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【夏手紙】蒼天と白雲に咲う|青花《はな》

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 抜けるような蒼天に真白の雲がふわり添う。そんな夏空の下、談笑を交わしながら出かけを楽しむのは、日方・御昊(蒼昊・h09316)と、露木・ネイ(天想・h10642)のふたり。|義兄《お兄様》との出かけが嬉しくて、気分が弾むまま軽やかに爪先を前に運ぶネイの横、足を止めた御昊の目には一枚のチラシ。
「……お兄様?」
「ネイ、『夏色文房具フェア』だってさ」
 興味ある? と、指し示す御昊の指先を追えば爽やかな夏色。どうやら、この百貨店の催事場で開催されているらしい。こくこくと頷くネイに笑み返し、踏み出すふたりの『出かけ先』は、文房具フェアの会場へと移りゆく。

 ポーン。

 小気味よい音と共に会場階への到着を知らせるエレベータの扉を潜り抜ければ、青を基調とした装飾が出迎えて。フェアの入口を飾るアーチでは夏花の造花がふたりに咲いかけている。
「わぁ……!」
「これは、凄いな」
 思わず瞳を大きく開いたネイに御昊の声も重なる。一歩踏み入れば夏を思わす文具が所狭しと並んでおり、特に目を惹くのは絵葉書のコーナー。夏の便りを、と綴られたポップに気付いた御昊は一歩其処に近づいて。
「夏の便り……あー、そういや残暑見舞いの季節だっけ?」

 ――いや暑中見舞い? どっちだったっけ。

 んー、と首を傾げながら、色鮮やかな絵葉書へと向き合った御昊の隣にネイも並び、同じようにこてりと首を傾げて見せて。
「残暑見舞い……? ……暑中見舞い、だったかも」

 ――ぼくも、詳しくはないんだけど……。

 今はどっちだろうと、ふたりで首を傾げてみながら、同じような角度の顔を見合せて笑ってしまう。
「まあいいや! ともかく見てみろよネイ、この棚全部が絵ハガキだってさ」
 ほら、と、両の手を広げてその棚を示してみれば、所狭しと色鮮やかな絵葉書が敷き詰められている。
「わぁ……! これ、全部絵はがき……?」
「ああ、凄いよな!」
 きらきらと目を輝かせるネイに目を細め、目の前の絵葉書たちを再び見上げた。圧巻ともいえるこれ程の出逢い。素通りするのも勿体ない気がするから一枚買ってみたいと思う。……けど、

 ――俺、最後にハガキを出したのっていつだっけ?

 それに、誰に出すんだ? と。伸ばしかけた手を腕組みに変える。そんな御昊の瞳に映るは、絵葉書に見入るネイの姿。
「そうだ! なあ、ネイに出してもいいか?」
 突然の問いかけに、ぱちりとひとつ瞬いて彼を見返すネイに御昊は続ける。
「折角なら、手紙出した事のないヒトに送ったら楽しいんじゃないかと思って」
 ダメかな、と。問うように軽く首を傾げた御昊に返るのは、肯定を示す大きな頷きと、きらきらと輝いた瞳。
「うんっ!」
 元気よく返事をしたネイがふと何かに気付いたように口許に指先を当て、ひと拍の後続いた言葉は、おずおずと彼へと問うものだ。
「あの、ぼくも……お兄様に出したい、な。せっかくの機会だし、」

 ――……交換こ、とか……どうでしょう……?

 そうして紡がれる提案に、次に煌めくのは御昊の瞳。其れはいい案だと二つ返事で返せば、きらきらとした瞳が向かい合う。そうと決まれば早速ハガキ選び。目の前には選びきれない程の絵葉書が並んでいて、その色も表情も様々だ。
「あれも良いし、こっちも捨てがたい」
 ……けれど。

 ――やっぱ、俺が選ぶならコレだろう。

 そうして、伸ばした掌に収まった一枚は、真っ青な空に入道雲に飛行機雲。そうして、下の方には青い朝顔の咲く絵葉書。
「アイツは前、青い薔薇が好きって言ってた」
 其れを覚えていたから青薔薇も探したけれど、此処には無いようで。だから、代わりに別の青い花にしたのだ。
 そうして、ネイもその横に並んでとっておきの一枚を探していた。『お兄様が笑顔になるような絵はがきを選びたい』という一心で。
「どれがいいかな……?」
 ネイの瞳が探すのは、青い空、白い雲、飛行機。其れはネイにとっての『お兄様』そのもの。だって、お兄様は――、

 ――僕が焦がれる、空そのもののようなひとだから。

 想う儘、伸ばされた繊指が色彩の海から掬いあげた一枚。それはやっぱり青いもの。焦がれてやまない――いろ。そうして彼女の手に収まったのは、青い桔梗の絵はがき。

「ネイは決まったか?」
「決まったよ、お兄様」
 どんなのにしたの。と、そんな問いを瞳の色に見た気がして、小さく笑った御昊が悪戯めかして言う。
「俺はな、送るまでの内緒にしておくかなー」
 戯れに笑う彼の様が、ネイの心を楽しい気持ちにさせてくれるから。だから、零れる笑みのままネイも返す。
「ふふ、ぼくも――……おくるまでのないしょ」

 そうして、今日の出かけを終えたネイは帰宅後すぐに机へと向かう。溢れるままに綴る指先は滑らかだ。

==
敬愛なるお兄様へ

この暑いなか、いかがお過ごしですか?
ぼくはこういうものを書くのがはじめてで、何を書けばいいのかわかりません

ぼくは夏がすきです
夏のそらは、とても青いから
お兄様のひとみの色が、あざやかに見えるから
透けるようなそらに、お兄様の笑顔がとても美しいから
夏がすきになりました

すきな夏を、何度だってだいすきなお兄様と過ごしたいです
…こんな感じでいいのかな?
暑いから、からだに気をつけてね

ネイより
==

 筆を置けばそのままポストへと出しに行く。
「お兄様……喜んでくれたらいいなあ……」
 綻ぶ口許。そんな彼女に応えるように、大切な一枚をその身に受けたポストが、カタン、と小気味よい音を立てた。

 一方。綴る音が響いては止まる、そんな机上もあるもので。けれどもそれは、相手を描いて言葉を選んで、音無き時間も想いの時間。漸く綴り終えた絵葉書を眺めて、御昊は唸る。眺める先にはこう綴られていた。

==
ネイへ

残暑お見舞い申しあげます。
厳しい暑さが続いていますが、いかがお過ごしでしょうか?

(ここからは何時も通りの口調で書くな!)
青の色も濃いし、夏空っていいよな!
快晴よりも入道雲がある空が特に好きだなって思う。
気流が乱れるから飛行機で飛ぶには不向きなんだけど、
真っ白でモコモコしてて可愛くないか?
ネイにも似てると思う。白いし。

もし暑さで身体がキツイ時は何時でも言えよ!
俺が出来る事は少ないと思うけど、かき氷作るとかなら出来るしさ。
まだまだ夏を楽しもうな!

兄より
==

「……勢いで絵ハガキを出すって決めたは良いものの、手紙を書くってこんなんで良いのか?」
 あー、分かんねえ! なんて、慣れない其れに頭を抱えてしまいもする。
「……けど、まあ、何て書こうか悩む時間も、伝わるかと思案する時間も、届いたらどんな反応するかソワソワする時間も。割と、悪くないかもしれないな」
 なんて、書き終えた達成感から体を伸ばした御昊の耳に、普段なら気に留めない、けれども今は特別な音が届く。

 ――……おっ、郵便配達のバイク音!

「早速届いているか確認しに行かないとな!」
 がた、と、椅子から立ち上がり、急ぎ足で家のポストを確認しに行く。ポストの中に、青い桔梗が愛らしく咲いていて、其処に添う文字はネイのもの。今すぐに読みたい気持ちをぐっと抑えて、御昊はもう一つの手に握った己の葉書を出しに走る。自分の絵葉書も、こうして待っていてくれているのだろうから。夏空が飛行機雲が、青朝顔が、其処に添う己の言葉が。彼女に届くのも、もう少しだけ――先の話。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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