雷光のチェイス
「悪いんだが、急ぎの仕事をこなしてくれないか? かなり急ぎなんで、今すぐ行って欲しいレベルのやつ」
「……は?」
喫茶店『ぺとりこ』のマスターであり、黄・夜巡にとって恩人でもある碧波・海晴からの言葉に、思わず間の抜けた声が出てしまう。
√仙術サイバーの、名古屋Ⅴ。
程々に平和な方ではあるが、武力な世界において完全に穏やかとは言いきれず。海晴が言うには、店に届くはずだった荷物が盗まれてしまったというもので、喫茶店経営にも支障が出るから取り急ぎ動いて欲しいと頼まれる。
何だかんだあれど、孤児だった自分を助けてくれたオーナーに不義理を働くなんて出来るわけもなく、夜巡は迷いなく引き受けると、早速外へ出て【|仙術自転車《通称:ケッタ》】に跨り犯人が通ってるらしき道を目指して漕ぎ出しだ。
▽
『ヘッ、これを他所に高く売りつけようなんてなぁ。アニキ、賢いッス!』
『貧困層なら、喉から手が出るほど欲しがるはずだからなァ? 高くても娯楽品欲しさに金をかき集めるだろうさ』
盗んだものを手にし、ギャハハと笑いながら幾らで売りつけてやろうかと悪事を企むのは強盗と悪徳商売で名の知れた悪党達。大きな組織を束ねるボスに比べたら全然下ではあるが、数で群がる簒奪者として民間人を襲い続けている。
ゲラゲラと下衆な笑いが聞こえ、夜巡はケッタを漕いで駆けつければ、悪党達の手に盗品を持っているのを視認。コイツらが犯人かと警戒を強めつつ、自転車から降りてジッと睨み付けた。
「それ、盗んだものだろ。オレのところに取り返して欲しいって依頼が入ったからな、盗んだものを返してもらうぜ!」
『アァ?! 返して欲しいだってよ?』
『んな事するわけねーだろ! んじゃ、アバヨ!』
「ハァ? あの、えーと、逃げた? 逃げたなあ。いや逃げんなよ! ちょっとー!」
悪党達はそれぞれバイクへ跨り、下層へと向かって走り去る。それを見て一瞬だけ唖然としてしまうも、逃げられた事にハッとして急ぎケッタに跨って力いっぱい漕ぎ始めた。
バイクと自転車、普通なら追いつくのも大変ではある。
だが、夜巡のケッタは高速駆動も可能にしている仙術機械のため、バイクに追い付くのは簡単で。まさか追いついて来るとは思わず、悪党の一人が目を丸くして驚きを見せていた。
『アニキ! あのガキ、自転車で追い付いてきたッスよ!!』
『ただのガキじゃあねぇって事か。だが、オレらに喧嘩売るなんざ早えんだよ!!』
悪党らはバイクのスピードを上げ、前方を走る車を避けていく。夜巡は同じように車を避けながら追い掛けつつ、利き手には霊銃【雷精九鼠】を構えて漕ぎながら狙いを定めた。
「オレの弾丸からは逃げられねぇぜ! 三千世界のどこへ行こうと隅々まで追いかけて、必ず撃ち落としてやる!」
マスターからもらった10匹の使役獣【雷素トビネズミ】のうち9匹は弾丸へと姿を変えれば、構える精霊銃へ装填されて【|霊弾『雷公夜行』《エレメンタルバレット・オーバーストライク》】を発動。
「落ちろ!」
雷属性の弾丸を悪党へ撃っていくが、器用にするりと避けられてしまう。だが、避けられたとて狙いは別にある。悪党よりも前に着弾するように狙いをつけていたのもあり、避けられた後に巻き起こる爆発で悪党の何人かが吹っ飛ばされていった。
『爆発!? クソッ、あっちも手練か!』
「ちょこまかとこざかしいんだよっ! ぼちぼち落ちとけっ!」
爆発から逃れようと広い道から、視界が少し悪い細道へと入っていくのを追い掛けながら、盗んだものに被害が出ないよう気を張りながら夜巡は射撃を続ける。
やはり低級とはいえ簒奪者でもあるため、なかなかに厄介。いや、面倒な相手。ちょこまかと逃げていく様子に、夜巡はどんどんイライラしてくるわけで。ましてや、下手に行動を広げられると民間人を巻き込む可能性が高くなってしまう。
それだけは避けたいと、夜巡は霊銃を構えたまま【|霊弾『雷公百鬼行』《エレメンタルバレット・ストームパレード》】を発動。
「叫べ雷鳴っ! とっておきだぜっ!」
何度も撃って爆発を引き起こしつつ追いかけながら、密かに使役する雷素トビネズミからのエネルギーをチャージしていた。見える景色は下へ下へと降りて薄暗い下層の|無法地帯《スラム》へと近付いている。このまま走り続ければ、民間人の住む住宅街まで辿り着いてしまうのもあり、そろそろ完全な足止めをしようと雷属性の弾丸を悪党のリーダー格へ乱れ撃った。
『そんな弾、当たるわけが……ッ、何?!』
左右へ蛇行しながら避け続けるが、バイクのタイヤに弾丸が撃ち込まれた事で弾ける音と共にパンク。スピードに耐えきれず、バランスを崩したリーダーはシャッターの閉まる店へ衝突した。
『ぐあっ! クッソ……ガキが調子に乗りやがって!』
「もう逃さねえッ! ここでお前らの悪事は終わりだ!!」
残り一匹の【雷素トビネズミ】が取り憑いた霊刀【雷刃一鼠】へと持ち替え、夜巡はリーダーとの一騎打ちを挑む。ぶつかった衝撃で攻撃の動きが鈍いのもあってか、拳を振りかぶられたとしてもひらりと避け、そして──夜巡は全力込めて渾身の一撃を放った。
『グワァアア!』
夜巡による攻撃がトドメとなり、リーダーはその場に倒れて動かなくなる。倒せたのを確認してから、盗まれたものを回収。中身を確認してみると、今回盗まれたのは喫茶店で使われている珈琲豆だった。
「これか、盗まれたの。そりゃ確かに急ぎって言うよな。……スカッとしたけど、あー、しんどかった。トータルではしんどい寄りかなあ。帰って寝よ」
盗まれたものは取り返した。
マスターからの頼み事ではあるが、何でも屋としての仕事もこれで一件落着。
夜巡はケッタに乗り、バイクとのチェイスしてた時よりも安全なスピードで喫茶店へと帰還するため走り出す。
自転車が機械だったからこそ出来たチェイスだが、爽快感よりも疲労感のあるものはしたくないなぁと改めて振り返る。でもちょっとだけ、テレビ等でよく見る警官と犯人のカーチェイスの気分を味わえたのは満更じゃなくて。
たまに、ホントたまにだけならば、こういった形で敵を追いかけるのも悪くないかもと思ったとか。
▽
「おー、お疲れさん! 取り戻してくれたか!」
「取り戻したけど、めちゃくちゃ疲れた!」
「はっはっは! とはいえ、ごくろーさん! 褒美に美味いコーヒーと食いたいもん奢ってやるぞ」
「マジ? そんじゃ、ガッツリしたの食いたい!」
最初出会った頃から、今ではすっかり頼もしさのある何でも屋の少年となった事に、海晴は言葉にはしないものの成長してくれているのが嬉しくてたまらなかった。
この先、もし自分に何かがあったとしても。娘と共に前向きに進んでくれるはずという期待を抱きながら、報酬として夜巡へとびっきりのご馳走を振る舞う。
颯爽と駆ける雷の少年が向かう未来は──。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴 成功