜漿兵器の柄部分を両手で支えるとその攻撃を受け止め押し返した。

「ありがとうミンシュトアさん。助かったよ」
「いえ、お待たせしました。――さぁ、ここからは怪異を刈り取る者となりましょう」

 『ヴィジョン・ストーカー』と対峙し、そう言い放つミンシュトア。その言葉に反応するように無数の 『ヴィジョン・ストーカー』の画面から一挙に影の手が伸びる。お互いの影同士は接続され、数段にも及び強化されたそれは先ほどとは比較にならない速度で2人に襲い掛かる。それに対し二人は新が前線を維持し、その後方をミンシュトアが位置取る形で迎え撃つ。再び、戦闘錬金術で敵を迎え撃つ構えを取る新に先んじてミンシュトアが一手を打った。

 「天地ノ狭間漂ウ|風御魂《カゼミタマ》 解キ放タレシ其ノ身捧ゲヨ――」

 息すら吐く間の無い詠唱をその一語一句全て完璧に唱えあげればミンシュトアの周辺に俄かに風が吹き起こる。そよ風程度だったそれは瞬く間に力を増し、周囲の砂埃を巻き上げたかと思えばそれは疾風の弾丸となって一直線に宙を切り進む。それは新と『ヴィジョン・ストーカー』が交戦する前線付近に着弾したかと思えば暴風を巻き起こし、カマイタチと成って『ヴィジョン・ストーカー』の群れに襲い掛かると薙ぎ払うようにしてそのテレビ画面から伸びる影の手を次々と切り落としてみせた。ミンシュトアの攻撃により迫り来る敵が総崩れとなったその隙を見逃さずに新はその群れの中へと飛び込んで行った。体が軽い――ミンシュトアの放った邪風の爪――放たれた風の一部は竜巻となって新に力を与える。普段であれば複数の敵を一度に相手し打ち倒す事は苦手ではあるのだが今はそれは些細な問題に思える。そんな新の放った竜漿兵器の一撃は『ヴィジョン・ストーカー』の画面を捉え、それが突き刺さったままの竜漿兵器を引き抜き、振り返り様に弧を描くように凪げば新を狙って延ばされた影の手ごと周囲の『ヴィジョン・ストーカー』を打ち砕いた。新とミンシュトアの連携――気が付けば、その周囲には無数の『ヴィジョン・ストーカー』の残骸が転がっていた。

「あの数の敵を前にして……やるじゃないですか新さん」
「そっちこそ――ミンシュトアさんの協力が無ければこうは行かなかったよ」

 新とミンシュトアは背中合わせで、未だ彷徨う『ヴィジョン・ストーカー』を警戒しながら、そう称え合う。途方も無い異界と化したこのスクランブル交差点の中、偶然にも出会った2人はこの場を支配するテレビの怪異――その一角を打ち崩す事に成功した。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

無害・チャン
(連携・アドリブご自由にお願いします)
「降ってくるなら札束でしょ!」
スクランブル交差点を埋め尽くすヴィジョン・ストーカーたち。ノイズ混じりのテレビが不気味に光り、そこから溢れ出す影が、刃となって空から降り注ぐ。無害ちゃんは肩をすくめ、派手な衣装を踊るように翻した。
「安い手品!」
降り注ぐ影の雨が無害ちゃんに触れた瞬間、黒い稲妻が走り、瞬く間に影を飲み込む。
「何の役にも立たないね。こっちは、もっと大きな“賭け”がしたいんだけど?」
ニヤリと笑い、無害ちゃんは交差点の中心へと踏み込む。

●TELEVISION IN THE GAMBLE

 赤錆びた空がどこか生温い風を運ぶ。見渡す限りのテレビ、テレビ、テレビ――まるで黒い海を想起させるようにうねりながらスクランブル交差点を埋め尽くす『ヴィジョン・ストーカー』達。無害・チャン (人間災厄「ハッピー・ラッキー・ルーレット」の警視庁異能捜査官カミガリ・h05396)がそれを口笛混じりに眺めているとその視界を覆い尽くすノイズ混じりのテレビ画面が妖しく光を宿す――かと思えばそれは次第に激しさを増し、ついにはまるで吹き零れるようにしてその画面から影が天を目指して噴き上げられた。

「お~こりゃ絶景だねぇ」

 不敵な笑みを崩さぬまま、その様子を伺う無害ちゃんの眼前では空高く吹き上がった影がまるで大樹が梢を伸ばすように赤錆びた不気味な空を覆ったかと思うとそれは影の刃となって灰色の大地――無害ちゃんの立つその場所を目掛けて数千どころか数万にも及ぶであろう夥しい数のそれが落下を開始する。刃に埋め尽くされ黒に染まった空を仰ぎ、無害ちゃんはやれやれと肩を竦める。

「どーせ降ってくるなら札束でしょ!」

 風切り音を響かせ、落下する影の刃の軍団のその1つが無害ちゃんに触れるその直前。無害ちゃんはコツンと片方の靴の踵でコンクリートの地面を打ち鳴らすと、くるりとその身を翻す。彼女の纏う、マジシャンを思わせる煌びやかな装飾で派手に彩られたディーラー服のラッフルが風に靡きその刃に触れる。

「さぁ、ラッキーかアンラッキーか命を賭けた一勝負と行こうか」

 ――瞬間、世界にノイズが奔る。正確には無害ちゃん、彼女の周囲に炸裂するように黒の稲妻が奔ったのだ。その稲妻はまるで生き物のように宙をのたうち回るように拡散するとその一帯の影の刃を全て文字通りに飲み込んでしまったのだ。その稲妻は『ヴィジョン・ストーカー』達にもその牙を向けた。鋭い雷鳴を響かせ、稲妻が『ヴィジョン・ストーカー』を一体、また一体と撃ち抜いて行くその中を無害ちゃんは交差点中心を目指し、悠々と進んで行く。黒い雷鳴が治まる頃にはその一帯にはただテレビの残骸が転がるだけだった。その中で無害ちゃんは気まぐれに立ち止まるとくるりと後ろを振り返り、怪異達の残骸にニッコリと笑顔を向けてみせた。

「安い手品――なーんの役にも立たなかったね? こっちは、もっと大きな“賭け”がしたいんだけど?」

 ま、でも今回の賭けも無害ちゃんの勝ちだね――と不敵に笑い、無害ちゃんは交差点中心部へと足を踏み入れた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

叢雲・颯
※アドリブ・連携歓迎

「なるほど… やはり黒幕がいたか」
推測はある程度当たったか、問題はその【目的】だ。しかし 今は考え事をしている暇はないか。
腰から弾丸装填装置を抜き数回ガンスピンさせ義手に【杜鵑】と【八咫烏】を装填。
見たところ独立した思考や自我は持っていない。ならばやりようはある。
予め 杜鵑を点火。「案山子の反撃」を発動し『受け』の姿勢に入る。
思考を持たないなら【カウンターを疑う】事はまずないだろう。仕掛けてきた敵に対してカウンターで義手を叩き込む。ブラウン管に腕を突き刺したまま
「引きずり込もうとするまで… 3秒ほどか?」
ブーストした反応速度で方向転換し 突き刺さったままの腕で八咫烏に点火! その直後に刺さったヴィジョンを密集位置に向けて投擲。八咫烏を打ち込んだヴィジョンを中心に爆縮現象を発生させる。
「『事象』の怪異なら跡形もなく消し飛ばすのが最適‥‥。そもそも生物じゃない以上殺せるかすら怪しい」
隠密状態で姿を隠しつつ 断続的に奇襲攻撃を仕掛けよう。

●|scarecrow in a nightmare《ヒーローは悪夢の中へ》

 透き通った晴天は赤錆びた曇天へと変わる。古びたテレビが散乱する異界と化したスクランブル交差点で叢雲・颯 (チープ・ヒーロー『スケアクロウ』・h01207)は思考を巡らせた。事件は終わらず、それどころか現場は更なる怪異に見舞われる――と、なるとやはり先ほどのあの男を止めない限り事件の幕引きとはならないのであろう。

「なるほど…… やはり黒幕がいたか」

 今回の事件の糸を引く黒幕の存在、その推測は的中していた。そうなると残された謎は|Why done it《なぜ犯行を行ったか》――黒幕の目的だ。

「――だが、今は考え事をしている暇は無いか」

 交差点に散乱するテレビの画面から次々と影が伸び、その身体を引き摺るように颯に向かって移動する。その動きを察知した颯は腰に手を伸ばし、即座に弾丸装填装置を引き抜いた。引き抜かれた弾丸装填装置はトリガー部分に引っ掛けられた颯の指を中心にその手の平の側面を滑るようにしてクルクルと回転し、義手へと治まった。その鮮やかなガンスピンを経て対怪異鎮圧弾丸である【杜鵑】と【八咫烏】の装填を終えると、這い寄る『ヴィジョン・ストーカー』の様子を伺う。動きは単調でその全てがまるでプログラミングされた出来の悪いロボットのように行進を続けている。その数は多いがこれならばやりようはある、と颯はまず【杜鵑】を点火する。――準備は整った。待ち構える颯に何の疑いも無く『ヴィジョン・ストーカー』は魔の手を伸ばす。そんな『ヴィジョン・ストーカー』の画面に義手が叩き込まれた。――案山子の反撃。その一撃はブラウン管までも貫いた。――あゝ嫌だ。また、うんざりする程の怪異の感覚だ。込み上げてくる不快感を颯は振り払う。何はともあれ、今はコイツらを片付けねばならない。

「推測通りだが……ここまで、まんまと引っ掛かってくれるとはな。恨んでくれるなよ」

 タイミングを見事に捉えた反撃。その義手をブラウン管に突き刺したまま、颯は自分の神経が研ぎ澄まされるのを感じる。

「引きずり込もうとするまで……3秒程か?――なら十分だ」

 突き刺さった義手を通じて『ヴィジョン・ストーカー』が抵抗をしようとしているのが感覚で分かった。ジワリジワリと影が伸び、義手を侵蝕しようとしているのを颯の鋭い視線は見逃さない。常識を逸脱した反応速度を以て突き刺さったままのブラウン管を無理矢理に引っ張り上げるとコンクリートの大地を力強く踏みしめ、他の『ヴィジョン・ストーカー』が群れる方向へと身体を反転させる。それと並行して装填された【八咫烏】に火が焚べられる。

「さぁ行くぞ! 間違っても手加減など期待するなよ!」

 身体を反転させたその勢いのままにブラウン管が突き刺さったままの義手が全力で振るわれ、為す術無く宙に放り出された『ヴィジョン・ストーカー』は同族達に意図せぬ体当たりを行う形となった。ブラウン管同士が激しくぶつかり合うその音を合図に銃声が響き渡る。投げ飛ばされ『ヴィジョン・ストーカー』の群体に沈んでいくブラウン管に颯の放った【八咫烏】が撃ち込まれた。|その《案山子の》一撃は弾丸を放つ為にチャージの前準備が必要になる技だが颯はこの1連の流れの中で既にその準備を終えていた。

 ギ……ギギ……?

 【八咫烏】を撃ち込まれた個体のブラウン管がまるで啼いているかのように軋む音を上げる。その次の瞬間にはソレはまるで自身の内側に吸い込まれるように凝縮した。それはその個体だけに留まらず周囲の空間を捻じ曲げ、他の『ヴィジョン・ストーカー』をも巻き込み爆縮現象を引き起こした。ソレらは子供の作った不格好な粘土細工のような1つの塊のように凝縮し、そして間もなく内部からの圧力に耐え切れずに自壊する。耳鳴り――目の前の怪異の塊が弾けたかと思えば、バラバラになったテレビの残骸が雨のように周囲一帯に撒き散らされる。その残骸が足下に転がるのを視界の端に捉えながら颯は周囲にまだ残る『ヴィジョン・ストーカー』へ警戒を続けた。

「『事象』の怪異なら跡形もなく消し飛ばすのが最適……そもそも生物じゃない以上殺せるかすら怪しい。――だから消えるまで消してやるだけだ」

 真紅のオーラを纏った颯はそのまま薄暮のような交差点の暗がりへと消えた。かと思えば突如、別の場所に姿を現すと同時に『ヴィジョン・ストーカー』へと拳打を叩き込み、粉々に粉砕する。そうしてはまた姿を消して、次の怪異を屠る……颯はそのような奇襲攻撃を断続的に繰り返し、『ヴィジョン・ストーカー』達は完全に気配を遮断した颯の姿を一度も捉える事の出来ないままにその数を減らして行く事となった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

久瀬・千影
余興だって?さっさとトンズラ決め込むつもりだったが。大勢の群衆の前でそりゃダセぇな。
別に|正義の味方《ヒーロー》を気取りたいワケじゃねぇが…パーティへのお誘いだってんなら、喜んで乗ってやるよ、クソ野郎。

何度か戦った事のある怪異だ。【戦闘知識】が活かせる。
影の接続を放置せず、無銘刀を用いて√能力、闇纏いで影を【切断】していく。『何でも斬れる』ってのが俺の異能でね。影だろうと、この通りってヤツさ。

無数のテレビから湧いて出て来る影の群れ。
けど、限度はあるハズだ。片端から斬り飛ばすぜ。影を切断後、闇を纏い、【闇に紛れる】。姿を消して、こっちの影は追わせない。
【怪力】込みで、ヴィジョン・ストーカーを√能力で纏めて叩き斬ってやるぜ。

全部終われば、積まれたテレビに向かって刀の切っ先を向けよう。
取り巻きは片付いたぜ。依頼内容はアンタもどうにかしてくれって話だ。
そろそろ姿を見せたらどうだい?

●TELEVISION SHOWDOWN

 赤錆びた空の下。古びたブラウン管に宿りし怪異『ヴィジョン・ストーカー』の軍勢を前に久瀬・千影 (退魔士・h04810)は立っていた。ああ、気に入らねぇな――自分達を嘲笑うかのように余裕をかまし、余興だのと宣った挙句に『ヴィジョン・ストーカー』の中に姿を消したあの男に千影は苛立ちを隠せなかった。そんな彼の後方で一悶着を起こしている群衆と警官隊の喧噪が生温い風に乗って背中越しに届く。さっさとトンズラしてやろうと思っていたが気が変わった。

「大勢の群衆の前でそりゃダセぇしな。別に|正義の味方《ヒーロー》を気取りたいワケじゃねぇが……」

 荷を解かれた刀袋がはらりと地に落ちる。鞘が擦れる音が微かに響けば、その次には千影の手に白銀の美しい抜き身の刀がキラリと鈍い輝きをその刀身に宿していた。

「いいぜ、パーティへのお誘いだってんなら、喜んで乗ってやるよ。――さぁ、遊ぼうぜクソ野郎」

 千影のその言葉をまるで合図にでもするかのようにブラウン管の群れが千影を目掛けて殺到する。地響きを掻き鳴らし、それはまるで全てを飲み込む津波のようであったが千影は退く素振りは一切見せない。そんな事をする理由など微塵も存在しなかったからだ。あの怪異は既に何度も戦った事がある相手だ。あの怪異との戦い方は知識として――そして身体が覚えている。当然、その攻撃の癖も頭の中に叩き込んである。千影を取り囲むように殺到する『ヴィジョン・ストーカー』達。そのブラウン管の画面から新たな影が漏れ出し地面を這うように延びていく。

(影――奴ら影を繋げて能力を底上げするつもりだな。小賢しい真似をしやがるが――関係ねぇ)

 ブラウン管から零れる影が他のブラウン管から伸びた影に向かって伸びるのを目視すると千影はコンクリートの地面を蹴り付け駆け出した。足下を這うブラウン管を蹴り付け、まるで船から船へと軽やかに渡る八艘飛びのように怪異を踏み台に加速的に移動をしていけば、間もなく目的の影に辿り着くその直前で数多の影の腕が千影の死角から飛び出すようにして、彼に向かって伸ばされた。

「それで不意を突いたつもりか? 遅すぎるぜ、アンタ」

 一閃。それは一瞬の出来事だった。千影が前方へ突っ切るように飛び込み、身体を翻すよう弧を描くように刀を振るえば彼に伸ばされていた無数の腕を切り払う。のみならずその斬撃は地を這うように奔りそこに伸びていた影を比喩では無く文字通りに真っ二つに切断してみせたのだ。『何でも斬れる』千影の異能だからこそ成し遂げる技だ。かくして、怪異らの思惑を阻止する事に成功したものの、依然にその数は多い。絶え間なくブラウン管のテレビ画面からは影の群れが次から次へと湧き出している。

「馬鹿みてぇに次から次へと出てきやがって。だったら、限度まで片っ端から斬り飛ばしてやるよ」

 千影を取り囲む怪異――それらの眼の前から千影の姿が消える。闇を纏い、薄暮の様な暗がりに姿をくらました千影を探そうと怪異らは躍起になったがその影すら捉える事が出来ない。――刹那、闇に白刃が煌めきブラウン管の一つが両断される。闇に紛れ局地的に怪異を屠り続ける千影の猛攻にその数を減らしていく『ヴィジョン・ストーカー』。そんな彼らの前に闇に紛れていた千影は勝負を決しようと飛び出した。

「残念だが俺が用があんのはテメーらじゃねぇ。あのムカつくクソ野郎だけだ」

 千影の並外れた怪力から放たれた一閃はまるでこの異界と化した空間ごと断ち切るようにさえ思える程だった。刀身を鞘に納め、腰を落とした居合の構えから目にも留まらぬ速さで抜き放たれた二度の斬撃は周囲一帯の『ヴィジョン・ストーカー』を悉く真っ二つに両断させた。後にはスクランブル交差点を埋め尽くさんばかりのブラウン管の残骸が転がっていた。今は物言わぬ何も映らない漆黒のテレビ画面。まるでそれらの墓標のように積み上げられたテレビの山に向かって千影は刀の切っ先を突き付けた。

「取り巻きは全部片付けたぜ。後はアンタだけだ。あいにく、依頼内容はアンタもどうにかしてくれって話だ。前座も終わったようだしそろそろ姿を見せたらどうだい?」

 刀を向けながら趣旨返しとばかりにそう放つ千影。潮が引いたかのように静寂に沈んだ交差点の中心――墓標のように積み上がり、完全に沈黙していた筈のテレビ画面にノイズが奔った。それも一ヵ所だけで無く、画面という画面1つ1つのノイズが奔り、瞬く間にこの交差点に存在するブラウン管全ての画面が|スノーノイズ《砂嵐》で統一された。

「――漸く、出てくる気になったみたいだな」

 千影の視線の先。とある1つの|スノーノイズ《砂嵐》の画面の中に怪しい影が揺れた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『ヴィジョン・シャドウ』


POW 放送休止
【テレビから衝撃】を放ち、半径レベルm内の指定した全対象にのみ、最大で震度7相当の震動を与え続ける(生物、非生物問わず/震度は対象ごとに変更可能)。
SPD 放送禁止
X基の【影の波動が出るテレビ】を召喚し一斉発射する。命中率と機動力がX分の1になるが、対象1体にXの3倍ダメージを与える。
WIZ 放送
【テレビドラマの内容】を語ると、自身から半径レベルm内が、語りの内容を反映した【撮影スタジオ】に変わる。この中では自身が物語の主人公となり、攻撃は射程が届く限り全て必中となる。
イラスト Meme
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●濫觴

――視界にノイズが奔る。気が付けばスクランブル交差点は更なる変貌を遂げていた。真っ白な空には真っ黒な雲が漂い、ビル群はモノクロの廃墟と化し、そして何より目を惹くのは―視界にノイズが奔る。気が付けばスクランブル交差点は更なる変貌と遂げていた。真っ白な空には真っ黒な雲が漂い、ビル群はモノクロの廃墟と化し、そして何より目を惹くのはその空に点在する巨大なテレビ画面だった。何処にも群衆と警官隊の姿も無いという点を考えれば、√能力者達が怪異による亜空間に迷い込んだという事になるだろう。

「いやはや、お見事」

 気が付けば√能力者達の目の前にはブラウン管の山の上にあの首謀者である男――『ヴィジョン・シャドウ』が腰掛けていた。

「面白い物を見せて貰ったよ。お礼と言ってはなんだが、今回の最後に相応しい舞台を用意させて貰った。気に入って頂けたかな?」

 全ての元凶である男は追い詰められても尚、余裕を崩さない。――否、そもそも最早そのような常識など通用しない埒外の存在なのだろう。故に彼は狂っているのだ。対話など最初から成立していなかった。この惨劇の幕を上げた理由すら存在するのか不明瞭だった。ただ、確かな事はこの男が全ての元凶である事。全てを終わらせるにはこの男を打ち倒さなければならないという事だ。

「世界の片隅に生まれた、たった1つの狂気がやがて世界を飲み込むというのは実に面白いと思わないか? そんなドラマのフィーナーレを飾る役者には、やはりキミ達のような者こそ相応しい。さぁ、始めようじゃないか」

 ――狂気の濫觴。世界を飲み込む狂気が生まれたこの|世界《異界》。今こそ、この惨劇に終止符を打つ刻だ。
雪月・らぴか
おおお、また周りが変わってる!私はこういうの結構好きだよ!最終決戦にはいい感じだね!
ひええ、こういうことできるってことは、結構やばい相手だよね。余裕っぽい感じでてるし想定通りなのかな?いやいや、ただの強がりかも!それならビビらずにやるだけだね!

見た目じゃ敵が何してくるかわかんないから、間合いをとって[霊雪心気らぴかれいき]を撃ちながら様子見!できたら敵の攻撃も見たいけどやってくるかなー?
敵の√能力で風景がかわったら私も√能力発動!速くなった移動速度で一気に近づいて【雪風強打サイクロンストレート】打ち込んですぐ射程外に離れてれいき撃ちからまた接近、って感じで戦っていくよ!

 ●反撃の雪月花

 四方をテレビ画面が支配する、まるで写真のネガのような世界。更なる変貌を遂げたスクランブル交差点の光景を前に雪月・らぴか (えええっ!私が√能力者!?・h00312)は瞳を輝かせて落ち着きなく周囲をキョロキョロと見渡していた。

「おおお、また周りが変わってる!」

 らぴかにとってこの状況は却って気分を高揚させた。もとよりこのようなシチュエーションは自分好みであったし、何より最終決戦という場に相応しいように思えたからだ。そんな、まるでテーマパークに来たかのようにはしゃぐらぴかにブラウン管に腰掛けたままの男――『ヴィジョン・シャドウ』はお道化るように嗤う。

「お気に召して貰えたようで何より。なら、こんなのはどうかな?」

 『ヴィジョン・シャドウ』がパチンと指を鳴らせば、らぴかの視界にノイズが奔ると同時にスクランブル交差点に点在するテレビ画面にカラーバー等のテストパターンの映像を経て、燃え盛るビル群とそこから火の粉のように火達磨になり地上へと落下していく人々、そして焼けて焦げ付いたコンクリートの地面に炭化した人間の死体の山が積み上げられた映像が映し出され、そしてまたスノーノイズへと切り替わった。その映像が流れたのはごくわずかな時間であったが、それはらぴかに強烈な衝撃を与える事となった。

「ひええ、激ヤバ映像!」

 なにより、らぴかはこの世界そのものに干渉するその力を警戒した。こんなのヤバいに決まってる。それに計画を破綻させられ追い詰められているのにこの余裕……全て想定通りなのだろうか?――と、通常なら相手に呑まれてしまう所だが、らぴかは違った。ビビっていない……と言えば嘘になるがその明るさと好奇心を以て恐怖心を乗り越えてみせたのだ。

「ヤバそう……だけど、ただの強がりかも! だったらビビる必要なんてなーい! いつも通りやるだけだね!」

 そう言って、事件の元凶へとらぴかは挑んで行く。相手は行動の読めない怪異、らぴかはその動きを警戒しつつ距離を取ると、すかさず練り上げた霊雪心気らぴかれいきを放つ。ヒンヤリと刺すような冷気を帯びた霊気を『ヴィジョン・シャドウ』は避ける素振りを見せずに身体で受けると関心したようにブラウン管から立ち上がった。

「なるほど、これが人間の力か。ならば、こちらもそれ相応の力で相手をしよう。さぁ、これから語られしは狂気の宴――」

 『ヴィジョン・シャドウ』がそう口上を述べると再び目の前の光景が変化していく。それはまるで先ほどらぴかが見せられた光景を再現したようで――

「何をする気かしらないけど! なんか変な事をやられる前にぶっとばす!」

 刹那、らぴかがの『ヴィジョン・シャドウ』懐へと飛び込んで行く。その左拳に吹雪を纏わせ、流星の如く大地を掛けると地面を踏みしめ、腰を落としその勢いのままに渾身のストレート……雪風強打サイクロンストレートが『ヴィジョン・シャドウ』の腹部を撃ち抜いた。目論見なんて物理で打ち砕いてしまえばいい。そんな純然たる一撃だ。『ヴィジョン・シャドウ』も即座に反撃しようとするが、らぴかは飛び退くように距離を再び取ると霊気で牽制し、そして再び接近戦へと持ち込び再度一撃を加える事に成功した。一歩二度とよろめいて後退した『ヴィジョン・シャドウ』の身体にノイズが奔る。

「――やるじゃないか」
「――当然!」

 怪異との決戦。雪月・らぴかの最初の一撃を以てして、人類の反撃の狼煙が上げられた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ミンシュトア・ジューヌ
わたし達が役者ですって?ならば最後まで演じきってさしあげます。
(皮肉を込めた“演技”で)
「……素晴らしい舞台をありがとうございます。では、わたしは貴方を刺し貫く者となりましょう」

群衆や警察官を巻き込む心配がないのであれば、容赦はしません。
“全力戦闘”で挑みます。
大量のテレビは剣による“範囲攻撃”で減らします。
テレビからの振動は“霊的防護”“環境耐性”で抵抗してみます。

とどめの√能力は、「邪風の牙」を。
遠い間合いから3倍のスピードで、ヴィジョン・シャドウとの距離を一気に詰めて攻撃です。
「刺し貫け!|風龍牙流《フリューゲル》!!」

(蔑みか憐れみか、複雑な表情で……)
「……これで満足ですか?」
八木橋・藍依
■心情
新聞の特ダネを探していたら奇妙な情報を掴みました。
√汎神解剖機関で事件が起こっているようですね。
どうやら我がルート前線新聞社の社員もこの事件を調査しているようですし、手伝いましょうか。

■行動
颯爽とキャンピングカーを運転し、スクランブル交差点まで駆け付けます。
怪異も居ることですし、ここが事件現場で良さそうですね。
各種武器と技能を使って協力しましょう。手伝えることがあれば遠慮なく言ってくださいね。

■√能力
√能力は「ルート前線情報網!」を使用します。
味方全員を強化出来るタイミングを狙い、√能力を発動しましょう。
今回は支援を行うつもりで来たので、格好良く止めを刺すのは皆様にお任せしますよ。

●狂った世界の真実を――

 薄気味の悪い歪な世界。その交差点でミンシュトア・ジューヌ (知識の探索者ナリッジ・シーカー・h00399)と『ヴィジョン・シャドウ』は対峙する。表情の読めないその男は追い詰められてもなお、不気味に嗤う。そんな相手に対して、ミンシュトアは可憐に挨拶をしてみせた。

 「……素晴らしい舞台をありがとうございます。では、わたしは貴方を刺し貫く者となりましょう」

 彼女は穏やかに笑う。自分達が役者だと言うのなら、お望み通りに最後まで演じて差し上げよう。そんな皮肉を込めた最上の演技を以て、ミンシュトアは最後の舞台へと上がっていく。視線を巡らせれば、目に映るのは異様な世界の光景と同じくこの舞台へと招かれた√能力者達だけだ。――群衆を考慮する必要がないのであれば力を抑える必要は無い。ミンシュトアは『ヴィジョン・シャドウ』の合図と共に出現した大量のブラウン管テレビを前にその力を解き放った。その手に握られた詠唱錬成剣――足取り軽く可憐なステップから|円舞《ワルツ》の如く弧を描いた斬撃は容易くその周辺のテレビを両断する。

「やれやれ、見事なものだね」
「――お褒め頂き光栄です」
「ならば、こちらもそれ相応に盛り上げなければならないな」

 『ヴィジョン・シャドウ』の指揮の下、残ったテレビからミンシュトアに向けて一斉に衝撃波が放たれる。空間を捻じ曲げる振動が宙を一直線に揺らがせミンシュトアを取り囲むように迫る。それを彼女は飛び退くように数歩下がると迫る衝撃波の幾つかを剣で撃ち落とし、その残りを身体で受け止める。本来であれば、致命的になりかねない被弾であっただろうが、ミンシュトアが事前に備えていた霊的防護により、その衝撃波の殆どを相殺する事に成功した。

「こう好き放題召喚されてはキリがありませんね……ここは強硬突破してあの怪異本体を攻めるべきでしょうか」

 『ヴィジョン・シャドウ』を護るよう防壁のように並ぶテレビ群を前にミンシュトアは思考する。すると、どこからか車両のエンジン音が鳴り響いた。その音の正体を探ればそこにはスクランブル交差点へと真っすぐに突っ込んでくるキャンピングカーの姿があった。その車体に記されたのはルート前線新聞社のロゴ。そしてその車両を駈るのは新聞社の記者である八木橋・藍依 (常在戦場カメラマン・h00541)だった。

「奇妙な情報を頼りに探りを入れていましたが……どうやらビンゴのようですね!」

 √汎神解剖機関で起きる大事件。その情報を聞きつけた藍依は単身でこの異形の世界と化したスクランブル交差点へと乗り込んできた。交差点には『ヴィジョン・シャドウ』の眷属とも言えるテレビが点在しており、当然それらは突如乱入してきた車両に対して攻勢を仕掛けたが藍依はその攻撃を華麗なハンドル捌きで躱して見せると瓦礫をジャンプ台代わりに車両を宙へと跳ねさせ、そのままブラウン管テレビの1台をタイヤで粉砕させる。

「我がルート前線新聞社の社員もこの事件を調査しているとの事でしたのでお手伝いさせて頂こうかと思ってましたが――さてさて、ミンシュトアさん。ここからは私も参戦させて頂きますよ」
「藍依さん……!? どうしてここに……!?」

 突如、目の前に停車し颯爽と姿を現した藍依にミンシュトアは驚きを隠せなかったが、そんなミンシュトアに対して藍依はあっけらかんと笑う。

「どうしてって、そりゃ私は新聞記者ですからねぇ。事件ある所に私あり……ですよ!」
「……ふふ、確かにそうですね。頼りにさせて頂きます」

 そう言って、2人は立ち塞がるテレビ群。その向こう側の『ヴィジョン・シャドウ』へと視線を向けた。

「アレが今回の黒幕さんですか。なるほどなるほど……ミンシュトアさん。どうやら策があるみたいですね?」
「ええ、あのテレビ達をイチイチ相手にしていてはキリがありませんし。あの怪異を直接叩こうかと」
「分かりました。では微力ながら援護させて頂きましょう……!」

 藍依は自慢の|ルート前線情報網《ジャーナル・ネットワーク》を展開する。記者達が綿密に調べ上げた今回の事件に関わる情報がミンシュトアのみならず周囲の√能力者達にも共有され情報網が形成される。これらの情報網はミンシュトア達に反応速度などの能力向上を齎した。

「ルート前線新聞社の清く正しい情報網です! さぁ、やっちゃってください!」
「ありがとうございます……!後は私にお任せを……!」

 藍依の援護を受け、ミンシュトアはこの機を逃さぬように『ヴィジョン・シャドウ』に向けて駆け出した。

「天地ノ狭間治ムル颶風龍 我ガ身ニ宿リ其ノ威ヲ示セ」

 ミンシュトアが素早く詠唱すれば風の神霊「颶風龍」がその身体に纏われ、更にその速度を増していく。そんな彼女の前に立ち塞がるテレビ群の壁。それらが後方からの激しい銃撃音と共に弾け飛んだ。駆けるミンシュトアの後方――己の半身である|HK416《アサルトライフル》による藍依の援護射撃だ。その正確無比な射撃はミンシュトアを追い越し、導くようにしてブラウン管の画面へと叩き込まれた。半壊するテレビの壁――それをミンシュトアは飛び越え、『ヴィジョン・シャドウ』へと肉薄した。

「刺し貫け!|風龍牙流《フリューゲル》!!」

 『ヴィジョン・シャドウ』へ向けて放たれる|風龍牙流《フリューゲル》。彼はそれを防ごうと腕を構えるがミンシュトアのその一撃はその防御ごと『ヴィジョン・シャドウ』の身体を貫いてみせた。その男は|風龍牙流《フリューゲル》に貫かれたまま、ビクンと一度身体を跳ねさせたかと思えばその身体全体に激しいノイズが奔り。そして男はその状態でさも愉快そうに――そして壊れたように嗤いだした。

「や――お見事お見事お見事お見事お見事【修正済み】やはり最高のエンターテインメントは【修正済み】無くしてはありえない!これぞこれぞこれぞこれぞこれぞこれぞこここここここれれれれれれれれれれれ【修正済み】!!!!――いや、失礼」

 狂ったように嗤い、壊れたように解読不能の言語を繰り返したかと思えば、また不遜な態度を取るその男にミンシュトアは蔑みか憐みか、もしくはその両方なのか本人ですら恐らく形容し難いであろう複雑な表情を彼――『ヴィジョン・シャドウ』へと送った。

 「……これで満足ですか?」

 男はその言葉に応えず、ただ世界を支配するテレビ画面にはスノーノイズが真実を覆い隠すように流れていた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

無害・チャン
(アドリブ・連携ご自由にお願いいたします)
無害ちゃんは、錆びたコインを器用に弾きながら、にんまりと笑う。
「ねぇねぇ、ヴィジョン・シャドウちゃん。ここまで来たなら『一緒に楽しみましょ?』」
そう言ってふわりと投げたコインは瞬く間に増殖し、空間に降り注ぐ。【一か八かの有頂天(スリリング・エクスタシィ)】が発動し、狂いそうなほどのコインの落下音が敵の意識を揺らがせる。
ヴィジョン・シャドウの影がぶれ、召喚したテレビはランダムにノイズを撒き散らし、攻撃は意味もなく四方に暴発していく。
「さぁさぁ!ここからだよ!わけわかんなくなってからが楽しいんだから!」

●CRAZY PARTY

 大量のブラウン管テレビに見守られながら無害・チャン (人間災厄「ハッピー・ラッキー・ルーレット」の警視庁異能捜査官カミガリ・h05396)はにんまりと笑う。キィンと甲高い金属音をこの歪な世界に反響させ、鈍い光を帯びた錆びたコインはクルクルと弧を描いて無害ちゃんの手のひらの中へと納まった。

「ねぇねぇ、ヴィジョン・シャドウちゃん。ここまで来たなら『一緒に楽しみましょ?』」
「あゝあゝ、然り然り然り――愉しい愉しい最後の舞台にしようじゃあないか」

 『ヴィジョン・シャドウ』が嗤えば無害ちゃんも笑う。そんな短い授受を交し行動に出たのは殆ど同時だった。2人はまるで喜劇の幕上げを宣言する進行役のように仰々しいパフォーマンスを披露しながら狂気の舞台へと躍り出た。

「さあ、世界の命運を賭けた大博打を始めましょ?」

 そう言った無害ちゃんの手のひらから錆びたコインが離れ、ふわりと宙に舞う。それと同時に『ヴィジョン・シャドウ』がパチンと指を打ち鳴らせば世界にノイズが奔り、無害ちゃんを中心に取り囲むようにブラウン管テレビの群れがスクランブル交差点を埋め尽くす。そのテレビの画面が揺らぐその瞬間、薄暗い交差点をより一層昏い影が覆った。その頭上にはネガ色の宙を埋め尽くすばかりのコインの鈍色に光を放っていた。

「|一か八かの有頂天《スリリング・エクスタシィ》。最高にハイでクレイジーな時間を感じてよ――」

 エキセントリック・ディーラーを翻し、無害ちゃんはニヤリと笑みを浮かべたままに空を仰ぐ。――あゝ空が堕ちてくる。

 気が狂う程の悍まし量のコインが降り注ぐ。その1枚1枚がコンクリートの地面を打ち鳴らし、金属音を響かせる。断続的にコンクリートを打ち鳴らす耳を劈くような金属音の波は溢れかえったブラウン管のみならず、『ヴィジョン・シャドウ』ごとスクランブル交差点を飲み込んで行く。――その全ては無害ちゃんが齎した幻覚だ。だが、幻覚は時に現実を浸食する。この狂った世界に於いて、その狂ったような自称はもはや現実だったのだ。その狂音の中で『ヴィジョン・シャドウ』の姿がまるでテレビ画面に奔るノイズのようにブレる。そして、彼が召喚した数多のテレビもまた同じようにノイズに浸食され始めた。1台のテレビ画面が揺らぎ、撒き散らす。その余波を受け他のテレビが砕け散れば更に複数のテレビにノイズが奔り、また幾つものテレビが爆散して沈んで行く。それは交差点全体で普及し、次々と爆散していくテレビの様はまさに会場を彩る花火のようにさえ思える程だった。

「――狂気狂気狂気。あゝ今この世界はまさに狂気に満ちている。素晴らしい演劇だ素晴らしい演劇だ素晴らしい【自主規制】だ」

 原型が残らぬ程にその身体が激しくブレる『ヴィジョン・シャドウ』。よろけるように数歩進み、壊れたラジオのように繰り返していた言葉が漸く止まり、身体のブレが漸く治まると彼はゆっくりとした動作で堂々とした出で立ちで交差点に立つ無害ちゃんに向き直った。

「さぁさぁ!ここからだよ!わけわかんなくなってからが楽しいんだから!だから――」

 そんな男に無害ちゃんはふと優しく穏やかな笑みを浮かべてみせる。

「まだ狂っちゃわないでよ。まだまだ壊れちゃわないでよ。無害ちゃんはもっと楽しく愉快に遊びたいんだから。――ね?」

 狂気の世界の中――確かに無害ちゃんはその狂気を支配していた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

七州・新
唯々理解できない狂気って、得られるものがないね?
それで僕たちで対処できる程度の脅威なら、もういいから倒そう、にしかならないよ。
…まあ、しょうがないか。
そもそも僕たちは君という資源に興味があったんだから。
「それ」が意味なく音を鳴らしているだけだと割り切ろう。

使う√能力はウィザード・フレイム。
敵と対峙して動かず、予め炎を出しておいて、基本的に敵の攻撃を反射して返そう。
敵が「放送」の能力を使うなら、敵の攻撃は必中になるはず。
必中だから反射が生きるのか、反射を覆して必中になるのか、どうなるんだろうね?
ダメそうなら、攻撃に切り替えるよ。
ドラマの内容?ごめん。僕ドラマ見ないから。そんなもの現実で十分だよ。

●|物語《ドラマ》のその先へ

 世界にノイズが奔る。『ヴィジョン・シャドウ』はもはや取り繕う事無く嗤う。

「|愈以《いよいよもっ》て終焉は近い。さぁ、踴ろうじゃないか踴ろうじゃないか。最後の刻を演じようじゃないか」

 まるで演劇の語り部のように振舞う男に七州・新(無知恐怖症・h02711)は静かに溜息を吐いた。話にならない。最初こそある程度は意思疎通が図れる怪異であり何かを知る切っ掛けになるのではないかと思わない事も無かったが、いざ蓋を開けてみればソレはただただ狂っているだけだった。

「唯々理解できない狂気って、得られるものが無いね?――まあ、しょうがないか」

 ――失望。自分は知らなければならないのだ。それが叶わぬのなら。ソレに到底意味など見出だせない。

「――十分僕たちで対処は出来そうだ。これ以上わざわざ付き合う義理も無いし、さっさと倒してしまおう」

 せめて僕らにとって有益な資源になるように。ただ、煩いだけで意味の無い音だけを鳴らす|ソレ《怪異》へと新は対峙する。

「理解とはなんだ?【自主規制】とはなんだ?万物とは往々にして理解とは縁無きものではないだろうか。ならばこそ私たちは狂気に身を投じて世界を識るのだ。さぁ、理解無き物語を始めよう」

 『ヴィジョン・シャドウ』が語れば、世界は再び異形に塗り替えられていく。それは装飾の施され立ち並ぶ円柱を煌びやかなシャンデリアが照らす、まるで厳かな大劇場を思わせる舞台――を模したスタジオ。そのスポットライトの交差する中心に『ヴィジョン・シャドウ』は指揮者の様に降臨する。その光景を見ても新は特にこれといった感慨は抱かなかった。そう、自分のやるべき事はただあの怪異を倒す事のみ。『ヴィジョン・シャドウ』の振る舞いになどもはや眼中に無いように淡々と詠唱を済ませ数多のウィザード・フレイムを従えた。

「私たちが紡いできたこの|物語《ドラマ》――狂気と恐怖と多重層。原初の混沌に相応しい結末を迎えさせようじゃないか」
「どうぞ、ご勝手に。でも――このくだらない茶番劇を終わらせるっていうのには同感だよ」

 言葉を交わし、静寂。そして、先にその静寂を破ったのは 『ヴィジョン・シャドウ』だった。この世界の主である男の攻撃、彼の放った衝撃波は須らく新を目掛けて宙を歪ませる。その因果律はあらゆる事象に干渉し、攻撃が外れる事は万が一にもありえない事だ。そして予定調和の如く 『ヴィジョン・シャドウ』の攻撃は全て新に直撃した。――その攻撃が全て 『ヴィジョン・シャドウ』に向けて反射されたという結果を除いて。新の周囲に漂っていたウィザードフレイムが衝撃波が着弾するタイミングに合わせて炸裂し、直進してきた軌道を巻き戻すかのように衝撃波はその速度を加速させ 『ヴィジョン・シャドウ』の身体を穿った。男の身体のノイズが奔り。世界の存在が揺らいだ。

「――なるほど、確かに必中ではあったね。反射と必中だとこうなる訳だ」
「【修正】【修正】【修正】――あゝ困るな。勝手に物語を変えて貰っちゃあ……」
「ドラマの内容?ごめん。僕ドラマ見ないから。――そんなもの現実で十分だよ」

 ふらつき、態勢を崩す『ヴィジョン・シャドウ』。その男を新の竜漿兵器――オプティマイザの矛が貫いた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

叢雲・颯
※ アドリブ・連携歓迎

「『画面』を媒介としつつ 『視聴者』であろうとするか… 矛盾しているな」
先ほどのヴィジョンとは違う…。明確な自我と意思を持った存在か。
こういった怪異は厄介だ。人と同じ倫理観・道徳観・死生観… そういった当たり前が全く通用しない。当たり前の感性が欠如しているからこそ今回のテロを何の躊躇いもなくできたのか…。主犯者の目的に考えを巡らせるだけ無駄だったか。損得等関係ない 【ただやりたいが為に行う】。狂気の沙汰だ。
「【画面】とは言うなれば『メッセージを映し出す鏡』」
「時として 喜ばしいニュースを…」(腰から装填装置を抜き)
「時として 凄惨な事故を…」(ガンスピンさせ)
「時として 真実を… 虚偽を… 人に見せる」(「杜鵑」と「斑鳩」を義手に装填)
「そのメッセージを受け 人は喜び 悲しみ 笑顔を見せる」

「だが… お前はなんだ?」
「お前は視聴者を操作している…。各々の感受性に任せず… 自分の快感の為に操作しているんだ」
「B級以下の舞台監督だな」
※ 特撮ヒーローにも言える事なので静かに怒っている

レッドマスターの仮面から真紅の双眸を光らせ、素早く踏み込み!。
同時に「杜鵑」に点火!。【案山子の潜入】を発動し隠密状態に。
「お前のそのモニター越し… モザイク越しの【眼】に私は見えるか?」
「視聴者でありたいのなら… お前にお似合いの『弾丸』をくれてやる」
奇襲を仕掛ける形で至近距離で「斑鳩」を発火!。※【案山子の断罪】
マシンガンの如く五寸釘を放ち 続けて被害者達の怨念を込めた有刺鉄線で捕縛する。
「お前には【ただの娯楽だろう】」
「だが…演じさせられた彼らはそう思うかな?」
罪の重さで無限に増殖する有刺鉄線。そして とどめに崩壊物質を叩き込む拳打を打ち込む!。
「【砂嵐の中で朽ち果てろ】」
久瀬・千影
気に入って頂けたかな、だって?此処が?
人間に化けるのが好きな癖に人間の趣味や好みの勉強はしなかったのか?感動の最終回だってのに、こんな情緒もへったくれもねぇ場所じゃあ、盛り上がらねぇだろ。もう少し、視聴者に寄り添った演出にした方が良い。

警官も群衆もねぇ。異界に迷い込んだ、というよりは文字通り、招待されたんだろう。
俺が啖呵切ったせいか?ハッ、上等だぜ。意地でも元の世界に帰還してやらぁ!
テレビドラマの内容に合わせた撮影スタジオ。
【見切り】で躱そうとして。必中で肩口を貫かれても、|欠落した痛覚《【激痛耐性】》が痛みを感じさせない。致命傷じゃなけりゃ、俺は動けるワケだ。
『龍眼壱』にて世界の在り様を映す。この撮影スタジオが厄介なのが見えるハズだ。『五月雨』にて撮影スタジオを破壊する。斬れるなら――ああ、いや、『何でも斬れる』、これが俺の異能なんでね。シャドウを異界ごと【切断】する。

空は帰って来るか?風は?いつものような喧騒。車の音…ありふれた日常。
帰って来たのか。……良かった。安堵するよ、全く。

●|狂気の終焉《エンディングロール》――

 ネガ色の空、灰色のコンクリート、視界を埋め尽くすばかりのテレビ画面。その全てがチグハグで無機質な異界の光景に久瀬・千影 (退魔士・h04810)は挑発的に吐き捨てる。

「気に入って頂けたかな、だって? 此処が? そんなワケねぇだろクソ野郎が」

 好んで人間の姿を模している癖にその趣向や好み――端から人間に寄り添う気など無いと言わんばかりのその姿勢が千影には酷く気に入らなかった。ましてや折角の決戦だと言うのに情緒の欠片も無いこの舞台には謂わばセンスを感じろという方が無理な話だ。

「脚本家だが演出家を気取りてぇんだったらよ。少しは視聴者に寄り添った方がいいんじゃねぇか? こんなクソみてーな場所で盛り上がるワケねーだろ」
「――ああ、同感だな」

 生命という生命が全て排除されたかのような無機質で薄気味の悪い交差点。その中心に鎮座する『ヴィジョン・シャドウ』と正面から対峙する千影の傍にもう一つの影が現れる。その正体は千影と同じく、この異界へと入り込んだ√能力者の1人である叢雲・颯 (チープ・ヒーロー『スケアクロウ』・h01207)だった。

「その制服――サツか?」
「ああ、そんな所だ」
「なら怪異の相手はお手の物ってところか。なら、丁度良い。あのクソ野郎をぶちのめしてやろうぜ」
「奇遇だな。私も同じ事を考えていたところだ」

 そう短く言葉を交わす千影と颯。お互い詳しく説明をせずともその気配からそれぞれが対怪異に精通している実力者である事を察し、即席の協力体制を築き上げる。颯の視線は静かに『ヴィジョン・シャドウ』へと向けられる。冷たき炎を微かに揺らす、鋭く刺すような視線だ。千影と同じく、この『ヴィジョン・シャドウ』に思う所のある颯は冷静にその怪異を、そしてこの状況を分析する。

「『画面』を媒介としつつ 『視聴者』であろうとするか…… 矛盾しているな」

 先ほど戦ったブラウン管テレビを溶媒にした怪異とは明確に違うのはまるで人間のような自我と意思を持った上で行動している点。尤も、それでも奴は致命的なまでに存在そのものが歪んでいる。それに加え、倫理観・道徳観・死生観――人間としての枠組みの中では到底計り知れないのも非常に厄介な所だ。

「当たり前の感性が欠落してるからこそ今回のようなテロを躊躇いも無く引き起こせたのだろうがな……」

 何故このような事件を引き起こしたのか――主犯者の目的に考えを巡らせてみたが、奴は【ただやりたいが為】にこの蛮行に及んだだけなのだ。そこには最初から意味すら存在しなかった。唯々、悪意と狂気が無から染み出しただけ。――かつて自分の右腕と両脚を……そして家族を奪ったあの事件はどうだっただろう。ふと、そんな事が脳裏に過り、唇を嚙み締めれば仄かに血の味がした。意に反して感情が昂ろうとするのを颯は必死に抑え込もうとする。そんな彼女の衝動を鎮めたのは千影の何気ない言葉だった。

「ああ、そりゃ狂ってなきゃこんな事をしようなんて気にはならねぇだろうよ。で、そういう奴には何言っても無駄っつー訳だ」
「……そうだな。この異界から抜け出す為にもさっさと片付けてしまおうか」
「同感だ。異界に迷い込んだというよりは文字通りあの怪異が俺らを招待したって感じだろうが、どのみち願い下げだな。――ハッ、俺が啖呵を切ったのが癪に障ったのか知らねーが気取ったわりには短気な野郎だ。上等だぜ、意地でも元の世界に帰還してやらぁ!」

 そう『ヴィジョン・シャドウ』に宣戦布告し、刀を構える千影に同調し颯もまた対決姿勢を見せ一歩二歩とコンクリートの大地を踏み鳴らした。

「【画面】とは言うなれば『メッセージを映し出す鏡』――時として 喜ばしいニュースを……」

 コンクリートに靴底を響かせ、静かに腰に手を伸ばした颯はすっかり手慣れた動きで流れるように|装填装置《リボルバー》を引き抜いた。

「時として 凄惨な事故を……」

 引き抜かれたその勢いのまま颯の手のひらの側面を滑る|装填装置《リボルバー》はネガ色の空から注がれる赤黒い鈍色の明かりを受け、鈍色の弧を描いた。
 
 「時として 真実を…… 虚偽を…… 人に見せる」

 己が夢見た特撮ヒーロー。そのあるべき姿をも愚弄する蛮行――その怪異を否定する静かな怒りの炎を滾らせる言葉が終わる前に「杜鵑」と「斑鳩」が装填され義手に|装填装置《リボルバー》が収まった。

「だが…… お前はなんだ? お前は視聴者を操作している……。各々の感受性に任せず…… 自分の快感の為に操作しているんだ。――B級以下の舞台監督だな」
「だとよ。言われてるぜ? 三流監督さんよ」
「――あゝ何と思われても構わないよ。いずれにせよ結末は変わらない。|アドリブ《トラブル》も含めて全ては|物語《ドラマ》の一部なのだから」

 ノイズが奔る『ヴィジョン・シャドウ』の身体が揺らぐ。それと同時にまるで2人の言葉を遮るかのようにして世界も揺らぎその形を変えていく。まるでこの戦いはドラマのワンシーンを彩る演出に過ぎないだと言いたげな撮影スタジオを模した世界へと変わっていった。それを合図に千影と颯は示し合わせるでも無く殆ど同時に動き出す。颯の|レッドマスター《ヒーロー》の仮面から真紅の双眸が紅い弧を描き、闇の中へと消えていく。

「さあクソ野郎。てめぇの相手はこの俺がしてやるよ」

『ヴィジョン・シャドウ』に突進する様に進む千影を阻むように資材によるバリケードが生成される。そのバリケードを容易く両断して突き進む千影を横目に颯は世界に溶け込む様にその気配を消していた。なるほど、そういうつもりなら手を貸してやる。颯の行おうとしている事を察した千影は『ヴィジョン・シャドウ』の気を惹こうと言わんばかりに更にそのスタジオの奥へと切り込んで行く。そんな千影に対し、『ヴィジョン・シャドウ』は振動波を放つ。男が指揮者の様に仰々しく手を振るえば、それに従い振動波が一直線に宙を歪ませながら突き進む。然し、その動きは単調で千影からしてみれば避ける事など造作も無い事だった。現に千影は振動波を引き付け完全にその動きを見切り躱す――確かに躱した筈の振動波が千影の肩を貫き鮮血の華を咲かせた。

「全ては予定調和だ。狂気の槍は須らく万物を貫く。――この世界はそうなっている」
「だからどうした?」

 肩口を穿たれ大量の鮮血が血を濡らす。その痛みは想像を絶し常人であれば動く事すらままならない。にも関わらず千影は止まらなかった。千影は痛覚が欠落している――負傷程度など止まる理由になど成り得なかったのだ。

「俺を止めたかったら殺してみろよ。殺せるもんだったらな」

 傷を負い、流血してなお向かって来る千影に『ヴィジョン・シャドウ』は明白に動揺を見せていた。こうなれば圧倒的火力で制圧する他無い。一度距離を取り態勢を整えようとする『ヴィジョン・シャドウ』はここで漸く刺す様な視線の気配に気が付いた。そしてその気配のする方へと身体を向けるがそこには誰の姿も無かった。

「お前のそのモニター越し…… モザイク越しの【眼】に私は見えるか?」

 颯の声が聴こえる。だが、『ヴィジョン・シャドウ』はその姿を視認出来ずにいた。正面から千影が距離を詰めてきている今、早急にその位置を特定して対処しなければならない。その表情こそモザイク越しで分からないが間違いなくその男は必死に颯の姿を探していただろう。

「視聴者でありたいのなら… お前にお似合いの『弾丸』をくれてやる」

 傍観者を気取る驕り高ぶる男の鉄槌を下す為、闇の中から颯が姿を現した。隠密状態で『ヴィジョン・シャドウ』の極至近距離まで肉薄した颯は千影の突撃に合わせるようにして奇襲を敢行したのだ。その作戦は見事功を成し、『ヴィジョン・シャドウ』はそれら一連の襲撃に全く無防備な状態を晒していた。それでも『ヴィジョン・シャドウ』は殆ど反射的に迎撃の構えを見せる。然し――

「動くな!」

 その颯の一喝とマスクから覗く真紅の双眸が『ヴィジョン・シャドウ』の動きを止め、その企みを阻んだ。そして突き付けられた装填装置の銃口――それに装填された「斑鳩」に火が焚べられた。刹那――放たれたのは無数の五寸釘。退魔の力が込められた五寸釘が次々と『ヴィジョン・シャドウ』の身体を穿っていく。釘が刺さる度にその身体は揺らいでノイズが奔り、一歩、また一歩と後退する。そして背後の大型モニターの画面まで追いつめられた所で五寸釘の連射が途絶えるや否や、『ヴィジョン・シャドウ』は釘を無理やりに振り払い反転攻勢を仕掛けようと試みる。

「あゝ【禁止事項】かな。|愈々以《いよいよもっ》て|物語《ドラマ》は|終焉《エンディング》へと至る。【狂気】【狂気】【狂気】この狂気こそ今日というこの日に相応しい。さあ、最後まて楽しもうじゃあないか!楽しもうじゃあないか!楽しもうじゃあないか!」

 「この|物語《ドラマ》はお前には【ただの娯楽だろう】――だが……演じさせられた彼らはそう思うかな? 監督を気取るのなら演者の声に耳を傾けてみろ」

 狂い嗤う『ヴィジョン・シャドウ』にある種の哀憫にも似た眼差しを送り、颯はそう吐き捨てる。悪足掻きのように伸ばされた『ヴィジョン・シャドウ』の腕を颯は咄嗟に身を引いて躱すと突き出されたその腕の勢いを利用し合気道の要領でいなし、その背中に有刺鉄線を叩き込んだ。罪の重さに比例し増殖するそれは『ヴィジョン・シャドウ』の身体に絡みつくと、まるで今までその男が齎した惨劇――その被害者の怨念、彼らの怨嗟が形を成した男を地獄へ引き摺り込む手の如く増殖し、更にその身体を強烈に締め上げていく。

「お前に相応しい最後をくれてやる――【砂嵐の中で朽ち果てろ】

 コンクリートを踏み砕く程の踏み込み、腰を低く落とし重心を完璧に捉えた姿勢から放たれるその一撃。伝染性粒子崩壊を齎すオーラを纏ったその拳打が『ヴィジョン・シャドウ』の身体を捉え、何度も何度も強烈な殴打が叩き込まれ、その度にその身体はノイズを散らし崩れ、そして最後には背後の巨大なモニターの画面ごと叩き割り『ヴィジョン・シャドウ』は何も存在しえない|砂嵐《スノーノイズ》吹き荒れる空虚な宙へと放り出された。激しく揺らぎ、ノイズを奔らせる。だが、まだ颯たちがこの異界から解放される事は無かった。

 「――まだ、仕上げが残ってるぜ」

 虚空へと放り出された『ヴィジョン・シャドウ』――それに追撃を加える様に千影が飛び込んでく。煌めく白銀の刀身を片手にその右目は激しく燃え盛っている。

「ああ、よく見えるぜ。このクソみたいな世界の正体がな」

 龍眼 壱――千影の眼が捉えたのはこの世界そのもの。理を捻じ曲げ、事象へ介入する歪な存在。――あの男自体がその世界そのものだったのだ。

「だったらこの世界ごとぶった斬ってやればいい。斬れるなら――ああ、いや、『何でも斬れる』、これが俺の異能なんでね」

 虚空へ飛び込み一閃。白銀の半月が五月雨の如く宙を奔る。その斬撃は『ヴィジョン・シャドウ』を――そしてこの世界そのものを両断した。

―――――視界にノイズが奔る。視界を覆う砂嵐。鳴り止まない耳鳴り―――――

 やがて、それらが収まれば千影と颯、√能力者達の網膜を暖かな陽の光が優しく焼いた。その眩しさが晴れ、次第に視界が開けていく。青々とした空には白雲が連なって漂い。周囲は警察車両のサイレン音を含む、群衆の喧噪に包まれている。その光景は元のスクランブル交差点の光景だった。爽やかに吹き渡った風が彼らの頬を撫でる。

「――帰って来たのか?」

 眩しそうに目を細め、スクランブル交差点の風景を眺める千影。その隣ではマスクを外し素顔を晒した颯が先ほどまでの雰囲気とは違い、ややぼんやりとした様に千影と同じく交差点の風景を眺めている。

「ああ、終わったようだな。ありふれた日常――と言うにはまだ少し早いがすぐに元通りの日常に戻るだろう。私たちは守り抜いたんだ」

 怪異の齎したネガ色の世界。その世界とは対照的な色鮮やかで爽やかな光景。またあの日のヒーローに近づけた――何となく颯はそう思えた。

 そんな傍ら、千影は近くにあった警官隊が持ち込んだ備品に腰掛け息を吐いた。

「なんとかなったか……良かった。安堵するよ、全く」
「人々を救った感想はどうだ? 感動もひとしおだろう?」

 そんな颯の問いかけに千影は皮肉げに笑う。

「ハッ、柄でもない。――ただ、そうだな。思ったより悪くはねぇ」

 √能力者たちにより『ヴィジョン・シャドウ』は斃され、その狂気の目論見は頓挫した。その怪異の引き起こしたスクランブル交差点の騒動は暫く世間を騒がせたが、やがてそれも風化しいつもの日常へと戻って行くだろう。だが、√能力者たちが怪異に立ち向かい多くの人々の運命を救った事は紛れもない事実だ。そうしてまた、√能力者たちもそれぞれの日常に帰っていくのだろう。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

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