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自堕落

#√妖怪百鬼夜行 #ノベル #グロテスク

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 妖怪が跋扈しているこの世界において、私のような人間は肩身の狭い思いをするしかなかった。肩身の狭い思いをする原因は『私』の、しょうもない性質の所為なのではあるが、ああ、だからと謂って、私が私自身の性質を……性格を……変えることなど出来はしない。他の人間達が生き急いでいる中で、私は、そう、無様にも暢気の化身としてぐうたらを貪っているのだ。きっと、妖怪から見ても、人間から見ても、私のような存在は目の上の瘤でしかなく、私自身も、それを悔いていたりはしないのだ。ああ、そうだ。こうなったら、いっそ、昔ながらの妖怪にひとつ、情念を叶えてもらったりするのも悪くはないか。いいや、私はそもそも、情念らしい情念を、この、黴の生えた頭脳に湛えてすらいないではないか。ごろごろと、ころころと、芋虫のように、日々を手繰っているだけではないか。しかし、そうだ。私はこの『ぐうたら』こそを情念としているのかもしれない。だったら、何処かに、私の情念を肯定してくれる妖怪が存在していてもおかしくなどない。ハハァ。そうやって思い立ったのならば吉日。戸口の外へと、お天道様の面でも拝んでやろうじゃあないか……。いやいや、それは昼寝をしてからでも十分……じゅうぶん……。
 ちゅんちゅんと、かぁかぁと、やかましい鳥の鳴き声によって、私は怠惰から目覚めてしまった。ああ、しまった。何かをしようと思っていたのだが、考えていたのだが、まさか、丸一日以上眠ってしまっていたとはビックリである。ねぼけた脳髄と眼をなんとかマトモに戻して、ぐりぐりと、ヤニの汚れを落としておく。……それで? 私は何をしようと、ハキハキしていたのだろうか。そうだ。確か……昔懐かしい妖怪とやらに、情念とやらを捧げてやろうと、そういう話であった。ならば善は急げだ。急がば回れこそが私に相応な諺でも、こんなに、ぐるんぐるんと回っていたら――目が回ってしまう! ともかく、身支度を整える為に着替えだけはしておこうか。……困った……私には、妖怪に遭う為の衣すらも無いのではないか。此処にあるのはジャージやパジャマといった、所謂、令和的な代物しかない。もっと対照的な……大正的な……ものは残っていないものか。ない! 無い! 仕方がない。こうなったら、ジャージ姿とやらで行くとしようか。なぁに相手は妖怪だ。それも、封印されるほどに素敵な妖怪だ。私のズボラさだって、寛大な心で受け入れてくれるに違いない。もぞもぞ、もそもそ、玄関。私は外の明るさとやらに、今度こそ目を回す破目になった。
 ああ……歩くのもやっとだ。こんなにも、眩暈がするなんて、全部全部、陽光の所為だ。よろよろと、くらくらと、私は――妖怪が封じられているであろう場所に辿り着く事すらも赦されなかった。テキトウな公園のベンチで、ぐったりと、身体を投げ出してみる。ああ、ここまで頑張った方ではないか。私みたいな、嘘みたいに脆弱な人間が、ここまで頑張れたのは奇跡なのではないか。身体が、咽喉が、水分を欲していたのだが指先ひとつ動かせそうにない。今にも意識を失くしそうで……手放しそうで……忌々しい太陽へと……反吐を……。ちょっと、そこのひと、大丈夫かい? 声が聞こえる。誰の声だろうか。そもそも私には知人らしい知人など一人としていない。……いくら人間が生き急ぐからって、こんなところで、目を回しているなんて想定外だよ。暈なっている世界の片隅で私は何を視たのか。これは……メルヒェンな……筆舌に尽くし難い……やけにカッコウ良い……ひと……。
 で……怠惰サンはどうして、ボクの前で倒れていたのかな。意識を取り戻した私は『彼』の家に招待された。なんとも、色気のない……色気はあるけれど……家なのだろうかと、私は思った。彼の家は誰が視ても、飛蝗が視ても、簡素だと笑うほどには『無』であった。俺の家には必要最低限のものしか置かれていなかったのだ。それこそ、まるで、効率を重視した蟲の棲家みたいに……。えっと、私は……恥ずかしながら……引きこもりでして……。ふわりと、香ってきたのはヤニ。なんとも、しみつく煙管の戯言か。ああ、しかし、如何して彼は――私が怠惰なのだと、知っているのか。ボクはね、怠惰サン、怠惰サンのような人間が……女性が……嫌いではないんだよ。なんだか引っ掛かる物言いだ。怠惰サン……人間……女性……。もう、忘れてしまったのかい? 怠惰サン……ボクと約束したはずだよ。つんつんと、彼が、やけに細っこい指で、私の頭部をつついた。思い出した……思い出してしまった。私は最初せっかちな人間で……それを、やめたいと思っていたのだ……!
 思い出したのでしょお? 思い出してしまったのでしょお? 彼は……男は……妖怪……絡新婦……私の顔を覗き込んで、せせら笑い。ボクは怠惰サンの……あなたの……忙しなさを騙ってあげたのですよぉ。それで、代わりに怠惰というものを語ってあげたのですぅ……。本日何度目のクラクラだろうか、眩んで、私は、目覚める前から眩んでいた! 何もかもコイツの所為だ。何もかも妖怪の掌の上だ。何もかも、何もかも、絡新婦の巣の中だ! なんで……どうして、そんなことを。私は……私は……怠惰になりたいと、口にした記憶なんて……? 記憶ぅ……? 怠惰サン、嘘なんて吐いていませんよぉ。だって、怠惰サンが……せっかちサンが……それも『食べて』と謂っていたのですからぁ……。私は愚か者だ。私は莫迦だ。妖怪……ひとでなし……でも、まあ、いいや、なんだか、ものすごく、身体がだるい……。
 あぁ……可哀想に。
 責任を持って、養ってあげましょお。
 わたし、あたたかいばしょにいる。なにもみえない、なにもきこえない、くらいばしょにいる。でも、わたしはきにしていない。なぜなら、ここにいたら、なにもしなくていい……。
 ボクったら、こんなところに、おやつを放置していたな。
 ずぼ……がぶ……じゅるるるる……じゅるるるるるる……。

 さっきの御伽噺かい?
 夢オチだよ。だって、ほら、昔のボクならいざ知らず。
 今のボクが人間を食べるわけないよね。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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