ひと朝の永遠
月島・珊瑚【さんたつ】
ノベルのリクエストです
宜しくお願いします!
バカンス以外にも遊ぼう!
そう言う事になった…
向かうは日本一の霊峰、富士山
何事も挑戦が大事!
人間である珊瑚は確りと各種装備を整えて、いざ富士山!
車の運転などや休む場所は未成年なので甘えておく
「いつかアタシの方が運転しますからね!」
楽しみにしてて欲しい、と笑う
朝日を眺める中
切ない響きを感じる桜の詩
「桜なんてありましたっけ?」
と問いかければ、思い出しただけ…と
そこに込められた声音の感情
未だに血の滲むそれを抉らぬ様に、庇う布になれる様に…
いつか…
その傷さえ抱きしめた宝石になる様に
「じゃあ、今度は皆で桜も観にいきましょうね!」
いつか失われる徒桜は笑い掛けるのです
輝きに満たされて行く世界
両者の間に横たわる断絶はきっと大きくて、生きる世界さえ違う
それでもこの一時は誰にも奪えるものでは無くて
だから、きっとーーそれで良いのです
「ええ、とても…素敵な景色ですね…」
アドリブ、改変等歓迎です
【月島・珊瑚】
√EDEN出身の普通の女の子
男児みたいな趣味嗜好をしてるが、ちゃんと女の子である
迷い込んだ√で夏休み映画みたいな冒険をし、親友になった喋る猫を亡くした事で能力者となった
能力者になった経緯故に、基本的に良い子
他の種族でも意思疎通が出来るなら分け隔てない
口調補足: 基本のもの以外にも
年上は〜さん、です、ます、なども
「お。いい感じじゃないですか?」
「まったく……お前さんは肉となると気ィ早ェな」
そう云いながら巽がトングで肉を返せば、更に肉汁の滴る音が響き、鉄板から弾けた脂が小気味よい音を立てる。
ふうわりと鼻孔を擽る、上質な旨味を孕んだ肉の匂い。火元は備長炭ではなく小型のガスバーナーだけれど、良い色に焼き上がった肉の香ばしさに変わりはない。傍では、色鮮やかなパプリカに玉葱、茸も焼き色がつき始め、アルミホイルに包んだじゃがいもがほくほくと熱を含んでいる。
「まあ、確かにそろそろか。ほれ、食べ始めていいぜ」
「はーい。……って、今年はちゃんと最初から手伝ってますからね?」
「去年は海で遊んで来いって追っ払ったからな」
「そうですよ。結局、巽さんがほとんど用意しちゃって」
「そりゃ、若い娘っ子が海まで来て俺と炭睨んでてもしょうがねェだろ」
視線は食材へと落としたまま、巽は口端を上げた。その面持ちに微かに唇を尖らせた珊瑚は、けれどすぐに笑顔に切り替え一切れの肉をぱくりと頬張る。
「ん~~! 美味しい!」
「だろ?」
「空腹は最高のスパイス、でしたっけ」
「お。覚えてたか」
「そりゃ覚えてますよ。去年散々食べましたし」
あのときは、海。
今年は、日本一の霊峰。
同じように肉を焼き、会話をしているのに、ふたりを包む景色だけはまるで違っていた。
――バカンス以外でも遊ぼう!
そう切り出した珊瑚の言葉からトントン拍子に決まった、富士山登山。何事も挑戦が大事! とは、これまた珊瑚の言だ。
目的は無論、御来光。
そのための腹拵えと仮眠用にと、巽が己が力で用意したのはコテージ風の空間だった。折角だからとウッドデッキで始めたBBQも、互いの後ろに見える風景が夕暮れから宵へと移りはじめている。
「それにしても、巽さんって山慣れしてませんか? 装備も本格的でしたし」
食んだ肉を嚥下した珊瑚が、伺うように巽を見た。
五合目までは車で。そこから先は、登山靴にウェア、雨具、防寒具、ヘッドライト。人間の珊瑚は当然とも言える装備を、巽もまた一式揃えていた。
「伊達に長生きしてねェからな」
「衣食住だけじゃなく、結局運転までしてもらっちゃいましたし……」
「それも“いつか”なんだろ?」
「勿論です! いつかアタシの方が運転しますからね!」
つい先日17になったばかりの珊瑚は、そう云って拳に力を込めた。意気込みながら向けられた真っ直ぐで強気な視線を受け止めながら、巽もまた眦を細める。
「おう。そのときを楽しみにしてるよ」
「ちゃんと覚えててくださいよ?」
「忘れやしねェって」
そう、忘れやしない。
この些細な会話も――約束も。
✧ ✧ ✧
食事を終えて仮眠を取った後、再度装備を確かめたふたりは揃って立ち上がった。
時刻は23時。
居心地の良い室内から外へと出ると、ごつごつとした昏い岩陰に囲まれた深い夜が広がっていた。冬を思わせるほど冷たい夜気に身震いした珊瑚へ、巽がからりと笑う。
「ンじゃ、行ってみるかァ」
「はい!」
夜の富士は静寂に満ちていた。
呼吸のペースを乱さぬ程度の言葉を交わしながら、夜に沈む山道を穿つヘッドライトの灯を頼りに先を行く。
「おっと、大丈夫か?」
前を歩いていた細身の躰が僅かに揺れ、巽が反射的に声を掛けた。脚を止めた珊瑚が、振り返ってにまりと笑みを湛える。
「大丈夫です。ちょっと息上がっただけ」
「無理すンなよ」
「してませんって」
その声と様子にまだ余裕があることを確かめると、巽も歩調を合わせながら後に続く。先へ行こうと思えば幾らでも行けるけれど、早く登ることにはなんら意味はない。
今日は、共に登るために来たのだから。
どれほど歩いただろうか。
やがて闇に響く砂礫を踏みしめる靴音とふたつの吐息に、風音が混ざり始めた。
山頂が近いことを告げるかのように、次第に悪くなってゆく足場。強風に煽られながらも、急斜面を一歩ずつ確実に登るふたりの眸に、俄に白み始めた空が映る。
「巽さん……!」
「ああ、見えたな」
――日本最高峰富士山剣ヶ峰碑。
どうと天へと聳え立つその様に思わず見入るも、どうしようもなく急く心のままに最後を一気に登り切り――一瞬にして拓けた視界に、溢れる達成感のままに珊瑚は大きく息を吐いた。
「着いた……!」
「お疲れさん」
「巽さんも!」
「俺ァまだ余裕あるぜ?」
「そういうとこですよ、もう」
少し休んでから、湯を沸かし、珈琲を淹れる。
一口飲んだカップを下ろすと、白い湯気とともに立ち昇る香りはどこか濃く思えて、どちらからともなく視線を合わせて笑みを重ねた。
音もなく、また世界に朝が訪れる。
紺青から瑠璃へ、そして薄紫へ。
ゆっくりと彩を変えていく空の涯てに、一等まばゆい燦めきが差した。金色のひかりが雲海の輪郭を描き、あたたかな耀きと熱があたりに満ちてゆく。夜のうちには曖昧だった山々の稜線も、再び姿を取り戻し始める。
なにも云わず見入ったままの珊瑚を一瞥しながら、巽はカップを静かに傾けた。喉を潤す珈琲の苦みと香りが、舌に残る。
緩く貌を上げれば、金の双眸に映る朝陽と――そのひかりを纏った、ひとりの娘。
「――折りえても 心許すな山桜 不意の嵐に 散りもこそすれ」
「……桜なんてありましたっけ?」
「なに、ちょいと思いついただけでョ」
きょとんと瞬く珊瑚に薄く微笑むと、男は再び前へと視線を戻す。
この娘の、大切な想い出を聞いたことがある。
そんな話を預けてもらえるくらいには、恐らく自分は娘の心の近しい場所に居る。
(――だとしても、よ)
桜は、いずれ散ってしまう。
どれほど大切に想っていようとも。
その想いすべてを知ることはできずとも、珊瑚とて巽の声に染む微かな感情は汲み取れた。
長きを生きてきたひとの裡に在る、未だ血を滲ませ塞がりきらぬなにか。
ならば唯々、柔らかな布をあてるように寄り添おう。今はまだ、それが精一杯だけれど――いつかは、その傷さえも抱く宝石になりたい。
だから、娘はいつものように笑う。
「じゃあ、今度は皆で桜も観にいきましょうね!」
いずれ儚く散ってしまう徒桜だとしても、今日このときに微笑むことを選んだ珊瑚へと一瞬息を飲んだ巽は、淡く口許を緩めた。
陽の残照を追うように、ふたり貌を上げる。
考えるまでもない。
片や龍人、片や人間の娘。生まれも違えば、流れる刻も異なる。
ならば、いずれ現れるはずだ。己よりも心近く、同じ刻を同じ早さで生きられる人間の男が。
彼とどんなに近く在ろうとも、その間に横たわる透明な境界線は、どこまでも果てしないのだろう。
今こうして同じ場所に立っていても、同じ未来まで歩いてゆけるとは限らない。
それでも、このひとときだけは。
夜を越えて辿り着いた朝の眩しさも、山頂で飲んだ珈琲の味と香りも、並んで眺めたこの景色も――誰にも、奪えやしない。
だから、きっと。
(――それでいい)
(――それで良いのです)
眼前には、陽を浴びた雲海が金の波となって、遙か彼方まで続いていた。
「最高の景色だな? 珊瑚」
隣から届いた穏やかな声に、珊瑚は眦を細める。
「ええ、とても……素敵な景色ですね……」
いつか、この朝さえ遠い日の想い出になったとしても。
同じひかりに染まりながら過ごしたひとときは、いつでも、いつまでも――この裡に鮮やかな色彩で残り続けてゆく。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴 成功