王様のハンバーガー
共に請け負った依頼を終えた、日曜日の昼下がり。
一見涼やかにも見える着物姿の神隠祇・境華(h10121)が、うだるような暑さにぼんやりとした顔を指を揃えた手で扇ぐ。その隣では冬月・楠音(h01569)が、汗に濡れ身体に張り付こうとする制服をパタパタと引っ張りながら、漂ってくるお昼時の美味しい香りを爛々と楽しんでいる。連れ立って歩く二人は一緒に腹拵えをしてから解散しようと、歩道に面する飲食店の看板をしきりに見上げていた。
沢山動いたからカロリーをガツンと補給したかったけれど、残念なことに日曜日は楠音が大好きなラーメン屋さんがお休みだ。
どの飲食店へ入ろうと悩んで彷徨っていたけれど、とっておきのハンバーガーチェーン店が近くにあるという楠音に従うことにして、もう暫く頑張って歩くことにした。
「じゃーん!ここだよー!」
辿り着いた店舗を背に、両手を広げた楠音が振り返る。
「こちらのお店ですか。初めて入ります……」
「たぶん、境華はおどろくんじゃないかなー」
初心者の反応を期待して笑う楠音の後を、緊張の面持ちで境華が追う。開いた自動ドアから漂う冷たい空気へ互いに表情を緩めた。
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注文の待機列が進み、境華の順番がやってくる。待つ間にメニューを決めかねてしまい、店員さんからお勧めを聞くことにすると、夏季限定メニューから一番シンプルなものを紹介される。
「では、その期間限定のものを。飲み物は、烏龍茶でお願いします」
「カスタマイズ出来ますが、どうされますか?」
「カスタマイズ……?」
トッピングの増減も出来るらしい。どうしようと悩んだ時、隣のレジに立つ楠音が「えとねー、じゃー、ダブルステーキバーガー!のみものはコーラ!」と元気に注文をしていて、思わずばっと横を見た。
(ダブル……ステーキ……?)
楠音と商品の写真を交互に見て食べきれるのか心配していると「カスタマイズはオールヘビーとー、BBQソースましでー!パティはいいやー、それでおねがーい!」と、楽しそうにサクサクと注文している。
「迷いがありませんね」
「うん!ましましにするとおいしーよー!」
驚くとはこのことかと納得し、待たせてしまった自分の注文へ戻る。カスタマイズは無しで、サイドメニューも丁寧にお断りをした。自分より小さな楠音がサイドまで頼んでいるから、もし万が一サイドまで食べて腹十分目を超えてしまえば、残ってしまった時にお手伝い出来る自信が無い……。
二人とも注文を終え、空いている席を探して向かい合って座る。
品を待つ間も楽しそうな楠音に境華はふっと微笑んだ。
「楠音さん、とても楽しそうです」
「うーん、そーかなー?」
考える仕草をした楠音が、あっ!とその理由に辿り着く。
「おいしーものをそのまま食べるのもおいしーけど、それをじぶんごのみにカスタマイズするのって、すっごくワクワクするんだー」
その言葉を聞いて先程の、プレゼントを選んでいるみたいに輝いていた楠音の様子を思い浮かべる。
「しっぱいもたまにあるけど、それふくめて、けーけん!」
「失敗も、経験……」
前向きな言葉や目の当たりにした表情に背中を押される心地がして、少し考えてから柔らかく微笑む。
「私も次は、何か一つくらい変えてみてもよいのかもしれないと思えてきますね」
「どんどんかえてこー!境華のすきなくみあわせ、みてみたい!」
話しているうちに注文した品を店員さんが席まで届けてくれて、境華はやっと真の驚きを知る。
デカい。
楠音のものはもう少し膨らみがあって、ポテトまである。
夢でも見ているのかという光景に瞳を輝かせた。
「……写真で見るより、大きくありませんか?」
「そだねー。ここのチェーン、よく『逆写真詐欺』っていわれるしー」
「逆、写真詐欺……」
バーガーの大きさに驚く境華を嬉しそうに見た楠音が、慣れた手つきで包みを解いていく。
それを参考に恐る恐る慎重に持ち上げて、境華も包装を摘んで開いた。
視界いっぱいのふっくらとしたバンズと、美味しそうなパティの肉感、はみ出る程の野菜。戸惑う境華を優しく微笑んだ楠音が見守る。
「……崩さずに食べられる場所が、見当たりません」
「ゆっくりでいーからねー!」
「はい……」
何処から食べたものか、困惑しながら観察する境華と反対に、大口を開けた楠音は頬をいっぱいにしてもきゅもきゅと豪快に食べ始めた。その食べっぷりときたら、感心するほどだ。
「んー、やっぱりBBQソースはステーキにあうあうー」
「本当に、迷いがありませんね……」
顎が抜けそうと思いながらも、その姿を見ると涎が溢れて……意を決し、これまでで一番大きいであろう口を開けて境華も齧り付く。
沢山動いて塩分なんかを失った今、直火焼きの香ばしいビーフパティや牛ステーキから染み出る脂が凄く甘く感じる。このバーガーの為に用意されたブラックペッパーの効いた特製ガーリックマヨネーズソースは、バターでソテーしたオニオンの甘みが味わいに奥行きを出していて、その濃い味をシンプルなバンズが優しく中和してくれた。
瑞々しい野菜達も味わいにバリエーションを与えてくれて、こってりガツンと疲れた身に染みるのに、この大きさでも飽きること無く食べられそうだ。慣れなくてもたつくけれど、本当に美味しい。
楠音のダブルステーキバーガーは多分、このステーキが倍で、BBQソースがベースの味で、色々トッピングしてあって……?野菜もまた違うのだろうか。それもまた美味しそうとちらりと見れば、視線に気付いた楠音と目が合う。脂で艶めいた口を親指で拭いそうになってから紙ナプキンを持つ所作に、くすりと笑ってしまう。
「……だいじょーぶー?」
度々包みを下げて持ち直しているのを心配したのか、声を掛けられ小さく頷く。
「だ、大丈夫です。これでも、かなり頑張って食べています」
零さないよう慎重に食べ進める。時々持ち方を真似ようと楠音を見る度にバーガーが小さくなっていて、包装紙も綺麗だ。比べて恥ずかしくなってしまったけれど、「おいしー?」と朗らかな笑顔を向けられ、上手く食べられなくて恥ずかしいではなく一緒に楽しみたいと思えてはにかんで頷いた。
そんな境華へよかったと笑いかけ、楠音は三分の一に減った残りへ齧り付く。
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楠音が難なくポテトまで完食して少し経ち、境華も無事に食べ終わる。
「ごちそうさまです……」
「おつかれさまー!」
「……確かに、少し大仕事を終えたような気持ちです」
すっかり包装紙だけになった楠音のトレイを見ながら烏龍茶の残りを飲み、満面の笑顔を浮かべた楠音の言葉へ境華は深く頷いた。
「でも……チェーン店ですが、ご馳走を食べた気分です。とても美味しかった……次は何を食べようと思わされますね」
ほっと息を吐き水滴を浮かべる紙コップを指先で撫で、満腹でとろんとした目を瞬いていたけれど、楠音の豆知識を聞いて再び瞳を輝かせることとなる。
「そだねー、きかんげんてーもいろいろでるよー。あと、ハーフカットっていうとはんぶんにきってくれるよー」
「半分に切っていただくこともできたのですか?……もう少し早く知りたかったです。次はそのようにしてみましょう」
「うんうん!またこよーねー!」
普段は冷静で大人びた境華が、ほんのり頬を染めて微笑んでいる。
いいものみれたなーなんて、楠音は食事の楽しみを改めて噛み締めた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴 成功