シナリオ

オカアサン、アソボ?

#√ウォーゾーン #√EDEN

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 #√ウォーゾーン
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●鳴き声、泣き声、啼き声
『オカアサン、オカアサアァァァン……』
 声が、聞こえる。
 子どもの声。しゃがれた声。甲高く、耳に残る。心に引っ掛かる。耳障りなようでいて、母性を掻き立てられてしまうような。
 切実なのに、忌避したくなるような。
 機械と融合された胎児。歪な『存在』が、人々を蝕む温床として、散らされた。
 正しく生まれられなかった「いのち」が、ひとを呪う、呪う。
 羨み、恨む。
 ねえ、オカアサンはどこ?
 どうしてオマエにハいて、ボクたちにはいないノ?
 なんでなんで? 教えテ?

 ね ェ 、 教 ェ テ よ ォ …… ?

 それを、少女が眺めていた。
 手を伸ばす赤子を見る眼差しは、決して冷淡ではなく、けれど温もりもない。
 持つはずがなかった。彼女は兵器。母親を持たない。
「憐れだね、オマエは」
 思ってもいなさそうな、平坦な声音。感情も干渉もいらないとばかりに。ただただ温度のない目で、造られただけの『いのち』を睥睨する。
「まあ、意味不明でも、失敗作でも、作戦の役に立つなら、どうでもいいけどね」
 人間の世界を侵食して、我々の望みと糧となるのならいい。結果さえ得られれば。
「その道程は、険しいものとなりそうだけれど」
 少女は呟き、星を眺めた。
 夜空は音を出さない代わり、星を流し続ける。

 新たな命たちの戦いを、導くように。

●知らないこと、欲すること
「|アズ《Anker》に訊かれました。母親がどんな人だったか、知りたくないかって」
 √能力者を集め、語り出したのはヴェル・パヴォーネだった。双子をAnkerに持つ彼。けれど、双子以外に家族はないという。他のきょうだいはおろか、父親も、母親も『存在しない』と彼は言った。
「存在しなくていいですよ。ボクにはアズさえいれば、それでいい。アズだって、ボクとおんなじなんだから、おんなじことを思っているはず。双子だから、ボクに訊かなくたって、ボクの気持ちはわかっているはずなのに……。なんて、こんなことが気になるのは、|星詠みの託宣《ゾディアック・サイン》で見えたのが、ちょうど関係のある話だったからでしょうね」
 そう前置きすると、ヴェルは|星詠みの託宣《ゾディアック・サイン》の内容を語った。
「『チャイルドグリム』というおぞましい半融合機械生命体が、√EDENで人々を襲います。チャイルドグリムの詳細を語るのは、難しく、おぞましいので、みなさんに情報を『共有』だけしておきますね」
 すると、『AL失敗作-『チャイルドグリム』』の情報が√能力者たちの脳内に流れ込んでくる。そういう√能力なのだろう。
 確かに、口にするのもおぞましい実験の果ての産物のようだ。これを知ってしまったヴェルは齢5、6歳ほど。星詠みであり、こうした戦いに身を投じる√能力者とはいえ、この内容を受け止めるには、幼すぎる。
 そのせいなのか、ヴェルの顔色は芳しく見えなかった。
「その先は、『あの子』との星の詠み合いになると思います。今回干渉してくるのは『ズムウォルト』という名前の女の子。√ウォーゾーンの簒奪者です。ただ、彼女が直接出てくるかは、チャイルドグリムとの戦い次第で変わると思います。様子見のつもりなのかな……? はっきりとは、見えなかったんです」
 軽く謝罪を口にしつつ、ヴェルは続ける。
「でも、強さを示せば、彼女を出てこさせることができるかもしれません。
 まずはチャイルドグリムの殲滅をお願いします。あんなもの、のさばらせちゃいけない」
 ヴェルの言葉に、√能力者たちは同意を示す。それを見て、ヴェルは目を細めた。
「ありがとうございます。……どうか、ご無事で」

●軽断章
「オカア、サァン……」
「……少し、煩わしいね」
 けれど、と少女の姿の簒奪者『レールガンアンドロイド『ズムウォルト』』は紡ぐ。
「心、魂、それに付随する優しさなどの正の感情。戦闘機械生命体には不要と思えるそれが、|完全機械《インテグラル・アニムス》に至るには必要かもしれない。
 可能性の検証と取捨選択。目的のために、ボクたちはそれを繰り返す」
 忌々しい|√能力者《敵》の存在を利用してでも。

マスターより

九JACK
 こんにちは、九JACKです。
 今回の流れは以下の通り。
 第一章、集団戦『AL失敗作-『チャイルドグリム』』。なんかめっちゃ「オカアサン」言ってくる敵です。か弱そうな振る舞いをして、同情を誘い、戦意を奪うタイプの敵ですね。
 第二章は『レールガンアンドロイド『ズムウォルト』』もしくは『バトラクス』です。第一章でチャイルドグリムへどう対処したかにより、分岐します。
 ズムウォルトの目的は「正の感情」に関する実験のようなので、その気を引くことができれば、彼女は姿を現すでしょう。優しさ以外にも、正義の心とか、思いやりとか、突き抜けたポジティブとか……極端であればあるほど、いいのではないですかね。
 第三章は日常です。なんだかんだ戦いが終わったので小休止みたいな感じとなります。
 それでは、よろしくお願いいたします。
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第1章 集団戦 『AL失敗作-『チャイルドグリム』』


POW 本能による行動および叫び
【自らの半身】を召喚し、攻撃技「【お母さんになって】」か回復技「【一緒になろう】」、あるいは「敵との融合」を指示できる。融合された敵はダメージの代わりに行動力が低下し、0になると[自らの半身]と共に消滅死亡する。
SPD 本能による捕食行動
【唾液】が命中した部位を切断するか、レベル分間使用不能にする。また、切断された部位を食べた者は負傷が回復する。
WIZ 生物としてのの成長もしくは変態
自身の【頭部】がA、【腕】がB、【機械の骨】がC増加し、それぞれ捕食力、貫通力、蹂躙力が増加する。ABCの合計は自分のレベルに等しい。
√ウォーゾーン 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

北城・氷
POWの行動を選択。
くそ!戦闘機械群の連中め、人類の生命の尊厳を踏み躙るとは!
人類の生命の尊厳を護るため、僕は全力で闘う!!
チャイルドグリムには、せめて苦痛を与えないよう一思いに止めを刺す。
決戦型WZ「重装甲超火力砲撃特化機【玄武】」に搭乗して積極的に全力で戦う。
大口径ビームランチャー【撃滅】と超火力ビームキャノン【殲滅・改】をバランスよく使用する。(スキル「制圧射撃」「一斉発射」可能であれば「無差別攻撃」を使用)
止めは【大火力ファミリアセントリー一斉射撃】、前述の攻撃に加えて大火力ファミリアセントリーを5基召喚して一斉発射をする(スキルは「制圧射撃」「一斉発射」可能であれば「無差別攻撃」を使用)

台詞「戦闘機械群め、生命の尊厳をここまで踏み躙るのか!!」
  「チャイルドグリムにはせめて、苦しまない最期を・・・」
  「僕がいる限り、戦闘機械群はこれ以上のさばらせない!」
  「ズムウォルト!何処にいる!貴様は僕が制裁する!」
クラウス・イーザリー
「おかあさん、か……」
こんな状態になっても母親を求めるのは、胎児の本能なんだろうか

敵を発見次第√能力猛襲を発動
拳攻撃の間に居合や鎧砕き、喧嘩殺法(蹴り)、クイックドロウ、2回攻撃を挟んで全力で攻撃する
可哀想だとは思うけど容赦も躊躇もしない

半身が召喚されたら一旦距離を取ってクイックドロウで射撃
融合される前に倒すことを心がける
敵からの攻撃は機械部分へのハッキングを試みて行動を阻害しながら見切りで回避するよ

声には惑わされない
「ごめんな、俺はお母さんにはなれないよ」
俺にできるのは、哀れな命を終わらせることだけだ

※アドリブ、連携歓迎です

●命への憐れみを
「オカアサァン、オカアサァン」
「ドコォ? ドコナノォ……?」
「おかあさん、か……」
 チャイルドグリムの咽び泣くような声を反芻し、ぽつりと言葉をこぼしたのはクラウス・イザーリー(希望を忘れた兵士・h05015)だった。
 声の方を見れば、そこには機械と生身が混ざり合った異形が存在した。薄明るい戦場の中で、その姿は不気味で、√汎神解剖機関の人間がいたなら、怪異と勘違いしたかもしれない。それくらいの異貌であり、「母親を求める」というわかりやすい特性を持っていた。
 胸をかきむしりたくなるような、切なる悲鳴。けれど、クラウスは少し顔を歪めるだけだった。
 そんなクラウスを視認した一体が、喜ぶように駆け寄る。
「オカアサン! オカアサンダ!!」
「オカアサン!?」
 周囲のチャイルドグリムも何体か呼応する。
「オカアサン、オカアサン」
「アイタカッタヨ!」
「ヤットアエタヨ!」
「アソボ、アソボ!」
「アーソーボ!!」
 無邪気な胎児の輪唱。
「ごめんな」
 クラウスの一言。
 チャイルドグリムに、拳が叩き込まれた。
「アハハ、オカアサン、アソンデクレルンダ!」
「オカアサン、アソンデ!」
「オカアサン、アソボ!」
 クラウスの攻撃を「遊びに応じてくれた」と判断したらしく、√能力で半身を召喚しながらクラウスに駆け寄る。
 クラウスは飛び退る。距離を取ったところで早撃ちによる迎撃、寄ってきたチャイルドグリムを拳で殴り飛ばす。機械部分に鎧砕きの攻撃を叩き込み、再び拳、と【猛襲】を繰り返していく。
 機械の部分への攻撃はともかく、中途半端な柔さを持つ生体部分にめり込む拳の感触は、快いものとは言えない。悲鳴を上げられるのも心に来るが、「アソンデモラエタ」と嬉しそうに散っていくのも、なかなかに胸糞が悪かった。
 そんな様子を別の場所から観測し、ぎりりと歯噛みする者がいた。
「戦闘機械群め、生命の尊厳をここまで踏み躙るのか!!」
 胎児と機械戦闘群の融合体。その成れの果てが『AL失敗作-『チャイルドグリム』』である。その姿のおぞましさと有り様、それをただ徒に利用する戦闘機械群の心無さに、憤りを隠さず叫んだのは北条・氷(人間(√ウォーゾーン)の決戦型WZ「重装甲超火力砲撃特化機【玄武】」・h01645)。
 自身の決戦型WZ【玄武】を駆り、戦場に降り立つ。通常の人間と比べると2.5mの体高を持つWZにさえ「オカアサン」と寄ってくるチャイルドグリム。その異様な様相に、氷は瞑目した。
 大口径ビームランチャー【撃滅】が発射される。制圧射撃により、チャイルドグリムたちが召喚した半身もろとも消えていく。
「チャイルドグリムにはせめて、苦しまない最期を……」
 祈るように閉じていた瞼を持ち上げながら、氷が呟く。倒さなければならない敵ではあるが、チャイルドグリムは命を愚弄するようなおぞましい実験の産物。ある意味では被害者とも言える。
 生まれるはずもなかった……生まれるべきでなかった命たちに、せめて安らかな終焉を、というのが氷の考えだった。
 悪いのは、それを利己的に利用し、使い捨てる存在。
「オカアサン、オカアサン」
「ハナビキレイ」
「モットモット!」
 すがりつく声。氷の中の憤怒は募るばかり。それをぶちまけるように【大火力ファミリアセントリー一斉射撃】を開始する。
 炎に呑まれていくチャイルドグリムたち。その光景を「綺麗な花火だ」なんて、無邪気に喜ぶことはできない。
 喜んだ無邪気な命たちを思うと、じりじりと胸が焼け焦げていく。焦げた怒りが喉元まで上り、苦い固唾を飲み下す。
 【大火力ファミリアセントリー一斉射撃】と【玄武】の【撃滅】、【殲滅・改】による射撃で、チャイルドグリムは薙ぎ払われていくが、同じ数だけ増殖しているように思う。
 それだけ、許しがたい命の愚弄が繰り返されているということであり、それを投下し続けている何者かが存在する。
 許せるわけがなかった。許してはいけない。
「僕がいる限り、戦闘機械群はこれ以上のさばらせない! 【玄武】!!」
 氷は【玄武】を【最終決戦モード】に変形させた。チャイルドグリムを憐れには思うが、本気を見せなければ、敵はしっぽを出さないだろう。
 光り輝く【玄武】が戦場を疾走する。移動速度が四倍となった【玄武】に追いつける者は存在しない。そもそもから制圧射撃、一斉発射による圧倒的手数だった火器が更に数を増し、チャイルドグリムを炎で呑み込んでいく。
 悲鳴を上げる暇もなかったことだろう。だが、これでいい。命の尊厳を踏み躙られた挙げ句、使い捨てのように戦場に投下される「命になれなかった存在」がこれ以上苦しむ必要はない。
 【玄武】の射程外で難を逃れた個体に対処していたクラウスが、氷の叫びに静かに頷く。
「オカアサアァァァン」
 拳、クイックドロウ、拳、喧嘩殺法の蹴り、拳。テンポよく攻撃を繰り出し、対処しながら、クラウスは謝罪を口にした。
「ごめんな、俺はお母さんにはなれないよ」
 謝罪の必要なんて、ないのだろうけれど。
 このやるせなさを向けるべきは、チャイルドグリムではない。その点において、クラウスと氷の思考は合致していた。だから、憐れな命に苦しむ暇のない終止符を、と攻撃する。
 そして。
「ズムウォルト! ズムウォルト、見ているんだろう!? 出てこい、何処にいる!? 貴様は僕が制裁する!」
 氷が【玄武】で戦場を駆けながら、今回の首魁であろう少女姿の簒奪者を探す。
「命を命とも思わない貴様らのやり方はよくわかった! なら、人類の生命の尊厳を護るため、僕は全力で闘う!!」
 高潔な魂の叫び。よく通るその声と湛えられた覚悟が、波打つように戦場を抜けていく。
 この声を、覚悟を、高みの見物をしている少女はどう受け止めるのだろうか。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​ 成功

斯波・紫遠
アドリブ絡み共闘大歓迎
苗字+さん、くん

手段を選ばないというか、飽くなき探究心というか…
胸糞悪い話だ
創られた彼らに罪は無くとも、これから起こる惨劇に関わるのならば、やる事は一つ

敵影を発見次第攻撃
一般人の心配は無いかもだけど
煙霞で此方に意識を向けさせる
攻撃は【レイン】
複数巻き込めるならその位置に撃つ
近距離は香煙で対処
受け流しつつ、可能なら部位破壊を狙っていくよ
半身は生み出させないようにしたいけど…
生まれたら囲まれないように注意して位置取り
数の暴力って厄介だからね

無垢な相手はやりにくい
これが精神攻撃の類だっていうのであれば
狙いは大成功だ
当の本人はそんなこと考えちゃ居ないだろうけどね
血祭・沙汰子
戦場は√EDEN。
現地の到着後、作戦行動に移ります。
第一目標、チャイルドグリム。
胎児との半融合機械生命体。
反吐が出そうな程、鬼畜の所業ですね。
しかしやることは変わりません。
全て殲滅します。

『兎は眠りて夢を見る。起きては全てを殺すだけ。』
地下秘密部隊「夢兎眠」、冥土長、血祭・沙汰子、参ります。
全ての勝利を我が主の為に。
オールハイル、ナナリン。

戦場となる現地の障害物等を有効に使い、その陰に潜み、闇に紛れて潜伏。
敵が【血濡れの無限ハチェット】の射程距離内に入ったら攻撃を開始します。
攻撃は√能力【冥土長の暗殺】を使用し行います。
使用技能は暗殺一択。
中距離からの投擲、接近しての重い斬撃等、臨機応変に実行。
血濡れのハチェットは無限に出てくるので弾切れの心配はありません。
攻撃後は一撃離脱、闇に紛れ隠れ、再度攻撃を行う、を繰り返す。

敵の攻撃に対して。
【唾液】を飛ばしてくると予測されますが、そのまえにSPD、所謂速度で闇に紛れ一撃離脱、そのまま潜伏し隙を見て再度攻撃を行う、を繰り返します。

色々と話してきて、惑わせてくるようですが。
御気の毒ですが、全て容赦なく殲滅します。
それが我が主の命なので。

味方との連携重視。
迷惑行動は行わない。
アドリブ可能。

無口、無表情な冥土長(メイド長)です。
淡々と必要な言葉だけ話す。

さて。
この悪趣味な機械生命体を一体誰が作ったのか。
私に教えてくれませんか、悪趣味ズムウォルト。

●赤く、紅く、緋く
『——兎は眠りて夢を見る。起きては全てを殺すだけ——』
「地下秘密部隊『夢兎眠』、冥土長、血祭・沙汰子、参ります。
 全ての勝利を我が主の為に。
 オールハイル、ナナリン」
 子守歌というには物騒な詩が謳われる。凛とした声、とっと降り立つ音。ふわりと広がる赤髪と、クラシカルメイド服のスカートとエプロンドレス。
 チャイルドグリムの「オカアサン」と呼ぶ声に、眉一つ動かすことなく、ただ佇んでハチェットを構えたのは血祭・沙汰子(夢兎眠の冥土長・h01212)。全ての行動、全ての勝利を「夢兎眠」の部隊長たる自らのAnker、ナナリンにのみ捧げる。その誓いを淡々と、滔々と果たして行く様を称し、「冥土長」の肩書きを彼女は負った。
 戦場は√EDEN。第一目標は「チャイルドグリム」。胎児との半融合機械生命体だ。字面だけでそのおぞましさは十二分に伝わってくる。
 その上で実物である。鉄面皮と称してよいほど表情変化の機会を得ない沙汰子の眉間に、ほんの少しとはいえ、皺が寄る。
 姿形も知らぬままに、只管母を乞う歪ないのち。吐き気を催すほどの人間の悪意と探究心の産物。醜悪の集合体に不快を覚えるなという方が無理というもの。
 是非ともこの悪趣味な機械生命体の生みの親を教えてほしいものだ。
「しかしやることは変わりません。全て殲滅します。オールハイル、ナナリン」
 |二度《ふたたび》の呟きに、チャイルドグリムたちは反応を示す。
「オカアサンダ!」
「ホント!?」
「アソボ! アソボ!」
 体を揺らしながら、沙汰子に接近するチャイルドグリム。自身が醜悪な姿であることなど知らないのかもしれない。
 既存の生き物にも例えがたい造形で、チャイルドグリムは見つけた「オカアサン」に遊んでもらおうとした。
「そうですね」
 ざしゅ。
 ハチェットが、チャイルドグリムの生身の部分を叩き切る。ぐちょりと湿った音がした。血液というには粘性が高く、色も透明に近い液体が垂れる。
「オカアサン、ドウシテ?」
「イタイヨオ、イタイヨオ」
 めそめそと泣くような声。けれどそれに応える沙汰子の姿はなく、代わりに、一人の男が佇んでいた。
 淡藤色の髪の向こうから、金の目を覗かせつつ、口元で煙草をくゆらす。斯波・紫遠(くゆる・h03007)であった。
 おんおんと声を上げて泣くチャイルドグリムに、ナイフを投擲する。あやすというには殺傷能力が高い得物だったが、チャイルドグリムの気を引くことには成功したようだ。
「オカアサン?」
「オカアサンダ!」
 チャイルドグリムたちの中では「遊んでくれる人=オカアサン」らしい、と認識しつつ、紫遠は愛刀【香煙】を手にかけた。投げたナイフの【煙霞】を回収しつつ、チャイルドグリムたちが集まってきたのを見て、【決戦気象兵器「レイン」】を発動。
 渦中から抜け出し、範囲外にたむろするチャイルドグリムを香煙で切り払っていく。
 レイン砲台による攻撃に、悲鳴を上げるもの、きゃっきゃっと喜ぶもの。被虐趣味というわけではない。正常な母を知らぬチャイルドグリムたちにとって、「かまってくれる」というだけで嬉しいのだ。それが命を奪うような攻撃であっても。
(胸糞の悪い話だ)
 紫煙を吐き出しつつ、紫遠は心中でごちる。
 ただ、生み出されてしまっただけ。子どもは親を選べない、というように、チャイルドグリムも親は選べなかった。それは憐れなことだと思う。が、生まれがどうあれ、その存在がこれからの惨劇を導く存在であるのなら、やるべきことは一つ。
「オカアサン、アソボ!」
「ナイフカッコイイ!」
「カタナビュンッテヤッテ!」
「ハヤクハヤク!」
 愛を求める故に、攻撃さえ望む。そんな歪な生命の在り方を、紫遠は切り払う。
 飛び散る赤。
「血液の色が定まっていない、というのも気色が悪いですね」
 定まっていない、というか、度々透明な血を流す個体がいるだけなので、「失敗作」の判定部分が血の色なのかもしれない。
 可能性を模索するとか言いつつ、失敗に対するリカバリーや改善策の試行錯誤はしないのだろうか、と沙汰子は考えながら、手にしたハチェットの血を払う。払ったところで、付着した赤は消えきらないが。
 紫遠の√能力に多くのチャイルドグリムが巻き込まれたため、チャイルドグリムの数はぐんと減った。目につきにくい建物の陰や瓦礫などの死角に存在するものも、【冥土長の暗殺】を使用し、沙汰子が確実に狩っている。
 範囲攻撃は数の多い敵に効果的だ。けれど、ヒットアンドアウェイを徹底する沙汰子の行動も、着実にチャイルドグリムたちを減らしていた。
「オカアサン、イタイヨ」
(一撃で仕留められませんでしたか)
 苦しみの少ないように、という思いは沙汰子の中にはあまりない。それも慈悲の一つではあると思うが、慈悲よりは「一撃で仕留めた方が後腐れがない」という思想だ。
 仕留められなければ、反撃が待っている。
「イタイコトスルオカアサン、キライ!!」
 ——こんな風に。
 駄々っ子のように嫌々と体を振り、唾を飛ばすチャイルドグリム。それは子どもの駄々というには可愛げのない「部位切断か使用不能をもたらす√能力」だった。
 沙汰子はそっと細路地に飛び込み、闇に溶ける。影を渡り、駆け、背後を取ったときを狙い、ハチェットを投擲。
 チャイルドグリムの頭蓋と思われる部分が陥没する。機能停止を確認。
「ソノコバッカリズルイナ!」
 別方向から飛び出してきたチャイルドグリムを素早く感知、無限に出現するハチェットを手に取り、振り向きざまに一撃。肉を打つ鈍い衝撃。気分がいいとはとても言えない。
 潰れた蛙のような声を立てて、崩れ落ちるチャイルドグリム。それを一顧だにすることなく、また、闇に紛れ、姿を隠す。
 散り散りに咲く戦場の赤い華。その数を数えるのが、そろそろ億劫になってきた頃、紫遠は最後の一体と対峙していた。
「ヒトリニ、ヒトリニナッチャッタヨォ!」
 泣き喚き、害を振り撒く。唾がのべつまくなしに飛ばされ、頭や腕、機械の骨が増えたり減ったり。半身を召喚して、寂しさを紛らそうとしたようだが、違うと感じたらしく、泣き声が戦場を引き裂くように響いた。
 香煙で対応し、増えた腕や骨などを受け流して、破壊もしたが、いまいちトドメには足りない。
 けれど、気配がした。√能力者同士だからこそわかった気配かもしれないし、戦場慣れしているための第六感かもしれなかった。
 紫遠が刀を払い、後退するのと入れ替わり、ハチェットを携えた沙汰子が、チャイルドグリムに肉薄する。【血濡れの無限ハチェット】は数に限りがなく、沙汰子は四つ投擲し、現れた二つを両手に持つ。投げられた四つは、増えていた頭や腕などにめり込みつつ、チャイルドグリムを地面に縫い付けた。
「オカア、サ、コワイ、ヨ」
「御気の毒ですが」
 同情を誘うためか、命の危機に瀕した故の本音か。計りきることはできないが、途切れ途切れに零れたチャイルドグリムの苦悶の声を、沙汰子はバッサリと切り捨てる。
「全て容赦なく殲滅せよ、との主のご命令です」
 主の命令。沙汰子にそれ以上のものは存在しない。
 さようなら、と沙汰子の乾いた声と共に、ハチェットの重い一撃が叩き込まれる。

 絶命の声もなく、チャイルドグリムは消滅した。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 集団戦 『バトラクス』


POW バトラクスキャノン
【爆破】属性の弾丸を射出する。着弾地点から半径レベルm内の敵には【砲弾】による通常の2倍ダメージを与え、味方には【戦闘情報の共有】による戦闘力強化を与える。
SPD 人間狂化爆弾
爆破地点から半径レベルm内の全員に「疑心暗鬼・凶暴化・虚言癖・正直病」からひとつ状態異常を与える【特殊化学兵器】を、同時にレベル個まで具現化できる。
WIZ スウィープマシーン
【機銃掃射】による牽制、【粘着弾】による捕縛、【突撃体当たり】による強撃の連続攻撃を与える。
√ウォーゾーン 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●睥睨する
「……特段、変わった結果もない。義憤に駆られた人間の叫びなどもあったが、そんなものは√ウォーゾーンでいくらでも見られる。別の実験会場を探すか、別方面からのアプローチを考えなければ。……ともかく、後始末が必要だね」
 ズムウォルトが呟くと、きゅいん、と機械の駆動音がした。
「バトラクス、任せたよ。
 せいぜい抗ってね。いつかボクを引きずり出すというのなら」
 少女はバトラクスたちが降りていくのを見送り、透明などこかの√へ消えた。
クラウス・イーザリー
(簒奪者は出てこないか……)
正直、丁度いい
誰かと言葉を交わしたい気分じゃない

高所に登って、上から決戦気象兵器「レイン」で敵群を攻撃
数体にレーザーを集中させて大きめのダメージを与えて、弱った相手からレーザー射撃で止めを刺していく

距離を取っての射撃戦でできるだけ狙われないように戦う
相手からの攻撃は見切りで躱して、粘着弾で捕縛されたらエネルギーバリアで防ぐ
囲まれそうになったらハッキングでシステムに割り込んで同士討ちをさせるか、適当に信号を飛ばして撹乱してスタンロッドで鎧無視攻撃

周りの人々に被害が出ないように徹底的に殲滅する
敵が何を考えていようと、俺は人々を守るために戦うだけだ

※アドリブ、連携歓迎です
継萩・サルトゥーラ
九JACKマスターにおまかせします。かっこいい継萩・サルトゥーラをお願いします!

アドリブ歓迎。
「やったろうじゃないの!」
「まぁ焦んなや、楽しいのはこれからだ」

√能力は指定した物をどれでも使用ます。
戦うことが好きで好きで楽しく、戦闘知識や勘を活かしてハデに行動します。
楽しいからこそ冷静でいられる面もあります。
多少の怪我は気にせず積極的に行動しますがヤバいときは流石に自重します。
仲間との連携も行えます。
軽口を叩いたりやんわりと皮肉を言ったりしますが、他の√能力者に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
斯波・紫遠
アドリブ絡み共闘大歓迎
苗字+さん、くん

まぁ、あんなもんじゃ来ないわな
あちらさんからしたら代わりに廃棄処分してくれたくらいの感覚だろうし
腹は立つし、胸糞も悪いけど
こっちも変わらず人類を護るために壊していこうか

攻撃軸は【レイン】
敵が密集しているなら複数巻き込めるように
第六感で砲撃読めそうなら注意喚起
特に捕縛は色々しんどいから特に気を付ける
近接は香煙、牽制は煙霞

1体だけでも良いから同士討ちに持ち込めないかな?
アシスタントAIのIris(以下アリスさん)に
お願いしてみる
我が儘言うと捕縛で動き止めて欲しいなぁ
アリスさんどう?ムリそ?
(アリスさんの口調はお任せ、驚く程の辛辣さ希望)
声掛けあって適宜対応

●暗雲もたらす雨の向こうに
(簒奪者は出てこないか……)
 チャイルドグリムが消え失せた代わり、バトラクスが跋扈し始めた戦場を見て、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は目を細める。
 正直、ちょうどいい。誰かとお喋りを楽しめるような気分ではなかった。

『オカアサン、オカアサン』
『アーソーボ!』

 きゃらきゃらと笑う無垢な声。その残滓がまだ耳に残っている。
 勝手に造られ、使い捨てられる命。仮初の人格、規格上の仕組みでしかない声と言葉。アレはヒトでない。そんなことはわかっている。わかったから飲み下せる、なんて簡単な構造を、人間はしていないのだ。
 この感情という独自機構をクラウスは特段誇りに思うことはない。だから、義憤に駆られる、というのとは、少し違った。
 ただただ、気分が悪い。
 チャイルドグリムの「代わり」もしくは「後釜」として放たれたバトラクス。チャイルドグリムとは対照的に物を言うことはない。ただ淡々と、目的のために敵を討つだけだ。
 レイン砲台を展開し、応戦しつつ、クラウスは駆け出す。目標地点に軽く目をやる。……上を目指す。
 ぞろぞろと出てくる集団の敵は一網打尽にするのが手っ取り早い。高所からの攻撃なら、対処は難しいだろう。
 が、そんなことくらいはあちらも当然織り込み済み。クラウスの前に一機のバトラクスが現れる。
 標的を定めている電子音、ほどなくして、銃口から掃射が開始される。
 が、その掃射音と重なるようにして、別の掃射音が、バトラクスを吹き飛ばす。
 吹き飛ばされたバトラクスは、地面に転がったが、再起動することはない。何故ならその球体が主である体は歪に溶けて消失していた。
 つんとした臭いを漂わせるそれの正体は【超強酸】。継萩・サルトゥーラ(|百屍夜行《パッチワークパレード・マーチ》・h01201)の放った√能力【ケミカルバレット】による攻撃だ。
 デッドマンにしたって継ぎ接ぎの多いサルトゥーラはそれを感じさせないほど清々しい表情をする。
「数の多い敵をまとめて吹っ飛ばすの、痛快だぜ! ぞろぞろ出てくるみたいだからな。全部塵にしてやんよ!」
 振り撒かれた化学弾により、接近するバトラクスには超強酸による攻撃が繰り出され続ける。確かに、この光景は爽快だ。
 とても助かる、少しの間、よろしく、と心中でサルトゥーラに祈りつつ、クラウスは階段を駆け上がった。
「お見事だな」
 少し距離のあるところからこちらに向かいつつ、周辺のバトラクスを迎撃していた斯波・紫遠(くゆる・h03007)が呟く。
 チャイルドグリムからの連戦。簒奪者、ズムウォルトが現れなかったことに、紫遠は納得していた。
(まぁ、あんなもんじゃ来ないわな。あちらさんからしたら代わりに廃棄処分してくれたくらいの感覚だろうし。腹は立つし、胸糞も悪いけど)
 それでも、来た当初から、目的が大きく変わったわけではない。倒すべき敵が変わっただけで、人々を護るという意思が挫かれた、なんてことはないのだ。
 香煙を手に駆けつつ、紫遠はタブレットを取り出した。
「アリスさんや」
『お呼びでしょうか?』
 端末から合成音声が応える。紫遠のタブレットに搭載されたアシスタントAIのIris、通称アリスだ。
「一体だけでもいいから、こいつら、同士討ちに持ち込めない?」
『その提案、一度ご自分である程度の試行錯誤をした上でのものでございますか?』
「え」
『作戦を思いついた、実践したい。詳細は|アシスタントAI《わたし》に任せればいいか、という考えは、「考える葦」と例えられた人間の最たる特性である「思考」を放棄する行い。決戦気象兵器「レイン」を預けられている兵士として名折れにも程があるでしょう』
 うわあ、と紫遠は顔を歪める。このアシスタントAIは今日も舌好調らしい。
 まあ、確かに何も考えずに丸投げはよろしくないかもしれないが、思考する暇も、試行錯誤する暇も、敵は簡単に与えてはくれない。それゆえに助力を乞うたのだが。
「ということはアリスさんも案なし」
『私を何だと思っているんですか?』
「ええと」
 機銃掃射の構えを取ったバトラクスに応戦するため、紫遠が言葉を選べずにいると、アリスは『呆れましたね』と告げる。
『持ち主が持ち物の名称を答えられないでどうするんですか。頭の回転がだいぶ鈍くなっているようですね。はっ、まさか、年……!? これは失礼致しました』
「滅茶苦茶言うね。僕まだ37よ」
『20歳すらおじさんおばさんと呼ばれるような時代にその主張は通用しないかと』
 駄目だ、勝てない、と紫遠は頭を抱えたくなる。アリスに舌戦で勝つ必要は一切ないのだが、ああ言えばこう言うで埒が明かない。
 そもそもの提案を忘れてしまいそうだ、と思い、再び口にする。
「で、あいつらの同士討ちはできそ? ムリそ?」
『回答はこちらです。伏せてください』
 アリスの淡々とした言葉に、ほとんど脊髄反射で体を伏せたのは、バトラクスの一体の銃口が、真っ直ぐこちらを見据えていたからだ。
 掃射音。
 それから、「バトラクスが」爆散する音。
「おっと?」
『あちらの方もハッキングで対処してらしたので、手伝いついでに、あちらのプログラムを流用。あちこちでフレンドリファイヤのバーゲンセールが起こっていますよ』
 どこかのアニメで聞いたような言い回し。あちらの方というのは、上方に向かいながら、追い縋るバトラクスに対処していたクラウスのことのようだ。バトラクスがフレンドリファイヤを起こしたことに驚きつつ、前に進んでいる。
 それはさておき、この短時間であれだけの語彙を発揮しながらやってのけるとは、口だけが達者なわけではない。さすがアシスタントAIである。
「ありがとう。さすがアリスさん」
『いえ。ですが、あとはご自分で対応してください』
 否やはない。アリスからもたらされた情報と、バトラクスの動きを見れば、バトラクスの誤射防止機能のあたりを弄ったというのは想像がつく。
 つまり、位置関係を考慮した立ち回りをするだけで、バトラクスは自滅してくれる。
 それでも、アリスとクラウスの術中に嵌まったバトラクスは一部であるし、バトラクスはそもそもの数が多い。サルトゥーラの【ケミカルバレット】で機能停止する個体もあるが、それだって特定の範囲内だけ。
 だが、この場には「レインメーカー」が二人。
「ほらほら、【ケミカルバレット】の範囲外だからって油断するなよ、バトラクス!」
 ソードオフショットガンで乱れ撃ちしつつ、【ケミカルバレット】の範囲にバトラクスを追い込むサルトゥーラ。ちょうど一箇所に集まってほしかったのでありがたい。
 サルトゥーラの√能力は敵に攻撃、味方にバフを与えるもの。レイン砲台を展開しながら、紫遠は躊躇なく【ケミカルバレット】の効果範囲に踏み入れる。
 瞬間、少し独特な匂いと共に、体に力が漲るような気がした。
「——今!」
 クラウスもタイミングを合わせ、√能力を発動させる。
 上空と地上、両方に火花を咲かせるクラウスと紫遠の【決戦気象兵器「レイン」】。
 威力100分の1とはいえ、300回に渡るレーザー攻撃。上方にいたバトラクスも、落下すればそこは【ケミカルバレット】の効果範囲で、成す術なく溶かされていく。
 痛快なほどに綺麗に噛み合った連携。感情のないただの機械を殲滅するのは清々しく、少しは溜飲が下がる。
「次に行こう」
 クラウスは油断なくレイン砲台を繰る。
 まだ、戦闘は続いていく。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

血祭・沙汰子
今回より同行の者あり。
私が冥土長を務める、√ウォーゾーンに存在する武装組織【地下秘密部隊「夢兎眠」】(旅団)、その兵士諸君(団員)が参加します。
・戌神様(戌神・光次 h00190)
・葵様(葵・総 h01350)
上記2名の援軍が到着予定です。
プレイングがそれぞれ間に合えば、最大3人での作戦参加。
間に合わなければ、間に合った人との作戦遂行。
最悪私一人でも作戦には参加します。

チャイルドグリム、殲滅完了。
これより帰投し…。
いえ、どうやら、まだのようですね。
いいでしょう。
敵個体、バトラクスと確認。
殲滅行動を継続します。

『兎は眠りて夢を見る。起きては全てを殺すだけ。』
地下秘密部隊「夢兎眠」、冥土長、血祭・沙汰子、続けて参ります。
全ての勝利を我が主の為に。
オールハイル、ナナリン。

戦場となる現地の障害物等を有効に使い、その陰に潜み、闇に紛れて潜伏。
敵が【血濡れの無限ハチェット】の射程距離内に入ったら攻撃を開始します。
攻撃は√能力【冥土長の暗殺】を使用し行います。
使用技能は暗殺一択。
中距離からの投擲、接近しての重い斬撃等、臨機応変に実行。
血濡れのハチェットは無限に出てくるので弾切れの心配はありません。
攻撃後は一撃離脱、闇に紛れ隠れ再度攻撃を行う、を繰り返す。
ハチェットは二刀流。

敵の攻撃に対して
結構厄介な爆弾を展開しているようで。
なるべく爆破させないよう、闇に紛れ、触れないように接近し、射程距離に入り次第攻撃を叩き込み、また離脱、を繰り返す、一撃離脱の戦い方で行きましょう。

また今回は、上記の通り、援軍も参加予定です。
彼らとも良く連携し、互いの長所を活かし、敵殲滅を遂行していきます。

味方との連携重視。
迷惑行動は行わない。
アドリブ可能。

無口、無表情な冥土長(メイド長)です。
淡々と必要な言葉だけ話す。
戌神・光次
【地下秘密部隊「夢兎眠」】メイド長の助っ人だ。
遅くなって済まなかった。
ちょいと仕事が…って言い訳は終わってからにするか。

メイド長は何時ものヒットアンドアウェイ戦法みたいだし
俺は積極的に前衛で戦うか。
「ビリオンノッカー」でバトラクスを吹き飛ばして別の機体にぶつけ
更に追撃で属性攻撃…サッカーボールをダイレクトシュートで叩き込む。
バトラクスも爆発する弾丸を撃ってくるようだが
繊細なタッチのボール運びもプロには必要でね。
爆発するする前に撃った御本人の方へ吹き飛ばしてワンツーパスするとしよう。
まぁアイツらの爆破属性も俺の「属性攻撃」の一種と言えるか?

俺の方は問題無いが、メイド長また無理してないといいがね。
葵・総
(連続しない程度の頻度ではあるが、「む」、と考え込んでから喋りだし、行動する性質を保有。
(可能なかぎり沙汰子様(h01212)、光次様(h00190)を優先的に援護、そうでなければ周囲至近距離の味方を援護する方針。
む。それでは……蒼き楽園に至る為の戦いを開始いたしましょうか。
(【連結現象】を発動し、融合体である、液体金属の様なそれを支援対象に接続することで演算等の一部思考を代理で行い、支援する。
証明確認。これよりサポートを開始します。皆様には、蒼き楽園の加護がございます。どうか、存分にその能力を振るわれますように。
(戦闘が終われば、残骸の前に跪いて微笑む。
いつか。蒼き楽園にて再会しよう。

●眠れる兎を揺り起こす勿れ。微睡みの幸せを望むなら
「チャイルドグリム、殲滅完了。これより帰投し……」
 チャイルドグリムが戦場から消滅したことを確認した血祭・沙汰子(夢兎眠の冥土長・h01212)は帰投のため、踵を返しかけたが、機銃の掃射を横に跳んで避ける。
「まだのようですね」
「遅くなってすまない」
 そこに眼帯の男が一人。沙汰子と同じ「夢兎眠」所属の兵士、戌神・光次(|自由人《リベロ》・h00190)である。
「ちょいと仕事が……って言い訳は終わってからにするか」
「ええ、その方が良いでしょう」
 すた、と沙汰子と光次に歩み寄る青髪の少女。——否、少女のように長く麗しい髪と容貌を持つが、彼、葵・総(青き蒼き星よ・h01350)は男である。齢10、二次性徴がまだ来ていない年齢故、男女の見分けがつかないのは無理もないこと。
 それにしたって、異様に端麗な容姿であるが——というのはさておき、総もまた、「夢兎眠」の一員である。
「さあ、繋ぎますよ」
「はい」
「よろしく頼む」
 総が自分と融合している液体金属のような何かを沙汰子と光次の方に伸ばし、接続する。
 【|連結現象《リンケージ・フェノメノン》】。接続により、相手の思考等の演算を総が肩代わりすることで、命中と反応を補助するもの。
「証明確認。これよりサポートを開始します。皆様には、蒼き楽園の加護がございます。どうか、存分にその能力を振るわれますように」
 総のサポート体制が整ったことを了解すると、沙汰子は利き手のハチェットを僅かに持ち上げ、光次は仄かに光るインビジブルボールを地面に放る。
 沙汰子がハチェット越しにバトラクスを見据え、宣告する。
「兎は眠りて夢を見る。その手に勝利を掴むまで。——地下秘密部隊『夢兎眠』冥土長、血祭・沙汰子、続けて参ります。
 全ての勝利を我が主の為に。
 オールハイル、ナナリン」
 詠唱のようなそれ。誓いのような決まり文句を残すと、沙汰子の姿は闇に溶け、認識できなくなる。あんなに戦場に映える赤髪も、わからなくなる。
 それとは対照的に、溶けることなく佇む青い花のような存在。総に向けて、バトラクスたちは機銃掃射を始める。
 が、それらはバシュ、という音と共に、吹き飛ばされた。
「ボーリングじゃないけど、上手く倒せたな」
 そう嘯くのは光次。元サッカー選手という実績を「蹴球|格闘者《エアガイツ》」に落とし込んだ光次の攻撃手段の最たるものは、蹴りによる攻撃だ。
 長年の鍛練、研鑽の結晶として紡がれるは√能力【ビリオンノッカー】。幸か不幸か、バトラクスはほぼ球体。ボールなら扱い慣れている。
 というわけでバトラクスを蹴飛ばし、別のバトラクスにぶつけたわけだが、上手い具合に周辺のバトラクスを五、六道連れに倒した。次いで、属性攻撃によるシュートを繰り出していく。
 バトラクスも負けじと【人間狂化爆弾】の爆破攻撃を繰り出すが、爆弾もまた球体に近く、球体に見立てられれば、光次の足で操れないものはない。『ボールは友達』というやつだ。
(まあ、【爆発】もそういう【属性攻撃】にあたるだろうからね)
 自らが起こしたはずの爆撃に呑まれていくバトラクス。声も感情もないただの機械が吹き飛ばされていくのに、一ミリだって心が動くことはない。あったとして、せいぜい「滑稽だな」というくらいだろう。
 それでも数はごろごろといる。
「こっちも忘れてもらっちゃ困る」
 光次は本来の|得物《マイボール》、インビジブルボールを蹴り、バトラクスたちに放つ。【吹き飛ばし】の技能攻撃が付与されたボールに当たったバトラクスが盛大に飛び、不運にも見つかってしまった、彼女に。
 音もなく闇から現れ、振り抜かれるハチェット。その凶刃は寸分の迷いもなく、バトラクスを破壊する。
 「夢兎眠」の冥土長、血祭・沙汰子。その赤髪は血液を持たないバトラクスの代わりのように広がり、ふわりと空気を孕んで、瞬き一つのうちに消える。
 それでも、消える寸前、沙汰子に繋がれた鈍色の光を追いかけ、断ち切ろうと機銃を掃射するバトラクスがいた。
(む。……沙汰子様の邪魔はさせません)
「光次様」
「ああ」
 総の呼びかけに、短く応じる光次。みなまで言わずとも、二人の思うところは同じ。次の瞬間には光次はジャンプ、沙汰子を狙うバトラクスの真上に着地し、踏み潰していた。
 こんなことで沙汰子が負けないのは知っている。一騎当千と称しても過言ではない、完成されたヒットアンドアウェイ戦法。そのために磨き抜かれたたった一つ。その徹底ぶりには、光次も総も畏敬の念を抱く。
 が、|一騎当千《ひとりでだいじょうぶ》が故に、無茶をするのが彼らのメイド長であることも知っていた。
 自分たちが摘む懸念の芽を、彼女は知らなくていい。
(ただその才が過不足なく振るわれるように)
 総は祈り、接続に再度集中する。
 【ビリオンノッカー】による多種多様のボールが飛び交い、バトラクスも飛び交う中、時折闇より出でて、バトラクスを存在ごと拐っていく血濡れのハチェット。範囲攻撃ではないが、一撃一撃で、確実にバトラクスを破壊、機能停止させ、着実に数を減らしていく。
 それでも残るバトラクスは悪運が強いか、優秀な個体なのだろう。そのため、狡猾にもサポートに徹する総を狙った。
 【バトラクスキャノン】の弾丸を、総の足元目掛けて放つ。
 弾丸を避けられたとして、待つのは着弾地点から広がる範囲攻撃。接続した二人の行動範囲を制限しないために、総は自由に動けない。そう読んで【爆破】攻撃を与え、サポートから崩そうという魂胆。
「あなたたちが思いつくことに、何故私たちが思い至らないと思ったのでしょう?」
 ハチェットが、投擲されて、突き刺さる。そこに追い討ちをかけるように、恐ろしいほど精密に、同じ箇所にハチェットが打ち込まれ、バトラクスの機械の体を打ち砕く。
 攻撃すらままならない。圧倒的な統制と制圧力。
 闇に紛れ、夕暮れに伸びる影の中より、その形を掴ませない「|殺戮者《アンサツシャ》」の手が伸びる。
 バトラクスが、魔の手から逃れる術なく、闇に切られ、裂かれ、声もなく、散る。
 その手は、血濡れのハチェットを握り、かかった者を悉く、冥土へ誘う。
『兎は眠りて夢を見る。起きては全てを殺すだけ』
 詠唱が響く。
 光次が、最後のバトラクスを蹴り上げる。その先、狙い澄ましていたかのように、彼岸を思わす赤髪が広がり、血の代わりにバトラクスのオイルに濡れたハチェットを携え、顕現する。
 その姿を、バトラクスが視認できたかは知らないが。
「全ての勝利を、我が主のために。|我が主に栄光あれ《オールハイルナナリン》」
 戦場に永劫なる沈黙を。
 勝利を。
「いつか。蒼き楽園にて再会しよう」
 赤き冥土長の膝元で、蒼き天使が微笑んだ。
 ボールでなくなった残骸を自由人がくしゃりと足で小突き、この戦場は終演した。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 日常 『夜空の下で』


POW 賑やかに過ごす
SPD 考えて過ごす
WIZ 静かに過ごす
√EDEN 普通5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●誰も覚えてはいないだろう
 夜が訪れた。
 建物の損壊はあるものの、人的被害はなく、襲撃者を挫くことができた。損壊したのも建物くらいなら、√EDENに根強く存在する「忘れようとする力」で修復されていくことだろう。
 通りがかった一般人が、√能力者たちの戦いを目撃したかもしれない。けれど、それも彼ら自身が内包する「忘れようとする力」で忘却の海の向こうへと浚われていく。
 あなたたちの活躍を知る者はなく、今日の出来事は、公的記録に残りはしない。
 けれど、星空は、あなたたちを見つめている。
 あなたたちをここに導いたのも星だ。その責があるからか、何なのかは知らないが、星はずうっと、見つめてくれている。
 あらゆる悲劇も惨劇も。誰かを襲う悲しみも苦しみも——その向こうにあるかもしれない喜びや幸せも。
 星はずうっと見守っている。

 |星詠み《ボク》が残すのは、忘れられゆくあなたたちを、忘れさせないため。
 星注ぐ空の下、あなたたちに心穏やかなひとときがあらんことを願う。
血祭・沙汰子
【SPD】考えて過ごす。
【夢兎眠】で参加。

これまでのチャイルドグリムの出現パターンや、その行動目的。
十中八九、これらは誰かが仕掛けたもの。
このおぞましい兵器、これまで各地で様々なタイプと戦いましたが。
その目的は?
例えば。
赤子の声を使う意味。
子供の声を使う意味。
人間はこういったか弱い存在に対して、近づき、守ろうとする。
無警戒に。
結果、誘き出し、効率よく、人間を処理出来る。
理にかなっています。
しかし、本当にそれだけ?
例えばこれは、実験…?
これまでの戦場で、見たことがなかった、チャイルドグリム。
それが、最近になって、一気にあちこちで出現した。
何の為に、テスト?
敵の目的は、チャイルドグリムの運用試験?
葵・総
【SPD】考えて過ごす。
【夢兎眠】で参加。
(「む」、と考え込んでから喋りだし、行動する性質を保有。
む。蒼き楽園ははこれにて護られましたね。まずはお疲れ様でございました、沙汰子様、光次様。
む、しかし……まだまだ楽園にはこの後も障害が迫ってくるのでしょうね。いずれ、蒼き楽園にて集い、再会する。その道のりはまだまだ険しい模様です。
(折角なので軽く復興の手伝いを行う
(ついでに敵の残骸を見つければ、掃除ついでに可能であればこっそり回収する
(回収した残骸を解析、分析する
……むぅ。泣くしかない、赤子。欲しがるしかない、赤子。
……えぇ。貴方達もまた、同じ。私と同じ。
……いつか。蒼き楽園で、再会しよう。
クラウス・イーザリー
(どんな世界でも、星は変わらず綺麗だな)
そんなことを考えながら、念の為街を見回るよ

チャイルドグリムの声が未だに頭の中に響く
別に後悔はしていないし、トラウマになった訳でもない
簒奪者に怒りを覚えているということもない
また同じ存在と相対したら同じように倒すだろうし、感情で手元が狂うことも無い
ただ何となくもやもやだけが残る

(悲しいんだろうな、俺は)
哀れな命にだろうか、それともそんな命を奪うことを『当たり前』『仕方ない』と認識している己に対してだろうか
上手く結論は出せない

そんな感じで、ぐるぐる考えて物思いに耽りながら夜を過ごすよ

※アドリブ、絡み歓迎です
戌神・光次
【夢兎眠】
とりあえず無事に終わったようだな。皆お疲れさん。
メイド長も葵も大したダメージは無くて良かった。
俺は…電子煙草を少し吸ってる間に回復する程度だろう。
今、持ってるのはマスカットフレーバーだったか。
気分には合ってるな。吸っていくか。
……メイド長、またなんか考えこんでるな。
無理してなきゃいいんだが。
ああ、そうだ。今日はもう1本持ってたか。
こっちは確かマンゴーフレーバー。メイド長、吸うかい?
ニコチン入ってないから噎せたりはしないはずだ。
使い捨てタイプだし、そいつはあげるよ。
こういう心を落ち着ける物を持っているのも悪くないもんさ。
斯波・紫遠
絡みアドリブ大歓迎
苗字+さん、くん

最優先事項は達成出来たので個人的には良し
でも、このままってのも味気無いからね
戦った場所をうろうろしながら、タバコでも吸おうかな

誰か先客が居れば邪魔しないように
話しかけられれば話し相手に、基本は聞き役

今回の騒動をアリスさんに聞いてみる
バドラクスの回路構造の癖でも
首魁の思考パターンでも
なんでも良いから話してよ
(アリスさんの口調はおまかせ、
この時ばかりは辛辣さはちょびっと希望です)

バトラクスの残骸、チャイルドグリムの遺骸
それらを暫く見て、黙祷
ソコには確かに、イノチはあったはずだから

●星は何時だって、
(どんな世界でも、星は変わらず綺麗だな)
 ふと空を見上げ、燦然と輝く星にクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)はそんな感想を抱いた。
 黄道十二星座はどの√にも存在し、故に、√能力者であれば、その性質の善悪問うことなく、星詠みの託宣は与えられる——どこかで聞いたそんな文言が、脳裏をよぎったが、それはふとした拍子に見失う星のように、瞬いて消えた。
 戦闘は終わった。けれど、念のためと思って、クラウスは見回りをしている。バトラクスは全て機能停止させたし、チャイルドグリムは消滅した。が、残った機械片の中で回路が生きていたりしたら、その鉄屑自体は何もできないかもしれないが、発熱で人に火傷を負わせる、なんてこともあるかもしれない。
 忘れることができないでいる一般人がいたら、それは√能力者の萌芽だろう。悪に傾く前に保護した方が良い。……存在するかは、わからないが。
 そうして、回っていると、戦地で見た顔がいた。街の復興を手伝っている様子。
「蒼き楽園を守るために、共に戦ってくださった方ですね」
「あ……はい」
 声をかけるつもりは毛頭なかったのだが、あちら——葵・総(青き蒼き星よ・h01350)もクラウスに気づいたらしく、穏やかに微笑んで、こちらを見ていた。
 蒼き楽園? とも思ったが、ここは√EDEN、約束の地とも呼ばれ、抵抗戦力がないにもかかわらず、平和に溢れているため「最もか弱き楽園」とも呼ばれている。地球は「蒼い星」とも呼ばれるから、その辺が合わさっているのだろう。
「む、しかし……まだまだ楽園にはこの後も障害が迫ってくるのでしょうね。我々はこれからも、それらを退けなければなりません」
「そうですね。そうしたいです」
 少し独特な総の言い回しに戸惑いつつ、クラウスも相槌を打つ。
 語る総の蒼い目は、どこか遠くを見据えているように見えた。
「いずれ、蒼き楽園にて集い、再会する。その道のりはまだまだ険しい模様です」
 語りながら歩を進め、総は散らばっていた機械片を回収する。肉片らしきものが見られることから、チャイルドグリムのものだろう。

『オカアサン、アソボ!』

 クラウスの中に、不快感が揺蕩う。
 総の行動が不快だったわけではない。ただ、チャイルドグリムを思い出すと、戦場に似合わぬあの楽しげで無垢な声音が蘇る。頭にこびりついて離れない呼び声が、心の中に澱を募らせていく。
 後悔、憤怒などの激情があるわけではない。心的外傷にもなっていない。また同じ存在を相手にすることとなっても、平常心で向き合い、手元を狂わすことなく対処できる確信すらある。
 ただ……どうしても、心の中に不定形のナニカが居座る。それが引っかかるだけ。
(悲しいんだろうな、俺は)
 少し、一人で考えたい気分になってきて、総と別れようと顔を上げる。
 会釈でもしようと思ったが、少し疑問が浮かんで、総に尋ねた。
「それ、どうするんです?」
 総の手、および総から伸びていた無数の液体金属のようなものが拾い上げた、チャイルドグリムの破片。
 少し、行き先が気になったが、総はなんでもないように笑みを返した。
「片付けるのですよ」

 少し離れた場所で。日もすっかり落ち、人気のない中を一人で歩いている人物がいた。
 損壊の少ない少し外れの店先、古びた「たばこ」という看板の脇に収まり、シガレットケースを取り出したのは斯波・紫遠(くゆる・h03007)だ。
 年季の入ったオイルライターのフリントホイールを弾く。ぼうっと浮かぶように暖色の炎が現れた。
 紙タバコの先にそおっと灯された灯火は、暗がりの中でぼんやりと存在を示す。紫煙に見え隠れしながら。
「アリスさんや」
『なんでしょう?』
 呼べば、タブレットに搭載したアシスタントAIのIrisが即座に応じる。涼やかな女性の声を模した合成音声が、夜空の下でより澄み渡って聞こえる。
「バトラクスの回路構造の癖でも、首魁の思考パターンでも、なんでも良いから話してよ。今回のことについてさ」
『ほう、戦闘時に引き続き、随分と丸投げな内容ですが』
「ごめんて」
『そうですね。首魁の思考については、今回の星詠みの予知を聞いてから、気になっていたことがあります』
 アリスの返答に、紫遠はお、と思った。いつもなら過剰なまでに添えられる毒や棘がなかった、というのもそうだが、星詠みの予知を聞いたときから、というのは興味深い。
『√ウォーゾーンの機械戦闘群が、|完全機械《インテグラル・アニムス》に至るための提唱理論の不一致により、派閥割れを起こしているのは√能力者の間でも周知の事実。『|派閥《レリギオス》』は今、確実に把握しているものだと「全生命殲滅による地球の完全機械化」、「スーパーロボットへの進化」、「堕落した人間の中にある『悪』の抽出」の三つでしょうか。今回はこのどの派閥にあたるのか、不明瞭な部分が多く、気になっているのです』
 確かに。『チャイルドグリム』が撒かれたことに、何かの意味があるようだった。それが「実験」の意味合いが強かったとして、これまで把握している三つの派閥に嵌まりきらない気がする。
「まあ、敢えて言うなら『悪の抽出』とやらが近そうだね」
『私も概ね同意です。ただ、断定はできません。今回の首魁は『レールガンアンドロイド『ズムウォルト』』とのこと。『ゼーロット』『リュクルゴス』『ランページ』などのわかりやすい|王権執行者《レガリアグレイド》ではありません。本人も現れなかったため、どの派閥かもわからずじまいです』
「……はあ。釈然としないことばかり。まあ、簒奪者が何を考えてるかなんて、わからない方が幸せなのかもしれないね」
 タバコをふかす。少し濃いめに吐かれた煙が、景色を曖昧にした。
 会話にだけ耳を傾けていた血祭・沙汰子(夢兎眠の冥土長・h01212)が瞑目する。夜の静寂は思考を整頓するのに最適だ。
 特に今回、気になることといえば——
(——チャイルドグリム)
 オカアサン、オカアサン、という声が、沙汰子の脳裏にも蘇る。
 勝利のために力を振るうことを厭わない。全ての勝利を主のために、という志がぶれることはない。それでも、よぎった疑念を放置することはできなかった。
(このおぞましい兵器、これまで各地で様々なタイプと戦いましたが。その目的は?
 例えば——赤子の声を使う意味、子供の声を使う意味)
 沙汰子は考える。敵の思想を理解する必要はない。が、敵の思考回路は理解していて損はない。星を詠まなくとも、思考回路に理解があれば、敵の次なる行動を予測できる。それは戦術的にかなり大きな価値のあることだ。
 敵の目的を理解していれば、その達成を挫く方法を導きやすい。思考することに、無意味なことなどない。
(わざとらしいほど、無垢な声。|合成音声《ツクラレタモノ》だとしても、人間はこういったか弱い存在に対して、近づき、守ろうとする。無防備に、無警戒に。
 結果、誘き出し、効率よく、人間を処理出来る。理にかなっています。
 しかし、本当にそれだけ?)
 深く深く耽る。

 そんな沙汰子をちら、と気にしながら、戌神・光次(|自由人《リベロ》・h00190)は一旦紫遠の近くに寄っていた。手には電子タバコ。紫遠の持つ紙タバコと違い、ニコチンやタールを含まないとはいえ、等しく喫煙である。マナーは守るべきだ。
「お隣、失礼するよ」
「ええ、どうぞ」
 軽く目配せと共に会釈を送ると、同様に会釈を返してくる。
 過干渉はあまりよくないだろうが、アシスタントAIとの会話を少し聞いていたため、光次は興味のままに質問を口にする。
「面白いことを話していたね。戦況整理とは感心なことだよ」
「はは、そんな大したもんではないですよ。参考までに……ええっと、名前は」
「戌神だ。お前さんは?」
「斯波です。参考までに、戌神さんの考えを伺っても?」
 んー、と軽く考え、光次は口にする。
「そうだなぁ。大した怪我なく終わって一安心、くらいにしか思っていなかったけど」
 手慰みにしていた電子タバコを確認する。マスカットフレーバーとあった。
「まあ、わかりやすく悪辣だよな。赤ん坊の声を利用するとか。バトラクスも含め、使い捨て感が否めないのは俺も気になってる。小手調べみたいな感じだったのかねぇ」
 言い終えると、ゆっくりと蒸気を吸い込む。口内に少し留まらせれば、ふわりと甘みのある爽やかなフレーバーが感じられた。
 すっきりとした味わいは、今の気分に合っていた。話し終えれば、光次も紫遠も言葉少なになり、煙が沈黙と共に漂う。
 光次は星も景色も見ず、何やら考え込んでいる沙汰子を見た。
(負傷はないみたいだけど、かなり考え込んでるな。本人は無理なんてしていないつもりだろうが……)
 すう、ともう一つ吸うと、煙が出なくなった。流れで新しい使い捨てタイプを取り出し、ふと思い立つ。
 すたすたと沙汰子に歩み寄れば、沙汰子も光次に気づいたようで、すっと静かな紅を光次に向ける。
「メイド長、吸うかい?」
「……タバコは」
「あー、ニコチンとか入ってないから、噎せないとは思うよ。マンゴーフレーバーだ」
 マンゴー、と聞いて、沙汰子の中から思考がかき消える。マンゴーが大好物、というわけではないが……南国果実というものは、思い浮かべると時折、やけに脳の容量を食う。
 受け取りはしたものの、当惑している様子の沙汰子に、光次は吸い方を教えつつ、告げる。
「こういう心を落ち着ける物を持っているのも悪くないもんさ。タバコじゃなくてもいい。メイド長も、なんかこういうの、探してみたら?」
「そうですね」

 誰も見ていない場所で、総は回収したチャイルドグリムの残骸をそっと広げた。
 液体金属を接続、証明確認、解析……
「……むぅ。泣くしかない、赤子。欲しがるしかない、赤子」

『オカアサン、オカアサァァァン』

 声が聞こえた気がした。
「……えぇ。貴方達もまた、同じ。私と同じ」
 慈しむように目を細め、残骸たちに彼は告げる。
「……いつか。蒼き楽園で、再会しよう」

「送り火にしちゃ、お粗末だがね」
 紫遠は苦笑混じりに呟きながら、何本目かのタバコに火を点ける。
 その眼前には、チャイルドグリムやバトラクスの残骸。掃除して帰ることにはなるだろうが、今はまだ手付かずのそれらに、黙祷を捧げる。
 そこにイノチはあったはずだから。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

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