鉛筆より重いものを持った結果がコレだよ!
熱気に満ちる高校「|武鯱学園《ぶしゃちがくえん》」の話をしよう。
此処は√仙術サイバー、名古屋Ⅴ。そこそこな上層寄りの階層なのでそれなりの治安を誇るこの高校では、現在文化祭が開催されている!
校舎内では最高潮の賑わいを魅せている場所が、ちらほら、と――。
「よし、休憩入れさせてもらう。ちょっとその辺見てくるわ~!」
模擬店の香ばしい匂いと生徒たちの歓声が交差する廊下を|黄《こう》・|夜巡《よじゅん》(夕立巡り・h13090)はすこぶる機嫌よく覗いている。わくわく、そわそわと気分が高まるのは仕方がない、が、そろそろ我慢の限界だ!
そう言ってクラスの出し物から上手く抜け出したのは三分前。
『喫茶ぺとりこ』での仕事前、しばしの高校生らしい自由を満喫しようと足を弾ませていた――はずだったのだが――。
『ああああ!!オレたちの|救世主《メシア》がっ!!』
「うわっ、なんだよ暑苦しいな!?」
曲がり角を曲がった瞬間、勢いよく飛び出してきた男子生徒の集団にがっしりと両腕を掴まれる。物理的に泣きついてきた半端ない不意打ち!逃げるタイミングが何処にもなかったが、よく見ればこれはクラスメイトの友人たちだ。
『なあ夜巡!俺たちの未来を救ってくれ!頼むよ』
「待て待て。未来?急になんだよ……!」
『ああスマン。今から説明するから!ほら四組の出し物が射的でさ、景品にシロパンダのもてぃもてぃスクイーズがあったのよ。めっちゃ人気のやつ!彼女が『これ欲しい~~~~♡』って言ってきたんで意地になったんだけど全然取れなくて!』
「……だから?」
『お前そういうの得意らしいだろ。得意そうな顔してるじゃんよーホント是非やってくれ。俺たちの仲を救済してくれ……!この期間だけお前を|救世主《メシア》って呼ぶから!メシア……なあ頼むよ、命が救われるんだよ!』
『『たのむーーー!!』』
複数人の男子たちに集団で深々と頭を下げられ、夜巡は思わず引きつった笑いを浮かべる。なにしろ四組。その名を聞いただけで嫌な予感しかしない。あそこは不良だらけの教室だ!嫌なことしか起きないじゃないか!
「四組ってアレだろ?ドアに缶スプレーで『屍組』って書いてある超やべー治安のクラスじゃん?超ヤなんだけど……――まあ、的が落ちるまで頑張ればいいんじゃないか。お前らが。ネバーギブアップ!なせばなる!努力は必ず報われるから!用事を思い出したし、オレは此処で失礼するから!じゃあな!」
勢いで語ってエールを贈って踵を返そうとした夜巡だったが、友人たちの必死さは伊達ではない。
『逃がすかーっ!囲めー!』
『今だっ向こうのクラスの神輿借りてこだ!神輿を担げ!』
『むしろもう担ぎ上げちまえ!』
「うわぁああ!?」
夜巡は、あっという間に神輿のように担がれて四組まで運ばれていく。
「射撃……は……いえ、全然得意じゃないです。銃とか知りません。ボクは鉛筆より重いものを持ったことがない。なにをするんですあなたたち!やめてください!放してください!こら!やめろ!ふざけんな!担ぐな!オレを神輿みたいに持ち上げようとするなーっ!」
夜巡の抗議も虚しく、彼は男子高校生たちの手によってワッショイワッショイと担ぎ上げられ、校舎の奥深くへと連行されていく――。
◆
到着した三年四組の教室。ドアには案の定、黒のラッカースプレーでデカデカと『屍組』と殴り書きされている。治安の悪さが隠しきれていない。なんなら、真新しいドクロマークを書き足し中のやつまでいるではないか!
教室に足を踏み入れると、薄暗い室内の中で柄の悪い男たちがニヤニヤとこちらを見下ろしている。そして中央の射的コーナーの奥には、腕組みをしてドカッと椅子に腰掛ける学園の番長。
……フフ……。
無言で不敵な笑みを浮かべる番長。
その視線は"またカモが来たか"と言わんばかりだ。
『メシア!頼む!』
友人から拝むようにして渡されたのは、安っぽいプラスチック製のコルクガンだ。
『これで仇を取ってくれ!!』
「……まったく」
小さくため息をついて、銃を受け取る。その瞬間、夜巡の指先がごく自然にグリップにしっくりと馴染んだ。昼の高校生としての顔の裏、夜に扱っている『それ』とは比べ物にならないほど軽いが、重心の位置や射出の癖は一瞬で手に伝わってくる。
「へえ……これが目玉の『シロパンダのもてぃもてぃスクイーズ』か」
ひな壇の中央に鎮座する、もちもちとした白いパンダのスクイーズ。夜巡は片目を軽く細め、的を観察した。
じぃっとみれば、分かる。これは|捕れない《・・・・》と。
――あー……やっぱり!
接着面にはたぁっぷりの接着剤でがっつり固められているではないか。おまけに重心の真下に重りでも仕込んである改良型。
――普通の撃ち方じゃ、コルク弾がいくら当たっても絶対に倒れないようになってる。これは、確かに無理だな!
四組の悪辣なイカサマ構造は、一週回って分かるやつには露骨にバレる。これを普通に撃って落ちないのは当たり前だ。むしろ、当たり前すぎる。
だが、構造があるということは必ず『接合部の隙間』や『力の支点』が存在するということでもあるわけで――。
「まあ――やってみるか」
夜巡は肩の力を抜き、銃口をスクイーズに向けた。
周囲の不良たちが「どうせ無理だろ」とクスクス笑う中、ポンッと軽い音が響く。
ヒュッ――!
放たれたコルク弾は、スクイーズの本体ではなく、台座と接着面の間――わずか数ミリの『接着剤のヒビの隙間』へ正確無比に食い込むように突き刺さった。テコの原理と絶妙な打撃圧が加わり、ガチガチに固められていたはずのシロパンダがコロリと虚しく棚から転げ落ちるて倒れる。
『……え?』
誰かが間抜けな声を漏らした。
「ほらよ、取れたぞ」
『マ、マジかよ……!?あんなのビクともしなかったのに!?』
四組の生徒たちがざわつき始める。
『どうなってんだ?』
『偶然だろ』
『紛れは一回だけだっつーのw』
ヒソヒソ囁き合う声。奥に座る番長の眉根がピクッと跳ね上がった。
周囲の予想外のリアクションと、意外にも精度の高いコルクガンの挙動に、夜巡の中で何かがツボに入った。普段の裏稼業では絶対にできない『おもちゃの銃での悪戯』。その楽しさが、彼の胸の中に一気に広がっていく!
――……あ、これ面白くなってきたかも!
「はは、おいおい。まだまだ景品残ってるじゃん?」
なにいってんだよ、楽しみはここからだろと夜巡の口元がニヤリと吊り上げて、彼の目が、悪ガキそのものの輝きを帯びた。
「ちょっとこれ、借りるからな!」
夜巡は予備のコルク弾を素早く装填すると、立て続けに引き金を引く。
ポン!
ポン!
ポン!
『なっ!?』
一発目の着弾。それは斜めに配置されたアルミ缶の角を狙い、跳弾したコルクが陰に隠された高額景品を叩き落とした。
二発目。棚の支柱を強打し、跳躍させた弾丸の勢いで振動を生んでバランスを崩した上段の大型ぬいぐるみが一斉に全滅した。ついでに、跳躍弾は下段の小柄ぬいぐるみをぱたりと倒してみせたことは、目が足りず気が付かれなかった事だろう。
三発目。もはや跳弾と構造計算の嵐だった。二発目の跳躍弾とぶつかりながらコルク弾が室内を縦横無尽に跳ね回り、まるで生き物のようにすべての景品の弱点を撃ち抜いていく。そう、すべてだ。
『イカサマだろこれ!?』
『なんで跳ね返った弾で落ちるんだよ!?』
「わははっ!もう全部落ちとけーっ!」
完全に調子に乗った夜巡の連射により、わずか十数秒の早業で『屍組』の射的棚は完全に空っぽになった。山積みになった景品の山と、呆然と立ち尽くす四組の生徒たちは何を見たのかが理解できないままでいる。
そして――射的屋の奥で、額に無数の青筋を浮き浮かべた番長が、ゴゴゴと効果音が聞こえそうな勢いで立ち上がった。
「あー……これ、もてぃもてぃスクイーズな。やるよ。よかったな。じゃあな!」
夜巡は足元に転がってきたスクイーズを拾い上げ、感動で固まっている友人たちの胸元にポンと投げつけると、間髪入れずに脱兎のごとく教室のドアへと向かった。
『イカサマしてんじゃねェぞテメーッッ!!!』
教室中に響き渡る番長の怒号。
「ひえーっ!冤罪だっつーの!腕が良いだけだろーっ!」
廊下に飛び出した夜巡の後ろから、怒り狂った番長と四組の不良たちが怒涛の勢いで追いかけてくる。祭りの熱気に包まれた校舎を、笑顔で全速力で駆け抜ける夜巡。
「でもやっぱ文化祭って最高に楽しいなっ!」
彼の元気な叫び声が武鯱学園の空へと響き渡っていった。
これもまた、青 春 の 味、という奴だ!
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴 成功