シナリオ

悲劇と喜劇の果てに

#√汎神解剖機関 #ノベル #|取り替え子《チェンジリング》

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 目前に銃口を突きつけられて、彼は驚愕に目を見開いていた。
「ヴォルン君、なぜ――」
 引き金を引く。気の抜けたような破裂音がその声を断ち切る。腕に伝わる反動、火薬の匂い、ぱっと赤い花が咲いた。
「なぜ、と言われてもね」
 倒れ行く彼と、その眉間に開いた三つ目の眼窩を見下ろして、ヴォルン・フェアウェル(終わりの詩・h00582)は小さく呟く。
 むしろ尋ねたいのはこちらの方だ。それなりに付き合いは長いはずだが、彼等はなぜこうならないと思っていたのだろう。確かに『教団』は街のド真ん中にこんな大規模な施設を構えるまでに大きくなって、彼もまた幹部としてその施設を任される程に偉くなった。思い通りに行っている、もしくは力を持ったと錯覚すると、ヒトはここまで鈍くなってしまう……そういうものなのかも知れない。
 頬に飛んだ返り血を拭いながら、ヴォルンはさらに続けて考える。もしかすると彼等は、生まれた時から付き従い、技術の粋を凝らして『教団』の邪魔者を消す――そんな大人しく従順な暗殺者のように振舞う自分を、信用していたのかもしれない。
 ……いや、まさか。思い付いたその可能性に、自ら首を横に振る。ありえないだろう、こんな出どころもわからない|取り替え子《バケモノ》を?

 教団員の一人の子供、赤子と入れ替わる形でこの世界に遣わされたヴォルンは、生まれた時からこの姿だった。
 明らかな超常存在、魔性の力を持つそれを、『教団』は嬉々として受け入れた。この世界に絶望した人間たちの集まり、『人間は簒奪者たちに世界を譲るべき』という極端な教義を掲げた新興宗教にとって、これは大いなる福音。「世界を我が教団、ひいては簒奪者様が統べるべきという天啓に違いない」、そう解釈、もとい確信していたのだろう。
 実際のところヴォルンは優秀で、淡々と彼等の期待に応えていった。それまでは細々と信者を増やし、社会不安を煽ることに腐心していた『教団』は、害為す存在を確実に暗殺する力を得て、急速にその規模を拡大していった。信者は凄まじいペースで増えて、彼等の納める布施も莫大なものになっていく。その末、その成果とでも言うべき建物、このバカげた教会だか神殿だかを、ヴォルンは改めて見回す。敬虔な信者にして天よりの使徒、彼等にしてみればそうであるはずのヴォルンは、心底興味のない様子でそれらを一瞥し、首を傾げた。

 彼等、つまりこの『教団』の幹部達は、最期まで気付かなかったのだろう。ヴォルンが雇われ暗殺者のような役目を全うしていたのは、特に目的がなかったからで。ただそこで望まれたことを、何となくこなしていただけだと言うことに。
 そんな形だけの従順は、当然理由さえあれば覆る。契機となったのは、|命に楔を打ち込める相手《Anker》との出会いだ。
 人生に明確な標が出来た以上、優先されるべきはそちら側で、目的がぶつかった際にカルト教団をひとつ壊滅させることなど、ヴォルンは当然躊躇しなかった。幸いと言うべきか、この『教団』の中枢を担う者達は、軒並みヴォルンの依頼主として顔を合わせている。それを片っ端から殺していって、目の前の骸が最後の一人。
 ――なぜ。
 彼の遺言に対する答えは明白で、ヴォルンには問いかける意味が分からない。
 生まれ育った場所、共に歩んだ仲間、偉大なる教えに天の意思――そう飾り立ててはみても、|己におろされた錨《Anker》と関係のないこれらの言葉に、ヴォルンが心動かされることはないだろう。
 ヴォルンによって齎された『教団』の隆盛が、彼自身の手によって根から捨てられることになった。これは、ただそれだけの話なのだから。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​ 成功

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