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粧練
「オフ、ですか?」
√EDEN、とある施設の一室。
端末に表示された勤務予定表を前に、リンゼイは何度か瞬きをした。
かつて『封印指定人間災厄』として厳重に管理されていた彼女にとって、自由時間というものはあまり馴染みがない。誰にも拘束されず。誰にも監視されず。好きな場所へ行き、好きなことをしていい時間。
「ふむ。確かに、封印指定も解除されましたし……」
無差別自殺を引き起こしていた能力は失われた。現在のリンゼイは通常任務にも駆り出され、以前より遥かに自由に行動することを許されている。
ならば。
「……この機会に、EDENの視察をしておくべきでしょうか」
真面目な顔で、リンゼイは呟いた。
これまで任務で足を運ぶことはあっても、戦闘と関係のない施設をゆっくり見て回ったことはほとんどない。
人々がどんな場所で過ごし、何を楽しみ、どのような文化を築いているのか。
FBPCのエージェントとして現地事情を把握しておくことは今後の任務にも役立つはずだ。
そう、これは視察である。遊びではない。
決して。
「とはいえ、どこから見て回れば……」
端末を閉じ、廊下へ出る。
悩みながらしばらく歩いていると、休憩スペースの椅子の下に何かが落ちているのが見えた。
薄い冊子だった。職員の誰かが置き忘れたのだろう。
リンゼイは拾い上げ、表紙を見る。
そこにはやたらと眩しい笑顔の女性たちと、ピンク色の大きな文字が踊っていた。
『今日から無敵♡最強ガールの女子力強化バイブル』
「……最強?」
リンゼイの目が止まった。
さらに小さな文字が並んでいる。
『指先から磨け! 真夏のネイル&ご褒美マッサージ』
『ふわふわは正義♡ 愛されお菓子作り完全攻略』
『夜のプールで視線を独占! 水辺で輝く最強女子へ!』
「戦力強化の指南書?」
表紙を見つめる。
勝ち誇った笑顔の女性と目が合った。
戦力強化の指南書。そう読めなくもなかった(本当に?)
「なるほど」
明日は休暇。EDENの視察も必要だ。
そして、自らの戦力向上も怠るべきではない。
――ならば、一石二鳥である。
リンゼイは真剣な顔のまま、『今日から無敵♡最強ガールの女子力強化バイブル』を手にした。
そしてぺらりと、1枚目の頁を開く。
✦
「じょしぢからってなんだ?」
ジャン・ローデンバーグ(裸の王冠・h02072)は、同じ雑誌を開いていた。
表紙にはきらきらはーとふわふわ。そして『最強』の二文字。
眉間に皺を寄せた少年王は、何度か頁をめくった。
「戦闘能力……ではねえよな?」
君たちを前に、ジャンは雑誌を机へ広げた。
どうやら予知に出てきたリンゼイが持っていたものと同じものをわざわざ探してきたらしい。
「まあ、なんだ。リンゼイ・ガーランドが明日、EDENを出歩く」
人間災厄『リンゼイ・ガーランド』。
かつては近づく者を無差別に自殺へ追い込む√能力によって、アメリカFBPCから『封印指定』を受けていた女だ。
現在はその無差別性を失い、封印指定を解除されているらしい。
通常任務へ投入されることも増え、以前と比べれば危険度は大きく低下した。
「で、今回の予知を見る限り――大っぴらに何かやらかす予定はないみたいだ」
ジャンは腕を組み、一度机上の雑誌を見る。
「戦力をアップさせる予定らしい」
真面目な顔だった。
「そう。じょしぢからってやつを……な」
真面目な顔だった。
ジャンは一度ごほんと大袈裟に咳払いした。
「予知に出た場所は大きく三つ」
最初は、真夏のネイル&マッサージ体験。
冷房の効いた店内で、好きな色や飾りを選んで爪を彩り、その後はハンドや肩、脚など希望する場所をマッサージしてもらえる場所らしい。
夏らしい海色のネイル。透き通った氷菓子のようなネイル。星や花、果物を飾ったものまで、選択肢はかなり多い。
勿論、ネイルをせずマッサージだけ受けても構わない。
日頃の疲れを癒やすには、なかなか良さそうな催しだ。
「リンゼイはそこで『指先から戦闘意識を高める』つもりらしい」
何故かは分からない。
二つ目。
「ふわふわお菓子作り教室」
ジャンが読み上げる。
ふわふわのパンケーキ。ふわふわのシフォンケーキ。ふわふわのマシュマロ。
その他、泡立てたクリームやメレンゲを使った、ふわふわした菓子を好きに作ることができる教室だという。
作ったものは、その場で食べてもいい。
綺麗に包んで持ち帰ってもいい。
同行者と交換したり、一緒にひとつの菓子を作るのもいいだろう。
「リンゼイは『柔らかなものを扱う繊細な技術を身につけることで、精密な任務にも対応できる』と考えてるらしい」
ジャンが雑誌を見る。
「まあ、本人がそう思ってるならいいんじゃねえか」
少し自信がなくなってきた。
そして最後。
ジャンは雑誌の頁を一枚めくった。
「ナイトプールだ」
少しだけ、沈黙。
「…………」
もう一度予知の資料を見る。
「ナイトプールだな」
それは夜空の下、ライトアップされたプール。
水面には色とりどりの光が揺れ、浮き輪やデッキチェアが並んでいる。
昼間の暑さが和らぐ頃、水辺で飲み物を楽しみ、泳ぎ、写真を撮り、夏の夜をのんびり過ごす。
少しばかり雰囲気のいい場所らしい。
「ナイトプールって、多分後日の"決戦"に向けての場所だよな」
ジャンは真顔で言った。
「……まあ、当日は何もないとは思う」
言ったように、今回の予知には戦闘らしい戦闘は映っていない。
誰かが襲われる様子も、リンゼイが能力を振るう様子も、何か恐ろしい計画を企んでいる様子もなかった。
ただ爪を綺麗にし。身体をほぐし。ふわふわの菓子を作り。最後にナイトプールへ行く。
どう見ても休日である。
「だが、リンゼイ・ガーランドが現れるのには違いない」
元『封印指定人間災厄』。危険性が以前より低下したとはいえ、放っておいて何か起きてからでは遅い。
「だから、おまえたちもそれとなく同じ場所へ行って、様子を見てきてくれ。怪しまれない程度でいい。普通に客として遊んで、近くにリンゼイがいたら時々様子を見る。そのくらいで十分だ」
友人と一緒にネイルを選んでもいい。
日頃の疲れをマッサージで癒やしてもいい。
ふわふわの菓子作りに本気を出してもいい。
夜になれば、水着に着替えてプールへ飛び込むのもいいだろう。
「監視とは言ったが、何も問題がないなら、それでいい」
リンゼイ本人と顔を合わせたなら、話しかけても構わない。
向こうが拒まなければ、一緒に菓子を作ったり、同じテーブルを囲んだりしてもいい。
ジャンは椅子の背にもたれた。そして片手を、ひらひらと振る。
「何ならおまえたちも一緒に、じょしぢからってやつをアップさせてくるといいさ」
一拍。
少年王はもう一度、『今日から無敵♡最強ガールの女子力強化バイブル』へ目を落とした。
「男でも上がるのか、これ?」
――ともあれ、今回の任務は人間災厄の監視である。
ネイルを塗って。
マッサージを受けて。
ふわふわのお菓子を作って。
最後は夜のプールで遊ぶ。
監視任務である。
マスターより
ぺんぎん胡椒二桁突入の10本目の依頼となります、ぺんぎん胡椒と申します。
今回は『今日から無敵♡最強ガールの女子力強化バイブル』から1シナリオをお届けいたします。
【introduction】
・全編を通してPOW/SPD/WIZの選択肢は気にせず、ご自由にお過ごし下さい。
・公序良俗に反する行為、未成年の飲酒喫煙等は描写しません。
・連携に関しては『2名様』迄の受付です。
・リンゼイ・ガーランドとの接触は任意です。監視任務ではありますが、特に問題が起きなければ普通に遊んでいただいて構いません。
第一章プレイングは8/15の朝から受付いたします。
【第一章】
真夏のネイル&マッサージ体験です。
好きな色やモチーフで爪を彩ったり、マッサージで日頃の疲れを癒やしたりしましょう。
ネイルのみ、マッサージのみでも構いません。
同行者と似たデザインにしたり、お互いに似合いそうなものを選び合ったりするのも歓迎です。
リンゼイも女子力――もとい、戦力強化のため参加しています。
話しかけても、遠巻きに監視していても、完全に忘れて自分の時間を満喫していても大丈夫です。
【第二章】
ふわふわお菓子作り教室です。
パンケーキ、シフォンケーキ、マシュマロなど、ふわふわしたお菓子を作りましょう。
具体的に作りたいものがあればご指定ください。
その場で食べても、持ち帰っても、誰かと交換しても、一緒にひとつのお菓子を作っても構いません。
こちらにも当然のようにリンゼイがいます。
精密任務に対応するための繊細な技術を身につけているそうです。
【第三章】
ちょっと雰囲気のいいナイトプールです。
泳ぐもよし、浮き輪で漂うもよし、プールサイドで飲み物を片手にのんびりするもよし。
水着新調された方は是非新しい水着で遊びにいらしてください!
他、遊び方、飲み物など、ご自由にご指定ください。専用パリピドリンクもあります!
そしてリンゼイもいます。
後日の決戦に向けた下見なのか、女子力強化の最終工程なのかは本人のみぞ知るところです。
なお、今回の予知では大きな事件は確認されていません。
監視任務ではありますが、本当に何も起きなければ何も起きません。
皆様にはぜひ、真夏の一日を思い思いに楽しんでいただければと思います。
ここまでご覧いただき、誠にありがとうございます。
皆様のご参加を心よりお待ちしております!
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第1章 日常 『夏に向けて、フットネイル&マッサージ!』
POW
フットマッサージ(強め)&フットスパで、日頃の疲れをとる!
SPD
フットマッサージ(優しめ)&フットスパで、日頃の疲れをとる!
WIZ
フットネイルの施術を受ける!
√EDEN 普通5
涼しい店内へ足を踏み入れたリンゼイは、受付で渡された見本帳を前に難しい顔をしていた。
「種類が多いですね」
机いっぱいに並ぶのは、色とりどりのネイルサンプルだ。
青い海に白波を浮かべたもの。氷菓子のように透き通ったもの。小さな星や花、果物を飾ったもの。可愛らしいものから大人びたものまで、頁をめくるたび違う指先が現れる。
「お好きな色やモチーフはありますか?」
「好きな……」
問われ、リンゼイは真剣に考え込んだ。
「任務に適したものを」
「任務?」
「はい。戦闘時にも集中力を阻害せず、可能なら士気向上に寄与するものが望ましいです」
「ええと……では、まずはお好きな色から決めましょうか」
リンゼイの対応にもスタッフは笑顔を崩さなかった。プロである。
「こちらは夏限定のデザインです。海や花火をイメージしたものですね。こちらはラメを控えめにしたシンプルなもの。モチーフを指定していただければ、出来る範囲でアレンジもできますよ」
「アレンジ」
「星や花、果物、動物なんかも人気です。お連れ様とお揃いや色違いにする方もいらっしゃいますね」
「なるほど……」
リンゼイの視線が、見本帳の上をゆっくり移動していく。
ネイルは色だけを指定してもいい。
好きな花や星、動物、食べ物などをモチーフにしてもいいし、夏らしい海や空、花火を爪先へ閉じ込めてもいい。
同行者がいるなら、お揃いや色違いのデザインを頼むのも楽しそうだ。
派手な装飾が苦手なら、透明感のあるものや単色、爪を整えて艶を出すだけでも構わない。
「それと、こちらがマッサージのメニューになります」
今度は別の一覧が差し出される。
ハンド、肩、首、脚。短時間で気軽に受けられるものから、少し長めにじっくり身体をほぐしてもらえるコースまで揃っているようだ。
「ネイルと一緒に受けることもできますし、マッサージだけでも大丈夫ですよ」
「戦闘による疲労にも効果はありますか?」
「戦闘……は分かりませんけど、肩凝りや脚の疲れでしたら」
「十分です」
リンゼイは頷いた。
肩や首を重点的にほぐしてもらってもいい。
歩き疲れた脚を労ってもいいし、ネイルと合わせてハンドマッサージを頼んでもいい。
同行者と隣同士で施術を受けながら話すのも、ひとり静かに寛ぐのも自由だ。
勿論、ネイルだけ、マッサージだけの参加でも何の問題もない。
「…………」
リンゼイはネイルの見本帳と、マッサージのメニューを交互に見比べた。
戦力向上。任務への備え。そのための選択として、どれが最も合理的なのか。
本人は至って真剣である。
やがて、ひとつのネイルデザインを指先で示し。
続いて、マッサージのメニューへ視線を落とした。
「では、このメニューでお願いします」
どうやら人間災厄のじょしぢから強化方針も、無事に決まったらしい。
さて。
こちらも好きな色を選び、好きな形で身体を休めるとしよう。
折角の真夏の美容体験だ。
指先を飾るか、疲れを癒やすか、それとも――両方楽しむか。