シナリオ

ととせ巡りて――紫陽花の夢路にて

#√妖怪百鬼夜行 #ノベル #秋祭り2026

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√妖怪百鬼夜行
 #ノベル
 #秋祭り2026

※あなたはタグを編集できません。


 √妖怪百鬼夜行にある紫陽花横丁、十年前に訪れた記憶は天國・巽(同族殺し・h02437)にとって、今もなお鮮やかなままだ。
「赤に紫、青に白、相変わらず目を楽しませてくれる横丁だな」
 抜けてきた小径にも美しい紫陽花は咲いていたが、この横丁でもそれは変わらない。鉢植えや一輪挿しの紫陽花や、花手水に浮かんだ紫陽花など、人を待つ時間も飽きることなく眺めていられるほどだ。
「しかし……同じ場所から出発するってのに、現地で待ち合わせとはね」
 一緒に出ればいいじゃないかという言葉は、すっかり大人になった二人の『紫陽花横丁の入り口で待ち合わせがしたい!』という、強い主張により封じられ――その結果、巽は待ち合わせ時間の少し前からこの場所に立っている。
「ま、判らなくもないが」
 待ち合わせ、という言葉だけで何となく特別感が増すというもの。その証拠に、こうやって待っている時間も巽にとっては愛おしいと思ってしまうのだから。
 水盤に揺れる紫陽花に視線を落としていると、くすくすと楽しそうに笑う声が耳を掠める。それは間違いなく待ち人の声と気配で、巽はそらきたと思いながらも気付かぬふりをしてみせる。
 ゆっくりと背後から近づく気配に笑みを浮かべつつも、振り返らぬまま花手水を眺めていれば、二人が小さな『せーの』という声と共に――。
「わっ!」
「わっ! なのです!」
 大きな声を掛け、巽の背を軽く叩いた。
「おおっと、なんだィ二人して、吃驚するだろうよ」
 少しばかり大袈裟に驚いたふりをして振り返った巽の瞳に入ったのは、あの日と同じ白地に淡い青を重ね、裾には流水と紫陽花が描かれた振袖を着た椿之原・希(慈雨の娘・h00248)と、薄墨と白に染め分けられた生地に紫陽花が咲く着物を着た黒後家蜘蛛・やつで(|畏き蜘蛛の仔《スペリアー・スパイダー》・h02043)であった。
「――……なんだよ、お直ししたのかィ」
 十年前にプレゼントした振袖が、まさか十年たった今になって二人が着てくれているなんて。大人の余裕を見せて、あえて驚いたふりをしてやろうじゃないかと思っていたのに、本当に驚かされるだなんてと巽が笑う。
「ふふ、大成功です! 家主様の驚いた顔が見れました、やはり仕立て直して正解だったのですよ、希様」
「はい、やつでさん! 大成功です!」
 腰まで伸びた黒髪とリボンを揺らし、希がやつでとハイタッチをすると巽へと向き直った。
「どうでしょう、似合いますか?」
「かわいいでしょう、お似合いでしょう、プロデュースはやつでです! 希様のかわいいは正義ですから!」
 折角十年前に訪れた紫陽花横丁へ赴くならば、あの時と同じ衣装にしましょうと、やつでがインビジブルの蜘蛛たちの力も借りて仕立て直したのだ。
「ああ、滅茶苦茶可愛い――じゃあねェか、今日はいつにも増して綺麗だぜ? 二人とも」
 希だけではなく、やつでも綺麗だと巽が柔らかく目を細めて二人を褒める。
「お褒めに預かり光栄です、家主様。では、家主様には希様とやつでをエスコートをする権利をさしあげるのですよ」
「お願いできますか、巽さんっ」
 きらきらと輝く笑顔の二人に、巽が恭しく礼を取り――お任せあれと二人を誘い、紫陽花横丁へと足を踏み入れた。
 三人が向かったのは以前も訪れた紫陽花横丁のカフェで、あの日と同じ屋外の座敷席へと腰を落ち着ける。
「此処からの眺めは十年前と変わらないねェ」
 なァ? と巽が二人に笑いかければ、あの日と同じ笑顔で希とやつでが頷く。
「はい、昔と変わっていなくて嬉しいのです!」
「本当に変わっていないですね、メニューも懐かしいです」
 ぱらりと捲ったメニューに、どれにしようかと二人が笑う。
「私は和風のアフタヌーンティがいいです、もう一度食べたいと思っていたのです」
「おう、それなら俺は洋風にしようか。やつでは?」
「やつではこちらのケーキと……やはり麦茶でしょうか」
 選んだケーキの種類こそ違えど、酔わぬようにとカフェインレスの麦茶をとやつでが指さす。
「せっかく二十歳を過ぎたンだ。やつではカフェイン入りにしたって良いんだぜ? うっかり寝ちまったら俺の出番、だろ?」
 子ども時代の話を持ち出して、巽がからかうように笑うと、やつでがこほんと咳払いをして巽を見遣った。
「カフェインで酔うのも二十歳になったので許されますが、そこはさすがに大人のガール、今はましろがいませんから」
「しっかりしてんなァ」
「大人ですから」
 十年一昔とはいうが、そんなに急いで大人にならなくてもいいのになァ、とは思えど、成長した二人が楽しそうにしているのは巽も嬉しいもの。注文したものが届けば、あの頃のままにはしゃぐ希とやつでに、変わらぬものもあるのだと巽が唇を綻ばせた。
「うふふ、やっぱり美味しいのですー」
 手まり寿司を口に運び、希が頬を押さえる。
「希、ハムスターみたいになってるじゃねェか」
「頬をパンパンにした希様もなんてかわいらしいんでしょうか」
 小動物みがあるのは相変わらずで、口元についた米粒を巽が指先でちょい、と取ってやる。
「ふふ、ありがとうございます。でもこれ、本当に美味しいのですー」
「手まり寿司は逃げやしないからな、ゆっくり食べなァ」
「はい、あ! 巽さんもこの手まり寿司食べてみませんか?」
 この美味しさをぜひ、と希が巽に向かって手まり寿司を差し出せば、笑みを浮かべて巽が『あーん』と口を開いた。
「ん、美味いな」
「はい! やつでさん、やつでさんも食べませんか?」
「控えめに言っても天使……あ、いただきます」
 同じように差し出された手まり寿司を食べ、やつでも美味しいですねと頷く。
「美味しいのですー、だから私の頬がハムスターみたいになっても仕方ないことなのですー」
 なんて言いながら、和風のセットをしっかりと楽しんで、巽の洋風セットも勧められるままにつまんでいく。
「食べさせ甲斐があるってもんだな」
「わかります、やつでのケーキも差し上げましょう」
 あーんをし返すやつでと、嬉しそうに食べている希。そんな二人を眺めつつ、巽は無限鳥居で見た二人の姿を思い出す。戦場の指揮官のような希と、子蜘蛛を従えた女王の如き姿のやつで。
 あぁ、と巽が思わず吐息を零して、眼鏡の奥の瞳を細める。
「本当に、綺麗になった」
 ぽつりと呟いた声は、二人の楽しそうな声に掻き消えてしまったけれど、優しい眼差しは消えることなく二人を見つめていた。
「ところで、今日はなんでまた此処に?」
 確かに十年経って、久しぶりにと思う気持ちもわからなくはないが、他にも行きたい場所はあったのではないかと巽が問う。
「実は……」
 一通り食べ終えた希が、横にしていた荷物の包みを解いて巽へと見せる。
「そいつァ、あの時の」
 青地に水滴モチーフのすだれ飾りが付いた和傘、十年前に買ったもの。
「はい、大事に使っていたのですけど……」
「そろそろお手入れを頼んだ方がいい、と思いまして」
「なるほどねェ」
 それならば、買った場所で直してもらうのが一番いいだろう。ここへ来た理由も頷けるというものだ。
「でも、それだけではないのです」
「他にもあるのか?」
 希とやつでが顔を見合わせて笑うのを、巽が小首を傾げて先を促す。
「はい、今度は――やつでたちがご馳走してさしあげたかったのです」
「……俺にかい?」
「はい! いつもお世話になっている、巽さんにです!」
 なんとまぁ、あんなに小さかった彼女たちが日頃の礼にご馳走しようと思ってくれていたなんて。
「は、はは、今日は驚かされることばかりだなァ」
 これは参ったと、巽が口元を抑えて笑う。
「どっきり大成功、というやつですよ希様」
「うん、やったね、やつでさん!」
 巽を驚かせた時のようにハイタッチを交わし、二人は紫陽花にも負けない笑顔を咲かせた。
 アフタヌーンティをたっぷりと楽しんだ後は、和傘市へ。
「確か……あの店だったか」
 十年前の記憶ながらも、それは正解だったようで、快く手入れを引き受けてもらえた。
「じゃあ、手入れが終わるまで散策でもしようかねェ」
 また何か欲しいものがあれば記念に買ったっていいと、巽は二人を連れて和傘市をそぞろ歩く――と、いつの間にか希とやつでの周囲には大人たちが集まっていて。
「え? また?」
 思い起こすのは、十年前にも二人を看板娘にしたいという横丁の商売人たち。
「懲りねェなァ」
「それだけ希様がかわいらしいということです」
「わ、私じゃなくてやつでさんでは……!?」
「いいえ、希様です」
 そうして三人で顔を見合わせて、誰からともなく吹き出して。
「お兄さんたち、悪いねェ? 今はまだ、この二人は俺でいいらしいわ」
 やや威嚇めいた笑みを浮かべつつ、巽が両腕を差し出せば、希とやつでがその腕に自分の腕を組んで――両手に花というやつである。
「ハレの日や 傘は三つに 影一つ」
 なんてなァ、と巽が笑えば二人も笑って、なんていい日だろうかと天を仰いで――目が覚めた。

「しかし二人しておんなし夢見るとはねェ。……まさか希も――ンなわけねェか」
 縁側の部屋の座卓にて、今日見た夢の話を何気なくしたら、やつでも同じ夢を見たというので巽が笑う。
「わかりませんよ、家主様。もしかしたら希様も……噂をすればなんとやらですね、希様の足音です」
 どこか弾むような、とたとたという足音に巽とやつでが目を見合わせる。
 からりと開いた扉の前で、希が二人に向かって満面の笑みを見せて。
「巽さんー、やつでさんー。すごく素敵な夢を見たのですー」
「ほら、言った通りではないですか、家主様」
「まさかまさかだなァ」
「? どうしたのですかー?」
 こてん、と小首を傾げた希に、巽とやつでが笑う。
「顔を洗ってきな、そうしたらゆっくり教えてやるさ」
「お手伝いします、希様」
 くつくつと笑いながら二人を見送り、巽がその後姿に夢で見た大人の二人の面影を重ねて。いつか来る未来に、巽が思わず独り言ちる。
「急いで大きくならなくていいからなァ」
 ああ、でも。
「十年後に、紫陽花横丁に一緒に行くのもいいかもしれねェな」
 そう思うと、十年後が楽しみでもあって。
 それまで、いいやそれからも、どうかこの腕の中で守らせてくれよと願う。
 ――いつか、羽ばたいていってしまうとしても。
 ふ、と吐き出した息を吸おうとした瞬間、とたとたという足音と賑やかな声が聞こえてきて、巽は目尻を下げて二人を迎え入れたのだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト

閉じる

マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を閉じて「読み物モード」にします。
よろしいですか?