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桜花、果てに散り

#√ドラゴンファンタジー #ノベル #ドラゴンプロトコル

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●芝蘭の友
 その竜は一面の桜の下で孵った。
 花弁は雪のように降り積もり、卵殻へ降り注いだ淡紅は生まれた命を祝福する祈りにも見えた。竜の身体は白く、翼には薄桃色の紋様が流れ、ひとたび羽ばたけば無数の桜が風となって舞う。それ故に、人は――否、竜たちは彼を桜竜と呼んだが、その名は決して賞賛ではなかった。
「花を散らすだけとは、なんとも雅なことだ」
「戦場で花見でもするつもりか」
 桜を咲かせるだけの力など弱さの象徴でしかない。桜竜はその何れもに反論をしなかった。散った花はまた咲くことを知っていたが故に、ただ静かに風へ花を還して流れる時のままに生きていた。

 そんな彼を、ただ一体だけ笑わぬ竜がいた。
 黒き鱗は夜を映し、吐く炎は月明かりさえ蒼く染めていく。誰もが恐れ、誰もが道を譲るほどの絶対的な強者。名を、黒竜と言った。

 ある日、桜竜は黒竜へ問いかけた。
「黒竜」
 呼べばその声を厭うでもなく、『なんだ』と低い声が応じる。
「何故あなたは、私を馬鹿にしないんだ?」
 青い炎がふっと揺れる。黒竜は鼻を鳴らし、当然のことを語るように歯の隙間から僅かに声を漏らす。
「くだらん」
 その一言は他者を切り捨てる響きではなく、世の価値観そのものを退けるようだった。
「誇り高きドラゴンであるか否か。それだけだ、桜竜」
 風が吹く。桜の花吹雪が黒い鱗へと降り積もる。普通の竜ならそれを煩わしいと払い落としただろう。しかし黒竜は動かぬまま、うつくしいさくらのいろをまっすぐに見詰め返した。
「力の形など知るものか。炎を吐こうが、雷を呼ぼうが、己を見失えば獣だ」
 黒竜の瞳に映る花弁のいろが、ああ、まるでひかりの雨のようではないか。
「お前は、自分の力を恥じていない。笑われても怒らず、媚びもせず。ただ己として立っている」
 桜竜が目を瞬かせる姿に、黒竜は静かに笑う。それは誰にも見せたことのない、ほんの僅かな笑みだった。
「それが誇りだ、桜竜」
 知らず胸の奥が温かくなっていくのを感じていた。初めて自分という存在を、力ではなく心で見てくれた竜がいたことに。その一方で黒竜の裡にもまた不可解な、けれど決して不快ではない感情が湧き上がっていた。
 誰もが己を恐れた。絶対的な力は畏れるべきものであるが故に。あるいは、取り入ろうと媚びる者もいた――だが、桜竜だけは違った。力には目を向けず、一頭の竜として言葉を交わしてくれる。その穏やかさは、黒竜にとって初めて知る安らぎであった。

 やがて二対の竜は時折旅路を共にするようになる。青い炎が夜を照らし、淡い花吹雪が星を隠す。誰が見ても不釣り合いなふたつの力だったけれど、並んで空を舞う姿は誰もが息を呑むほどに美しかった。
 黒は夜を抱き、白は春を抱く。
 強さとは何か、誇りとは何か。その答えを、二体は互いの中に見つけていた。
 桜が散る。青い炎が夜空へ溶ける。力ではなく誇りによって結ばれた二対の竜の友情は、桜より長く、炎よりも消えぬものとなった。

●流動
 竜にとって時の流れは緩やかで、それでいて止まることなく積み重なる。季節が何百度と廻るうちに、桜竜は成体となった。
 春風は知らない匂いを運んできた。
 煙、汗。乾いた土、血の残り香。山裾を見下ろせば、そこには数多のかそけき命が群れを成している姿が見えた。
 人間だ。
 疲れ切った者たちが、小さな荷車を引きながら歩いている。子を抱く者、老人を支える者。誰も空を見ない。見る余裕さえありはしないのだろう。彼らは他の竜に住処を焼かれ、この山へ辿り着いた。だが――山を見上げた瞬間、その顔から血の気が失せる。ここもまた、竜の領域。逃げ場はないのだと、誰が始めに知っただろうか。
「戻ろう……」
 誰かが呟く。
「ここも同じだ」
 絶望とは叫ぶものではない。諦めた声ほど静かに響き、悲嘆は波紋のように広がっていく。
 桜竜はその姿を見詰めていた。彼らはあまりにもちいさい。踏み出せば潰れてしまう、百年にも満たぬ時しか生きられない、春を幾度も見ることなく終わる命。――それでも、だからこそ。守りたいと思った。
 ゆっくりと翼を広げれば、花吹雪が山全体へと舞い上がる。逃げようとしていた人々が震え、膝をつく。誰も顔を上げなかった。恐怖が体を縫い止めていた。桜竜は彼らを見下ろし、長い沈黙の後に静かに身を翻し、山奥へ飛び立っていく。それは決して拒絶などではなかった。
 『ここに住め』というゆるし。
 言葉ではなく、背中で示した道だった。
 桜竜は人間を襲わない。静かに、現れた時と同じように去っていく。人々の信じられないという顔が、少しずつ安堵へ変わっていく。
 やがて誰かの瞳から、ぼろりと熱い涙が溢れる。一人泣けば、その涙は次々に伝染していく。土へ額を擦りつける者、祈る者、嗚咽を堪えられない者たちを、桜竜は振り返らなかった。感謝されたいわけではなく、ただ、生きていてほしかった。失われるにはあまりにも惜しい。理由など、それだけで十分だった。

 風が吹けば花弁が空へ舞い上がる。落ちるのではなく空へ還るような花。白銀の巨躯へ幾重にも降り積もるそれは、鱗ではなく春そのものを纏っているかのよう。遠くから見れば山がひとつ、静かに息をしているようにも見えた。
 桜竜はその花吹雪を見つめるのが好きだった。
「人間を住まわせたそうだな」
 夕暮れ。山頂へ黒竜が降り立てば、青い炎の残滓が岩肌を焦がした。
「ああ」
「愚かな」
 その一言は冷たい風より鋭い。
「奴らは弱い。弱きものは滅ぶ、それが世界の理だ」
 夜そのものを削り出したような鱗を持ち、吐き出す青き炎は山肌を硝子のように溶かす。近づくだけで畏怖を覚えるほどの威容。誰もが恐れ、誰もが距離を置く存在。それでも桜竜は彼に畏怖を抱かなかった。黒竜の強さも、恐ろしさも知っている。だが、それ以上に誰よりも孤独であることも、知っている。
 強大なる力は畏れられる。畏れは尊敬に似るが、決して隣へ並び立ちはしない。
「救えば、いずれお前は情に縛られる。我等は世界を見下ろす者だ」
「……そうかもしれない」
 故に桜竜はただそこに在る。
 何も求めず。何も恐れず。風を眺めるように。花を見るように。
「だが、私は――」
 そこで言葉を失った。
 どうして救いたかったのか、理由を探せばいくらでも見つかる。
 弱かった。可哀想だった。花を育てる手を失わせたくなかったから。けれど、その何もが違う気がする。それはもっと単純で、もっと説明のできない衝動に違いなかった。
 黒竜はその沈黙を友の肯定とは受け取らなかった。だが、桜竜もそれを否定はしなかった。黒竜は誇り高く、誰よりも竜らしく生きている。その誇りを否定することは黒竜そのものを否定することになる。故に互いに言葉を殺した。

 友情は終わっていない。ただその間に一本、細い亀裂だけが生まれていた。
 春の雪解け水のように小さく、花弁一枚ほどの隙間。誰も気づかないほどの、ほんの僅かな距離だった。けれど永い命を持つ竜にとって小さな亀裂ほどやがて深い谷となることを、まだ、どちらも知らなかった。

●飛花
 人間は根を下ろしていた。小さな畑を作り、井戸が掘られ、粗末ながらも温かな灯が夜を照らす。朝になれば煙が立ちのぼり、子どもたちの笑い声が風を渡る。命はこんなにも静かに増えていくのだと、桜竜は初めて知った。
 彼らは竜のように永遠を生きない。だからこそ一日を慈しむ。一輪の花が咲けば喜び、ひとつの実が成れば笑い合う。その営みはあまりにも小さく、けれど山々を揺るがす咆哮よりも、桜竜の胸を深く震わせた。
 近付くことはなかった。約束したわけではなく、誰かに禁じられたわけでもない。それでも桜竜は、己にひとつの境界を引いていた。
 人は脆い。
 手を伸ばせば容易く壊してしまうほど。寿命もまた、花より少し長い程度しかない。百年にも満たぬ時間を生きる者へ、何千年を生きる自分が情を寄せればその別れはあまりに残酷であることを理解していた。だから、見守るだけでいい。
 嵐が来れば、夜のうちに倒れそうな巨木を押し返した。川が氾濫すれば、誰にも見られぬよう山肌を削って水の流れを変えた。獣が村へ近付けば遠くで一声だけ咆哮し、森へ追い返し、やがて朝になれば人々『不思議なこともあるものだ』と首を傾げる。
 その程度で良い。感謝など望んではいない。
 今日も、誰も死ななかった。それだけで十分だった。
 村人たちは知らない。夜明け前、巨大なうつくしい竜が、眠る村を何度も振り返ってから山へ帰っていたことを。

 やがて村の中央には、小さな祠が建てられた。
 春は桜。夏は涼やかな青い花。秋には野菊を、冬には雪のように白い花を人々は欠かさず捧げ続けた。
 桜竜は人の寝静まった夜だけそこへ降りた。花へ顔を寄せれば土の、雨の匂いがした。人の手の温もりが、まだ微かに残っていた。
「……綺麗だ」
 思わず漏れた声は、夜露へ溶けて消える。
 花は好きだ。散ることを恐れず、ただ咲く姿が好きだった。その花を、自分のために選んでくれる者がいる。それだけで胸の奥が温かくなる。
 だが、同時に寂しさも覚えた。
 ありがとう、と。たった一言。それだけを伝えることすらできない己のことを。

 ある日の夕暮れだった。祠へ降り立った桜竜は人の気配に気付いて身を強張らせた。
 若い娘が供えた花を整えていた。簡素な衣服に土に汚れた手。けれどその所作だけは、花へ触れるように優しかった。
 逃げなければ、そう思うのに、身体が動かない。娘は恐怖に悲鳴を上げることもなく、やわらかな笑みを浮かべると恭しくこうべを垂れた。
「まあ、まあ。桜竜様、どんなお花がお好みですか? どんな食べ物がお好きでしょうか」
 穏やかな声だった。敬う響きはあれど媚びる響きはない。まるで遠くの友へ話しかけるような声音だった。
 桜竜は何も言えなかった。
 交流は持たない。その誓いを守らなければ、きっと情に負けてしまう。
 だから一歩、後ろへ退く。
 尾が揺れる。胸の内を隠そうとしても、身体だけは正直だった。
 娘はその様子を見ても然して気にした風もなく、ふふ、と微かに吐息を溢す。
「やはり桜の花でしょうか。季節が違えど、桜に似た花があります。今度それを持ってきますね」
 桜に似た花。その言葉だけが胸へ残る。
 何という名なのだろう。どんな色なのだろう?
 香りは、咲く季節は。
 ――聞きたい。知りたい。その花を、一緒に眺めてみたい。けれど。
 娘は深く一礼し、静かに帰っていく。夕日に伸びた影が少しずつ小さくなっていくのを、桜竜はいつまでも見送っていた。
 名も知らぬ人の背を、呼び止めることさえできずに。

●忘れ水
 春という季節は散ることによって完成する。
 それは桜だけではない。誇りも、祈りも、遠い昔に交わした約束さえも風に乗って世界へ還ってゆく。
 空はあまりにも青かった。
 その青を引き裂くように、二頭の竜が舞う。ひとつは夜を削り出したような黒い鱗を持ち、吐息ひとつで蒼炎を天へ咲かせる黒竜。もうひとつは、花霞をそのまま命にしたような桜竜。舞い上がる幾千万の花弁は炎ではない。花吹雪が空を覆い、春そのものが翼を持ったかのように世界を淡く染めていた。
 遥か眼下には小さな村が見える。季節ごとに花を植え替え、祭の日には子ども達が笑い、人々が祈りを捧げてくれた場所。
 あの村だけは。
 あの村だけは、傷付けたくなかった。
「黒竜!」
 桜竜の声は花吹雪に溶けていく。
 その風をも掻き消さんばかりの咆哮が、大気を揺らした。
「もう終わりにしよう。ドラゴンの時代は終わったんだ」
「終わらせたのは人間ではないか。貴様らだ。誇りを忘れた愚か者どもだ!」
 その瞳には怒りだけではなく深い孤独があった。
 仲間は減り、空は静かになった。共に飛ぶ者も最早在りはしない。残された世界でなお、彼は竜として在ろうとしていた。その誇りだけが、彼を支えていた。
「人など花と同じだ」
 黒竜は低く笑う。
 その瞳に湛えた憂いを、如何して見過ごせずにいられようか。
「咲けば散る。踏み潰して何が悪い」
「だから守りたいんだ。脆いからこそ」
 風が吹く。村の畑では麦が揺れ、小川の畔には名も知らぬ白い花が咲いている。竜から見れば一瞬の命。けれど、その一瞬を懸命に生きる姿を桜竜は美しいと思ってしまった。たとえ、それが罪なのだとしても。
 何度も言葉を交わした。
 止めてくれ。共に生きよう、と。
 だが、二対の誇りと慈愛は最後まで交わらなかった。
 やがて言葉は爪となり、牙となり、翼は嵐を呼ぶ。蒼炎が山を焼き、花吹雪が空を裂いた。世界は春と冬が同時に訪れたようだった。
 その、最中。
 黒竜の放った炎が、村へと向かう。
「あ、――……!」
 考えるより先に身体が動いていた。
 胸の奥。長い年月の間、人々が祈り続けてくれた想いが心臓の奥深くで脈を打つ。
 忘れられなかった信仰。積み重ねられた感謝。花を供えた子どもの手。老女の祈り。祭で歌われた自分の名。それらの全てがひとつの力になって溢れ出す。
 世界が桜色に染まった。
 西洋の巨竜だった姿は音もなく崩れ、細長い身体が空を巡る。角は天を指し、鬣は花霞となり、長い身体は春風そのものになる。人々が想像し、願い続けたもうひとつの姿。祈りが竜を変えた。神龍と成った友の姿に、黒竜は苦く目を細めた。
「そうか」
 静かで、冷たい。悲しみを孕んだ声だった。
「そんなに嬉しいか。それほどの力を得たことが」
 桜竜は答えられない。
 違う。嬉しくなどない。この力は優しさだけでは届かなかった証だった。
「黒竜……如何して分かってくれないんだ」
「桜竜」
 黒竜は笑う。
 寂しげな笑みが抱いた本当の意味を、真に理解出来ぬことがもどかしい。
「お前こそ、何故分からない。力を得た代わりに誇りを失ったか」
 戦いは一瞬。それでいて、永遠のもののように思えた。花吹雪が蒼炎を呑み込み、春嵐が夜空を裂く。
 ――やがて、黒い巨体はゆっくりと地へ落ちていった。

 風だけが吹いていた。
 桜竜は震える足で降り立つ。
 黒竜は眠ったように地に躰を伏していた。その巨体は山のように横たわり、青い炎だけが細く揺れている。
「……終わった」
 掛け替えのない友だった。
 共に空を飛び、遠い花畑を巡ろうと語った唯一の存在。
 あの日、黒竜は珍しく穏やかに言ったのだ。

『世界は広い』
『――お前の好きな花を探しに行こう』

 春風が残酷なほどに優しく吹いていく。
 黒い鱗の上へ、桜の花びらが降り積もる。まるで、彼を弔うかのように。
「……裁いてくれ」
 その言葉だけが喉から溢れた。
 桜竜の哀願を受け、竜の長は長い沈黙の末に首を振る。
「裁きは与えぬ」
 周囲の竜達は怒りに震え、轟、と地を打ち鳴らして吠え猛る。
「黒竜は我らの希望だった!」
「誇りを踏みにじった裏切り者!」
 罵声は止まない。
 けれど長だけは静かだった。
「もしも黒竜を止めなければ、更にドラゴンの数は減っただろう」
 魔法陣が咲く。
 桜が散るように、無常に、さらさらと、はらはらと。

『そんなに辛いのなら、その記憶は消してやろう』
『お前のような人好きのドラゴンは、一部のドラゴンがそうなったように、人に成った方が幸せになれる』

 一枚。
 また一枚。
 記憶が剥がれる。力が風になっていく。
「止めてくれ!」
 桜竜は叫ぶ。
 望むのは裁きだった。
「私は忘れたくない!」
 人になるのは、密かに憧れていたことだ。人々と話ができたのなら、どんなに楽しいのだろう。
「黒竜を!」
 小さな身体を手に入れれば、花に触れ、より近くで見られる。
 故にそれは裁きになどなりはしない。
「この罪を!」
 花弁は止まらない。
 思い出が散る。
 空を飛んだ日も。花畑も。
 笑った声も。
 すべて。すべて。
 海へ向かって飛んだ。逃げるように。消えゆく記憶を抱き締めるように。やがて翼は砕け、身体は深い海へと沈む。意識が遠のくその最後に、誰かの声が聞こえた。
『桜竜様。どうか、これからも私達のことをお守りください』
 幼い日の祈りにも似た声が深い海の底まで届いた気がした。伸ばしかけた前脚はもう力を失い、泡となって揺れていく。薄れていく意識の中で、桜竜は小さく微笑んだ。
「――あぁ、守るとも。ずっとずっと、守ってみせる……」
 それが、最後に残った願いだった。
 黒竜の名も。共に飛んだ空も。裁かれなかった罪も。花吹雪のように一枚ずつ剥がれ落ちてゆく。それでも――約束だけは消えなかった。残された僅かな竜の力は主の意思に従うように静かに身体を包み込み、永い永い漂流から守り続ける。

 どれほどの歳月が流れたのだろう。
 角と尾、そして肌に残る僅かな鱗だけを名残として、桜竜は人の姿へと変わっていた。

 ある春の朝。
 寄せては返す波が、一人の青年を浜辺へ運ぶ。
 桜色の髪。黄金の瞳。目を開いた瞬間、理由もなく涙が頬を伝った。何故泣いているのか分からない。何故ここにいるのかも、自分が誰なのかも思い出せない。けれど胸の奥には、春風に揺れる花びらのような、言葉にならない約束だけが残っていた。
 守らなければならない。
 誰を。
 何を。
 その理由さえ失ってなお、その想いだけは結・惟人(桜竜・h06870)の魂の最も深い場所で静かに息衝いていた。
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