きまぐれ等活地獄
あなたは頭が柔らかいのね。収容されて最初に起きた『事件』については、最早、データにすらない。横たわっていた被害者の頭は粘土よりも柔らかくなっており、頭蓋を抜かれていたとされる。あなたも少女なのね。そう、呟かれた被害者は――年月を得ても、尚、少女の儘でしか居られない。肉体的にも精神的にも少女なのだから、そう、あなたはお友達なのね……。お人形遊びの時間、誰が人形の役目を担ったのか。
お人形さんにされた被害者は可哀想な事に、半永久的に項垂れている。少女の部屋の隅っこで、文字通り、お人形さんとしてお座りをしている。レントゲン写真なんか見た日には――√汎神解剖機関の職員なんて、死んでもお断りと謂いたくなってしまう。あら、あなた、どうしてそんな顔をしているの。このお仕事、楽しいって言っていたじゃない。時々少女は『そういう』使い方もされた。やんちゃに遊び回っている最中は、逆転して、あなた、お仕事やめて、わたしと遊んでくれないかな……。
黄昏を迎えた人類にとって必要不可欠なのは依存先である。忘我の底へと、忘却の彼方へと自らを投げ込む事でようやく人類は救われるのだ。その為ならば何をやっても良いと、何をやっても構わないと。信じ込んでしまう※※※※が無数に涌いて出ると謂うものだ。たとえば――機関に歯向かう組織は勿論――より混沌とした、度し難い集団も出現したって不思議ではない。我等こそが「てんごく」であり、此処は我等が研究施設である。少し前、この研究施設に『怪異』が運ばれてきた。此処は機関の連中に倣って「人間災厄」と称した方が良いのかもしれない。されど……! 我々は彼女を『神』のような存在だと認識している。成程、我々は既に手遅れなのかもしれないが、この少女の研究が進めば、何れ、人類は真の幸福を手にする事が可能だろう! ……あなた、ちょっと、うるさい。数秒とも掛からずに訪れたのは沈黙だ。先程まで騒がしかった信者の一人が咽喉を押さえている。徐々に徐々に、蒼く、白くなっていくサマは、まるで、窒息していく生物みたいで……。みたい、ではない。そうなのだ。信者は泡を吹き、目を白黒させ、そのままバッタリとインビジブルのお仲間となってしまった。……静かに、なった。サキュバスよりもサキュバスらしく、神様よりも神様らしく、少女の偶像はこてりと、可愛らしく頭を傾げた。そろそろ、寝る時間。あなたも、おやすみ……。新たにやってきた信者、今度は眠るように息を引き取った。安らぎにやられた『それら』を見て、にっこりと微笑みつつ、偶像は夢の中へと落ちていく……あなたたちは『優しい』のね……。
てんごくの『目的』は不明。何故ならば、一人一人が『バラバラ』の意見を持っていたからだ。あなたは『世界を平和にしたい』のね。あなたは『私と遊びたい』のね。きっと、そんなふうに『定義付け』をされていたに違いない。違いないが、最早、それを確かめる術など、それこそ神にすらも不可能であった。どたばた、どたばた、彼方より『やかましさ』が増していく。折角誰かさんが沈黙してくれたと謂うのに、いったい、如何様な蟲の報せだろうか。しかし……銃声は一発だけだ。一発だけで、何もかもは褪めていた。
いつの頃だったか。みんな『仲良く』してね、なんて、口にしたのは。優しさは勿論、仲良くなんて定められたら、信者たちは犬にでも『なる』他にない。たとえ、誰かさんの所為で死に絶えても、ハンバーグよりも酷い状態になっても、繋がるしかない。繋がっていた。信者の群れがたくさん、文字通りに繋がっていたのだ。裸体を晒し、臓物を晒し、お互いに、物理的に結ばれている――一人が動いたのなら、蠢いたのなら、次の一人、地獄のような連鎖が、鮮明に――突入してきた機関の人間の『脳』にこびりつく! 百戦錬磨の彼等だろうと、この嘔気には耐えられないか。……その、えっと、だって、やったんだもん。たのしかったんだもん。楽しかったのならば仕方がない。人間災厄ならば仕方がない。……そんなワケが『ある』筈がない。君が、やったのか? ぜぇんぶやりました。
ばんざい。
口を塞がれて『確保』されたオマエは、真っ暗いところに閉じ込められて、がたんごとんと運ばれた。布の裏側に、瞼の裏側に、湛えられた緑の輝きは信者達の『感謝』なのだろうか。感謝されたのならば、それは良い事なのではないか。わからない。人間が、よく、わからない。わかったとしても、それは本当に人間の精神なのだろうか。そうしてオマエは現在に至る。おはよう、親愛なるあなた。鏡に向かってのご挨拶だ。
いまはだめだって。みんな「――」なのに、いまは言っちゃダメなんだって! ぷう、と、自分に対して膨れてみた。まったく可愛らしい少女ではないか。愛おしい少女の偶像ではないか。いつの日か、機関の人間が『違反』を犯してもおかしくはない。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴 成功